とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第三一話、投稿します。
次は七月二一日木曜日です。


新約:A Very Merry Unbirthday:Ⅳ篇
第三一話:〈初出来事〉を穏やかに楽しむ


一端覧祭の振り替え休日。

真守と垣根はベストカップルコンテストの優勝賞品である第二二学区の宿泊施設、『四季折々』へと来ていた。

 

「垣根様ですね。承っております」

 

真守はエントランスでチェックインをしている垣根の横で、辺りを見回す。

 

旅館風の和テイストを大切にした宿泊施設だ。

木造なため、柔らかい茶色の系統でまとめられている。

 

学校に行かなくても平日は制服を着ている真守だが、今日は完全なオフなのでモノトーンコーデである。

黒い肩出しニットにホットパンツ。

そしてデザインとして太ももの横に大きな穴が開いた黒タイツにブーツ。

 

白いコートは室内なので、いそいそと脱いで手に持つ。

そして真守は垣根のことをちらっと盗み見た。

 

本当にかっこいい男の子だ。

目鼻立ちは整っているし、身長が高くてすらっとしてるし、髪の毛も綺麗に整えてある。

 

そんな垣根はラフなタートルネックにニットのカーディガンを羽織り、スキニーとまではいかないが細いチノパンを履いている。

 

ファッションセンスばっちり。自分がどうしたら一番カッコよく見えるか分かっている。

 

宿泊客は真守と垣根をちらちら見る。

 

超能力者(レベル5)カップルだと知れ渡ってしまったわけだが、それを知らなくても真守は超能力者(レベル5)

そしてそばには顔立ちが整っている恋人であろう男。

嫌でも目立つのは仕方がない事だ。

 

(まあでも別に、いつも目立ってるから気にしないけど)

 

真守がそう考えていると、受付が終わって垣根がルームキーを受け取った。

 

「真守、行くぞ」

 

垣根はぽんっと真守の頭に手を置くと、真守と自分の荷物が入ったスーツケースを持って歩き出す。

真守が垣根の横に付くと、垣根はチャリチャリとルームキーを上機嫌に回していた。

 

「……もしかして、垣根と何にもないのに二人きりでどこかに泊まるの、初めてか?」

 

真守が(ひと)(ごと)風に呟くと、垣根は怪訝な表情をした。

 

「あ? ……ああ、そうだな。ロシア行ったりハワイに行ったりしたが、こうやって旅行としてどっかに泊まるのは初めてだな」

 

垣根は真守と出会った七月初旬から記憶を辿って呟く。

 

真守と心と体が通じ合ったのは大覇星祭期間中だ。

しかもあの後すぐに真守は絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)した。

 

真守を取り戻しても第三次世界大戦まで息吐く暇がなかったし、第三次世界大戦が終わってすぐに新入生が動いたりハワイに行ったりしていた。

 

だから一度だってゆっくりと、どこかに行って泊まる事なんてしなかった。

 

「よくもまあこの短期間に色々起きるよな」

 

真守は呆れている垣根の隣を歩きながら首を傾げる。

 

「そうか? 学園都市は大体こんなものだと思うぞ」

 

そんなモンか、と垣根は考えながら、あてがわれた部屋へと入る。

 

「ふぉおお……すごい、イイ感じだ! 旅館って感じ!」

 

真守はザ・旅館といっていいほどの和室を見て顔を輝かせる。

和室の装いを壊さないためにベッドは畳を()しており、その上にはもちろん布団が敷かれている。

一枚の大きな布団に、枕が二つ。

 

真守と垣根はいつも一緒に寝ているので、同じベッドに入る事になっても真守は照れない。

そのため真守は上機嫌でもふっと布団の上に座る。

そして畳ベッドの上をよじよじと歩き、ベッドが面している大きな窓から外のベランダを見た。

 

「おーっ露天風呂もある! でもここには大きなお風呂もあるんだよな。どっちにしようかな。どっちがいいかな?」

 

