とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第六二話、投稿します。
次は一一月一七日木曜日です。


第六二話:〈偶然邂逅〉でお茶会を

ダイヤノイドでデートをしていた真守たちだったが、滝壺理后と絹旗最愛を連れた麦野沈利と出会った。

麦野は真守と垣根を見ると、両手に持っていた大量の買い物袋に目を向けた。

 

「垣根。ちょっとこれ持ってちょうだい」

 

「はあ? なんで俺がテメエの荷物持たなくちゃなんねえんだよ」

 

垣根が心底意味が分からないという風に片眉を跳ね上げる。

それを見た真守は垣根の怒りを鎮めるために垣根の手をぎゅっと優しく握り、麦野を見た。

 

「麦野。垣根は器が小さいから持ってくれるわけないだろ。この階ではないが、宅配サービスというものがあってだな」

 

「え、本当? どこかしら?」

 

「オイ真守。余計な言葉が入ってるぞ」

 

声を上げる麦野の前で、垣根は真守のことを睨む。

 

「ごめんごめん。それでな麦野──」

 

柔らかく微笑んだ真守が麦野に宅配サービスの仕組みについて話し始めると、こそっと絹旗が滝壺に声を掛けた。

 

「今超サラッと自分の男の器が小さいって言いませんでした?」

 

「あさつき、意外と毒舌?」

 

滝壺が首を傾げる中、垣根は説明し終えた真守の頬をむにーっとつねる。

真守が垣根に謝っていると、その様子を見ていた麦野は真守をじーっと見て、そして真守の服装が気になって首を傾げた。

 

「あんたってそういう趣味だったっけ? プールで見た時は違った気がしたけど。なんか男の理想バッチバチだけど、男ができたから趣味変わったの?」

 

麦野は薄いピンクのコートの向こうから見えるひざ丈のスカートと、ストッキングとピンヒールのパンプスという真守の服装を見て疑問に思う。

 

「私の趣味は変わってない。そしてその感覚は正しい、麦野。何せこの服は垣根が制服を剥ぎ取って私に着させたものだからな」

 

「「「うわー…………」」」

 

真守の言い分を聞いて、女子三人は垣根を見ながらドン引きする。

 

「うるせえな。こちとら事情があるんだよ。真守の言葉を鵜呑みにするんじゃねえ」

 

垣根が言う事情とはもちろん真守の祖父に完全防備の服を見繕(みつくろ)ってくれ、とお願いされたことだ。

だがそれでも垣根が祖父に真守がパンモロするから心配だ、と言わなければ済んだ話だし、完全防備と言っても垣根の欲望が(もろ)に入っているのは事実である。

 

「いや、事情があっても男の趣味超丸出しはどうかと思いますけどね」

 

「何だとコラ」

 

垣根が苛立ちを込めて絹旗を睨むと、麦野は垣根から視線を外して真守を見た。

 

「あんた、どうしてこれと付き合ってるの? ちょっと興味出てきたわ」

 

「あさつき。あさつきとかきねの馴れ初め、ききたい」

 

麦野の言葉に乗っかったのは滝壺で、滝壺は目を輝かせて前のめりになる。

 

「え? 突然だな」

 

真守がちょっと困惑している中、麦野は動き出す。

 

「んじゃーとっとと宅配サービスのとこ行って荷物預けたら場所確保しましょ」

 

「麦野。中階層に超個室の丁度いい感じのカフェがありますよ」

 

話を進める『アイテム』の少女たち。そんな彼女たちに待ったをかけたのはもちろん垣根帝督だ。

 

「オイ待て。テメエら話を勝手に進めるんじゃねえ」

 

垣根が話を聞く気満々の麦野に声を掛けると、真守がくいくいっと垣根の手を引いた。

 

「まあいいじゃないか、垣根。どうせ時間はたくさんあるんだし」

 

「なんでお前は行く気満々なんだよ。……俺との約束破る気か」

 

垣根はデートをすると約束したのに、と真守を睨む。

真守はふるふると首を横に振ると、優しく垣根を見上げた。

 

「カフェに行ってちょっと話をするくらいいいだろ。休憩は必要だし、麦野たちと話せる機会なんて早々ないんだから」

 

「俺はなくてもいい」

 

「垣根」

 

