とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第二八話、投稿します。
次は七月一二日火曜日です。


第二八話:〈一端覧祭〉の朝は平穏そのもの

一端覧祭当日、早朝。

一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)を迎えに真守の自宅に来ており、再び浜面仕上と滝壺理后と鉢合わせた。

一階のホールでインターホンを鳴らすと、昨日はいなかった真守が出た。

 

『上がってくれ』と家主に言われた三人は、ラウンジへと上がる。

 

ラウンジのテーブルでは、打ち止め(ラストオーダー)が杠林檎と一緒にステンレス製のボウルの中身を電動ミキサーでかき混ぜていた。

 

「あ! 昨日ぶり! って、ミサカはミサカはあなたのお迎えに顔を上げてみ、うぉっな、なんでミサカの頭をがっちりホールドしているのって、ミサカはミサカは抗議してみたり!」

 

「絶対に顔上げると思った。お料理中によそ見はダメ」

 

林檎は一方通行(アクセラレータ)が来たことで注意力散漫になるであろう打ち止め(ラストオーダー)を見越して、頭をグッと掴むとステンレス製のボウルの中に入った泡立て中の生クリームへと視界を固定させる。

 

「お手伝いマスターは先読みがすごいかも!! って、ミサカはミサカはおののいてみたり!」

 

「お手伝いマスターってなンだよ……」

 

一方通行(アクセラレータ)が思わず呟いていると、ラウンジのソファに座っていた真守は立ち上がる。

そしてパタパタとスリッパを鳴らして一方通行(アクセラレータ)と、ラウンジの広さに驚愕している浜面へと近づいた。

 

一方通行(アクセラレータ)。浜面、滝壺。昨日は大変だったみたいだな」

 

「オマエのところほどじゃね、ェ……?」

 

一方通行(アクセラレータ)は真守の(ねぎら)いの言葉に顔を上げ、真守を見る。

だがその言葉を途中で止めると、一方通行(アクセラレータ)は目を見開いた。

 

「…………その腰にくっついてンのは?」

 

真守の腰には一〇歳くらいの銀髪幼女が、コアラの子供が親に抱き着くようにしがみついていた。

その少女は(まぎ)れもなく、フロイライン=クロイトゥーネである。

 

「フロイライン=クロイトゥーネっていう子だ」

 

「オマエはどっからそンなにガキをポンポン拾ってくるンだ」

 

一方通行(アクセラレータ)はちらっと杠林檎に目を向けながら、ため息を吐く。

林檎は一方通行(アクセラレータ)に見られている事など気にせずに、打ち止め(ラストオーダー)と仲良く生クリームを泡立てており、打ち止めが自分の顔に飛ばした生クリームをぺろっと舐めていた。

 

「にゃあ、浜面!!」

 

そんな真守たちを他所に浜面のもとへと、テテテーッと走ってフレメア=セイヴェルンが駆け寄る。

その手には、お皿に載った焼き立てのパンケーキを持っていた。

フレメアは深城と一緒にパンケーキを焼いており、林檎と打ち止め(ラストオーダー)はパンケーキにトッピングする生クリームを泡立てていたのだ。

 

「みてみて、浜面! 源白がパンケーキ焼くの手伝ってくれた! にゃあ、良い焼き加減!」

 

「いやいや。それはお前が手伝っただけで、源城さん? が主体になって焼いたんだろ。……確かに、こんがり焼けてておいしそうだけど」

 

浜面は得意気にフレメアが見せてきた、均一に茶色く焼けた美味しそうなパンケーキを見つめて呟く。

真守はそんな浜面に柔らかい笑みを向けた。

 

「浜面も滝壺も食べていったらいい。もちろん一方通行(アクセラレータ)も」

 

「え!? いやいや俺たちまでご相伴(しょうばん)に預かるわけには……!!」

 

「いや。むしろお願いしたい」

 

真守はうきうき気分で四ツ口(よつくち)のガスコンロをフル活用して、ホットケーキを焼いている深城を見た。

 

「あの通り、深城が調子乗っていっぱい作ってるから、食べるのを手伝ってほしいんだ」

 

確かにボウルに残っている生地の量を見ても、浜面や滝壺、そして一方通行(アクセラレータ)が食べても余りそうな勢いだ。

 

「……家庭的な女の子っていいよなあ」

 

