とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第二三話、投稿します。
次は六月二七日月曜日です。


第二三話:〈不全存在〉と話を

真守と垣根はオッレルスを連れて、持ち込み可能のカフェを選んで入店した。

何故持ち込み可能かというと、深城に作ってもらった弁当を食べるためである。

オッレルスはコーヒーを頼み、そして真守と垣根を──詳しく言えば真守が弁当をちまちま食べる様子を、興味深そうに見ていた。

 

「ふーん。本当に普通の女の子なんだね。そうかそうか、人間が真っ当な進化をしたらこういう風になるのか」

 

本当はぷにぷにと真守の頬でもつついて、普通の人間と完璧な人間がどう違うのかを直に確認したい。

 

だが真守の隣には独占欲満タンであり、絶えず嫉妬を精製し続ける究極マシーンがいるので、オッレルスは手を出す事ができなかった。

 

「あんまりじろじろ見るんじゃねえ。見せモンじゃねえんだぞ」

 

垣根が最大限の警戒心を見せていると、深城特製のサンドイッチを食べていた真守はため息を吐く。

 

「垣根、あんまり威嚇しないの。器が小さいのが知られ尽くしてしまうぞ」

 

「俺の器は小さくねえ。おい、魔神のなりそこない。右方のフィアンマとはどこで会ったんだ」

 

垣根はじろっとオッレルスを睨む。

 

右方のフィアンマ。第三次世界大戦を起こした男。そして垣根にとって一〇〇万回殺しても足りない男。

そんな男が、目の前の魔神のなりそこないと一緒に学園都市に潜入している。

カブトムシで学園都市中を監視しているため、垣根はもちろんその事に気が付いていた。

 

「もちろんロシアでだよ。アレイスター=クロウリーにやられて『世界を救う力』を出力する右手は無くなったけど、それでもなんだかんだ言って『世界を救う力』は残っている。即戦力としてはばっちりだ」

 

「アレイスターだと?」

 

垣根はオッレルスの言葉に即座に反応する。

 

アレイスター=クロウリーは今も、『窓のないビル』の中に(こも)っているはずだ。

 

確かに彼は現在の近代西洋魔術世界を構築した、稀代の(変態)魔術師だ。

 

だから何ができてもおかしくはない。それでもあのアレイスターが本当に『窓のないビル』から出たと考えることはできない。

 

分身か何かを送ったのだろうか、と垣根は考える。

 

そんな垣根の横で、もぐもぐとサンドイッチを食べていた真守がぽそっと呟いた。

 

「果たして右方のフィアンマは魔神にどこまで通用するだろうな?」

 

「……どういうことだ、真守?」

 

垣根が真守の疑問に質問で返すと、真守は店で頼んだミックスジュースに手を伸ばしながら告げる。

 

「垣根。私は右方のフィアンマに弱点を突かれて行動不能にされた。でもな、私の弱点は意図的に作られたものだ。何かあった時に私を踏みとどまらせるための保険みたいなものだ。──でも、魔神にはそれがない」

 

真守の言う弱点とは、真守の在り方に差し込まれた『光を掲げる者(ルシフェル)』という役割だ。

 

光を掲げる者(ルシフェル)』は『神の如き者(ミカエル)』に勝てない。

 

だがそれでも真守が死ぬ事はなかった。せいぜい行動不能に(おちい)るくらいにしかならなかった。

 

それほど、神さまというのは完璧な存在で、そう簡単に犯せるものではない。

 

「私は人の命がとても大切だと思ってる。だから決して壊しちゃいけないって思ってる。……でも、普通の神さまはそうじゃない」

 

真守はエメラルドグリーンの瞳を無機質に光らせて、オッレルスを見た。

 

「だってオティヌスは何の感情もなく上条の手を握りつぶした。その先にある力も、知ろうともしないで押しつぶした。神さまにとって人間の価値なんてないに等しいんだ。だから右方のフィアンマだって一撃必殺で殺されてしまえば、世界を救う力を発揮することなく終わりだ」

 

