とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一九話投稿します。
次は八月二四日火曜日です。


第一九話:〈事件収束〉を求めて

垣根と美琴は爆速で飛び出していった真守の余波に吹き飛ばされそうになりながらも、小さくなっていく真守に目を向けた。

 

「チッ。あいつ、行くなら行くって言えよ!」

 

「ちょっと、私を置いていくなっての!」

 

垣根は宙を浮いて真守を追うと、美琴が電磁場で距離を稼ぎながらその後を追う。

真守は幻想猛獣(AIMバースト)に一足先に辿り着くと、そのスピードに乗った足で幻想猛獣へと蹴りを叩きこんだ。

 

円を描くように肉が(えぐ)れて飛び散るが、すぐに再生してしまう。

再生しきると同時に幻想猛獣が真守をターゲットに捉えた。そして、雷撃を溜め込んだ球を何発も真守へと撃ち出した。

真守は両手を前にクロスさせてエネルギーをシールドとして展開、雷撃の球全てを後方へと逸らした。

流石にあれだけの雷撃を源流エネルギーで焼き尽くすのは手間がかかって仕方がないとして、受け流したのだ。

 

その雷撃の球が一つ、地面を走っていた美琴のすぐそばに落ちた。

 

「ちょっと……っ!! あ、危ないじゃない!!」

 

地面が衝撃で抉れた事により生み出された土煙を受けて、美琴が咳き込みながら真守に抗議する。

 

「ちゃんと当たらないように演算した」

 

「当たりそうな場所を悠長に歩いている方が悪いだろ」

 

真守がぶっきらぼうに告げて、垣根は電撃の塊を避けながら美琴に言い放つ。

 

そんな三人の前で幻想猛獣(AIMバースト)は頭の上で雷のエネルギーを収縮させるとそれを出たらめに撃った。

真守はその危険性に気が付いて即座に宙に飛び上がると、高速道路の方へ飛びそうだった雷球をエネルギーのバリアで防いだ。

垣根は幻想猛獣(AIMバースト)が飛ばしてきた雷撃の球を未元物質(ダークマター)の翼で余裕で防ぐ。

幻想猛獣がもう一度真守へと雷撃の球を放つためにエネルギーを収縮する。

 

だがそこで美琴が幻想猛獣(AIMバースト)の体を電撃で撃ちぬいた。

 

「さっきから誰も彼も私の事見下して! あげくあんたもシカトですって……? あたしの事忘れてんじゃないわよ! みっともなく泣き叫んでないで──真っ直ぐ私に向かってきなさい!」

 

「御坂、見下されてるの?」

 

「俺が見下してる」

 

「そこうるさいわよ! それと朝槻さんは無意識に見下しているから余計性質(たち)が悪いの!!」

 

真守と垣根がブチ切れている美琴を見ながらこそこそ二人で話をしていると、美琴がガウッと二人に向けて吠えた。

 

「別に見下してないんだが、な!」

 

闘争心が強い美琴を面倒に思いながらも、幻想猛獣(AIMバースト)が進む方向へと疾走して先回りする。

 

そして懐に潜り込むとその侵攻を抑えるために真守は前方にいつも展開するよりも厚いエネルギーのシールドを生成した。

幻想猛獣(AIMバースト)と真守の生成した源流エネルギーが衝突して、ガガガガキ! と、歯車と歯車が噛み合う鈍い音と共に周囲に蒼閃光(そうせんこう)が迸った。

だが幻想猛獣(AIMバースト)の体は源流エネルギーに焼かれながらも端から再生していき、その勢いが止まる事はなかった。

 

そしてあろうことか、源流エネルギーを分厚く壁として展開している真守を押して、原子力実験炉へと突き進んでいく。

 

「体が焼き切れようと源流エネルギーの層を押すのか!? なんていう力技……っ!」

 

真守が呻く前で、幻想猛獣(AIMバースト)は源流エネルギーに身を焼かれる痛みからなのか、空間を揺るがす衝撃波を放ちながら鳴き叫び、周囲へとめちゃくちゃにビームを撃ち放ち始める。

 

