とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第三〇話、投稿します。
次は七月一八日月曜日です。


第三〇話:〈幸福感情〉で満ち満ちて

「………………死にたい……」

 

死ねないけど、と真守は呟きながら、顔を手の平で(おお)う。

 

「いいや、死んでしまうっ恥ずかしくて死んでしまうっ!!」

 

真守は控え室で叫ぶ。

机の上には、ベストカップルコンテストの優勝トロフィーが置かれていた。

これから記念撮影なのだが、化粧を直していいと言われたのでここにいるのだ。

 

「やだぁぁぁこれから街を歩いたら超能力者(レベル5)の恋人持ちの第一位だって思われるんだろぉーいやだぁもぉ嫌だぁ……っ!!」

 

真守はバタバタとソファに寝転がって恥ずかしさに身もだえする。

 

本当に恥ずかしかったのだ。

 

真守が出場するのでベストカップルコンテストは急遽予定を変更して、学園都市の空に浮かぶ飛行船から生配信されていたから尚更だった。

 

まずは彼氏がどのくらい彼女のことを知っているか、というのをクイズにされた。

身長は何センチとか、誕生日はいつだとか。

そんなものは垣根にとっては、鼻で笑っちゃうような問題だった。

 

ちなみに置き去り(チャイルドエラー)で自分の誕生日に無頓着だった真守は自分の正式な誕生日を知らなかったのだが、垣根は既に真守の伯母から教えてもらっていた。

 

冬生まれだとは分かっていたが、一二月八日が正式な誕生日らしい。

 

書庫(バンク)』では既に更新されており、真守が知らないのに垣根が知っているという事態に、会場はおおいに盛り上がった。

 

その後も質問は続き、垣根の快進撃は続いた。

 

真守が身に着けている香水の種類を全部答えたり、真守の好きなブランドはどこかなど、シャンプーまで的確に答えた。

 

一番真守が(こた)えたのは、垣根に大衆の面前で『愛してる』と言われたことだった。

 

ここまで来ると垣根もノリノリで、なんと腰を抱き寄せてキスまでしてきたのだ。

 

顔の良い男が顔の良い女を溺愛していることに会場は大盛り上がり。

しかも顔の良い女があからさまに恥ずかしがっているので、初々しさ満点。

 

ぶっちぎりで一位を取ることなど目に見えていた真守は、すごく恥ずかしくって終始顔が真っ赤だった。

 

少し泣いていたから化粧室を与えられたのだが、恥ずかしさに身もだえして化粧を整えている場合ではない。

 

「なんだよ、情けねえな。大衆の前で×××したわけじゃねえのに」

 

「わあああああもう聞こえない!! 何も聞こえてないからなぁああ!!」

 

真守は耳を塞いでわあわあ叫ぶ。

垣根は真守のその様子を見て、くすっと笑った。

 

(おもしろ)

 

きっとこの少女は何百年経とうが何をしようが、永遠に初々しさ満点で楽しませてくれるのだろう、と垣根は思う。

 

(でも初々しさがなくなって積極的になる真守も見てみたい)

 

垣根の中で新しい欲望が生まれたが、まあなんにせよ向こう一万年くらいは無理だろう。

 

「ほら、真守。もう機嫌直せって、な?」

 

垣根は真守の座っているソファに座り、真守の腰を引き寄せてぎゅっと抱きしめると、ゆっくりと頭を撫でる。

 

「………………ぅー……っ」

 

真守は低く(うな)りながらも垣根に慰められる態勢に入って、ぎゅっと垣根に抱き着く。

イジメようが何しようが、結局真守はぎゅっと抱きしめて誠心誠意、頭を撫でれば大人しくなるのだ。

そして結局許してくれる。朝槻真守とはそういう女だ。

 

「な。俺もちょっとノリに乗っちまってやりすぎた。許してくれるか?」

 

垣根が甘く(ささや)いて頭を撫でると、真守は垣根に抱き着いたまま少し経ってから、尖った口で告げる。

 

「……………………許してやらないこともない」

 

