次話投稿は六月三日金曜日です。
(一一月一〇日、オアフ島、グリーンカフェイワマキ、テーブル備え付けのタブレット端末のカメラの映像より)
バードウェイの息がかかった病院へサンドリヨンを預けた真守は、垣根と共に空港近くにある日本茶専門店の喫茶店に来ていた。
理由は店で待っている上条、浜面、黒夜と合流するためだ。
『上条』
真守はテーブル席に座っていた上条に気が付き、声をかける。
『おーあさつ、き!?』
『? どうした?』
真守は突然自分を見て固まった上条を見て、首を傾げる。
上条の異変に気が付いて浜面と黒夜も真守を見る。すると二人もぎょっと目を開いた。
『……垣根。私の顔に何か付いてる?』
『いいや。いつも通りかわいい』
垣根がさらっと
『じゃあ何がおかしいんだ?』
真守がコテッと首を傾げると、上条は真守と垣根が眩し過ぎて目を細めた。
『なんか、こう……リア充感が……半端なくて……ッ!』
アイドル顔であどけない、ちまっとした印象の朝槻真守。
高身長でどこからどう見ても非の打ち所がないイケメンの垣根帝督。
学園都市でも美男美女として注目を集めていた
真守と垣根は人を惹き付けるオーラ的なものをまとっている。
それに上条が圧倒されて無言になっていると、垣根は余裕たっぷりで笑った。
『なんだよ。
『くっ……圧倒的顔面高偏差値による不条理な余裕っぷり……! ちょっとこっち来ないでください少し離れたテーブルに座ってお願い劣等感が凄まじい……ッ!!』
真守は自分たちから顔を
『今更何言ってるんだ、まったく。せっかくバードウェイの方針を伝えに来たのに』
真守も真守で酷いことを言っているが、話をしなければ始まらない。
そのため真守と垣根は、上条たちが座っているテーブル席の隣にある二人席に向かい合って座った。
『サンドリヨンは人を操る魔術師に口封じされた。私が壊れかけのサンドリヨンの頭を読み取った限り、その魔術師はサローニャという名前らしい。それと、サンドリヨンたちにとって重要なのが「起爆剤」というモノだという事も分かった』
『……でも、それだけじゃ見当が付けられないな』
『大丈夫。魔術師についてはバードウェイと
『……なんか、第一位からさらっと伝えられると簡単そうに思えるが、実際には結構な無茶苦茶をやってるんだよなぁ……』
浜面が真守の規格外っぷりに思わず呟く中、真守は垣根から渡されたメニュー表を見て、メニューを決めた。
真守が頼むものを決めたのを感じ取った垣根は、店員を呼ぶ。
『バードウェイと
真守はバードウェイたちの動向を説明しながら、メニュー表を指差す。
真守の代わりに垣根が英語で店員に注文している中、上条は真守に声を掛けた。
『それで、俺はどうすればいいんだ?』
現状、役割分担がきちんとできている中、自分はどうすればいいのか。
上条が真守に問いかけると、真守はメディア王・オーレイ=ブルーシェイクの手腕によって無料放送されているフットボールの試合をちらっと見ながら告げる。
『上条は頑張りすぎるからそのままで。一人で戦ってるわけじゃないんだから』
真守は上条に声を掛けながら、適当にショッピングモールで買ってきたタブレットPCを手に取る。
学園都市製の情報端末の方が圧倒的に高性能だが、学園都市製は高性能すぎて外の技術が対応できてないところがあるのだ。
学園都市が秘密主義であるからこそ起こっている
『うわ。何だこれ旧時代の遺物か? ……そう言えば学園都市の市販のパソコンに使われているセキュリティと、学園都市外で軍事用に使われているセキュリティが同等とかっていう話があるけど、それより酷いんじゃないのか?』
学園都市の技術の
真守はパフェの白玉を食べながらパソコンを操作して、ハッキング用のプログラムを組み立てていく。
片手間に一国を攻め落とせるハッキングプログラムを構築する辺りが真守の規格外っぷりを表しているが、周囲の人間は一〇代の真守がそんなものを組み上げていると知らない。
