とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第二〇話、投稿します。
次は六月一八日土曜日です。


第二〇話:〈強固信頼〉以前の話を

真守はなんとか垣根に離れてもらった。

それでもまだちょっと納得していない垣根の気を()らすために、真守は緋鷹からもらった資料を手渡す。

 

「あ? 離反した学園都市協力機関二七社に対する学園都市による制裁の計画書?」

 

垣根は真守から引き離されて機嫌が悪かったが、真守から手渡された資料に怪訝な顔をする。

 

「決定版じゃなくて、これで行こうかっていう立案書だけどな」

 

流石に学園都市がこれから秘密裏に行う作戦の内容を、一学生に渡すことはできない。

そのため立案書になっているが、少しの訂正箇所以外はこの作戦の立案書通りに行われるはずだ。

真守がそう説明すると、垣根は興味深そうに資料をぺらっとめくる。

 

「一三日からバゲージシティで行われる異能格闘大会を襲撃……。バゲージシティの要である暖房設備を攻撃、それと同時に航空路を潰す。……か、真っ当な計画書だな」

 

垣根がすらすらと計画立案書を読んで呟くと、さっきからずっと食事をしている真守は押し寿司弁当のおかずのからあげに手を伸ばす。

 

「元々バゲージシティに肩入れする理由がないから行く気がなかったけど、『(しるべ)』経由で私のことは学園都市から出すな、って上層部から直々にお達しがあったんだ」

 

真守がちまちまと唐揚げを食べて呑み込んで告げると、垣根は目を細めた。

 

「なるほどな。暖房設備攻撃するのに、エネルギーをまかなえるお前に行かれたら本末転倒って事か。……お前は上層部の制止を振り切っても、本当に行く気はねえんだな?」

 

垣根の一応の確認に、真守は頷く。

 

「うん。犠牲の上で成り立っている学園都市の技術を奪うだけ奪って離反した人間は、あんまり好ましくないし。……そもそも私は力を持っているんだ。垣根には言ったけど、その力のままに何でも救ってしまったら、全てに責任を取らなくちゃならない」

 

「……そうだな。俺もお前に自分の幸せを潰してほしくない」

 

垣根は真守の気持ちを聞きながら、ぺらっと紙をめくる。

 

「あ? 木原を投入するだと?」

 

垣根は紙に書かれている『木原を三人投入して事態収拾をする』と書かれている一文を見て顔をしかめる。

 

「木原円周、木原乱数。……木原病理?」

 

垣根は最後に目に止めた人間の研究理念が気になって声を上げる。

 

かつて真守を襲った木原相似は、サイボーグと代替技術にご執心だったりと、木原にはそれぞれ自分の研究分野がある。

 

木原病理という女は、『人造細胞』の第一人者なのだ。

 

「その女、能力を宿せる可能性のある人造細胞について研究していたようだ」

 

真守は指先に小さな脳を生み出して複数の能力を行使するという、『(しるべ)』が独自に調査した木原病理の研究結果をちらっと見ながら告げる。

 

「ちなみに垣根の『無限の創造性』がある未元物質(ダークマター)にも着目してたようだぞ。隙を見せたら利用されてたな」

 

真守がお茶に手を伸ばしていると、その前で垣根は不愉快そうに顔をしかめる。

 

「……こいつが学園都市を離れてる間に研究所を襲撃してやる」

 

自分の能力を利用されたくない垣根が怒りを込めて呟く中、真守は緋鷹が集めてきた資料を手繰(たぐ)り寄せる。

 

「その女の人造細胞技術研究は、巡り巡って私のことを神さまとして必要としている『あの子たち』の体を作る技術に使われるかもしれなかったんだ」

 

「なんだと?」

 

朝槻真守はここではないどこかの世界に息づく、未だきちんとした魂──生命エネルギーも体もない状態の『彼ら』に神として必要とされている。

 

真守は元々エネルギーを操る事ができる能力者だった。

 

そこから絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)したため、真守は純粋なエネルギーの塊である『彼ら』に手を加え、魂へと加工する事ができるのだ。

 

そうなると必然的に体が必要となるのだが、その体を造り上げる役割を担うのが垣根帝督であり、垣根帝督がダメだった場合のために、アレイスターは人造細胞技術を密かに用意していた。

 

もしかしたら、アレイスターは木原病理の事を上手く誘導して、真守をコントロールするために必要な人造細胞技術を研究させていたかもしれない。

 

(妙なとこで(えん)がありやがるな。……つっても、木原なんて超能力者(レベル5)にとっちゃ天敵みたいなモンだからな、縁があってもおかしくねえか)

 

