次は一一月二一日月曜日です。
真守が麦野たちに『垣根帝督が恋人としてどうなのか』と聞かれていると、話題の中心人物である垣根帝督が帰ってきた。
「真守、行こうぜ」
「わ、分かった」
真守は座っている自分に後ろから寄り掛かってきた垣根の体温を感じながら、ぼそぼそと頷く。
垣根は真守の様子が少しおかしいので、片眉を跳ね上げて怪訝な表情をした。
「どうした、麦野にイジめられたか?」
「ううん違う。そういうわけじゃないっ」
垣根が納得いかない様子を見せていると、真守のことを本当に垣根が溺愛しているのだと知った麦野は目を細める。
「あんた、第一位のこと本当に大事にしてるみたいだけど。あんまりベタベタすると嫌われるわよ」
「あ? 別にベタベタしてねえよ」
垣根は麦野をじろっと睨む。麦野はそんな垣根を見て、思わずため息を吐いた。
「女の幸せは男には分からないものね」
「……なんでテメエにまでそんなこと言われなくちゃならねえんだよ。俺は真守の幸せをちゃんと考えてる」
「テメエにまで?」
麦野が怪訝に思うと、真守は自分に回してくる垣根の腕に触れながら困った笑みを見せる。
「
垣根は口うるさい少女の事を思い出して、チッと舌打ちをする。
真守の説明通り、
麦野は真守の説明を聞いて、マンゴージュースに手を伸ばしながら笑った。
「あの女にいつも言われているのか。相当だな」
「うるせえな、
垣根は麦野を睨んだ後、自分の腕の中にいる真守に目を向ける。
「真守。本当にイジめられてねえの? つーか何話してたワケ?」
「……そ、その……かきねが……恋人としてどうなの、って聞かれてたんだ……」
真守が顔を赤くしてぽそぽそと告げると、垣根は全てを察した。
きっと、夜のことを主に聞かれたに違いない。
「ちゃんと気持ち良くしてもらってるって答えたか」
「かきねのばかっ!」
真守は顔を真っ赤にして自分のことを後ろから抱きしめる垣根の腕をぺちぺちと叩く。
麦野たちは垣根の真剣な表情を見て悟る。
ああ、こりゃ本当に重傷だと。
「垣根、行くぞっ。これ以上ここにいると生き恥をさらすことになる!」
真守は立ち上がると、垣根の手を引っ張る。
垣根は不服そうにしながらも、麦野たちを見た。
「ここは俺が払っておく。お前たちはせいぜいゆっくりしてろ」
「じゃあな麦野、絹旗、滝壺っ! 浜面にもよろしくっ」
真守は垣根の手を強く引きながら、三人に向かって空いている手を振る。
麦野はスマートに『払っておく』といった垣根と真守を見送ってぽそっと呟く。
「あの男って意外と紳士よね。そりゃあ恋人のことも大事にするか」
「そうですね、お金払っておく宣言が超スマート過ぎて、逆に鳥肌が立ちましたよ」
「はまづらにも見習ってもらいたい……」
「だから滝壺さん。浜面が見習っても超お笑いにしかなりませんって」
『アイテム』の面々はいつものように仲良くしながら、去っていった真守と垣根についてちょっと話をしていた。
──────…………。
麦野たちと別れた真守は垣根を連れて、メンズ服が立ち並ぶ階層へとやってきた。
「垣根のプレゼント見たい」
真守は並んでいる店にさらっと目を通して、とある高級スーツ店に目を向けた。
「垣根。あの店に入りたい。いい?」
真守は垣根と繋いでいる手をくいっと引くと、店へと垣根に視線を誘導させる。
その店はあまり垣根が利用したことがない店だったが、流石目利きが鋭い真守。
垣根帝督の趣味に合うものだった。
「気に入った。入ろうぜ、真守」
「やったっ」
真守はにぱっと微笑むと、垣根と共に店へと入る。
「暗部で働かなくなったけど、垣根にはやっぱり紳士服が似合うからな」
真守の言う通り、垣根は暗部で仕事をしていないため、最近めったにスーツに袖を通していない。
だがやっぱり垣根に似合うのは紳士服系のシャツやズボンなのだ。真守はそう感じている。
「前に垣根にお礼でプレゼントしたタイニーピン、制服に着けてくれてるだろ。今回のプレゼントも制服に着けてくれると嬉しい」