処理が遅くてもなんとか外の技術に合わせたプログラムを真守が構築していると、真守の携帯電話に着信があった。
真守が取り出してスピーカーフォンにして机に置くと、通話の相手であるバードウェイが淡々と告げる。
『襲撃された』
バードウェイの言葉にぎょっとする上条と浜面。
『一般人にか?』
真守がプログラムを組み立てながら問いかけると、バードウェイは淡々と状況を説明する。
『ああ。
『人質!?』
上条が驚く中、抹茶アイスラテを飲んでいた垣根が
『はん。それだったら魔術を感知できるお前にも分からねえよな。……ただ問題なのは、魔術的な探査から逃れられるお前が襲撃されたっていう事だな』
『さすが
バードウェイが称賛する中、上条は首をひねる。
『魔術を使わないでバードウェイの居場所を特定する……?』
上条が呟いていると、垣根は天上の
『真守が言うには、ラジオゾンデ要塞は魔術で特殊配合されたガスで浮いてたらしいぜ。そこから察するに、「グレムリン」ってのは科学を惜しげもなく使う
『……監視カメラ、って事か?』
上条が呟くと、垣根は抹茶ラテを飲みながら告げる。
『学園都市の外の監視網なんて、その気になって勉強すりゃ誰にだってハッキングできる。無理な話じゃねえ』
垣根が説明する中、真守はタブレットPCをイジりながら顔を上げた。
『上条、そういえば美琴と
真守が淡々と告げると、上条は携帯電話を取り出して告げる。
『空港で別れちまったきりだ。今連絡する……けど、人質を取られた一般人はどうするんだ? どう助ければいい?』
上条が焦った表情で告げると、バードウェイが上条の問いかけに答える。
『放っておけば人質も実行犯も処分されるし、どのみち既に巻き込まれているんだ。だったら最後まで巻き込んでしまっても変わらない』
『即戦力に加えて、手伝ってもらうってことか?』
巻き込まれてしまったと言っても一般人を利用することに抵抗がある上条が問いかけると、バードウェイははっきりと頷いた。
『ああ。私がこうも簡単に襲撃を受けているところを見ると既に顔は割れているようだし、敵にとって死角となる人間に手伝ってもらうのが一番手っ取り早いだろ?』
くそったれ、と上条は呟きながら携帯電話を操作する。
『お前たちのところにも、人質を取られている一般人が来たら確保しておいてくれ』
『どういうことだ?』
上条がメールを送信し終えてから顔を上げ、真守の携帯電話を見る。
『私の面が割れているんだ。「上条ご一行様」の顔も割れているってことだ。つまり、お前たちのところにも迎えがやってくる』
バードウェイが愉快そうに告げると、上条の背中に嫌な
それと同時に、叫び声と共に大男が拳銃を持ったまま店の扉を蹴り破り、押し入ってきた。
真守はタブレットPCを操作しながら、即座にテーブルの上に店員が置いて行った伝票が取り付けられた小さなバインダーを手に持つ。
そしてノールックで押し入ってきた男に向けて、バインダーを投げつけた。
スパァーン! と小気味よい音が響くと、バインダーを頭に食らって
『うん。プログラム構築し終わった。後は走らせるだけだな』
真守はエンターキーを押してプログラムを保存すると、大きく伸びをして立ち上がった。
『さて、こちらもとっとと済ませるか。あんまりモタモタしてられないし』
真守はノールックで男を昏倒させた自分を見て、固まっている浜面たちに笑いかける。
垣根は抹茶アイスラテを飲みながら立ち上がり、突然の襲撃で慌てている店員を落ち着かせるために流ちょうな英語で喋って事態の収拾を図っていた。
(一一月一〇日、オアフ島、ショッピングモール・コーラルストリートの禁煙所、防犯カメラの映像より)
魔術師、サローニャ=A=イリヴィカは、人や人の認識までも操る事ができる魔術師だ。
もう真守たちにもバレている手だが、サローニャは子供たちを操って人質に取り、子供たちの家族を手駒として使っている。
