とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

213 / 352
第四九話、投稿します。
次は九月二九日木曜日です。


第四九話:〈救済女神〉は救いを授ける

真守は各国要人に、オティヌスが居場所を求めて何度も何度も世界を造り上げた話をした。

そして世界が一度終わった事も、上条当麻が想像を絶する生と死を繰り返した事も話した。

流石に総体に言われたから静観していたという事実は私情なので真守は言わなかったが、世界が終わった後、自分はオティヌスの目的の先にある願いを探っていたと話をした。

 

「……フーム。レディの話はにわかに信じられないが……本当に事実なのか?」

 

米国大統領、ロベルト=カッツェは真守の話を聞いて一番に声を上げた。

 

「事実だぞ。何なら全てを記録している帝兵さんで確認するか? 大統領の処理能力だったら全部確認するのに軽く一万年はかかると思うけど」

 

真守が手元に呼び寄せていたカブトムシの背中を撫でながら告げると、ロベルトは押し黙る。

ロベルトの隣に座っていたローマ教皇は、自分の中で情報を整理してから口を開いた。

 

「使徒の中にも元は神の子を罵倒した者もいた。だが己の過ちを悔いた者を神の子はお許しになった。……だからこそ、オティヌスが悪逆を()したとしても許しを請うチャンスを与えずに殺してしまうというのは、間違っていると思う」

 

その言葉に続いたのは、ロシア成教の総大主教の少年だった。

 

「確かに『取り返しのつかない』一言で断じるのは、我々の信仰とは合致しない」

 

英国女王(クイーンレグナント)、エリザードは他宗派の話を聞いて腕を組んだ。

 

「しかし魔神オティヌスが人間に戻ったところでどうやって罰する? 世界を造り替え続けた大罪をどうやって償わせるのだ?」

 

エリザードの呟きを聞いて、ふんっと鼻を鳴らしたのはランドン=マクレーンだった。

 

「そんなもの、決まっているだろう。我が孫が判断を下せばよい」

 

その言葉に、各要人はランドンを見た。

ランドンは各要人の視線を受けて、つまらなそうに告げる。

 

「十字教徒は必ず認められぬだろうが、真守は不完全な人間がこれから進むべき形へと先に完成しているのだ。だからこその万能性。だからこその永遠。それならば、真守が下した判断を我らが認めればいいだけだろう」

 

当然のことが分かっていない各国や要人たちを見て、ランドンはにやにやと笑う。

 

「そもそも魔神オティヌスを助けようと我が孫は動いておるのだ。不用意なことをすると消されるぞ、お前たち」

 

ランドンの意地悪く豪胆な笑みを見て、女王エリザードは額に手を当てる。

 

「まったく。何の因果で厄介なマクレーン家の血族が学園都市に流れ着いたのだ。複雑なことこの上ないな」

 

マクレーン家は古くからブリテンに根付くケルトの一族だ。

そのため英国建国前から英国周辺を仕切っていた事もあって、市政に大きなパイプができている。

 

それにイギリスがローマ正教から脱するために英国独自の十字教を政治的に生み出した時も、ケルトの人々は一枚噛むために暗躍に暗躍を重ねていた。

 

だからこそ無視できない格式高いマクレーン家から、どうして(こぼ)れ落ちた少女が巡り巡って学園都市の中枢にすっぽり収まっているのか。

 

しかも真守を利用して学園都市を利用しようとする輩が現れると、マクレーン家は『娘の平穏を崩すな、バカタレ!!』と叫んで娘の平穏絶対守るマンになるので、頭の痛い話だ。

 

本当に不思議でならない因果にエリザードが頭を痛めていると、真守は柔らかく微笑んだ。

 

「オティヌスは確かに悪いことをした。……でも永遠に近い孤独というのは、本当に苦しいことだ。その時点で、あの子は誰よりも酷い罰を受けているのだろう」

 

いつまで経っても一人ぼっち。そして永遠に尽きることのない命。

心のよりどころがなく永劫(えいごう)彷徨(さまよ)う様子は、おそらく砂漠で一人オアシスを求めて当てのない旅を続けるのと同義だ。

 

「私はオティヌスのせいで傷ついた人たちを知っている。だから同じ神さまとしての孤独に同情しないで、ちゃんと罰を与えるつもりだ」

 

