とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

198 / 352
第三四話、投稿します。
次は七月三〇日土曜日です。
人的資源プロジェクト篇、開幕。


新約:『人的資源』プロジェクト篇
第三四話:〈友愛猟師〉は狩りをする


弓箭猟虎は学舎(まなびや)の園を形成する五つの学校の内の一つ、枝垂桜学園の生徒である。

 

今日は友人にバイオリンを聞いてもらうために、弓箭は学校に残っていた。

バイオリンの音色をバックに、校庭から部活に勤しむ学友の声が聞こえてくる。

 

穏やかな日常だ。

それもこれも朝槻真守がいてくれたからこそ、享受できる幸せだった。

 

「ド変態が出ましたわ!!」

 

穏やかな日常。幸福な時間。

だがそれは、突然悲鳴が響き渡った事で、一気に霧散した。

騒然とする校内。バタバタと足音が響き、とても騒がしくなる。

 

「な、なんでしょう。弓箭様……」

 

「へ、ヘンタイというのは殿方のことでしょうか……?」

 

共にいた友人たちは途端に不安に駆られる。

 

「少しお待ちください」

 

弓箭は友人を落ち着かせると、辺りを見回す。

 

「一体どうしたんですか?」

 

弓箭が訳を知ってそうな一人に声を掛けると、少女は興奮した様子で語る。

 

どうやらラクロス部の更衣室に送りつけられた小さな箱の中から、大道芸人風にHENTAIが携帯電話で盗撮していたらしいのだ。

 

「そ、そんな……っ」

 

「学舎の園の警備網を潜り抜けるなんて……そんなお方が外にはいるんですのっ……!?」

 

顔を真っ青にする友人たち。

 

学舎の園のお嬢様は純粋培養で、外にある寮まで専用の高級バスが出ているほどだ。

そのため学校外を全くと言っていいほど知らない。

 

だからこそ、いつかの弓箭を誘ったクラスメイトの言葉が、『今日は学区外を()()しようと思いますの』という風になるのだ。

 

「大丈夫ですわ、皆様」

 

弓箭はバイオリンを丁寧に片付けると、戦々恐々とする少女たちに笑いかける。

 

あくまで丁寧に、だ。人込みや周囲に溶け込む事ができる弓箭は、自分の内で燃える闘志を隠してにっこりと笑う。

 

「わたくしがそのヘンタイを捕まえてまいりますので。これでも得意なんですよ──獲物を狩るのは」

 

弓箭の冷たい言葉に、純粋培養のお嬢様たちは気が付かずに顔を輝かせる。

 

「頼もしいですわ。弓箭様なら大丈夫ですわね……!」

 

「ですが、弓箭様。へ、ヘンタイ……が相手ですのよ。十分にお気をつけて……!」

 

心配する大切な、かけがえのない友人たち。

弓箭はにっこりと微笑んだ。

だが、その目が完全に笑っていない。既に狩猟人の目である。

 

「はい。わたくし、本当に狩りが得意ですから。ですがあなた方の諫言(かんげん)、胸に刻み込んでおきます」

 

(ハチの巣にする……わたくしのお友達を不安がらせ、ご学友が着替えていらっしゃる場所を盗み見る不届き者……絶対にハチの巣に!!)

 

弓箭猟虎。

書庫(バンク)では未だ無能力者(レベル0)として登録されているが、朝槻真守によって能力を強能力者(レベル3)程度にまで伸ばしてもらった波動操作(ウェイブコンダクター)の使い手。

 

そして幼少期に自分の無価値さを知り、なんとかして価値を作ろうとして狩猟民族の狩りの仕方を身に着けた、凄腕の中近距離特化のスナイパー。

 

弓箭は最愛の少女から貰った大切なホイッスルを手に笑顔を浮かべる。

 

暗部組織が解体され、『スクール』として上層部からの仕事を請け負わなくなった彼女にとって、久しぶりの狩り。

 

流石に枝垂桜学園内に装備は持ってきていないが、学舎の園の各所にはスナイパーとして必要な道具が揃えてある。

 

(久々の狩り……ああ、あまり楽しくなってはいけません。そんな風になってしまえば朝槻さんにはしたないと思われてしまいますわ……)

 

弓箭は自分が一番大切にしている友達一号、朝槻真守のことを想ってにやにやとしてしまう顔を抑えようとする。

 

(でも……変態さんなら少し遊んでもかまいませんわよねえ……?)

