とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第三三話、投稿します。
次は七月二七日水曜日です。


第三三話:〈幸福一刻〉を胸にしまい

露天風呂に入った後。

真守は洗面所で、垣根は部屋で浴衣に着替えていた。

別に一緒に着替えても良かったのだが、それだとお披露目の瞬間がなくなってしまう。

そのため真守と垣根は別の場所で着替えていた。

 

真守は浴衣の帯を確認しながら、鏡に映った自分の姿を見る。

 

白地に爽やかな淡い水色の花が描かれた浴衣で、帯は赤色。

 

浴衣は深城と一緒に選んだ。

白地に黒、というのも良かったのだが、この際だからと色々考えた結果、青を合わせてみたのだ。

 

(よし。私だって教えてもらえばできない事はないから、ばっちり綺麗に着つけられたな)

 

真守は鏡で白いリボンに彩られている猫耳ヘアを確認しながら頷く。

 

(ふふ。垣根の浴衣姿、とても楽しみだな)

 

真守はにへらっと笑って、垣根の浴衣姿を想像する。

 

「垣根。もう着替えた? 出て良いか?」

 

真守が洗面所の閉じられた扉をコンコンッと叩きながら問いかけると、『大丈夫だ』という垣根の声が聞こえてくる。

真守は扉を開けて、ドキドキと胸を高鳴らせたまま外へと出る。

 

「ふぁ……っ」

 

真守は思わず声を上げてしまう。

 

紺色の縦縞(たてしま)しじらという、伝統的な模様が入った浴衣。

それを垣根は無作法にならない程度に、華麗に着崩して着こなしている。

 

真守は低い位置で垣根が髪をくくっている姿が好きだ。

それを知っている垣根は、せっかくだからと髪を結んでいた。

真守が垣根の色気にやられて声を上げると、垣根は帯を確認していたが真守を見た。

 

「かわいい」

 

垣根は真守の浴衣姿を見て、柔らかく微笑んだ。

白地に淡い水色の花。綺麗に映える赤い帯。

真守が深城と一緒に浴衣を選んでいたのは知っていたが、垣根は浴衣がどんなものかあえて聞いていなかった。

いわゆる、後のお楽しみに取っておいたのだ。

 

「こっち来い。もっと良く見せろ」

 

真守は垣根に呼ばれて、トテトテと歩いて垣根の前に立つ。

 

「か、垣根……すごくかっこいいな……なんだかこっちが恥ずかしくなってしまう……っ」

 

真守は顔を赤らめて照れながらも、ふにゃっと微笑む。

垣根はいつものように猫耳ヘアに結びながらも、かわいらしくリボンがつけられた真守の髪を優しく撫でる。

 

「かわいい事言うじゃねえか。お前も良く似合ってる。……本当にかわいい」

 

「ふふ」

 

真守は垣根に絶賛されて、ふにゃっと微笑む。

 

「垣根に似合ってるって言ってもらえてうれしい。ありがとう。垣根もとても良く似合ってるぞ、本当に」

 

真守は垣根に頭を撫でられて、上機嫌に笑う。

垣根はそんな真守をじぃーっと見つめる。

そして、ニヤッと笑った。

 

「祭りの後が楽しみだな」

 

「……! 垣根のえっち、ヘンタイっ」

 

真守は垣根の男女関係を示唆する含み笑いの意味を理解して、顔を赤くする。

垣根はそんな真守が愛らしくて、真守の髪を優しく撫でながら目を細めた。

 

「浴衣着たら定番だろうが。待ちきれなくて花火をバックに野外で、って節操なしもいるくらいだしな」

 

「!!!?」

 

真守は垣根の言葉に硬直して、顔を真っ赤にして口をパクパク動かす。

 

「ほ、本当にそういうコトってあるのか!? 作り話じゃないのっ!?」

 

思わず声が裏返る真守を見て、垣根はじーっと真守を見つめる。

 

「……お前って、本当にそういう事が実際にあるって知らないよな」

 

真守は鉄板的な男女関係事情が全て作り話であり、現実にはそんな破廉恥な輩は絶対にいないと考えている節がある。

ある意味現実と妄想に区別がついているが、世の中ヘンタイは多くいるものである。

 