そう呟いた浜面の言葉を聞いた滝壺は目を見開き、その後息を荒くしていたので、浜面はよく分からずに首を傾げていた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「はいはいはいっ! ミサカは友達みんなで一端覧祭を回りたいって思います! って、ミサカはミサカは高らかに主張してみたり!」

 

打ち止め(ラストオーダー)がガターン! と席を立って右手を上げて主張するので、幼女たち三人と一方通行(アクセラレータ)と一緒にテーブルに座っていた深城はにこっと微笑む。

 

「はーい打ち止め(ラストオーダー)ちゃーん。良い子だから座って食べようねえ。ちゃんと座って食べられたら、一端覧祭の屋台で一つだけなぁんでも買ってあげるから」

 

「え!? 本当!? って、ミサカはミサカはお行儀よく座りながら、おしとやかに朝食を再開してみる!」

 

((やっぱり手慣れてやがる……))

 

即座に自分から着席した打ち止め(ラストオーダー)を見ていた一方通行(アクセラレータ)と浜面は、心の中で思わず同じ感想を呟く。

 

真守の心を開いた深城にとってみれば、素直でちゃんと言い聞かせてやれば話を聞いてくれる小さな少女の扱いなんて容易い。

深城は自分からはぐはぐと朝食を摂り始めた打ち止め(ラストオーダー)を見て、柔らかく微笑む。

 

そんな深城たちをよそに、真守はラウンジの三人掛けのソファに垣根とクロイトゥーネと並んで座っていた。

真守は生クリームに缶詰のフルーツを載っけたパンケーキを一欠けらフォークで持って、クロイトゥーネへと差し出す。

 

「はい、クロイトゥーネ。あーん」

 

「あーむ」

 

クロイトゥーネは真守に食べさせてもらって幸せそうに頬に触れる。

そしてもぐもぐと咀嚼して呑み込むと、ふにゃふにゃと笑った。

 

「とても、おいしいです。あまい」

 

クロイトゥーネは真守に食べさせてもらって幸せを感じて微笑む。

クロイトゥーネは先程真守に『情報』をひとさじずつ食べさせてもらった経験から、真守に食べさせてもらうのが何よりも気に入っているのだ。

 

「良かった。まだまだあるから食べていいぞ」

 

クロイトゥーネがニコニコとしている様子を見て真守が微笑むと、真守の横に座っていた垣根が独占欲と嫉妬からチッと舌打ちをした。

 

(第三位、心狭くね? 相手は幼女だぞ?)

 

垣根を見ながらそう心の中で呟いた浜面はというと、一人掛けのソファに座っている滝壺のそばに寄せたキューブスツールに座っている。

たっぷりラズベリーソースがかかったパンケーキを口にしていた垣根だが、浜面にドン引きされた目で見られているのに気が付いて、浜面を睨んだ。

 

「なんだよ」

 

「イエッなんでもありません!!」

 

浜面は怒れる超能力者(レベル5)が怖くて、ピシィッと背筋を伸ばしながら返事をする。

垣根は浜面を忌々しそうに見つめた後、チッと舌打ちをしてからローテーブルに置かれていた生クリームをパンケーキに追加で掛けて不機嫌に頬張る。

垣根にびくびくしていた浜面だが、そんな浜面にフレメアが後ろから抱き着く。

 

「にゃあ! 浜面早く食べて! そして一端覧祭へれっつごー!!」

 

フレメアが口の(はし)にべったりと生クリームを付けたまま叫ぶと、滝壺がパンケーキと共にフォークまで喰いちぎりそうな勢いでギリギリと噛む。

 

「このガキっ……!!」

 

「滝壺さん!? なんで突然キレてるの!?」

 

浜面がフレメアの口の端についている生クリームをティッシュで(ぬぐ)おうとしていると、滝壺はそれにもっと怒りを(あら)わにする。

 

滝壺が嫉妬心を爆発しているところを見た垣根は、自分も幼女相手に嫉妬を爆発している幼稚さに気が付いて、苦い顔をしながらパンケーキを食べる。

 

人の振り見て我が振り直せ、である。

 

浜面に口を拭いてもらったフレメアは浜面の首筋にもぞもぞと顔を埋め、『にゃあ。ここが大体一番落ち着く』と言っており、それによって滝壺の怒りが怒髪天を衝いたのは、想像に(かた)くない。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「テメエ、男の着替えを覗く趣味でもあんのか?」