「どっちも入ればいいだろ」

 

垣根はうきうきしてベッドからベランダに位置する露天風呂を見る真守を見て、柔らかく微笑みながらスーツケースを置き、真守へと近づく。

そして畳ベッドに座ると、目を輝かせている真守に囁きかけた。

 

「露天風呂。一緒に入ろうな?」

 

「! そ、それは嫌だっ!!」

 

真守が自分の体をぎゅっと抱え込みながら叫ぶので、垣根はムッと口を尖らせる。

 

「お前って、なんで風呂だけは嫌がるわけ?」

 

ちゃんと男女の関係もあるし、一緒に寝るし。

それなのに真守はお風呂だけはダメだというのだ。

真守は垣根の疑問に顔を赤らめて、目を()らす。

 

「…………だって明るいし。か、垣根と入ったら心が休まらない……」

 

「なんでだよ」

 

「ど、ドキドキしちゃうからに決まってるだろ!? っ垣根は自分がかっこよくて私がくらくらしちゃうコトを覚えるべき!!」

 

真守が恥ずかしそうに叫ぶと、垣根はにやーッと笑った。

 

「へえ。神サマの目が(くら)むほどの美貌か。やっぱ持つモンは持っといた方が良いな」

 

「ヤメテ意地悪しないで近づかないで……」

 

真守が顔を赤くして告げると、垣根は真守に甘く囁く。

 

「慣れるまで練習な?」

 

「やぁぁああっ嫌だあっ!!」

 

真守が風呂だけは嫌だと逃げようとすると、垣根は手を引っ張って止める。

そして真守のことをぐっとベッドに押し倒して抱きしめる。

 

「うぅっ、垣根のばかぁっ……顔面凶器ぃ」

 

真守はぐいぐい垣根の胸板を押すが、しっかりと自分を抱きしめた垣根はビクともしない。

 

「お前は歩く人間キラーだな」

 

垣根が歩くたびに色々な人を引っかける真守のことをそう呼ぶと、真守が叫んだ。

 

「変なあだ名つけるな!」

 

「お前だって俺の顔に文句つけるんじゃねえ」

 

垣根がガウッと噛みつくと、真守は垣根のことをじぃっと見上げる。

 

「「……」」

 

無言になる二人。

それでも二人共同時にくすっと笑った。

なんだか酷く、この平穏さが愛おしいのだ。

 

「かきね。私、幸せだぞ」

 

真守は垣根にぎゅーっと抱き着いて、胸板に頬をすり寄せながら笑う。

 

「そうか。俺はお前が一緒に風呂に入ってくれれば、もっと幸せになれる」

 

真守は小さくウッと(うめ)く。そして垣根の腕の中で所在(しょざい)なさげにもぞもぞしながら、ぽそっと告げた。

 

「……水着着ていいなら……」

 

「ダメに決まってんだろ、舐めてんのか」

 

風呂に入る以上のことをしているのに、相変わらず初々しい真守。

垣根はムッと口を尖らせると、真守の後頭部を撫でながら頬を寄せる。

 

真守が嫌がろうとも、露天風呂に連れ込んでしまえば済む話なのだ。

それに露天風呂なんて早々入れるモノじゃないから絶対に入りたい。

というか一緒に入る。もう決定である。

 

垣根は上機嫌に笑うと、先に体を起こして真守に手を差し伸べる。

 

「荷物置いたし、昼飯食いに行こうぜ、真守」

 

真守は垣根に起こしてもらいながら、じとーッと垣根を見上げる。

この男の中ではきっと、露天風呂に二人で入る事は既に決定事項なのだ。

だからわざわざ返事を強要してこない。絶対にそうだ。

 

「分かったよ……一緒に入ればいいんだろ……っ?」

 

真守は観念して垣根に手を伸ばす。

すると垣根は真守の手をぐっと引いて、真守を優しく起こして笑う。

 

「良かった、返事聞けた方が嬉しいからな」

 

「うぅーすっごく幸せそうな顔するな……ッ」

 

