とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第四五話、投稿します。
次は九月八日木曜日です。


第四五話:〈埒外存在〉と会話する

「だからさー/backspace 朝槻ちゃんにはちょっと待っててほしいのよね/return。上条ちゃんが追い詰められて、本音を吐き出すまでさ/return」

 

軍用ゴーグルをを頭に付けて常盤台中学の制服を身に着けている少女は、深城に出されたお茶請けのマカロンをもぐもぐ食べながら軽い様子で話をする。

 

「上条ちゃんは、一度自分の気持ちをきちんと吐き出すべきなのよ/return。ずっとおかしいなって思ってた/return。なんで自分の優先順位がいつだってみんなより一番低いのかって/return」

 

少女は自分の中でひっかかりを覚えていた部分を口にして、深城が用意してくれたミルクティーを一口飲む。

 

「上条ちゃんの事、大切にしている人はいっぱいいる/return。ミサカもそう/return。朝槻ちゃんだってそうでしょ?/escape その人たちが死に物狂いで自分の事を守ろうとするって、どうして上条ちゃんは思わないんだろうね?/escape その人たちのためにも、上条ちゃんは自分を大事にしなくちゃいけないんだよ/return」

 

少女は心底憤りを見せた表情で告げる。

 

「だからさ/backspace。ちょっとは追いこまにゃならんのですよ/return。そうじゃなきゃいつかあの少年は絶対にグズグズに崩れ落ちていく/return。神さまならさ/return。()()()()()()()()()朝槻ちゃんならさ、分かるんじゃないのかな?/escape 上条ちゃんが今のままじゃダメだって/return」

 

少女は上条当麻のこれからを想って、一心に告げる。

 

「踏ん張りどころなのですよ/return。朝槻ちゃんだって人を極限まで甘やかそうとは思わないでしょ?/escape 口を開けて救い(えさ)を待ってるひな鳥にはなってほしくないでしょ?/escape それと一緒/return。だからさ/backspace 朝槻ちゃんには上条ちゃんのことを見守ってほしいわけ/return」

 

先程から真守に特徴的な喋り方で弾丸トークをしている少女は御坂美琴の体細胞クローン、妹達(シスターズ)の一人だ。

彼女は一〇〇三二号という検体番号を持っているが、話をしているのは一〇〇三二号ではない。

 

ミサカネットワークの総体と呼ばれる意思だ。いま総体は、一〇〇三二号の体を借りて真守と話をしているのだ。

 

妹達(シスターズ)は一人一人が個を持っている。

だが彼女たちは個として存在していながらも同時に脳細胞の一つ一つとして機能しているため、ミサカネットワークとして一つの大きな意思を形成している。

 

それが真守と話をしている存在の正体だ。

 

彼女は垣根帝督が造り上げた人造生命体の『帝兵さん』と同じく、ある意味現在における生命の神秘と同類ながらも、限りなく遠い自由な位置に存在している。

 

だがミサカネットワークの総体と『帝兵さん』という意思が、必ずしも同じ場所に立っているわけではない。

 

何故ならミサカネットワークの総体は一〇〇三一回の死の記憶を学習して成り立っている存在であり、個体の意志を認めているからだ。

 

対して、『帝兵さん』は個体の意志を認めていない。

それでも『帝兵さん』という一つの意志で統制されているから、『帝兵さん』もある意味で新しい生命体となっている。

 

朝槻真守が世界と自身の神域を区切った方法は、既存の生命の神秘に基づいている。

 

だから真守は既存の生命から逸脱している帝兵さんのネットワークを通して、神域として自身の領域にした『施設(サナトリウム)』から外の世界へと干渉をしていた。

 

上条当麻へと出していたサインも、帝兵さんがいるからこそ出せるサインなのだ。

そして帝兵さんのネットワークは、世界と世界から消失した真守たちを繋ぐ命綱でもある。

その命綱に気づくことができる人間はいない。

 

だがミサカネットワークの総体は違う。彼女は自由な存在なのだ。

 

だから真守が既存の生命の神秘に則って区切ったこの神域にも、簡単に侵入できるのだ。

 

「お前の言いたいことは分かる」

 

真守は妹達(シスターズ)の体を借りている総体をまっすぐと見つめる。

 

「確かに上条はいつかぐずぐずに崩れていくだろう。私はその時手を差し伸べればいいと思っていた。でも()()()()()()()()()()、いまこの時に上条を追い詰めて正直にさせた方がいいと、そう思うんだな?」

 

総体は真守の言葉に頷く。

 

「朝槻ちゃんはその時が来たら、正しく上条ちゃんを救うだろうね/return。でも朝槻ちゃんの言う通り、ミサカはミサカだからこそ、その時が来る前に上条ちゃんは正直になるべきだと思うの/return」

 

「……私は極めて公平な存在だ」

 

真守はミサカ総体の考えを聞いて、そう前置きする。

 

「大切な友達だとしても、私はある意味一歩引いたところから慈しみを込めて上条当麻を見つめている。──導く者として、だ。でもお前はそうじゃない。ミサカ総体個人の見解として、上条当麻に寄り添うために私が手を出すべきじゃないと、そう思うんだな?」

