とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第九話、投稿します。


第九話:〈戦争元凶〉の名に辿り着く

夕食を摂った一同に、バードウェイは再び説明を始める。

 

「世界最大規模の宗教組織……十字教には、新教と旧教がある。そしてその旧教の中でも巨大な三つの組織がある。ローマ正教、イギリス清教、ロシア成教だ。以前から様々な形の軋轢(あつれき)があったとはいえ、直接的な引き金となったのはオルソラ=アクィナスというローマ正教の修道女を巡る騒動だ」

 

垣根はバードウェイの言葉に目を細める。

そんな垣根の隣で真守は三毛猫を抱きかかえてその背中を撫でており、三毛猫は『アッ姐さんそこです、そこです気持ちイイ……!』と恍惚(こうこつ)で目を細めていた。

 

「稀代の魔術師クロウリーの魔導書を解読できるとされたこのオルソラを巡り、ローマ正教は自分たちの支配体制を守るため、彼女の暗殺を決行。それを妨害するイギリス清教が秘密裏に学園都市の協力を借りてこの問題に対処したことで……明確な対立構造ができてしまった」

 

バードウェイはアレイスターの魔導書については特に触れない。

話の本筋から逸れてしまうし、何よりこの街の王について無暗(むやみ)に喋るのは悪手だからだ。

 

「その後、ローマ正教はイギリス清教の味方をした学園都市へと何度か攻撃を仕掛けるが、いずれも特殊な右手を持った馬鹿とそこの超能力者(レベル5)たちの手で(ことごと)く阻止された。ま、そういった一つ一つの事件を経る(たび)に大戦へと繋がる火種は大きくなってしまったわけだがな」

 

一方通行(アクセラレータ)はバードウェイの説明を聞いて思わず真守を見た。

真守は変わらずに猫を愛でており、特に(だい)それたことをしたという自覚はなさそうだった。

 

そんな真守を見ながら、一方通行(アクセラレータ)は気になっていたことがあった。

 

エステル=ローゼンタール。九月上旬に出会った死霊術師と自称する少女。

 

死霊術とはおそらく魔術のことだろう、と今の一方通行(アクセラレータ)は理解できる。

 

魔術は一方通行(アクセラレータ)のすぐそばにいつでも息づいていた。

自分が気づかなかっただけで自分も昔から魔術の片鱗には(たずさ)わっていたのだ。

 

真守はおそらく、自分のことや世界のバランスを気にして自分に魔術のことを隠していたのだろう。心優しい彼女がやりそうなことだ。

 

「劣勢を感じたローマ正教はロシア成教と交渉。『科学サイドの学園都市に世界のバランスを持っていかれる』という恐怖心を刺激することで交渉を有利に進めてきたが、ローマ正教も内部に隠していた虎の子を表舞台に引きずり上げざるを得なくなった」

 

そこでバードウェイは言葉を切って真剣な声で告げた。

 

ここからが重要だと告げるように。全てを巻き込んだ黒幕の存在を告げた。

 

「『神の右席』。二〇億の信徒を抱えるローマ正教の最暗部さ」

 

前方のヴェント、左方のテッラ。後方のアックア、右方のフィアンマ。

 

「彼らが起こした事案の一端は、おそらくお前たちも理解しているだろう。九月三〇日に学園都市の住人の大半が昏倒させられた異常事態」

 

それは前方のヴェントが使った天罰術式による学園都市襲撃のことだ。

 

「世界中に暴動の危機を産み、最終的にフランスのアビニョンを火の海にすることで問題の解決を図った事件」

 

左方のテッラが学園都市を世界の敵と認識させようとして起こした事態。

 

「学園都市最大の地下都市区画、第二二学区に壊滅的なダメージを与えた一幕」

 

そして第二二学区での事件とは後方のアックアと垣根帝督、天草式十字凄教が主に行った戦闘のことだ。

 

「これらは全て、『神の右席』とそこの幻想殺し(イマジンブレイカー)超能力者(レベル5)たちの激突の一幕さ。お前たち科学の『闇』にも何らかの事件を誘発させたかもしれないな」

 

(九月三〇日に、第二二学区だって……?)

 

(〇九三〇に、アビニョンだと……?)

 

浜面はニュースで得た情報と照らし合わせて顔を強張らせて、一方通行(アクセラレータ)は実は自分が関わっていたことに眉をひそませた。

 

「『神の右席』……一体何なんだ、そいつらは」

 

浜面が問いかけると、バードウェイは淡々と説明する。

 

「ローマ正教の最暗部……と言っても、お前たちのような兵隊という意味での『闇』ではないな。むしろ、そうした兵隊を裏で操るタイプの『闇』と言って良い」

 

「統括理事会みてェなモンか」

 

「『神の右席』は簡単に言えば、唯一無二の神と同等の力を持つか、それ以上の質を手に入れようとして自身を被験者にしていた連中だな。自分を被験者にする時点で、能力開発を学生に行う学園都市とは在り方が明確に異なる」

