とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一七話、投稿します。
次は六月九日木曜日です。


第一七話:〈異常事態〉でも一応の対処を

(一一月一〇日、ハワイ島、国立火山公園、野鳥観察カメラの映像より)

 

浜面仕上、黒夜海鳥、番外個体(ミサカワースト)

 

それと垣根帝督が未元物質(ダークマター)によって造り上げた人造生命体であるカブトムシ。

 

彼らはもし真守たちが失敗して起爆剤の確保ができなかった場合の保険として、キラウェア火山へとやってきていた。

 

浜面仕上がハワイ島への移動用に高級ヨットを盗む時、ハワイに来て散々番外個体(ミサカワースト)にイジめられた黒夜海鳥が号泣するというアクシデントがあったが、彼らは無事にキラウェア火山の直径一〇キロ以上もある巨大なカルデラへとやってきていた。

 

万が一があっても真守や垣根帝督(オリジナル)が失敗するなんて事は思っていないカブトムシだが、予想が大きく裏切られた。

 

キラウェア火山のカルデラに誰かいるのだ。

 

それは複数名の男だった。キラウェア火山はハワイ島最大の観光スポットだが、彼らはどう見たって観光に来ているように見えない。

 

あまりにも火口に近づきすぎているのだ。

 

キラウェア火山のカルデラには、もちろん活火山なので数十メートルのオレンジに光る亀裂がある。

 

複数名の男たちはそこに大きな装置を取り付けていた。

 

四本足のついた巨大なドラム缶のようなもの。

 

それを電気かガスの力で打ち込む特殊な杭で固定していた。

 

『……嫌な感じだな。ロシアの雪原を思い出すぜ』

 

浜面仕上は男たちを見つめながら,

じっとりと冷や汗が出るのを感じて呟く。

四つ足がついたドラム缶は一つではない。数十は配置されている。

 

『……「起爆剤」、なのか……?』

 

浜面が脳裏に浮かんだ言葉を呟くと、番外個体(ミサカワースト)は答えた。

 

『みたいだね』

 

『でも、どうやって? 何で!? まだハワイ島には運び込まれていないんじゃなかったのか!?』

 

垣根帝督(オリジナル)と情報共有をします』

 

カブトムシは焦る浜面仕上の隣で数秒経つと、結論を告げる。

 

『現在垣根帝督(オリジナル)たちはパールハーバー基地内を捜索中であり、現在に至るまで「起爆剤」らしきものを見つけていないそうです。つまり、「起爆剤」は元々別のルートで運び出されていた可能性があります』

 

番外個体(ミサカワースト)はそれを聞いて目を細める。

 

『ふうん。グレムリンの……魔術師? ってヤツは捕まえたのよねぇ?』

 

『真守が現在、記憶を読み取って確認していますが、おそらくサローニャ=A=イリヴィカも「真の計画」を知らなかったと推測できます』

 

『つまり、アレか!? サンドリヨンを切り捨てたサローニャってヤツも、グレムリンに囮にされてたって事か!?』

 

浜面はその事実に驚き、うろたえる。

 

『まずい、まずいぜ。アレが作動すればキラウェアが大噴火しちまう。俺たちだけの問題じゃない。溶岩が流れ込めばそれだけで住民と観光客を合わせて五〇万人の犠牲。さらにこれが引き金でアメリカが多国籍間との関係を急速に悪化させたら……』

 

ただでさえ、世界は第三次世界大戦の直後で情勢が不安定なのだ。

そして学園都市主導の再興活動も、『支援額が少ない』という不満を持っている国が大多数である。

アメリカ本土への宣戦布告がなかったとしても、小競り合いを引き起こして金を儲けようする(やから)が出てくるかもしれない。

浜面はその危険性を考えて、顔を真っ青にする。

 

『……やンのか。やンねェのか。どっちなンだ』

 

番外個体(ミサカワースト)に泣かされて少し気まずい黒夜海鳥が仏頂面で告げると、カブトムシがヘーゼルグリーンの瞳を真っ赤に染め上げた。

 

『あなたたちは唯一無二の命です。ですからここは私に任せてください』

 

カブトムシは浜面の被っている帽子の上から、地面に着地する。

 

その瞬間、カルデラのさらさらとした砂の大地を真っ白な物質が包んでいった。

 

海のように広がる未元物質(ダークマター)の粒子。そこから次々とカブトムシが顔を出し始めた。

 

