とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第六六話、投稿します。
次は一二月一日木曜日です。


第六六話:〈英雄男児〉は立ち上がる

学園都市超能力者(レベル5)、第七位。藍花悦。

能力も素性も明かされていない能力者。だがこの学園都市には無数の藍花悦がいる。

本物の藍花悦が自分のIDをばらまき、必要としている人間に自身のIDを貸しているからだ。

 

第一五学区に現れた藍花悦も、また藍花悦という身分を借りて自身の目的を叶えようとしていた。

 

その目的とはフレンダ=セイヴェルンという、突然消えてしまった自分の友達を探すこと。

その手掛かりが、ダイヤノイドにある。だから藍花悦はダイヤノイドを目的地とした。

フレンダの手掛かりを探す中、藍花悦はサンジェルマンに声を掛けられた。

 

何度目かの接触の際に、サンジェルマンは大仰に告げる。

 

ずっと自分は真なる王を探していたのだと。

何よりも輝くたった一つを、普通では決して手に入れられない、何よりも優先する存在を。

アンの盾と呼ばれる、キングアーサーの双子の妹であるクイーンアンだけが使える盾に適合する者を探していたと。

 

それがフレンダ=セイヴェルンを探してダイヤノイドに来た、藍花悦を偽っているキミなのだと、サンジェルマンは(うやうや)しく告げた。

 

フレンダ=セイヴェルンを探すために奔走している自分が、サンジェルマンのずっと探していた真なる王。

 

そうはっきりと告げられた藍花悦は、それでも何も望まなかった。

 

確かに自分に隠された力があるのは嬉しい。でも力を証明するために人を傷つけるなんて間違っている。そして力とは守るために振るうものだ。

だから藍花悦は力が必要ないと、受け取らないとサンジェルマンに伝えた。

 

するとサンジェルマンは最初に藍花悦に会った時の言葉を繰り返した。

 

『フレンダ=セイヴェルンの「遺産」を探せ』

 

持ち物ではなく、遺産。そう言った意味を考えたか、とも。

フレンダ=セイヴェルン。あの子の事を知っているのなら教えろと、藍花悦は言った。

サンジェルマンは他でもない藍花悦に命令されて、従順にフレンダ=セイヴェルンの最期を見せた。

 

どこかの路地裏で、死体袋が地面に放り投げられていた。

その前で会話をしている二人の男女。

そしてその死体袋から顔を出して死んでいる人間が、フレンダ=セイヴェルンだった。

 

それを見た瞬間、藍花悦は壊れてしまった。

 

サンジェルマンは自身が探していた真なる王が取り乱しても、変わらない様子で大仰に喋る。

 

フレンダ=セイヴェルンが死んだのは直接手を下した麦野沈利でも、彼女たちが仲たがいをする戦いを引き起こした垣根帝督のせいでもない。

そしてその戦いの元凶となった、垣根帝督の前から姿を消した朝槻真守でもない。

 

上条当麻がいなかったから。

 

そう。その物語には、上条当麻がいなかったのだ。

もし上条当麻がフレンダ=セイヴェルンの死の気配に気づき、辿り着いていたら。

フレンダ=セイヴェルンは確実に助かっていた。そうサンジェルマンは藍花悦に囁いた。

 

それは、はっきり言って暴論だ。

そうなってしまえば、上条当麻を中心に世界が回っていることになってしまう。

この世界は一人一人の主人公によって成り立っている。

だから上条当麻だけが突出しているわけではない。生きている人にとっては自分自身が主人公であり、周りの顔も知らない誰かこそが、その人にとってのモブなのだ。

 

だがフレンダが死んだという事実に呆然とする藍花悦には、そんな単純なことが分からなかった。

藍花悦はぼうっと考える。

どうして誰も間に合わなかったのだろう、と。

そんな藍花悦にサンジェルマンは問いかける。

 

当事者たちだけを殺しまわって、それで仇討ちが成功するのか。

悪の全てを明らかにして裁くべきではないのか。

藍花悦はサンジェルマンに背中を押されて、復讐者となることを決意した。

 

