とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第五三話、投稿します。
次は一〇月一三日木曜日です。


第五三話:〈超能力者〉たちはお茶をする

早朝。

真守は自宅にて携帯電話で話をしながら、しかめっ面をしていた。

 

真守が通話をしている相手は上条当麻だ。

 

どうやら上条当麻、昨日の夜に一人でふらふらと人助けしに行ったらしい。

そのせいで怪我が増えた。わざとボコボコにされてうっぷんを晴らしてもらったのだ。

よく分からない事態だが、真実である。

 

「まったく。お前は本当にしょうがないヤツだな」

 

真守は膝の上に乗っている白いカブトムシの背中を撫でながら、不機嫌な声を出す。

 

〈いや、だってさ……なんか胸騒ぎがして、行った方がいいと思ったんだよ〉

 

「あまり危ないことはするな。本当にマズいなら帝兵さんに止めさせるからな。そしたら引きずってでも連れ戻してもらう」

 

真守が不機嫌そうなので、上条は慌てて真守の機嫌を取る。

だが真守はそんなことで(ほだ)されない。仏頂面のまま責めたいだけ上条を責めると、携帯電話の通話を切った。

 

「上条の自分をないがしろにして人を助ける癖は一生治らないだろうな。まあオティヌスに追いつめられ、総体に気持ちを聞かれて初めて自分を優先したから、当然と言ったら当然だけど」

 

『そうですね、三つ子の魂百までと言いますし、絶対に治らないでしょう』

 

真守は憤慨したままカブトムシと会話して、ため息を吐く。

そんな真守をソファの隣に座って見ていた垣根はコーヒー片手に笑った。

 

「朝から分からず屋の相手は大変だったな、真守」

 

「本当だ、まったく。事情があるとしても自分に鞭を打つのはやめてほしい。ついこの間までケミカルなモノ体に入れなければ死にそうだったのに」

 

真守は手に持っていた携帯電話をスライドさせて閉じて片付けると、垣根を見上げた。

 

「それで垣根。ちょっと出かけるところができた」

 

真守は垣根に声を掛けると、カブトムシのネットワークに接続するためにカブトムシのことを抱き上げて、目を合わせた。

 

「……行くのか?」

 

垣根が問いかけてくるので、真守はカブトムシから情報を貰いながら頷いた。

 

昨日。上条当麻が病院を抜け出して助けた人物とは、超能力者(レベル5)第六位、食蜂操祈だ。

そして上条が助けたのは何も食蜂操祈だけじゃない。食蜂操祈と敵対していた、蜜蟻愛愉という少女もだ。

 

食蜂と敵対していた蜜蟻愛愉は、現在食蜂操祈の主導で安全な少年院で保護されている。

保護という名目になっているのは、蜜蟻が現存する暗部組織を引っ掻きに引っ掻き回したからだ。

そのため蜜蟻は暗部組織から一定の恨みを買っており、狙われている。

食蜂操祈は彼女に思うところがあるため、蜜蟻を守るために手を回したのだ。

 

真守が会いに行きたいのは食蜂に保護されている蜜蟻愛愉ではなく、食蜂操祈の方だ。

 

「帝兵さん」

 

『はい。食蜂操祈を呼び出します。場所はどうしますか?』

 

「食蜂が好きなところでいいと言ってくれ。ただし、学舎の園内部は私たちが目立つから外にしてくれって」

 

『了解しました』

 

真守はカブトムシにそう指示を出すと、カブトムシを抱き上げたまま立ち上がった。

 

「用意してくる。垣根も行くだろ?」

 

「当たり前だ」

 

垣根は真守が準備するまでコーヒーを飲んでいようと、その場に座って動かないまま声を上げる。

 

「お前に精神干渉が効かないっつっても、どうも精神干渉系能力者はひねくれてやがる。そんな女と二人きりにさせるわけねえだろ」

 

垣根は『スクール』の精神干渉系能力者、心理定規(メジャーハート)のことを思い出して忌々しそうに告げる。

心理定規も掴みどころがない少女なのだ。しかも人の心を扱う能力者なため、人間の扱いがとても上手い。

それがどうしようもなく気に入らない垣根を見て、真守はふにゃっと笑った。

 

「ありがとう、垣根」

 

真守は垣根にお礼を告げると、笑みを消して真剣な表情をする。

 

「じゃあ行こうか。食蜂にどうしてほしいか聞きに」

 

朝槻真守はカブトムシから情報を収集して知っている。

 

