とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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連続投稿です。
少し長め。キリの良いところがなかった。


第二話:〈日常風景〉と不穏な影

第七学区にあるマンモス病院。

 

そのとある多人数部屋の病室が、真守と深城の住居だった。

多人数用の部屋には風呂とトイレがあるのは勿論だが、簡素なキッチンもついており、室内はパーテーションで区切られている。手前が深城、奥が真守のスペースだ。。

 

真守は自分が所属する高校のセーラー服を着ると、鞄を持って奥から出てきた。

そして、ベッドに横たわって眠っている深城を見つめた。

 

深城が一二歳であった『あの時』から成長が停まっている深城の身体に、深城の意識はない。

 

五年前から一度たりとも、深城の意識がこの身体に戻った事はない。

 

『真守ちゃーん。私の姿見て何思ってんのぉ?』

 

深城を見て動かない真守に声をかけたのは、真守の着替えるところを宙に浮いて見ていた深城だった。

 

「ごめんな、深城」

 

真守が本当に申し訳ないと謝るので、深城は悲しそうに微笑んでから真守を慰めるために近づいた。

 

『……なんで謝るの?』

 

優しく自分を見つめる深城をじっと見上げてから、真守は至極真剣な表情で告げた。

 

「私の力がもっとあれば……。──深城は絶壁のままじゃなかったのかもしれない」

 

『まーもりちゃあああああん!!』

 

深城は胸元をバッと抑えて、真守の耳元で叫ぶ。だがその声は正確には音ではないので、真守の耳が壊れることはなかった。

脳に直接響いてはいるが。

 

『もうっなんで真守ちゃんは私のコトをカラダネタでイジるのかなあ!? 真守ちゃんはいいよねえ、体を成長させるためのエネルギーを自分で補填できて!』

 

深城は真守の能力について言及する。

 

消えた八人目の超能力者(レベル5)流動源力(ギアホイール)

 

それはあらゆるエネルギーを生み出す能力だ。

 

真守はこの世で真守だけが生成できる全ての源である、源流エネルギーを生成することができる。

 

そしてその源流エネルギーに指向性を付与する事で、電気、熱量、運動量、その他この世で発見されながらも明確に定義されていない生命力──人間が生きていくために必要なエネルギーなど、あらゆるエネルギーを生成できる。

 

そのため真守は能力によって、体の成長を促進させるためのエネルギーを自分で生成できる。

 

『でもでも、知ってる! 真守ちゃんはおっぱいはおろか、自分の身長にまで無頓着なんだよ! どこまで成長させていいか分からなかったから、G〇〇gle先生に聞いて理想の女性の体型にしたの知っているんだから! でもでも、そこから成長分考えなかったから一㎝伸びてるし! 恵まれてる能力なのにその力を適当に使ってるところがムカつく!』

 

 

真守は深城の愚痴を聞きながら、キッチンの冷蔵庫から経口補水液が入ったストローボトルを三本取り出して、二本を鞄に仕舞う。

そして手に持っていた一本を開けて口を付けながら、深城を見た。

 

「私は自分の体に興味がない。それに深城の体にも興味がない。そしてそして、他の人間の体にも興味がない」

 

『……じゃあなんであたしのこと、カラダネタでイジるの?』

 

「深城の反応が面白いからだ」

 

真守がケロッと告げると、そんな真守に向かって深城は殴るように手をぽかぽかと振るう。だがその手が真守の身体に触れることはなく、虚しく真守の体をすり抜ける。

 

真守は他の人に見えない深城と共に病院内を歩いて、とある診察室を開ける。そして、そこに座っていたカエル顔の医者──冥土帰し(ヘブンキャンセラー)を視界に入れた。

 

 

「先生、学校行ってくる」

 

真守が声をかけると、冥土帰しが真守にゆっくりと諭すような口調で声をかける。

 

「経口補水液は三本持ったかい?」

 

