とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一二話、投稿します。


第一二話:〈一件落着〉で次のステージへ

一方通行(アクセラレータ)はひとっ飛びでビルの屋上まで行くと、手すりに立って周囲をぐるりと見回した。

 

ラジオゾンデ要塞。

それが目印としている精密誘導の発信機を探して、だ。

 

一方通行(アクセラレータ)はこれまで何度も魔術に触れている。

バードウェイからの説明で、曖昧なイメージであった魔術に明確な輪郭が与えられつつある。

そのため一方通行(アクセラレータ)は一度息を吸って止めて、そして意識を集中した。

 

「……ッ!!」

 

自身の体から嫌な汗が噴き出すのを感じる。

それでも街の外から流れてきて街の外へとまた出ていく力の道筋を見極める。

 

だが一方通行(アクセラレータ)には朝槻真守のように流れを知覚して察するという能力までは備わっていない。

 

彼にできるのは、あくまで自分で定義した世界を網羅することだからだ。

 

だが、少しだけ認識を踏破するだけで真守が感知している世界へと疑似的に踏み込むことができるし、ベクトルの流れを感じられずとも目に見えた流れならばそれを知ることができる。

 

その代償に血管が不自然に脈動し、嫌な汗が噴き出すという魔術を使う予備動作による体の異変が引き起こされるとしても、一方通行(アクセラレータ)は集中し続けた。

 

垣根帝督は一方通行(アクセラレータ)のもとへと向かう真守に追いついてお姫様抱っこで抱き上げながら、真守の胸に飛び込んだ自らの能力で造り上げた人造生命体であるカブトムシに干渉していた。

 

この学園都市に垣根は情報網としてカブトムシを万単位で配置しており、学園都市内で起こった出来事は手に取るように分かるようにしている。

 

バードウェイはちょろっと説明しただけだったが、風水は力の流れによって『居心地の良い場所』と『そうでない場所』に分けられる。

 

そして人間は総じて『居心地の良い場所』へと流れることになる。

 

その『居心地の良い場所』への流れをカブトムシで観測すると、不自然な部分ができていた。

 

学園都市は科学によって作り上げられて一切の魔術が排斥された場所だ。

だからこそ、不自然な部分ができているのはおかしい。そしてその不自然な部分がより際立っていた。

 

一方通行(アクセラレータ)は自身の目で、垣根帝督は無数のカブトムシを使って人の流れがおかしい部分を見つけ出した。

 

真守は垣根にビルの上に降ろしてもらって、垣根と一緒に一方通行(アクセラレータ)が立っている柵の近くまで歩いて行く。

 

「分かったか?」

 

真守が自分と垣根に問いかけてくるので、一方通行(アクセラレータ)は振り向いた。

 

「あァ。答え合わせといこォじゃねェか。──なァ?」

 

一方通行(アクセラレータ)は真守の隣に立っている垣根に視線を向けた。

 

「「第七学区・中央ハブ変電施設」」

 

一方通行(アクセラレータ)と垣根が同時に告げたので、真守は柔らかな微笑を浮かべて携帯電話を取り出した。

 

「上条。第七学区・中央ハブ変電施設の丁度中心、地面の中だ」

 

具体的な場所まで理解している真守が上条に答えを教える。

 

真守が上条と連絡を取るのが終わって携帯電話を片付けていると、一方通行(アクセラレータ)が口を開いた。

 

「……オマエは流れを操れる。だからそれで発信機をどォにかやろォと思えばできンだろ?」

 

「確かにできるけど、そうするとラジオゾンデ要塞が素通りするまで私が風水の応用でエネルギーの循環に手を入れ続けなくちゃいけない。私個人としてはあんまりエネルギーの流れに手を入れたくないんだ。だから上条の右手で一発で終わるならそっちの方がいい」

 

真守がラジオゾンデ要塞を見上げながら告げていると、ラジオゾンデ要塞に異変が起きた。

 