真守は神さまとして明確な力を持っていない存在へと目を向ける。

魔神の成りそこない、オッレルスへと。

 

「お前も分かってるんだろう? そんな簡単に魔神オティヌスを倒すことができないって」

 

オッレルスは真守の問いかけに、ゆっくりと目を伏せる。

 

「そう。だから話をしなくちゃいけないんだよ。そしてオティヌスを止められる内に止めなければならない」

 

「ふむ。というわけで上条、とても嫌な顔をしていないで、早く店に入って来い」

 

真守は目を窓の外へと向ける。

 

そこには大変嫌そうな顔でオッレルスを見ていた上条がいた。

 

上条は真守に目を向けられて、嫌々で渋々ながらも入店した。

 

「お前たち専門家の話ってどうも長いんだよなあ」

 

上条は入店してオッレルスの隣に座りながら、ため息を吐いてメニュー表を見る。

 

真守が奢ってくれると言ったからだ。そうでなければ貧乏学生はそれなりのお値段がするカフェで、何かを頼むのなんて金銭的に無理である。

 

「どこから聞きたい?」

 

オッレルスがニコニコと笑いかけると、上条は心底嫌そうな顔をした。

真守は上条を置いといて、基本の質問をする。

 

「魔神オティヌスから話をしてくれ。あの子は北欧系の神さまなのか?」

 

真守が問いかけると、オッレルスは頷いた。

 

『魔神』とは魔術を極めて神の領域にまで到達した人間という意味で、順当で純粋な進化をした真守とはあまりにも毛色が違う。

 

そして『魔神』とは、インデックスの頭の中にある一〇万三〇〇〇冊と同様の知識を手に入れて駆使することで、ようやくたどり着ける存在なのだ。

 

「神人の言う通りオティヌスは北欧の神だ。主神オーディンの別の読み方がオティヌスなのさ。そして『グレムリン』という組織は彼女の思惑のために動いている。だから魔神オティヌスの思惑さえ分かっていれば、おのずと『グレムリン』全体の大まかな動きも分かるんだよ」

 

「その思惑とは?」

 

真守が問いかけると、オッレルスは人差し指を立てる。

 

「まず『グレムリン』や魔神オティヌスの狙いは幻想殺し(イマジンブレイカー)ではない。……計画に必要がないという事は、気を配る必要もないという事だ。遠慮も容赦もなく、邪魔をすれば殺しに来る」

 

上条当麻は無言になる。

 

真守は科学の神さまであり、人の命を何よりも大事にしている。

 

だがオティヌスはそもそも違うのだ。だから彼女は本当に邪魔なら何の感慨も持たずに腕の一本や二本、無表情で握り潰す。

 

身をもって知っている上条を視界に入れつつ、オッレルスはオティヌスの目的を口にした。

 

「魔神オティヌスの狙いは、北欧神話の神の性質を象徴する霊装を用意する事だ。オティヌスはその霊装を使って、神の性質自体を調整しようとしているんだ」

 

「霊装とは、グングニルのことか?」

 

真守が垣根に頼んでもらった食後のチーズタルトへと手を伸ばしていると、オッレルスは頷く。

 

「主神オーディンの武力を象徴する霊装。こいつを完全な形で組み上げるために、世界中にちょっかいを出しているんだ」

 

オティヌスのこれまでの行動は、全て槍のためだった。

 

ハワイ諸島での事件は、ハワイ諸島の活火山のエネルギーを利用した、槍の製造に必要な『炉』を作るため。

 

そしてオティヌスは神槍グングニルを部分的にでも鍛造することに成功したワルキューレのブリュンヒルドの=エイクトベルの頭の中から図面を盗んだ。

 

バゲージシティでは、全体論の超能力者の開発の実験をしていた。それが槍の製造に一番必要だからだ。

 

全体論の超能力者とは、言わば手から炎を生み出すためだけに世界の方を歪めてしまう能力者のことで、その開発については偶発的においてさほど難しい事ではない。

 

ただその証明が難しいのだ。何故なら全体論の超能力者にとっては、手から炎を生み出しているだけであり、世界を歪めている自覚はない。

 