「ちゃんと持ってる。……でも一日くらい欠かしても私の内臓は退化しないぞ」

 

「衰えるといざという時に普通の食事ができなくなるよ? というか、僕的にはきちんと普段から食事を摂って欲しいんだがね?」

 

「いつでも食べられるようにしてるだけ偉いと思ってくれ」

 

真守は冥土帰しにそう言ってのけると、冥土帰しは肩をすくめた。

 

「行ってくる」

 

真守が冥土帰しに手を振ると、冥土帰しは手を振り返して真守を見送った。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

真守が教室の扉を開いた瞬間にすぐさま目の前に広がったのは、人の背中だった。

 

真守は驚きも身じろぎもせずに、それを見つめていた。

 

そして真守の身体に人の背中が触れそうになった瞬間、その誰かは真守が身に纏っていた見えないエネルギーのシールドに弾き飛ばされた。

と、同時にガキガキッ! と、歯車を強引に噛み合わせるような音が響き渡り、蒼閃光が迸る。

 

「土御門、邪魔だ」

 

真守は自分に吹き飛ばされて地面に顔をこすりつけ、お尻を天井に高く上げてへたりこむ金髪アロハシャツ男──土御門元春の横をすり抜けながら自身の机へと向かう。

 

そんな土御門にクラスのクラスの三バカ(デルタフォース)と呼ばれる青髪ピアスと上条当麻が近づいた。

 

「ふぉぉぉぉぉ! 土御門、お前なんちゅーヤツや! あの『塩対応の神アイドル』である朝槻さんの大能力者(レベル4)力量装甲(ストレンジアーマー)に弾いてもらえるなんて!」

 

「朝でテンション下がってるとかそういう事関係ない、ナチュラルな塩対応流石だな、朝槻! つーか、土御門! ケツヒクヒクしてる場合じゃなくて朝槻にきちんと謝れよ! 朝槻が能力者じゃなかったらちょっとしたお色気シーン(ハプニング)だったぞ!」

 

「うにゃ!? そ、それはそれでよかった気がしなくもない感じだぜい……! ……あ、ごめんなさい、朝槻さま! そんな冷たい視線を向けないでください! 我々の業界ではご褒美ですにゃー!!」

 

真守が汚泥で産卵する羽虫を見つめるかのような軽蔑の視線で土御門を見ると、土御門はぞくぞくっと背中に快感が走ったのか興奮した様子で体をくねらせた。

 

真守は相手にするだけ無駄なので無視すると、自分の机に座った。

その真守の冷たい無視すら、神アイドルの塩対応だと歓喜される辺り、本当にふざけている時のあいつらに関わるとろくなことがない。

 

深城は学校にいてもやる事がないので、今頃どこかで遊び惚けていることだろう。

真守は自分の席に座って大切な少女の事を思いながら一人、ストローボトルから経口補水液を飲みながら初夏の空を見つめていた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

暗部組織『スクール』のリーダー、垣根帝督とその構成員である心理定規(メジャーハート)は、消えた八人目と噂される超能力者(レベル5)流動源力(ギアホイール)が入院しているという病院を訪れていた。

 

「ここか? その消えた八人目とやらが入院してんのは」

 

「そうね。でもまさか、昏睡状態だとは思わなかったわ。だからランク付けもされていないのかしら?」

 

「そんな人間が『第一候補(メインプラン)』だとか普通なら考えられねえが、今の学園都市の技術なら、本人の意志に関係なく能力使わせる事くらいできる。意識があろうとなかろうと構わねえはずだ」

 

垣根は学園都市の上層部の思惑を推察しながら、心理定規と共に病院に入って受付へと向かった。

 

「入院している源白(みなしろ)深城(みしろ)に面会に来た」

 

受付のナースは垣根の言葉に目をぱちくりとする。

 

「ええっと、源白さまですか?」

 

「ええ、源白深城さん。彼女、私の古い友人なんだけれど今の彼女について聞いてもいいかしら?」

 