同じ神さまとしての孤独。

それに反応した自分の祖父に、真守は笑いかける。

 

「おじいさま、大丈夫だ。私は一人じゃないから」

 

真守が幸せそうに微笑む姿を見て、ランドンは頷く。真守は頷くと、各要人を視界に入れた。

 

「オティヌスの罰についてはちゃんと考えてる。あの子にとって幸せで、そして最も辛い罰を。だからとりあえず十字教の各勢力とアメリカの兵隊で上条とオティヌスを攻撃するのはよしてくれ。……それ以外にも、オティヌスを追うヤツらはいるからな」

 

真守の呟きに補足説明をしたのは、カブトムシでオティヌスと上条を見ている垣根だった。

 

「まず突然裏切ったオティヌスをグレムリンの構成員が追ってる。それに加えて逃亡した上条を学園都市も追ってるからな。それに個人的な恨みを持ってるオッレルスもだ。あんまりもたもたしてる場合じゃねえんだ。とっとと決めてくれ」

 

垣根の言葉に各宗教の派閥の者たちは頷き、エリザードが応えた。

 

「私たち十字教派閥はそれで構わない。元々その娘の判断には従うしかないしな。──世界の警察を自称してるアメリカはどうだ?」

 

「俺も異論はねえ。むしろハワイを助けてくれたあのボーイを執拗(しつよう)に追う事には躊躇いがあったんだ」

 

真守は半ば強制的ながらも、自分の判断に託してくれた各要人を見て微笑む。

 

「お前たちには沸騰している世界を抑えてもらいたいな。東京もそうだけど、デンマークも割と混乱してるから。十字教の各要人が声を掛ければ、敬虔(けいけん)な信徒たちは応えてくれるだろう」

 

真守は各要人ができることを提示して、椅子から立ち上がった。

 

「オティヌスはいま『妖精化』の術式を打ち込まれて死にかけてる。ここまでやったのに死なれたら困る。だから行ってくる。後はよろしく」

 

真守は柔らかく笑って、ランドンとその後ろに立っているアシュリンへと近寄った。

 

「いつか絶対にイギリスに行くから、おじいさま。伯母さま。……それで二人と一緒に、お母さまにも会いに行きたい」

 

亡き母の遺体は、マクレーン家が必死に探してイギリスに返されている。

だから真守が笑って告げると、アシュリンは真守の事を抱きしめた。

 

「ええ。一緒に行きましょう、真守ちゃん」

 

真守はアシュリンに抱きしめられて、頭をランドンに撫でられて幸せそうに笑った。

 

「真守を頼んだ」

 

ランドンが告げると、垣根はしっかりと頷いた。

そして抱擁を解かれた真守の手を引いて、垣根は宣言した。

 

「行ってくる。問題ねえよ、俺と真守が一緒なんだからな」

 

真守は垣根の力強い言葉にふにゃっと笑って、ランドンとアシュリンへと手を振って各要人たちに少しだけ頭を下げて国連本部を後にした。

そして、再び翼を広げて飛び始める。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

国連本部へと向かう真守と垣根と別れたオティヌスと上条当麻は、世界の方を動かしてデンマークへと降り立った。

 

最初の刺客は真守と垣根が確認した通り、一方通行(アクセラレータ)だった。

第二位に転落したり負傷したりしたとしても、一方通行(アクセラレータ)は最強の一角を誇る超能力者(レベル5)だ。

 

そのため先行して最初に上条当麻に撃破されることで、超能力者(レベル5)が不用意に動かない状態を造り上げた。

 

負けることでも、何かを守れる。

成長した一方通行(アクセラレータ)はそれを体現したのだ。

 

その後、ローマ正教とロシア成教、そしてイギリス清教がやってきた。

 

真守と垣根が国連本部に行って話を付けているが、オティヌスを捕捉して先遣隊として魔術を使ってすぐにやってきた彼らを止めることはできない。

 

それでも追撃ができないように話をしてくるから頑張ってどうにかしろ、と垣根はカブトムシで上条に指示をしていた。

 

どこの組織とも顔見知りだったり良く知っている仲だったりしたので、上条当麻はそれを利用してどうにか切り抜けた。

 

なんとか切り抜けた上条たちの前に即座に立ちはだかったのは、オティヌスが裏切ったマリアン=スリンゲナイヤーだった。

だが大軍のカブトムシがいたため、上条は無理することなく彼女たちを打ち倒すことができた。

そして丁度その時に真守と垣根は各要人たちと話を付ける事ができて、カブトムシが上条にそう報告した。

 

