とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第四話、投稿します。


第四話:〈神人遊戯〉で圧倒する

〈面白いことが分かったわ〉

 

「面白いこと? お前の言う面白いことなんて不穏そのものだろうが」

 

調査を終えて再び連絡してきた八乙女緋鷹の第一声に垣根が顔をしかめると、緋鷹は電話越しにくすくすと笑ってきた。

 

〈まあそう言わないでちょうだい。どうやら学園都市上層部はてんやわんや状態らしいわ。新しい敵が現れたから〉

 

「敵?」

 

〈魔術側の神さま、ですって〉

 

「は?」

 

緋鷹の口から放たれた言葉に垣根が警戒心を露わにしていると、緋鷹がつらつらと説明する。

 

〈真守さんは科学の神さま。そしてちょっと考えればわかることだけど……魔術側にも神さまがいるのよ。その神さまが魔術サイドの代表であるローマ正教に勝利した学園都市を狙っているらしいわ〉

 

垣根はスピーカーフォンにしていた携帯電話から顔を背けて真守を見る。

真守は膝の上に乗せたカブトムシの背中を撫でており、特に驚いている様子がなかった。

というか、ほぼ無関心である。

 

「……真守、お前他に神さまがいるって知ってたか?」

 

垣根が真守のどこ吹く風といった状態に不安を覚えながら問いかけると、真守は顔を上げて斜め上を見ながら告げる。

 

「んー。考えたことなかった。なんかあんまり興味ないし」

 

「……なんで?」

 

垣根が真守のきっぱりとした言葉に()()()()()()()()()を見て顔をしかめていると、真守はカブトムシの背中を撫でるのをやめて垣根を見た。

 

「垣根は人間が他の宗教の神さまを信じると思うか? 十字教を信じている人間が、純粋な想いを持って北欧神話の神を信仰すると思うか?」

 

垣根は真守の問いかけに目を(またた)かせる。

 

「……信仰しねえな」

 

十字教の人間が他の神さまになびくはずがない。

十字教だけではない。

人々は自分が信じている神さまこそが本物でそれ以外は全て偽物だとしなければ、信仰を貫くことなんてできない。

だから敬虔な十字教徒は十字教のために他の神話を利用するだけであって、ステイル=マグヌスだって十字教のルールの隙を突いてルーン魔術を使っているだけだ。

 

「でもお前を(かか)げるヤツらが十字教に浮気したらどうするんだよ。別にいいのか?」

 

真守が神さまとしてどう思っているのか気になった垣根が問いかけると、真守は至極真っ当なことを口にする。

 

「私に本当に必要なのは人間じゃなくてAIM拡散力場だ。それに私のことを神さまと崇める存在は他にいる。だから別に何も思わない」

 

朝槻真守は人間のための神さまではない。

何者にも代えがたい垣根帝督とAIM拡散力場があれば、真守は自身のことを真に必要としている者たちのために動くことができるのだ。

結局のところ真守が本当に必要としているのは人間の信仰心ではないのだ。

 

「確かにお前のことを能力者が知らなくても、能力者たちがその身に宿した科学の結晶を保持しているだけでお前は莫大な力を手に入れることができる。まったく、良くできたシステムだぜ」

 

垣根はアレイスターが構築した仕組みについて笑うが、そこで真剣な表情になって話を戻した。

 

「学園都市が魔術側の神……『魔神』って言ったらいいのか? それと戦おうとしてる。でもなんでそれで上層部はフレメア=セイヴェルンを狙ってんだ?」

 

垣根が真っ当な疑問を口にすると、スピーカーフォンから緋鷹の声が滑らかに聞こえてきた。

 

〈これは完全に新設された暗部組織の独断専行みたい。彼ら『新入生』って言うらしいんだけど、戦争帰り組をこれからの戦争の不穏分子としてこの機に排除したいらしいわ〉

 

「戦争帰り組だと? 具体的にどうやって?」

 

あの科学と魔術の戦いであった第三次世界大戦を生き抜いた自分たちを暗部組織如きがどうやった倒すのだろうか。

垣根がそのやり方を尋ねると、緋鷹は手元の資料を見ながら説明する。

 

〈今は戦争帰り組がそれぞれ個別で活動してるから、上層部はその動向を(うかが)って静観している状態なの。でも彼らが一つにまとまったら明確な脅威になる。そこで『新入生』はわざと戦争帰り組を結託させて無視できない脅威にして、上層部から殲滅する許可を取りつけようとしているの〉

