とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第七〇話投稿します。
次は一二月二六日月曜日です。



第七〇話:〈真剣決意〉でも疎かにしない

学園都市を変える。

そう決めた真守だが、学業を(おろそ)かにする気はない。

きちんと学生らしく学校に通いつつも、学園都市を変える事にこそ意味があるのだ。

 

という事で真守は防犯オリエンテーションという、第七学区の学生全員が参加する冬の恒例行事に参加していた。

 

防犯オリエンテーションとは元々放火犯対策から始まった小さなイベントが大きくなり、犯罪全般に対するオリエンテーションへと形を変えていった行事だ。

 

犯人役・治安役・人質役といった三つの役割に分かれ、犯人役はとにかくみんなを驚かせ、治安役はそんな犯人役を捕まえ、人質役はとにかく犯人から逃げる。

ざっくり言えば、そういう競技だ。

 

時刻は九時過ぎ。

真守はいつものセーラー服に『治安役』という腕章をして、第七学区内を巡回していた。

その隣には当然として、制服姿の垣根帝督がいる。

 

「真守。寒いからこれ飲め」

 

垣根はカフェで買ってきたホイップクリームがのったホットココアを真守に手渡す。

ちなみに垣根は自分の分のホットラテもちゃっかり買ってきており、反対の手に持っている。

 

「……垣根。確かお前は犯人役だよな」

 

真守は一応、垣根からホットココアを受け取りながら垣根を見上げる。

 

垣根帝督が通う学園都市の五本指に入る学校は真守の学校と同じく、第七学区に所属している。

そのため垣根も真守と一緒に防犯オリエンテーションという行事に参加しているのだ。

 

真守が確認した通り、垣根帝督は『犯人役』。

暗部で活動していた男が学校の行事で『犯人役』なんて、ちょっとどう反応していいか分からないが、垣根は事実として『犯人役』を担っている。

 

その証拠として、垣根の小脇には『犯人役』というゼッケンが抱えられている。

着用すると自分のファッションセンスに抵触するため、垣根は断固として着用する気はないのだが、一応ちゃんと持っている辺りが変に真面目なのだ。

 

「治安役のお前に俺の尻を追っかけてもらおうと思ってな。だからわざわざ犯人役を選んでやったんだよ。ありがたく思え」

 

垣根はいつものように自信たっぷりに笑う。

そして空いた手で、ごく自然に真守の手をぎゅっと恋人繋ぎで握った。

自分と繋いだ真守の手。それを自分の口元に持ってきて、垣根はニヤッと笑う。

 

「治安役のお前と犯人役の俺。永遠に追いかけっこできるな」

 

真守は垣根に妖艶に笑われて、少し焦ったように声を上げる。

 

「たっ確かにそれは事実だけど、これはあくまで行事だし。……その前に尻追っかけるとか言うなっ」

 

真守はちょっとえっちな言い方のような気がして、慌てて抗議する。

そんな真守を見て、垣根は嬉しそうに目元を緩めた。

 

「別にエロくねえだろ。この自意識過剰」

 

「な。こ、この……ッ」

 

真守は憤慨して、垣根と恋人繋ぎしている手にむぎゅむぎゅと力を込める。

だがこの男。体が半ば天使化しているため頑丈で、ちょっとやそっとじゃビクともしない。

大層ご機嫌な垣根を前に、真守は思わずため息を吐く。

 

垣根帝督は真守と同じ行事に参加できるのが嬉しくて、ここまでご機嫌なのだ。

真守も垣根が行事を楽しんでくれるのは嬉しい。

そのため真守は素直にご機嫌な垣根に連れられて、学園都市内を巡回する。

 

でも犯人役がすぐ近くにいるのに治安役が捕まえないのはちょっとどうかと思う。

だからどうやってこの男を捕まえようか真守が考えていると、垣根はホットラテに口を付けながら話を続ける。

 

「治安役のお前に守ってもらえる人質役も魅力的だったんが、考えてみたらそんなの俺の柄じゃねえしな」

 

「そうだな。超能力者(レベル5)が人質役なんて、一体どういう世界線だったらそんなことになるって話だ」

 

世界がひっくり返ってもありえない事態を想像して真守が顔をしかめていると、垣根は楽しそうに目を細める。

 

「だろ? だから真守に尻追っかけてもらおうと思って」

 

「だから言い方を考えろ言い方を」

 

真守は垣根をじとっと睨み上げる。睨まれても、垣根は本当に楽しそうだ。

真守はそんな垣根を見て、ふふっと笑う。

そして垣根が買ってきてくれたホットココアを口にした。

 

