次は一一月二八日月曜日です。
ダイヤノイドにはもちろん、高級ホテルや分譲マンションとなっている上階層に続くエレベーターがある。
そのエレベーターシャフト。その中を、浜面仕上はよじ登っていた。
もちろん生身でシャフト内のケーブルを頼りに壁をよじ登るのは不可能である。そのため浜面仕上は
しかも一人ではない。
元々浜面仕上がテレビオービットに来たのは、真っ当な仕事を引き受けたからだ。
浜面はフレメア=セイヴェルンを助ける際に、
その時の
浜面仕上は一人で荷物の搬入に来たのではない。
元
だがステファニーと別れ、何故浜面が上条当麻とエレベーターシャフトを登っているかというと、やはりサンジェルマンのせいだ。
浜面仕上は不審な行動をしていたサンジェルマンから『アイテム』の少女たちを守るために、サンジェルマンと交戦しようとしていた。
そんな浜面を止めるために、上条当麻は立ちふさがった。
上条はサンジェルマンに接触され、サンジェルマンはオティヌス──魔神より先にいる者だと聞いていた。
魔神に挑むのは無謀だ。そのため上条は浜面に『危険だから朝槻と連携を取れるまで待って欲しい』と伝えたが、その時間が浜面仕上には惜しい。
そして上条当麻と浜面仕上は譲れないものによって戦闘となり、結果的に浜面仕上が勝利した。
だが場は混乱を極めた。何故ならサンジェルマンは自分の思想を感染させることで、多くの手駒を用意していたからだ。
浜面と上条は、当然として大人数のサンジェルマンに取り囲まれた。
浜面は一刻も早く麦野沈利たちの無事を確認したい。だが上条当麻に勝利し、上条当麻にここは任せて先に行けと言われても、上条当麻を置いてサンジェルマンの前から逃亡することなどできなかった。
誰かを置いて大切な少女たちの安否を確認しに行くなんてできない。
それでは『アイテム』の少女たちに顔向けができない。
そのため浜面仕上は上条当麻と共闘し、結果的に二人はステファニー=ゴージャスパレスによって逃がされた。
ステファニーとはぐれてしまい、浜面仕上が結果的に誰かを犠牲にしてしまったと悔やむ中、麦野沈利の能力──
ステファニーとはぐれた方向から麦野沈利の能力が放たれたため、浜面仕上はステファニーも麦野たちも無事なのだと安堵した。
そして余裕ができた浜面仕上は『藍花悦』と名乗っている学生を救いたい、という上条当麻の目的を聞いた。
なんでもその『藍花悦』はフレンダ=セイヴェルンの秘密を探っており、彼女の秘密は上層階にあるらしいのだ。
フレンダ=セイヴェルン。元『アイテム』で暗部抗争の時に亡くなった少女。
そんな少女の名前が出たら浜面仕上だって黙っていられない。そのため浜面仕上はフレンダの秘密を探るべく、エレベーターシャフトを上条当麻と共に必死で登っているのだ。
『なるほど、納得しました。それでエレベーターシャフト内を地道によじ登っているということですか』
上条当麻の頭に乗っかった白いカブトムシは上条と浜面仕上の説明を聞き、暗闇の中でヘーゼルグリーンの瞳をライト代わりにして辺りを照らしながら納得する。
カブトムシは指令通りに上条当麻を探していた。
サンジェルマンとの戦闘の痕跡を伝って捜索していたが、エレベーターシャフト内を頑張って登っていると流石に情報収集ができない。
そのためカブトムシは上条と浜面に何があったか、こうして詳しく話を聞いていたのだ。
『ちなみによじ登るのは時間がかかるため、私が手助けしても良いですか?』
カブトムシはえっちらおっちら必死によじ登っている浜面仕上へと声をかける。
「なんだって? そんなちっこい体で何ができるんだよ」
『失礼ですね、浜面仕上。私は垣根帝督が自らの「無限の創造性」を十全に扱って生み出した帝兵さんですよ。とはいっても真守の功績が九〇%ぐらいですが、
垣根帝督に『無限の創造性』を気付かせたのは当然として真守だ。
しかも人造生命体の構造は真守が持っていた論文を垣根帝督が読み漁った結果構築できた理論だし、AIM拡散力場によるネットワークの構築も真守がAIM拡散力場について興味を持っていたから実現できたことだ。
名前を付けてくれたのも真守ですし、と垣根同様自尊心が高めに成長したカブトムシは憤慨する。
「……つまりお前を作ったのは第三位だけど、第一位のおかげがほとんどってことか?」
浜面仕上が問いかけると、カブトムシは肯定の意味でヘーゼルグリーンの瞳を収縮させる。
『ええ。それと訂正を。真守の功績は九五%ほどですね』
「第三位の功績がもっと減った!」
『
カブトムシはそう告げると、きらっとヘーゼルグリーンの瞳を輝かせて
すると
当然として、背部ユニットに乗っていた上条当麻も浮き上がる。
「「うおおっ!?」」
突然の浮遊感に、
『上条当麻はなるべく動かないようにしてください。右手に干渉しないように演算を展開させていますから』
カブトムシに忠告されて、上条は浜面仕上の背部ユニットにぎゅっとしがみつき、
『ダイヤノイドのデータサーバーにアクセスしましたが、ここはスイスやケイマン諸島にある秘密銀行と同列ですね。秘密が秘密ではなくなった瞬間に顧客の最大の商品である「安心」が死ぬようにできています』