 

ラジオゾンデ要塞の三分の一が消滅したのだ。

 

 

「バードウェイはイギリス清教が対処してるって言ってたけど……派手にやってるみたいだな。でも学園都市に被害はなさそう」

 

真守は塵も残らず綺麗に消滅した『ラジオゾンデ要塞』を見上げながら告げる。

 

「魔術師はあンなところまで魔術で行けンのか?」

 

「ううん。魔術的な飛行を撃墜する術式があるから、現代の魔術師は魔術で空を飛べないんだ。まあ確かにその術式の穴を突く魔術師はいっぱいいる。でもイギリス清教は学園都市と手を組むほどに科学には寛容だから、多分科学的な技術であそこまで行ったんだと思う」

 

「……あの高さで生きられるなンて、魔術師も大概怪物だな」

 

空気が大分薄くなっているだろうと一方通行(アクセラレータ)が予測して告げると、真守もラジオゾンデ要塞を見上げながら告げる。

 

「ラジオゾンデ要塞の環境がどうなってるか分からないけど、イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』には、神裂火織という『聖人』がいるんだ」

 

「聖人?」

 

一方通行(アクセラレータ)が首を傾げるので、真守はこれまで何度も説明してきた『聖人』について説明する。

 

「十字教の『神の子』に身体的特徴が似ているという理由で『神の子』の力の一端をもらい受けることができる人間がいるんだ。その者たちのことを『聖人』と言って、そんな人間が世界には二〇人ほどいる。聖人は宇宙から大気圏突入したって生きていられるぞ」

 

真守は九月中旬に、神裂が『エンデュミオン』に向かう上条とインデックスが乗る宇宙船を守るために宇宙服なしで活動し、そのまま大気圏突入して帰ってきたことを知っている。

その事を思い出しながら告げると、一方通行(アクセラレータ)は顔をしかめた。

 

「……魔術ってのは才能のない人間のためにあるってバードウェイのガキは言ってたンだがな」

 

『聖人』とはある種選ばれた人間であり、才能のある人間だ。

魔術は才能のない人間が才能のある人間に追いつくためのものである。

その魔術を才能があるままに自由に使えるなんて、『聖人』は恵まれた生まれを持っている。

そのことについて一方通行(アクセラレータ)が言及すると、真守は肩をすくめた。

 

「最初からそういう力を持って生まれた人間もいるんだぞ。まあ彼らには彼らなりの苦しみがある。右方のフィアンマもその一人だ。いるもんにはいるんだ。……力や、運命が決められて生まれてきた人間がな」

 

垣根帝督は朝槻真守のどこか寂しそうな言葉に目を細めた。

 

何故なら真守もそうだからだ。

 

ここではないどこかの世界。

 

その世界から魂の形を朝槻真守の力によって得て、こちらの世界へと真守に降ろしてもらおうと考えている者たち。

 

その者たちが神を求めたからこそ真守は神としての性質を持っており、それを学園都市は絶対能力者(レベル6)へと加工した。

 

その運命の中には、垣根帝督も巻き込まれていた。

 

この世界に形のない『彼ら』が形を得るためには──未元物質(ダークマター)が最適なのだから。

 

全てが仕組まれていたとしても、垣根帝督は朝槻真守のそばにいたい。

何故なら真守はロシアで自分に選ばさせてくれたから。

真守だけは絶対に運命から逃げられないのに、垣根帝督には『代わり』があるから運命から逃れても良いと言ってくれたのだ。

 

垣根帝督には絶対に譲れないものがある。

 

あの夏の日。絶対的な力に一人で立ち向かっていた真守のことを知った。

あの時思ったのだ。

この少女を、尊い在り方をしているこの少女だけは一人にしてはいけない。

 

そう思ったから。垣根帝督は朝槻真守を絶対に一人にしない。

何があってもきっとこの想いだけは変わらないと垣根は思っている。

 

