とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第七三話、投稿します。
※二〇二二年最後の投稿です。今年もお読みいただき、ありがとうございました。


第七三話:〈驚愕続々〉と問題が起こる

防犯オリエンテーションが中止し、僧正が真守の自宅の居候に加わった夕暮れ。

真守は自宅の二階のラウンジで雑誌を読んでいた。

上里翔流の動きは把握している。

どうやら学園都市に住み着こうとしているらしく、カブトムシの記録を(さかのぼ)れば何故か不動産屋で小萌先生と同じ安アパートの契約をしていた。

 

「垣根。このステージすごく難しい」

 

真守がカブトムシで上里翔流を確認しながら雑誌を読んでいると、白い少年とテレビゲームをしていた杠林檎が声を上げた。

林檎は白い少年とよくある2Dスクロールアクションをやっている。

そんな林檎へと、垣根は真守の隣に座ったまま適当にアドバイスをする。

 

「水中ステージは水中の動きに慣れりゃあ簡単だよ。頑張れ」

 

「垣根やって」

 

「自分でやらなきゃ達成感がねえだろ」

 

「じゃあ三人目のプレーヤーで参加して手伝って」

 

垣根はため息を吐くと、ソファから立ち上がってテレビの前に座っている林檎から三つ目のコントローラーを受け取る。

 

「こういうのはプレイヤー数が多くなればなるほど、難易度が上がるモンなんだけどな」

 

「じゃあ垣根にもクリアできない?」

 

「そんなワケないだろ。俺にその定石は通用しねえ」

 

真守は静かに学園都市内でのみ流通している科学雑誌を読んでいたが、垣根が林檎と白い少年とゲームをしている様子を見てふふっと微笑んだ。

すると、ローテーブルの上に置いてあった真守のスライド式の携帯電話が震えた。

真守が手に取ると『上条当麻』と表示されており、真守は電話に出た。

 

「もしもし上条」

 

〈朝槻。深刻な問題が発生したんだ……俺はそれで動かなくちゃならない……っ!〉

 

「深刻な問題? 大丈夫だぞ、そこまで深刻に捉えなくて」

 

真守は上条当麻が上里翔流について連絡を寄越してきたと考えて、そう告げる。

 

ちなみに真守は上条当麻の現在も確認している。

上条当麻は現在、突然転がり込んできた魔神ネフテュスと共にいる。

 

魔神ネフテュスはその成り立ちからして、個の概念が薄いらしい。

 

そのため理想送り(ワールドリジェクター)によって新天地へ自分を飛ばされても、事前に取り分けていた自分の内臓を上条当麻の自宅に送りつけており、それによって理想送りから逃れたのだ。

 

そうして魔神ネフテュスは命からがら上里翔流のもとから逃げだして、上条当麻に理想送りについて伝えに来たのだ。

それを真守が確認済みだと告げると、上条は真剣な声のまま言葉を紡ぐ。

 

〈その上里なんちゃらの話はおいといて。それよりも大事な話だ……ッ!〉

 

「? それよりも大事なコト?」

 

真守は顔をしかめる。

何かすごくバカらしい話になる気がする。

真守がそう思っていると上条当麻が口を開いた。

 

〈実はな、朝槻……〉

 

「なんだよ。早く言ってくれ」

 

真守がムッと顔をしかめて目を細めると、上条当麻は真剣な声を出す。

 

〈三日前に買ったはずの食料をインデックスが食べ尽くして、いま俺の家にはしょうゆと味噌しかな、〉

 

ピッと、真守は携帯電話の通話を切る。

上条当麻にとっては食材がないことは死活問題なのだろうが、そんなの買ってくればいいし、魔神と比べれば真守にとってはくだらない話だ。

 

真守は無言で携帯電話をソファの肘おきに置き、もう一度雑誌を読み始める。

垣根は真守が突然通話を止めて無言で雑誌を再び読み始めたので、ゲームをしながら首を傾げた。

 

するとそんな垣根の前で、真守の携帯電話が再び震え出した。

真守は無視しようと思ったが、震え続ける携帯電話にため息を吐いてから携帯電話を手に取った。

 

「なんだ苦学生。言っとくけど私がお前に援助すると苦楽を共にするオティヌスが楽をしてしまって刑罰にならないから、食費は出せないぞ」

 

〈ぬぉぉぉぉぉぉオティヌスが足かせにぃぃぃ!!〉

 

真守は電話の向こうで本気で慟哭する上条当麻に呆れる。

 

〈……って、冗談はおいといて〉

 

お遊び(本気)はここまで。

上条が気持ちを切り替えると、真守は片眉を不機嫌そうに上げる。

 

「良かった。冗談じゃなかったら私は自宅からお前にティッシュの箱を叩きつけていたところだ」

 

絶対能力者(レベル6)である真守ならば、自宅にいたまま遠い場所にいる上条当麻の自宅へ、ありえないほどのロング物理攻撃が可能である。

真守がやれやれ、とため息を吐いていると、上条当麻はやっと真剣な声になった。

 

〈ネフテュスから話は聞いてる〉

 

上条は真守が知っているかもしれないが、一応自分が認識していることを真守に話す。

 