垣根がそう思っていると、真守は(かたわ)らに置いてあった資料を手に取った。

 

「それと芋づる式で、興味深い事を研究していた男が見つかった」

 

真守はそう告げて、垣根に資料を渡す。

 

「木原加群。どうやらこいつは命の価値を求めていたらしい」

 

「……命の価値?」

 

垣根は追加で渡された木原加群についての書類を見せられて、それを読み始める。

 

「生命や魂というオカルトを一切排除したことで生まれる、命の価値についてだ」

 

真守は木原加群の求めていたモノを口にして、そして顔をしかめる。

 

「……これは逆説的に考えれば、()()()()()()()()()()()()()()()という証明にもなるんだ。生命や魂が証明されてしまえば、人の命は簡単に作り上げられるようになる。つまり命を育むという行為の価値が限りなく低くなる。それが嫌で、木原加群は研究を止めたそうだ」

 

真守は木原加群が大事にした命の価値について考える。

 

「木原加群の手によって命の証明がされたら、私を神さまとして必要としている『彼ら』が科学的に解明されるコトになっただろう。それでもこの世界へと降ろすのはエネルギーを操る私にしかできないから、どうせ学園都市が『彼ら』のことを手中に収めることはできなかったけれどな」

 

木原加群は真守の事を必要としている『彼ら』の魂を操作できる技術を確立しようとしていた。

 

木原病理は研究をこのまま進めれば、真守の事を必要としている『彼ら』の体を操作できる技術を確立できる。

 

つまりどちらの『木原』も朝槻真守を神として必要とする存在を、違うプロセスからコントロールする技術を人知れず研究していたのだ。

 

全く別の研究理念から始まったのに、行き着く先は限りなく似通った場所。

 

ということは類は友を呼ぶという意味であり、そして同族嫌悪を誘発させるものだっただろう。

 

だから木原病理と木原加群は敵対している。だからこそ木原病理は木原加群にちょっかいをかけていた。

 

垣根は八乙女緋鷹が独自に調べた非常に重要な情報を前に、緋鷹の手腕に感心しながら呟く。

 

「木原病理と木原加群はいざこざがあって、木原加群は学園都市を去った。……こりゃ俺の私怨だけじゃなくて、真っ当な警戒心を持って木原病理の研究結果を調べなくちゃならねえみたいだな」

 

木原病理の研究は危険なものだ。

 

少なくとも垣根帝督がいま朝槻真守のそばにいるから、真守を神として必要とする『彼ら』のために、木原病理の研究結果を使う必要はない。

 

だがその技術を使って横やりを入れられる可能性があるのだ。

 

垣根が警戒していると、真守は頷いた。

 

「緋鷹経由で動くのはマズいから……垣根お願い。『スクール』に任せても良い?」

 

「分かった。すぐに手配する」

 

八乙女緋鷹率いる『(しるべ)』はある意味上層部と繋がっている。

 

そのため表立って動く事は出来ないが、絶対能力者(レベル6)である朝槻真守を守る事を信念としている『スクール』ならば動いても問題ない。

 

「ありがとう、垣根」

 

真守がふにゃっと笑ってお礼を言うと、垣根は柔らかく目を細める。

 

「当たり前だろ。お前のためなら何だってしてやる」

 

垣根が笑って頬にキスをしてくるので、真守はムッと口を尖らせた。

 

「だから恋人のために何でもやってあげるって軽率に言うのは良くない。私が何もできない人間になっちゃうだろ」

 

真守が抗議すると、垣根はじろっと真守を睨んだ。

 

「お前は勝手にどっか行くだろ。だったら誰かに依存してしか生きられねえようになった方が、ちっとは腰が落ち着くだろ」

 

「……垣根は私のコトをそんなに骨抜きにしたいの?」

 

真守が問いかけると、垣根は即座に返事した。

 

「当たり前だろ、舐めてんのか」

 

好きな女が自分抜きで生きる事ができなくなるなんて最高だ。

垣根が真顔でそう告げると、真守は顔をしかめた。

真守は若干戸惑いながらも食事を再開し、ちらっとバゲージシティの資料を見る。

 

「上条は怪我しないかな……」

 

真守がぼそっと呟くと、垣根は途中の道で買ってきた有名ドリンクチェーン店のキャラメルラテを一口飲む。

 

バードウェイに怒りをぶつけた上条当麻はそのまま学園都市協力機関二七社を救うために旅に出た。

 

美琴が置いて行かれたと怒っていたが、上条当麻はみんなが利用されたのは自分のせいだと思って一人で戦いに出たのだろう。

 

