とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第三九話、投稿します。
次は八月一四日日曜日です。


第三九話:〈新生英雄〉は立ち上がる

垣根帝督と恋査は、音を置き去って音速戦闘を始める。

 

博物館エリアの恐竜の骨格標本は次々と余波で粉々になり、強化ガラスの展示ボックスは無残にも砕け散る。

 

博物館エリアを吹き飛ばさんばかりの高速戦闘にフレメアは悲鳴を上げて、真守はそんなフレメアを小さい体で支えた。

 

「ひひひ☆ オレは前の恋査と違って五感で追えない領域にビビったりはしねえ。どっちかっつーと演算派でな、机上の空論が組み上がれば命だって預けられる! だからこの速度域にも躊躇しねえ、やーっぱ超能力者(レベル5)ってなあこういうもんだよなあ!」

 

「勝手に超能力者(レベル5)を推し量るんじゃねえよまがい物!」

 

垣根は苛立ちを込めて、恋査に未元物質(ダークマター)でできた三対六枚の純白の翼を叩きつける。

 

だが恋査が使っている源流エネルギーを基にした推進ジェットはこの世で最も効率よく、そして小回りが利くエネルギーだ。

 

そのため当然として避けられてしまう。

 

垣根は舌打ちをしながら、博物館エリアを縦横無尽に駆け回って恋査と錐もみする。

 

あの音速を超えた高速戦闘についていける人間は数少ない。

真守も普通ならば対応できる。

それどころか、恋査に何もさせずに完封することができる。

 

だが真守は現在幼女の姿で、その力をフルに発揮できない。

できることをする。

真守はそう考えると能力を解放し、蒼閃光(そうせんこう)で造り上げられた猫耳と尻尾を出す。

 

そしてフレメアと自分の周囲に源流エネルギーでシールドを張って、防御姿勢に入った。

 

そんな中、上条当麻はその場から駆け出し、ダンッ! と、大きく踏み込んだ。

 

上条は右手の幻想殺し(イマジンブレイカー)を宿した拳を構える。

幻想殺し(イマジンブレイカー)に触れられてしまえば、真守の能力を使っている恋査はコントロールを失う。

 

垣根がそこを狙って攻撃を加えればいいし、上条当麻の拳が実際に当たらなくても無意味にならない。

 

何故なら恋査は空間を把握した演算処理によって能力を発動し、音速戦闘を実現している。

上条当麻に気を逸らされれば、机上の空論のリソースを少し持って行くことができる。

 

「チッ!」

 

恋査は突然乱入してきた上条を警戒して、音速戦闘の挙動を変更させる。

 

「隙見せたなこのクソサイボーグ!」

 

垣根は未元物質(ダークマター)の翼をひゅっと一枚伸ばして、恋査の首を的確に狙う。

だが恋査は首を取られるならば四肢を犠牲にした方が良いとして、垣根の攻撃を右腕で受けた。

当然として、右腕は吹き飛び、宙を舞う。それでも、恋査は笑っていた。

 

「なあ、第三位。オレはいま、無尽蔵のエネルギーを生成できるんだぜ?」

 

その言葉と共にガギギギ! と不快な歯車が噛み合う音と共に蒼閃光(そうせんこう)(ほとばし)る。

そして、源流エネルギーが恋査のつま先に生成された。

 

真守は大体手のひらから源流エネルギーを放出しているが、少し意識をすれば自身を中心として、どこからでも源流エネルギーを放出できるのだ。

 

「ひひひ☆ 源流エネルギーってのは存在の抹消だったよなあ!!」

 

恋査は叫びながら、思いきり垣根に源流エネルギーを叩きつけた。

垣根がとっさに広げた未元物質(ダークマター)の翼に源流エネルギーが叩きつけられ、爆発。

空間を裂くような余波が吹き溢れる。

 

「続けていくぜー!!」

 

恋査は笑って源流エネルギーを自身の周りに何個も球にして生成し、それを垣根へと投げつけた。

何度も爆発が起き、蒼閃光(そうせんこう)(ほとばし)って辺りが白く染め上がる。

 

「垣根!!」

 

だが上条当麻が垣根の名前を叫んだことにより、垣根が無事なことが発覚した。

 

何故なら源流エネルギーの『存在の抹消』とは、この世界から根本的にその存在を抹消させてしまうからだ。

概念的に存在しているものを焼き尽くしても、そうはならない。

だが個人でその存在が完結している人間を焼き尽くすと、その人物はこの世界から消えてなくなる。

 

そしてそれは周りの人間の記憶にもおよび、唯一残るのは電子的な記録だけになってしまう。

 

垣根のことを上条が認識できる以上、垣根は無事だ。それに恋査は舌打ちをした。

そんな中、垣根の声が響く。

 

「源流エネルギーってのは、確かに存在を抹消させるチカラを持つ。だがどこまで行っても源流エネルギーの本質はエネルギーだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

垣根は衝撃で舞った塵や煙を全て吹き飛ばす。

そして三対六枚の未元物質(ダークマター)の翼を一枚犠牲にした状態で、五体満足のまま現れた。

 