やっぱりこの女、チョロい。

とはいっても真守がチョロい相手は垣根や深城など、身近にいる人間に対してだけなのだ。

垣根は優越感に(ひた)ったまま、ご機嫌に真守の髪の毛を撫でて、後頭部を手で包み込むように撫でる。

 

「………………ん、」

 

真守がスンッと鼻を鳴らしながら胸板に頬をすり寄せるので、垣根は真守のことを優しく抱きしめた。

 

自分より一回りも二回りも小さい体。

脂肪が少ないのに、程よく柔らかな肢体。

確かに息づく温かい命。

 

永遠を共にしたって飽きることのない、優しい心の持ち主。

 

「…………かわいい」

 

垣根が小さく呟くと、真守はきょとっと目を見開いた。

 

「垣根?」

 

「本当に、愛おしい」

 

垣根はむぎゅっと真守のことを抱きしめる。

真守は目を(またた)かせていたが、垣根が何だかこの一瞬をとても奇蹟のように感じているのだと気が付いて、優しく微笑む。

 

「ずぅっと一緒だ。垣根」

 

「分かってる」

 

分かってるけれど。この命が手の中にあるのが、垣根帝督はとても嬉しい。

しかも永遠に一緒にいられるなんて、この上ない幸せだ。

垣根は真守のことを抱き上げると、顔をまっすぐと見つめる。

 

「写真、笑って一緒に撮ってくれるか?」

 

「うん。恥ずかしかったけど、断る理由ないから。いいぞ?」

 

真守は柔らかく微笑んで、垣根の頬に手を添える。

 

それから真守は身だしなみを整えると、垣根と一緒に写真撮影のために作られたアーチの前で写真を撮った。

 

永遠を誓うと言って。

 

花冠を被ってブーケを持って笑う真守のことを抱き上げた垣根は、優しい眼差しで真守のことを一心に見つめていた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「ベストカップルコンテスト優勝おめでとぉ~真守ちゃん!!」

 

一端覧祭が一段落した夕方。

真守は主に打ち止め(ラストオーダー)やフレメアのお守を頑張っていた深城と、やっとゆっくり話すことができていた。

 

「ありがとう、深城。でもやっぱりちょっと恥ずかしい」

 

真守は深城に盛大に祝われて、はにかみながら告げる。

打ち止め(ラストオーダー)とフレメアはそれぞれの保護者と共にもう帰路についている。

林檎とクロイトゥーネはと言うと、深城と真守が二人きりになれるように垣根がお守をしてくれている。

 

「ふふっ。真守ちゃんが幸せなの、あたしも嬉しいなあ」

 

深城は真守が焼いたたこ焼きを、はふはふ幸せそうに食べる。

 

普段全くと言っていいほど料理をしない真守だが、別にできないわけではない。

だからたこ焼きくらい手順を覚えれば上手に焼けるのだ。

しかも具材などは全部クラスメイトが用意してくれたため、本当に難しいことではなかった。

 

真守はもぐもぐ幸せそうに食べる深城に微笑みかける。

 

「ちゃんとおいしい?」

 

「すっごくおいしいよぉっ! 真守ちゃん、作ってくれてありがとねえ」

 

真守は深城の言葉に、にへらっと笑う。

 

真守と深城の間には、五パックのたこ焼きが置いてあり、AIM拡散力場を操って熱々状態を維持している。

もちろん垣根や林檎の分も入っている。

 

真守は自分の作ったたこ焼きが嬉しくて口の端にソースをくっつけた深城の口(ぬぐ)いながら微笑む。

 

「私は、とても幸せだよ」

 

「うん? そぉだよね。あたしも真守ちゃんがとぉっても幸せなの、分かってるよっ」

 

深城はベストカップルコンテストで優勝した花冠をそのまま被っている真守が愛おしくて、柔らかく微笑む。

そして優しく穏やかに問いかけた。

 

「何が気になってるのぉ?」

 

真守は深城の問いかけに、小さく頷く。

 

「……オティヌスは、どこに行こうとしているんだろうな」

 

「? オティヌスって……ああ、魔神さんのこと?」

 

深城は真守と垣根がそんな話をしていたと思い出して、首を傾げる。

 