美琴は砂鉄を操ってそれを全て弾き、垣根は六枚の翼で身を守る。

そして垣根は宙高く飛び上がって幻想猛獣を(とら)えると、未元物質(ダークマター)を展開。

垣根は重力という物理法則に未元物質(ダークマター)で干渉し、何十倍もの重力になるように物理法則を捻じ曲げた。

展開した事象の演算が完了すると共に、垣根はクンッと手を地面に向かって落とした。

 

幻想猛獣(AIMバースト)だけを捉えた垣根の何十倍もの重力の攻撃によって、幻想猛獣は真守の前で押しつぶされる。

そして幻想猛獣(AIMバースト)によって真守が押されるのがやっと止まった。

 

超能力者(レベル5)二人がかりでやっと止まんのか。おもしれえじゃねえか、この怪物」

 

垣根が能力を発動しながら幻想猛獣(AIMバースト)のタフさに嗤う前で、幻想猛獣は垣根に圧し潰されて源流エネルギーに身を焼かれながらも、手当たり次第に触手を振り回し始めた。

 

そしてその触手の先からあらゆる能力を乱発し始める。

垣根はその能力の連発具合を避けるために上空へと高く飛んで幻想猛獣(AIMバースト)を圧し潰す演算をし続ける。真守は源流エネルギーを自身の周りに張って幻想猛獣のメチャクチャな攻撃を全て焼き切る。

 

凄まじい爆発音が巻き起こる中、音によって構成された波が至る所から流れ始めた。

 

(何だこれ?)

 

真守がそれを感じ取って首を傾げていると、幻想猛獣(AIMバースト)が暴れるのが少し収まった。

そして次の瞬間、幻想猛獣が真守の源流エネルギーによって吹き飛ばされた。

 

「え」

 

突然、体の肉を弾け飛ばしながら吹き飛んでいった幻想猛獣(AIMバースト)を見て、真守は思わず言葉を零した。

どうやら真守の源流エネルギーに対抗する事ができなくなったらしい。

身を焼かれた感触に痛みを覚えているのか、ひっくり返ってる状態で幻想猛獣(AIMバースト)がのたうち回る。

 

「……この音、治療プログラムか!」

 

真守が辺りに流れている音楽の正体を知って声を上げると、上空から真守の下に垣根が降りてきた。

 

「ネットワークが崩壊し始めたらしいな」

 

「じゃあこれであれは消滅するってこ、と────ねっ!?」

 

美琴がそこでのたうち回る幻想猛獣(AIMバースト)へと向かって雷撃の槍を放った。

 

半透明で薄く肌色になっていた体表面が真っ赤に焼け焦げて、幻想猛獣(AIMバースト)は形を(たも)てずにぶくぶくと膨張しながらもがき苦しむ。

 

「うわあ。なんか赤ん坊虐めてるみたいでちょっと引く」

 

「良いとこ持っていってふんぞり返るんじゃねえよ、御坂美琴」

 

真守が幻想猛獣(AIMバースト)を見つめながらげんなりしている隣で、垣根が美琴の行為を鼻で嗤った。

 

「別においしいところ持ってってないわよ!? というか朝槻さんの攻撃で先に四分の一くらい体吹っ飛んでるじゃない!」

 

垣根の言い分に美琴が抗議しながら真守の所業(しょぎょう)を責めていると、真守は美琴の向こうに人影が立っているのに気が付いた。

 

「木山?」

 

真守が呟くと、垣根が美琴から視線を()らしてそちらを見た。

美琴も振り返って確認すると、木山がふらふらと足を引きずりながらこちらに来ていた。

 

「気を抜くな!!」

 

木山がこちらに向かってきながらも叫ぶ。

 

「え!?」

 

「まだ終わっていない!」

 

美琴が驚きの声を上げる前で、木山は幻想猛獣(AIMバースト)を見上げた。

一同が幻想猛獣を見つめると焼け焦げて体を一部分吹き飛ばされた幻想猛獣(AIMバースト)がゆっくりと体を起こした。

 

「……そうか、核だ! 力場を固定している核を破壊しないと倒せないんだ!」

 

真守が幻想猛獣(AIMバースト)の体内のエネルギーの流れを感知して核があると叫ぶと、立ち上がった幻想猛獣から突然声が漏れた。

 

『……なのかな』

 

