とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第四二話、投稿します。
次は九月一日木曜日です。


第四三話:〈真実吐露〉と先手を打つ

真っ白な髪の毛に、ヘーゼルグリーンの瞳。

そしてズボンタイプのセーラー服を身にまとった少年は、ソファにちまっと座ってさくさくとクッキーを食べていた。

 

「うまいぞ、源白深城」

 

「ほんとぉ? 紅茶もいま淹れてるからちょっと待ってねえ」

 

深城は少年に話しかけられて、柔らかく微笑みながら紅茶を蒸らしているポットに目を向ける。

初めて食事というものをしている少年を他所(よそ)に、真守は呆れた表情で表情でソファに座っていた。

 

しかもイライラした垣根に後ろから抱きしめられ、顎を肩に乗せられた状態で。

垣根は真守のことを抱きしめながら、ぶつぶつと呟く。

 

「真守が純粋なエネルギーを練り上げて魂にするってのと、俺が体を作るっていうのはちょっと子供作るみてえだとは思った。でも子供を本当に作るのとは絶対に違う。絶対に違ぇんだよ……」

 

真守はぶつぶつと呟く垣根の声を聴いてため息を吐く。

そして複雑な心境になっている垣根の事を想って、自分の下腹部を何かから守るように抱きしめている垣根の手に優しく触れた。

 

「垣根。黙っててごめんな。ちょっと怒りすぎだと思ったけど、垣根にとってはそこまで衝撃的だったんだな。私は垣根とのこと、ちゃんと考えているからな?」

 

「当たり前だろこのアマそれでも許せねえことがあるんだよ」

 

垣根がここまで必死になってくれることは、はっきり言って真守にとって嬉しいことだ。

 

何故なら朝槻真守は神さまになるべく生まれた。

 

そして白い少年は真守を神さまとして必要とした。

この世に生まれ落ちたいと言っても、『彼ら』も生命の神秘を使いたくないとは言っていた。

 

だがそれでも真守は必要であれば、女としての子供を産む幸せを神さまとしての義務に使おうとしていた。

 

真守の人間として幸せを、神さまとしての真守が踏みにじっている。

女の子としての真守の幸せを願っている垣根帝督には到底許せることではない。

そこまで垣根が想ってくれるのが真守は嬉しくて、それ故に傷ついている垣根に申し訳なかった。

 

「とりあえず垣根は落ち着くまでちょっと置いておくとして……緋鷹。現状を説明してくれるか?」

 

真守は垣根の手に柔らかく触れながら、緋鷹に視線を向ける。

すると車椅子に付属されているテーブルを出してパソコンを動かしていた緋鷹が顔を上げた。

 

「まずは最初から話しましょうか」

 

真守が神さまとしての責務を果たしている間、各国や各勢力の要人たちはアメリカの国連本部に集まり、連合勢力を結成した。

そして魔神オティヌスの『槍』の製造を止めて撃破するために、『船の墓場(サルガッソー)』の居場所を魔神オッレルスが教えてくれるのを待っていた。

すると『船の墓場(サルガッソー)』は東京湾にあるということが明らかになり、その途端『グレムリン』が東京二三区上空に魔術でできたドラゴンを出現させた。

 

当然東京はパニックに陥った。

 

連合勢力は『グレムリン』掃討に向かいたいが、学園都市が連合勢力に加わっていないため、学園都市のすぐそばで争いを起こしたらどうなるか分からない。

 

それでも手をこまねている場合ではない。

 

そのため保身に走った日本政府に圧を掛けて色々と策を講じてはいるが、すぐには動けない状態なのだ。

 

「『グレムリン』は難しい場所に本拠地を置くことで、時間稼ぎをしているんだな」

 

「ええ。その間にオティヌスは『槍』を製造し終えようとしているの。つまりここが世界の命運を分かつ瀬戸際というわけね」

 

緋鷹は肩を(すく)めて柔らかく笑う。

 

「世界を分かつ瀬戸際(せとぎわ)、か」

 