 

狩人と化した少女は行動を開始する。

 

まずは相手の正体を知るために、ラクロス部の更衣室に向かうべきである。

狩猟民族の狩りの仕方を覚えている弓箭は、少しだけの痕跡からも人を追うことができる。

しかも今は波動操作(ウェイブコンダクター)という能力が手の内にある。証拠を見つける事は容易い。

 

弓箭は静かに、それでも迅速に歩き出した。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

枝垂桜学園のラクロス部の更衣室に、小さな箱に入れられて学舎の園に侵入した男。

 

それは、上条当麻だった。

 

上条は多角スパイ、土御門元春の手によって学舎の園へと送り込まれたのだ。

 

その目的は精神を破壊して情報を吸い取る力を持つ霊装、『明王の壇』という護摩壇を右手の幻想殺し(イマジンブレイカー)によって破壊するためだ。

 

だがよりにもよって潜入させられたのがラクロス部の更衣室だったので、女の子たちに覗きをしていたと間違われており、絶賛逃亡中だった。

 

掴まったら八つ裂きにされる。

 

お嬢様は男子禁制の花園で純粋培養された大変おしとやかな少女たちが多いが、女子校内には一定数の割合でアマゾネスのように野蛮で獰猛な女の子たちがいる。

 

そんな女子たちを主に怒らせちゃった上条当麻。

(いか)れる女子生徒たちに追われているのに、『明王の壇』を探せるわけがない。

しかも途中でビリビリ中学生こと、御坂美琴に見つかってしまったのだ。

 

慌てて逃げる上条。すると──何故か、黒髪おかっぱの女子中学生が味方になってくれた。

 

おかっぱ頭の中学生は超能力者(レベル5)の食蜂操祈が心理掌握で操っているのだが、食蜂は上条に一々説明しなかった。()()()()()()である。

 

流石の上条当麻も不思議に思いながらもこれ幸いとして、おかっぱ頭の彼女に全面的に援護してもらう事にした。

 

花束に(まぎ)れ込んで運んでもらった上条は、とりあえずおかっぱ頭の少女に学舎の園の地図があるところへと案内してもらった。

花の匂いではなく草の青臭さに包まれた上条が花束から顔を出して案内板を見つめる。

 

「何だこりゃ? 半分以上のブロックが灰色に塗りつぶされているじゃないか」

 

上条の呟きの通り、その案内板は大半が灰色の枠に囲われて塗りつぶされていた。

どこにどんな施設があるかなんて分かったものではない。

これでは案内板として置いておくのも、意味がないほどだった。

 

「そりゃそうよぉ。各校は『学舎の園』を共同運営していると言っても同時にライバル関係でもあるんだからあ。情報の価値を知っている人間なら、校内の詳細な見取り図まで公共ゾーンにポンと置いたりしないわよお」

 

この状況は困ったものだ。

 

『明王の壇』を学舎の園に持ち込んだ梅咲優雅が、護摩壇をどこに設置するかは分からない。

それでもおそらく和風な骨董品があっても目立たない施設や死角に、その人物は『明王の壇』を設置すると上条は睨んでいた。

 

だから和風な骨董品などがあってもおかしくない施設を当たろうと考えていたのだが、どこにどんな施設がどこにあるか分からない以上、その作戦は通じない。

 

いきなり問題にぶち当たってしまった。

 

それでも上条はめげない。何せ学舎の園の少女たちの命運を握っているのだ。

 

「これだと、五つの学校の見取り図が全部いるな。結局、虱潰しに全ての校舎に忍び込むしかないってのか……!?」

 

上条が(うめ)いていると、女子中学生を操っている食蜂操祈は『くすくす』と口に出して笑いながら微笑む。

 

「あらあ? それならやっぱりあなたは御坂さんではなく私と組んだ方が正解力だったかもしれないわねえ」

 

「なに?」

 

「五つの学校の見取り図が欲しいんでしょ? 私なら難しくないしい。……何しろ、この子も含めて全ての学校には私のプリセットを受けた生徒がいるんだから」

 

どうやら食蜂は学舎の園にある五つの学校に、それぞれいつでも操れるように能力を仕込んでいる生徒がいるらしい。

スパイ的な事ができたり、人を操っていたりで色々と大問題なのだが、今ここでその問題について考えている場合ではない。

 

「用意できるなら頼む。多分アンタには理解できないだろうけど『学舎の園』のタイムリミットは……後九〇分もない。できれば今すぐにみんなに避難してもらいたいけど、今の俺はそれを促せるような立場にない」

 

