次は一〇月一〇日月曜日です。
色々あって
垣根は拗ねてなくとも、当然として
そのため真守は一人で一方通行の病室に来ていた。
「
「……オマエか」
真守が部屋に入ると、
能力で既に怪我は完治しているのだが、明日の検査をしないと帰れない手筈となっているのだ。
「お見舞い持ってきたぞ」
真守はそう告げると、綺麗にラッピングされたクッキーを一方通行に手渡す。
「私は教えられればきちんとこなせるからな。深城に手伝ってもらって作ったんだ」
真守が得意気に告げる中、
小さなかごに入れられた、金太郎あめのように均一な大きさの動物を模したクッキー。
それを透明な袋に入れて、白と黒のリボンによって綺麗にラッピングされたお見舞いの品。
元第一位。しかも一万体以上のクローンを実験と称して殺戮した怪物。
そんな怪物の事を友達だと思っている現第一位、そして
そんな少女の事を、
「アイツはもォ問題ねェのか?」
「上条のことだな」
真守は
「上条はいつもの通りに入院中だ。学園都市のちょっとヤバそうな最新技術使わないと生きていられないようになってるけど、ピンピンしてる」
「それピンピンしてるって言うのかァ……?」
あまりにも矛盾した言葉に、
「魔神とか言うのはどォした」
「上条のそばにいる。上条のそばで上条の力になることが、あの子の罰だ。そうすれば嫌でも人助けすることになるし、あの子にもそれが一番良いからな」
「…………罰ねェ」
「俺もいつか、公平な神サマってヤツに裁かれた方がイイかもなァ」
一方通行の口から飛び出した言葉に、真守はきょとっと目を見開いた。
『
そこで
クローンだって人間だ。だから一方通行は当然として自分の罪が重いものであり、いつか償わなければならないと思っている。
たとえ彼女たちが許してくれたとしても、一方通行はどこかできちんとけじめをつけるべきだと考えている。
魔神オティヌスを巡ったあの戦い。その中心地となったデンマーク。
当初の目的通りに上条当麻に撃破された一方通行は、
アンタは怪物として造られた/return。
だからアンタにとって簡単な方法は暴力を使うこと/return。
でも/backspace、 そんな簡単な方向に流れることは許さない/return。
だから、自分にとって最も辛い方法で足掻くこと/return。
だってやろうと思えば、アンタを苦しめる方法はいくらでもある/return。
殺された
でも/backspaces、 それはしない/return。だって悩んでもがいて進み続けなければ見えないものがあるから/return。
それと/backspaces、アンタは
そして二人の考えが正しい/return。特に朝槻ちゃん。朝槻ちゃんは
だから大きな一つの意思に影響されていると言えど、私たちが人間なのを忘れないこと/return。
被害者である総体にそう言われた
魔神オティヌスの罪の裁定は
できるならば、自分を癒してくれる月であり、太陽のような少女に裁かれたい。
「お前がそれで救われるのであれば。そういう未来も良いと思うぞ」
救われる。罪を償う事は、救われる事なのか。
今の
そんな一方通行に真守は優しく諭すように告げる。
「オティヌスに与えた罰のように。独房に入ることが本当の償いになるわけじゃないからな。だから色々な事をして工夫をして、贖っていくしかないと思う」
真守は自身の胸に手を当てて微笑む。
「私も過去にケリを付けなければな」
朝槻真守は源白深城を殺した世界を憎み、無辜の民を虐殺している。
彼らの中に、本当に悪人だった人間はいなかった。
ただみんな、自分の目的のために生きていただけだ。人の命を奪っていた人間もいたかもしれないが、朝槻真守が彼らを怒りでこの世から消し去るべきではなかったことだけは確かだ。
「私は永遠の命を持っているから問題ないが、
二五〇年法とやらに寿命伸ばす方法があったはずだから、軽く一万年は一緒にいられそうなのだ。
そう真守がひとりごちると、
「オイ、オマエは公平な神サマってヤツだよなァ。まさか俺と一緒にいたいっていう人間的な欲望のために、俺の刑罰伸ばすとかそォいう不正を働くわけねェよな?」
「働かないぞ。ちょっと言ってみただけだ」
真守はくすくすと笑って、
「
何だか絶妙な信頼をされていると
そんな真守を見て、一方通行は目を細めた。
人に遠ざけられ続ける人生だった。
それでも今は、こうして大切な人々に囲まれて幸せを享受している。
だからこそきちんと罪について考えて行かなければならないと強く思う自分の気持ちを、この少女は理解しているのだろう。
そして自分を見守るように、朝槻真守は優しい笑みを見せてくれるのだろう。
──────…………。
上条の病室に所狭しと並べられていた医療器具は少なくなっているが、
「これ、これっ!! まもりが作ってくれたの、本当!?」
インデックスは平常運転で上条に怒って噛みついていたが、真守がクッキーを手渡しすると、上条から離れて目を輝かせた。