 

バードウェイはそう前置きして神の右席に関しての情報を告げる。

 

「十字教的に言えば人間は誰しも原罪を身に宿していることになる。……が、それを『神の右席』は人工的に洗い流して、人以上の力を手に入れたんだ」

 

まあそれが近代西洋魔術の『分かりやすい目標』だったりするわけだが、と続けたバードウェイは腕を組んで口を開く。

 

「『神の右席』にとって信徒二〇億人のローマ正教は自分の研究と改造のための都合の良い場所だった。だがそのローマ正教という基盤を揺さぶるイギリス清教や学園都市……その二つを繋ぐ右手のバカやそこの神人が邪魔になったんだ」

 

バードウェイの説明を、今度はきちんと聞いていた浜面が口を開く。

 

「じゃあその『神の右席』って言うのが支配体制を維持するために、学園都市やイギリスに仕掛けたのが……第三次世界大戦の真実だって言うのか?」

 

「違う。あれはその『神の右席』という組織の本来からも外れた事態だった」

 

「?」

 

一筋縄ではいかない話に浜面が顔をしかめていると、バードウェイは複雑な事情をなんとかして分かりやすいように説明する。

 

「そもそも『神の右席』全体の思惑は傲岸不遜だが、ヤツらは十字教の枠組みの範囲内での裏技を使っていたんだ。ひょっとしたら『神の右席』自身は自分達の事を敬虔(けいけん)な十字教教徒だと思っていたのかもしれないな。──だが、その『神の右席』の中で一人だけ、尖りすぎたヤツがいた」

 

バードウェイは彼の象徴である赤い装束に身を包んだ男を思い出し、その名前を告げた。

 

「右方のフィアンマ」

 

バードウェイはチラッと上条を見ながら呟く。

 

「そこの馬鹿とは違う、もう一つの右腕を持った男さ」

 

 

 

──────…………。

 

 

 

バードウェイの妹、パトリシアから連絡があったので説明は一時中断されて、一方通行(アクセラレータ)はベランダに出て缶珈琲を口にしていた。

 

「よう。学園都市の『闇』を解体したと思ったら、もっと澱んだものが出てきて気が滅入っている、って感じか?」

 

一方通行(アクセラレータ)が一人でバードウェイから聞いた話を整理していると、上条の部屋の隣から知っている声が聞こえてきた。

 

「土御門か」

 

一方通行(アクセラレータ)が顔を見ずにそう呟くと、土御門はペタペタとベランダ内を歩いて、隣の柵に寄り掛かった。

 

「ここで何してやがる?」

 

「部屋に入る前に周辺の情報ぐらい洗っておけよ。隣は俺の部屋なんだ」

 

「チッ」

 

一方通行(アクセラレータ)が仕組まれているのか偶然なのか分からずに舌打ちすると、土御門は軽い口調で告げる。

 

「俺も俺で『グループ』がなくなっちまったから時間が余ってるのさ。状況を作ったのはお前なんだ。その後始末ぐらいは付き合えよ」

 

土御門元春の言う通り、一方通行(アクセラレータ)は第三次世界大戦の際に学園都市にとある羊皮紙を引き渡す代わりに『暗部組織を解体しろ』と命令した。

 

暗部組織に所属していた能力者の多くは学園都市に人質を取られていた。

 

そんな卑怯な真似で能力者を従わせることをやめろと、一方通行(アクセラレータ)は学園都市に迫ったのだ。

 

彼らにとって羊皮紙はとても大切なモノらしく、彼らは一方通行(アクセラレータ)と交渉を行って一方通行の要求を呑んだ。

 

そのため()()()()妹のために『グループ』に所属していた土御門元春もお役目御免になったのだ。

 

「『新入生』の情報はどこまで知ってンだ?」

 

「それなりには。そういう連中が現れる事も予測はできたしな。……海原や結標は、口には出さないが感謝はするんじゃないか。今は困惑しているだろうけど。ただエイワスや『ドラゴン』など、そういった宙ぶらりんの問題をそのままにできるかどうかは分からないがな」

 

「いねェ連中の話をしても仕方がねェ。……オマエ個人はどォなンだ?」

 

「そうだな」

 

一方通行(アクセラレータ)が吐き捨てるように告げると、土御門は笑って告げる。

 

「率直に言って良い悪い以前に、無駄かな」

 

「……、」

 

「学園都市の『闇』が解体されたって、俺はお前が片足をつっこみかけてる『闇』にも深くかかわってるからな。やることが残ってる」

 

土御門は自身の立場を少しだけ明かして、そして肩をすくめて告げる。

 

「『闇』から足を洗う分には止めないが、自分のスタンスは確立しておけよ。善悪を超越するっていうのは分かりやすい善悪より、よっぽど厳しい道なんだからな」

 

「ンな事は言われなくても、アイツを見てるから分かってンだよ」

 

