とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第七一話、投稿します。



第七一話:〈早々収束〉でも懸念が残る

上条を追いかけていた僧正が美琴の超電磁砲(レールガン)を弾いた事により、ぽっきりと折れたビル。

僧正はそのビルを、躊躇(ためら)いなく御坂美琴たちに振り下ろした。

だがそこに垣根帝督にお姫様抱っこされた真守が現れ、絶対能力者(レベル6)としての力を解放。

振り下ろされたビルを片手で受け止めた。

 

真守は垣根の首に回していたもう片方の手を離し、僧正の泥の手へと手の平を向ける。

そして源流エネルギーを生成。

蒼閃光(そうせんこう)と共にガキガキガキ! という歯車が噛み合って回るような音が響き、真守は源流エネルギーを放出。僧正の泥の腕を鋭く穿った。

 

泥の腕を源流エネルギーによって焼き付くし、真守は僧正からビルを取り上げる。

中にいる人を気にしつつ、真守は僧正の泥の腕へと向けていた手を僧正自身に向ける。

そして再び源流エネルギーを生成。

それを高速で打ち出し、真守は僧正に有無を言わさないまま、木乃伊(ミイラ)の姿を取っている僧正の体の三分の二を源流エネルギーで焼き尽くした。

 

朝槻真守だけが操れる源流エネルギーの特性は『存在の消失』。

 

全てを焼き尽くされてしまえばその存在がいた痕跡がこの世から消え去り、人を焼き尽くしたならば、その人が生きていたという事実が消え失せる。

 

そんな源流エネルギーで僧正の三分の二を焼き尽くすということは、魔神としての力を三分の二ほど一撃で奪い取ったということだ。

しかも魔神僧正はアレイスターによって弱体化されている。

そのため僧正は抵抗する事もできずに、ゴロゴロとアスファルトの上を転がるしかできなかった。

 

真守はそんな僧正に視線を向ける事無く、魔神僧正が振り回した結果、ひっくり返っているビルの天地を元に戻す。

もちろん中の人間が傷つかないように演算済みだ。

 

「垣根。頼める?」

 

真守は再び空いた片手を垣根の首に回しながらお願いすると、垣根は頷いた。

真守に頼まれた垣根が視線を鋭くすると、ぽっきりと折れたビルの基幹部分に変化があった。

どこからともなくじわじわと白い未元物質(ダークマター)が噴き出してきて、折れた部分が侵食されていくのだ。

 

真守がゆっくりとビルを元の位置に着地させると、未元物質(ダークマター)が接着剤となりビルが本来あるべき姿へと無事に戻る。

 

ビルの中の人々は何が起こったのか分からず、窓辺に寄ってくる。

 

真守は蒼閃光(そうせんこう)でできた幾何学模様の転輪を動かしながら、柔らかく微笑んで彼らに手を振った。

そして未元物質(ダークマター)の翼を広げている垣根に地面に降り立ってもらい、体を降ろしてもらう。

 

真守はとことこ歩くと、アスファルトに転がっている僧正の前に立った。

 

「魔神としての存在を焼失させられた気分はどうだ? なかなか経験できないことだぞ」

 

真守は右腕から鎖骨に掛けて、そして首から頭にかけてしか残っていない僧正を見下ろす。

 

「……し、神人……? ……っこれ、は」

 

僧正は一撃で自身の三分の二を消し飛ばされて、理解できないといった様子で真守を見上げる。

真守はそんな僧正を見下ろして、無機質なエメラルドグリーンの瞳を煌めかせた。

 

「お前が校舎を破壊したからな。その罰みたいなものだ」

 

真守は腰を落として、地面に這いつくばる僧正に視線の高さを近づける。

 

「お前の万能性を少々焼き尽くさせてもらった。アレイスターに打ち込まれた術式と競合するかと思ったけど、そんなことはなかったな。私の力は能力開発が基盤だし、競合しないようにするなんてアレイスターにとっては簡単なことだろう」

 

真守は独り言ちるように呟くと、自身を焼き尽くされた衝撃で、未だに動けない僧正を見つめて小さく頷く。

 

「ふむ。見たところ即身仏という類か? なんで悟りを開けて世界を救済する域にまで達しているのに、破壊の限りを尽くすんだ。もしかして破壊の限りを尽くして新たな境地を切り開きたいとか? どんな理由にしても迷惑なひとだな、まったく」

 