寒いからホットココアはとても温かくて甘くておいしい。

垣根も楽しそうだし、今日は良い日だ。

真守がそう思っていると、真守がネコミミヘアのハーフアップにしている関係上、後ろに流している長い黒髪の中に隠れていたカブトムシがひょっこり顔を出した。

 

『楽しんでいるところ、申し訳ありません。真守』

 

「ん。なんだ帝兵さん」

 

真守はカブトムシが申し訳なさそうにしているので、柔らかい表情を見せてカブトムシに視線を向ける。

カブトムシは真守の肩にまで登ってくると、報告し始めた。

 

『魔神が上条当麻に接触しました。状況を見守っていましたが、魔神が突如暴挙に出まして。人的被害は抑えたのですが、校舎は半壊しました』

 

真守はカブトムシの説明を聞きながら目を細めて、くぴっとココアを飲む。

 

魔神。魔術を極めて神へと至った存在。

理論上、この世に複数いる魔神たちはサンジェルマンの言い分を察するに、上条当麻に何かしらの価値を感じている。

 

そんな上条当麻がかけがえのない友人である朝槻真守は、彼が不必要な苦しみを受けるのはどうしても見過ごせない。

だが上条の側に四六時中張り付いていることはできない。

真守も真守で『学園都市を変える』というやりたいことがあるからだ。

 

それにあのラッキースケベ不幸男に少しでも隙を見せれば餌食となる。そのため真守は上条には分からないように、それとなくカブトムシに監視させていた。

 

真守はするりとごく自然な様子で、カブトムシのネットワークに接続する。

ネットワーク越しに確認すると。確かに真守の学校の校舎が半壊していた。

記録を(さかのぼ)ると、どうやら僧正と呼ばれる魔神が土を(もと)にした泥の腕で校舎を半壊させたらしい。

 

真守は自身の存続に関することについては勘が働くが、『人的資源(アジテートハレーション)』の時のように自分の『停止』を狙ったり、建て直せる校舎が破壊されたりだとどうも勘が働かない。

そのことについて真守は微妙に考えながら、カブトムシのネットワークで学校の状況を確認して頷く。

 

「人的被害がないなら大丈夫だ。ありがとう、帝兵さん」

 

真守が気にする事はないと言うが、カブトムシはそれでも申し訳なさそうに報告を続ける。

 

『防犯オリエンテーションのおかげで校舎内に人が偏っていた事もあり、重傷者は出ませんでした。それでも軽傷を負いそうな学生は私が守りました。後手に回り、申し訳ありません』

 

「帝兵さんの記録を見る限り、僧正というのは本当に突然実力行使に出たみたいだな。最初から校舎を破壊する目的だったから上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)も間に合わなかったし、仕方ない」

 

真守が申し訳なさそうにするカブトムシを(なだ)めると、垣根はチッと舌打ちをする。

 

「使えねえな、カブトムシ(端末)

 

『うるさいですね、垣根帝督(オリジナル)。なら私に代わって上条当麻のことを四六時中監視してください。あなたができないことを私がやっているんですよ』

 

垣根は反論してきたカブトムシを睥睨して、けっと吐き捨てる。

 

「なんで俺が野郎の監視なんか俺がやらなくちゃならねえんだよ。そういうのはカブトムシ(端末)の役目だろ」

 

『そうですよ、垣根帝督(オリジナル)は私を監視用に造ったんです。隠密性を第一に考えて小型化したのであれば、それ相応の戦力しか持ちえない。魔神の相手をとっさにできないことは確かです』

 

「へー自分の不備を認めるんだな、このポンコツ」

 

『ポンコツに造ったのはあなたでしょう』

 

バチバチと火花が散る両者。

真守はそんな垣根とカブトムシを見て、遠い目をする

 

(垣根、また自分の一部とケンカしてる……最近一人コント開催しすぎだろ……)

 

人造生命体カブトムシは垣根帝督のAIM拡散力場の一部を移植している。

そして垣根が『端末』と呼称する事からも、カブトムシは垣根の末端、つまり一部のようなものなのだ。

もともと自己主張が強い垣根が自分の一部を移植したことで、最近自己主張が激しくなっているカブトムシと喧嘩する。それは端的に言えば真守の言葉通り、一人コントなのだ。

 

「垣根も帝兵さんも落ち着いて。今は僧正とかいう魔神の対処をしなくちゃ」

 