食蜂操祈のことを、上条当麻は覚えていられない。

記憶の思い出し回路が損傷していて、上条当麻は食蜂操祈のことをすぐに忘れてしまうのだ。

 

朝槻真守は、食蜂操祈に救いの手を差し伸べることができる。

だから会いに行く必要があるのだ。

そして願わくば。彼女が幸せになれることを、真守は祈っている。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

食蜂操祈は顔をしかめて、真守と垣根と相席していた。

食蜂たちが現在いる場所は第五学区のとあるビル、その二階部分に店を構えているファーストフード店だ。

食蜂はお通しの麦茶に手を伸ばしながら、真守たちを怪訝な様子で見つめる。

 

「で。何なのかしらあ。あなたたちが知ってる通り、私はいま疲れてるんだゾ?」

 

「話に入る前にちょっと待ってくれ。店に入ったのに注文しないなんて失礼だろ」

 

真守はそう断りを入れると、メニュー表に手を伸ばしながら垣根を見た。

 

「垣根。この店は良いんだよな?」

 

「ああ、良いぜ。ここの飯は食通なお嬢サマが気に入るファーストフード店だからな」

 

食蜂操祈は真守と垣根の会話に眉をひそめる。

別に垣根に『お嬢サマ』と強調されて、挑発的な発言をされたからではない。

そんなことに一々目くじらを立てても仕方がないからだ。そうではなく、何故真守は垣根に断りを入れてから食事を頼もうとしたのだろう。

食事にそれなりのこだわりがある食蜂が内心首を傾げていると、真守は感心した様子で呟く。

 

「やっぱりお嬢さまは食事に気を遣うんだな」

 

「お嬢サマっつってもこいつは極まってるけどな。……お前、どうせリスト持ってんだろ」

 

リスト? と真守が首を傾げる中、食蜂もメニュー表を手に取りながら真守と垣根を視界の端で睨む。

 

「お嬢サマお嬢サマうるさいゾ☆ お嬢サマじゃなくともそれなりにきちんとしている人ならぁ、食事に気を付けるのは当たり前じゃなぁい?」

 

「うぐっ!」

 

真守は食蜂の何気ない言葉が胸に突き刺さり、思わず呻く。

 

「……どうしたのかしらぁ?」

 

自分の言葉に何か悪いところがあっただろうか。

食蜂が首を傾げていると、垣根が呆れた目をして告げる。

 

「コイツは実験だって言われて数年間食事してなかったクチで、最近まで経口補水液と氷砂糖だけで生きてきたんだ。食に関心がなくて当然だろ」

 

食蜂操祈は垣根帝督の言っていることが理解できなかった。

超能力者(レベル5)の処理能力はすさまじい。だがその処理能力を超えるほどに理解不能な事実を告げられたのだ。

 

「……が、学園都市らしいけどぉ……さすがにそれはぁ……」

 

「そんなに全力で引かなくても良いだろっ」

 

真守はありえない生物を見るかのように、年下の少女に見つめられて声を上げる。

確かに真守たちと一緒に生活している杠林檎は淡白な食事から解放され、なんでも嬉しそうに食べるようになったが、真守はそうならなかった。

内臓器官が退化していたし、まったく食事してないせいで味覚が過敏になっており、味の濃いものや刺激的なものが食べられなくて食事自体が苦痛を(ともな)うものだったからだ。

 

「真守はエネルギーとして問題ねえならどんな食材でも変わらねえって効率廚だからな。そんなの気にするわけねえだろ」

 

「……う、うわぁ……」

 

「垣根、追い打ち掛けないで。食蜂の視線がとんでもないことになっただろっ」

 

宇宙人でも見るかのような視線になっていく食蜂の前で、いたままれなくなる真守。

エネルギー関連の能力者としてエネルギーとしてきちんと自分の力になるように食物を摂取できるならば、それ以外はどうでもいいと考えても致し方ないはずだ。

それでもやっぱり普通じゃないのかと真守は落ち込みながら、ちらっと食蜂を見上げる。

 

「……恥を承知で聞くけど……リストってなんなんだ……?」

 

「当たり前に育てた食材で、当たり前に作ったもの。それを当たり前の価格で提供してくれる店のリストだゾ」

 

食蜂は真守に優しく、自分にとっては初歩的すぎる説明を丁寧にする。

真守は落ち込んだ表情をしていたが、食蜂の言葉を理解して感心したように呟く。

 