「ふしだらだ。ふしだらすぎる……作り話と現実は違うんだぞ……」

 

「いやどっちかって言うと、そういう現実があるからそういう妄想に通じてるっつーか……やっぱり初心だな、お前」

 

垣根はくすっと笑って、真守の浴衣が崩れないように優しく抱きしめる。

そして耳元で優しく囁く。

 

「そんな初心なお前には、俺がこれからも優しく丁寧に教えてやるからな?」

 

「なああああやだっ絶対に常識的じゃないこと教えてくる気だろっ!!」

 

真守は垣根の腕の中から出ようと暴れる。

この男、常識が通じないとかさんざん言っているのである。

絶対に常識的じゃないことを教え込まれるに決まってる。

 

(もしかしたら、もう知らない内に教え込まれてるかも……ッ!?)

 

真守はハッと息を呑んで、垣根をギギギーッとゆっくり見上げる。

垣根は真守が何を考えているか分かるので、そんな真守に柔らかく微笑みかける。

 

「安心しろ。高度なプレイはまだまだたくさんあるからな」

 

「いやあああああ深城、深城ぉっ!!」

 

真守は意地悪をしてくる垣根から逃れようと、必死に絶対に自分の味方になってくれる源白深城に助けを求める。

 

『ん? 真守ちゃん、何事も経験だよぉ、頑張って!!』

 

真守は深城が拳を握り締め、笑顔で微笑むのを感じて叫ぶ。

 

「うわあああ頑張れるワケないだろぉっ無理ぃぃぃ!!」

 

源白深城、男女関係については真守にたくさん経験してもらいたいので、鼓舞するだけで守ってくれない。

これまでの経験で分かっていた事だが、真守はそれでも絶対に味方になってくれる深城に、助けてほしいと懇願(こんがん)してしまうのだ。

 

垣根は男女関係に(うと)い真守が慌てふためく様子を見て、くつくつと笑う。

そして柔らかく抱きしめて、真守の温かい命を感じていた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

この後やりたい放題する、という死刑宣告に近い宣言をされたが、楽しもう。

 

真守はぐすんっと鼻を鳴らしながらも気持ちを切り替えて、ホテルに併設されているドーム内で開催されている夏祭りへとやってきた。

 

「おお……本格的だなあ」

 

真守はスクリーンに、天の川が映し出された空を見上げながら呟く。

 

夏祭りは川沿いをイメージしているらしく、人工の川が作られていて、蛍も飛んでいる。

川の近くには屋台が並んでおり、ちょっとした広場にはやぐらも打ち立てられている。

祭囃子(まつりばやし)の音も聞こえてくるし、気温なども空調設備で整えられているので完全に夏が再現されていた。

 

垣根は真守と手を繋いで歩きながら、周りを見る。

 

「学生の気を引くために奇抜さだけが売りの一端覧祭の屋台とは違うからな。真守、好きなモン食っていいぞ」

 

「本当か? 垣根の許しが出たし、気になるモノ食べようっ」

 

真守は食材に無頓着(むとんちゃく)だ。

元々食事なんてしておらず、本当に必要ならお腹に優しい食事だけを求めていたので、原材料なんて気にも留めていなかった。

 

だから真守は原材料を気にせずに、興味のあるものはなんでも食べようとする。

それでは困る。学園都市の中には変な食材だって多数あるのだ。

 

そのため垣根はどんな食材を使っているか逐一(ちくいち)カブトムシに調べさせており、食べて良いものとダメなものを真守に指示しているのだ。

 

どんなにおいしそうでも、垣根がダメと言えば本当に良くないのだ、と真守は分かっている。

そんな自分の事を考えてくれる垣根から許可が出たので、真守はうきうき気分で何を食べようか辺りを見回す。

 

ちなみに深城も垣根と同じ考えで、本当に良い食材や調味料だけを選んでいたりする。

周りの人々に大事にされている真守は、きょろきょろと辺りを見回して垣根を引っ張る。

 

「垣根、垣根。買い食いもいいけど、ヨーヨー釣りとか的当てとかもしてみたいな。ああいうの一回やってみたいと思ってたんだ。景品を全部取っちゃうのはマズいけど、その場合はお店に返せばいいんだよな?」