以前、真守は
あれを垣根は制服に着けているし、何なら大覇星祭の時はジャージに着けてもいる。
真守はプレゼントを垣根が大事にしてくれていることが嬉しくて、ご機嫌に目を細める。
「同じタイニーピンだとあまり芸がないから、今度はネクタイピンにしようかな」
「なんだよ。芸がないって」
垣根は真守の言い方がかわいらしくってふっと笑う。
そんな垣根が見守る中。真守は真剣に垣根へのプレゼントを選ぶ。
「これ良いな」
真守は真剣な表情で目を細めると、垣根へと向き直る。
そして手に持っていたハンドベルを模したネクタイピンを垣根の胸に当て、次にもう片方の手に持っていたイルカと浮き輪モチーフのネクタイピンを垣根に合わせる。
「んーでも比べたらやっぱりこっち」
真守はちょっと背伸びをしながら、楽しそうに垣根のアクセサリーを選ぶ。
黒猫系美少女である真守が、恋人のためにプレゼントを必死に選んでいる。
その様子はとても微笑ましいものだ。
そのため応対しに来た店員はにこにこと真守にアドバイスをする。
自分へのプレゼントを真剣に選ぶ真守。
垣根はそんな真守を見て、温かい気持ちが胸を満たしていくのを感じていた。
前にもこんなことがあった、と思い出しながら、垣根は真守の頭に優しく手を置く。
「ん。なんだ垣根?」
真守は髪の毛を崩さないように優しく撫でてくれる垣根を見上げて、ふにゃっと笑う。
「お前が愛おしくて、つい」
「なんだそれ」
真守は自分の気持ちを正直に告げた垣根を見上げて、ふふっと小さく笑う。
以前。真守に
垣根帝督は真守の頭を撫でたくなった自分の気持ちを真守に伝えられず、濁してしまった。
だが今ならちゃんと言える。大切な少女を大切にできる今なら、愛おしい少女にきちんと気持ちを伝えることができる。
「やっぱりこれが良い」
あの時は髪を崩さずに頭を撫でるのが上手くなくて怒られたな、と垣根が思い出していると、真守は垣根へのプレゼントを決めた。
イルカと浮き輪モチーフのマリン系のネクタイピン。
それを選ぶと、真守は店員と一緒に丁寧にラッピングを選び始めた。
垣根はそんな真守をそばでずっと見守っていた。
真守は垣根が気に入っているブランドのアクセサリーが入った小さなバッグを手に持つと、ご満悦で垣根と一緒に店から出る。
「上機嫌だな、真守」
「うん。だって垣根に似あうピンが見つかったから。制服につけてくれるとうれしい」
垣根に似合うものを買えて、真守は本当にご機嫌だった。
真守は上機嫌で歩いていたが、ふとエレベーター前に学生たちが固まっているのを見て首を傾げた。
「うん?」
真守と垣根が近付いてみてみると、どうやらエレベーターが停まっているらしい。
そして携帯電話も繋がらないと、学生たちが騒いでいる。
「垣根」
真守は垣根の手を引き、一緒に物陰へと向かう。
そして良い場所で立ち止まると、真守は口を開く。
「帝兵さん」
すると即座に、体を能力で透明にしていたカブトムシが真守の肩に停まった。
『どうやらダイヤノイドに閉じ込められたようです』
カブトムシが言うにはエレベーターは停まり、非常階段は蝶番が溶けて扉が壁と融合し、一つになってしまっているそうだ。
「能力者か?」
「今のところ強力なAIM拡散力場は放たれてないから、魔術だと思う」
真守はもう一匹飛んできたカブトムシに垣根へのプレゼントを手渡す。
そして大事なプレゼントをカブトムシに大事に保管してもらいながら、ため息を吐いた。
「上条もダイヤノイドに来てるんだよなあ。なにか起きると思ったら魔術由来の閉じ込めか。魔術師がこんなにポンポン侵入してくるなんて。学園都市のセキュリティ緩すぎだろ、まったく」
真守は憤慨しながらも、冷静に状況を確認する。
「ローマ正教とかイギリス清教とか、そういうきちんとした組織の魔術師じゃないと思う。第三次世界大戦と魔神オティヌスの件で魔術サイドは一致団結したし、私たち科学サイドもそれなりに付き合いができたから」