真守は僧正の魔神としての背景を探ってため息を吐いて、僧正を睨む。

 

「学園都市を壊されるととても困る。私は今ある形の学園都市が欲しいんだ。でもお前は暴力を使わずに話ができないらしいから、ちょっと手を加えさせてもらうぞ」

 

真守が自分に手を伸ばしてくるので、僧正は目を白黒させる。

 

「こ、これ以上どこに手を加えるじゃと?」

 

真守は僧正に問いかけられて、にっこりと微笑む。

 

「お人形サイズにすれば平和的に話し合えるだろう?」

 

真守はにっこりと笑ったまま、手の平をひっくり返してそこに源流エネルギーを生成する。

ガギガギガギガギィ!! と歯車が噛み合う音を響かせながら、真守は完璧な人間としての慈悲深き笑顔を見せる。

 

「私は散り散りになったオティヌスをかき集めて再構成してお人形サイズにできたんだぞ。だからお前もお人形サイズにして、物理的に暴力をふるえないようにしてやる」

 

「まさかの儂も手乗りオティちゃん化かァあああああああ!?」

 

悲鳴のような声を上げる僧正。

真守はにこにこ笑みを浮かべたまま、目を鋭くさせる。

 

「さあ僧正覚悟しろ。お前の存在を一%だけ残して再構成してやる。寝床は気にするな。私の家に仏壇を置いて、ちゃんとお供え物してやるからな」

 

「いやあああ手厚い祀り方じゃああああぎゃああああ」

 

僧正の叫び声と共に、ギガギギッギガギガギギ! と歯車が軋みながら噛み合う音と共に蒼閃光(そうせんこう)(ほとばし)る。

そして何度も何度も蒼閃光が瞬き時が過ぎ去ると。

僧正は真守の手の中で、一五センチの木彫りの仏様のようになって気絶させられていた。

その様子を見ていた上条はアクロバイクから降りてその場にへたりこんでいたが、立ち上がって真守に近づいた。

 

「流石です朝槻さまぁあああああ──!!!!」

 

上条当麻は祈りを込めて手を組み、真守の事を讃える。

スライディングして土下座して敬いそうな様子だ。というか実際にしていた。

 

「お疲れ様、上条。お前が爆走しているから追随するより待ち構えていた方が良いと思って。少し向こうで待ってたんだけど、美琴が無茶したのが見えたから来たんだ」

 

「ありがとうございますぅありがとうございますぅ!! 本ッ当に朝槻がいなきゃ俺はどうすれば良かったか……ッ!」

 

上条は感涙したまま何度も何度も真守を讃える。

そうして一息つくと、真守の手の中で木彫りサイズになった僧正を見つめた。

 

「僧正を任せて大丈夫か?」

 

「うん、大丈夫だぞ。この状態になったら悪さできないだろうし、良い見せしめになったからな」

 

「見せしめ?」

 

上条当麻はきょとんと首を傾げる。

真守は手乗り木乃伊をカブトムシの背中に載せながら柔らかく微笑んだ。

 

「上条も知っていると思うけど、魔神は一人じゃない。あんまりオイタすると全員人形サイズだぞ、という脅しだ」

 

「おお……流石朝槻……ちゃんと考えてる……というかやっぱり魔神ってたくさんいるのか……」

 

上条当麻がその事実に愕然としている中、真守は動かない美琴に気が付いた。

 

「美琴、大丈夫か?」

 

美琴に怪我がないことは分かっている。

でも真守が問いかけたのは、御坂美琴がこの上ない無力さに打ちのめされていると感じたからだ。

打ちのめされても仕方なかった。

 

何故なら朝槻真守は圧倒的な力を持っている。

 

自身の渾身の一撃を弾いた魔神を簡単に捻じ伏せてしまったのだ。その力が絶大だと分からない美琴ではない。

そして上条当麻は真守のその絶大な力に多大な信頼を寄せている。とても頼りにしている。

 

朝槻真守。超能力者(レベル5)第一位。

絶対能力者(レベル6)の枠組みに真守が入ることを知らない美琴だが、その力が最早第一位の枠組みに嵌らないことは嫌でも分かった。

 

いつから自分は真守とここまで力の差が生まれてしまったのだろう、と美琴は考える。

 

真守と本格的に共闘したのは幻想御手(レベルアッパー)の時だ。

そして『絶対能力者進化(レベル6シフト)計画』でも助けてもらった。

 

あの時、御坂美琴は朝槻真守と力の差はほとんどないと思っていた。

いいや、あの時からその力には圧倒的な差があった。

それでも美琴は真守たちと共に戦えると思っていた。力になれると思っていた。

 

だが気が付いてみれば。

朝槻真守はいつの間にか、自分を置いて次のステージへと向かってしまった。

 

あの時から、自分は何が変わった?