「俺は無限に未元物質(ダークマター)を生成できる。だったら生成された源流エネルギーに対して、そのエネルギーが焼き尽くせる量の未元物質(ダークマター)を生成して対抗すればいいだけの話だ。頭ァ使わなくても分かることだ」

 

無尽蔵に生成される源流エネルギー。

無限に生成可能な未元物質(ダークマター)

相対すれば、それはいたちごっこというものになる。

だが真守の力を勝手に使っている恋査と垣根の場合、いたちごっこにはならない。

何故なら。

 

「テメエは一度に生成できる源流エネルギーに限りがあるだろ」

 

朝槻真守が本気で源流エネルギーを無尽蔵に生成し続けるならば、垣根が対抗して未元物質(ダークマター)を生成するスピードが追い付かないはずなのだ。

 

物量に物量で押す。それが真守にはできるが、恋査にはできない。

垣根はそれを確信していた。

何故なら恋査の能力は借り物で、真守より上手く扱えるわけがない。

 

垣根は恋査を睨みつけながら、源流エネルギーによって焼き尽くされた未元物質(ダークマター)の翼を新たに生やす。

 

根比(こんくら)べにもならねえな」

 

垣根帝督は朝槻真守のそばにずっといた。

源流エネルギーの特質も、その在り方も全て理解している。

恋査なんかよりも、遥かにだ。

 

「ぽっと出で真守の源流エネルギーのこと全然理解してねえヤツが、俺を殺せると思ったのか、クソ野郎ォ!!」

 

垣根は叫びながら、恋査の後ろを睨みつけた。

 

すると、恋査を突き刺すためにクリスタルのような輝きを帯びた柱が次々と打ち上がった。

 

恋査はそれをどうにか避けて、直撃は(まぬが)れる。

だがそれでも、避けた衝撃で強化ガラスが砕けた展示ケースの方まで吹き飛んだ。

 

「この空間は俺の未元物質(ダークマター)で満たされてる。この空間を支配してんのは俺だ。お前はお呼びじゃねェんだよ!!」

 

垣根は怒号を上げて、激しい音を響かせて恋査を追い詰める。

上条は垣根の猛攻の余波から自分の体を守るのに必死だった。

異能攻撃ならば幻想殺し(イマジンブレイカー)でなんとかなるが、瓦礫などが頭に当たったらひとたまりもない。

 

「……ッいいや」

 

恋査は垣根に吹き飛ばされた先で、ゆっくりと瓦礫の中から起き上がった。

 

「いやいやいや。本番はここからだぜ。前の恋査じゃここまではやれなかったが、オレは違う。もっとも、()()を使うには色々と準備が必要でなあ。数値の入力に手間取った」

 

恋査はそう告げると、自分からエネルギーを放出してそれをAIM拡散力場に叩きつけた。

 

「体を組み替えなくても……ここまでなら広げられるだろ!?」

 

恋査はAIM拡散力場を使った、三対六枚の純白と漆黒の巨大な翼を展開する。

 

「はん。いいぜ、相手してやるよ」

 

垣根は真守の力の一端が垣間見えて、不敵に笑う。

 

「『無限の創造性』とまがい物。どっちが強いか目に見えてるが――実際に見せないと分からねえようだしなァ!!」

 

垣根は辺りに展開していたカブトムシを(たずさ)えたまま、軍勢の王として声を上げる。

 

カブトムシは『博覧百科(ラーニングコア)』内にいくつも置かれていた爆弾の線を切っていたり、外からやってくるヘリを迎撃したりしていた。

 

自分が仕掛けたものへの対処が終わって万の軍勢がやってきたとしても、恋査は焦らなかった。

何故なら、この世界を自由に操れる力が自分にはあるからだ。

垣根帝督はそんな恋査を前にして笑っていた。

 

垣根帝督は朝槻真守と永遠を共にすると誓った。

そして垣根帝督は朝槻真守と全く違う方向への成長ができる。

その成長方向へと向かえば、垣根帝督は朝槻真守が持ちえない価値を保持し続けることができる。

 

だから無理に朝槻真守と同じ万能性を求めなくてもいい。

それでも垣根帝督は自身の力が朝槻真守の万能性に対して、どこまで通用するのだろうかと考えていた。

 

だから、これは良い機会だ。

恋査と戦うことで、垣根帝督は自分の力が朝槻真守に通用するのだと知ることができる。

恋査の振るう力が真守の万能性の一端だとしても、通用すると分かるだけでも自分の力に価値があると理解できる。

 

垣根の『無限の創造性』。

それと真守の力の一端(いったん)である、『創造性と破壊性』を持ち合わせた力がぶつかる。

 

垣根が凄まじい戦いを繰り広げる中、真守は自分が守っているフレメアへと目を向ける。

 

「ふれめあ」

 

「にゃあ?」

 

突然猫耳猫尻尾幼女真守に名前を叫ばれて、フレメアは抱えていたカブトムシをぎゅっと抱きしめた。

 

「おまえはひご対象だからAIMかくさんりきばの核にされているんだ。それはつまり、おまえがひご対象でなくなればいいだけなんだ」

 