「上条へのお見舞いの品だけど、インデックスにも作ってきたんだ。食べてくれ」
真守が笑って告げると、インデックスは興奮した様子で声を上げてラッピングを開け始める。
「はい、オティヌス。オティヌスにもおすそ分けだ」
真守は三毛猫と戦っていたオティヌスをテーブルの上に避難させると、テーブルの上にクッキーが三枚入ったラッピングの袋を置く。
「ふむ。大儀だったな、神人」
オティヌスは三毛猫から真守の手によって逃れることができてほっとして、テーブルの上であぐらをかいたまま真守がラッピングしてくれたクッキーを開け始める。
「上条も。おいしくできたから食べてくれ」
「あ、ありがとうっ!! 塩対応の神アイドルが俺にクッキーを……っ女神さまが……っくっきー、クッキーを!!」
最早何を言っているか分からない状態で歓喜にむせび泣く上条当麻。
「神人。お前の
オティヌスは自分にとっては大きすぎるクッキーにかぶりついて、むぐむぐと頬いっぱいに頬張りながら問いかける。
「下で待ってるぞ。垣根は私が上条のお見舞いに来るといつもそうだ」
真守が告げると、上条は嬉し涙を流しながらクッキーを食べながら話す。
「垣根は野郎の見舞いなんて面倒だって言うタイプだからな。そうだろ、朝槻」
「でもまあなんだかんだ言っても垣根もあれで心配性だから、ちゃんとベッドで休んで怪我を治すんだぞ、上条」
上条はいい笑顔で返事をして、もぐもぐとクッキーを食べる。
そんな上条を他所に、オティヌスは真守を見上げる。
「本当に想い合ってるんだな」
真守はオティヌスが少しだけ寂しそうにしているのを見て微笑む。
「うん。私は垣根のモノで垣根は私のモノだからな。垣根に会えたことはとても喜ばしいことだ。そしてオティちゃんも私たちに会えたこと、喜んでほしいな」
「オティちゃん言うな、オティちゃん」
オティヌスは真守にイジられたので顔をしかめる。
それでも真守がわざと軽口を言ったのは、自分の気持ちを柔らかくするためだとオティヌスは知っている。
そのためふんっと鼻を鳴らしてオティヌスがそっぽを向くと、真守はオティヌスの小さなほっぺを突いて笑っていた。
──────…………。
「垣根」
垣根帝督がコーヒー片手に真守を待っていると、真守が小走りで近寄ってきた。
「渡してきたのか?」
少し機嫌が直った垣根が問いかけると、真守はにぱっと笑った。
「うん。みんな喜んでくれたぞ」
ご機嫌な真守が愛おしい。
真守が楽しくしてるならまあいいか、と機嫌を直した垣根は、真守の猫耳ヘアを崩さないように優しく撫でる。
「垣根のこと、上条と一緒にいたオティヌスが気にしていたぞ」
「あ? あの魔神が?」
垣根は真守の猫っ毛を優しく撫でていたが、怪訝な表情をする。
「……まあ、お前に会ったんだからな。そんな変わりっぷりもあるだろ」
朝槻真守は人のことを本当に良い意味で変えてくれる。
真守がいなければ魔神オティヌスが他人の心配をするのも、垣根帝督が誰かを想うこともなかったはずだ。
垣根帝督は自分が以前と全く変わったと知っている。でもその変化が別に嫌いではなかった。
むしろ以前よりも広く物事を見つめることができるようになったし、自由になれた。
できないことはない。そんな風に思わせてくれるほど、この少女は可能性を広げてくれた。
「垣根、どうした?」
真守がコテッと首を傾げて問いかけると、垣根はふっと笑った。
「バーカ」
「!? 出た、垣根の唐突なばか!」
真守は垣根に突然罵倒されて、みゃっと飛び上がらんばかりに声を上げる。
かわいい。
垣根は柔らかく微笑むと、フシャーッと猫のように威嚇する真守の頭を優しく撫でた。
「む」
真守は垣根が本当に幸せそうに自分の頭を撫でるので、顔をしかめる。
優しく撫でてくれる垣根の大きな手。
垣根の大きな手が好きな真守は、すぐに幸せを感じてとろんっと表情を弛緩させる。
「垣根。機嫌、直ったか?」
真守は垣根に頭を撫でられながら問いかける。
垣根帝督は先程から拗ねていた。だから真守は問いかけたのだが、垣根は小さく笑った。
「まだ直ってない。だからこの後遊びに行こうぜ」
既に垣根帝督の機嫌は直っている。
それでも真守を独り占めにして遊びたい垣根は笑って、真守の手を恋人つなぎでぎゅっと握って遊びに誘う。
「しょうがないひとだな。行こう、垣根」
垣根の機嫌が直っていることは真守も分かっている。
それでも垣根の気持ちを尊重したい真守は垣根と繋いだ手をぎゅっと握ると、垣根と共に歩き出す。
「でも遅くならない内に帰ろう。深城たちが待ってる」
「そうだな」
帰る場所。今の垣根帝督にはそれがある。
真守と、深城と林檎と。そしてフロイライン=クロイトゥーネと、新しく加わったあの白い少年。
なんだかんだの気持ちはあるが、それでも垣根帝督は彼ら全員を気に入っている。
だから垣根は彼らのことを思いながら、愛おしい少女と共に学園都市の街に溶けて行った。