 

垣根はシャワーを浴びて部屋で替えの制服のシャツを手にして着替えていたが、ベランダに降り立った人物に目を向けながら告げる。

 

「いやいや。俺は経験値稼ぎにしか興味がないぜ」

 

カラカラと勝手に窓を開けながら部屋に乗り込んできたのは、雷神トールだ。

 

「別に神人に声掛けに行っても良いんだけどよ、シャワー中の神人に突撃したらお前が怒るだろ?」

 

「当たり前だ、舐めてんのか」

 

野郎で真守の柔肌を見ていいのは自分だけだ。

垣根が制服に洋服ブラシを掛けながら睨むと、トールは肩をすくめた。

 

「フロイライン=クロイトゥーネの件だが、ありゃもうオティヌスの欲しい形をしてない。科学にも魔術にも染まっていない人材が必要だったんだが、ダメだな。色んなもんが歪んじまった」

 

「魔神のなりそこないも言ってたな。はん。ざまあみろ」

 

垣根は一つ嘲笑すると、雷神トールに鋭い視線を向けた。

 

「それでどうするんだ? 魔神はお前にとってこいをさせたんだろ」

 

垣根がズボンを穿いてベルトを締めながら告げると、トールは辺りを気にして見回してから告げる。

 

「俺はオティヌスに愛想が尽きたんだ。だから俺の顔をオッレルスに渡すことにした」

 

「あ? ……そりゃつまり、オッレルスに協力するってことか? そんなのすぐにバレるんじゃねえの?」

 

垣根が怪訝な顔をして問いかけると、雷神トールは周りに全く興味がない無慈悲な神さまを思ってため息を吐いた。

 

「オティヌスは俺に興味ないしな。オッレルスならうまくやるだろ」

 

そーかよ、と垣根は答える。

 

魔神オティヌス。勝敗半々(フィフティフィフティ)に縛られている彼女は、真守に絶対に勝てない。

おそらくオティヌスは神槍を造り上げるまで、真守の前には絶対に出ないだろう。

そんな人間を探してもしょうがない。だから真守は魔神オティヌスのことを率先して迎撃しようとはしない。

 

それに真守は、オッレルスたちのように焦ることなんてしなくていい。

 

オティヌスが神槍グングニルを完成させた時、その時初めてオティヌスは真守と対等に渡り合えるようになるからだ。

 

その時、真守が負けるとは垣根には到底思えない。

何故なら真守は物事の流れが見えている。

それはつまり、未来を予想できるということだ。

そして真守の演算能力を持ってすれば、『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』が弾き出すような正確な予測ができるだろう。

 

だからどうやったって、垣根には真守に魔神オティヌスが勝てるとは思えない。

それは真守のそばにいて、真守の万能性と人間性を直に見ている垣根だからこそ、分かる事だ。

 

垣根が真守の事を考えながら着替えをしていると、トールはそんな垣根に声を掛けた。

 

「なあ。気になってたんだがよ。お前は神人と同じステージに上がらなくていいのか?」

 

「それを聞いてお前に何の得があるんだ?」

 

垣根が真守の事を考えながら眉をひそめると、トールは学園都市の技術が珍しいのか磁性制御スピーカーが珍しいのか、興味深そうに見ながら告げる。

 

「俺は自分の『次の成長』をいつだって求めてる。明確な次のステージにいる人間がそばにいたら、自分もそこに到達したいって思うんじゃねえの、って」

 

朝槻真守は、どこからどう見ても『次のステージ』へと上がった。

超能力者(レベル5)が逆立ちしても届かないところへ。

雷神トールは成長することができるはずなのに、今の立場に甘んじている垣根が気になっているのだ。

垣根は雷神トールを見ずに、学校へと行く準備をしながら告げる。

 

「俺は『次のステージ』になんか興味はねえ。そもそも俺の成長方向は真守とは違う」

 

「? どういうことだ?」

 

トールは垣根の言葉の意味が分からなくて、首を傾げる。

 

「そうだな。ここまで来たら説明してやる。少し前、俺は超能力者(レベル5)の成長方向を示したスパコンの演算結果を見たことがあった」

 