ぽそっと呟いたのは、クッキーを夢中で食べていた白い少年だった。

少年はけぷっと小さくげっぷをすると、自分の隣に垣根に抱きしめられて座っている真守を見た。

 

「朝槻真守。私がこうやって形を得た今ならば、私が生まれた理由が手に取るように分かるだろう?」

 

「うん。お前たちはテーブルクロスの染みのようなものだ」

 

真守は白い少年を見つめながら呟く。

その例えの意味が分からない垣根は、真守の首筋に頬を寄せながら黙って聞く。

 

「世界はこれまで、何度も何度も造り替えられてきた。人知れずに、それが行われていた」

 

垣根たちはその事実に目を見開く。そんな中、真守は少年へと手を伸ばした。

 

「それでも、変わらなかったものがあった。世界を何度壊して見方を変えたとしても、絶対に変わらないものがあった」

 

真守は柔らかい少年の真っ白な髪の毛を触りながら、告げる。

 

「人間の()り方だけは、世界を何度造り替えても変わらなかったんだ。人間の生きる意志や愛というものは、世界が何度造り替えられて人間の()り方が捻じ曲げられたとしても、何故か変質しなかった」

 

人間の生きる意志や、他人を思いやる愛という感情。

そして飽くなき探求心や、人間が犯したいと思う本能、欲望。

その他のおよそ人間らしいと言える()り方は、世界が何度造り替えられて人という存在が組み替えられても、良くも悪くも変質しなかった。

 

「人間の()り方が変わらなかったとしても世界が何度も造り替えられれば、それらは無残に何度も破壊し尽くされる。その(たび)にちりのように粉々になった残骸が、少しずつ少しずつ()()()()()()()に降り積もっていった。──そして、それがやがて意味を()すようになった」

 

ちりのように粉々に破壊された人間の()り方なんて、本当なら意味を持たない。

だが『ちりも積もれば山となる』という言葉がある。

その言葉通りに、世界が何度も何度も造り替えられることによってまっさらな世界に残骸が降り積もり続けて、やがて意味を()すようになった。

 

「人間の不変の()り方。良くも悪くも変質しなかった純粋な人間らしい概念。それがお前たちだ」

 

人が人であるから生まれた、人という生き物がいたからこそ生まれた、人の()り方において絶対に変わらない、不変のもの。

人を(もと)に生まれた、人であるが故に人が持つ概念的なもの。

 

人によって生まれた純粋な概念が、人のいる世界へと触れてみたいと思うのは当然だ。

だから神さまを求めた。

意味を持ったとしても生命の神秘を持たない自分たちを、救ってくれる神さまを。

 

「……そういうことだったのか」

 

垣根帝督は納得して、自分の腕の中にいる真守の存在を感じながら呟く。

『彼ら』が真守を求めたのは、真守が魂を創りだせる唯一無二の存在だからだ。

純粋なエネルギーの塊である自分たちを魂へと昇華できるからこそ、『彼ら』は真守を求めたのだ。

 

「朝槻真守は神さまになるべく生まれた。だからこそ朝槻真守はこれまで苦難の道を歩んできた。それでも進み続けた。そうするべきだと、他でもない朝槻真守が決めたから。……人間の不変の()り方から生まれた私にとってはそれがとても喜ばしくて、そしてとても寂しい」

 

垣根は白い少年が寂しいという意味が分からずに、怪訝な表情をする。

そんな垣根を見上げて、白い少年は口を開いた。

 

「垣根帝督。朝槻真守が父親によって学園都市に捨てられた理由は、朝槻真守が神さまになるべく生まれたからなんだ。神さまになるべくして生まれたから、普通の子供としての幸せを享受できなかった。それが私は寂しいと思うんだ」

 

真守が学園都市に捨てられた理由。

その理由を、アシュリン=マクレーンは真守の父親が女と一緒になるために真守が邪魔だったからだと言った。

だが女に逃げることとなったその根底には、要因がきちんと存在していた。

 

「怖かったんだよ。神さまのように公平で平等で、一度も間違わない朝槻真守が、朝槻真守の父親は怖かった」

 

