とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第六四話、投稿します。
次は一一月二四日木曜日です。


第六四話:〈最愛天使〉を守り抜く

ダイヤノイド中階層、テレビオービット内。

深城たちは林檎の好きな『天使なうさぎ様』などのマスコットキャラクターが勢ぞろいする特番を観覧しに来ていた。

人気キャラクターが出るため、観覧チケットは予約制。深城もカブトムシに手伝ってもらって、頑張って林檎のために勝ち取った特番だった。

 

だがその特番のスタジオ。その観覧席の前で。

深城は白い少年を抱き上げたまま、厳しい顔つきをしていた。

深城のそばにはフロイライン=クロイトゥーネがぴったり寄り添っている。

 

そして深城を庇うように、杠林檎が敵と対峙していた。

 

燕尾服の男だ。

片眼鏡をしている、奇術師のようなマジシャンのような出で立ちの紳士。

だがその紳士が持っているのは杖ではない。ダイヤノイド内の炭素製品をいくつか無作為に選び取り、飴細工のように溶かして造り上げたような、即席の槍を持っている。

 

どうやら紳士服の男──サンジェルマンを呼称した人物は、真守と垣根の動きを止めるために源白深城を人質にするために来たらしい。

サンジェルマンはため息を吐き、本当に迷惑そうにする。

 

「神人やその(つがい)に暴れられては困るのだよ。私の目的が果たせなくなってしまう」

 

「目的?」

 

深城はサンジェルマンを慎重にじっと見つめて、問いかける。

サンジェルマンは深城の問いかけに、悠々自適に答えた。

 

「我が悲願を叶えるためだ」

 

それと同時に、サンジェルマンは動いた。

だが構えていた林檎の方が早かった。

林檎は近くにあったテレビ用のカメラを念動能力(サイコキネシス)で引っこ抜くと、サンジェルマンめがけて投擲(とうてき)

サンジェルマンはそれをひょいっと軽く避けた。

 

「おっと。強気なお嬢さんだ」

 

おどけたように笑うサンジェルマン。だが林檎は焦りを見せない。

避けられたとしても構わないからだ。

何故ならテレビ用のカメラは、まだ自分の制御下にある。

林檎はサンジェルマンが避けたと考えていたカメラをぐいっと空中で方向転換させて、もう一度サンジェルマンを攻撃した。

 

「ただ単に投擲するのではないのか」

 

サンジェルマンは独り言ちると、そっと床に手を触れる。

すると炭素でできた床がねじ切れて、林檎が操っていたカメラをくし刺しにした。

 

「舐めないで」

 

林檎はぶすっとむくれたまま、能力を再び行使する。

そしてカメラや照明、観覧席の椅子などを同時に持ち上げてサンジェルマンを睨みつけた。

 

杠林檎は『暗闇の五月計画』の被験者だった。

『暗闇の五月計画』とは一方通行(アクセラレータ)の演算思考パターンを被験者に植え付け『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』の最適化を図り、能力者の性能を向上させて超能力者(レベル5)を生み出そうとした計画だ。

 

杠林檎は一方通行(アクセラレータ)の『執着心』を植え付けられた。

だが一方通行の執着心は林檎に上手く定着しなかった。

そして林檎と同じように被験者だった黒夜海鳥が暴走して研究者を殺した事で、計画は頓挫(とんざ)

 

杠林檎は不安定なまま路地裏を彷徨(さまよ)って木原相似に拾われ、木原相似が興味を持っていた朝槻真守捕縛用の駒として調整された。

 

その木原相似の無理な調整のせいで、杠林檎は自己の喪失をすることが決まっていた。

 

だが朝槻真守が助けたことにより、一方通行(アクセラレータ)のような疑似的なベクトル操作をすることもできる念動能力者(サイコキネシスト)として完成された。

 

林檎の近くには大能力者(レベル4)念動能力(サイコキネシス)を持つ誉望万化がいるため、林檎は誉望から能力の制御方法を学んでいる。

だから能力を十全に使い、敵と渡り合うことすらできるまで成長した。

 

「頑張ってたら垣根と朝槻がすぐに来る。だから大丈夫」

 

林檎は自分を勇気づけるように呟く。

そして移動できるようにキャスターがついた観客席を、まるごと念動能力(サイコキネシス)で音もなく浮かせた。

 