「佐天さん?」

 

その声はどうやら美琴の知り合いらしかった。

その声に共鳴するように今度は違う声が次々と聞こえてくる。

 

無能力者(レベル0)って欠陥品?』『だと思ってやがるんだろ』『許せない』『ダメだって』『無能力者(レベル0)って……』

 

「これは……?」

 

真守は顔をしかめて幻想猛獣(AIMバースト)を見上げた。

 

恐らく昏睡状態になった幻想御手(レベルアッパー)使用者の劣等感が声として聞こえているのだろう。

 

幻想御手(レベルアッパー)使用者全員の根底には、劣等感が存在している。

その共通した劣等感が一つとなり、幻想猛獣(AIMバースト)へと昇華されてしまったのだ。

 

だからこそ手当たり次第に壊そうと、幻想猛獣(AIMバースト)は原子力実験施設に向かっていった。

真守が考察する前で、なおも幻想猛獣(AIMバースト)は嘆く。

 

『毎日が、どれだけ無気力か』『あんたたちには分からないでしょうね』『その期待が、重い時もあるんですよ』

 

「……下がって。これはあたしがやる。巻き込まれるわよ」

 

美琴はその幻想御手(レベルアッパー)使用者の嘆きを聞いて真守、垣根、木山にそう宣言した。

 

「構うものか! 私にはアレを生み出した責任がある!」

 

「あんたが良くても、あんたの教え子はどうするの!? 快復した時、あの子たちが見たいのはあんたの顔じゃないの!?」

 

木山は美琴にもっともな事を告げられて、口を(つぐ)む。

 

「木山」

 

そんな木山の名前を真守が小さく呼ぶと、木山が真守を見た。

真守は明確な怒りを口にした。

 

「何もかも放り出して死ぬ事なんて許さない」

 

真守が言い放った途端、幻想猛獣(AIMバースト)が三人に焼けた触手を伸ばして攻撃する。

その触手に向けて真守は即座に源流エネルギーを放って焼き尽くす。

ガガキ! と、歯車が噛み合う低音と共に蒼閃光(そうせんこう)(ほとばし)る。

 

「朝槻さん、垣根さん。木山春生の事よろしくね! 巻きこんじゃうから──!!」

 

美琴は真守と垣根に願い出ると同時に、前方へと加減なしに電撃を放った。

 

木山はその電撃の衝撃波から頭を守っていたが、真守が即座に近づくと木山を後ろから抱きしめて持ち上げると、そのまま垣根と共に美琴の後方の上空へと逃げた。

 

美琴が放った電撃は、幻想猛獣(AIMバースト)が前方に張った誘電力場によって防がれるが、美琴はそんな事をモノともせずに出力を上げ続ける。

そして誘電力場に守られているはずだった幻想猛獣の体が焼け焦げ始める。

 

「電撃は直撃していないのになんで……。そうか、……強引にねじ込んだ電気抵抗の熱で体の表面が消し飛ばしているのか!? ……まさか、私と戦った時のアレは全力ではなかったのか!?」

 

「当たり前だろ。超能力者(レベル5)の力をフルに使えば人間なんて消し炭だ」

 

真守の言い分に垣根が追加説明するように鼻で嗤う。

 

「自分の頭で超能力者(レベル5)を測るんじゃねえよ。俺たちは学園都市のトップだぜ? 元々、一般人の常識は通じねえんだよ」

 

「垣根はその中でも常識が通じない。未知の物質使って物理法則ねじ曲げるし」

 

「……お前だってエネルギー生成して事象を強引にねじ曲げてるだろうが」

 

真守がヤバすぎる、という目を垣根に向けると、垣根は目を細めてツッコミを入れた。

 

「私は別に物理法則を直接ねじ曲げてない」

 

「間接的だろうとやってる事に変わりねえだろ」

 

 

「──ごめんね、気付いてあげられなくて」

 

 

垣根と真守が互いの規格外っぷりについて話をしていると、美琴が幻想猛獣(AIMバースト)に向かって声をかけた。

 

幻想猛獣(AIMバースト)はそれに応えるように触手を束ねて大きな手にすると、美琴に向かってその手を叩きつける。

美琴はその触手を砂鉄によって弾き飛ばした。

 