「はいはい信じるわよお。あなたがそうと言ったらそうなんでしょうしぃ」

 

妙に物分かりがいい少女に上条は顔をしかめるが、少し間が開いた後、おかっぱ頭の少女の口を借りて、精神を操る女王は上条に告げる。

 

「今、リモコンで指示を出して回っているから、五分一〇分でみんな地図持って集合すると思うけどお」

 

おかっぱ頭の女子中学生が告げた瞬間、花束を持っていた女子中学生の腕首が撃ち抜かれた。

 

「い!?」

 

パシュン、と何かが撃ち抜かれた音が響く中、上条は花束を持っていられなくなった女子中学生が花束を落としたので、地面へと転げ落ちる。

 

「撃たれた!?」

 

上条が腕を撃ち抜かれた衝撃で倒れたおかっぱ頭の少女の上に、即座に(おお)いかぶさって辺りを警戒していると、女子中学生は痛みを物ともせずに告げた。

 

「弓箭さぁん。分かってるから出てらっしゃぁい。この人は朝槻さんの友人よぉ。いま、朝槻さんと一緒に行動力を発揮してるんだからぁ」

 

「!?」

 

上条が自分の友人の事を知っている第五位と自称する少女に驚いていると、女子中学生は目線で上条を見て落ち着くように(うなが)す。

 

すると、少女の声だけが響いた。

 

『あらあらぁ。わたくしや朝槻さんのことを知っているとはどういうことですかぁ?』

 

声の主は分からない。

上条が何らかの能力なのかと考えていると、女子中学生が口を開いた。

 

「妙な物品が『学舎の園』に送り込まれたの。だからこの人が身を削って侵入力を発揮したのよぉ。上条さん、朝槻さんはいまどこにいるのぉ?」

 

上条は冷や汗を垂らしながらも、毅然としている少女を守りながら叫ぶ。

 

「いま朝槻は垣根と一緒に厄介な機動力を持った魔術師を追ってるんだ! 俺は『明王の壇』を一人で破壊できる! だからこっちに送り込まれたんだ! ただ朝槻と垣根はいまどっかに潜ってて()()()()()()()()()()って言われてて! でも俺は信じてる。だから朝槻に任せてこっちに来たんだ!」

 

弓箭は上条当麻の叫びを聞いて、建物の陰から考える。

能力を使って声だけを届けさせる事が、今の弓箭には容易だ。

だからこそ彼らを視認できるが、彼らは自分を視認できないところで弓箭は一人考える。

 

(あの人、確かに朝槻さんのクラスメイトです。結構な親しさがあったし、垣根さんとも面識があったはず)

 

弓箭は真守の事が大好き(表現控えめ)なので、もちろん真守の交友関係を網羅している。

だが真守の友人だからと言って、少年の全てをすぐに信じるわけにはいかない。

 

何故なら学舎の園へ侵入するならば、ラクロス部の更衣室にわざわざ箱を送りつけなくてもいいはずなのだ。

絶対に悪意がある。一〇〇%。間違いない。

 

だが上条当麻が真守や垣根と共闘しているのであれば、見過ごせるわけがない。

そのため弓箭はとりあえずの方針を決めた。

 

『分かりました。その話はひとまず信じます。ですが妙な動きをしたら一瞬でハチの巣にされることをお忘れなく』

 

「わ、わかった!!」

 

上条が頷いたのを見て、弓箭はスナイパー用の装備を整えた胸を強調した服装で上条とおかっぱ頭の女子中学生に近づく。

 

「弓箭猟虎です。これから共闘するのに血の匂いをされては困ります。手当てしますから手を出してください」

 

弓箭はおかっぱ頭の少女の撃ち抜かれた手を取ると、少女は目を細める。

 

「あなた、噂に聞くより容赦ないのねえ」

 

「……どんな噂か気になるところですが、先に治療しますね」

 

弓箭は冥土帰し(ヘブンキャンセラー)印の軟膏を取り出すと、処置をする。

 

「それで、あなたはどこの誰なのですか?」

 

弓箭が治療をし終わると、少女は手の動作に支障がないか確認してから、横ピースをする。

 

超能力者(レベル5)、食蜂操祈よぉ。よろしくねえ、波動操作(ウェイブコンダクター)の弓箭猟虎さん」

 

「むむぅ。わたくしの能力や直近の事情まで知っているのが気になるところですが、あなたは垣根さんや朝槻さんと同じ超能力者(レベル5)ですし、常盤台には知り合いがいますし……いますし……いいでしょう。行きますよ!」