真守は自分の一部とケンカしている垣根を止める。

 

「帝兵さんの記録を見る限り、僧正とかいう魔神は沸点がよく分からない。どこで振り切れるか分からないから早めに対処したい。垣根、帝兵さん。一緒に来てくれ」

 

垣根はチッと舌打ちすると、手に持っていたカフェラテを飲み干す。

そして適当に放り投げて掃除ロボットに回収させると、ため息を吐いた。

 

「せっかく真守と一緒にいられるのに、最悪だ」

 

「しょうがないだろ、垣根。魔神はとても自分勝手なんだから」

 

真守は肩をすくめていたが、それでも不敵に笑う。

 

「オティヌスと対峙して加減が分かったし、あの魔神たちはアレイスターによって弱体化させられてる。さっさと片付けることができるぞ」

 

「お前がそういうならさっさと片付けられるんだろうな」

 

垣根は不敵に笑う真守が愛おしくて、真守の頬にキスをする。

真守は外でキスをされて人目が気になりながらも、気になることがあって顔をしかめた。

 

「……というか明日から学校はどうなるんだろう。校舎が半壊したんだけど……」

 

「休校だな、休校。遊ぼうぜ」

 

時間割り(カリキュラム)が遅れてしまうからそんなわけないだろ。どこかの校舎でも借りてやるだろ、多分。……垣根に未元物質(ダークマター)で校舎を造り上げてもらっても異能由来だからな。上条が触ったら一発アウトで壊れてしまうし。……すぐ建て直せるように手を回そうかなあ」

 

真守はぼやきながら、手の中のホットココアを飲む。

だが飲みきれる量ではない。

真守がむぅと口を尖らせていると、カブトムシが受け取ってくれた。

 

「ありがとう、帝兵さん」

 

『問題ありません』

 

真守はカブトムシにお礼を告げると、垣根の手を引いた。

 

「垣根、行こう。どうせ私のこと抱っこするんだろ」

 

「当たり前だ」

 

垣根は頷くと、飲み切ったカフェラテのカップを掃除ロボに向かって捨てて、真守のことをお姫様抱っこする。

やっぱり真守が飛んでスカートの中身が見えるのが心底気になるらしい。

そして垣根は真守のお尻をスカートの上から触って気が付いた。

 

「お前、またスパッツ穿いてねえな!?」

 

「わーわーうるさい。上条が美琴連れて自転車かっ飛ばして逃げ始めたから、その話はまた後でなー」

 

真守はぺちぺちと垣根の腕を叩くと、垣根はチッと舌打ちをした。

そして未元物質(ダークマター)の翼を広げると、真守を連れて上条当麻のもとへと急行した。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

単位が足りないということで、防犯オリエンテーションの犯人役をしていた上条当麻。

その最中、下駄箱に入っていたラブレターによって呼び出され、屋上へとルンルン気分で向かって行った。

 

だがそこにいたのは、完全な木乃伊(ミイラ)と化していた魔神、僧正だった。

女の子じゃなかった。

そう絶望する上条に、僧正は『採点者』として機能してほしいと頼んできた。

 

魔神はこの世界に複数いる。

だが自分たちが良いように造り変えられる世界は一つだけだ。

だから魔神たちは一つの世界を奪い合うことになる。

 

その話し合いの場が『グレムリン』であり、世界を造り変える事ができる者たちは世界を造り変えることができる者たち同士で争っていた。

 

だがそんな争いをしてもしなくても、世界というものは魔神の影響を少なからず受けてしまう。

そしてその影響が世界にとって悪いものなのか、良いものなのか。魔神たちには分からない。

 

だから、絶対的な基準点である上条当麻へと判断をゆだねた。

上条当麻が間違っていると思ったならばその間違いを正そう。

逆に上条当麻が正しいと思ったならばそれでいい。

 

それが『採点者』としての上条当麻の役割だ。

 

『採点者』の役割を担っても、メリットがないならば上条当麻はそれを請け負う意味がない。

だから魔神たちは、上条当麻の望みならばなんでも叶えると条件を提示した。

 

上条当麻が考える幸せな世界を作り出す。

上条当麻に世界の命運を託す。

魔神たちはそういう条件を出したのだ。

 

『採点者』になること。それを、上条当麻は断った。

 

上条はこれまで多くの世界を見てきた。

全ての人間が幸福となった世界もあった。

だがその中で生と死のどちらにも属す存在と話をした。

 

誰かが与えた幸せとは、歪なものだ。

そもそも誰かが与えた幸せとは誰かの考えに基づく幸せだ。

 