 

「そう/return。希望を良い感じにちらつかせるのはいいよ/return。でも/backspace 上条ちゃんが本当に折れるまで、朝槻ちゃんには本気で救いの手を出してほしくないの/return。その時がやってきた時はミサカに任せて/return。上条ちゃんが正直になったら、改めて朝槻ちゃんは上条ちゃんの力になって欲しい/return」

 

真守はミサカ総体のお願いを聞いて、一度だけ長い(まばた)きをした。

そして自分の座っているソファに、立って寄り掛かっている垣根を見上げた。

 

「垣根はどう感じる? 私とミサカはある意味普通じゃない。導く者でも人を束ねる大きな意思でもない垣根は、自分の気持ちを気にするべきだと『試練』を与えられる上条をどう思う?」

 

垣根は真守の重要な問いかけに、気軽にそっけなく答える。

 

「別に良いんじゃねえの? どうせ上条が折れるまで世界が何度造り替えられようが、俺には関係ねえからな。このまま神サマみてえに高みの見物してりゃあいいだけだ」

 

自分に迷惑が掛からない他人事だからどうでもいい。

そう聞こえるような言葉を吐いた後、垣根は上条のことを垣根なりに真剣に考えて目を細めた。

 

「……上条もちょっとは自分に正直になった方がいいだろ。あんな自己犠牲が服着て歩いてるヤツ、そいつが言うようにいつか耐えられなくなるのは決まってるだろ」

 

垣根帝督は、つくづく上条当麻が自分とは真逆の立場に立っていると思っていた。

何故なら上条当麻はみんなが幸せならばそれで良いと言うのだ。

自分が傷ついても、最終的にはみんなが笑顔で暮らせれば問題ないと幸せそうに告げるのだ。

 

自己の利益のために他者を利用し尽くそうと考えていた、過去の垣根帝督とは真逆の位置に上条当麻は立っている。

 

絶対に上条当麻の考えとは相いれない、と垣根帝督はずっと思っていた。

そんな男が少しでも良い方向へと変われるチャンスを、総体は設けようとしている。

上条当麻を本当に想っているからこそ、総体は真守に接触してきたのだ。

 

そして真守も総体の考えを否定しないのであれば、『試練』を与えてもいいと垣根は思う。

 

真守は垣根の気持ちを汲み取って、一つ頷く。

 

「……上条の友達としての私は、上条を追い詰めるような試練を与えたくないけど。鬼になることも必要だし、甘やかしてばかりはいられないからな。ミサカの気持ちを尊重するよ。お前がそう思ったことが、本当に大事だからな」

 

真守は人のことを想って自分に接触してきた総体の気持ちを尊重して微笑む。

すると総体はミルクティーを飲んで柔らかく微笑んだ後、真守を見た。

 

「ありがとう、朝槻ちゃん/return。だけど/backspace 朝槻ちゃんもあんまり無理しちゃだめだよ/return」

 

ミサカ総体は空になったミルクティーのカップをテーブルに置きながら、微笑む。

 

「朝槻ちゃんは神さまだとしても一人の女の子なんだから/return。ミサカよりも先を行ったとしても、自分のことを神さまとして求める存在のいう事ばっかり無条件で聞かなくてもいいんだよ/return。おせっかいかもしれないけどね/return」

 

ミサカ総体が言っているのは、真守がこの世に降ろした『彼ら』だけではない。

朝槻真守を救いの存在として求める人たちに対しても、真守は人間としての幸せを削るべきではないと言っているのだ。

 

ミサカ総体は真守が分かっているだろうが心配だからこそ忠告した後、垣根を見てウィンクをした。

 

「でも/backspace 彼がいるなら大丈夫そうだけど/return。朝槻ちゃんのことよろしくね、番犬くん/return」

 

「よろしくされなくても俺はずっと真守のそばにいるんだ。一々言われなくても分かってる」

 

垣根が鬱陶しそうに告げると、総体はくすっと微笑んだ。

真守は垣根へと手を伸ばして、ふにゃっと微笑む。

 

「ありがとう、垣根」

 

「当たり前だろ。大事な女なんだから」

 

垣根は真守の手を握って、自分の頬に添えさせながら告げる。

真守はふにゃっと照れ笑いすると、総体と垣根と束の間のお茶会をしていた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

そして、時は訪れる。

 

最初に上条当麻がその世界に触れたのは、とある少女の呼び声によってだった。

 

その少女はウェーブがかった金髪に、小麦色の肌をした少女だった。

その少女の先には少女が『エリスちゃん』と呼んだ少年が立っていた。

その少女とは元の世界で魔術師をしていたシェリー=クロムウェルだ。

 

そして『エリスちゃん』とはシェリーの死んだ親友だった。

 

その先には、アニェーゼ=サンクティスが若い夫婦と一緒にピクニックをしていた。

前方のヴェントは死んだはずの弟の手を引いている。

粛清されたはずの左方のテッラは、他のメンバーと一緒にアイスコーヒーを飲んでいる。

 

