とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一八話、投稿します。
次は八月二三日月曜日です。


第一八話:〈暴走離反〉で手の届かない所へ

それは、胎児のようだった。

アクアマリンの宝石のような煌めきを体内に持つ、半透明の体を持っていた。

頭には天使の輪を掲げており、白目は赤く染まり、金色の瞳はぎょろぎょろと動いている。

背中から伸びたエメラルド色の帯がゆらゆらと蠢くそれはどこからどう見ても胎児の姿を取っていた。

 

「……胎児? 肉体変化(メタモルフォーゼ)? こんな能力聞いた事──」

 

美琴が呟くと同時に、胎児の怪物は耳につんざくような泣き声を上げて、周囲へと衝撃波を何度も繰り出した。

 

真守は両手をクロスさせて前方にエネルギーを生成して、垣根は未元物質の翼を広げて自身の身を守る。

 

美琴も磁力でコンクリートの壁を作り、その衝撃波から身を守った。

そして美琴は爆風の中、前に出て胎児の怪物へと電撃を飛ばす。

 

すると胎児の背中を美琴の電撃が軽々と吹き飛ばした。

 

「ええ!?」

 

攻撃した美琴も胎児の怪物の体が簡単に抉れたところを見て驚愕する。

そんな美琴の前で胎児の怪物は体を即座に再生させて、更に進化するように背中から小さな両手が新たに生えた。

 

それを皮切りに、胎児の怪物が体を脈動させて一際体を大きくした。

 

「おいおいなんだありゃ!」

 

「大きくなってる!」

 

垣根と美琴が声を上げる中、真守は胎児の怪物を見つめる。

AIM拡散力場を軸としている事は確かだ。

だがAIM拡散力場を軸として、AIM思念体として意識を結んでそこら辺を漂っている深城とは、明確に違う何かに真守は見えた。

 

「分からない。深城とは別種のような気がする……」

 

「別種だと?」

 

垣根が真守に問いかけるが、真守はじっと胎児の怪物を見つめているだけだ。

 

AIM思念体とは中心となる人間が存在しなければならない。

深城の存在はAIM拡散力場全体に希釈されているが、その中心核となっているのは深城の成長が停まった本来の体だ。

要はAIM拡散力場全体が深城の体であり、深城の本来の肉体は心臓のような役目を担っている。

 

心臓である深城の本体が壊されたらAIM思念体の深城も死に至る。

 

深城の体を生かし続けているのは真守なので、真守が死ななければ深城の命は脅かされない。

体を傷つけられてもすぐに再生させられるし、しかも深城が傷つけられたと真守は感知できるので、深城を攻撃した相手を潰しに行く事ができる。

 

そんなAIM思念体の深城と、目の前の胎児の怪物はまったく別の存在だと、真守は感じた。

まるで基盤となるものがあの怪物の中心にあって、肉体が外付けされているような印象だ。

 

AIM拡散力場に理解が深い真守が、意味不明だとしか考えられない胎児の怪物に向けて、垣根は警戒心を露わにする。

 

真守が困惑し、垣根が警戒、そして美琴が呆然と胎児の怪物を見つめる。

その胎児の怪物は瞳をカメラのレンズのようにぎょぎょっと大きさを変えて三人を捉えた。

 

胎児の怪物の目の前で、空気中の水が凝縮され始める。

その水が一気に凍結して氷柱となって鋭い切っ先を三人に向けたまま数十本空中に浮かび、三人に向かって放たれた。

 

垣根はその氷柱から身を守るように未元物質(ダークマター)の翼を展開した。

真守は試しに氷柱の一つを源流エネルギーで吹き飛ばして強度を確認する。

その強度を受けて、源流エネルギーで一々焼き尽くしていたら面倒だと即座に判断した真守は、猫の様に身を翻して地面を不規則に駆けて避け続ける。

 

真守は地面をトッと蹴り上げると、そのまま空中を泳いで空を飛んでいる垣根の隣まで飛んできて、空中で静止した。

 

「能力が使えんのか、あの怪物!」

 

「垣根。御坂が初春のところ行ってる。行くぞ」

 

真守が促した方を見ると、美琴が人質になっていた初春飾利の下へと走り寄っていた。

真守と垣根は美琴と並走して胎児の怪物から距離を取る。

 

「朝槻さん、垣根さん。無事!?」

 