「ちょっと痛いかもしれないけど、朝槻がなんとかしてくれるから大丈夫っ」

 

林檎はそう言葉を放ち、念動能力(サイコキネシス)で浮かせていたカメラなどをいなしていたサンジェルマンへと叩きつけた。

鋭い轟音が響き、振動によって地面が揺れる。

流石のサンジェルマンも避けるスペースを与えられずに巨大なものを投擲されれば、押しつぶされるしかない。

 

「林檎ちゃんっ」

 

深城が声を上げるのを聞いて、林檎は振り返った。

 

「みし、」

 

林檎は深城を呼ぶが、その顔を硬直させた。

深城の後ろには、血を口の端から零す片眼鏡をした女子学生が立っていた。

そしてその手には、杠林檎がそれまで対峙していたサンジェルマンと同じ意匠(いしょう)の槍が握られている。

 

「深城っ!!」

 

林檎が声を上げる中、クロイトゥーネがとっさに動いた。

 

「んーっ!!」

 

聞けばかわいらしい声を上げながら、クロイトゥーネは思い切り深城のことを狙っていた女子学生のことを蹴り飛ばした。

深城は白い少年を抱きかかえ直して守りながら、驚愕する。

 

(サンジェルマンさんって一人じゃないの!?)

 

サンジェルマンというのは一体何者なのか。

深城がそう考えていると、鋭い振動がダイヤノイドを襲った。

 

「きゃっ」

 

深城はダイヤノイド自体が揺れて、思わず姿勢を低くする。

ゴゴンゴゴンゴゴン、と何度も何度もダイヤノイドが大きく揺れる。

 

(ちがう、これは真守ちゃんたちじゃないっ!)

 

深城はダイヤノイドを揺らす衝撃が朝槻真守や垣根帝督の破壊ではないと感じながら、へたんっとその場に座り込む。

残念ながら、源白深城はバカ力があるだけで運動能力はそこまで高くない。

むしろ地面にへたり込んだ時、白い少年を放り出さなかったことに拍手を送りたいレベルだ。

 

「おや。あちらもあちらで考えなければな。『盾』の方は回収に向かっているし、私は私のやるべきことをしなければならない」

 

クロイトゥーネに蹴り飛ばされた女子学生はそう呟くと、ゆっくり立ち上がる。

そして女子学生の後ろに、また新たなサンジェルマンが現れた。

その数は十数人。クロイトゥーネや林檎が深城を守れない人数だ。

 

絶体絶命のピンチ。

そこで、声が響いた。

 

『私の天使に手を出そうなんて。本当に良い度胸してるな、お前』

 

その声が響くと同時に。

サンジェルマン達は全員、見えない力──AIM拡散力場を操ることで生み出された力で地面に叩きつけられた。

 

ダイヤノイドの炭素製の壁がどろりと溶ける。

 

そこから現れたのは、未元物質(ダークマター)の翼を広げた垣根帝督と彼にお姫様抱っこされた朝槻真守だった。

 

「真守ちゃん!」

 

「深城」

 

真守は地面にへたり込んでいる深城を見て、深城を安心させるために優しく微笑む。

そして垣根から離れて浮遊すると、ゆっくりと深城のそばに降り立った。

 

「大丈夫だったか?」

 

「うん。真守ちゃんが来てくれたから、へっちゃらだよぉ」

 

深城はこの世で最も愛おしい少女に心配されて、にへらっと笑う。

 

「ロシアの時より全然怖くなかったよ、だいじょぉぶ」

 

「ふふ。お前は天使と戦ったものな」

 

真守は笑うと、白い少年を抱き上げて深城の手を引いて立たせる。

 

「クロイトゥーネ、林檎」

 

真守が呼ぶと、名前を呼ばれた二人は真守の前に立つ。

 

「深城を守ってくれてありがとう。本当に助かった」

 

真守は林檎の頭を優しく撫でて、クロイトゥーネの頭も優しく撫でる。

その様子を見て、真守に立たせてもらった白い少年はムッと顔をしかめた。

 

「私のことも(いたわ)ってほしい、朝槻真守」

 

「そうだな、お前も怖かったな。よしよし」

 

真守が少年の頬を優しく撫でると、少年はくすっと笑った。

 

「くすぐったいぞ、朝槻真守」

 

真守と白い少年が話をしている向こうで垣根は腰を下ろして、観客席の下で下半身を丸ごと潰されているサンジェルマンを見つめる。

 