『誰だって』『能力者に』『なりたかった』

 

なおも幻想猛獣(AIMバースト)が美琴に向かって氷柱を繰り出すが、それを美琴は砂鉄の壁で難なく打ち破る。

 

「頑張りたかったんだよね」

 

『しょうがないよね』『あたしには何も……』『なんとかして……』『力を』

 

幻想猛獣(AIMバースト)が鳴き叫び、それと共に学生の叫びが木霊(こだま)する。

 

『何の力もない自分が嫌で』『でも、どうしても……憧れは捨てられなくって』

 

「うん、でもさ。だったらもう一度頑張ってみよう」

 

美琴はそこでポケットからゲームコーナーで使われるメダルコインを取り出す。

親指の上に乗せて、それを天へと高く弾いた。

 

「こんなところで、くよくよしてないで。自分で自分に、嘘つかないで──もう一度!」

 

弾いたコインが手元に落ちてくると、美琴は笑顔でそう告げて自分の能力の代名詞である超電磁砲(レールガン)を放った。

 

凄まじい閃光と共に幻想猛獣(AIMバースト)の体を貫き、それは少しの狂いもなく幻想猛獣の核である三角柱を体から弾き出して撃ち抜いた。

 

三角柱が砕ける音が響くと、幻想猛獣(AIMバースト)の体からエメラルドの光が漏れ出しながら炭化していく。

 

「ハッ。綺麗事だな」

 

垣根が美琴の言い分を聞いて鼻で嗤う。

 

努力ではどうにもならない壁が彼らの前には存在している。

それは素養格付(パラメータリスト)というもので彼らの前に立ちはだかっている。

 

御坂美琴は学園都市の『闇』を全く知らないからこそ、綺麗事を吐けるのだ。

何も知らない人間の言葉など何の慰めにもならないし、何か知っていたとしてもどうにもできない。

綺麗事を吐く美琴を垣根が睥睨していると、真守がぽそっと告げた。

 

「そうか? そういう言葉が必要な人間もいるぞ。……何も知らない人間には、何も知らない人間の言葉が一番良く響く」

 

「……、」

 

垣根は真守の呟きに応えない。真守も返答を求めてなかった。

 

「だからこそ私は、向こう見ずなことを言わないんだがな」

 

朝槻真守は能力で人を贔屓(ひいき)しない。

だが能力の強度(レベル)なんてどうでも良いとは微塵も思っていない。

 

能力に劣等感を持つ人間に『お前の良いところは能力じゃないよ』と言われても能力に固執している人間は『能力者には無能力者(レベル0)の自分の気持ちなんか分からない』と言われるに決まっている。

 

能力とは一種のステータスで、それに学生が固執する事を真守はよく理解している。

真守はそれを理解してそこを(かんが)みながら、能力に関係ない人としての大事な在り方を真守は探す。

 

だからこそ垣根が超能力者(レベル5)と明言した時に、超能力者(レベル5)になれるのは凄い事と真守は手放しに褒めたのだ。

そして真守は、超能力者(レベル5)としてのラベルを貼られている垣根帝督という人間の本質をずっと知ろうとしていた。

 

垣根帝督の本質とは。

自分の身を自分で(おとし)めてまで、自分の目的のために戦い続ける事だ。

その根底には、理不尽が許せずに全てを変えたいという優しい気持ちがあると真守は感じていた。

 

実際、その通りで。

 

垣根帝督は朝槻真守を助けると言ってくれた。

自分が似合わない事を言っているとしても、そうするべきだと自身の心に従ったのだ。

 

真守はずっと能力者というステータスで測れない垣根の本質を探していた。

真守は垣根の人間としての本質が知りたかったから一緒にいた。

それを知る事ができて、本当に良かった。

垣根帝督の優しい心に気づけて良かった。

 

真守の言葉に思うところがあってそっと目を伏せている垣根を、真守は横目で見ながら、にへらっと笑った。

 

「これが、超能力者(レベル5)か」

 

そんな真守に抱きしめられていた木山は、目の前で破壊的ながらも優しく奮い立たせてくれる力を放った美琴を見つめて微笑んだ。

 

 




次回で幻想猛獣篇終了です。

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