「うん。深城は知ってると思うけど、目的には純粋な願いがあるだろ?」

 

絶対能力者進化(レベル6シフト)計画』に臨んでいた一方通行(アクセラレータ)は、自分のことを世界に受け入れてほしかった。

 

右方のフィアンマは自身の手に世界を救う力があるのならば、救ってみたいと思った。

 

そして垣根帝督が真守に近づいたのは、利用するだけの価値はある憎い学園都市を掌握したかったからだ。

 

強大な力を持って行動していた人々だって、願いがある。

これまでにもたくさんの人々が、自身の純粋な願いのために戦ってきた。

魔神オティヌスは、自身の確率を調整して、踏破して。何がしたいんだろう。

 

「強大な力を持てば、それだけ孤独になる」

 

真守は柔らかい微笑を浮かべる深城に目を向ける。

 

「私にはずっと深城がいた。垣根も一緒にいてくれるって約束してくれた。それで、今は大事な人がたくさんできた。とても幸せだよ。私は神さまになってもしあわせなんだ」

 

真守は幸せそうに、そして寂しそうにしながらも微笑む。

 

「でもオティヌスは人々を恐怖で押さえつけてる。彼女のことを本当に想ってくれる人間はいない。それってとても悲しいことだと思うんだ。普通の人間には……いいや。心を持つ存在には、それは耐えられないと思う」

 

真守は魔神オティヌスのことを考えて、深城の手を取りながら呟く。

 

「オティヌスは、本当は何が欲しいんだろうな」

 

深城は真守の小さな手を優しく握って微笑む。

 

「会ってみて、聞いてみるしかないねえ」

 

「でもあの子は確率を調整するまで私の前に現れないと思う。どうしたって私に負けるってあの子も分かってるからな」

 

朝槻真守は人間として完成されている。対して魔神オティヌスは五○%の確率に縛られている。

どう頑張っても、今は真守の方が有利だ。

そしてオティヌスが五〇%の確率を超えられたとしても、真守に確実に勝てるのかといった話になるわけではない。

 

「そぉか。でもきっと、会う日がやってくると思うよぉ。絶対に」

 

深城はこの世で一番愛おしい存在へと笑いかける。

 

「そこからきっと始められるよ、だいじょぉぶ。だって真守ちゃんは優しいもの。だから絶対にだいじょぉぶ」

 

真守は深城に元気づけられて嬉しくなって微笑む。

 

「うん。ありがとう、深城」

 

「えへへ~。……あ、真守ちゃん。垣根さん来たよぉ!」

 

深城は垣根と手を繋いでいる林檎とクロイトゥーネを見て、声を上げる。

 

「一息ついたか?」

 

垣根は駆け出したクロイトゥーネのことを抱き上げる真守に声を掛ける。

 

「うん。ゆっくり話せたぞ。ありがとう、垣根」

 

真守は頭を撫でてほしそうなクロイトゥーネの頭を、優しく撫でながら微笑む。

 

「ふふっ」

 

「? どうした?」

 

垣根が突然笑った真守に首を傾げていると、真守は垣根と手を繋いでいる林檎を見て微笑む。

 

「さっきの垣根、保育士さんみたいだったな。とてもかっこよかったぞ」

 

真守が幼女二人と手を繋いで歩いてきていた垣根を思い出して微笑むと、垣根はため息を吐く。

 

「まったく。俺はいつからこんなになっちまったんだ」

 

「いいじゃないか。とても良いと思うぞ、垣根」

 

真守はにこにこと笑いながら、クロイトゥーネの頭を撫でる。

林檎はため息をついている垣根を見上げる。

 

「垣根。保育士さんは嫌なの?」

 

「嫌に決まってんだろ。なんで率先してガキの面倒見なくちゃならねえんだ。……自分の子供だったら、もちろん違うけど」

 

真守をお嫁さんとしてもらうならば、そういうこともきちんと考えたい。

垣根がそっぽを向いていると、真守はふにゃっと幸せそうに微笑んだ。

深城はベンチに置いてあったたこ焼きのパックを手に取って微笑む。

 