上条当麻。

握った拳だけで夜の街を駆け巡って猛者を薙ぎ払い、気に入った女は誰でもかっさらっていくという噂の少年。

ちょっと違うようで間違っていない評価を聞いたことがある藍花悦は、そんな少年に普通ならば勝てるはずがない、と諦めるだろう。

 

でもこの場にはアンの盾がある。自分が選ばれた、絶対的な力がある。

藍花悦はそれを頼りにして、復讐を始めることとした。

 

だが。前提として。

藍花悦がアンの盾に選ばれたのも、サンジェルマンが長らくアンの盾の適合者を探していた事も。全てが嘘だ。

サンジェルマンはただただ上条当麻に藍花悦をぶつけて魔術を使わせて自滅させ、上条当麻を歪めたいだけ。

 

その真実を知らされたとしても、藍花悦はもう止まれない。

何故なら復讐者として出来上がってしまったからだ。

 

復讐者となった藍花悦はダイヤノイド最下層で上条当麻を待っていた。

ガラスのように透明な床。

広大な空間は何本もの柱で支えられ、その上にはドーナツ状のグラビトン式人工重力制御装置が浮かんでいる。

 

ダイヤノイドはグラビトン式人工重力装置が免震構造の基部となって成り立っている。

だから、ダイヤノイドの建物はそれ自体が地上から少し浮遊しているのだ。

そしてグラビトン式人工重力装置こそが、フレンダ=セイヴェルンの『遺産』だった。

 

フレンダは爆弾使いだった。

そしてフレンダは生前グラビトン式人工重力制御装置に手を加え、重力爆弾へと変えていた。

月と地球をまるごと握りつぶせるほどの重力爆弾。

 

その重力爆弾がある場所には、続々と人が集結しつつあった。

 

階段の扉を丸ごと吹き飛ばした麦野沈利、滝壺理后。絹旗最愛。──それと、ステファニー=ゴージャスパレス。

 

「何だありゃ? 天井近くのドーナツが例の重力装置か」

 

「……フレンダがこっそり手を加えていれば重力爆弾ですね。超どう思います?」

 

「あいつなら何だってアリだ。善悪論なんて当てにならない。そんなヤツだった」

 

麦野たちが重力爆弾を目視して話していると、最下層の天井の一部がどろりと溶け落ちた。

そこから顔を出したのは、溶けた炭素で自分たちの足場を造り上げた垣根帝督と朝槻真守たちだった。

 

真守は自分の左隣にいる、白い少年を抱き上げている深城と手を繋いでいる。

そして右隣には当然として垣根帝督が立っており、垣根の隣には杠林檎、フロイライン=クロイトゥーネと勢ぞろいだ。

そして真守の前にいるのは背の低いインデックスで、真守の左肩にはオティヌスが乗っていた。

 

オティヌスは眼下の藍花悦を見下ろして、そしてインデックスへと声を掛けた。

 

「おい。分かるか、あれ」

 

「……クイーンアンの盾。剣の獲得の対となるもう一つの伝説だね」

 

「だがそんなものは存在しないはずだ」

 

オティヌスははっきりと断言すると、魔術の神として謡うように告げる。

 

「かの王に双子の妹など存在しない。そもそも剣の伝説自体がヨーロッパに散らばっていた騎士の物語を一人の男が蒐集し、一つの道筋に整えたものだ。つまりクイーンアンの伝説はその道筋から弾かれた話の一つに過ぎない。だからクイーンアンがいたという根拠はどこにもない」

 

クイーンアンが本当にいたのか分からない。

だがその存在の証拠を示す霊装が目の前にある。剣の対となるアンの盾。

藍花悦が掴んでいる、黄金の盾。

それを見つめて、インデックスは口を開いた。

 

「『論理の可逆』ってやつじゃないかな」

 

インデックスが冷静に告げる中、真守はきょとんとした林檎や深城のために説明をする。

 

「天国や地獄というのは誰も目にしたことがないだろ。でもそれがどんなものかみんな分かってる。そして本当に天国と地獄を見た時、ここはそういう場所なんだって理解できる。一度も目の当たりにしたことがないはずなのに、一目見ただけで『そう』だと判断できてしまう。それがあの霊装ということだ」