「これくらいでへこたれるワケねえだろ」

 

「同じく」

 

「うへぇ……朝槻さん、本当に超能力者(レベル5)なのね……」

 

美琴が全速力で走っているスピードに、真守が余裕で並走しているので、真守が超能力者(レベル5)だと改めて認識した。

 

そんな三人に後ろから追撃するかのように氷柱が飛来した。

真守が宙に浮かんだままその場で静止すると、両手を前に突き出してガキガキ!、と歯車が噛み合う音を響かせる蒼閃光(そうせんこう)(ほとばし)らせる。

 

そして源流エネルギーを極太ビームになるように生成、高密度のままそれを拡散させるように放つ。

拡散されながらも十分すぎるほどの威力を持つ源流エネルギーによって構成されたビームは、氷柱を塵一つ残さず焼き尽くした。

 

その圧倒的な威力によって巻き起こった余波が容赦なく三人に襲い掛かり、凄まじい突風で瓦礫が浮かび上がったので、三人はその瓦礫から身を守る必要に迫られた。

 

「このバカ! 周りの事考えて撃て!」

 

人の事をまるで考えていない能力の行使をした真守に向かって、当然の反応として垣根が怒鳴る。

 

真守は長い黒髪を余波でなびかせながらも、申し訳なさそうな表情をする。

 

「ごめん。誰かに考慮して能力なんて発動した事なかったら、考えが及ばなかった」

 

「核レベルの破壊力持つんだから手加減覚えろよ! ……ったく、制御不能でも地位を与えとけば超能力者(レベル5)として力振るって力の制御覚えられるのに、放置してるからこういう事になるんだよ……!」

 

垣根の愚痴にも似た呟きに反応したのは美琴だった。

 

「え!? 制御できないからって理由で消えた八人目だったの? ……それで力隠して朝槻さんが能力の調整覚えられないなら、二重の意味で制御不能になるじゃない! ちょっと朝槻さん、共闘してるんだから加減早く覚えて!」

 

「……本当にごめん」

 

超能力者(レベル5)二人からブーイングが放たれて申し訳ないと、眉を八の字にする真守。

垣根が真守の事を怒っている隣で、美琴は鉄筋コンクリートの柱で真守の余波から身を守っていた初春に近づく。

 

「初春さん、大丈夫!?」

 

「あ、はい! 大丈夫です。あの、」

 

「ダメじゃない! こんなところに降りてきちゃ!」

 

美琴が食い気味に注意すると初春が身を縮こま瀬ながらも表情を硬くさせた。

 

「……ご、ごめんなさい!! でも!!」

 

初春が未だに美琴に自分の気持ちを吐露しようとするが、美琴はそんな初春へと再び注意を促す。

 

「そこから出ないで! よく分かんないけれど……やるってんなら相手に──「御坂!」え?」

 

真守が美琴の事を鋭く呼んで、美琴が振り返る。

 

「おい、あいつこっち向いてないみたいだぜ」

 

垣根はビッと親指で背後にいる胎児の怪物を指さしながら美琴に状況を説明した。

 

「追ってこない……闇雲に暴れてるだけなの?」

 

「……あれがもし、AIM思念体と同一のモノであるならば、核となるモノが必要だ。もしかしたらその核がきちんとした意志を持っていないのかもしれない」

 

「核? 核って具体的に何なの?」

 

「AIM思念体であるならば、もちろん人間が核となっている。だからこそきちんとした意志があるんだが、アレにはそれが見受けられない。……やっぱり同類でも別種だと思う」

 

「……なら、アレは幻想御手(レベルアッパー)で束ねられた学生たちの意識の集合体が核なんじゃねえの?」

 

「昏睡状態の学生全員分の思念の塊という事か。そう考えればアレが胎児の姿をしているのにも理由がつく。思念の塊として今生まれたばかりだから明確な意志がないんだ。……どちらにせよ、早くアレをなんとかしないと。明確な意志がない状態なら何をするか分かったもんじゃない」

 

真守と垣根が二人で推察を繰り広げていると、初春が手をバタバタと動かす胎児の怪物を見て悲しそうに呟く。

 

「まるで……何かに苦しんでいるみたい」

 

確かにもがき、苦しんでいる様だった。

途方もない絶望に囚われて、途方に暮れて。

どこへと向かえばいいか分からないような、そんな迷子に見えた。

 