垣根帝督だけではなく、これまで真守に接してきた人々は何度も思ったことがあった。

朝槻真守は、本当に神さまになるために生まれてきたのだろうと。

生まれた頃からの素質。無垢なる状態でも、物事を公平に見つめられる力。

 

それを持っている真守は、おそらく父親にとって不気味なものだったのだろう。

 

利己的な子供を目の前にして、恐怖を抱く親はいくらでもいる。

本当にこの子は自分の子供なのだろうか、もしかしたら自分の子供ではないのではないか。

それによって両親が仲違いをして離婚することも多々ある。

 

父親の感性はある意味で普通だったのだ。

 

だって神さまになるべくして生まれてきた子供を、簡単に愛せるわけがない。

 

「朝槻真守を産んだ朝槻真守の母親は、広義的な意味で言えば聖女だったのだろう。神さまになる子供さえ受け入れることができる、慈悲深き聖女」

 

少年は既にこの世にいない女性のことを想う。

 

「だからかな。彼女は自身の幸せを犠牲にしてしまった。辛くても、全てを受け入れてしまった」

 

自分たちが求めた神さまのことを産んでくれたアメリア=マクレーンについて少年は静かに考える。

真守はそんな中、隠された真実を知らされて顔を歪めている自分のことを抱きしめる垣根の手に触れた。

 

「私は神さまになる素質を持っていた。物事を公平に見つめられた。確かに子供として幸せになれなかったけど──私は、垣根に会えたから」

 

真守は顔を上げて、柔らかな笑みを浮かべている深城を見た。

 

「深城に大切なことを教えてもらった。私は本当の意味で人の心がどのようなものか理解できていたけど、興味なんて微塵(みじん)も感じなかった。深城が興味を持たせてくれたから、人を大事にするという気持ちを教えてくれたから。──私は人に寄り添う神さまになれた」

 

真守は垣根に体重を預けながら、寂しそうに笑った。

 

「それでも、私は神さまになるのがこわかった」

 

垣根はその言葉に大きく顔を歪める。

 

「変わることが、怖かった。人間として深城に大事なことを教えてもらった私は、とても怖くなってしまった。人間に寄り添えるようになった私は、人間のように変わることに恐怖を覚えていた」

 

垣根は真守のことを掻き抱くように優しく抱きしめる。

 

垣根帝督は自分が人でなしになったらどうしようと泣いていた真守のことを覚えている。

それで震えて、自分を求めていたのを覚えている。そこから自分たちの関係は真に始まったのだ。忘れるわけがない。

 

たとえ、神さまになるために生まれてきたとしても。

やっぱり真守は一人の女の子で、普通に恐怖を抱く少女なのだ。

だからこそ変わることは、真守は怖いことだと感じていた。

 

少年は垣根に優しく抱きしめられる真守の手をきゅっと握った。

 

「私たちが求めた、私たちのことを扱える御子(みこ)。朝槻真守。私たちが求めたら慈悲を与えてくれてありがとう。世話を掛けたな」

 

真守は自分の手に乗せてきた真っ白な少年の手を握った。

 

「色々あった。色々あったんだぞ。ここまで、たくさん怖い思いもしてきた」

 

真守は優しく微笑みながら、告げる。

 

「でも、私もお前と話ができてよかった。本当に」

 

真守が告げると、少年はにへらっと笑った。

そして真剣な表情で、真守を見上げる。

 

「朝槻真守。もう一つお願いしたい」

 

「なんだ?」

 

「名前を、つけてほしい」

 

少年は自らの胸に手を当てて、そして真守を見上げる。

 

「人間は生まれたら名前を貰うだろう。最初のプレゼントだと言う。……だからな、私も名前が欲しいぞ。ほかならぬ、朝槻真守。お前に名付けてほしい」

 

真守は柔らかく微笑んで、そして頷く。

 

「いいぞ。……そうだな」

 

真守は思案顔になって、そこから目を見開いてにっこり微笑んだ。

 

「セイ、というのはどうだろう。お前は世界が変わったとしても不変のものだった、『人間の生きる意志や進み続ける意志』が降り積もって生まれたからな。生きるという意味を込めた、セイという名前はどうだろうか」