そこで真守は垣根へと視線を移した。垣根も真守を見た。

 

優しく全てを見透かすようなエメラルドグリーンの瞳を見て、垣根は微笑んだ。

自分の絶対に変わらない、『真守を一人にしない』という想い。

それを、朝槻真守も信じていると感じたからだ。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

真守の言った通り、魔術の起点は地面の中にあった。

だがコンクリートによって塗り固められた基盤の中にあったので、発信機は簡単に破壊できなかった。

 

そのため浜面が重機を持ってきてコンクリートの基盤を破壊して、発信機を掘り起こしたのだ。

 

当然のことながら器物破損なため、上条と浜面が逃げてきたところへ真守たちは向かった。

 

例の如く、垣根は真守の下着が(あら)わになるのが嫌だ。

だから真守をお姫様抱っこして、垣根は自らの翼をはためかせて上条と浜面のもとに着地した。

 

そんな垣根と真守の横に、一方通行(アクセラレータ)はビルの屋上から落下する形で着地した。

 

そして一方通行(アクセラレータ)は面倒くさそうに電極のスイッチを切り換えて、現代的なデザインの杖に体重を預けた。

 

真守はそんな一方通行(アクセラレータ)の横で携帯電話を操作すると、スピーカーフォンに切り替えてバードウェイに繋げた。

 

〈ラジオゾンデ要塞は速度の微調整を行いながら、千葉外房沖に着水したそうだ。高波などの被害もない。学園都市側の対応速度が鈍かったのが気になるが、一応は解決だな〉

 

「それについてはこっちで調べてみる」

 

学園都市の対応が悪いことに真守が違和感を覚えて告げると、バードウェイは電話の向こうで頷いた。

 

〈分かった。そんなお前たちに労いの言葉を贈ってやりたいところだが、そう言えばまだ本題に入っていなかった事を思い出してな〉

 

「また説明したがりかよ。あと一体何時間拘束するつもりなんだ……」

 

嫌気がさして浜面がげんなりとした顔をすると、バードウェイは軽く笑った。

 

〈いいや。残るのは核心だけさ。……「ヤツら」の名前だよ。「ヤツら」の名前はな……〉

 

 

〈────グレムリン、と言うそうだ〉

 

 

グレムリン。

 

機械の誤作動を誘発し、飛行機などの兵器を使い物にならないようにする──と信じられてきた妖精の名前。

機械という概念が生まれてから人々の間で語り継がれるようになった、近代文明における新興的カルト。

 

魔術という世界が科学信仰の世界を蝕む象徴でもある。

 

第三次世界大戦で勝利を得た科学サイド。

その大きな広がりを食らわんとするオカルト。

その大きな戦いが、今始まろうとしていた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「真守。ご機嫌だな」

 

真守は垣根と手を繋いで、自分たちの自宅である五階建てのマンション型のシェアハウスへと帰っていた。

そんな中、垣根が真守の機嫌の良さに気が付いて声を掛けると、真守は頷いた。

 

「分かるか? 上条に再び会えたのが本当に嬉しい。生きてるってなんとなく分かってたけど、直に会えたらとても嬉しくなった」

 

真守がふにゃっと笑いながら告げるので、垣根は目元を柔らかくした。

 

「そうか。良かったな」

 

「うんっ」

 

真守は笑顔で頷くが、きょとっと目を丸くする。

 

「……垣根、バードウェイの言葉が気になってるんだな?」

 

「そうだな」

 

垣根は勘の良い真守に胸中を言い当てられたことに、素直に頷いた。

 

ラジオゾンデ要塞をどうにかした後。一同はとりあえず上条当麻の寮へと戻った。

 

するとバードウェイは帰ってきた一方通行(アクセラレータ)や浜面に、難癖をつけるように『お前たちは目の前で助けてと言っている人間を無視できない』と言ったのだ。

 

そして彼らが去った後、垣根帝督にはバードウェイが違う事を言った。

 

