とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第二二話投稿します。
次は八月二八日土曜日です。


第二二話:〈共闘救済〉して彼方へと

「話は聞いたよ」

 

小萌先生の部屋で昏睡状態から目を覚ました上条は真守から話を聞いた。

 

インデックスの逃走防止用の魔術。

それを破壊すれば、インデックスは救われる。

 

「それで全部丸く収まるならやろうぜ。不安そうな顔するなよ、大丈夫だって」

 

上条は顔をしかめている真守を元気づけるように笑う。

 

「……昏睡状態の人間を起きてすぐにコキ使うのは心配になるに決まってるだろ」

 

体が辛いはずなのに気丈笑っている上条に、真守がしかめ面になるのは当たり前だった。

 

「それで、あいつらは?」

 

「待機してもらってる。連絡先は聞いているから大丈夫だ。……問題は小萌先生だ。目の前でやるとマズいから小萌先生が銭湯に行っている間にしようと思う。今日行くって言ってたんだ」

 

「分かった。……で、その魔術ってどこにかけられてんだ? インデックスの体に触れても何も起こらなかったんだけど?」

 

「それがステイルが言うには口の中、上顎のところに仕掛けてあるらしいが……」

 

「らしいが?」

 

「どんな魔術か見当がつかないらしい。インデックスも自分にかけられている魔術は解析できないからな。イギリス清教に問い合わせるワケにもいかないから色々と探っているんだがな」

 

「そっか。分からねえかもしれないけど、壊しちまったらなんでもいいんだろ?」

 

「……まあ、そうだな。壊してしまえば問題ないだろう」

 

上条のあっけらかんとした言葉に真守はふむ、と一つ頷く。

元々、インデックスの体を救う目的で魔術を壊すのだ。体にかかる負荷がなくなるのだから問題ない。

一番真守が懸念しているのはフィードバックなのだが、インデックスの体を蝕んでいるものを除去すれば問題ないか、と納得する。

 

「ちなみに、お前の方の野暮用はどうにかなったのか? すっげえ忙しそうだったけど」

 

上条が問いかけてくるので、真守は機嫌悪そうに顔を歪ませてから上条の額にデコピンをかます。

 

「てっ!?」

 

「私はこの通りピンピンしている。自分が重傷なのに人の心配するな、バカタレ。大体お前はその右手でなんでも打ち消してしまうから私の治療が効かないんだぞ」

 

真守が優しい怒りを上条に向けていると、上条は額を押さえながら頷く。

 

「まったくお前のその右手には困ったものだ。それにお前の右手を見ていると入学式の日を思い出す」

 

「あー……本当にすみませんでした……」

 

上条は入学式の日を思い出して申し訳なさそうに笑う。

 

真守は五年前まで研究所にいて、その後は病院に入院して治療を行っていたので中学校に所属はしていたが通ってなかった。

 

そのため高校に進学してから初めて普通の学校に行くことになったのだ。

エリート校ではなくてわざわざレベルの低い学校を選んだのは、好待遇なのと厳しい校則に行って耐えられるか心配だったからである。

 

入学式の日。

真守ははっきり言って緊張していた。

周りの生徒が自分を傷つける人間か分からないからだ。

そのため不安でいっぱいだったのだが、入学式がある体育館へ向かうためにクラスメイト全員で廊下を並んで歩いていたら、真守の後ろで上条が自分のズボンの裾を踏んでずっこけたのだ。

 

すると真守の背中に丁度右手が接触する形で上条は真守の方へ倒れてきた。

瞬間、幻想殺し(イマジンブレイカー)が発動して真守が体に薄く張っていたエネルギーが打ち消された。

 

真守が驚いて後ろを振り向こうとした瞬間、上条が真守を巻き込みながら転倒。

──そしてその結果。

 

真守は馬乗りになられて形の良いほどよい大きさの片乳を上条にしっかり掴まれた。

 

当然の如く錯乱した真守によって上条はぶっ飛ばされた。

 

その後は大騒ぎで上条をタコ殴りにして殺す寸前になりそうだった真守をクラスメイト全員が止めた。

入学して早々にクラスメイトが一つになった瞬間であった。

 

