夕食を摂った一同に、バードウェイは再び説明を始める。
「世界最大規模の宗教組織……十字教には、新教と旧教がある。そしてその旧教の中でも巨大な三つの組織がある。ローマ正教、イギリス清教、ロシア成教だ。以前から様々な形の
垣根はバードウェイの言葉に目を細める。
そんな垣根の隣で真守は三毛猫を抱きかかえてその背中を撫でており、三毛猫は『アッ姐さんそこです、そこです気持ちイイ……!』と
「稀代の魔術師クロウリーの魔導書を解読できるとされたこのオルソラを巡り、ローマ正教は自分たちの支配体制を守るため、彼女の暗殺を決行。それを妨害するイギリス清教が秘密裏に学園都市の協力を借りてこの問題に対処したことで……明確な対立構造ができてしまった」
バードウェイはアレイスターの魔導書については特に触れない。
話の本筋から逸れてしまうし、何よりこの街の王について
「その後、ローマ正教はイギリス清教の味方をした学園都市へと何度か攻撃を仕掛けるが、いずれも特殊な右手を持った馬鹿とそこの
真守は変わらずに猫を愛でており、特に
そんな真守を見ながら、
エステル=ローゼンタール。九月上旬に出会った死霊術師と自称する少女。
死霊術とはおそらく魔術のことだろう、と今の
魔術は
自分が気づかなかっただけで自分も昔から魔術の片鱗には
真守はおそらく、自分のことや世界のバランスを気にして自分に魔術のことを隠していたのだろう。心優しい彼女がやりそうなことだ。
「劣勢を感じたローマ正教はロシア成教と交渉。『科学サイドの学園都市に世界のバランスを持っていかれる』という恐怖心を刺激することで交渉を有利に進めてきたが、ローマ正教も内部に隠していた虎の子を表舞台に引きずり上げざるを得なくなった」
そこでバードウェイは言葉を切って真剣な声で告げた。
ここからが重要だと告げるように。全てを巻き込んだ黒幕の存在を告げた。
「『神の右席』。二〇億の信徒を抱えるローマ正教の最暗部さ」
前方のヴェント、左方のテッラ。後方のアックア、右方のフィアンマ。
「彼らが起こした事案の一端は、おそらくお前たちも理解しているだろう。九月三〇日に学園都市の住人の大半が昏倒させられた異常事態」
それは前方のヴェントが使った天罰術式による学園都市襲撃のことだ。
「世界中に暴動の危機を産み、最終的にフランスのアビニョンを火の海にすることで問題の解決を図った事件」
左方のテッラが学園都市を世界の敵と認識させようとして起こした事態。
「学園都市最大の地下都市区画、第二二学区に壊滅的なダメージを与えた一幕」
そして第二二学区での事件とは後方のアックアと垣根帝督、天草式十字凄教が主に行った戦闘のことだ。
「これらは全て、『神の右席』とそこの
(九月三〇日に、第二二学区だって……?)
(〇九三〇に、アビニョンだと……?)
浜面はニュースで得た情報と照らし合わせて顔を強張らせて、
「『神の右席』……一体何なんだ、そいつらは」
浜面が問いかけると、バードウェイは淡々と説明する。
「ローマ正教の最暗部……と言っても、お前たちのような兵隊という意味での『闇』ではないな。むしろ、そうした兵隊を裏で操るタイプの『闇』と言って良い」
「統括理事会みてェなモンか」
「『神の右席』は簡単に言えば、唯一無二の神と同等の力を持つか、それ以上の質を手に入れようとして自身を被験者にしていた連中だな。自分を被験者にする時点で、能力開発を学生に行う学園都市とは在り方が明確に異なる」
バードウェイはそう前置きして神の右席に関しての情報を告げる。
「十字教的に言えば人間は誰しも原罪を身に宿していることになる。……が、それを『神の右席』は人工的に洗い流して、人以上の力を手に入れたんだ」
まあそれが近代西洋魔術の『分かりやすい目標』だったりするわけだが、と続けたバードウェイは腕を組んで口を開く。
「『神の右席』にとって信徒二〇億人のローマ正教は自分の研究と改造のための都合の良い場所だった。だがそのローマ正教という基盤を揺さぶるイギリス清教や学園都市……その二つを繋ぐ右手のバカやそこの神人が邪魔になったんだ」
バードウェイの説明を、今度はきちんと聞いていた浜面が口を開く。
「じゃあその『神の右席』って言うのが支配体制を維持するために、学園都市やイギリスに仕掛けたのが……第三次世界大戦の真実だって言うのか?」
「違う。あれはその『神の右席』という組織の本来からも外れた事態だった」