真守は涙目になりながらも、上機嫌な垣根と手を繋いで外に出た。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「やっぱり学園都市の再建は早いよな。アックアにやられたところなんてもう元通りだ」

 

真守は垣根と一緒に第二二学区を歩いており、アックアと戦闘があった大橋を通りながら呟く。

 

「暗部にもそういう専門の業者がいるからな。俺も良く世話になった」

 

「垣根は怒ってすぐにものを壊すからなあ」

 

真守は綺麗に修復された大橋から眼下の川を見ながら呟く。

 

真守の自宅を吹き飛ばしたことはないが、垣根は怒ると憂さ晴らしで周りのものを壊すのだ。

しかも干渉力が強すぎるから大体悲惨なことになる。

 

感情で能力のコントロールを失う人間もいるにはいる。

能力に振り回される未成熟な学生に良く見られるが、流石に垣根は絶対にありえない。

そのため本当に憂さ晴らしで能力を使って暴れているのだ。

 

真守がちろっと垣根を見上げると、垣根は仏頂面で呟く。

 

「今年に入って『スクール』のアジトが何度も半壊したのは、大抵お前のせいだけどな」

 

「!? どういうことだ!?」

 

聞き捨てならないと真守が叫ぶと、垣根は真守と繋いでいる手にぎゅっと力を込める。

 

「俺はお前の情報を寄越せって上層部に言われてた」

 

真守は垣根が辛そうにしているので、きょとっと目を開いた。

 

「……そうなのか? だからその(たび)に怒ってたのか?」

 

「ああ。お前の情報を俺が渡さなきゃ、アイツらは他のヤツをお前のそばに寄越すって言ってきた。……あの時はそうするしかなかった。俺はお前に俺以上の『闇』を近づけさせたくなかった」

 

あの時の自分には力がなかった。

そもそもその力を求めるために真守に近づいたのだ。

 

そして、真守を大切にしたいと思うようになった。

真守を失うのが、酷く怖くなった。

だから現状維持をする事を、あの時の垣根帝督は何よりも大切にしていた。

 

この少女と一緒にいたくて。

どうしても、手放したくなくて。

酷く臆病になっていた。

 

「……垣根、」

 

真守は垣根と歩いていたが、ピタッと止まった。

 

「なんだ?」

 

垣根が止まった真守に声を掛けると、真守は頑張って背伸びをして垣根の頬にキスをした。

 

「!」

 

垣根が驚愕(きょうがく)で目を見開いていると、真守は垣根の両手を握って微笑む。

 

「私が知らないところでも、私のコトたくさん守ってくれてありがとう」

 

「………………お前と、一緒にいたかったから」

 

垣根は真守の優しさに触れて言葉を(こぼ)す。

 

「本当に、離したくなかった。俺のそばで日の光が当たる世界で、ずっと笑っていてほしかった」

 

垣根が真守の手を離して真守の頬に手を寄せると、真守はふにゃっと笑った。

 

「大丈夫だぞ、垣根。私と垣根が一緒にいる場所が日の当たるところだ。私は絶対に垣根から離れない。私は垣根を離さない。絶対、絶対にだ」

 

真守は垣根が自分の頬に寄せている手に、自分の手を重ねて微笑む。

 

「だってだいすきな男の子なんだから。絶対に離したくない。ずぅっと一緒だ」

 

垣根は真守の笑みが愛おしくて、柔らかく微笑む。

 

「愛してる、真守」

 

何度伝えても、何度も口にしたくなる。

真守はそんな垣根の気持ちが良く分かって、ふにゃっと微笑む。

 

「私も垣根のコトがだいすきだぞ。本当にだいすきなんだ」

 

垣根は真守が愛おしくて、優しく抱きしめる。

そして猫耳ヘアを崩さないようにすり寄ると、真守はふふっと笑った。

 

「垣根、くすぐったいよ」

 

垣根は優しく頭にキスをして気が済むと、真守の手を引く。

そして昼食を食べるために、レストランへと向かった。

 