クラスメイト全員にはどう見ても、真守が尻尾を踏まれて怒った猫にしか見えなかったらしい。

そして女子生徒に囲まれて優しく慰められて大人しくなった真守は機嫌を取ってもらって大人しくなる猫に見えて、ますます猫っぽい少女だと思われた。

 

落ち着いた真守はクラスメイトに向けて『止めてくれてありがとう』と、深い感謝の念をこめて頭を下げたので、『あ、この子すっごい良い子だ』と、突然暴れ出した真守を彼らはクラスメイトとして受け入れてくれた。

 

真守の初めての学校生活は初日からそんなんだったが、割と受け入れられたのは上条のおかげだ。

……まあ、確かに乳を揉みしだかれた事は根に持っているが、上条自身は嫌いじゃない。

 

「入学式初日にあんな事があったから、お前の右手の事を私は知ったんだが。それにしても魔術があるって事は、御利益とかも本当にあるって事だ。……お前、神のご加護とやらをその右手で打ち消してるから、そこまで不幸なんじゃないのか?」

 

「うぐっ。そ、それ……インデックスさんにも言われました……」

 

上条はがっくりとうなだれて右手を見つめる。真守はそんな上条の前でクスクスと微笑んだ。

 

「あー! とうま! 目が覚めたの!?」

 

その時、小萌先生と夕食の買い出しに出ていたインデックスが、小萌先生と共に帰って来た。

 

「よお、インデックス」

 

「上条ちゃん、大丈夫ですか?」

 

近付いてきたインデックスと小萌先生に向かって心配しないでほしいと笑う上条。

 

(まったく……自分が人を大事にしたいからって自分の事をないがしろにしてどうするんだ、コイツ。まあ自分の芯がしっかりしているのは良い事だが、少しは周りを頼る事を覚えないとダメだぞ、上条)

 

真守は上条当麻を優しい目で見つめながら心の中で呟いていた。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

小萌先生を銭湯へと向かわせた後、真守は一応人払いのルーンをステイルにかけてもらった。

小萌先生の部屋は狭いので圧迫感があるが、そこに五人集合していた。

 

「じゃあ、行くぞ」

 

上条が目の前に座っているインデックスを見つめてごくッと喉を鳴らした。

真守は不穏な気配を感じて上条を睨みつけた。

 

「上条、エロい目で見たら潰す」

 

「何を!? 何を潰すんですか!?」

 

上条がバッと男の急所を押さえるので、真守は顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

 

「殺すって言葉は使えないからぶっ潰すって言ってんだよ、変な方に考えるな!」

 

真守がガウッと唸ると、上条はほっと安堵してインデックスに向き合う。

 

「行くぞ」

 

「う、うん」

 

そしてインデックスが大きく開けた口の中に右手を入れて上顎に触れた。

 

バギン! という音が響いた瞬間、上条の右手は勢いよく弾かれて後ろへ突き飛ばされた。

 

「なっ!?」

 

声を上げたのは誰だったか分からない。

全員かもしれないし、一人かもしれなかった。

 

真守たちの前でインデックスが浮き上がって黒いオーラが放たれる。

そしてインデックスの両目が見開かれて、赤い魔法陣を浮かべた瞳で上条を見た。

 

自動書記(ヨハネのペン)は魔術を説明するための機構じゃなくて、防衛機構だったのか!」

 

真守が叫んだ瞬間、インデックスが上条へと衝撃波を放った。

 

その衝撃波によって家具も吹き飛ばされるが、真守は即座に能力を解放。

蒼閃光(そうせんこう)でできた猫耳と尻尾を現出させると家具にぶつけるように源流エネルギーを生成して、それらの家具を塵も残さずに焼き尽くした。

 

「警告、第三章第二節。第一から第三までの全結界の貫通を確認。再生準備、失敗。自動再生は不可能。現状一〇万三○○〇冊の書庫の保護のため、侵入者の迎撃を優先します」

 

真守たちの前でインデックスが無機質で機械的な言葉を吐く。

 

「……、そういやぁ、一つだけきいてなかったっけか。超能力者でもないテメエが、一体どうして魔力がないのかって理由」

 

「防衛機構に魔力のリソースが全て割かれているのか! だからインデックスは自分で魔術を使えない!」

 

上条の一言によって弾かれたように真守が叫ぶと、背後でステイルと神裂が息を呑んだ。

 