 

弓箭は女子中学生の事を抱き起こしながら、安堵している上条にビシッと指を突きつける。

 

「ただし! わたくしのご学友を翻弄した罪は償ってもらいますからね!!」

 

「だからそれ俺のせいじゃねえんだようっ土御門のせいなんだようっっ!!」

 

上条はこの件が終わったら警備員(アンチスキル)に連行されるのか戦々恐々しながら、『土御門のヤツ、何でもできる女子な朝槻を学舎の園に寄越してくれれば良かったのに……追跡するのに機動力が必要だからって……なんで俺がぁ……』とぶつぶつ呟く。

 

こうして『スクール』弓箭猟虎、食蜂操祈(おかっぱ頭の女子中学生を操った状態)、上条当麻は『明王の壇』を探すために協力することになった。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

弓箭たちは度重なる上条の罪状を積み重ねつつも、『明王の壇』がありそうな白羽社交応援会へとやってきていた。

 

白羽社交応援会とは学生主導の非公式サロンで、メンバーは二〇人前後。

 

弓道の自主練集団みたいなものだが、実態は金融取引を軸とした大企業へのコネ作りのために動いている連中だ。

 

「『明王の壇』……どこだ? この建物の中にあるはずなんだ。梅咲優雅はここに送りつけた! 護摩壇とかいう火を焚くための道具。どこにあるかさえ分かれば、右手一本で壊せるはずなのに!」

 

弓箭は純和風に整えられた白羽社交応援会の建物内の痕跡を辿る。

 

「純和風の骨董品として扱われているものが、学舎の園の荷物搬入ゲートからここに送られていますしぃ。そういうものがあるにはあると思いますけど……」

 

弓箭は狩猟民族の狩猟術を使って辺りを見回しながら呟く。

するとおかっぱ頭の少女が目に浮かべた星をキラキラさせたまま、首を傾げた。

 

「探し物は見つかる気配力ありそうなわけぇ?」

 

「絶対にここで見つけなくちゃならない! 壊す事自体は簡単なんだ、壊すこと自体は。でもリミットまでになんとかしないと、『学舎の園』が丸ごと壊滅しちまう。それだけは絶対に避けなくちゃ……」

 

弓箭は本気で焦っている上条を見つめて、小首を傾げた。

 

「……何か、おかしくないですか?」

 

「え?」

 

上条が声を上げると、弓箭の言葉に食蜂も頷く。

 

「ええ、おかしいわねえ。影も形もない。尻尾の先も見つからない。……これって精神絡みの能力を持ってしまった私特有の弊害かもしれないけれどぉ、私だったらまず与えられた情報を疑うわねえ」

 

「いえいえ。食蜂さんだけではないですよ。だって、何でもできる朝槻さんと万能の塊である垣根さんがこんな簡単なことで手こずると思えないですし。そもそもその連絡してきた人ってどうしてここまでほったらかしにしているんですか?」

 

弓箭が真っ当な疑問を浮かべると、上条は顔をしかめる。

 

「しかも、どうして朝槻さんと垣根さんに絶対に連絡を取ってはダメだと念押ししたんですかぁ?」

 

弓箭の問いかけに上条は沈黙する。

確かに、あの用意周到な土御門らしくないという感じはあった。

それでもまさか、と思っていた上条は、ふと学園都市の空に浮かんでいる飛行船に目が行った。

 

『第七学区で火災のニュース。学生寮の一室が半焼。死亡したのは一名、同室を利用していた土御門舞夏さんと確認。事件、事故の両面から調査を開始』

 

そのニュースを見て、上条当麻は固まる。

土御門舞夏とは土御門元春が大事にしている義理の妹のことだ。

彼女が、死んだ。

そのニュースがやっている。

 

アレを、兄である土御門元春が知らないとは思えない。

 

「何が……どう、なっているんだ……?」

 

上条が呆然としていると、同じく飛行船を見上げていたおかっぱ頭の少女が呟く。

 

「だからあ。例えばあ、適当な口実力であなたを『学舎の園』っていう檻に閉じ込めてから、学園都市で何かやらかそうとしているとかあ?」

 

上条は思考が上手く定まらない。

とりあえず、現状を知るために、上条は学舎の園から脱出する事を目的として動き始めた。

 




『人的資源』プロジェクト始まりました。
弓箭ちゃんが生きているという事は……と考えた結果こういった内容になったのですが、書いているのが想像以上に楽しかったです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。