そして朝槻真守は、あの時から何を得たのだ?

自分はこんなにも無力だったか?

 

すぐ近くにいたのに自分だけ置いて行かれた事実に美琴が衝撃を受けていると、真守が声を掛けた。

 

「大丈夫だぞ、美琴」

 

美琴はゆるゆると顔を上げて真守を見た。

蒼みがかったプラチナブロンドの髪。

そして六芒星を基にした幾何学模様の転輪を携えた真守は、無機質なエメラルドグリーンの瞳を輝かせる。

 

「美琴がいることで、上条だって助かっていることがある。何も直接力を貸すことだけが全てじゃない。何らかの形で力になれればいいんだ」

 

真守が自分の存在が上条当麻に必要だと告げても、美琴は納得いかなかった。

真守はそんな美琴に分かってもらうために、言葉を紡ぐ。

 

「私は万能な存在だ。だから本当の意味で、私は誰も必要としていない」

 

真守は自分の伝えたいことが納得できない美琴へと、必死に言葉を掛け続ける。

 

「私に誰も必要なくても、私は誰かと一緒にいたい。一人で頑張っても多くのことを()せるが、大事な人と成すことで得られる大切なものだってある。それで勝ち取れるものだってある。本当の意味で重要なのは純粋な力じゃない。私はそう思う」

 

完璧な人間には他者の力なんて要らない。

一人で生きていけるが、それはむなしいだけだ。

誰かとの絆。誰かと想いあうこと。

それこそが何よりの宝物で、何よりも大事なのだ。

直接的な力になることだけが、全てじゃない。

それを理解させられても納得いかない美琴が黙っていると、真守の言葉を聞いていた上条は口を開いた。

 

「なんていうかさ、御坂。朝槻の言う通り、役に立つか立たないかなんて問題じゃないんだ。俺は御坂がそばにいてくれるから、頑張れるんだぜ」

 

上条が肯定してくれても、美琴の気は晴れなかった。

何故なら御坂美琴は上条当麻の間接的な力ではなく、直接的な力になりたいのだ。

だがその力にはなれない。なる資格はない。

 

上条当麻が最終的に必要としたのは、自分よりも次のステージへと降り立った朝槻真守なのだ。

そして真守の言葉に同意できる上条当麻は、おそらく朝槻真守と同じステージに立っている。

 

自分だけが置いて行かれている。

まるで周回遅れのようなものだ。

同じ場所に立っているのに、同じ時間を共有しているのに。

それでもどこか違う場所に、彼らは立っている。

 

朝槻真守のように、自分だってあのバカに頼って欲しい。

だから真守が、とても羨ましい。

そんな想いが消えない美琴は意気消沈したまま、本当の災害が起きてしまったことで点呼を取り始めた常盤台中学へと戻って行った。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)に用意してもらった真守の自宅。

その二階のラウンジにて、真守はテーブルにちょこんと胡坐(あぐら)()く僧正の頭を優しく撫でる。

 

「お前はこれまで自儘に動いていた。でもお前はお前で大変だったんだな、僧正。よく頑張ったな」

 

「儂が……よく頑張ったじゃと?」

 

僧正は真守の言葉の意味が分からなくて首を傾げる。

 

「だってお前は人の悪意のせいで仏の座を与えられなかったんだろ。その仕打ちをお前は衆生が望んだことだって結論付けた。お前は自分のことを貶めて笑ったヤツらのことを怒りも恨みもしなかったんだ。それはすごく偉いことだぞ」

 

僧正はインドで発祥し、中国・韓国を経由して神道が根付く日本に持ち込まれた日本独自の仏教に由来する。

そして僧正の外見からも分かる通り、僧正は即身仏として仏の座に至ろうとした。

 

即身仏。

解脱を図る高僧が自らの意思によって生き埋めになり、命がこと切れる最期まで韻を組み、読経を続けることで仏──神へと至ることができる方法。

 

だが即身仏とはそもそも、誰かがその人物が仏の座へと至ったことを確認しなければならない。

 

