とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一〇話、投稿します。


第一〇話:〈遺恨怨恨〉は水に流し

「右方のフィアンマ。ローマ正教の最暗部『神の右席』のトップにして、異端。他のメンバーと違って、コイツだけは十字教の範疇(はんちゅう)で行動を起こしていたワケではなかった」

 

右方のフィアンマ。彼が起こしたことと彼について考えて、バードウェイは告げる。

 

「ただ、実力だけは本物だった。その様々な制約をイギリスで起こったクーデターで全部解除したアイツは、第三次世界大戦の勢力図の一角を一人で担っていたのさ」

 

一つの勢力に個人が入り込む。それははっきり言って異常事態だ。

 

その恐ろしさを、上条当麻と垣根帝督は思い知らされている。

一方通行(アクセラレータ)はその恐ろしさを想像できたが、チンピラである浜面はイメージできなかった。

 

真守はというと、『光を掲げる者(ルシフェル)』としての役割を負わされている真守は右方のフィアンマが『弱点』となり、確かに脅威になる。

 

だが史実の『光を掲げる者(ルシフェル)』のように、右方のフィアンマによって自分が本当の意味で滅ぼされることはないと知っているため、そこまで恐ろしい相手ではない。

 

それでも強敵だと感じてはいる。何故なら自分だけでは絶対に勝てない相手だからだ。

 

「右方のフィアンマが第三次世界大戦を引き起こした理由はただ一つ。ヤツの右腕に宿った力を解放するための条件を整えることだ」

 

「そこまでして……フィアンマって野郎は、一体何をしたかったんだ?」

 

浜面が問いかけると、バードウェイはそっけなく答えた。

 

「簡単なことさ。世界中にある不平等を正したい。奇跡のような確率で偶然が重なって起こる悲劇を食い止めたい。世の中を平和にしたい。みんなを幸せにしたい。……発想それ自体はさして珍しいものではなかったんだ」

 

「それがあの戦争とどォ繋がる? そのフィアンマってのは戦争を引き起こした側だろォが」

 

「フィアンマにとっては右腕さえ完成すればよかったのさ。その右腕が完成すれば、世界がどのような形であれど世界をまるごと救えるからな。フィアンマはその力があると本気で信じていた。実際にある意味では可能だったのだろう」

 

バードウェイはそう告げると言葉を切って、右方のフィアンマに対する自身の評価を口にした。

 

「惜しい人材ではあった。……フィアンマ本人についてもそうだが、フィアンマを研究することで、更に奥深くに眠ってるモノの解析に役立てられるかもしれなかったのだが……まぁ、失われた人材についてとやかく言っても仕方がないか」

 

バードウェイの惜しむ声を聞いていた浜面は声を上げる。

 

「戦争は終わった。世界は変わらなかった。相変わらず俺たちは不平等な世界にいるし、それは平等に勝ったり、負けたり自由を与えられているってことでもある。……結局、右方のフィアンマの計画は成就しなかったって事でいいんだよな?」

 

「ところが安っぽいRPGのように世界に平和が訪れることなんてことにはならなかった」

 

「?」

 

「あの戦争は右方のフィアンマが右腕の力を取り戻すためのものだったが、あいつは周りを巻き込みすぎたのさ。おおよそ影響を受けなかった者の方が少ないぐらいだ。魔術サイド、科学サイド。そしてそれらに属していない一般人でさえも。間接的とは言え、影響を受けている」

 

「フィアンマ一人が納得したところで、周りが全員矛を収めるわけじゃなかったんだ」

 

上条はバードウェイの言ったことを簡潔に言葉に表す。

 

「あの戦争に関わってきた人間はそれぞれの目的のために参戦していた。だからそいつらがそいつらの目的を達成しない限り、戦争が終わってもらっては困るって流れが生まれ始めている」

 

「そいつらって……」

 

浜面が思わず呟くと、バードウェイが笑って告げる。

 