 

浜面仕上も一方通行(アクセラレータ)も、そして垣根帝督もフレメア=セイヴェルンを守る理由がある。

 

浜面仕上はもちろん、姉であるフレンダ=セイヴェルン繋がりだ。彼女の妹を守らない手はない。

そして一方通行(アクセラレータ)だが、彼はフレメアと繋がりがあった武装無能力集団(スキルアウト)のトップ、駒場利徳を殺している。今の一方通行(アクセラレータ)には思うところが確実にあるのだ。

そして垣根帝督はフレメア=セイヴェルンの姉、フレンダ=セイヴェルンが命を失う戦いを引き起こした張本人だ。

そしてその戦いを起こした原因である朝槻真守にももちろん関係がある。

 

「なるほどな。新設された『新入生』ってヤツらも割と考えてんだな」

 

垣根が半笑いしながら告げると、緋鷹もくすくすと笑った。

 

〈そうなるわね。でも『新入生』の行動は上層部の意向じゃないから、彼らは私たち『(しるべ)』や真守さんの関係、そして帝督さんが上層部に意見できる立場にいるのを知らない。私たちが彼らの思惑を調べ終わっていることだって知らないはずよ〉

 

垣根帝督(ひき)いる『スクール』は、学園都市から真守を奪い取って離反した状態である。

学園都市にとって垣根たちは脅威そのものだが、『スクール』は朝槻真守の自由と彼女を守るためだけに動く。

だから真守に手を出さない限り、垣根たちは学園都市を揺るがす脅威にならないのだ。

だからなるべく上層部は垣根たちを刺激しないようにしているが、それを『新入生』たちは知らないらしい。

 

「はん。相変わらず上層部は下々の人間をいつでも切り捨てられるように大切な情報は渡してねえってことか」

 

〈ええ、そうね。学園都市上層部は『新入生』の勝手な行動を止めようとは思わない。もし一方通行(アクセラレータ)や浜面仕上、そして真守さんや帝督さんを排除できるならそれで良し。できないならとかげがしっぽを身代わりで切り落とすように、切り捨てればいい。そう思っているらしいわ〉

 

「だったら切り捨てさせりゃあいい」

 

垣根は笑いながら『新入生』の力を削ぐことを考える。

 

「フレメア=セイヴェルンを助けに一方通行(アクセラレータ)と浜面仕上が動いたら、それを『新入生』は確認次第、上にヤツらを排除してもいいか聞くだろ。そこで割り込みをかけろ。それまでフレメア=セイヴェルンは生かされる。俺たちが助けると逆に厄介になるから放っておけばいい」

 

垣根は緋鷹に指示を出しながら笑う。

 

「だからあの駆動鎧(パワードスーツ)はフレメア=セイヴェルンを殺そうとするそぶりばっか見せてたんだ。ロシアの雪原で使われる駆動鎧(パワードスーツ)を地下街でわざわざ使ったのも、手を抜けるようにするためってわけだ」

 

〈最初から殺すつもりがなかったなら納得だわ。じゃあ、上層部に圧力をかけてくるわね。それでいいわよね、真守さん?〉

 

緋鷹が一応自分の主へとお(うかが)いを立てると、真守はすぐに頷いた。

 

「お願い、緋鷹。いつもありがとう」

 

〈いいえ。これが私のしたいことだから、じゃあね〉

 

緋鷹がブツッと電話を切る中、真守はカブトムシから顔を上げて垣根を見て、垣根の制服の裾を引っ張った。

 

「垣根。垣根もいつも私のために頑張ってくれてありがとう」

 

「何だよ、ついでかよ」

 

垣根は愚痴を言いながらも真守の腰を抱き寄せて頬にキスをする。

 

「えへ。ついでじゃなくてもいつも思ってるぞ?」

 

真守がはにかみながらも垣根が自分のことを想ってくれるのが嬉しくてふにゃっと笑うと、垣根は目元を柔らかくする。

 

「行こう、垣根」

 

真守が垣根の制服の裾を引いて告げるので、垣根はしっかりと頷いた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「一体どォいうことだよ!?」

 

黒夜海鳥は携帯電話を睨みながら叫んだ。

 