僧正はその誰かに見限られた。

僧正を仏にしたくなかった者たちが不動明王をモチーフにした副葬品を与え、金銀財宝に彩られた権力者が欲を捨てられた訳がないと濡れ衣を被せた。

 

だから僧正は仏として完成されながらも、仏の座を与えられなかったのだ。

 

それを僧正は衆生(セカイ)が望んだことだと位置づけた。

そしてあさはかな欲を捨てられずに役割のない仏となった自分がいる事で、世界の救済に繋がると考えて行動していた。

 

とはいっても魔神は魔神。

魔神による救済とは独裁的なものなので、人のためにはならない。

だから散々自儘に動き、世界をしっちゃかめっちゃかにした。

真守もそれは分かっている。だが僧正は魔神として始まった時に、それなりの苦労をしたのだ。

僧正は真守をじっと見つめたまま、思わず零す。

 

「偉いも何も、儂が役割のない仏となることを衆生が望んだから、儂はこうしてここにいるのだぞ。それの何が偉いのだ」

 

「偉いと分からないから偉いんだぞ。立派な仏様だな」

 

事実、僧正は自分のことを仏として認めなかった人間の事を恨まなかった。

まあ自分を見限った人間たちを殺しはしたかもしれない。

それでも自分を仏として認めなかった衆生(セカイ)のことを憎んではいない。

だからこそ真守は自儘だとしても偉いと言ったのだ。

僧正は真守の言っていることがよく分からずに、ふむと一つ呟く。

 

「儂の考えは偉いし立派なのか?」

 

「そうだぞ。ちょっと自分勝手に人を救い過ぎだけどな」

 

真守と同じラウンジにいる垣根は、仏壇設置のためにラウンジの家具を動かしながら顔をしかめる。

 

(ったく。真守も大変だよな話の通じねえ魔神相手に)

 

垣根は少しイライラとして様子で、カブトムシに未元物質(ダークマター)で造らせた仏壇を設置する。

 

(いまの僧正のやり方が間違ってるって指摘して、もっと世界を救う良い方法があるって真守が促しても、絶対に僧正は聞きやしねえ。だから真守は言葉に気を使ってほめて伸ばす方法で僧正の考えを変えようとしてる)

 

魔神は我が強い。その考えをすぐに改めることなどできない。

だから真守は本来ならば魔神が言われた事のない言葉や物事の側面を指摘して、僧正を改心させようとしているのだ。

 

(魔神を改心させるなんて普通の人間には絶対に無理だ。……でも、真守なら少し言葉に気を付けりゃできちまうだろうな)

 

真守は完璧な人間へと至ったただ一人の存在である。

不完全な人間のまま神へと至った結果、歪な考えを持って自儘に動く魔神とは違うのだ。

垣根はその事実がなんだか誇らしくて、小さく笑う。

 

「…………偉い、か。そんなことを言われたのは初めてじゃの」

 

ほう、と僧正は当然として生まれて初めて言われた言葉にしみじみとする。

そして真守のことをじっと見て、小さく笑いだした。

 

「ほほ、ほ。ほほほ。上条当麻も上条当麻で興味があったが、神人にも興味が湧いてきたわい。お主のもとで暮らすのも面白そうじゃの」

 

僧正は垣根が置いている仏壇を眺めて、そして笑う。

 

「儂には魔神としての力ももうないしな。世界を壊すこともなければ神人という面白そうな存在もおる。オティヌスのように生きるのも気ままで良いものか」

 

本来ならば、僧正はこのように丸い性格ではなかった。

 

それでも真守の言葉を受け入れられたのは、真守が僧正の魔神の力を奪い人形サイズに縮小させたときにちょっと調整を施したからだ。

 

この仏様は人の世の人の情というものが分からない。

真守は僧正が人の気持ちを分かることができるように、ちょっと細工をしたのだ。

だが本当の意味で僧正が人の気持ちを理解し、人に寄り添うことができる仏になるのは僧正のこれからの努力と、周りの人間の援助にかかっている。

 

「これから家でゆっくりしてくれ、僧正」

 

真守は人差し指を差し出して、僧正と握手をする。

 

垣根は魔神の性質すら良い方向へと向けてしまう真守を見て肩をすくめた。

 

本当に規格外の少女だが、その規格外さは別に悪いことではない。

むしろ人に寄り添うためには必要な規格外だ。

そのため垣根は真守の要望で、僧正の家となる仏壇を二階のラウンジに設置し終えた。

 

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