 

真守は独り言のように呟くと、白い少年を見た。

 

「ラテン語もいいかと思ったんだけど、アレは魔術師が魔法名として使っているからな。それに私は純日本人じゃないけど、それでもこの国が好きだ。みんなと会えたこの学園都市が好きだ。だから、日本語由来でお前に名付けたい。……良いか?」

 

真守が問いかけると、白い少年──たった今、真守にセイと名付けられた存在は笑った。

 

「うむ。セイ、か。……とてもいい名前だ。ありがとう、朝槻真守」

 

「よかった。気に入ってもらえてうれしい」

 

真守が少年の笑っている姿を見て微笑む中、垣根は柔らかく真守のことを抱きしめて首筋に顔を(うず)めた。

 

「垣根?」

 

「…………良かった」

 

真守が訊ねると、垣根はぽそっと呟いた。

 

「お前を神サマとして(かか)げるヤツが現実に現れたら、お前の心がどっか遠くに行っちまうのかが心配だった。俺のことを大切に想ってたとしても、お前が自分のことを神サマとして掲げるヤツのせいで苦しむのは絶対に嫌だった」

 

垣根は自分の腕の中に変わらずにいてくれる真守の命を感じて、柔らかく微笑んだ。

 

「お前の言う通り、色々あった。でもお前が神サマとしても人間としても幸せになれて……本当に、良かった」

 

真守は垣根の腕の中でもぞもぞを動くと、垣根へと体の正面を向けた。

そしてぎゅっと抱き着くと、垣根の胸板にすりすり頬をすり寄せながら微笑む。

 

「ありがとう、垣根。垣根がすごく想ってくれるのが嬉しい。そんな垣根が私はだいすきだ」

 

真守は垣根の背中を優しく撫でた後、垣根の腕の中で幸せそうに笑う。

そして深城や林檎、緋鷹と言った、自分の幸せを考えてくれる彼女たちを見つめてふにゃっと微笑んだ。

 

「私、とっても幸せだ。神さまとしても人間としても、私の幸せを考えてくれる人たちに囲まれてるんだからな」

 

真守は柔らかく微笑むと、表情を真剣なものへと変えた。

 

「話がついたところで、オティヌスについて考えようか」

 

真守が告げると、一同はとりあえずの問題が終わって重要な局面のことについて考える。

 

「今から『船の墓場(サルガッソー)』に行っても十分間に合うぜ」

 

「確かにそれもいいかもしれない」

 

真守は垣根の言葉に応えながら、小さく頷く。

 

「それでもいいけど、なんとなく違う手段を取った方がいいと感じるんだ」

 

真守が一つ頷きながら告げると、緋鷹が首を傾げた。

 

「それはあなたの勘かしら?」

 

「うん。だからちょっとお前たちを守ろうと思う」

 

緋鷹の問いかけに答えた真守は垣根に解放してもらい、少し距離を取った。

 

「──翼を広げるぞ」

 

真守はそう断りを入れて、再び絶対能力者(レベル6)としての姿を取った。

 

艶やかな黒髪は伸びて真守の身長よりも長い、蒼みがかったプラチナブロンドに。

頭には蒼閃光(そうせんこう)で造り上げられた、六芒星を(もと)にした幾何学模様の転輪。

蝶の翅の翅脈(しみゃく)のように広がる、小さな歯車が連結してできた後光。その動きによって一つの荘厳な曲のように(つむ)がれる音。

 

そして六対一二枚の純白と漆黒の互い違いの翼。

滑らかな宇宙の煌めきを内包した肢体には、スリットが入った結晶で造り上げられた豪奢なドレス。

 

絶対能力者(レベル6)としての姿を再び取ると、真守はエメラルドグリーンの透き通った無機質じみた目をゆっくりと開いた。

 

「行くぞ。私の()()へと」

 

真守はその言葉と共に垣根帝督たちに手を差し伸べた。

 

そして。

朝槻真守、源白深城。垣根帝督に杠林檎。そして八乙女緋鷹。

彼らは、この世界から──消失した。

 

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