心理定規は問いかけながら、流れるように能力を発動した。

 

心理定規(メジャーハート)──他人に対する心理的な距離を識別し、それを基に相手の自分に対する心理的な距離を自在に調整できる能力だ。

 

これにより拷問などをしなくても他者から情報を抜き取ることができるという、非常に便利ながらも厄介な能力である。

 

そして、現在。

心理定規とナースの心の距離を近づけて親友と設定する事により、口を軽くさせようとしていた。

 

「源白さまの古くからのご友人だと知らなかったわ。朝槻さま以外にご友人がいらっしゃったなんて」

 

心理定規の思惑通り、ナースは柔らかく微笑む。そして即座に彼女の情報を口にした。

 

「朝槻さま?」

 

心理定規は柔らかく微笑んで問いかけると、ナースは気軽に個人情報をぺらぺらと喋る。

 

「ええ。朝槻(あさつき)真守(まもり)さまと言うの。源白さまの主治医が源白さまと一緒に引き取った女の子で、源白さまと同じ病室に入院しておられるのよ」

 

「それは知らなかったことだわ。詳しく教えてくれるかしら?」

 

心理定規が源白深城の身辺に興味が出て訊ねると、ナースは懐かしむように目を細めた。

どうやら、古くから彼女たちを知っているらしい。

 

 

「二人共置き去り(チャイルドエラー)で、どこかの研究所の施設に入っていたとか。そこで源白さまが瀕死の重傷を負って、朝槻さまが源白さまをこの病院に連れてきたの。朝槻さまも内臓器官に重度の発達障害が見られていて、治療をする必要があったのよ。でも施設を抜け出したことによって身寄りがなかったから、お二人を診た主治医が引き取って、そのままこの病院に入院しているのよ」

 

垣根はナースの口から軽やかに告げられる、源白深城と朝槻真守の過去に衝撃が隠せない。

嫌な記憶が蘇ると共に、吐き気がした。

人体実験の横行する研究所に所属させられた置き去り(チャイルドエラー)

そこで際限なくすり潰されていく命。その異常に誰も彼もが慣れており、誰が死のうが気にも留めないし、そんな存在はいなかったと、知らないと口々に告げる。

そこから逃げ出した彼女たちの行動力は()()()()()にはできなかったことだった。

 

「……その施設はその後、一体どうなった?」

 

主導権を心理定規が握っているのに、垣根は思わず施設がどうなったか気になって問いかけてしまった。

 

「どのような経緯かは不明ですが、既にないそうですよ」

 

ナースはにこやかに垣根に笑いかけた。

 

源白深城。

上層部が制御しきれないで、ランク付けできずに放置していた能力者。

つまり研究所を破壊するほどの制御が利かない人間だったが、昏睡状態になって身動きが取れないので超能力者(レベル5)のランク付けなどする必要がないので放置しているという事らしい。

 

「そうなの。最近の彼女を知らなかったから教えてくれてありがとう。部屋を教えてくれるかしら?」

 

「ええ」

 

垣根が源白深城について考えていると、ナースはテキパキと事務手続きを行う。

 

垣根と心理定規は入院病棟を歩く。

 

そして、とある病室の前に立ち止まった。

 

『朝槻真守 源白深城』

 

確かにそこにはナースが言っていた二人の少女の名前が書かれていた。

躊躇なく病室の扉を開く。二人部屋と言っても多人数部屋として扱われている部屋なので、思ったよりも広かった。

 

病室とは思えないほどに生活感に満ちている。

中はパーテーションで分けられており、奥は見えなかったが、黒猫をモチーフとしている少女趣味のグッズが多かった。

 

 

そして、手前のベッドに目的の少女がいた。

 

一二、三歳前後の少女だった。

身じろぎ一つしたことがないとも言いたげな程に、綺麗に横たわっている少女。

薄く桃色づいた髪は綺麗に伸ばされており、艶めいていることから丁重に扱われているのだろう。

 