「当たり前。そうか。この学園都市は技術が発達しすぎてある意味異常だから、当たり前というものが貴重になるんだな」

 

「そぉいうことよ。……納得したわあ。あなたが食事についてぜんっぜん詳しくないから、垣根さんがあなたの食事を管理してるのねぇ」

 

食蜂操祈は真守が先程垣根に確認を取ったのは、垣根が真守に変なものを食べてほしくなくて、一々食べていいか自分に確認させているのだと理解する。

 

そう理解して、食蜂操祈は真守の事をどこまでも考えている垣根帝督のことをちらっと見た。

 

垣根帝督ははっきり言って食蜂操祈が関わりたくない相手だった。暗部組織に自分からずぶずぶ浸かりに行った人種なのだ。接触するのは絶対に避けたい相手だった。

だがこの男は朝槻真守に出会って変わった。

そうじゃなかったら、大覇星祭の時に木原幻生に追い詰められた食蜂操祈(じぶん)を助けなかっただろう。

 

垣根帝督は朝槻真守のことを想って、朝槻真守のために行動する。

そして必要ならば上条当麻とも協力する。以前ならば考えられない程に、垣根帝督は変わった。

 

上条当麻。その人物の事を想って、食蜂は思わず顔をしかめる。

そんな食蜂の前で、真守はメニュー表をじっくり見て眉根を寄せる。

 

「むぅ。……このハンバーガー食べたいけど、多分全部は食べられない……」

 

「俺が食ってやるからお前は食べたいもの頼め。何なら持ち帰りするか?」

 

「それもいいかも。垣根、ナイスアイデアだ」

 

真守と垣根が楽しそうに会話をしている様子を見て、食蜂は思わず目を細める。

何か違えば、自分も大切な人と話ができたのだろうかと。

幸せそうな彼らを見ると、どうしても考えてしまう。

 

「食事をしてからじゃないと話ができないだろうから、ちょっと世間話でもするか」

 

真守は食事を注文して、食蜂にそう切り出す。

 

「そうは言っても、あなたたちと私はほとんど接点がないのだしぃ。話すことなんてないでしょぉ」

 

「ある」

 

真守は食蜂操祈をジトーッと睨んで告げる。

食蜂は真守の無機質なエメラルドグリーンの瞳で責め立てられて、思わずたじろぐ。

 

「な、なによぉ」

 

「お前、垣根にお姫様だっこしてもらっただろ」

 

食蜂は真守の追及に、思わずきょとんとしてしまう。

 

大覇星祭の時。

あの時。御坂美琴を主軸とした『"RAIL_GUN":LEVEL[PHASE]-NEXT』という、もう一つの『絶対能力者進化(レベル6シフト)計画』が進められていた。

 

あれは元凶である木原幻生でも不測の事態を引き起こした。

まったく関係なかった真守がその余波を受け、美琴に釣られるかたちで絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)させられそうになってしまったのだ。

 

真守と垣根は別行動を取り、真守は即戦力として暴走する御坂美琴をおさえに行き、垣根は美琴の力の元栓を閉めるために行動した。

 

その結果、真守は上条当麻と削板軍覇と共闘し、垣根は元凶である木原幻生に追い詰められていた食蜂操祈を助けることとなったのだ。

 

「しかもお前、垣根のジャージ貸してもらってただろ」

 

真守はムッと顔をしかめて、心底恨めしそうに食蜂を睨む。

 

「めちゃくちゃ垣根のジャージから香水が匂ってたんだ。私も垣根もつけないヤツ。だからお前が垣根にジャージを貸してもらったのは明白だ。……お姫様抱っこしてもらったのに、その上ジャージまで……ッ」

 

「…………あなたって、意外と嫉妬力が強いのかしらぁ?」

 

食蜂操祈にとって朝槻真守とは黒猫系美少女であり、それ故に淡白でツンツンしているような印象だった。

確かに猫は飼い主にべったり甘えてすぐに嫉妬する子もいるが、ツンツンして冷たそうで、そしてあどけない顔つきをしている真守からは絶対に想像つかない。

 

「別に私は嫉妬深くないっ垣根よりは懐が深いっ」

 

真守はバンバンッとテーブルを軽く叩いて、ふくれっ面になる。

垣根は真守が珍しく嫉妬している姿が愛しくて、にやーッと笑う。

 

「そういやあのジャージ、俺が前日にお前に貸したものだったな」

 