 

深城はふんふんと真守の説明を聞いて、インデックスを見た。

 

「つまりあれは偽物だってこと?」

 

「うん。でもすごく良くできてるんだよ。そしてちゃんと霊装として機能する。つまりあれを能力者が使ったら……」

 

インデックスが尻すぼみにした説明を、垣根は引き継ぐ。

 

「魔力を精製した副作用で千切れた血管や傷ついた内臓の部位が悪けりゃ、能力者は死に至る。それで上条の心を折るのがサンジェルマンの狙いだし、霊装を使わせたらド派手に心臓でも潰れるんじゃねえの?」

 

垣根が面白くなさそうにする中、藍花悦は黄金の盾を引きずって歩く。

すると自らの宿敵がエレベーターの戸を突き破って現れた。

だがそれは、上条当麻ではなかった。

浜面仕上。

あの暗部抗争の当事者だった、フレンダの死に関係している少年。

 

「呼んだのはあんたじゃない」

 

「フレンダ=セイヴェルンを死なせちまった張本人だとしても?」

 

藍花悦は浜面仕上の問いかけを聞いて、手に持っていた金の取っ手を目いっぱいに握り締めた。

ギシリ、と黄金の盾の取っ手が軋む音が響く。

浜面仕上はそれに応えるように、着込んでいる運搬着(パワーリフター)の鋼の剛腕の拳を打ち鳴らす。

 

「話は大体知ってる。だけど上条当麻にぶつかるのは筋が通らねえ。フレンダのリベンジを仕掛けたいなら、もっともふさわしい人間がここにいるからな」

 

「あんた、あの子の何なんだ」

 

「アイテム」

 

浜面仕上は、フレンダと仲間だった自らの説明をする。

 

「俺は下っ端だったけど、それでも確かに『アイテム』の一員だったんだ。だからフレンダのケツは俺が持つ。これ以上、アイツの名前で誰かが死ぬんだとしたら、そいつを食いとめるのが俺の仕事だ」

 

浜面仕上が好戦的な様子を見せると、反応したのは藍花悦ではなかった。

最下層を埋め尽くすほどのサンジェルマンたちだ。

そのサンジェルマンたちは全員が大人で構成されている。

真守が魔術を使えば死に至る可能性がある能力者を守るために、策を張った結果である。

無数のサンジェルマンたちは『シャンボール』を構えようとしたが、藍花悦が止めた。

 

「良いよ、サンジェルマン」

 

「しかしだな、我が王よ……」

 

「これはぼくの仕事だ。本当にそいつの言っていることが正しいなら、きっとぼくが戦うことに意味がある」

 

浜面仕上はサンジェルマンをいさめる藍花悦を見て、小さく不敵に笑う。

 

サンジェルマンの狙いは上条当麻と藍花悦を敵対させ、藍花悦を魔術によって自滅させてそのヒーロー性を穢すことだ。

だがここで藍花悦が浜面仕上に対して魔術を使うと、サンジェルマンの目論見が外れてしまうのだ。

サンジェルマンは焦っている。それが分かる浜面仕上は、だからこそ不敵に笑っていた。

 

ちなみに上条当麻は派手に登場した浜面仕上の後を追う形で、カブトムシと共にエレベーターシャフトから最下層へとやってきている。

しかも上条当麻はカブトムシに言われた、藍花悦の目を覚ますことができる『あるもの』を持っていた。

それを大事に抱えたまま。上条はエレベーターシャフトの中からタイミングを見計らっていた。

 

「来るなら来い」

 

上条当麻の前で、浜面仕上は藍花悦を挑発する。

 

「フレンダの死について何度も何度も蒸し返されるのはこりごりなんだ! チャンスは一度、付き合ってやるのはそれだけだ! 来い、藍花悦!!」

 