胎児の怪物は移動を始めると、それに向けて警備員が発砲する。

胎児の怪物は銃弾によって体が砕けるがすぐに再生し、より凶悪となっていく。

 

「すごいな。まさかあんな化け物が生まれるとは。学会に発表すれば表彰ものだ。……最早ネットワークは私の手を離れ、あの子たちを取り戻す事も回復させる事も叶わなくなったか。おしまいだな」

 

木山が胎児の怪物を見ながらふらふらと立ち上がり、笑うので真守は即座に近づいた。

 

「何勝手に諦めてんの。アレが現れたところで、お前が立ち止まる理由にはならない」

 

真守は、躊躇(ためら)う事なく満身創痍の木山の頬を平手打ちした。

 

強大な能力を使用する真守が、敢えて自身の手を使って木山を打ったのだ。

それが気付けのためだと、木山ははたかれた頬を押さえながら真守を呆然と捉えた。

 

真守は、怒っていた。

あんな怪物を生み出したからではなかった。

木山が簡単に諦めたから、怒っているのだ。

 

「お前は、すごいよ」

 

真守は心の底から思っている事を口にする。

 

「お前は自分の教え子の事を大切に想っている。研究者にありえない形でな。お前の教え子が私は羨ましい。……誰も、私たちを助けてくれる人はいなかった」

 

真守の諦観に満ちた声を聞いて、木山は顔を歪めた。

 

研究者は人体実験をしても後悔なんてしない。

真守のいた研究所では、毎日子供たちが入れ替わっていた。

それは外部からの実験や解析を委託されているからで、他の研究所よりもその入れ替わりは異質だっただろう。

 

悪意なき純粋な好奇心に駆られる研究者。

科学の発展に犠牲は付き物、なんて謳い文句を掲げて自らの正統性を訴える。

その犠牲になって使い潰されていく命。

 

真守が木山をじっと見据えている少し後ろで、垣根は視線を下に落としていた。

学園都市に星の数ほどある悲劇。

その悲劇に襲い掛かられた子供たちは。

そこで生き残ってしまった子供たちは、一生物の傷を背負って、『闇』に囚われたまま、もがき苦しみ生きなければならない。

 

だからこそ、『闇』に真っ向から立ち向かい、光の下で生活する真守の在り方は美しかった。

 

「お前は人に迷惑をかけるやり方をしたからこんな結果になった。だから責任を取れ。そして自分のやった行いを悔いて、迷惑かけた人たち全員に謝れ。それからなら子供たちを救うのを私が手伝ってやる。超能力者の頭脳を舐めるなよ、研究者」

 

それは真守の決意の言葉だった。

使い潰されても、まだこの世に息づいている命。

それを真守が救いたいと思うのは当然だった。

真守の勇気づける言葉に木山は泣きそうになりながらも頷いた。

 

「お前はあれをどう見る?」

 

「そうだな。……仮に、幻想猛獣(AIMバースト)とでも呼んでおこうか」

 

「こっちで勝手に推測したんだが、AIM拡散力場のネットワークによって束ねられた幻想御手(レベルアッパー)使用者の思念の塊だと思う。専門家的にはどうだ?」

 

「……恐らく、抑圧された潜在意識だろう。だからあんなに苦しんでいる」

 

真守と木山の会話を聞いていた垣根、初春と美琴は幻想猛獣(AIMバースト)を見上げた。

 

「なんか……かわいそう」

 

「……おい、木山。お前、学生は最後には解放するって言ってたよな。その解放の仕方は?」

 

「そうだな。あれは幻想御手使用者のAIM拡散力場ネットワーク。ネットワークを崩壊させられればあれも消え失せるはずだ」

 

垣根と真守が畳みかけるように訊ねると、木山は超能力者(レベル5)の思考の速さに自嘲気味に笑った。

 

「やはり超能力者(レベル5)は他の能力者と一線を画すな。そうだ、私が作ったワクチンソフトでネットワークは崩壊するだろう」

 

「あ、私がもらった……!」

 

初春はそこでポケットからメモリを取り出した。

 

「それで本当に幻想猛獣(AIMバースト)を止められるか……試してみる価値はあるさ」

 

木山は初春がポケットから出したワクチンプログラムを横目で見ながら、少し投げやりな言葉で告げる。

 