ほっとしたのもつかの間。学園都市の兵器群が襲来し、カブトムシの指示と援護によって上条はオティヌスと少し楽しそうに逃げていたが、そこに御坂美琴が到着。

 

美琴はカブトムシから事実を簡潔に聞かされていたが、自分に何の声もかけずに上条当麻に蚊帳の外にされたことが許せなかった。

 

そのため電撃を浴びせながら、美琴は上条から上条の言葉で何があったか聞いた。

 

誰もが幸せになった世界。

それを蹴って、上条当麻は朝槻真守たちと一緒にオティヌスを救おうと動いているということ。

そして上条は美琴の幸せを奪ってしまったのを申し訳ないと思っていること。

それでもオティヌスをどうしても救いたいという気持ちを、御坂美琴は上条当麻に聞かされた。

 

自分たちの幸せを掴むために上条当麻が戦っているならばそれでいいと、美琴は言った。

全人類を背負って上条当麻が破滅するより、よっぽどいい。

そして誰もが幸せになった世界を自分は必要としていないと。誰もが幸せになった世界で、誰も彼もが救われることはないと美琴は上条に教えた。

 

何故なら御坂美琴は妹達(シスターズ)を生み出したという事実から逃げたくなかった。

幸せな世界が生み出されて、全員が全員幸せでも。過去に起きたこと全てが無くなったことにはならない。

自分がしてしまった取り返しのつかない過去から、御坂美琴は逃げたくなかった。

 

その想いを美琴に告げられて、上条当麻は都合の良い世界を生み出しても人間が全員幸せになれるとは限らないと理解した。

 

御坂美琴に大切な事を教えてもらった上条当麻は、オティヌスと共に再び歩き始めた。

 

学園都市をカブトムシたちと食い止めると言った御坂美琴と別れた後、上条当麻の前にはインデックスとバードウェイが現れた。

 

だが上条当麻の『御坂とその辺のくだりやったのに、またやるの?』という失言によって、上条とオティヌスは怒りを燃やされた彼女たちと戦闘になった。

 

大切な少女たちと激突しながら、上条当麻はオティヌスと進み続ける。

彼女を助けるために、ずっと進み続けた。

 

そして。

辺り一面の雪原。ちょこんと大きな岩に乗っている朝槻真守は告げる。

 

「お前はオティヌスに一番近い存在だ。だからあの子が変わろうとしていることも、罰を受けようとしていることも分かってるんだろう?」

 

白と黒の互い違いの翼。

蒼みがかったプラチナブロンドの髪、そして六芒星を(もと)にした幾何学模様の転輪。

翼を広げている真守が岩にちょこんと座っている隣には、もちろん垣根帝督が立っている。

美しい天使に限りなく近づいた少年を(たずさ)えた真守は、岩の上から雪原に倒れている彼らを見つめて告げる。

 

「お前の魂胆は分かってる。()()()()()()()()()()。だからお前はオティヌスのことなんか気にせずに、お前の守りたいものを守ればいい」

 

真守が話しかけているのは魔神の成りそこないのオッレルスだった。

その(かたわ)らには、朝槻真守と垣根帝督に(ほふ)られた二人の聖人が気絶した状態で地面に転がっている。

 

シルビアはオッレルスが『船の墓場(サルガッソー)』でオティヌスに負傷させられた怒りによって、オッレルスの言葉を聞こうとしなかった。

そして聖人とワルキューレの属性を持つブリュンヒルド=エイクトベルは、倒さなければならない敵がいるならば無力化しなければならないと考えている。

そんな彼らを止めるために真っ先に気絶させようと動いた真守と垣根は、本当に分かっている。

 

「……そうだね、神人。キミが大丈夫だと言うのであれば、あの少年やキミたちはきちんとオティヌスの弱みとして機能するんだろう」

 

オッレルスは、魔神オティヌスが魔神という地位を良いように使っているのが気に入らなかった。

それで色々と恨みが(つの)った。

今はもう既に魔神という座に執着はしていないが、それでもずっとオティヌスを追っていた。

 

オッレルスは魔神オティヌスを打倒したかった。

だが彼女を倒したのはどうやら自分ではなかった。

 