それでも魔神オティヌスは全体論の超能力者の証明をバゲージシティで行う事ができた。

 

幻想殺し(イマジンブレイカー)によって、その証明ができてしまったのだ。

 

何故ならバゲージシティは何故か異常に悲劇が発生しやすい法則によって満たされていた。

観測ができないものだったが、上条当麻がそれを幻想殺し(イマジンブレイカー)で打ち消したことにより、打ち消されるべき何かがあったのだと証明されたのだ。

 

(わざわざ証明しなくても、学園都市の資料をちょろっと調べれば出てくるようなものだけどな)

 

真守がチーズケーキを呑み込みながら心の中で思っていると、隣でザッハトルテを食べていた垣根はフォークに差した一かけらを真守に差し出しながら、オッレルスを見た。

 

「神の性質を調整するって事は、その魔神はいま何かしらの欠点を抱えてて、その欠点を失くされる前にテメエは魔神を倒そうって魂胆なのかよ?」

 

オッレルスは垣根にケーキを食べさせてもらって、幸せそうに目を細めている神人を見ながら応える。

 

「そうだよ。一つ聞きたいんだけど、無限の可能性ってどんなものだと思う?」

 

「……あ?」

 

垣根はオッレルスの問いかけに怪訝な表情をする。

 

無限の可能性。

 

それは無限の創造性と似て非なるものだが、無限の創造性は無から有を生み出す、言ってしまえば奇蹟に近い。

 

そんな無限の創造性とは違い、無限の可能性というのはあまり想像がしやすいものではない。

 

垣根がふわっとした質問に首を傾げていると、真守は垣根からもらったケーキがおいしくてふにゃふにゃと幸せな笑みを浮かべていたが、きちんと呑み込んでからオッレルスを見た。

 

勝敗半々(フィフティフィフティ)ってことか?」

 

「勝敗半々?」

 

垣根が真守の言葉を復唱すると、オッレルスは『素晴らしい』と告げた。

 

「青少年らしく無限の可能性に限りない果てがあると考えている年頃には難しいかな。──無限の可能性にはね、プラスに広がる可能性の他にも、マイナスに広がる可能性も孕んでしまう可能性があるんだ」

 

垣根はオッレルスの説明を理解できて目を見開くが、上条はよく分かっていない。

 

そのため真守は上条を見つめながら説明する。

 

「例えば好きな女の子に告白するとしたら、告白が成功して付き合えるか、告白が失敗して振られるかの二つに一つだ。成功か失敗。それは行動を起こすと必ず生まれる。無限の可能性とは、成功と失敗どちらにも辿り着く可能性があるんだ」

 

つまり、誰に対しても五○%の確率であらゆる物事が失敗する。

 

それをオティヌスは選べない状態にある。だから選べるようにしたいのだ。

 

上条は真守の説明を聞いて、目を見開く。

 

「それって……じゃあつまり、自分よりも弱い存在に対してもてことか? 例えば、何の力もない子供に対しても……」

 

上条が理解をして生み出した懸念にオッレルスは頷く。

 

「じゃんけんでも負ける可能性があるって事だよ。だから『グレムリン』やオティヌスはこの滅茶苦茶な確率を修正したいと思っている。オティヌスはその目的のために方々から人を集めてる」

 

オッレルスの説明に真守は頷き、その先を告げる。

 

「第三次世界大戦で不満を持った魔術師たちが主だな。となると、『グレムリン』はある意味第三次世界大戦が原因で生まれた魔術結社だけど、全員が全員オティヌスの考えに賛同しているわけじゃない。むしろ反発する人間もいるだろ」

 

真守の推測を聞いて、垣根は面倒そうに顔をしかめる。

 

「近代的な魔術師ってのは個人の感情で動くからな。学園都市みてえに魔術師は一枚岩じゃないから、そりゃ好き勝手に動くだろ」

 

オッレルスは真守と垣根の意見を聞いて、何度も頷く。

 