AIM拡散力場の核であり、ヒーローたちを操るための庇護対象にされているフレメア。

AIM拡散力場を体として認識している源白深城に、無理やり同居しているような薬味久子。

 

フレメアは、薬味久子を繋ぎ留めるための最後の命綱だ。

それは薬味久子を止めることができる最後の鍵という意味もある。

 

そして薬味久子と源白深城には、決定的に違いがある。

その違いが、決定的な弱点となる。

その弱点を突くためには、彼女の命綱であるフレメア=セイヴェルンが()()()()()()()()()()()

 

「にゃあ。だ、大体どういうこと……?」

 

真守と違い、外見通りの頭脳を持つ八歳のフレメアは真守の言葉を理解できない。

そのため真守は分かりやすいように説明を始める。

 

「わたしはれべるふぁいぶ第一位だが、小さいころはなにも知らなかった」

 

真守は小さな手をぎゅっと握って、自分の過去を、少し前までのことをフレメアに説明する。

 

「そんなわたしを救ってくれたのはれべるつーにぎりぎり届くおんなのこだった。その子がわたしのひーろーになってくれたんだ。わたしを救ってくれた」

 

自分が辿ってきた道のことを、真守はフレメアに分かりやすいように告げる。

 

「そんなあの子をわたしはずっと守るってきめた。そしてわたしはみしろをずっとずっと守ってきた。わたしはきっと、みしろにとって神さまでひーろーだったんだろう。そんな資格がないのに。わたしはひーろーにはなれないのに」

 

朝槻真守は本質的にヒーローになれない。

ただ自身がするべきことを淡々とやっているだけだからだ。

 

「わたしは一人でみしろをまもってきた。ひーろーの資格がないのに、みしろのひーろーで在ろうとした」

 

朝槻真守はヒーローではない。ヒーローにはなれない。

だがそれでも、源白深城は自分のことをヒーローとして見てくれた。

ヒーローとして頼ってくれた。

 

本当は源白深城こそが、朝槻真守のヒーローだったのに。

 

「わたしはくるしかった。苦しいとわからないまま、ずぅっと一人でやってきた。そしたらな、ふれめあ」

 

真守は幸せを感じて、ふにゃっと微笑んだ。

 

「かきねがくるしんでいるわたしのことを助けるひーろーになってくれたんだ」

 

朝槻真守はずっと一人で学園都市の『闇』と戦ってきた。

ボロボロになっても、誰にも助けを乞わずに一人で、一人ぼっちで。

だがそんな自分を見て、垣根帝督はあの廃ビルで言ったのだ。

 

『――――助ける』

 

あの時のことを、朝槻真守は鮮明に覚えている。

 

『俺が助ける。俺が傍にいる。だから、もう二度と会えないなんて言うな』

 

絶対に忘れられない垣根の言葉を、真守は一言一句間違えずに思い出せる。

あの時の垣根帝督は、まだ傍若無人な悪党だった。

自分が似合わないことを言っていると思っていただろう。

 

だがそれでも垣根帝督は一歩踏み出して、朝槻真守のヒーローになってくれた。

 

「おまえはいつまでまもられる側でいるんだ! わたしはひーろーじゃないのにみしろを守ることができた。そしてわたしのことをまもろうと立ち上がってくれたひーろーであるかきねのことをすくうことができた!! それならおまえだって立ち上がっていいはずだ!」

 

真守の言葉にフレメアは目を開く。

ヒーローの資格がないのに、ヒーローだと見てくれる少女がいた。

自分がヒーローにならなければならないと苦しんでいた少女のために、歩み寄ってくれたヒーローがいた。

 

朝槻真守はヒーローではない。

それでも源白深城と垣根帝督は朝槻真守によって確かに救われた。

そして、朝槻真守は源白深城と垣根帝督に確かに救われたのだ。

 

だからこそ、朝槻真守はフレメアのことをまっすぐと見て、そして声を荒らげた。

 

「だれだって誰かのためのひーろーになれる。おまえだってそうだ、資格なんてひつようない! わたしたち三にんのかんけいが証明だ。そうだろ!?」

 

真守の言葉に、フレメアは世界の音が消えたと錯覚した。

垣根帝督と恋査が繰り広げる戦闘音だって、聞こえない。

 

それぐらい、フレメア=セイヴェルンには衝撃的で。

それぐらい、フレメア=セイヴェルンの心にその言葉は響いたのだ。

 

「………………にゃあ」

 

フレメアは一つ鳴いて、頷く。

 

「もう、私は『ヒーロー』なんて待ち焦がれない」

 

フレメアは決意を込めて叫ぶ。自身を奮い立たせる。

 

「今度は、私がみんなを守れるようになってやる!!」

 

朝槻真守は、あらゆる人間が少なからず持っているヒーローの素質を引き出すことができると評価されていた。

それは庇護対象となっているフレメア=セイヴェルンだって例外ではない。

 

ここに、新たなヒーローが立ち上がった。

自分の周りにいる人たちを救うために。絶対に悲しませないために。

フレメア=セイヴェルンは庇護対象から外れ、一人前のヒーローとなった。

 

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