「垣根さん垣根さん! 真守ちゃんが焼いてくれたたこ焼きあるんだよぉ! アツアツの内に食べよぉ!」

 

「なんだよ、そんな大事なこと早く言えよ」

 

垣根は深城からたこ焼きのパックを受け取る。

 

「吹寄に手伝ってもらったから全部はやってないぞ。生地敷いて具材載っけて、たこ焼きひっくり返しただけだ」

 

真守が大袈裟な深城の言葉に笑っていると、垣根はパックを大事に開けながら告げる。

 

「お前が作ってくれたモンなら何でも嬉しい」

 

真守は垣根の言葉を聞いて、へへっと真守ははにかむように笑う。

 

「そう言ってくれて、すごく嬉しい」

 

「真守ちゃん。私も食べたいです」

 

クロイトゥーネは真守の膝の上で口を尖らせる。

真守はたこ焼きのパックを開けて一つたこ焼きをつまようじに刺すと、クロイトゥーネの前に差し出す。

 

「はい、あーん」

 

「あーむ」

 

すっかり誰かに食べさせてもらうことにハマッたクロイトゥーネに真守が差し出すと、たこ焼きを自分で食べていた垣根がムッと眉をひそめた。

 

「おいひぃです」

 

もぐもぐし嬉しそうに食べるクロイトゥーネを横目に、垣根は口を開けて真守へと顔を近づける。

真守に食べさせてほしいと、態度で示しているのだ。

 

「……はい、垣根。あーん」

 

「ん」

 

真守は恥ずかしくなりながらも、垣根にたこ焼きを食べさせる。

垣根は真守から食べさせてもらうと、柔らかく笑った。

 

「お前の手から食べた方が数倍美味い」

 

「恥ずかしいコト言うなっ。あんまりこういうとこ見せると、バカップルだって思われるだろ?」

 

真守は恥ずかしくなって、周りをちらちらと見ながら告げる。

 

「見せつけてんだよ。つーか俺がお前のこと溺愛してるって、もう知れ渡ってるだろ」

 

「うなああああ思い出させないで恥ずかしいからっ!」

 

真守はクロイトゥーネをぎゅーっと抱きしめながら、先程のコンテストでの恥ずかしさを思い出して身悶えする。

 

垣根はたこ焼きをもぐもぐ食べながら、涙目でたこ焼きをクロイトゥーネに食べさせる真守を見ていた。

 

失ってしまってから、もう二度と自分は手に入れることができないと思っていたもの。

それが、今。目の前にある。

それでも失ってしまったことを忘れているわけではない。

 

真守が自分と恋人になったって、真守も源白深城のことを大事にしている。

 

それと一緒だ。

 

きっと。大切な存在のことを想いながらも幸せになるというのは、こういう事なんだろう。

 

垣根は優しい味がするたこ焼きを食べ終えると、ひょいっとクロイトゥーネを片手で抱き上げた。

 

「帰るぞ、真守」

 

垣根が手を差し出すと、真守は慌てて残っているたこ焼きのパックをビニール袋に片付けて立ち上がる。

そして、きゅっと垣根の手を握った。

 

「帰ろう、垣根」

 

ふにゃっと笑う真守を見て、垣根は思う。

 

帰るべきところがあるのは幸せだ。

かつて自分にはそれがなかったから。

帰る場所を持ちたいなんて、考えることだってしなかった。

 

それでも心のどこかで、自分が本当は帰るべき場所が欲しかったのだと理解できたのは、やっぱりこの少女に会えたからだ。

 

深城がたこ焼きをはふはふ幸せそうに食べている林檎の背中を押して歩き出すのを見届けると、垣根は真守を連れて歩き出す。

 

もちろん、真守の歩調に合わせて。ゆっくりとだ。

 

「とても楽しいな、垣根」

 

柔らかく笑う真守が愛しくて。

 

垣根帝督は柔らかく微笑み。大切な少女たちと共に夕暮れの学園都市を歩き、帰宅した。

 




一端覧祭篇、終了です。
原作と違い、割と平穏な回でした。
この後はオリジナル回を二話挟み、『人的資源』プロジェクトとなりますので、よろしくお願いいたします。
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