今カブトムシが作りあげているモノは即席のラジコンのようなもので、人工知能的な感性はない。

だがその方が万が一損傷した時に大切な少女の心が痛まないため、カブトムシはその方が良いと思っていた。

 

突然増殖し始めたカブトムシを見て、浜面仕上たちは驚愕する。

 

『私は垣根帝督が造り上げた人造生命体群の一個体にして、帝兵さんです。垣根帝督(オリジナル)の「更新」がある限り、単体でも未元物質(ダークマター)の生成を可能としています』

 

カブトムシは未元物質(ダークマター)の海から、次々と自分と似た兵器を生み出しながら告げる。

 

『真守が信じてくれた「無限の可能性」を体現する私を、甘く見ないでいただきたい』

 

 

 

(一一月一〇日、ハワイ島、国立火山公園、公園内に設置された防犯カメラの映像より)

 

 

 

『あーあー。どうする? なんか起爆剤殲滅しだした輩がいるけど』

 

銀色の三つ編みに、褐色の肌。

地肌の上に直接オーバーオールを着ている、メガネの少女。

彼女は手元のタブレット端末を見つめながら呟く。

 

『つーか絶対能力者(レベル6)? とかいうのと(つがい)の「無限の創造性」を持つ輩が出てきた時点であぶねーとは思ってたんだよね。だったらしょうがないよね、うん』

 

少女が呟いていると、何か甲高い金属製の音が響いた。

少女がそちらを見ると、そこには黒い石でできたドラム缶のようなものがいた。

 

『おー。甘えん坊もやる気だな? いっちょ投擲の槌(ミョルニル)としての本領発揮。落雷を落としてもらおーかー』

 

少女が告げると、黒い石のドラム缶は嬉しそうにがたがた揺れる。

 

『無限の創造性だろうと、神の怒りには耐えられないっしょ』

 

少女が笑う中、黒い石でできたドラムはその形をぐにゃりと変えた。

 

それは十字架のようにも見える形だった。

 

そんな黒い石の十字架はふわりと浮かび上がる。

 

そしてキラウェア火山を中心として、円を描くように高速で回りだした。

 

その速さは尋常ではない。そのため軌跡(きせき)が、青白く輝く不気味な天使の輪のように見えた。

 

それは、ラジオゾンデ要塞で使われた『雷神の槌(ミョルニル)』という術式。

高速回転した円の中心に青白い閃光と共に雷撃を放つ魔術。

 

雷が、放たれる。

 

鋭い閃光と音と共に、その雷撃は起爆剤を除去していたカブトムシの兵器もろとも穿(うが)った。

 

直後。キラウェア火山が激しい地響きを発生させる。

 

『お仕事完了ー。なあ、オティヌス』

 

少女はくるっとひっくり返って、近くの樹に寄り掛かっていた少女を見た。

 

金髪碧眼。

片方の目には眼帯をしており、露出の多い大事なところしか隠れていない服。

そして魔女っ娘帽子にマントという出で立ち。

 

『敵は排除した。炉の様子を見に行くぞ、黒小人(ドヴェルグ)

 

『おっけー』

 

黒小人(ドヴェルグ)と呼ばれた少女は忠犬のように戻ってきた黒いドラム缶を連れて、金髪碧眼の少女と共にその場を離れる。

 

カメラの圏外に入った彼女たちを追う術はない。

 

そして。そこで記録も途絶えていた。

 

 

 

(一一月一〇日、オアフ島、海兵隊パールハーバー第三基地、管制補助カメラの映像より)

 

 

 

起爆剤撤去をカブトムシが行っている際に突然降り注いだ落雷。

 

それによって起爆剤は爆発。キラウェア火山の大噴火が引き起こされた。

 

だが幸いにしてほとんどの起爆剤をカブトムシが除去していたので、被害は最小限に抑えられた。

 

『帝兵さんたちは本当に無事なんだな? 大丈夫なんだな?』

 

朝槻真守は自分の腕の中にいるカブトムシを見つめて、心配に顔を歪める。

 

『そんなに心配しないでください、真守。私は無事ですし、浜面仕上も番外個体(ミサカワースト)も黒夜海鳥でさえ、私が守ったので問題ありません』

 

真守はほっと安堵して微笑む。

 

真守が安堵の笑みを浮かべる中、垣根は不機嫌に呟く。

 

『しっかし、サローニャほどの魔術師を捨て駒にしたのか。お前が記憶を読んだ限り、本当に知らなかったんだろ?』

 