幼さが残る表情は愛らしい。

ふっくらとした体つき、病人とは思えない健康体。

 

 

だが、垣根にはそれが不気味に思えた。

ゾッと背筋が怖気だつほどに。

 

死んでいるようだった。

 

バイタル値が生きていることを証明しているが、そこに生気は一切感じられなかった。

 

何故生きているのかと思うほどに、死の気配がその少女に満ち満ちていた。

 

その様子は自分の手からこぼれ落ちていった『あの子』を連想させる。

 

自身の手の中で冷たくなっていく温かく柔らかな肉体。

人間の生気が全て消え失せて、今まで動いていたのだと考えるのも恐ろしくなるくらいにひたひたと近づいて蝕んでいく死の気配。

 

もう動かないからだ。

もう笑いかけてくれないかお。

そして、もう動かないくち。

 

あの時のあの子に、目の前の少女は非常に似ていた。

 

あの子のことなんてもうとっくに克服したはずなのに、消えた八人目の源白深城を眺めているとそのトラウマが蘇る。

 

「ちょっと、大丈夫かしら?」

 

心理定規が固まってしまった自分の顔を心配そうにのぞき込む。答えない垣根に心理定規はため息をつきながらも、場を繋ぐように呟く。

 

「無理もないわ。私も流石に衝撃的よ。こんな状態の人間と一緒に暮らすのは正直ごめんね。これは一緒に生活している朝槻真守も相当頭のネジが外れているみたいだわ」

 

「……大切な人間が生きているに越したことねえだろ」

 

「え?」

 

小さく呟いた垣根の言葉を心理定規は聞き返すが、垣根は首を振った。

 

「なんでもない。こんなガキが消えた八人目だとは思わなかったな」

 

「……その子、一八歳らしいわ」

 

「なんだと?」

 

心理定規はナースから善意によって借り受けた、受付で使う身体的特徴が書かれた書類を読む。カルテは流石に主治医の部屋にあると思うのだが、電子カルテにはご丁寧にロックがかかっているので奪えなかった。

 

「体の成長が止まっているらしいわよ。恐らく実験の弊害ね」

 

垣根の目の前の横たわる少女の暗い過去が浮き彫りになる。

 

「……おい、とりあえず物色しろ」

 

「自分が物色するのは流石に不味いから?」

 

「バーカ。俺は奥の朝槻真守ってヤツのスペース見てくんだよ」

 

心理定規がからかうように笑うと、垣根は苛立ちを隠さずに罵倒した。

 

肩を竦めた心理定規に源白深城は任せて、垣根はパーテーションで区切られた奥に行く。

そちらも生活感で満ちていたがどこか殺風景で、持ち主の性格が物に頓着しないことが伺えた。

 

デスクにはPC、教科書が乱雑に置かれていて棚には多くの本が並んでいた。

その多くが宗教に関する本だった。

 

「十字教徒なのか?」

 

垣根は本を一つ棚から抜き出す。

そこには、『ギリシア神話 神統記』と書かれていた。他にも『天使図鑑』『天国・地獄』など多数の本が並んでいた。

 

「学園都市の人間なのにオカルト好き? 変わったご趣味だな」

 

垣根は鼻で嗤って棚に本を戻す。そして、据え置き型のPCの電源を入れてみるが、そのPCにはロックがかかっていて使えなかった。

 

どうやら情報関連に朝槻真守は明るいらしい。

多重ロックがかかっていることから、恐らくハッキングしたら確実にバレるだろう。

 

「誉望を連れてくるべきだったか。まあ、様子見だな」

 

垣根はPCの電源を落として、周りを見る。

 

少女が使うにはハイブランドの化粧品。ここまで高いものを使えるということは、朝槻真守は高位能力者らしかった。

 

何故ならこの学園都市では能力の強度によって金銭的地位が決まる。

能力が優秀なほど研究所に声を掛けられやすいし、能力に価値があれば奨学金も自ずと多くなる。

 