そのためサローニャの近くにはもちろん、人質である子供たちがいる。
サローニャはそんな子供たちの認識を操り、九ミリの機関拳銃を『警報ブザー』として、爆弾を『GPS』と誤認させて渡していく。
上条当麻を襲ったこの子供たちの親が帰ってくる気配がないからだ。
そのためサローニャはバードウェイたちから逃れるために、子供たちに機関拳銃と爆弾で暴れてもらい、その混乱に乗じてこのショッピングモールから脱出する必要が出てきた。
だが、ショッピングモールの出入り口は七か所もある。
バードウェイたちがいる場所へと逃げてしまえば、混乱の最中でも自身が発見される確率が上がってしまう。
そのためサローニャは『協力者』に連絡をした。
だが相手は出ず、不審に思ったサローニャは携帯電話の画面を見つめて顔を歪めた。
『圏外?』
サローニャがその文字に首を傾げていると、喫煙所の一面のウィンドウが叩き割られた。
飛び込んできたのは、サローニャが人質を取って操っていた拳銃を持つ一般人だった。
『バカが。なら予定を早めましょうか!!』
サローニャは
すると今までぼーっと立ち尽くしていた人質の子供たちが、肩に爆弾を入れたバッグを
銃声がさく裂する。
だがその発砲を
一般人を守るように瓦礫を積み上げながら降り立ったのは、
ズボンのポケットに両手を突っ込んで立つ、三対六枚の翼を広げた垣根帝督。
その隣には
そして真守を挟んで垣根の対称の位置にいるのは、
三人はそれぞれ、子供の
真守たちが蹴り飛ばした爆弾は爆発するが、建物を激しく振動させただけで人的被害は出なかった。
『……銃器で死ぬまで被害を拡大させて、くたばると同時に起爆する仕組みか。オマエのやり方はサンプル入手して調べてあンだよ、クソが』
喫煙所の角に追い詰められて魔術師が焦っていると、カメラのフレーム外から爆発物が投げられた。
それを真守が吹き飛ばし、自分たちを見ているであろうカメラにクリーンヒットさせた。
(一一月一〇日、重大なエラー)
原因不明によりF.C.Eに多大な負荷がかかっています。
自己診断中……レポート出力完了。
F.C.Eは再起動シークエンスを開始します。
(一一月一〇日、オアフ島、ショッピングモール・コーラルストリート、コインロッカー前、防犯カメラの映像より)
『上条、
真守は垣根と一緒に、コインロッカー前まで後退していた上条と
『浜面はどうしたんだ!?』
『別の出口に飛び込ンでンだろ。こいつらの親と一緒にな。それよりありゃ何だ。どこのバカが介入してきやがった?』
上条が
途端に、発砲音が響く。
その発砲音は機関拳銃のものではなく、アサルトライフルじみた重音を響かせていた。
『あれは確実にオカルトじゃねェ』
『ああ。それにこの銃弾の量は一人じゃねえ。班で動いている可能性があるな』
垣根は上条の首根っこを掴んで引き戻すのと同時に
『なら、ここは俺たちの出番だ。オマエはガキども連れてさっさと離れろ』
『俺だけ!?』
『ガキィ連れたまま鉛玉の応酬するつもりはねェ。オマエのチカラがあれば、そいつらは解放する事ができンだろ。だからオマエはさっさと行け』
『ほらよ、連れてけ。魔術だろうがなんだろうが明確な攻撃には対応できる』
頭に鎮座し、その周りを飛ぶカブトムシ数体を確認しながら、上条は頷いた。
『分かった。……頼んだ、三人共!』
上条は子供たちの頭をそれぞれ右手で軽く叩いて、
真守はそんな子供たちに、英語で『お兄さんについて行けば安全な場所に行ける。家族もそこで待ってる』と話して、上条について行くように指示をする。
真守は指示をし終えて上条たちを見送ると、辺りを警戒していた
『
『あァ。……怪物三人ってのはオーバーキル過ぎるが、相手が悪かったくれェに思ってくれよォ!!』
彼らは、まるでCDのように輝いている銀色の特殊な軍服を着こんでいた。