『うん。それは確かだ。……本当にびっくりだ。魔術の神さまはとんでもないヤツらしい』

 

真守はカブトムシをぎゅっと抱きしめながら告げる。

 

垣根と真守の会話の通り、サローニャ=A=イリヴィカは自分が捨て駒にされた事を知らなかった。

 

彼女も本気で『起爆剤』を確保するために、真守たちと敵対していたのだ。

 

『グレムリン』は魔術の神を(いただき)(かか)げてはいるが、魔術師は全よりも個の意思を尊重する。

 

そのため『グレムリン』は真の意味で一致団結していないとは、真守も分かっていた。

 

だがそれでもまさか辛酸(しんさん)を舐めさせられているロシアを救うために動いていた、サローニャほどの人心掌握に長けた魔術師が捨て駒にされるとは、完璧に予想外だった。

 

というかサローニャの頭を覗いた限り、サローニャと共にアメリカの掌握を狙っていた米国メディア王、オーレイ=ブルーシェイクも人を操る魔術が使えるサローニャの事を信じていなかったらしい。

 

二人は協力していたが、支配したアメリカの主導権を握るためのけん制をいつも行っていたので、確実である。

 

『ヘイ、レディ! レディの読み通り、港に並べられているフリゲート艦やイージス艦は全部トライデントの所有物だ! 型式は分からないが、対艦ミサイルを積んでいる!』

 

どたどたとやってきたのは、バードウェイたちと現状を確認していたロベルト=カッツェだった。

 

『AIM拡散力場が濃かったら、艦隊くらい余裕で吹き飛ばせるんだがな』

 

真守は学園都市内ではないため、手数が限られていることに憤慨する。

 

『別にお前がそこまで責任取る必要はねえよ。ここ、学園都市じゃないし』

 

垣根がけろっと毒を吐くが、ロベルトは大きく頷いた。

 

『ああ、そうだな。ここはレディたちの管轄外だし、そこまで気負う必要はねえよ。世界の警察には世界の警察なりに意地ってモンがある』

 

ロベルトは大統領として、一国の頂としての矜持(きょうじ)を告げる。

 

『パールハーバーの海兵隊には、PMCトライデントの指揮官を探すようにもう指示を出してある。後は米国メディア王、オーレイ=ブルーシェイクを無力化すればいい』

 

『そんな簡単にできるのか?』

 

真守が問いかけると、ロベルトはカメラを見上げた。

 

『策はある、簡単じゃねえけど。ただ俺の頭の中の策を使うためには、作戦に参加してくれる人間全員に、いっぺんに話す必要がある』

 

真守と垣根もカメラを見上げて頷く。

 

『F.C.Eで監視されているものな』

 

F.C.Eとはフリーコンパウンドアイズの略称で、インターネット関連サービスの一つである。

 

警備会社の高額プランを利用しなくてもカメラの設置、インターネットの連結をして防犯カメラ網を構築できるサービスだ。

 

だがホストである検索大手側が米国中のカメラの映像を常時監視できる状態になるため、公正取引委員会から是正勧告を受けてサービスが停止された。

 

……はずだったのだが、現在も稼働状態にあり、ソフトウェアが流用されているだけではなく、権限を強化されているらしいのだ。

 

これでサローニャと協力していた米国メディア王、オーレイ=ブルーシェイクはずっと真守たちを監視しており、今もその動向を探っている事だろう。

 

『分かった。じゃあみんなを集めて監視カメラを壊した上で話をしよう。そうすればオーレイ=ブルーシェイクは後手に回らざるを得ない』

 

真守は垣根と共にロベルト=カッツェの後を追う。

 

だが真守たちが去っていったとしてもカメラが切り替わり、『彼ら』は監視を続けていた。

 

朝槻真守は学園都市の要だ。およそできないことはないからだ。

 

だから真守を脅威と見ている『彼ら』は真守が監視カメラを破壊するまで、その動向をつぶさに観察していた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

真守と垣根はプライベートジェット機の中にいた。

もちろん緋鷹が寄越した学園都市製のプライベートジェット機だ。

中はラグジュアリー感満載であり、座席がソファ形式で七席ほどしかない。

 

真守と垣根は、隣同士でぴったりと座ってプライベートジェット機に乗っていた。

そもそも離れて座る理由なんかないからだ。

 