真守が拗ねる垣根を(なだ)める様子を見て、麦野は思わず顔をしかめる。

 

「うわ。垣根、あんた重たい男は嫌われるわよ」

 

「既にお揃いの指輪してる辺りが超重いですしねー。これきっとアレですよ。付き合って一か月もしてないのに指輪渡して超束縛したタイプですよ」

 

絹旗は真守と垣根の右手の薬指に(はま)っている、お揃いの婚約指輪に近い高級品をジロジロ見る。

すると垣根は怒りを見せた。

 

「テメエら……言いたい放題言いやがって!!」

 

垣根が声を上げる中、滝壺だけは目を輝かせて垣根を見上げる。

 

「大丈夫だよ、かきね。とても、良いと思う」

 

全面的に応援してくる滝壺を見て、垣根は出鼻をくじかれる形で怒りを鎮静化させる。

 

「……逆になんでお前はそこまで俺のこと応援してくるの?」

 

「滝壺さん的には朝槻さんがあなたに超大事にされているのが超羨ましいんですよ。浜面も理想のカップルは朝槻さんたちだって超言ってますし」

 

絹旗の説明を聞いて、真守はちょっと恥ずかったが、嬉しくなって目を細める。

 

「そ、そうなのか。……ふふっ。うれしい」

 

垣根は真守がふんわりと幸せそうに微笑んでいる姿を見て、目を細める。

真守が麦野たちとお茶をしたいのは、本当に機会がないからだ。

垣根は口を曲げたまま真守を見つめて、そしてため息を吐いた。

 

「分かった。真守、お前の好きにしろ。ただし、ちょっと休憩するだけだ。そしたらまた俺とデートしろよ」

 

「分かってるよ、垣根。楽しもう」

 

真守は柔らかく微笑むと、垣根と『アイテム』の面々と移動し、カフェへと向かった。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

真守たちが『アイテム』の面々と一緒に来たカフェは、ダイヤノイドの中階層にある夜景を楽しめる外周部分の一角に位置している。

 

中階層はテレビオービットの社屋となってはいるが、芸能人や制作局とは交じり合わない範囲で展望台や屋内プール、そしてフィットネスジムや劇場、エステなどが多数存在しているのだ。

 

しかも中階層は下階層と違い、和風テイストに加えて水をとても意識している。

そのため通路脇に木樋(もくひ)でできた水路が通路脇に用意されていたり、屋内建築としては世界最大級の噴水などもあったり、高級志向はばっちりだ。

 

「むぅ。ストッキング穿いてなかったら足湯したのに……」

 

真守はメニュー表を見つめながら口を尖らせる。

麦野が絹旗の提案で決めたカフェはパーテーションごとに座席が区切られており、客の要望に応じてアロマや室内音楽、照明の強さ、カラーリングなどを決めることができる。

しかもオプションでマッサージチェアや足湯をレンタルできるという豪華仕様なのだ。

 

垣根に穿かされたストッキングが大変気に入らない真守は、メニューを見ながら足をぶらぶらとさせて拗ねる。

そんな真守の前で、滝壺はマッサージチェアを頼んでいた。

 

そして一通り頼んだものが運ばれてきた時。

真守は麦野たちに垣根と出会った時のことをざっくり説明をした。

 

「へー。……利用しようとして近づいたら好きになっちゃった……ねえ」

 

麦野は真守が簡単にしてくれた話を聞き、ベイクドチーズケーキに手を伸ばしていた垣根を見た。

 

「あんたって悪は悪でも浄化されちゃう系の(ゆる)い悪だったのね」

 

「なんだよ緩い悪って。こっちは普通に悪党やってたんだよ」

 

垣根は苛立ちを込めて同じ『闇』にいた、ある意味同僚的な存在である麦野沈利の言葉に応える。

すると透明なマスクのついた酸素缶のメニュー表を見ていた絹旗が顔を上げた。

 

「どっちかっていうと、朝槻さんが何でもかんでも超浄化する人だったから浄化されちゃったんじゃないですか?」

 

「あり得る……あんた人を殺してても事情があったりしたら絶対に許しちゃうタイプだもんねえ」

 

「別になんでも許すつもりはないぞ。事情を聞いて助ける必要があったら手を貸すくらいだ」

 