顔は勿論判別できないが、体型から男が三人、女が二人だということは分かる。
全員ブルパップ式の特殊アサルトライフルで武装しているが、それぞれに役目があるらしい。
男三人は無反動砲を肩にさげて、女二人は高性能マイクやファイバースコープなどの情報収集機器を腰にさげているからだ。
『着てンのはセンサー潰しの電子迷彩か』
『あれが「グレムリン」なのか雇われなのか判断が付かないけど、無力化させてからはっきりさせよう』
真守と
真守には全てを焼き尽くす源流エネルギーの『シールド』が、そして
それでも恐怖を感じていないのか、他の四人は特にうろたえる事なくバラバラに行動し始める。
『(……俺の性質を試しやがったか?)』
真守はそれを受けて、
真守と
その最後の一人である女へと、
だが次の瞬間、
『
真守が驚きの声を上げた瞬間、女は真横へと飛んで
一方通行はそのまま壁に激突し、瓦礫を
そんな中、女は真守へと手を伸ばした。
それは女が
指先から小さな炎を出す魔術でも、小さな淡い光球を生み出す魔術でもいい。
魔術を使った時点で、能力開発を受けて体を整えられた子供たちは体の血管が破裂し、自滅するのだから。
女は勝利を確信したような雰囲気で、真守に照準を合わせる。
だが真守は
そのため別位相の法則によって干渉してきた女の魔の手から逃れるために、自分の体の事象を『固定』して無理やり魔術を弾いた。
ビシッィィ!! と、ガラスにヒビが入って割れる時のような鋭い音が響き渡る。
真守は魔術を弾いた。
ならばその弾いた魔術は、当然として女へと返って行く。
だが女が真守に使わせようとしていた魔術は淡い光を放つ魔術だったので、女の致命傷にはならなかった。
能力者でありながら『呪詛返し』じみた事を純粋な物理法則によって巻き起こした真守に驚愕した女は、一瞬硬直する。
そんな女に向けて、垣根は
女は垣根の攻撃をもろに受けて、壁に激突して沈黙する。
真守は事象を『固定』するのをやめると、魔術を使用させられた事によって全身の血管が破れて血を流している
『大丈夫か?!』
真守の問いかけに、せり上がってきた血の塊を吐いた
真守が
『テメエ、随分と面白ぇことしてくれるじゃねえか』
垣根は英語で声をかけて、女の頭をガッと蹴り飛ばす。
『でもおかしくはねえよなあ。グレムリンってのは
垣根は苛立ちを込めながら、女魔術師の頭をぎりぎりと踏みつける。
『ヘイ、メルヘンボーイ! 何もそこまでしなくていいだろう、大事な情報源だ!』
『あァ?!』
垣根は突然声を掛けられて振り返る。
そこには、中年の屈強な男が立っていた。
『誰だテメエ』
翼を生やしている事によってメルヘンボーイなんて不名誉な呼称をされた垣根がドスの利いた声を出すが、中年男は気にせずに垣根に近づく。
『どいつもこいつも、朝のニュースぐらいは観てほしいんだがよ。ええい、大統領様だよクソッタレ!!』
『あ? 大統領だと?』
そういえばアメリカの大統領、ロベルト=カッツェに似ているな、と垣根は思う。
『似ているんじゃねえよ! 本人だよ!! 芸人じゃねえ!!』
垣根の心中を察したロベルトが叫ぶと、垣根は
垣根は真守の事をちらっと見る。
真守も何故大統領がここにいるか分からないといった顔をしていたが、垣根に声を掛けた。
『とりあえずここから離脱しよう、垣根。その女魔術師、こっちに持ってきてくれ』
真守が指示をすると、垣根は女魔術師の頭を引っ掴み、ずるずると引きずりながら真守のそばへと向かう。
『おい、メルヘンボーイ! 男なら女性を紳士に扱いたまぐぼえっ!?』
垣根の逆鱗に再度触れたロベルト=カッツェは、垣根がわざと蹴り上げた大ぶりの瓦礫の破片を腹に叩きこまれ、地面に膝をついて崩れ落ちる。
『歩いてたら偶然瓦礫を蹴っちまって、偶然そっちに飛んだみたいだな』
垣根は偶然を強調しながら言葉を吐いて、ロベルトを一瞥もせずに真守のそばへと腰を下ろす。
そして