「おーおー派手にやったな、林檎」

 

垣根は独り言を呟くと、楽しそうにサンジェルマンを睥睨した。

 

「どうせこいつは操られてるだけだろ。──カブトムシ(端末)

 

垣根はカブトムシを呼ぶと、カブトムシたちは観客席をどけて、サンジェルマンの怪我の処置を始める。

林檎は深城を攻撃する前から血を流していた女子学生の具合を見ている真守たちから離れて、てててーっと垣根に近づいた。

 

「ごめん、垣根。やりすぎた?」

 

「いいや? 刃向かってきたヤツにはこれでも足りねえくらいだ」

 

垣根は笑うと、林檎のことを抱き上げる。

 

「わっ」

 

林檎はしょんぼりしていたが、垣根に突然抱き上げられて思わず声を上げた。

 

「よく頑張ったな、林檎。俺が最優秀賞をくれてやる」

 

「本当?」

 

林檎は垣根に抱き上げられたまま目を丸くする。

 

「ああ。誉望なんて目じゃなかったぜ」

 

「うれしい」

 

林檎は垣根に褒められて、本当に嬉しそうに表情を明るくする。

垣根は林檎を抱き上げたまま歩き、真守に合流した。

 

「分かったことがある」

 

真守はAIM拡散力場で押さえつけたまま放置しているサンジェルマンたちから目を上げて、垣根に視線を向ける。

 

「サンジェルマンはサンジェルマンという思想を感染させてるようだ」

 

「思想?」

 

垣根は真守の言葉に首を傾げる。

 

「サンジェルマンは人間じゃない。人々に自分を思想として感染させることで増殖し、個を存続させている。……多分、元々は人間だったんだ。でも今は人間じゃないから、整合性がない。それは道理だ」

 

「分かるように説明してくれ」

 

真守はこくんっと頷き、サンジェルマンに潜った感覚に眉をひそめながらも垣根をまっすぐ見た。

 

「なあ垣根。人が二足歩行する自身の肉体を失っても、人間としてのあるべき自我を存続させることができると思うか?」

 

「……そういやカブトムシ(端末)を生み出す時に人体に関する文献でそんなのを読んだな。確か人間としてあるべき二足歩行から乖離しすぎると、人間としての自我が保てなくなるとかなんとか」

 

垣根は真守に問いかけられて、以前に仕入れた知識を思い出す。

人間は精神が肉体に引っ張られる傾向がある。

たとえば二足歩行から四足歩行へ姿を変えた時、二足歩行していた時と四足歩行は当然としてまるきり、体の認識の仕方が違うのだ。

認識の仕方の相違。それが出てくると、人は人としての自我を保てなくなる。

 

「特にサイボーグ化する時に問題視されてることだな。黒夜海鳥は体の後ろに複数の手をくっつけてたけど、あれは薬物で精神を整えないと多くの手を持っているという事実に、精神が変調をきたしてしまうはずなんだ」

 

真守はつらつらと説明すると、脱線を戻してサンジェルマンについて言及する。

 

「サンジェルマンは人間じゃなくなった。だから人間みたいに一本筋のきちんとした意思を持てなくなってる。すると明確な中身がなくなってしまう。つまり、やっていることがめちゃくちゃなんだ。嘘で塗り固められてそれらしいこと述べて、そして行動する」

 

真守はサンジェルマンの仕組みをそう看破して、サンジェルマンの一体を見た。

 

「しかもこいつは個体の扱いが意外と雑だ。でも視覚や聴覚を頼らないと、魔術を使えないみたいだ」

 

「……やってることがめちゃくちゃなんだろ。でも俺たちを黙らせるために源白を人質に取ろうとした。整合性がなくても目的がある。その目的って一体なんだ?」

 

垣根が最もな疑問を持つと、真守はサンジェルマンになった女子学生を見つめる。

 

「上条を苦しめたいようだ。上条を苦しめて、そのヒーロー性(性質)を歪める。それが狙いだ」

 

「上条当麻絡みか。で、具体的にどうやって上条を歪めるんだ?」

 

「能力者に魔術を使わせる」

 

真守は腰を下ろして、魔術を行使させられたことによって体内が傷ついた女子学生の髪を優しく撫でる。

 