『お前は目の前で誰が泣いて助けを乞おうが助けない。ただ神人が願った時にだけ人々を助ける。……お前の世界の中心は神人で、お前は神人のためだけにヒーローになる。そんな人間を動かすなんて私にはできない。……だがな』

 

バードウェイはそう前置きして、ニヤッと笑った。

 

『今度の敵もやっぱり、お前の大事な神人に手を掛けようとしているぞ?』

 

垣根はバードウェイに良いように手のひらの上で転がされているので、チッと舌打ちをする。

 

「ヒーローとか柄じゃねえ」

 

「ふふ。知ってる」

 

「でもお前に危害が加えられるのを黙って見ているわけにはいかねえ」

 

「それも知ってるぞ」

 

真守は幸せそうにとろける笑みを浮かべて、垣根と繋いでる手にぎゅっと力を込めた。

 

「垣根が私のお願いやわがままは絶対に聞いてくれるって、私は知ってる」

 

「……何かしてほしいことがあるのか?」

 

垣根が真守に優しい言葉を掛けると、真守は目を細めた。

 

「うん。考えたことなかったし、興味がなかったけれど……バードウェイの話を聞いてたらちょっと他の神さまに興味が出てきた」

 

「魔神に?」

 

垣根が目を(またた)かせて問いかけると、真守はコクッと頷いた。

 

「神さまだから、きっと願いを背負っているんだ。その願いはどのようなものなんだろうって、そこが気になったんだ」

 

真守は魔神に対してはあまり興味はない。

それでも魔神がどんな人々の願いを背負って生まれ落ちたのか気になるのだ。

何故なら自分も、この世のものではない存在の願いを受けて、生まれ落ちたのだから。

彼らが何を背負っているのか、単純に気になるのだ。

 

真守は垣根に向き直って、じぃっとその澄んだエメラルドグリーンの瞳で見上げた。

 

「魔神に興味が出てきた。だから垣根、一緒にアメリカ合衆国に行ってくれるか?」

 

そのお願いに、垣根は真守の頬にそっと手を添えながら優しく告げる。

 

「お前が行くならどこにでも行ってやる。どこに行くのだって一緒だ。……もう離れるのはごめんだからな」

 

朝槻真守はもう既に二度も、垣根帝督のそばから離れている。

暗部抗争の時と、第三次世界大戦の時。

それがちょっぴりトラウマになっている垣根を見上げて、真守は頷いた。

 

「うん、私はもうどこにも行かない。だって私も垣根と離れたくないから。ずぅっと一緒だって決めたから」

 

「お前の言葉は信用ならねえ」

 

垣根は冷たい言葉を吐くが、それは事実だ。

真守は神さまとして必要ならば、垣根を置いてどこかへと行ってしまうだろう。

自分が神さまとしてするべきことならば、絶対に成し遂げようと行動するからだ。

それが、今の朝槻真守の()り方だからだ。

 

「俺は俺のやりたいようにやらせてもらう。だから俺はお前から絶対に離れない。お前がどこかに行くなら俺が勝手に付いてく。……絶対に離してやるもんか」

 

「うれしい」

 

真守は垣根と繋いでいる手をぎゅーっと握って、自分の胸の前に持ってくる。

 

「じゃあ垣根、帰ろう。深城がご飯作って待ってるから」

 

「そうだな」

 

垣根は真守と歩調を合わせて、家路を急ぐ。

 

何があろうとこの少女だけは守ってみせる。

そしてこの少女が守りたいものも守ってみせる。

垣根は今一度そう決意して、帰るべき日常へと帰って行った。

 




ラジオゾンデ要塞篇、これにて終了です。
ハワイ篇ですが、新約のストックが溜まってきたので来週水曜日(5月25日)より、三日おきに投稿させていただきます。
更新についてはTwitterの方でも予告します。
ハワイ篇も楽しんでいただけたら幸いです。

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