オリアナ=トムソンは幸せそうに数名の子供やお年寄りたちと一緒に笑っていた。

そして奇抜なメイド服を着た、かつて木原加群という男に救われた雲川鞠亜は死んでしまったはずの木原加群と歩いていた。

 

上条は魔神オティヌスと話して知った。

この世界は。

魔神オティヌスによって誰もが救われて、誰もが幸せになった世界だったのだ。

 

上条当麻は、そんな世界で見てしまった。

 

自分が助けた少女──インデックスが、上条の前の『管理者』だった神裂火織とステイル=マグヌスによって救われて幸せを享受している場面を。

 

そこで、上条当麻の全てが崩れた。

死に場所を探そう。

そう思って歩く上条の目にさまざまなものが映り込んできた。

 

学園都市は、上条当麻が知っている形と少し違っていた。

『外壁』がないのだ。

そして暗部の『研究所』がまったくなくなっており、そのせいで街並みが少し変わっている。

 

上条が歩いていると、知っていた人々が楽しそうにしているのが見えた。

 

浜面仕上。彼は武装無能力集団(スキルアウト)の面々と、『アイテム』の少女たちと一緒にいた。

そしてそこには既に死んでしまったフレンダ=セイヴェルンと、彼らの中心で笑っているフレメア=セイヴェルンもいた。

 

上条が最後の晩餐を買おうとした屋台では、ローマ正教の武装修道女とリドヴィア=ロレンツェッティ、そしてオルソラ=アクィナスが楽しそうにしていた。

 

上条が商品を受け取っていると、アステカの魔術師たちが仲良さそうに話をしながら去っていった。

 

ガードレールに腰かけて上条が食事をしていると、雲川鞠亜と木原加群が仲良さそうに歩いて祭り会場へと向かって行った。

 

その横で濡れたような黒髪と、はちみつ色に輝く金髪の持ち主が楽しそうに言い争いながら歩いて行く。

 

上条が食事を終えてその場を後にすると、この学園都市の癌である『木原』の面々が科学を正しく使う姿が見て取れた。

 

歩いていると、その背中を一気に追い越していく人々がいた。

 

雷神トール。そしてマリアン=スリンゲナイヤー。

 

彼らは仲間である木原加群のことを『ベルシ』と呼んでマリアンが嫉妬しており、それにミョルニルが怒っていた。

 

祭りの会場に辿り着くと、そこでは『天井』や『芳川』と言った札をぶら下げた研究員が一方通行(アクセラレータ)妹達(シスターズ)打ち止め(ラストオーダー)番外個体(ミサカワースト)と一緒に日常を謳歌していた。

 

話を聞いていると、どうやら一方通行(アクセラレータ)妹達(シスターズ)を全員救ったらしかった。

 

その近くで白井黒子、初春飾利、佐天涙子が鳴護アリサとシャットアウラ=セクウェンツィアと彼女たちを雇っているレディリー=タングルロードの話をして去っていった。

 

そして。

 

たくさんの食べ物が並んでいる屋台に目移りしているインデックスが、神裂火織とステイル=マグヌスと幸せそうに歩いていた。

 

上条当麻はその姿を目に焼き付けるべく、自らの意思で顔を上げた。

 

インデックスは、一目散に目的の人物の元へと走って行った。

上条当麻に目もくれず。一度も視線を向けることなく。走って行った。

それが当然なのだ。

 

何故ならこの幸せな黄金の世界では。あのシスターは上条当麻に救われていないのだから。

上条当麻が何とも言えない空虚感を覚えていると、突然声を掛けられた。

 

「……大丈夫か?」

 

そこには。

学園都市の五本指に入るエリート校の女子制服を着ている真守が、両手にアイスティーの入ったプラスチックのカップを()()載せたお盆を持って立っていた。

 

「帰る場所を失くしてしまったような顔をしているぞ」

 

真守が寂しそうに微笑む姿を見て、上条当麻はこらえきれずに泣き出してしまった。

 

かつて。

何もなくなってしまった自分へ、彼女は真っ先に声を掛けてきてくれた。

 

『私が信じている上条当麻は、記憶がない程度では揺るがない』

 

その優しい言葉を、自分はよく覚えていた。

 

そうだった。

 

自分には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()朝槻真守という友達が確かにいたのだ。

朝槻真守は無力化されてしまった。その最期は無残なモノだった。

だがそれでも、幸せな世界では真守も幸せになれたのだと。

 

だから自分の前に現れたのだと。そう上条当麻は現実をそう認識していた。

 

上条当麻はそう思っているが、その思い込みが全て誤りだと真守は知っている。

そしてミサカ総体が望んで自分が受け入れたとしても、自分のことを大事にするために追い詰められている上条当麻の姿を見るのは友達として辛かった。

だからこそ。

真守は寂しそうに辛そうに、柔らかく切なそうに微笑んでいた。

 




今回の話は真守ちゃんが人を導く存在として、時には積極的に試練を与えることも必要だと遠回しにミサカ総体に諭される、結構重要な回でした。
確かに真守ちゃんは以前に垣根くんのことを試してはいますが、あれは垣根くんが変わってしまった自分と変わらずに生きてくれるかという重要な『確認』だったので、今回と状況は少し異なります。
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