上条当麻はカブトムシの説明を聞いて首を傾げる。
「じゃあ俺たちが上層階を打ち破って入るのはマズいんじゃ……」
『そうはいっても非常事態ですから。金持ちの道楽につきあってる場合ではありません。フレンダ=セイヴェルンの「本当の」秘密を暴いてやりましょう』
浜面仕上はぶーんっと翅を震わせて飛ぶカブトムシを見ながら、思わず上条当麻に声を掛ける。
「……なあ、あのカブトムシちょっと言葉の端々から毒舌を感じるんだけど? あれって学園都市にいっぱいいるんだろ。反乱起こしたらひとたまりもねえよ……」
「でも朝槻への愛情はひしひしと感じるから大丈夫だよ。多分」
『当たり前ですよ。それに私は
やっぱり朝槻真守は最強だった。
上条当麻と浜面仕上はそう思い、カブトムシ先導のもとダイヤノイド上層階へと降り立った。
そして浜面仕上と上条当麻、カブトムシは知る。
フレンダ=セイヴェルンの秘密とは、彼女の最も柔らかい部分だったのだと。
──────…………。
真守たちは中階層から下階層に降りてきて、カブトムシの先導のもと移動していた。
「インデックス!」
「まもり!」
真守は下階層で上条当麻に置いて行かれたインデックスと合流する。
理由はサンジェルマンが使用しているのは純粋な魔術だからだ。
真守も真守でいくらでもやりようはあるのだが、安全策を取るならば専門家のインデックスに力を貸してもらった方がやっぱり良い。
「サンジェルマンの伝説はいまも続く本物だよ。それこそ魔術師に聞いて有名人を上げてみろって聞いたら、ローゼンクロイツとかメイザースとかと並んで出てくるほどにはね」
インデックスは真守から『サンジェルマンについて教えてほしい』と言われて、魔術の専門家らしくつらつらと軽やかに説明する。
「一般社会にも浸透しかねない程に有名だけど、そもそもサンジェルマンなんていうのは名前だけの存在なんだよ。魔術サイドじゃ稀代の詐欺師なんて呼ばれてた。貴族のパーティーに参加する時、箔をつけるために使われる名家の名前なんだよ。要は誰でも社交界に出られるフリーパスだね」
インデックスは説明すると、二本の指を立てる。
「サンジェルマンの伝説は主に二つ。一つ目は不老長寿などの寿命の克服。そしてもう一つは宝石を操りダイヤの傷を直すといったものなの」
真守はインデックスの話を聞いてふむ、と頷く。
「なるほど。思想となることで人間としての寿命を克服する。炭素を操ることでダイヤの傷を直す。そして稀代の詐欺師であるため、中身がなく整合性が全く取れない行動をとる。……確かにサンジェルマンの伝説と似通ってるな」
「まもりの話を聞くに、もしかしたらサンジェルマンの伝説を再現できる方法を誰かが確立したのかもね」
垣根はインデックスの説明を黙って聞いていたが、情報を整理して口を開いた。
「何はともあれ、サンジェルマンなんていう野郎はせいぜい特殊な魔術師で、魔神の先に到達してるってのはある意味嘘だってことだ。稀代の詐欺師らしく嘘で塗り固めてんだな」
真守は垣根の言葉に頷き、インデックスへと向き直る。
「インデックス、力を貸してくれるか」
「うん、もちろんなんだよ!」
真守はインデックスが返事してくれたことに頷き──そしてきょとっと目を見開いた。
「そういえばオティヌスはどこに行ったんだ?」
「さっきから見てないね。──スフィンクス!」
インデックスが胸元に入っていたスフィンクスを呼ぶと、三毛猫はぴょーいっとインデックスの胸元から出て、たたたっと走る。
そしてダクトの方へと走り去ったと思ったら、攻防の果てに三毛猫はその口にオティヌスを
「あ。お魚咥えたどら猫」
「どら猫は正しいが私は魚ではないぞ神人……っ!」
オティヌスの弱弱しい声が響く中、三毛猫は『姐さんが
「大丈夫か、オティヌス。大冒険だったな」
「ま、まったく……猫畜生には神を敬う心すらないという事か……っ」
真守は三毛猫の頭を片手で撫でながら、オティヌスを空いている手の平に乗っけてあげる。
すると真守の肩に乗っていたカブトムシが声を上げた。
『どうやらサンジェルマンはダイヤノイドの最下層で上条当麻を待ち受けるようです。おそらくそこには上条当麻のヒーロー性を歪めるために、魔術を使わされる藍花悦も一緒にいるかと』
真守と垣根はフレンダ=セイヴェルンの秘密を知ったカブトムシが、ネットワークに流している情報を確認する。
「麦野たちにも浜面が情報を回したようだし、私たちも行くぞ」
真守はそう声を掛けると、白い少年を抱き上げ、杠林檎とフロイライン=クロイトゥーネと共にいる源白深城を見た。
「深城たちはどうする?」
「真守ちゃんのそばがこの世で一番安全な場所だもん。一緒に行く」
深城は笑うと、白い少年を抱き上げたまま真守の手をぎゅっと握った。
真守は深城の笑みを見て、ふにゃっと笑う。
「分かった。みんなで行こう。垣根もそれでいい?」
「いいぜ。
「お願い」
真守は頷くと、全員で歩き出す。
そして。舞台は決戦の地へ。
ダイヤノイドを基部として支えている、グラビトン式の人工重力制御装置。
使い方次第でブラックホール爆弾になるそれが安置されている、ダイヤノイド最下層へ。