「そうなんだよ……ッ上条のラッキースケベで下着が透けちゃったから、垣根が貸してくれたものだったのに……ッ」

 

「ちょっと待ちなさぁい。私はあの人のラッキースケベの方が気になるんだけどおっ」

 

聞き捨てならないと食蜂が声を上げると、垣根はムッとする真守の腰を抱き寄せて宥めながら当時のことを思い出す。

 

「あのハーレム野郎がグラウンドの水まき用のホースを踏んだんだよ。そのせいで真守とクラスメイト一名が頭から水被ったんだ」

 

「……あの人はどこでも、やっぱりそういう立ち位置にいるのねえ」

 

食蜂は上条当麻と一年前に出会っている。

 

その時色々とラッキースケベがあった。恥ずかしくて上条の記憶消去をしてなかったことにしようとしても、異能が効かないのでどうしようもなかったのだ。

 

食蜂操祈は上条当麻のことを考えて、遠い目をする。

そんな食蜂の前で、垣根は超ご機嫌に真守の肩に腕を回して頬を撫でる。

 

「お前が嫉妬してるとすげえ気分がいい」

 

「私は楽しくない」

 

真守がプイッと顔を背けると、垣根は真守の頬をぷにぷに突いて笑う。

食蜂は人前でよくやるわねえ、と思いつつ麦茶へと手を伸ばす。

 

「機嫌直せよ。帰ったら時間かけてたっぷりかわいがってやるから」

 

垣根がご機嫌で告げるのを聞いて、食蜂は思わず吹き出してしまう。

真守は咳き込む食蜂の前で、じろっと垣根を見上げる。

 

「垣根。中学生の前でそういうのは良くない」

 

「お嬢サマっつっても頭ん中はそういうコトでいっぱいに決まってんだろ。つーか生娘(きむすめ)の方が経験ないから先入観がヤバいって相場が決まってるんだぜ、真守」

 

「き、ききききき!?」

 

食蜂は垣根の暴言を聞いて顔を真っ赤にして涙目になって、思わず声を上げる。

別に食蜂操祈に面と向かって『お前は未経験だ』などとは言っていないのだが、普通に問題発言である。

 

「ちょ、ちょっとぉ!! その男は一体どうなってるの、朝槻さぁん!!」

 

「どうなってるって言っても。こういう男なんだぞ、食蜂。──垣根、食蜂は外見が外見だけど、ちゃんと中学生なんだぞ。きちんと配慮しなきゃダメだ」

 

真守は自分の髪を上機嫌に指先で遊ばせている垣根をじとーッと見上げる。

 

「そいつはハーレム野郎の毒牙に掛かってんだろ。別に気にしなくても問題ねえよ」

 

「気にしなくていいわけないでしょお、このノンデリ男ぉ!!」

 

食蜂は顔を真っ赤にして叫ぶ。

垣根はむぎゅっと真守のことを抱きしめながら、チッと舌打ちする。

 

「店内では静かにしろ」

 

「ここで正論言うんじゃないわよぉ!!」

 

垣根は再び叫ばれて、心底不機嫌そうに顔をしかめる。

 

「お前は所かまわずラッキースケベするあの野郎の毒牙に掛かってるんだろ。スケベに慣れてるんだから、お前の恥じらいなんて結局ご都合主義のファッションだろ。どう頑張ったってそうとしか見えねえ」

 

「そんな訳ないでしょぉ!?」

 

食蜂は傍若無人な垣根を信じられないと見つめると、ご機嫌な垣根に抱きしめられて無表情になっている真守を睨んだ。

 

「あなたはどうしてこんな男と付き合ってるのかしらぁ!?」

 

「好きになっちゃったんだからしょうがないだろ」

 

「す、すき!?」

 

真守がムッとしたまま頬を赤らめると、食蜂はすさまじく動揺する。

真守のはっきりとした好き宣言に、垣根はもっと気分を良くしてご機嫌に目を細める。

 

「お前より百億倍イイ女だろ? なあ、食蜂操祈?」

 

「……前と同じで小学生力が高い言葉だけどぉ、否定できないのが悔しい……ッ。確かにこの男には心が広い朝槻さんが合ってる気がするわあ……ッ!」

 

食蜂は機嫌が良い垣根を見て拳を(かか)げると、ふうっとため息を吐く。

なんだかこの少年少女と一緒にいると調子が狂わされるのに悪い気分にはならない。

そんなところが上条当麻とよく似ていると、食蜂操祈は思い知らされていた。

 

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