「そう、『ヤツら』さ。ようやく本題に入ることができたわけだ。あの第三次世界大戦を経て、『ヤツら』は生まれた。世界の暗いところで、多くの者にとってはその法則も分からない力を振るってな」

 

 

 

──────…………。

 

 

 

浜面がフレメアに付きまとわれながら、休憩のために先にコンビニに出かけた一方通行(アクセラレータ)のようにコンビニに向かうために玄関の方に進むと、チャイムもなしにドアノブが回転した。

 

そして扉を開けて入ってきたのは、滝壺理后だった。

 

「はまづら、やっぱりここにい……」

 

滝壺は自分の恋人の姿を見つけて声を上げるが、その言葉をぴたりと止めた。

 

何故ならどこかでみたことのある謎の金髪幼女が、おんぶされるように己の恋人の背中にしがみついているからだ。

 

それを理解した瞬間、滝壺の眠そうな瞳がカッと開眼する。

 

「……はまづら、何してんの……?」

 

滝壺は糾弾の声を上げながら、玄関のドアノブを思いきり握り込む。

 

「ミシミシメキメキって効果音がなんかおかしい! お前そんなキャラだったっけ!? また麦野の特殊メイクとかじゃねえだろうな!?」

 

以前、浜面はロシアの地で滝壺を装った特殊メイクをした麦野に襲われている。

そのためその時の悲劇を思い出しながら浜面が叫ぶと、滝壺はふるふると震える。

 

「昼間からいきなりいなくなったと思ったらそのままずっと連絡ないし、人が散々捜し回っていたって言うのに何だか見知らぬ部屋でくつろいでいるし、どっかで見た事あるような面構えの女といちゃいちゃしているし……」

 

「えっまさかこれ浮気カウントに入ってないよね!? この年齢層は流石になしだろ!! そして言っては何だが俺はバインバイン派だから心配するな滝壺!!」

 

「……きぬはたはしょっちゅうはまづらは超はまづらだとか言ってるけど、ここまでの野獣レベルだと流石に失望……」

 

滝壺がぼそぼそと呟いていると、浜面の背中に引っ付いていたフレメアは眠気に負けつつも頼りになる浜面のために助け舟を出す。

 

「ふぎゃー。浜面の悪口言わないで。大体、こいつは一見ダメっぽそうだけど、いざという時にはちゃんと体を張って私を助けてくれる人なんだから」

 

「そんなことはっ!! 私が一番良く分かってる!!」

 

滝壺は掴んだドアの側面をめきめきと歪める。

 

「待て滝壺!! 相手は子供だ!!」

 

浜面は金属扉を引っこ抜いて叩きつけそうな恋人へ慌てて声をかけた。

 

その瞬間、滝壺を突き飛ばす形で麦野沈利と絹旗最愛が現れた。

 

「チッ!! 滝壺さんが先に超接触していましたか!! だがビリにならなければ屈辱のバニーは回避できるっ!!」

 

「アホか!! この手のイロモノ系はアンタの出番でしょ絹旗!!」

 

麦野と絹旗は叫びながら、競い合うように浜面に向けて突撃する。

 

どうやら浜面を探すゲームをしていたらしく、負けた人間はバニーガールになる罰ゲームが待っているらしい。

 

そしてそんな彼らの勝利条件とは『浜面に触ったらOK』というシンプルなものだ。

 

ほんのわずかな差で絹旗が勝ちそうな場面。

 

「足なら私の方が長いっ!!」

 

だが勝者になったのは、浜面の顔面を蹴りで触った麦野だった。

 

「よぉし!! 罰ゲーム回避!!」

 

「うそ、ですよね……? そんな歴史に名を残すレベルの屈辱が、この私に超降りかかるですって!?」

 

ガッツポーズを取る麦野の隣で、絹旗は地面に手を付いて絶望する。

 

「あれ……? タッチしなきゃダメ?」

 