第三次世界大戦が終わった後。

浜面仕上は戦争帰り組を一網打尽にするために、『新入生』によってフレンダの死を利用されている。

だから一度きりなのだ。これで全てを終わらせて、フレンダの死にケリを付けたい。

浜面がその意味を込めて叫ぶと、藍花悦は透明な床に黄金色の盾の下端を叩きつけた。

 

「分かったよ」

 

藍花悦は頷くと、キッと浜面仕上を睨む。

 

「ならあんたから殺してやる。あんたを殺した後に上条当麻も殺してやる。それで実行犯も共犯者も一人一人あぶり出して殺してやる。あの子にできなかった事を、ぼくがやってみせる」

 

藍花悦はそう宣言する中、フレンダとの大事な思い出がぼろぼろと崩れ落ちていくのを感じていた。そして言葉を放つたびに、自分の心も傷ついているのが理解できた。

 

復讐とは自分の全てを(おとし)めて、敵も自分もぼろぼろに傷つけて殺すものなのだと、藍花悦は気がついた。

 

だが自分を自分で止めることはもうできない。

何故なら大切な友人は失われた。喪われてしまったものは戻らない。

それに藍花悦はどうしてもフレンダ=セイヴェルンを忘れられない。彼女を忘れて再び歩き出すことなんてできない。

 

だから藍花悦は復讐に走る。それしか取れる選択肢がないから。

 

「まずはあんたからだ」

 

藍花悦は浜面仕上を睨む。ずきずきと心が痛む中、懸命に声を絞り出す。

 

「あんたがあの子の死にどうかかわったか、それはすり潰しながら聞いてやる」

 

藍花悦はそう決意の言葉を吐いて、自覚した。

結局自分はサンジェルマンの言葉なんてどうでも良いのだ。

この盾が本物かどうかも、自分が特別な人間なのかということも、もうどうでもいい。

 

フレンダ=セイヴェルン。彼女のいない世界にはもう耐えられない。

だから自らを自らの憎悪で焼き尽くしながら報復を遂げる。

それによって最後にはこの世界から消える。

 

もう全てを終わらせたいのだ。だがその前に、爪痕だけは残したい。

 

藍花悦は自らの足で歩いて、特殊重機に分類される運搬着(パワーリフター)を身に着けている浜面仕上へと近づく。

 

そんな中。

上条当麻は藍花悦の目を覚ますための一石を投じた。

ぽーんっと投げ入られたのは、薄い緑色の包装紙に赤いリボンが巻かれたプレゼントだった。

 

サンジェルマンがそのプレゼントをずたずたにする前に、藍花悦はサンジェルマンを制した。

 

一〇〇〇円紙幣三枚にも満たない価値のもの。

だが、藍花悦はそれがこの世界と同じくらい大事なものだと感じていた。

そのプレゼントに、藍花悦はその価値以上を見出していた。

 

プレゼントのリボンには、一枚のメッセージカードが挟まっていた。

安物の電子オルゴールが内包されており、バースデーソングのメロディーが流れている。

 

『ハッピーバースデーッ!!』

 

少女の声が響く。

 

『へいへいへい。結局、この私から加納ちゃんへサプライズプレゼントな訳よ!!』

 

その少女の声とは、藍花悦の友人であるフレンダ=セイヴェルンに他ならなかった。

そのプレゼントはフレンダ=セイヴェルンが藍花悦のために準備したものだった。

 

フレンダ=セイヴェルンは都合の良い女だった。

楽しんで人を殺すが、自分の命が危うくなったら命の尊さについて語りだす。

自分勝手な女。

 

だが彼女にだって、確かに柔らかな部分があったのだ。

そしてダイヤノイドにあるフレンダ=セイヴェルンの秘密とは、フレンダの最も柔らかい部分だった。

 

大切な友人への誕生日プレゼント。

それがいっぱいになった幸福な空間は、絶対に誰にも知られたくないフレンダの大切な秘密だった。

 

『にひひ。アンタ、自分の誕生日を自分で忘れているようなヤツっしょ? だーけーど、このフレンダさんのコミュ力なめんな! あんたが今欲しいものなんぞとっくの昔にリサーチ済み! さあさあ箱を開けて、驚異の的中率におそれおののくが良い。がっはっはー!!』