「うんうん。『戦争の勝者は科学サイドの学園都市ってことになっちゃったけど、勝手に決めてんじゃねーよ』って感じかな。だからオティヌスの目的を知らない魔術師もいるだろうね」

 

一番目立っていた魔術師は右方のフィアンマだけど、それだけが魔術師じゃない。

 

まだまだ私たちは顔を出してもないのに、勝手に魔術サイドが負けたって決めつけるな。

 

そういう主張をしている魔術師の集まりが、『グレムリン』なのだ。

 

「……だとすりゃ、随分と勝手な連中だな。第三次世界大戦をやっていた時は関わりたくないって言って協力しなかったくせに、負けたら負けたで文句言っているのか?」

 

上条の憤慨を聞いて、オッレルスは肩をすくめた。

 

「ま、利害の上ではフィアンマに協力しても何も得られないわけだしな。それにフィアンマよりも上にいる連中は気づいていたのさ。彼の方式を突き詰めて全部が成功したとしても、おそらく思い通りに世界が救われることはないって。そこらへんはなんとなく、神人も分かってたんだろう?」

 

オッレルスの問いかけに、真守はつまらなそうに顔をしかめた。

 

「そもそも私とアイツは元から違う場所に立っている。アイツは変化を拒絶し、私は変化を許容し促す存在だ。まあでも、今のアイツは私が伝えたことをきちんと分かってるだろ」

 

「……真守。そんな話は初めて聞いたんだが?」

 

垣根がじろっと真守を睨むと、真守は気まずそうに目を()らす。

 

「そ、そういえば言ってなかった気がする……怒った?」

 

「ああ、心底ムカつく。後で根掘り葉掘りカラダに聞いてやるから覚悟しとけ」

 

「ヘ、ヘンタイ!! カラダっていう一言が余計! 余計だぞっ!!」

 

真守はバッと自分の体を守るように、自分で抱きしめながら声を上げる。

そんな真守と垣根の関係性に既視感を覚えたオッレルスは、人知れず苦笑する。

 

「魔術サイドの新たなトップ、魔神オティヌス。対して科学サイドの作り上げた本物──神人、朝槻真守。これで対等な力関係になったって魔術師たちは意気込んでいるんだろうね」

 

「勝手に私を科学サイドの象徴に据えて敵視しないでくれ。面倒くさい」

 

真守が心底迷惑そうに告げると、オッレルスは笑った。

 

「それでもキミが筆頭になって、科学サイドを引っ張って行くのに変わりはないんだろ?」

 

「変わりはないかもしれないけれど、決めつけられると嫌なものだ」

 

真守がオッレルスの事実確認に不愉快そうにしていると、上条は自身の右手を見つめた。

 

魔神オティヌスの目的と、その目的に沿いながらも自分の目的を達成しようとしている『グレムリン』。

 

それらの説明を受けて、上条は顔を上げた。

 

「やっぱり俺の右手はオティヌスにとって価値があるんじゃないのか?」

 

上条当麻の幻想殺し(イマジンブレイカー)によって、異能は必ず打ち消される。それは異能が必ず失敗するということだ。

 

それは確率『0%』に固定されるということだ。

 

幻想殺し(イマジンブレイカー)を応用すれば、魔神オティヌスを縛り付ける勝敗半々を壊すことができるはずなのだ。

 

そんな上条の懸念を、オッレルスはありえないと断じた。

 

「その点は問題ないよ。そもそも、幻想殺し(イマジンブレイカー)という存在は魔神オティヌスとは相容れない。たとえ有意義だと分かったとしても、それを利用しようとは思えないな」

 

オッレルスがけろりと告げると、上条は顔をしかめた。

 

「どういうことだ?」

 

「質問に質問で返すようで心苦しいんだけどね。根本的な話をしても良いかな。君は自分が振るっている幻想殺しの正体を知っているのか?」

 

オッレルスの核心を突く言葉にその場の空気は静寂に包まれた。

 

幻想殺し(イマジンブレイカー)の正体。

 

上条当麻の特異性を象徴するもの。

 

謎に包まれたその存在が、紐解かれようとしていた。

 

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