黒夜海鳥たち『新入生』は、フレメア=セイヴェルンという少女を襲って、彼女を助けるという名目で浜面仕上たち『アイテム』と一方通行(アクセラレータ)、そして垣根帝督たち『スクール』が結託したとして上層部に抹殺命令を出させようと画策していた。

 

現在、『新入生』のシルバークロース=アルファがフレメア=セイヴェルンを連れ去り、それを浜面仕上と一方通行(アクセラレータ)が共同で追っており、その間に黒夜は一方通行(アクセラレータ)と浜面仕上への攻撃許可を取り付けていた。

 

そしてシルバークロースが黒夜海鳥の指示によって一方通行(アクセラレータ)の苦手とする電波障害が起きる可能性のある地下鉄内に逃げ込んだところで黒夜の携帯電話に着信があって、その電話による指令に黒夜は思わず声を上げたのだ。

 

その指令とは、『浜面仕上と一方通行(アクセラレータ)への攻撃を即刻中止し、フレメア=セイヴェルンを解放しろ』というものだった。

 

意味が分からなかった。

 

上層部は第三次世界大戦によって交渉してきた浜面仕上と一方通行(アクセラレータ)、そして垣根帝督、朝槻真守の行動を脅威として見ていた。

 

上層部も始末できればいいと思っていたがなかなか手が出せない状態であったため、新生された組織である『新入生』が上層部の代わりに行動を起こしたのだ。

 

不穏分子を排除できれば『新入生』が上層部に対して力を誇示(こじ)できるし、不穏分子がいなくなれば学園都市上層部もこれからの戦いにだって専念できる。

 

どちらにも利がある状況だ。

 

だからこそ行動を起こした『新入生』だったが、上層部は自分たちが思っているよりもへっぴり腰だったらしい。

 

「どォいうことだよ!? そこまでして戦争帰り組が怖ェのか?!」

 

黒夜が憤慨しながら指示役の人間に噛みつくと、彼は憔悴(しょうすい)した声を出した。

 

〈そういうわけではない。上層部が無視できない集団があるんだ。彼らと交渉した結果の命令だ〉

 

「そんな集団がいるって聞いてねェぞ!?」

 

黒夜がどんな集団だと糾弾すると、電話の向こうの人間は震える声で告げた。

 

〈……『神人』とそれに連なる集団さ〉

 

「はァ? シンジン?」

 

黒夜が声を上げると、携帯電話の向こうで指示役の人間が言いにくそうに告げる。

 

〈噂は耳にしているだろう。第三次世界大戦終盤に神が降臨したと。それはは学園都市製の神、『神人』であり、学園都市を守る存在なのだ〉

 

「あれは戦時下のストレスが原因の『サードウォー症』って話だったろォが!!」

 

黒夜がそう言及すると、指示役の人間は震える声で告げる。

 

〈学園都市は、アレイスター統括理事長は実際に『神』を造り上げたんだよ。私たちを守護する『神』をね。その『神』の意向に背けば天罰が下る。私はそんなのごめんだ〉

 

「その神サマってヤツは一体どこの誰だ!?」

 

 

超能力者(レベル5)、第一位。流動源力(ギアホイール)、朝槻真守」

 

 

黒夜が叫んだ途端、後ろから淡々とした声が聞こえたので、黒夜は振り返った。

 

そこにはセーラー服姿の朝槻真守が、苺と生クリームたっぷりのクレープをあむあむ食べながら立っていた。

しかも、右肩に白いカブトムシを引っ付けている。

 

絶対能力者(レベル6)という表現も間違っていないぞ」

 

真守はパクッとクレープを一口食べながら告げる。

 

「……なッ絶対能力者(レベル6)が神だと!?」

 

黒夜が思わず声を上げると、真守はきょとっと不思議そうに目を見開いた。

 

「知らないのか? 神さまの答えに辿り着ける人間が神さまと同一であり、神そのものだとされても間違いがないだろ?」

 

「……意味が分からねェ。じゃあアレか?! オマエが上層部に圧力をかけたってことで良いのか!?」

 

黒夜が声を荒げる中、真守はクレープを食べ終えて包み紙を放り投げる。

すると清掃ロボがやってきてそれを回収していった。

 

「交渉をしたのは緋鷹だから詳しくは知らない。でもお前たちをとかげのしっぽのように上層部に切り捨てさせろって指示したのは垣根だぞ」

 

黒夜は訳が分からずに絶句する。

だがふるふると肩を震わせて、ギッと真守を見上げて睨んだ。

 