「垣根、この道……」

 

道に覚えがあって真守が声を上げると、垣根は柔らかく頷く。

 

「ああ。これから昼飯食べに行く場所、お前と前に一緒に行ったパスタの店だ」

 

「本当かっ?」

 

真守は目を輝かせて問いかける。

 

以前、垣根は真守と第二二学区で真守のサンダルを買うためにデートをした。

その時パスタを嬉しそうに食べている真守が、垣根はとても印象的だった。

だから垣根は今日も昼食はその店にしようと、個室を予約してあるのだ。

 

「あの時初めてパスタ食べたけど、ラビオリがとってもおいしかったの覚えてる。また行けるの嬉しいっ」

 

「本当なら新しいところ開拓しても良かったんだけどな。お前が喜んでくれると思ったから」

 

にぱっと笑みを浮かべて、ご機嫌になっている真守。

垣根は真守が愛おしくて胸が詰まって、その頬にキスをする。

 

「んなっ。外でちゅーはしないでっ」

 

「さっきお前だって俺にしてくれただろ。お返しだ」

 

「……もう」

 

真守は上機嫌な垣根を見て目を細める。

バカップルのように見えるが、まあいいか、と真守は思う。

だって垣根が本当に、とても幸せそうなのだ。

 

だいすきな男の子が自分と一緒に居られて幸せにしている方がいい。絶対に。

真守はふにゃっと笑うと、自分の歩調に合わせてくれる垣根と穏やかに話しながら、目的のレストランへと向かった。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「ふふっ、おいしいっ。おいしいな、垣根」

 

真守は垣根と一緒にイタリアンレストランに入って、前に頼んだのと同じひき肉が入ったラビオリを頼んでニコニコと食べていた。

 

「そうだな」

 

(個室にして良かった。マジで)

 

とろけた笑みを浮かべて幸せそうに食べる真守の笑みなんて、他人に見せたくない。

そのため垣根は個室を選んだのだが、真守の様子を実際に見て、本当に個室で良かったと思い知らされた。

 

「ほら。これも食え」

 

垣根は取り皿に自分が頼んだ、日替わりのメニューであるボロネーゼを取り分けて真守に渡す。

 

「ありがとう、垣根。垣根にもラビオリ一つあげる」

 

真守は終始ニコニコしたまま幸せそうに食事をする。

 

(はた)から見たら普通の少女だ。

いいや、今だって真守は超能力者(レベル5)第一位として認識されているから、誰も絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)した完璧な存在だとは知らない。

 

だがその小さい体に超常的な力を宿していることは確かだ。

 

何故なら真守は先日オッレルスが垣根の能力を利用しようとした時に、リノリウムの床をありえない形へと捻じ曲げ、それを操って見せた。

 

垣根帝督は能力の性質上、周囲で起こっている事象を読み取ることができる。

そして()()()()()()垣根には、真守があの時世界を自分の意のままに新たな定義で捻じ曲げたと感じることができた。

 

真守は本当に絶対能力者(レベル6)として、完成された人間として有り余る力を持っている。

 

だがやりようによっては垣根帝督も朝槻真守がやった方法を自分の能力で再現できる。

 

未元物質(ダークマター)という能力で絶対能力者(レベル6)の力を再現できる。

だからこそ垣根帝督は『補助候補(サブプラン)』だったのだ。

 

真守の見る世界を一緒に見られるのならば、この能力も使い道はまだまだたくさんある。

 

ご飯を食べてとろけそうな笑みを浮かべている朝槻真守を見て、垣根は小さく自嘲気味に笑った。

 

自分が真守に対して、酷い傾倒(けいとう)をしているのは分かってる。

 

それでも別に良いと思えるほどに、垣根帝督は朝槻真守が大切だった。

 




オリジナル回です。
ついこの間もオリジナル回でしたが、前回のは新約四巻に関する事だったので……。
楽しんでいただけたら幸いです……!
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