真守が麦野の評価を聞いて自分のスタンスを話していると、真守の隣に座っていた垣根はベイクドチーズケーキを一かけらフォークに刺して、真守の口に向けて差し出した。

 

「真守。これ美味いから食べろ」

 

「じ、自分で食べるっ人前じゃ恥ずかしいだろっ……!」

 

真守の言い分ではいつもあーんして食べさせてもらっていると麦野たちに赤裸々に告白しているようなものだが、真守はそれに気が付かず、慌てて垣根からフォークを受け取る。

 

「! ……おいしいっ」

 

真守はぱくっと一口食べると、幸せそうなとろける笑みを浮かべる。

 

「……まあ、これだったら(ほだ)されるのもワケないか」

 

にこにこ幸せそうな顔をしている真守を見て、麦野は思わず呟く。

 

この少女も意外と『闇』に浸かっていたと聞く。

 

それなのに普通の生活ができているということは普通の生活に慣れようとした結果だ。

そしてその普通の生活を真守が維持しようと努力していれば、真守のそばにいて一緒にその生活を享受したくなるのも分かる。

 

『闇』に振り回されている人間は、懸命に『闇』からの手を跳ねのけながら表で必死に生活している真守を希望として見てしまうのは当然だ。

 

納得している麦野の隣で、滝壺は真守と垣根の仲睦まじい様子を見てぽそっと呟く。

 

「わたしも、はまづらにあーんしてほしい……」

 

「滝壺さん。この超美男美女カップルが羨ましくなるのも超当然ですが、浜面がやるとスマートさが超欠けますから絶対にギャグに収まりますよ」

 

絹旗は滝壺に声を掛けて店員を呼び、酸素マスクを持ってきてもらう。

垣根は麦野と適当に話をしながらお茶をしていたが、途端につまらなくなって真守を見た。

 

「真守。つまらなくなった」

 

「麦野の前でそういうこと言うなよ、印象悪いなあ。……公開収録は始まったばかりだし、もう少し店を見て回るか?」

 

「そうする。でもその前にトイレ行ってくる。待ってろ」

 

頷いた真守から視線を外して、垣根はトイレへと向かう。

麦野はそんな真守を見て、首を傾げた。

 

「公開収録って?」

 

「一緒に来た子がテレビオービットで公開収録を観覧してるんだ。その間、私たちは二人でデートする約束を交わしていたんだ」

 

「あー。確かに観覧目的ならテレビオービットにも超簡単に入れますね」

 

絹旗が納得する中、滝壺の携帯電話にメールが着信した。

 

「あ。むぎの、はまづらは今ダイヤノイドに到着したって」

 

「? 浜面仕上も来てるのか?」

 

真守がきょとっとして首を傾げると、絹旗は頷く。

 

「ええ。テレビオービットに『荷物』の搬入をしているんですよ。……あ、超裏の仕事ではなくてですね、真っ当な仕事です」

 

「荷物……ということは、運搬業者として働いているのか?」

 

「ええ、そうです。浜面が以前に超お世話になった駆動鎧(パワードスーツ)のテストパイロットとして出入りしている企業経由ですね」

 

「それって『ドラゴンライダー』か? 確かそれでフレメア=セイヴェルンを助けたんだよな」

 

「おや。超訳知りでしたか。そうそう、それです」

 

絹旗が頷いている中、紅茶を飲んで一息ついた麦野は真守を見てニヤッと笑った。

 

「で。あの男、ベッドの中ではどうなの?」

 

「…………本当に女の子ってそういう話好きなんだなあ」

 

真守が女の子特有の情報収集に顔をしかめていると、絹旗は酸素マスクをしゅーしゅー言わせながら真守を見た。

 

「もったいぶってないで超早く教えてくださいよ、面白いじゃないですか」

 

「あさつき、はやく」

 

マッサージチェアにうつつを抜かしていた滝壺まで参戦してきたので、真守は沈黙する。

 

「……………………とってもやさしい、よ……?」

 

真守が顔を赤くして小さな声で呟くと、『アイテム』の面々はへーっと感心した声を上げた。

 

「意外だわ、アレはどう頑張っても鬼畜でしょ」

 

「ですね。超意外です。あの傍若無人っぷりからは考えられない」

 