 

フレンダの柔らかい部分が、憎悪で内側が焼けこげた藍花悦に届く。

藍花悦の中で、復讐の火にあぶられて崩れ始めていたフレンダの記憶が次々と蘇っていく。

 

『結局アンタは自分を卑下して泣き虫だなんだ言ってるけど、そんなので終わるわけないじゃん。この私が、フレンダ様が選んで認めて友達やってんだ! それだけで胸を張って誇りに思えっつーの!!』

 

大切な友人に言われた言葉。

自分には持っていない何かをアンタは持っているという、少し羨ましそうな声。

そして。

藍花悦が、フレンダからもらって一番元気が出た言葉が。今再び彼女の声で再生された。

 

『本当に本当の呆れるくらい簡単に悪鬼となる連中が多い中、アンタは泣いて全てを許せる強さを持っているの。どんな理不尽を前にしても絶対にアンタは道を踏み外さない。だから、誇れ。アンタの泣き虫は私にはない何かなの。結局、泣いて全てを許せる強さを持った自分を誇っていいのよ、アンタは!!』

 

少年の手から『アンの盾』が滑り落ちて、ガラン、という甲高い音が響いた。

フレンダ=セイヴェルンは何があっても、藍花悦が道を踏み外さないということを信じていてくれた。

それをいま、藍花悦は踏みにじろうとしてしまっていたのだ。

 

「ああ……思い出したよ、サンジェルマン」

 

既にフレンダ=セイヴェルンが失われてしまったという事実は変わらない。

それでも藍花悦はフレンダ=セイヴェルンと共に過ごした柔らかで温かい時間を覚えている。

その温かな時間の中で、少年は自分を藍花悦と偽っていなかった。

それを、少年は思い出した。

 

「おれは思い出したよ、サンジェルマン。加納神華っていう、おれの名前を」

 

少年、加納神華は超能力者(レベル5)第七位、藍花悦ではない。

重厚な伝説を形作る誰かかもしれないが、そんなことは関係ない。

少年は自身の二本の足できちんと立って、自分のやりたいことを思い出す。

 

少年がやりたかったこととは。復讐に走る事ではないのだ。

フレンダが認めてくれた力──全てを泣いて許せることができる自分の強さ。

そんな大切な友人が認めてくれた力を持ったまま、胸を張って生きること。

それが少年のやりたいことであり、するべきことなのだ。

その力は何も『闇』の中で光り輝くものではなく、陽の光が当たる場所でこそ輝く力だ。

 

「いまのおれには、本当の敵が見える」

 

少年、加納神華は(かたわ)らに(はべ)ていた悪魔を見上げた。

偽りの超能力者(レベル5)の名前は必要ない。

この世で選ばれたたった一人でなくてもいい。

フレンダ=セイヴェルンだけが信じてくれれば、それだけで加納神華は立ち上がり、ヒーローとなることができる。

 

「サンジェルマン。おれは! あの子の死を利用して、踏みにじった! 殺しの道具として、嘘の材料として使い倒した!! あんたを認めはしない!!」

 

加納神華が声を上げた瞬間、サンジェルマンの一人が即座に『シャンボール』を起動させる。

床に落ちた誕生日プレゼントの真下の床の炭素を操り。

ねじ切った床から作り上げた炭素の槍で、プレゼントを下から貫いた。

 

無残にプレゼントが引き裂かれても、加納神華の顔に変化はなかった。

加納神華はスッと手を上げる。

すると貫かれたプレゼントから飛び出した、安物の懐中時計がその手に落ちてきた。

 

少年は懐中時計をその手に掴み、ひらひら舞って落ちてくるメッセージカードを人差し指と中指で挟んだ。

 

ハッピーバースデー、加納神華。

もう既にいない少女からの最後の誕生日プレゼント。

それを手にして、少年は笑った。

 

「どういたしまして、フレンダ」

 

藍花悦ではなく、加納神華として少年は立ち上がる。

大切な少女の尊厳を守るために。

たった一人のヒーローとして、彼は立ち上がった。

 

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