キラウェア火山が異例の噴火をしたため、ハワイ島は混乱に呑まれた。

その混乱に乗じてPMCトライデントとグレムリンの魔術師の混成部隊が上陸。

ハワイ諸島を制圧しにかかった。

 

だが真守たち学園都市から来た人間がロベルトに協力したため、PMCトライデントの侵攻は抑えられた。

 

そしてPMCトライデントを雇い、『グレムリン』と共謀してアメリカを掌握しようとしていた米国メディア王、オーレイ=ブルーシェイクは娘のリンディ=ブルーシェイクに全権利を生前贈与するという名目で実質力を失った。

 

もちろんオーレイ=ブルーシェイクはそんなの容認していない。だが彼女が姿を現さないのを良い事に、ロベルトが大統領権限でやったことだ。

 

だが一つ問題が起こった。

 

F.C.E経由で状況を見ていた学園都市協力機関二七社が、ハワイの件に学園都市の人間が加担していたとして、学園都市から離反してしまったのだ。

 

「上条はバードウェイに激怒してたが、俺や一方通行(アクセラレータ)からしてみれば妥当な線だと思うがな。学園都市協力機関二七社は、理由をつけて学園都市から離反する機会を伺ってた。いつか絶対に裏切るなら、グレムリンをおびき出すために有効利用する。それが最善だろ」

 

垣根は自分が買ったハワイの土産の写真を、携帯で撮っていた真守を見ながら呟く。

 

バードウェイは学園都市協力関係二七社の事を囮にして、科学技術を欲しがっている『グレムリン』をおびき出そうとしている。

 

そうなれば戦いは激化する。

 

そこで犠牲になるのは罪もない学園都市協力関係二七社の人々だ。

 

誰かを餌にして『グレムリン』をおびき出すのを、上条当麻は容認できるはずがない。

 

いくら学園都市から離反しようと機会を伺っていた人間たちでも、だ。

 

上条当麻と違って、垣根帝督は善人ではない。

 

大切なものを守るためならば非道な行いだって喜んでやる。

 

今の一方通行(アクセラレータ)がどこまで悪を許容できるかは知らない。

だが一方通行はバードウェイのやり方に対して何か言いたいといった様子ではなかった。

 

思考回路が嫌でも似ているため、おそらく一方通行(アクセラレータ)も自分と同じでバードウェイのやり方を許容している事だろう、と垣根は思う。

 

それと学園都市の協力機関はどうしたって外の機関だ。

学園都市の技術の甘い部分を吸っているヤツらを助ける理由は最初からない。

 

真守は買ったお土産のリストを深城に送り終えると、顔を上げた。

 

「まあ私も思う事はあるケド、バードウェイはああいう事をする女の子だってなんとなく分かってたからな」

 

真守は先程から自分が裏切られたと感じ、傷ついていないか気にしている垣根を見上げてにこっと微笑む。

 

「上条は誰であろうと他人が傷つくのが嫌だからな。あれもあれで結構生き辛いと思うぞ。本人はそんなこと全く考えていないだろうけど」

 

「……バードウェイの頭の中は読んでなかったんだな」

 

垣根は真守の言い方でそう理解して、問いかける。

 

「私は別にバードウェイを守りたいわけじゃなかったし。所詮魔術に傾倒(けいとう)している人間だ」

 

真守が随分と辛口なことを言うので、垣根は意外そうな顔をする。

そんな垣根を見て、真守は少し寂しそうに微笑んだ。

 

「垣根。私はやろうと思えばなんでもできる。でも、そのためには自分の幸せを犠牲にする。それは理解できる?」

 

「ああ」

 

朝槻真守は絶対能力者(レベル6)、つまり神と同等の存在だ。

 

真守は神さまとしてやろうと思えばなんでもできる。

それこそ、世界を救済する事だって可能だ。

 

だがその場合、真守は全ての責任を負わなければならなくなる。

 

全ての責任を取って世界を上手く回していくためには、真守の女の子としての幸せが犠牲になるのは目に見えている。

 

神さまとして真守が人間の幸せを犠牲にするのを、垣根帝督は絶対に許せない。

 

だって自分にとって真守は大切な女の子で。

何が何でもそばにいて、一緒に幸せになりたい存在なのだ。

 

「私の人間としての幸せを願ってくれる人たちを悲しませたくない。……だからちょっと心苦しいケド、私は助けるものと助けないものを分けなければならないと思ってる。私を大事にしてくれる垣根たちを、大事にしたいから」

 