美琴は方針が決まったところで幻想猛獣(AIMバースト)を睨み上げた。

 

「……朝槻さん、垣根さん。力を貸して。あれをなんとか足止めしなくちゃ」

 

「年下に言われなくてもやる事はやる」

 

「上から物言うなよ、格下。力を貸してください、だろ?」

 

真守と垣根が突然仕切りだした美琴を、心底不愉快だという風に見つめる。

 

「うぐっ……超能力者(レベル5)って我が強すぎんのよ……っ!」

 

「「お前に言われたくない」」

 

人の事が言えない美琴に言われて声をそろえて告げる二人。

 

「う……初春さんは私たちが食い止めている間に警備員(アンチスキル)の所に行って!」

 

「分かりました!」

 

せめて初春に指示を出そうとしている美琴を置いて、真守はエネルギーを放出して、地面をトッと蹴り上げて浮遊する。

真守が動き出したのを確認した垣根は、未元物質(ダークマター)の翼で飛んで真守を追う形で幻想猛獣と戦っている警備員(アンチスキル)の下へと向かう。

 

「あ! あんたたち飛べるのズルくない!?」

 

「地面を這いつくばってる方が悪いだろ」

 

「御坂。お前磁力でそこら辺にくっついて上がってこられるだろ、頑張れ」

 

垣根と真守は宙を飛ぶ事ができる汎用性を当然として、逆にそれを持っていない美琴をけなし始める。

 

「ううううっ~! この事件が終わったら私の実力証明してやるから、待ってなさいよ!」

 

美琴はそんな二人にあからさまに闘志を露わにするが、当然面倒に思えた真守と垣根は美琴の言葉をスルーして、幻想猛獣へと迫る。

 

「無視するなーっ!」

 

後ろから美琴の声が響く中、目の前で展開していた警備員(アンチスキル)の一人に真守は見覚えがあった。

 

自分の高校で別クラスの教師をやっている黄泉川愛穂だ。

真守はその黄泉川が幻想猛獣(AIMバースト)の触手によって弾かれて吹き飛ばされたので、吹き飛ばされる方へと先回りする。

そして警備員(アンチスキル)の装備で重くなっている黄泉川を生成したエネルギーで自分を補助して難なく受け止めた。

 

「──うっ!? お、お前……!? 月詠先生んトコの生徒じゃん!?」

 

「黄泉川先生こんにちは。精が出るな」

 

真守が黄泉川に悠長に語りかけていると、目の前で違う気弱そうな眼鏡をかけた警備員の女性に幻想猛獣(AIMバースト)の触手が伸びた。

 

その警備員(アンチスキル)は銃火器で触手を撃つ。

だが銃弾を撃ち込まれて肉が飛び散る先からその触手は再生していってしまう。

 

再生している途中で、その触手の先から目玉がぎょろっと生まれ、そして小さな二本の手が生えた。

 

「い……いやっ!」

 

目玉と小さな手が生えた触手が目の前に差し迫って警備員(アンチスキル)が硬直するなか、垣根がその警備員の襟を無造作に引っ張った。

 

警備員を高速道路の防音壁まで垣根は乱暴に放り投げる。

そちらに真守と黄泉川がいたので好都合だったのだ。

 

するとその場に残った触手が垣根に向かって念動力(テレキネシス)を発動させた。

 

未元物質(ダークマター)の翼が自動的に広がり、その念動力(テレキネシス)の押しつぶしを跳ね除けた。

バツン、という空間がねじ曲がった音が辺りに響く中、垣根は真守の下まで後退する。

 

触手は垣根を追う事はなかった。その場でゆらゆらと揺れ動いているだけだ。

 

「ほら見ろ。攻撃しなかったら襲ってこないんだ。下手な鉄砲数撃って刺激するんじゃない」

 

真守が注意している隣に、垣根がそっと降り立つ。

真守はふらふらの黄泉川に肩を貸して立ち上がらせた。

 

「なんで一般人がこんなところにいるの!」

 

垣根に助けられた気弱そうな警備員(アンチスキル)は尻餅をついた情けない格好のまま、真守と垣根に向かって突然怒鳴りつけた。

 

「お前無様な自分の状況分かって言ってるか?」

 

「流石警備員(センセイ)サマだな。自分の事(かえり)みずに説教か?」

 