「魔術サイドで不穏な動きがあればお前の実家がコンタクト取ってくる話になってるしな。はぐれの線が強いってのは当たり前か」
「学園都市はエステル=ローゼンタールを『プロデュース』のスーパーアドバイザーとして迎え入れていたという前例もあるからな。……あれ。そう考えるとやっぱり学園都市のセキュリティはユルユルすぎない……?」
真守はアレイスターは何をやってるんだ、と思いながらとことこ歩くと、ダイヤノイドの壁へと手を伸ばした。
そして源流エネルギーを限りなく収縮させて壁へと放つ。
ガギュンッと小さい音が響く。
すると、壁にテニスボールくらいの大きさの穴が外まで貫通して空いた。
だが次の瞬間、縦に横にテニスラケットのガットのように格子が出てきて、そこからカーボン素材が染み出て壁が修復された。
「なるほど。炭素を操る魔術のようだな」
真守はやっぱり能力関連ではなく、魔術由来の異能だと看破して鋭く目を細める。
そんな真守を見て、垣根は怪訝な表情をした。
「炭素?」
「炭素だけなのか単一の元素を操ることができるのか分からないけどな。何はともあれダイヤノイドは全部炭素でできてる。そういう系統の魔術師にとってはもってこいの場所だ」
「……ふーん。炭素か単一の元素だけねえ」
垣根は面白くなさそうに呟くと、トンッと壁に手を当てた。
すると垣根が手の平を当てた強靭な炭素でできた壁が、どろどろと溶け落ちていく。
「俺の前じゃお笑い草な魔術だな」
垣根は
垣根帝督の前では、既存の物質を扱う魔術なんて敵にもならない。
一つ気にしなければならないのは魔術と能力の競合によって引き起こされる不可解な現象だけだ。その一点のみを気にしていれば、垣根帝督が負けることはない。
真守はどろどろと
「…………深城と合流しなくちゃ」
垣根は真守の呟きを聞いて首を傾げたが、すぐにその言葉の真意に気が付いて目を見開く。
神人、朝槻真守。そして『無限の創造性』を持つ垣根帝督。
真守と垣根を無力化するのは簡単だ。人質を取ればいいのだ。
そしていま、このダイヤノイドには少し離れた場所に深城と林檎がいる。
真守は手を壁に向けると、源流エネルギーで炭素の壁を吹き飛ばした。
そして鋭い轟音と共に、大穴を開ける。
先程はすぐに穴が塞がれてしまったが、真守が源流エネルギーで大穴のフチを焼き尽くし続けているので、穴は塞がらない。
深城たちがいる中階層まで、外を飛んで急行する。
それを決行しようとした真守を、垣根が止めた。
「ちょっとまて、真守」
真守は外へと飛び出そうとしていたが、垣根に止められて振り返った。
「なんだ?」
「こっち来い」
垣根は真守を手招きすると、真守のことをお姫様抱っこする。
「? なんでお姫様だっこしてくれるんだ?」
真守は疑問に思いつつも、素直に垣根の首に腕を回しながら首を傾げる。
「お前にその格好で宙に浮いてほしくない」
垣根が自分をひょいっと軽く抱き上げながら告げるので、真守は首を傾げる。
「……こんなに完全防備なのに?」
真守は現在、垣根帝督が着させたコートにひざ丈スカート、そして黒いストッキングまで穿いている。
下着なんて見える隙が一ミリもない。
それなのに垣根がどうして気にしているのか首を傾げていると、垣根はけろりと告げる。
「ストッキング越しの方がエロ、」
「かきねのばあか!!」
真守は叫びながら、垣根の額へと自分の小さな額をごちんとぶつける。
「ばかばかばかばか煩悩の塊! ばーかっ!」
「うるせえな。こちとら健全な男子高校生なんだよバーカ」
垣根が真守の頭突きにけろっとしていると、真守は体を揺すらせて叫ぶ。
「垣根のばか。えっちへんたい……っ! こんな時にも平常運転だなんて、……ふふっ」
真守は怒っていたが、いつもと垣根が変わらない様子なので、くすくすと笑う。
そして垣根の首に手を完全に回して体を預けると、柔らかく微笑んだ。
「連れてって、垣根」
「おう。任せとけ」
垣根はきちんとお願いしてくれた真守が愛おしくて頷く。
そしてその背中から三対六枚の