「?」
一筋縄ではいかない話に浜面が顔をしかめていると、バードウェイは複雑な事情をなんとかして分かりやすいように説明する。
「そもそも『神の右席』全体の思惑は傲岸不遜だが、ヤツらは十字教の枠組みの範囲内での裏技を使っていたんだ。ひょっとしたら『神の右席』自身は自分達の事を
バードウェイは彼の象徴である赤い装束に身を包んだ男を思い出し、その名前を告げた。
「右方のフィアンマ」
バードウェイはチラッと上条を見ながら呟く。
「そこの馬鹿とは違う、もう一つの右腕を持った男さ」
──────…………。
バードウェイの妹、パトリシアから連絡があったので説明は一時中断されて、
「よう。学園都市の『闇』を解体したと思ったら、もっと澱んだものが出てきて気が滅入っている、って感じか?」
「土御門か」
「ここで何してやがる?」
「部屋に入る前に周辺の情報ぐらい洗っておけよ。隣は俺の部屋なんだ」
「チッ」
「俺も俺で『グループ』がなくなっちまったから時間が余ってるのさ。状況を作ったのはお前なんだ。その後始末ぐらいは付き合えよ」
土御門元春の言う通り、
暗部組織に所属していた能力者の多くは学園都市に人質を取られていた。
そんな卑怯な真似で能力者を従わせることをやめろと、
彼らにとって羊皮紙はとても大切なモノらしく、彼らは
そのため
「『新入生』の情報はどこまで知ってンだ?」
「それなりには。そういう連中が現れる事も予測はできたしな。……海原や結標は、口には出さないが感謝はするんじゃないか。今は困惑しているだろうけど。ただエイワスや『ドラゴン』など、そういった宙ぶらりんの問題をそのままにできるかどうかは分からないがな」
「いねェ連中の話をしても仕方がねェ。……オマエ個人はどォなンだ?」
「そうだな」
「率直に言って良い悪い以前に、無駄かな」
「……、」
「学園都市の『闇』が解体されたって、俺はお前が片足をつっこみかけてる『闇』にも深くかかわってるからな。やることが残ってる」
土御門は自身の立場を少しだけ明かして、そして肩をすくめて告げる。
「『闇』から足を洗う分には止めないが、自分のスタンスは確立しておけよ。善悪を超越するっていうのは分かりやすい善悪より、よっぽど厳しい道なんだからな」
「ンな事は言われなくても、アイツを見てるから分かってンだよ」
「ここが問題の現場か泥棒猫ーっ!! って、ミサカはミサカは踏み込んでみたり!!」
「あなたーっ!! このミサカが浮気調査でガラスの灰皿振り下ろしに来たよーっ!」
「何しに来やがったンだあのクソガキども……」
「へーい!! 『新入生』の根城いくつか襲ったら面白いオプションパーツ見つけちゃってさーっ! これからあのクール系ナルシストガールをネコミミ肉球グローブで面白人体に改造しちまおうぜーっ!!」
「ぎゃああああ──ッ!」
だが真守と上条を視界に入れるとハッと息を呑んで、ささっと
「何してンだ?」
「ミサカ、あの二人は苦手……。アイツらはミサカ全体のためにと思って無償で行動するんだけど、その行動の結果がネットワーク内の悪意の塊であるこのミサカ単体の存在価値そのものを否定すると思うの……」
「片方にはロシアで会ってただろォが」
「あの時は眼中になかったから、ミサカはなんとなく大丈夫な気がしてたの!」
「敵は己の中にいたかーっ!! ってミサカはミサカはポジション確保のために躍起になってみる!! あの敵どうすればいい!? ってミサカはミサカはあなたに訊ねてみる!!」
真守は
「
発電系能力者が発している微弱な電磁波に三毛猫は嫌そうな顔をするが、『姐さんがしろっていうなら猫撫で声出してもいいぜ』と言わんばかりに、三毛猫はにゃあと短く鳴いた。
「そうなの? ってミサカはミサカはあなたの言葉を信じてみて、猫さんに手を伸ばしてみる。……ふわふわだね、ってミサカはミサカは猫さんに初めて触れることができて静かに感動してみる……!」
動物にいつも嫌われる
その負の感情とは、何も悪意だけではない。
嫉妬や彼女たちが抑圧しなければならない感情も含まれるのだ。
そのためミサカネットワークを形成する個体がそれぞれ嫉妬を覚えると、
「ぎゃああああ早速ネットワークの影響がもう現れてるぅぅぅ!!
「もォうるせェなこいつら……」
結局ミサカネットワークの影響を無視できなかった
真守は自分に抱き着いてくる
嬉しそうで悲しそうに猫を撫でる