「書庫内の一〇万三○○〇冊により、結界を貫通した魔術の術式を逆算。──失敗。該当する魔術は発見できず。術式の構成を暴き、対侵入者用のローカルウェポンを組み上げます。侵入者個人に対して、最も効果的な魔術の組み合わせに成功しました」

 

インデックスが呟くと、彼女の瞳に浮かび上がっていた魔法陣が目から空間へと投射されて大きく展開される。

 

「これより特定魔術『(セント)ジョージの聖域』を発動。侵入者を破壊します」

 

そしてインデックスの瞳から黒い亀裂が辺りの空間にヒビのように走る。

 

部屋の隅々まで走り抜けるそれを感知した真守は雷撃のような感覚が体の中を突き抜けた。

あの亀裂の奥に潜むモノは危険だ。

 

真守が本能的に恐怖を覚えていると、その前でインデックスが煌々と光り輝く。

 

瞬間、高密度のエネルギーが練り上げられているのを感じた。

真守はその高密度エネルギーに対抗するための逆算を開始するが、目の前にどんな異能をも打ち消す右手を持つ上条がいるので、自分の能力を打ち消されると即座に判断した真守は声を上げた。

 

「上条! 右手、右手を早く前に出せ!!」

 

上条はインデックスから迸る光が強すぎて頭を守るように手をかざしていたが、真守が叫ぶと即座に前に出した。

 

インデックスから凄まじい光の柱が放たれる。

レーザー兵器のように光り輝く純白の『光の柱』が発射されて、それを上条は右手で真っ向から受け止めた。

光の奔流(ほんりゅう)(ほとばし)り、余波が真守たちの方へと流れていく。

 

真守は背後の二人を守るために上条に打ち消されない範囲に設定してエネルギーを生成、その余波によって部屋が吹き飛ばないように空間にエネルギーを満たして『固定』した。

ガガガガキ! と、歯車が噛み合いながらも回らずに軋む音を響かせて、蒼閃光が迸る。

 

(あのビームを構成するエネルギーの質は均一じゃない。あんな複雑性を持たれたら上条の右手が圧される可能性がある……っ)

 

真守は状況を打破するために考えるが、幻想殺しで自分の異能が打ち消されてしまうので手が出せない。

攻勢に出られない真守の前でインデックスから無機質な声が放たれた。

 

「『(セント)ジョージの聖域』は侵入者に対して効果が見られません。他の術式に切り替えて侵入者の迎撃を継続します」

 

インデックスが呟いた瞬間、インデックスからは放たれるエネルギーの質が大きく変化したのを感知した。

 

「ステイル、神裂!!」

 

真守は部屋が吹き飛ばされないようにエネルギーを展開して場を固定しているので、まだ何もしていないで突っ立っている二人に声をかけるとステイルが即座に反応した。

 

我が名が最強であることをここに示す(F o r t i s 9 3 1)!!」

 

ステイルはルーンが記述されたカードを操り、自分の体に貼りつけると、上条の背中に手を当てた。

ステイルが上条を支えた瞬間、インデックスがそれに応えるように力を増大させた。

 

それを受けて今度は神裂が動いた。

 

救われぬ者に救いの手を(S a l v a r e 0 0 0)!!」

 

神裂は七本のワイヤーを巡らせて部屋の畳を切り裂くと、足元を浮かされてインデックスはそのまま後ろへと倒れこむ。

 

インデックスの瞳と連動している光の柱は、体が上を向いた瞬間に天井を焼きながら天に向かって放たれた。

 

それは夜天に広がっていた雲を切り裂くように昇っていく。

 

「う!? 何かに当たったが!?」

 

真守がその光の柱のエネルギーが何かを貫いて爆発させたのを感じ取ってうめいた。

 

「え!? 何かって何!?」

 

「分からない! 今は目の前に集中しろ!」

 

真守のうめき声に上条が不安になるが、真守が命令口調で告げたので上条はインデックスを見た。

 

その時突如、天井が焼き切られて夜天が広がる部屋に天使の羽根が降り注いだ。

それは光で作られた羽根であり、暗闇の中で仄かに光りを放っていた。

 

「なんだこれ……?」

 