「ふざけンじゃねェよ!! それくらいで私たち新しい学園都市の『闇』が止まってたまるかよォ!!」

 

黒夜は自分が着ていた白いコートに張り付いていたイルカのビニール人形を爆ぜさせて、中から大量の腕を取り出した。

 

その大量の腕の長さは大体一メートルほどであり、質感はビニールなどの石油製品に近い。

そして赤子の手のように小さいのでバランスが歪である。

その小さな数十の腕を黒夜は自身の背中に接続させて、一斉に掌を真守に向けた。

 

「サイボーグ技術。それも木原相似が確立させた技術である細菌やバクテリアの類の力を借りて造り上げたものか?」

 

真守が黒夜の増えた腕を興味なさそうに見つめていると、黒夜は頷いて叫ぶ。

 

「あァ! 杠林檎を引き取ったアンタならば知ってると思うがな、窒素爆槍(ボンバーランス)を持つ私は『暗闇の五月計画』の被験者の中で一方通行(アクセラレータ)の攻撃性に最も近づけた個体だ。でも私は手の平からしか槍を自在に生み出せない。だったら、その手の平を増やせばいいって話だ! 私たちは新世代の能力者だ! 既存の能力者の枠組みから超えた存在だ!」

 

「そうか」

 

真守は黒夜の力説を聞いてふむ、と小さく頷く。

 

「面白いからその新世代の能力者の力とやらを見せてみろ」

 

真守が左手をスッと黒夜に伸ばして告げると、黒夜は叫んだ。

 

「言われなくてもォ!!」

 

真守が挑発した瞬間、黒夜の手から大気によってできた捻じれた槍が無数に同時発射される。

 

だが真守はその槍が自身に突き刺さる前にバツンッ!! と鈍い音を立てて難なく散らした。

 

「…………は?」

 

辺りに圧縮されていた空気が衝撃波となって吹き抜ける。

黒夜は呆然としていた。

破壊力抜群の自分の窒素の槍が強大な力によってはじけ飛んだからだ。

 

絶対能力者(レベル6)である私はこの学園都市に充満しているAIM拡散力場を自由に操ることができる。まあそれ以外にもたくさんできることはあるが、それだけでも十分脅威的だろう。──だからこんなことも簡単にできる」

 

真守はつらつらと説明しながらグッと左手で握りこぶしを作った。

 

その瞬間、黒夜の背中に接続されていた数十の腕が力づくで外された。

 

「あァ────……?」

 

痛みはなかった。

ただ自分が能力の『噴出点』として認識していた腕がなくなったことに気が付いたから、黒夜は呆然と声を上げたのだ。

 

真守はAIM拡散力場を操作して黒夜の腕を全て外した。

 

滑らかな動作で。特に何のやりづらさもなく、ただ自然にそれを成し遂げた。

 

真守の破格な力に気づいた黒夜に真守は近づき、そして見下ろす。

 

「私は絶対能力者(レベル6)だぞ。新世代の能力者だろうが私に敵う者はいない」

 

今も、AIM拡散力場は辺りに充満している。

 

だから朝槻真守は黒夜海鳥の命を握っているも同然だ。

そして真守はわざと命を奪うようなことをせずに、黒夜のアイデンティティであるサイボーグの腕を黒夜から奪った。

 

いつだって、この絶対能力者(レベル6)は自分の命を刈り取れる。

 

機嫌を損ねただけで確実に命を取られる。

 

自分だけじゃない。

この学園都市にいる人々はいつだって神の手の平の上で転がされている。

この学園都市から逃げても、きっと彼女は敵と見定めたらどこまでも追ってきて命を狩るだろう。

 

黒夜は命を握られている恐怖に真守と目が合わせられなくなって(うつむ)く。

 

真守はそんな黒夜の頭にそっと手を置いた。

 

ひぐ、と黒夜は絶対的な支配者である真守に触れられてしゃくり声を上げる。

 

「じゃあ行くぞ、黒夜海鳥。まずはお前が罠に嵌めようとした子たちにごめんなさいだ」

 

「……………………ふぁい…………」

 

断ったら確実に脳天を破壊される。黒夜はそう思って、頷くしかなかった。

 

真守は随分怖がられてしまったな、と思いながら半泣きの黒夜と手を繋いで歩き出した。

 




……最早弱い者いじめですが、新約篇はだいたいインフレしているのでここら辺が落としどころだと思っています。

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