二人の様子を見て滝壺が首を傾げると、絹旗と麦野がバッと勢いよく滝壺を見た。

 

罰ゲームが下される人物が決定した瞬間である。

 

顔面に蹴りを受けつつも、自分の背中にしがみついているフレメアを下敷きにしないように踏ん張った浜面。

 

だが流石に全ての衝撃を(さば)き切れたわけではなく、起こされたフレメアは目をぐしぐし(こす)って初めて麦野を見た。

 

そんなフレメアを見て、麦野は叫ぶ。

 

「亡霊!? 学園都市の人体解析はその領域にまで踏み込んだのか!?」

 

「死んでまで超若作りしてますよあの女!! ……でも、ちょっと違うような……?」

 

「……にゃー……」

 

フレメアは麦野と絹旗の驚きを聞きながらも、目元を(こす)ると浜面の首元に顔をうずめてうとうとと眠り始める。

 

そんなフレメアを、浜面は『アイテム』の面々に説明する。

 

「……そ、そうだよ。こいつはフレメア=セイヴェルンっつってな。どうやらフレンダの妹らしいんだ。そうだ、フレメア。こっちの人は麦野沈利だって言ってな…………」

 

そこまで麦野を紹介して、浜面は言葉を(つむ)ぐのをピタッと止めた。

 

まさか『逆ギレしてキミのお姉さんを上下真っ二つにして俺に燃やさせた貴婦人だよ』とは言えない。

 

しかし『キミのお姉さんと一緒に学園都市の闇を潜り抜けてきた最高のパートナーなんだっ!』ではキレイゴト過ぎる。

 

「お前の姉を殺害した女です。よろしく」

 

「こりゃあああああっっっ!!」

 

固まっていた浜面の前で麦野がカミングアウトしたので、浜面はフレメアをガッと振り落として麦野に掴みかかる。

 

そして浜面は麦野を玄関の隅へと追いやって声を絞った。

 

「(……何言っちゃってんの麦野さん! 早い!! カミングアウトがあまりにも早すぎる!! 何でそんな開けっぴろげになってんだお前!!)

 

「吹っ切れたから」

 

「(……胸を張るようなことじゃないからね、別に!! まずい、フレメアがこっち見てる。俺ちょっとごまかしてくるからお前は状況をややこしくすんじゃない!!)」

 

フレメアは浜面の叫び声で目が覚めた途端、浜面が自分を振り落として美人なお姉さんのもとへ行ったので不機嫌にむくれる。

 

その様子を見る限り、どうやらフレメアは浜面の背中で既に寝ていたらしく、麦野のカミングアウトを聞いていなかったようだ。

 

浜面は自分に向かって手を伸ばすフレメアを抱き上げると、ダッシュで部屋の奥へと引っ込む。

 

 

浜面とすれ違いに麦野の前に現れたのは、垣根帝督だった。

 

 

浜面は一瞬顔を固まらせたが、それでもフレメアの世話をしなければならないので大人しく引っ込んだ。

 

麦野は垣根を見て目を見開く。

 

垣根はそんな麦野をつまらなそうに見つめていた。

 

部屋の中では、三毛猫を抱えて歩いて行った垣根を見ている真守の姿がある。

 

そんな真守を見て麦野は目を細めた後、垣根を見据えた。

 

「面貸せよ、麦野沈利」

 

「そうね、垣根帝督」

 

垣根に声を掛けられた麦野は、そのまま学生寮の玄関前の廊下へと出た。

 

 

 

────……。

 

 

 

『スクール』と『アイテム』。

かつて潰した方と潰された方のリーダーが対峙する。

玄関の方から滝壺と絹旗が不安そうに見ている中、先に口を開いたのは麦野だった。

 

「悪かったわね」

 

垣根はまっすぐと麦野を見据(みす)えて、その言葉の続きを待った。

 