「何も悪くない学生が上条当麻を歪めるためだけに手駒にされた。そして魔術を使わされて大勢が死んだ。自分のせいで多くの人が傷つく。傷つかなくてもいい人たちが。──上条に強い影響を与えさせる一番の手だ」

 

「はん。あいつは自分よりも他人の命を優先するからな。確かに有効な手段だ」

 

垣根帝督は鼻で嗤うと、即座にカブトムシに指示を出した。

 

カブトムシ(端末)

 

『上条当麻を捜索します』

 

垣根帝督がどんな命令をするか分かったカブトムシは、先回りして即答する。

真守はそんなカブトムシと垣根を見て、柔らかく微笑んだ。

 

「ありがとう。垣根、帝兵さん。でも私にもできることがあるぞ」

 

「なんだ?」

 

真守は立ち上がって垣根を見上げると、不敵な笑みを浮かべる。

 

「ここには全ての能力者に繋がっている私も、全ての能力者を束ねている深城もいる。だからAIM拡散力場経由で能力者の演算能力を奪ってしまえばいい」

 

AIM拡散力場を体として認識している、能力が自我を持って動き出した存在である源白深城。

そして真守は深城の命を繋いでいる。

そのため間接的に真守は能力者と繋がっており、能力者との繋がりこそが絶対能力者(レベル6)としての真守の力の源となっているのだ。

 

朝槻真守は単体でも凄まじい力を発揮するが、能力者一人一人の力によってできることは大幅に広がる。

そして学園都市には真守の力の源であるAIM拡散力場が満ちている。その力を使えば、能力者の動きを縛ることなど簡単なことだ。

 

「学生だけじゃなくて、AIM拡散力場経由でダイヤノイド内の大人全てを止めることもできるけど……それは大量の帝兵さんに視覚補助してもらわないと、少し雑な止め方になってしまう。それはやめておこう。理由はアレだ」

 

真守はつらつら話すと、未だにぎちぎちと床に縫い付けられているサンジェルマンという思想に感染させられた大人に目を向けた。

 

真守は人差し指を立てて、目を細める。

 

するとスーツに片眼鏡をかけた人物は全身を縫い止められることがなくなった。

だがまだ押さえつけられたままだ。それでもなんとか立ち上がろうとして力を込め、AIM拡散力場からの束縛から逃れようとする。

 

すると次の瞬間、ゴギリと嫌な音が響いて力を入れ過ぎたスーツの男の右腕が折れた。

 

だがそれでもサンジェルマンはもがくのをやめない。折れた右腕にめちゃくちゃに力を入れてのたうちまわる。

真守はスーツの男を再び床に縫い付けるように抑え、カブトムシに治療をさせる中、思わずため息を吐いた。

 

「ああいう人を操る手合いは手駒が傷ついても死んでもどうとも思わない。本当に動けなくなるまで酷使するんだ。だからあんまり手駒を減らすと暴挙に出るから、一定数はサンジェルマンの手駒を残しておかなければならない」

 

「俺が言うのもアレだが、最低最悪だな」

 

垣根は心底吐き気がすると言わんばかりに告げる。

すると、突然再びダイヤノイドに激震が走った。

 

「中階層付近での爆弾による爆発だな。でも直接的な被害は出てないみたいだ」

 

真守は再びへたりこみそうになった深城と白い少年を支えながら、冷静に判断する。

 

「中階層でそんだけ動けるってことは麦野沈利たち『アイテム』か? 麦野のヤツ、さっきも原子崩し(メルトダウナー)バカスカ撃ってたし、サンジェルマンに目を付けられてもおかしくねえからな」

 

垣根は林檎とクロイトゥーネのことを支えながら、超能力者(レベル5)の中でも一際な破壊力を持つ麦野の能力、原子崩し(メルトダウナー)を思い出す。

 

「早くしないとダイヤノイドが倒壊するかもな。まずは上条を探そう。オティヌスとインデックスも一緒に来てるだろうから、サンジェルマンという思想から人を解放するために力を貸してもらおう」

 

真守は情報を整理してやるべきことを判断すると、垣根を見た。

 

「帝兵さんで傷ついた人たちの治療を頼めるか、垣根」

 

「元々カブトムシ(端末)はお前の力になるために俺が造ったんだ。やってやるに決まってるだろ」

 

真守は垣根の頼もしい言葉にふにゃっと笑うと、サンジェルマンを打倒し上条当麻を守るために行動を始めた。

 

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