朝槻真守の生活環境から、垣根はそう推測できた。

 

垣根は棚の上に薬の袋が置いてあったので、自然とそれを手に取る。

 

中には錠剤やら無痛注射針(モスキートニードル)を使う薬やらが入っているが、専門知識を要する薬のため何の薬だか分からない。

そのため薬の名称を全て記憶してから、垣根は薬の袋を基に戻した。

 

次に目を上げると、コルクボードには学園都市の風景を撮った奇妙な写真が貼られていた。

 

だがどれにも整合性がなく、何故この景色を撮ったのかと疑問に思うほどの日常風景が写真に収められていた。

 

クローゼットも一応開けてみたが、中には全てハイブランドで白と黒にまとめられた服が入っているだけで、特に変わった点は見られない。

 

……ちなみに、下着類が入っている棚は流石に開けてない。男のプライド的な意味で。

 

本人の写真が一枚でもあるかと思ったが、どこにもないのでどんな人物か分からなかった。

 

だがこの生活風景を見る限り、朝槻真守は一般人として生活しているようだった。

 

垣根がパーテーションで区切られた奥から出てくると、心理定規が興味深そうに源白深城のタンスをチェックしていた。

 

「他の女の趣味が気になるのか?」

 

「それもあるけれど。この子が持っている服、全部オーダーメイドの高い服だわ。これは同室の子がこの子のためにわざわざテーラーに任せて買っているのね」

 

「それがどうした」

 

「愛されているって事よ。よっぽどこの不気味な子が大事なのね」

 

「……まあ、瀕死の重傷の人間を研究所から連れ出すんだ。執着はあんだろ」

 

垣根は朝槻真守の異常性を認識しながらも、納得することはできる。

 

自分の生きがいである人間が生きているだけで活力になる。

だから朝槻真守の感性は間違っていない。

 

「それで? この子の息の根を止めるの?」

 

「は?」

 

心理定規の疑問の意味が分からずに、思わず垣根は首を傾げる。

 

「だってこの子が『第一候補(メインプラン)』なのよ。ここで殺せば『第一候補(メインプラン)』の座から引き下ろすことができるわ。それが一番簡単じゃない?」

 

垣根は死にかけの少女を睥睨する。

 

確かに殺意を向けている自分の目の前で、悠長に眠りこけてる超能力者(レベル5)を殺すことは簡単だ。

 

だがこの少女を殺したら、朝槻真守はどう思うだろうか。

 

ここまで死に体の少女を後生大事に扱っている。

 

もし、ここで源白深城の息の根を止めれば、朝槻真守は絶望するだろう。

 

まだ見ぬ少女だが、垣根は彼女の気持ちが痛いほどわかる。

 

自分も過去に同じ経験をしているからだ。

 

確かに朝槻真守の直面した現実は学園都市に星の数ほどに存在する、ありふれた悲劇だ。

 

だが、その悲劇は本人にとって非常に痛ましく、根強く自身を縛るものだ。

 

「とりあえず様子を見る。コイツの能力の詳細すらわかんねえんだ。まずは情報収集をする。それにこんな死にかけ俺はいつでも殺せる」

 

「それもそうね。病院って言っても不用心にもほどがあるから。一応ここはVIPルームらしいけれど、私の能力の前じゃ意味ないし。でもどうやって情報集めをするの?」

 

「この死にかけを後生大事にしている朝槻真守から当たる。普通に学校通ってんだ。情報は倉庫(バンク)にも学校にもあんだろ」

 

「まあ、あなたと同じ学生だものね」

 

「俺のことはどうでもいいだろ」

 

垣根は源白深城を睥睨する。

 

アレイスターの『計画(プラン)』の要である『第一候補(メインプラン)』。

 

利用されるために事情を知らずに朝槻真守によって生かされている、悲しきモルモット。

 