垣根はピッと襟元を正しながら、その資料を思い出す。

 

垣根帝督が言っているのは『絶対能力者進化(レベル6シフト)計画』の概要であり、『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』が弾きだした演算結果だった。

 

多くの超能力者(レベル5)は頭打ちとなっていたが、朝槻真守、一方通行(アクセラレータ)。そして垣根帝督は成長方向が明確に記されていた。

 

朝槻真守と一方通行(アクセラレータ)は上へと突き抜けた、つまり次のステージへと到達することができるとして、絶対能力者(レベル6)になると予測されていた。

 

そして垣根帝督の場合は、横へと突き抜けた多様性に満ちた成長方向を見せていたのだ。

その多様性に満ちた成長方向によって、垣根帝督は絶対能力者(レベル6)のやろうとしていることを模倣できる。

 

だからこそ垣根帝督は真守や一方通行(アクセラレータ)の次点である『補助候補(サブプラン)』であり、その多様性ゆえに『第一候補(メインプラン)』の朝槻真守を補助する役割を担えるのだ。

 

「今の成長方向でも俺は真守と一緒にいられる。むしろ俺にしかできねえことだってある。だから無理して真守と同じステージに行かなくても良いんだよ。その選択肢を取る意味がねえからな」

 

垣根は袖口を気にしながら、ほおーっと感心していたトールを見た。

 

「なんだよ」

 

「いやいや。ちゃんとした考えがあるんだな。うん。それもいいんじゃねえの。愛のカタチ的にさ」

 

「そりゃどうも」

 

垣根はトールの言葉に適当に答えて、薄い鞄を手にする。

 

「お前はこれからどうせ潜るんだろ。他の『グレムリン』のヤツらはこれからどうするんだ? 裏切るんだから、ヤツらの動向を教えてくれたっていいだろ」

 

垣根が雷神トールにこれからの『グレムリン』の動向を聞くと、トールはあっけらかんと喋った。

 

「俺の顔をしたオッレルスが先導することになるはずだぜ。手土産も持ってるし、どうにかできるって」

 

手土産とは、人造細胞技術についてだ。

あれで雷神トールに(ふん)したオッレルスは、オティヌスにフロイライン=クロイトゥーネの確保失敗を許してもらおうとしているのだろう。

垣根はオッレルスがそのために人造細胞技術を、ひいては自分の力を必要としていた事が気に入らなくて舌打ちする。

 

「これから俺は真守と学生生活ってヤツを楽しむんだ。妙な騒ぎは起こすんじゃねえぞ」

 

「起こさねえよ。起こしたとしても打ち消してくれるヤツとだな」

 

垣根はトールの言い分を聞いて顔をしかめる。

 

「上条当麻は警備員(アンチスキル)に撃たれてICU行きしてるのは知ってるだろ。……まあアイツは体がぐちゃぐちゃになろうが聖人に向かって行ったからな。バカにつける薬はないってわけだ。やりたきゃ勝手にやれ」

 

垣根は後方のアックアに痛めつけられたのに、最終決戦にやってきた上条のことを思い出してため息を()く。

あの男も大概タフで、大概頑固だ。

真守だって上条当麻のことを完璧にコントロールする事は出来ないだろう。

 

(つーか、真守は上条当麻の意志を尊重してるからな。本当に危ねえ時以外は止めないだろ)

 

垣根が真守の事を考えて目を細めていると、雷神トールが手を上げた。

 

「じゃあそういうことでな、神人の(つがい)。せいぜい学生生活楽しめよ」

 

トールは笑いながらベランダに出て、垣根に手を振る。

 

「言われなくてもこっちだって楽しんでんだよ」

 

これから長い時を真守と共にするが、それでも学生でいられるのは一瞬だ。

そのため垣根が噛みつくように告げると、トールは笑った。

 

「さてさて。幻想殺し(イマジンブレイカー)の方はどうなってるかねえ」

 

トールは次の成長を求め、幻想殺し(イマジンブレイカー)という異能を打ち消す右手を持つ少年の事を考える。

 

完全な進化を遂げた人間である神人──朝槻真守にも興味があるが、あれと戦うにはまだまだ経験値が足りない。

 

これからも変わらずに戦いを楽しめると知ったトールは笑い、垣根の部屋のベランダから飛び降りた。

 

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