 

「そうだな。それでいいんじゃねえの?」

 

垣根はうきうきしている真守がかわいくて笑う。

 

「でもとりあえず俺はかき氷が食いたい。本当に暑いんだな、ここ」

 

外は冬真っ盛りだが、ここは空調設備で夏を表現しているので結構暑いのだ。

 

外に一歩出れば寒暖差にやられて体調を悪くしそうだが、そこら辺は気圧や気温などを色々調節して体に害が出ないようにしている。学園都市の技術サマサマである。

 

「かき氷だな、分かった」

 

真守は垣根と並んで歩いて、かき氷屋のもとへと行く。

 

夏祭りブースに来ている学生は多種多様だ。

恋人同士だったり、同性で来て楽しむ者や、そんな女の子たちを狙うナンパ野郎もいる。

普通の夏祭りと変わらない。

だから顔立ちが整っている美男美女カップルである真守と垣根には、自然と視線が多く集まってくる。

 

(俺がいるから真守にはナンパ野郎も絶対に声を掛けて来ねぇけど。少しでも離れたら俺にも真守にも絶対面倒なのが寄って来る。気を付けないとな)

 

垣根は自分に突き刺さる視線なんて、まったく気にしていない真守を見て目を細める。

 

顔立ちが整っているし、超能力者(レベル5)という確かな立場を持っているため、真守は注目されるのが当たり前で周りの目なんて気にならない。

垣根も自分に注目してくる女の視線を気にしていない。気にするはずがない。

 

だがそれでも、大事な女の子である真守に見惚れた視線が突き刺さるのはやっぱりムカつく。

 

「垣根、垣根は何味が良い?」

 

嫉妬で()ねている垣根なんて知らずに、真守はかき氷屋の前で垣根を見上げる。

 

「んー。レモン」

 

垣根は真守の帯で守られた細い腰に手を添えて、真守の小さな頭に頬を寄せながら答える。

真守は突然垣根が密着してきたので固まる。

そんな真守に、垣根は拗ねた声で(ささや)く。

 

「お前は俺のだからな」

 

「う」

 

真守は突然耳元で甘く切ない声で囁かれて、小さくうめき声を上げる。

 

「れ、レモンとイチゴ味をくれ……っ」

 

真守は何故か垣根が嫉妬を燃え上がらせていると知って、たどたどしくも屋台のおっちゃんに声を掛ける。

 

(ヤバい……なんでか分からないケド、めちゃくちゃ垣根が何かにムカついてる……っあ、後が怖い……っ!)

 

真守はさーっと顔を青くしながらも、垣根がお金を払う姿を見ていた。

 

「か、垣根?」

 

真守はイチゴ味のかき氷を貰ってスプーンでひとさじ(すく)うと、垣根を見上げた。

 

「食べ比べしよう。ほら、あーん」

 

「ん」

 

垣根は真守からかき氷を貰って食べながら、ご機嫌そうに目を細める。

 

(こ、こうやって少しずつ(よろこ)ばせないと後が大変に……ッ!!)

 

真守はドキドキしながら、祭りブースにいる間に頑張って垣根のご機嫌を取ろうと誓った。

 

そんな真守の決意は垣根にバレバレで、垣根は真守がどこまでやれるかニヤッと笑った。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

真守は自分の行きたいところに行きつつも、垣根が楽しめるように最大限気遣って屋台を巡る。

垣根はそんな真守が愛おしくて、時折いつものようにからかいながらも楽しく回っていた。

 

「あ。垣根、花火だ」

 

真守はわた飴がパンパンに入った袋を持った手で、スクリーンの夜空に打ち上がった花火を指差す。

本当に本物と変わらない花火だ。

学園都市の技術はそれほどまでに発達している。

 

「すごい。綺麗だ、本当に本物と変わらないくらい綺麗だなっ」

 

真守は本物と同じように見える学園都市の技術を称賛して、垣根を見上げる。

その瞬間、垣根は真守の(あご)を引いてキスをした。

長いキスの後、真守は周りに人がたくさん普通にいるのを確認した後、顔を真っ赤にして垣根を見上げる。

 