しかも魔神オティヌスはオッレルスの知らない内に、上条当麻という『理解者』と、朝槻真守と垣根帝督という永遠を共にする同志を手に入れた。

真守たちが魔神オティヌスの『弱み』となる。

オティヌスは彼らとの関係性に縛られ、弱体化の一途をたどる。

 

魔神オティヌスの弱みとなる関係性を持つ真守たち。

その弱みが傷つけられれば、魔神オティヌスはどう動くか分からない。

オッレルスは魔神オティヌスをこれ以上の怪物にはしたくなかった。

だからこそオッレルスは上条当麻が本当にオティヌスの弱みとして働くのか確認するために、シルビアとブリュンヒルド=エイクトベルに好きにやらせようとしていた。

 

そこに真守が介入したのだ。

完全な存在である真守が確認は不要だと言うのだから、真守たちは本当にオティヌスの弱みになるのだろうとオッレルスは信じることができた。

 

「シルビアは時間を置いて頭を冷やさせればクレバーに戻る。いまはオティヌスに対する憎しみが強いだろうけど、私が良く言い聞かせる。だからキミたちが危惧するようなことにはならない」

 

垣根は礼を告げるオッレルスを見て鼻で嗤う。

 

「憎み抜いた敵なら殺すまですりゃあいいのに。甘いヤツだな」

 

垣根はオッレルスを見て嗤っていたが、目元を柔らかく弛緩させた。

 

「でも嫌いじゃねえな、その甘さは」

 

「……どうもありがとう」

 

オッレルスが礼を告げる中、真守は大岩の上で立ち上がる。

垣根は眉をひそめて、立ち上がった真守の腰を抱き寄せる。

 

「俺たちがオッレルスと話をしている間に上条はトールに絡まれてやがるし、まったく世話が焼けるヤツらだな」

 

垣根と真守はオッレルスたちが上条とオティヌスを追っていることを知っていた。

だからこそ二人は先回りして聖人たちを無力化して、オッレルスと話を付けたのだ。

 

その間に上条当麻とオティヌスはカブトムシに乗って、目的地であるオティヌスの目が沈んでいるイーエスコウ城の(たたず)む湖へと向かっていた。

 

垣根は当然としてイーエスコウ城の近くで雷神トールや『グレムリン』の正規メンバーが待ち受けていることを知っていた。

そのため先んじて『グレムリン』の正規メンバーはカブトムシで無力化したのだが、雷神トールだけはそうもいかない。

しかもトールは上条と戦うことが目的なので、カブトムシで止めようがないのだ。

 

次から次へと様々な人間にちょっかいを掛けられる上条当麻とオティヌスのことを考えて、垣根は面倒だと舌打ちする。

 

「私は直接会ったことないけど、トールは意外と理性的なんだろ。だったら気が済めば大丈夫なハズだ」

 

真守が垣根から聞いたトールの人となりを考えながら告げると、垣根はネットワークに接続したまま胡乱(うろん)げな目を細めた。

 

「……オティヌスの様子が変だな。わざわざ一度拾った目玉を泉に落としやがった」

 

垣根の言う通り、オティヌスはトールと戦っている上条当麻より一足先に自分の目を取り戻しに行っていた。

そしてオティヌスは眼球を手に取り戻したのだが、カブトムシの声も聞かずに彼女は目を放り投げて魔神の力を爆発させていた。

 

「む。もしかしなくとも、オティヌスはここまで世界を引っ掻きまわした自分が救われるべきじゃないとか思ってるのか?」

 

真守が痛いほど分かるオティヌスの心を代弁すると、垣根は大きく舌打ちをした。

 

「ここまで俺たちがやってやったのに何言ってんだ。行くぞ、真守」

 

真守は大きく頷くと、オッレルスへと手を振った。

 

「じゃあな、オッレルス。お互い大切なひとを大切にできるといいな」

 

オッレルスが柔らかく目を細めたのを見た真守は垣根と共に翼で飛翔し、オティヌスのもとへと向かった。

真守は抱きしめているカブトムシのネットワークを通して、上条当麻と戦い始めたオティヌスを見つめる。

 

「……少しマズいな。さっき目を手に入れて人間に戻っていればまだ間に合ったのに、魔神の力を暴走させているから体の崩壊が早まってる」

 

「どうする? 奥の手を使うか?」

 