「これは、竜王の殺息(ドラゴンブレス)──伝説にある聖ジョージのドラゴンの一撃と同義です! それにたった一枚にでも触れてしまえば、いかなる力があろうとも大変な事になります!」

 

真守は光の羽根をじっと見つめながらその存在を直感に基づいて解析していく。

 

「……この羽根、物質として極めて不安定で曖昧になってる……? 上条の右手で打ち消しきれなかった()()()()()()か……! マズい……上条の右手でも打ち消せないこれに下手に干渉でもすれば、『揺らぎ』が生じて空間が歪む! 何が起こるか私でも察しがつかない、当たらないように気を付けるしかない!」

 

神裂に引き続き、真守が焦った声を上げると上条がひらひらと落ちる羽根を見つめた。

 

「……マジか!?」

 

そんな上条の前でインデックスが体勢を立て直し、光の柱の軌道を上条へと振り下ろした。

真守は上条の横に立って源流エネルギーを上条に打ち消されないように演算して展開、その光の柱を受け止めた。

 

真守の生成した源流エネルギーと光の柱が衝突して虹色の煌めきの奔流が辺りに吹きすさび、アパート周辺でさえ明るく染め上げられる。

 

「上条、今のうちだ!!」

 

真守が衝撃に耐えながら叫ぶと、上条がインデックスへと迫る。

 

「警告。第二十二章第一節。『天使の力(テレズマ)』に酷似している高純度エネルギーの解析に失敗。警戒を最大限に引き上げて術式を再構築。『(セント)ジョージの聖域』を第二、第三、第四、第五、第六、第七段階へと移行します。『正しい事を為せ(ファク・クォド・レクトゥム・エスト )(・ディク・)真の事を言え(クォド・ウィルム・エスト)』」

 

「──────嘘、だろ……っ!?」

 

より凶悪になった光の柱を、真守は源流エネルギーを初めて『練り上げて』受け止める。

 

光の柱と源流エネルギーの衝突によってその間を縫うかのように虹色の煌めきが吹きあがって、場が白く霞む。

 

衝突によって爆発が起こると真守は察すると、自分が放つエネルギーの指向性に手を加えて、源流エネルギーに真っ向からぶつかる光の柱を拡散させた。

 

拡散した光の柱が無数に飛び散り、小萌先生の部屋の壁に幾つもの大穴を空ける。

 

壁がぶち抜かれていく様子を神裂とステイルは、眩しくて目が上手く機能しない中必死に見つめていた。

 

「その幻想をぶち壊す!!」

 

そんな二人の前で上条はインデックスの周りに展開されている黒いヒビの形状を取っている『(セント)ジョージの聖域』に触れて、その先にある魔法陣を右手で打ち消す。

 

鋭く甲高い音が響く中、インデックスはゆっくりと後ろに倒れていく。

 

「警、告──最終章。第零…………『首輪』、致命的な…………破壊。再生、不可……」

 

夜天から白い羽根が何十枚も舞い落ちる中、事態は収束を見せた。

 

上条は倒れたインデックスへと近づいて、抱き寄せる。

 

そして、インデックスの無事を確認すると穏やかに微笑んだ。

 

「──────!!」

 

真守が叫ぶが、上条には聞こえていない。

 

上条が真守の声を受けてそっと振り返ると、その瞬間彼の頭に白い羽根が触れた。

 

天使の羽根が上条当麻の頭を一撫ですると、もうそこに彼は存在しなかった。

 

上条当麻は光の羽根からインデックスを守るように倒れ伏す。

 

そんな上条当麻の上に何十枚もの光の羽根が降り注ぎ、彼の体を白く染め上げていった。

 

上条当麻は、それでも笑っていた。

笑いながら、その指先は二度と動かなかった。

 

──七月二十八日。零時丁度。

 

上条当麻はその日、死んだ。

 

 

 

それは、それは。

周りにとって『不幸』な事で、彼にとっては『幸福』な最期だった。

 




真守ちゃんも上条くんの餌食に遭っていました。

ちなみに『神よ、何故私を見捨てたのですか?〈エリ・エリ・レマ・サバクタニ〉』ではないのはあれが対十字教用追加魔術だからです。
真守ちゃん十字教徒ではなく科学の徒なので、違うものにさせていただきました。

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