使徒十字(クローチェディピエトロ)』という霊装があった。

それは誰もが幸福だと思える世界を造り上げるという霊装だったが、不幸も幸福と認識されてしまう洗脳マシーンだった。

 

当人が本当に幸せだと思っている事は、当人にしか分からない。

誰かが押し付けた幸せなど洗脳に過ぎない。

そんなものに意味はない。

 

だから上条当麻は『採点者』となることを断った。

 

その瞬間、僧正は校舎の半分を破壊した。

 

上条当麻が断らなければこんな悲劇も起こらなかったのに、と僧正は笑った。

上条はそれに怒りを覚えて、僧正を(たお)そうとしたが相手は魔神。

まったく歯が立たない上条当麻は学校にこれ以上の被害を出さないためにも、アクロバイクに飛び乗った。

 

アクロバイクとは小萌先生が防犯オリエンテーションのために用意していた学園都市製の自転車で、初心者でも数々のアクロバットが可能な自転車だ。

 

それに飛び乗って学校から離れようとしていると、防犯オリエンテーションで学校に来ていた御坂美琴に声を掛けられた。

 

その結果、上条当麻は御坂美琴をアクロバイクの後ろに乗せ、僧正と追いかけっこすることとなったのだ。

 

だがただ逃げていても仕方ない。そのため上条当麻はまず窓拭き用の清掃業者が使っていた、洗剤を薄めた溶液を後方の地面にぶちまけた。

 

時速六〇キロで爆走していた上条を追っていた僧正はつるっと滑り、僧正の枯れた肉体は反対側の道で違法駐車していたスポーツカーの側面に激突。

 

だが魔神はそんなことでへこたれない。スポーツカーに突っ込んだ腕を使ってスポーツカーを持ち上げると、上条へと軽く投擲した。

 

なんとか避けた上条当麻のアクロバイクに飛び乗った僧正。

 

上条当麻は速度を上げると、アクロバイクの上に乗っている僧正の頭に雑居ビルの看板をブチ当てて振り切った。

 

それでも僧正は止まらない。

そして緊急出動してきた警備員(アンチスキル)が僧正と戦い始めた。

上条当麻はどうにかしようと考えていたが、その時頭に何かがどすんっと着地した。

 

「わぶっ!?」

 

『上条当麻。そのまままっすぐ進んで魔神を誘導してください』

 

「て、てーへーさん……!?」

 

上条当麻は頭に着地したのがつい先日も自分を助けてくれた人造生命体であるカブトムシ、帝兵さんだと気が付いて声を上げる。

 

『真守と垣根帝督(オリジナル)が待っていますから。そのまままっすぐ』

 

「分かった!!」

 

上条当麻は朝槻真守という心強い味方が待ってくれていると知って、全速力でアクロバイクを漕ぐ。

御坂美琴は上条のその様子を見てムッとした。

上条は朝槻真守の力を当てにしている。

 

真守は超能力者(レベル5)第一位だ。だが同じ超能力者(レベル5)である自分もここにいるのだ。

自分を当てにしてもいいじゃないか。

美琴がそう思う中、上条当麻はアクロバイクを走らせながら振り返る。

 

「来い、僧正!!」

 

上条は美琴がむすっとしているのに気が付かないまま、警備員(アンチスキル)を相手にしようとしていた僧正を呼んだ。

僧正は自分が求めて止まない上条当麻に声を掛けられて、嬉しそうにする。

 

「ほっほーい!! 言われずともなあ!! さあ戦おう、また一つ『魔神』を知ろう! なあに心配することはない、その全てを終えて両者の距離をゼロまで縮めた時、お主は儂らの一部となり採点者の役を負うのじゃから!!」

 

僧正は笑いながら警備員(アンチスキル)の第一陣を吹き飛ばし、上条当麻を追う。

早く朝槻真守のもとへ。

そんな思いを抱いてアクロバイクを走らせている上条当麻に、御坂美琴は声を掛けた。

 

「ねえ、ちょっと。ねえってば!!」

 

「何だよ、御坂!」

 

上条が必死にアクロバイクを漕いでいると、お嬢様座りをしている美琴は髪を上品に抑えながら声を上げる。

 

「あれが規格外の怪物だっていうのは分かったわ。私たちの命を狙っているのも、このまま放っておいても大変な事になるのも! その上で提案したいんだけど!」

 

「余計なことしなくて大丈夫だ、朝槻がすぐそこで待ってるんだから!!」

 