「悲劇のヒロインなんてこの学園都市に腐るほどいんだよ」

 

垣根は源白深城が特別じゃないと吐き捨てて、病室を心理定規と後にした。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「面会?」

 

真守が病院に帰ってくると、顔見知りのナースにそんなことを告げられた。

 

「ええ。女子中学生と男子高校生よ。源白さまの古い御友人ですって」

 

「……知らない」

 

真守は不快感をあらわにしながら眉をひそめる。

 

深城に古い友人なんていない。いるわけがない。

あの子は置き去りで、研究所でずっと自分と一緒だったから、古い友人なんて存在は絶対にいない。

 

真守は自然と辺りに深城がいないか探すが、今日は昼休みの時に第六学区の水族館に行ってくると言っていた。しかもナイトショーまでばっちりと見ると豪語していた。絶対にいないと分かっているのに、真守はそれでも異常事態が起こっていて深城の姿を思わず探してしまった。

 

「どんな外見だ? 私も一度くらいは会ったことあるかもしれない」

 

真守の問いかけに、ナースは面会者の外見をつらつらと説明する。

 

「スーツを着た男の子とドレスを着た女の子。全体的に高級志向で、すっごく遊んでそうな雰囲気があるけれど、とっても綺麗な子たちだったわ」

 

「なんだそれ。ホストとキャバ嬢?」

 

「違うわよ、どう見ても未成年だったわ」

 

真守が吐き捨てるように問いかけると、ナースは真守の冗談にクスクスと笑った。

 

「名前は?」

 

別に冗談じゃない、と真守が心の裡で思いながらも、病院に来たのだから名前が分かるはずだとナースに訊ねた。

 

「名前? ええっと、確か……あら。何てことしたのかしら、私。聞きそびれちゃったわ」

 

真守はナースの不可思議な様子に目を細めて、警戒心を露わにした。

 

「……記録は?」

 

「ちょっと待ってね。……あら。私記録もしてないわ。どうしましょう、なんでこんなことに……」

 

真守は慌てるナースを見て黙る。

 

この病院のナースたちは教育が行き届いているため全員勤勉だが、そんなナースの中でも彼女は輪をかけて勤勉だ。

 

普通なら、絶対に彼女が聞き忘れたり記録をし忘れるなんてことはありえない。

 

「用意周到だな」

 

真守はぽそっと呟く。この様子だと病院内にある監視カメラは意味がないだろう。

人間を操れる精神操作系能力者だから、監視カメラも人を操って消去させればどうとでもなる。

 

「一体、誰だ?」

 

真守は警戒心を露わにする。

許さない。自分と深城に悪意持って近づく人間は許さない。

 

そもそも、真守は自分を利用しようとするヤツは即座に潰す事にしている。

今後一生自分に刃向かえないように、完膚なきまでに叩き潰す。

 

敵に容赦がない真守だが、真守は人間が優しいことを知っている。

 

その優しさによって、自分が生かされていることを知っている。

 

だから、殺すということはしない。

叩き潰すのは心であり、身体的ではない。

 

誰だって改心する事ができる。

 

なんせ、世界を呪って壊そうとした真守を深城が改心させてくれたからだ。

 

深城がいなかったら真守は衝動的に犯した殺人を省みることなく、そのまま止まることなどできずに殺人を犯し続けてこの学園都市を崩壊に追い込んでいた。

 

深城がいてくれたから。

 

深城がずっと一緒にいてくれたから。

 

真守はこうやって陽の光の下を歩けるのだ。

 

真守にとっての『光』であるその深城を利用しようと近づく者は許さない。

 

 

「絶対に叩き潰す」

 

 

真守はぽそっと言葉を零して決意を新たにして、行動するために自分の病室へと帰って行った。

 

 




真守ちゃんは上条たちと同じ高校でクラスメイトです。
クラスのマドンナという種類ではないけれど高位能力者という事もありアイドル的存在。



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