真守と垣根がそれぞれげんなりした顔をしていると、警備員の女性は気圧されながらも声を上げた。

 

「とにかく! すぐにここから離れ──」

 

警備員(アンチスキル)が怒鳴ると、突然幻想猛獣が触手で攻撃を繰り出してきた。

真守は肩に寄り掛かっていた黄泉川をエネルギーを生成してひょいっと抱き上げると、その場から離脱する。

 

垣根は舌打ちをしながらもへたり込む警備員の女性の首根っこを掴んで横に放り投げて、真守を追うようにその場から後退する。

美琴が遅れてその場にやってくると、真守と垣根は幻想猛獣が向かう方向を見ていた。

 

「マズいな」

 

「え、何が?!」

 

いつもと同じダウナー声だが、少し焦った表情をしている真守に、美琴は走り寄りながら訊ねた。

 

「バーカ、あの壁にご丁寧に貼られた標識見れば分かるだろ。あいつ、原子力実験施設に向かってんぞ」

 

垣根に罵倒されながらも美琴が幻想猛獣(AIMバースト)の向かっている建物を見る。

その建物は高い壁で囲まれており、その壁には大きな黄色と黒の放射線記号がイラスト化された鉄板が打ち付けてあった。

 

「嘘でしょ!?」

 

「いや、大マジ」

 

驚愕する美琴に真守が冷静にツッコミを入れていると、垣根が助けた警備員(アンチスキル)の女性が何かに気が付いた。

 

「何やってんの、あの子!」

 

警備員(アンチスキル)の女性の怒声に黄泉川がそちらを見ると、そこには高速道路の非常階段を登ってきている初春の姿があった。

 

「あれは……木山の人質になってた子じゃん!」

 

「違うわ」

 

黄泉川が声を上げると、美琴が即座に否定した。黄泉川が美琴の顔を見ると、美琴は真剣な表情をして初春を見ていた。

心の底から信じている、そういった顔をしていた。

 

「初春さんは人質でも、逃げ遅れているワケでもないの」

 

「黄泉川先生、頼みがある」

 

真守が黄泉川に肩を貸すのをやめながら黄泉川をまっすぐと見据えた。

その真守の真剣な瞳に黄泉川も気づき、気持ちを切り替えて頷いた。

 

「あの子が幻想猛獣を消滅させるワクチンソフトを持ってる。音楽ファイルだから警備員(アンチスキル)の車両を使ってそれを学園都市に流してほしい。どんな手段でも構わないから」

 

黄泉川は真守のお願いに頷くと、真守は一歩下がって姿勢を低くした。

 

そして蒼閃光でできた猫耳と尻尾の輝きを増加させると、足に力を込めてその場から姿を消して幻想猛獣(AIMバースト)へと疾走した。

空間を裂くように幻想猛獣(AIMバースト)へと突き進む真守。

 

AIM拡散力場をおもちゃにして幻想御手(レベルアッパー)を作り出した木山を叩き潰したい一心で、ここまでやってきた。

 

その木山は置き去り(チャイルドエラー)の自分の教え子を救うために、幻想御手を作り上げた。

木山が作り上げた幻想御手(レベルアッパー)の使用者は、恐らくネットワークが暴走して体に多大な負荷がかかっている事だろう。

 

幻想御手(レベルアッパー)使用者は自分の力が欲しかった。

自分の無力さを思い知らされて苦しんでいたから。

劣等感に苛まれていたから。

現状から抜け出したいと思って、結果として甘い誘惑に乗ってしまった。

得体の知れない物に手を出したツケだと考えられるだろう。

 

でもその心が悲鳴を上げていた事には変わりない。

現状を打破したくて、苦しんで苦しんで苦しんだ結果、幻想御手に手を出したのだ。

 

この事件を終わらせて幻想御手(レベルアッパー)使用者を救う。

それから木山が救おうとしていた置き去り(チャイルドエラー)も救う。

 

自分が関わったのだから最後まで責任持って救ってやる。

真守は爆速で幻想猛獣(AIMバースト)へと向かいながらそう決意していた。

 

 




深城の現在の状態はAIM思念体と呼称されていますが、幽体連理の千夜ちゃんのAIM思念体とはちょっと違います。
真守ちゃんにそういう風に見えているだけであって、千夜ちゃんのように水分を媒体として憑依された人に見えるようになるのとは明確に違うからです。
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