「浜面から大体は聞いた。あんたたち『スクール』は朝槻真守を取り戻そうとしてたって。……あんたたちは大事な物のために行動した。私はプライドのために行動した。その違いが、私たちの勝敗を分けたんだと思ってる」

 

「それでお前はどうするんだ? そのくだらねえプライドのためにまた俺たちと戦うか? 言っとくが、俺は真守に手を出すヤツに容赦はしない」

 

垣根がそうけん制すると、麦野は(うつむ)いただけだった。

 

それに垣根は目を細める。

 

自分がわざと挑発するような口を利いたのに、麦野が理性的で挑発に乗って来なかったからだ。

 

麦野は顔を上げると、垣根に向かって宣言した。

 

「必要のないプライドはもう要らない。それを浜面に思い知らされたよ。プライドをかなぐり捨てて人の事を大切に想うアイツを、私は悲しませたくない」

 

垣根は麦野の言葉を聞いて、そっと目を伏せた。

 

「……お前も救われたんだな」

 

「…………あんたもね」

 

垣根帝督は朝槻真守に救われて、麦野沈利は浜面仕上に救われた。

 

ある意味似た者同士だった二人は、この瞬間に互いの立場を再確認した。

 

そして二人は、自分たちを救ってくれた大切な人が悲しまないために行動しようと再び誓った。

 

一応の区切りをつけた麦野は、真守がいるであろう学生寮の一室に目を向けながら告げる。

 

「それにしても、神さまなら学園都市の上層部に楯突いてもいいとおもうけどねえ」

 

「今のバランスが崩れるのは困るんだよ。……それにアイツは、悪党にも善人にも幸せになって欲しいって真顔で言うヤツだからな」

 

垣根が学園都市を落としたら真っ先に横やりを入れてくる魔術サイドの話をせずに、麦野にそう告げる。

 

そして柔らかく笑った。

 

「お前らが悪さしないで自分の大切なモンを守りてェって立ち上がるんなら、手を貸してやらない事もねえぜ?」

 

麦野は垣根の言葉にフッと笑った。

 

「それは心強いわね」

 

「──なンだよ、こンなところで雁首(がんくび)揃えて」

 

垣根と麦野が話をしていると、コンビニで缶コーヒーを買ってきた一方通行(アクセラレータ)が通りかかった。

 

一方通行(アクセラレータ)か」

 

「どォいう状況になってやがる? 超能力者(レベル5)勢ぞろいじゃねェか」

 

朝槻真守はこの場にいないが、垣根帝督、麦野沈利、一方通行(アクセラレータ)超能力者(レベル5)の過半数が集まっていたので、一方通行は思わずそう呟く。

 

「殺し合った男と区切りをつけて、それが原因で殺した女の身内に遭遇したところ。でも、情報は正しく伝わらなかったみたいね」

 

「……、」

 

一方通行(アクセラレータ)は無言だ。それでも麦野の言葉で麦野が直面した事態が何なのかを全て悟った。

 

「『闇』が深く関わっていた事例である以上、私が警備員(アンチスキル)に捕まったり、裁判で処分されるような可能性は限りなくゼロに近い。……となると、罪の清算があるとすればここだとは思っていたんだけどね」

 

麦野が自虐するように笑うと、一方通行(アクセラレータ)はため息を吐きながら告げる。

 

「オマエの綺麗事なら好きなよォにやれば良い。だが、それで他の人間を『闇』に引きずり込むよォじゃ本末転倒だ」

 

「なら引きずり込まれないように準備を整えるさ。どんな方法を使っても。押し留める善性の選択にすがるつもりはない」

 

学園都市の『闇』に囚われていた三人は、闇から抜け出してそれぞれの道へ向かう事になった。

 

その行き先が交わらなかったとしても交わったとしても、彼らは道を進む。

 

大切な人を、悲しませないために。そして大切な人と──いつまでも一緒に歩むために。

 

彼らは、進み続ける。

 


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