「あいつは頑丈だから大丈夫だろ。北極海に落ちても五体満足だったし。普通なら足の一つや二つがなくなってたとしてもおかしくねえのに。……不幸だなんだの言ってるのに、よく分からねえヤツ」

 

垣根は上条当麻の謎の生態について考えていたが、そこでふと思い出すことがあって真守を睨んだ。

 

「オイ真守。お前、俺にアイツの記憶喪失隠してたよな」

 

「え。垣根、上条が記憶喪失だって知ってるのか?」

 

真守がきょとっと目を見開いて訊ねると、垣根はチッと舌打ちをした。

 

「ロシアの時に聞いたんだよ。……お前が右方のフィアンマに連れ去られた後だ」

 

垣根が忌々しい記憶を思い出していると、真守は緋鷹が一緒にデリバリーで頼んでくれたカップに入った味噌汁へと手を伸ばしながら頷く。

 

「上条がインデックスに全てを打ち明けたのは聞いてたけど、垣根にもバレてたんだな」

 

真守が味噌汁を飲んでいると、垣根は苛立ちを込めて真守を見た。

 

「アイツの記憶が無くなったのはいつだ」

 

「もう今更隠してもしょうがないし。『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』が破壊されてしまった時だ」

 

「あ。だからお前、レストランであのスパコンが壊れたらしいって話を振った時に、あんなに動揺してたのか。やっぱ関係あったのかよ」

 

垣根は真守とデートに行った時のレストランで『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』が何者かに破壊されたらしい、と話題を振った。すると真守は大袈裟に反応して、その後なんとかしてごまかしたのだ。

 

「つーかお前、全貌が把握できたら俺にも説明するって言ったよな。今の今まで聞いてねえんだけど?」

 

真守は随分と前の事なのに、超能力者(レベル5)らしく記憶力がいい垣根の前でウッと(うめ)く。

 

真守も超能力者(レベル5)らしい頭脳を持っている。

 

だから『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』が壊れたあの日。上条当麻が記憶を失った日のことは、よく覚えている。

 

「……お前、本当はあの時、何があったか理解してたな?」

 

真守は垣根の顔を見る事ができない。そんな真守を見て、垣根は追及を続ける。

 

「とある機関で秘密裏に作り上げられたモノが暴走した。それが『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』を破壊した」

 

垣根はあの時、真守から聞かされた説明の言葉を一言一句間違わずに告げる。

 

「……魔術に関する事だったからはぐらかしたんだな?」

 

真守はむむーっと顔をしかめる。

 

「そうなんだな?」

 

垣根が圧を掛けてくるので、真守は気まずくなってぽそっと呟く。

 

「……だって、あの時。垣根に色々全部言ったら、面倒なコトになると思ったんだもん」

 

「…………俺とお前の信頼関係が、まだそこまでじゃなかったからか?」

 

真守は躊躇(ためら)いながらもこくんっと頷く。

 

あの廃ビルで。垣根帝督は朝槻真守のことを助けると言った。

 

だが垣根と真守が『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』に関して話をした時、真守は垣根にいずれ自分が絶対能力者(レベル6)進化(シフト)するという事を話していなかったのだ。

 

まだ垣根帝督も自分の過去について話していなかったし、あの時の真守と垣根の信頼関係は今のように何もかもを共有できるような状態ではなかった。

 

それに真守は垣根に余計な迷惑を掛けたくなかったのだ。

 

真守は数か月前の事なのに、随分と遠い昔の事のように思い出す。

 

「……あの時の垣根は、すごくブレてたから。私だってよく分かっていない魔術について、垣根が知ったら……絶対に大変になったと思うから……」

 

真守の言う通り、垣根帝督はあの時、朝槻真守の()り方に『学園都市を利用できる立場を確立する』という自分の野望を打ちのめされたばかりだったのだ。

 

実際には幻想御手(レベルアッパー)事件が収束した際に、垣根は真守のために『無限の創造性』を使いたいと思ったのだが、真守はそれを察する事ができるほど、垣根帝督と深い仲ではなかった。

 

その事に真守が気まずさを覚えていると垣根はため息をついて、箸を持っている真守のことを抱き寄せた。

 

「苛立って悪かった。根っこまで優しいお前なら、魔術なんて面倒で複雑な話に俺を巻き込まないようにするだろう」

 

垣根が抱き寄せてくれたので、真守は垣根の胸板に頭をすり寄せる。

垣根は真守の頭を優しく撫でながら告げる。

 

「上条当麻が記憶を失くした件だったから話し辛かったんだろ。……けど、今なら話してくれるか?」

 

「…………うん」

 

真守は垣根に寄り添いながら、ぽつぽつと話し始める。

 

上条当麻がインデックスと出会った時のことを。

 