「だ、だから人がたくさん周りにいるのにちゅーするなって言ってるだろ……っどうしてそう簡単にちゅーするんだっ」

 

真守が何度もちゅーちゅー言って抗議すると、垣根は真守の初々しさに笑いながら告げる。

 

「安心しろ。花火の方見てるに決まってるだろ。現に誰も気にしちゃいねえ。それにお前だって人が見てない時は外でキスしてくるくせに。自分のこと棚に上げて言うんじゃねえ」

 

真守は垣根の言い分を聞いて、顔を真っ赤にしてしおしおと項垂(うなだ)れる。

 

「そうだけど……っでもこんな堂々とされると……やっぱり勘弁してくれ……っ」

 

「自分が不意打ちするのはやっぱりいいんだな、お前。まあいいか、カブトムシ(端末)

 

垣根は真守から視線を外して、虚空へと呼びかける。

 

「たんまつ? 帝兵さんがどうしたんだ?」

 

真守が首を傾げると、突然虚空から垣根帝督が自らの能力で造り上げたカブトムシが現れた。

カブトムシは自身の姿を消す能力を搭載している個体もある。

その内の一体なのだろう。

 

『これでよろしいですか?』

 

カブトムシは呆れた様子で、携帯電話を取り出した垣根に何かを送る。

真守はきょとっと目を見開き、垣根の携帯電話を頑張って覗き込む。

画面には、真守がびっくりした表情で目を閉じている垣根と花火をバックにキスしている写真がばっちり写っていた。

 

「なっ」

 

真守が絶句すると、垣根は携帯電話を操作して深城へと送りつける。

 

「な、なんで深城に送るんだよ!」

 

真守が顔を真っ赤にして垣根に(すが)りつくと、垣根は真守にひったくられる前に携帯電話を浴衣の胸元に仕舞う。

 

「源白がお前の写真を欲しがってたから」

 

「ちゅーしてる写真送らなくてもいいだろ!?」

 

真守が動揺して声を上げていると、垣根は真守が可愛らしくてくすっと笑った。

真守は顔を赤くしたまま、そんな垣根をじとーっと見上げる。

 

「……垣根、すっごく楽しいだろ」

 

「ああ。お前がコロコロ表情変えて楽しませてくれるから、すごく楽しい」

 

垣根は真守の頬に手を添えながら微笑む。

この少女は、本当に色々な表情をする。

からかいたくなるのも意地悪したくなるのも、全て真守が愛おしいからだ。

 

これが本当に欲しかったものだと、垣根帝督は考える。

平穏な時間。温かい気持ち。誰かを想う幸せ。

どうしたって、簡単には手に入れられないものだ。

 

それが今、手の内にある。そして永遠に手から(こぼ)れ落ちる事がない。

 

垣根帝督は本当にそれが嬉しかった。

 

「まったくもう、しょうがないな」

 

真守はふにゃっと笑うと、垣根にぎゅっと抱き着く。

 

「私も垣根と一緒にいられて幸せだ。これからもずぅっと一緒にいられるって思うと、本当に幸せだと私も思う」

 

垣根は自分の気持ちを理解してくれる、小さな愛しい少女の事を抱きしめる。

 

「まだまだたくさん垣根と一緒に回りたい。垣根、付き合ってくれるか?」

 

「お前のためならなんだってしてやる。俺もそれが楽しいから」

 

真守は垣根の手を引いて、夏祭りを全力で楽しむ。

 

そして二人きりで甘い幸せで満ちた夜を過ごして、夜が明けて。

 

真守と垣根は、深城と林檎が待つ自宅へと帰った。

 

深城は幸せを表現するかのように満面の笑みを浮かべて真守と垣根を出迎えて、林檎は垣根が買ってきてくれたお土産に目を輝かせる。

 

ぬくもりや帰るところ。

自分が決して手に入れられないと思っていた、だからこそ知らず知らずのうちに渇望(かつぼう)していた温かい場所。

 

垣根はその大切さを噛みしめて、大切な少女と共に再び様々な事が起こる日常へと帰っていった。

 




A Very Merry Unbirthday:Ⅳ篇、終了です。
次は『人的資源』プロジェクト。
超能力者(レベル5)、集合です。
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