垣根が告げると、真守は頷いた。

 

奥の手。

それは魔神として『妖精化』に壊された部分を真守がオティヌスから取り除き、残った部分を真守が再構成させる方法だ。

 

真守はオティヌスが魔神を辞めて人間に戻れるならば、戻った方が幸せだと思っていた。

何故なら神さまとして完成された存在は、どんなに力を削がれてもよほどの事がなければ消えることはない。

だから完成した存在である朝槻真守は永遠を生きなくてはならなくて。

それ故に永遠の孤独が待ち受けているはずだった。

 

それでも、源白深城と垣根帝督が一人にしないと言ってくれたから。

永遠なんて途方もない時間を一緒に生きてくれると言ったから。

朝槻真守はその孤独を感じなくて済むのだ。

 

魔神オティヌスが人間に戻れる可能性があり、魔神の体を蝕む妖精化からそれで逃れることができるのであれば好都合だ。

そのため真守は壊れた部分を取り除いて再構築するよりもよほど良いと思っていた。

だがそれをオティヌスが拒絶してタイムリミットが近付いているならば、奥の手を使うしかない。

 

「奥の手を使うのであれば、上条に妖精化を壊してもらう必要がある。そうなると一緒に魔神の大部分が壊れてしまうし力が少ししか残らないけど、それでもやりようはある」

 

真守はそう告げ、上条当麻と魔神オティヌスの戦闘に不用意に干渉しないことを決めて、飛翔する。

何故なら、魔神オティヌスは『理解者』である上条当麻に勝てない。

だから彼らの対決の結末は決まっている。

上条当麻が妖精化を破壊するという、上条にやってもらう必要がある工程が果たされる。

真守は垣根と飛んで、オティヌスと上条当麻のもとへ飛び立った

 

 

 

──────…………。

 

 

 

魔神オティヌスは真守の考える通り、ここまできて自分は救われるべきではないと感じた。

 

だからこそ捨てようとしていた魔神の力を爆発させて、上条当麻と対峙した。

 

だがオティヌスを救おうとする上条当麻に、オティヌスは勝てない。

いいや、上条当麻の方に絶対にオティヌスを諦めないという気持ちがあるのだ。

 

そのため上条当麻はオティヌスの猛攻(もうこう)(さば)き切り、オティヌスを穿(うが)っていた『妖精化』の杭を幻想殺し(イマジンブレイカー)で打ち消した。

そして、上条は魔神オティヌスを優しく抱きしめた。

 

「約束しただろ」

 

上条当麻は少女らしい華奢なオティヌスの体を抱きしめて呟く。

 

「世界の全てと戦ってでも、俺たちがお前を助けてやるって」

 

その言葉を確かに上条当麻はオティヌスに投げかけたのだ。

朝槻真守と垣根帝督の前で。そう固く誓った。

 

「そう、だな」

 

オティヌスは柔らかい上条当麻の体温を感じて微笑む。

 

「でも、それなら、大丈夫だ」

 

自分が少しずつ解けていくのが分かる。

先程目を手に入れて人に戻っていれば間に合ったのが、酷く悔しかった。

 

「私はさ」

 

オティヌスは黄金の粒へと変わりゆく中、上条当麻の胸の中で確かに呟いた。

 

「その言葉を受けた時にはさ、もう、きちんと救われていたんだよ」

 

その言葉と共に、魔神オティヌスはピシピシと乾いた音を響かせながら、端から少しずつ光へと解けていく。

 

『大丈夫ですよ、魔神オティヌス。あなたが考えるよりきちんとあなたは救われます』

 

そう告げたのは上条当麻の頭に乗っていた、純白の体にヘーゼルグリーンの瞳を持つカブトムシだった。

 

『何故なら、私たちの救いの女神がやってきたのですから』

 

オティヌスは自身が解けていく感覚の中、上条当麻と共にそっと顔を上げた。

 

自分の攻撃によって雲が散った青空。

 

そこには。

確かに、人造生命体の言う通りに。

柔らかな微笑を浮かべた、黒猫じみた救済の女神がいた。

 

オティヌスは柔らかく微笑んで、目を閉じる。

『理解者』である少年の体温を感じながら。

幸せそうに。次に目覚める時は幸福のただなかだと確信しながら、一時(ひととき)の眠りについた。




次回、世界終焉篇最終回です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。