垣根は真守の気持ちを聞いて、柔らかく問いかける。

 

「今回で言えば、学園都市内と外って感じか?」

 

「うん。でもまあ伯母さまたちのことがあるから、学園都市外だとしても絶対に助けないってことはないよ」

 

父親に捨てられた自分のことを必死に探してくれたマクレーン家のことは、なるべく大切にしたい。

その想いを知っている垣根はしっかりと頷いた。

 

「臨機応変に対応するのは当然だろ。俺もお前が人間として大事にしたいと思うものは、大事にしたい」

 

垣根は真守の頬を優しく触りながら告げる。

 

「俺はお前が幸せならそれでいい。俺のそばで笑ってくれてたら、それ以外はいらない」

 

垣根は真守の頬に触れるのをやめて、近くに置いてあった袋を手に取る。

 

「これやる」

 

真守は垣根からプレゼントをまた貰うことになって顔をしかめるが、おずおずと受けとる。

 

中に入っていたのはジュエリーケースで、ハワイの有名な宝石店のものだと一目で分かった。

 

真守がジュエリーケースを開けると、綺麗なエメラルドの石が揺れる、一点もののネックレスが入っていた。

 

自分のエメラルドグリーンの瞳と、同じ色の宝石。

 

「あ、ありがとう……垣根」

 

真守はプレゼントされてばっかりで申し訳なくなりながら、垣根を見上げる。

 

「俺がお前にあげたくて買ったんだから。気にするな」

 

垣根は真守の手からジュエリーケースを受けとると、中からネックレスを出して真守に首を出すように指示する。

 

真守が躊躇(ためら)いながらも首を前に出すと、垣根は真守の細い首に手を回し、完全にノールックで真守の首の後ろで金具を留めた。

 

「あ、相変わらず何でもかんでもそつなくこなせるな……」

 

女の子だって首の後ろで金具を留めることなんて早々できないのに、さらっとこなせる辺りが何とも言えない。

 

真守が自分の胸元できらきらと輝くエメラルドに触れていると、垣根はくいっと真守の顎を上げてキスをした。

 

「ん」

 

真守は恥ずかしそうに(うな)って、自分をまっすぐと見つめてくる垣根を見上げる。

 

「……そんなに見ないで」

 

「なんで。かわいいから別に良いだろ」

 

垣根は笑いながら妖艶(ようえん)に唇をペロッと舐める。

 

垣根の様子を見て真守がウッと(うめ)く中、垣根は楽しそうに目を細めた。

 

「……垣根、何か欲しいものある?」

 

「なんで? ……ああ、俺ばっかりお前にプレゼントしてるから何かお返ししたいのか?」

 

「うん」

 

真守が頷くと、垣根は真守のことを抱き寄せて微笑む。

 

「別にいらねえ。金に不自由してないし。お前が一緒にいてくれるだけでいい」

 

「相変わらず欲深いのか、欲がないのか分からない男だな……」

 

真守は垣根の腰にそっと手を回しながら、不満を漏らす。

 

「上条は学園都市から離反した協力機関のところへ無謀に向かったみたいだが、お前はどうする?」

 

垣根がこれからの方針を訊ねると、真守は垣根の胸板にすり寄りながら告げる。

 

「……とりあえず学園都市に一回帰る。学園都市上層部の動きは緋鷹たちに聞くのが一番だし。……それに、緋鷹とちょっと話すことがあるから」

 

「分かった。お前がやりたいようにやりゃあいい」

 

垣根は笑って、真守の小さい頭にキスを落とす。

 

「むぅ。キス魔」

 

何度もキスをしてくる垣根を見上げると、垣根は真守の額にキスをする。

 

「別にいいだろ。したいんだから」

 

真守は若干不満そうにしながらも、垣根がご機嫌な様子なので好きなようにさせる。

 

人間の枠に入っていると言っても、神さまとしての力を持っている自分のことを大事にしてくれる人間は早々いない。

 

だから真守は垣根が満足するまでやりたいようにさせようと思い、恥ずかしくて(うな)りながらも垣根の好きにさせていた。

 

だが調子に乗り、おっぱじめようとしたのでお(あず)け食らわせた。当たり前である。

 

そして。さまざまな遺恨を残しながらも、朝槻真守と垣根帝督は学園都市に帰還した。

 




ハワイ篇終了です。
けっこうさっくり終わりました。
次はオリジナル回を挟むつもりですので、お楽しみいただけたら幸いです。

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