そして真守が上条の家へと宿題を教えに行ったら血まみれのインデックスがいて、ステイル=マグヌスと交戦になって、小萌先生のアパートでインデックスを夜通し能力を使って治療したこと。

 

「成程な。だからお前、幻想御手(レベルアッパー)使った連中に『ゲーム』として襲われてた時、あんなに消耗してたんだな?」

 

電子顕微鏡レベルの演算を不眠不休で夜通し行っていたら、超能力者(レベル5)だって疲弊する。

 

垣根が納得いったと頷くと、真守はその続きを話した。

 

幻想御手(レベルアッパー)事件が収束した後、インデックスをイギリス清教の『首輪』から解き放つために戦闘を行ったと。

 

「イギリス清教で秘密裏に作り上げられた魔導書図書館の防衛機構が暴走して『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』を破壊した。……お前の言っていた事に間違いはねえな」

 

垣根は真守が『とある機関で秘密裏に作り上げられたモノが暴走して「樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)」を破壊した』と言った言葉に間違いがなかったのを知ってため息を吐く。

 

この少女は当時承認されていなかったとしても、既に立派な超能力者(レベル5)だった。

 

自分はまんまと嘘を()かれることなく騙されたらしい。

 

抜け目ねえヤツ、と垣根が呆れていると、真守はぽそぽそと呟く。

 

「そこで上条の記憶は失われてしまったんだ。……上条はインデックスのせいで記憶を失くした事実にインデックスが傷つかないように、、インデックスに嘘を吐くことにした。自分は記憶を失っていないって。私も上条の思いを尊重して、上条の記憶喪失を隠す手伝いをしたんだ」

 

「そうか。だから俺にも隠してたんだな」

 

「べ、別に垣根を信用していないわけじゃないぞっ! ただ、タイミングが無くて……それに人が必死に隠してる秘密を自分から言うのは、あんまり……」

 

「責めてねえよ。安心しろ」

 

垣根はポンッと真守の頭に手を置くと、猫耳ヘアを崩さないように優しく撫でる。

 

「…………ふふっ」

 

「どうした?」

 

垣根がご機嫌に笑った真守を見て首を傾げると、真守は垣根に頭を撫でられながらとろけた表情を浮かべる。

 

「垣根。私の髪の毛崩さずに頭撫でるの上手くなったなあって」

 

「そういやお前にヤメテって怒られたのもあの時だったな」

 

垣根は自分へのお礼に真守が(いかり)のタイニーピンを選んでくれていた時のことを思い出す。

 

あの時真守からもらったプレゼントは、今も大事に制服の襟元に付けている。

 

「俺だってバカじゃねえ。女の扱いくらいすぐに上手くなる」

 

「むぅ。ぷれいぼーいみたいでむかつく……」

 

真守は垣根に頭を優しく撫でられながら、箸をおいて垣根の腰にぎゅっと手を回す。

 

「いまは垣根のこと、もちろん大切に想ってるから。……だいすきだぞ?」

 

真守がきゅうっと垣根に抱き着きながら告げると、垣根は真守の柔らかくて甘い匂いのする猫っ毛に(おお)われた頭に頬を寄せた。

 

「分かってる。俺も他の女の扱いは上手くならねえ」

 

「えへへっ」

 

真守はにまにまと笑って、垣根により一層抱き着く。

 

途端に仔猫のように甘えだした真守が愛おしいが、垣根は流される事なく真守の黒髪を撫でながら真剣な表情をする。

 

「当面の問題は木原病理だな。早く何とかしねえと」

 

「む。そうだ、甘えている場合じゃないな」

 

真守は垣根の胸の中からいそいそと出ると、昼食を再び()り始める。

 

真守は胃腸の調子が良くなっても食事をゆっくりする癖は変わらない。

 

元々食事をするのに慣れていないのだ。それに真守がゆっくりご飯を食べている様子を、一足先に食事を終えた垣根は見るのが好きだった。

 

だから()かすことなく真守が食事をしている姿を視界に入れつつ、垣根は手元の資料に目を落とす。

 

木原病理。それと因縁のある木原加群。それと木原円周と木原乱数。

 

学園都市の癌である木原。大なり小なりあれど超能力者(レベル5)にとって最悪に迷惑な部類の人間。

 

そんな人間に色々ありながらも平穏な生活を崩されるわけにはいかない。

 

垣根はそう決意して、すぐに誉望に連絡をして情報集めた。

 

そして木原病理が学園都市から離れたところを見計らって襲撃。

 

無事に機密情報を回収し、学園都市が真守の事をコントロールしようとしていた方法を一つ潰す事ができた。

 

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