一方通行(アクセラレータ)が『闇』にどっぷり浸かりながらも懸命に表で生きる真守のことを考えてそう声を荒らげると、学生寮の表の通路でバタバタと騒がしい音が聞こえてきた。

 

「ここが問題の現場か泥棒猫ーっ!! って、ミサカはミサカは踏み込んでみたり!!」

 

「あなたーっ!! このミサカが浮気調査でガラスの灰皿振り下ろしに来たよーっ!」

 

「何しに来やがったンだあのクソガキども……」

 

一方通行(アクセラレータ)が聞き慣れた二人の声を聞いて土御門を置いて部屋の中に戻ると、そこにはやっぱり打ち止め(ラストオーダー)番外個体(ミサカワースト)がいた。

 

番外個体(ミサカワースト)一方通行(アクセラレータ)に折られたギプスを()めていない左手にぶら下げたブランドショップの袋をぶんぶんと振って嬉しそうな声を上げる。

 

「へーい!! 『新入生』の根城いくつか襲ったら面白いオプションパーツ見つけちゃってさーっ! これからあのクール系ナルシストガールをネコミミ肉球グローブで面白人体に改造しちまおうぜーっ!!」

 

「ぎゃああああ──ッ!」

 

番外個体(ミサカワースト)の言葉に悲鳴を上げたのはユニットバスの中にいた黒夜で、番外個体は黒夜の悲鳴にニヤニヤ笑う。

だが真守と上条を視界に入れるとハッと息を呑んで、ささっと一方通行(アクセラレータ)の背中に隠れた。

 

「何してンだ?」

 

「ミサカ、あの二人は苦手……。アイツらはミサカ全体のためにと思って無償で行動するんだけど、その行動の結果がネットワーク内の悪意の塊であるこのミサカ単体の存在価値そのものを否定すると思うの……」

 

「片方にはロシアで会ってただろォが」

 

「あの時は眼中になかったから、ミサカはなんとなく大丈夫な気がしてたの!」

 

番外個体(ミサカワースト)が主張する中、打ち止め(ラストオーダー)はフレメアやバードウェイに目を向けていたが、妙に密着している一方通行(アクセラレータ)と番外個体に気が付いて叫び声を上げた。

 

「敵は己の中にいたかーっ!! ってミサカはミサカはポジション確保のために躍起になってみる!! あの敵どうすればいい!? ってミサカはミサカはあなたに訊ねてみる!!」

 

打ち止め(ラストオーダー)が服の裾を引っ張って助けを求めたのはもちろん真守。

 

真守は打ち止め(ラストオーダー)に近づいて膝を折ると、柔らかい笑みを浮かべた。

 

最終信号(ラストオーダー)、大丈夫だぞ。何があってもお前のポジションは揺るがないから」

 

打ち止め(ラストオーダー)を元気づけるために、真守は自分が抱えていた三毛猫をひょいっと差し出す。

 

発電系能力者が発している微弱な電磁波に三毛猫は嫌そうな顔をするが、『姐さんがしろっていうなら猫撫で声出してもいいぜ』と言わんばかりに、三毛猫はにゃあと短く鳴いた。

 

「そうなの? ってミサカはミサカはあなたの言葉を信じてみて、猫さんに手を伸ばしてみる。……ふわふわだね、ってミサカはミサカは猫さんに初めて触れることができて静かに感動してみる……!」

 

動物にいつも嫌われる打ち止め(ラストオーダー)が猫に触れられることに感動を覚える中、ミサカネットワークが真守に優しくされている打ち止めと猫に触れている打ち止め自身に向けて嫉妬の感情を露わにした。

 

番外個体(ミサカワースト)はミサカネットワークの負の感情を優先的に抽出するようにできている。

 

その負の感情とは、何も悪意だけではない。

嫉妬や彼女たちが抑圧しなければならない感情も含まれるのだ。

そのためミサカネットワークを形成する個体がそれぞれ嫉妬を覚えると、番外個体(ミサカワースト)は強くその影響を受けてしまう。

 

「ぎゃああああ早速ネットワークの影響がもう現れてるぅぅぅ!! 最終信号(ラストオーダー)! お願いだからその人に近づかないでぇぇぇ!!」

 

「もォうるせェなこいつら……」

 

一方通行(アクセラレータ)は途端に喚きだした番外個体(ミサカワースト)のせいでキーンとした耳を不快に思いながら顔をしかめる。

 

結局ミサカネットワークの影響を無視できなかった番外個体(ミサカワースト)は真守に特攻した。

 

真守は自分に抱き着いてくる番外個体(ミサカワースト)の頭を優しく撫でた後、打ち止め(ラストオーダー)に撫でさせていた三毛猫を差し出す。

 

嬉しそうで悲しそうに猫を撫でる番外個体(ミサカワースト)(はた)から見ていた垣根は、第三次製造計画(サードシーズン)の個体は意外と苦難の道を歩んでいるんだな、とちょっと同情していた。

 

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