真守は麦野と絹旗の相変わらずの垣根の印象を聞いて、恥ずかしそうに俯く。

 

「そ、そういう感じがするのはしょうがないと思う……っでも、……その、垣根は実際、とっても優しくて壊れ物みたいに大事にしてくれるから……」

 

絹旗は真守の言い分を聞いて、(ひらめ)いたように告げる。

 

「もしかして、朝槻さんには超そんな態度取るだけなんじゃないですか? 他の人には外見通りに鬼畜してたけど、本当に朝槻さんが大切だから超優しくしてるとか」

 

「……そうよね。愛されてるのねーアンタ」

 

麦野がへーっと声を上げると、真守はぽっと顔を赤くする。

 

「は、恥ずかしい……っ」

 

(やっぱり(ほだ)されるのは分かる気がするわー)

 

(これは多分会った人間を片っ端から落とす超人間キラーですね。相手が未元物質(ダークマター)でも通じるとは……流石)

 

麦野と絹旗は恥ずかしそうに体を縮こませて照れている真守を見て、納得する。

そして麦野は気になっていた事を口にした。

 

「ちなみにさ、垣根帝督と毎日寝てんの?」

 

「!!」

 

真守は目を見開くと、とっさに顔を(うつむ)かせる。

回数が多いのは経験人数一人の真守にも分かる事だ。

何故なら普通の学生は一緒に住んだりしない。せいぜい週末にお泊りをするくらいで、そうなると頻度は一週間に一回か二回である。

 

「そ、それは……えっと……その、あのな……」

 

「あーその返答で分かったわ。どう見てもアイツ、性欲強そうだもんねえ」

 

「そこは超外見通りですね、ええ」

 

麦野と絹旗はほぼ毎日寝ているという事実に納得したようにうんうんと頷く。

そんな中、滝壺がわくわくした様子で真守を見た。

 

「ねえねえ、あさつき」

 

「なんだ? まだ何かあるのか……?」

 

「のうりょくってつかうの?」

 

「「「!?」」」

 

滝壺の疑問が飛ぶと、真守はピシッと硬直した。

 

「ちょ、滝壺さん!? それは超高度なプレイになるから聞いちゃダメですって!」

 

「そうよ。こういう場合はぶっ飛んだヤバイことやってんだから!」

 

絹旗と麦野が焦って声を上げて滝壺に迫るが、それでも滝壺は目を輝かせたままだ。

 

「どうなの、あさつき?」

 

真守は顔を真っ赤にして声を大きくする。

 

「そんなあぶのーまるなことしないっ!! したことないっ!!」

 

真守は涙目になってわあわあ叫ぶ。

その様子を見て、麦野と絹旗は色々察した。

 

(うわ、すっごい初心。こんな初心ならちょっとずつ仕込まれてるって分からないわね。すっごく丁寧に仕込んでくるから優しくしてくれるって思ってるのかしら。……もしかしたら本当にあの男は優しいのかも。でもこんなに何も知らない様子じゃ教え込むのが楽しいでしょーね)

 

(未元物質(ダークマター)が優しさでばっちりコーティングして朝槻さんに超仕込んでるのが目に浮かびます……これは多分、これから長く楽しめるように今はそんな超過激なことしてないだけですよ、絶対)

 

真守は自分と垣根のあーんなことを黙々と考えている麦野と絹旗の前で、涙目になるほどに顔を赤くする。

そんな真守を見て、麦野は感嘆した声を出した。

 

「いやー。あの垣根帝督に恋人ねえ。女遊びして一回で捨てるような男だと思ってたわー」

 

「朝槻さんに会う前は超そんな感じだったんじゃないんですかね?」

 

「かきね、ほすとみたいに遊んでそう」

 

真守は『アイテム』の少女たちの印象を聞いて、顔をしかめる。

 

(とんでもない言われようだぞ、垣根。……本当は優しいのに、傍若無人っぷりを発揮しているから、やっぱりそういう印象を受けるんだ……)

 

垣根帝督は本来優しいのだ。

だがこの学園都市に星の数ほど存在している悲劇によっておかしくなった。

真守はそのことに少し悲しくなりながら、垣根への勝手な印象(あんまり間違っていない)で花を咲かせる『アイテム』の少女たちに苦笑していた。

 

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