美琴は上条当麻に却下されて前髪からばちッと火花を弾けさせた。

 

朝槻、朝槻朝槻。

上条の口から出るのは真守の名前ばかりだ。

そこまで上条は真守のことを信用している。そして今も頼ろうとしている。

 

すぐに力になれる、確かな力を持って今そばにいる自分を差し置いて。

上条当麻は朝槻真守に合流しようと必死になっている。

 

別に自分を頼ってくれてもいいじゃないか。

自分だって、力になれるのだから。

 

御坂美琴は何をしても頼ってくれず、一人で抱え込みながらも真守には助けを求める上条当麻に怒りが(つの)る。

そして怒りのままに怒鳴り声を上げた。

 

「規格外の怪物がここにもう一人いるって忘れるんじゃないわよ!!」

 

「あっ、おいまさか、バカ!!」

 

上条は美琴を止めようとするが、あいにくアクロバイクを走行中の上条が後部座席に座っているだけの美琴を止められる術などない。

 

「ダメだ御坂。お前には無理だ!!」

 

美琴は上条の声を聞きながら、後部座席のシートから降りると、能力を使いながら革靴をアスファルトに思い切り押し付けて急ブレーキを取る。

そして振り返って、こちらへと一直線に向かってくる僧正を見た。

 

(私だって朝槻さんと同じ超能力者(レベル5)よ! アイツの役に立ってみせる!)

 

美琴が心の中で真守に対抗心を燃やしている中、上条は慌ててアクロバイクの技の一種である《フレイルターン》を掛けて一八〇度方向転換をして、背後の美琴を視界に捉えた。

 

御坂美琴だって僧正が並外れた敵であることを理解している。

そのため即座にゲームセンターのコインを取り出し、自身の能力名となっている超電磁砲(レールガン)を撃つ姿勢に入る。

 

音速の三倍で撃ち出された金属塊による多大なる破壊力。

その一撃を。

魔神僧正は乾いた腕を横に振るっただけで、ありえない挙動をさせながら真横に弾いた。

 

「なっ、ん……ッ!?」

 

自分の能力の代名詞であり、自分の奥の手である超電磁砲(レールガン)

それが容易く打ち破られた瞬間、御坂美琴は過去の記憶がよみがえった。

 

八月。夏休み真っただ中。

自分の超電磁砲(レールガン)を反射した元第一位、一方通行(アクセラレータ)

 

『仮にも同じ超能力者(レベル5)。それがまさかこンなしけたモンだとは思わなくてよォ』

 

あの時、超能力者(レベル5)第一位という圧倒的な壁に、自分は打ちのめされた。

その時以上の衝撃が、御坂美琴を襲っていた。

そんな御坂美琴をよそに。

僧正は自分が弾いた超電磁砲(レールガン)によってぽっきり折れた鉄筋コンクリートへのビルを、地面を割りながらも噴き出させた泥のような巨腕で掴む。

 

「あ」

 

美琴が呆然と呟く中。

二〇階建てのビルが振り下ろされる。

それを受け止めたのは、もちろん垣根帝督に抱き上げられた朝槻真守だった。

 

「人のことを考えないヤツだな。──まあ魔神ならば当然か」

 

真守は顔をしかめたままそう告げると、垣根にお姫様抱っこされたまま力を解放した。

真守の黒髪が蒼みがかったプラチナブロンドへと変わり、頭の上に六芒星を基にした幾何学模様の転輪が浮かぶ。

そして垣根帝督を侵さないように、無数の歯車でできた蝶の(はね)翅脈(しみゃく)のような蒼閃光(そうせんこう)の後光を広げた。

 

真守はエメラルドグリーンの瞳を無機質に輝かせ、僧正を睥睨する。

その様子を御坂美琴は見ている事しかできなかった。

 

手も足も出せない。そんな敵と、真守は垣根帝督にお姫様抱っこをされたまま悠々自適に相対していた。

それだけで分かる。

 

真守は自分を置いて、次のステージへと向かったのだ。

 

幻想殺し(レベルアッパー)の時、自分と真守にはそれなりの差はあれど、御坂美琴は協力して戦うことができていた。

だが朝槻真守は次のステージに至り、自分は置いて行かれてしまったのだ。

何故、こうなったのだろう。同じ時をそれなりに過ごしていたのに、何故自分だけはおいて行かれてしまったのだろう。

 

圧倒的な力の差。それを見せつけられた御坂美琴は。

息を呑んだまま状況を見つめているしか、できなかった。

 

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