上里翔流の右手に宿った理想送り(ワールドリジェクター)

それは幻想殺し(イマジンブレイカー)──というか魔神たちが上条当麻に勝手に失望したから生まれた力なのだ。

 

幻想殺し(イマジンブレイカー)は魔術師たちの怯えによって生まれた。

魔術で世界を良いように造り替えた時、元の世界に戻れなくなると困るからだ。

それと同じで理想送り(ワールドリジェクター)も魔術師──というか魔術サイドの九九%を占めている魔神たちの願いによって生み出された。

 

魔神たちはここではないどこかへと行って、羽を伸ばしたかった。

その結果、何があっても決して壊れない新天地へと送る異能──理想送り(ワールドリジェクター)が生まれた。

 

真守はあまり頭がよろしくない上条当麻がきちんと理想送りについて把握していると知って安堵する。そんな真守に上条当麻は推測で危機感を(あら)わにする。

 

〈ネフテュスが言うには上里とやらは魔神というか、神全般を憎んでいる。つまり朝槻やオティヌス、それとお前のところにいる手乗り僧正も巻き込まれるってことだ〉

 

上条は上里翔流に真守も注意しなければならないと考えて、連絡を寄越してきたのだ。

別に真守の力を当てにしているわけではない。当てにしてはいるが、やっぱり上条当麻にとって大事なのは真守や周りの人々の安全なのだ。

真守は上条らしいな、とくすっと笑いつつ、口を開く。

 

「上里翔流については必要以上にあまり危険視しなくていいぞ」

 

〈朝槻がそう言うならそうなんだろうけど……なんで?〉

 

「あの右手には明確な発動条件がある。そしておそらく私には絶対に理想送り(ワールドリジェクター)は効かない」

 

真守が淡々と告げた言葉に反応したのは、スピーカーフォンで真守と上条の通話を聞いていたネフテュスだった。

 

〈どうして? どうしてあなたには効かないって分かるの?〉

 

「私は別に新天地を求めていないからだ」

 

真守は雑誌を読みながら目を細める。

 

「私はこの世界からいなくなりたいという気持ちは一ミリたりとも持っていない。私の戦うべき場所はここだ。この世界には全てがあるからな。新天地とやらにもその全てがあるのだろうが、私はこの世界を捨てるつもりなんて毛頭ない」

 

真守は雑誌のページをめくりながら、『そもそも』と呟く。

 

「深城はこの学園都市から離れられない。私は深城がいないところに行くつもりはない」

 

確かにやろうと思えば、源白深城は学園都市から離れることができる。

 

だがその必要性はどこにもない。そもそも真守たちがいるべき場所は学園都市であり、真守はなんだかんだ言っても学園都市のことが好きなのだ。

 

信仰の地(このまち)を捨ててどこかへ行くつもりはない。

居心地が良いところが欲しいのであれば、この学園都市を変えればいいだけの話だ。

 

「それに私のことを神さまとして必要としている者たちは、この世界に降り立って自分たちを生み出した人間と共に生きたいという思いを持っている。私がどこかに行ったら本末転倒だろ」

 

おそらく理想送り(ワールドリジェクター)の発動条件はもっと細かいのだろうが、真守は自分を神として必要としている者たちのことも考えれば、より一層この世界から離れるわけにはいかないのだ。

 

それに朝槻真守は絶対能力者(レベル6)として既に完成されている。

その行動にはブレがない。

やるべきことはやるべきことだし、やらなくていいことは本当に必要のないことだ。

だから真守は確固たる一つの意思を持って、この世界に存在している。

 

「もしオティヌスが餌食になってしまっても問題ないだろ。オティヌスは上条がいないところに行こうなんて思わない。そうだろ?」

 

真守が問いかけると、電話の向こうでふむ、とオティヌスは頷く。

 

〈確かにそうだな。要は気持ちを一貫して強く持つ事が重要ということだな、神人〉

 

「おそらくな。強い信念があれば新天地なんて要らない。そういうことだろ」

 

上里翔流は朝槻真守にとって恐ろしい存在ではない。

ただ面倒そうなのは、彼にくっついてきた個性豊かな一〇〇人ほどの女の子たちだ。

真守はカブトムシで上里翔流のことを熱心に見つめている女の子たちを確認している。

どうやら特異な右手を持つ者たちは女の子を惹きつける生態があるらしい。

そんな上里翔流に惹きつけられた女の子たちはけっこうな曲者ぞろいで、上里翔流のためにならばどんなことでもなそうとする気概を感じる。

 

(まああの女の子たちが暴走したとしても、あまり脅威にはならないけどな。ただ面倒なだけだ)

 

学園都市は朝槻真守の領域だ。

そしてこの学園都市には数十万のカブトムシが散らばっている。

突出した才能だけを持った恋狂いを完封する方法なんて、山ほどあるのだ。

 

「上条、お前は何も心配するな。今日の夕飯のメニューを考えてればいい。何かあったら手を貸してやる」

 

真守が軽く言ってのけると、上条は電話の向こうで苦笑する。

 

〈ありがとう、朝槻。……なんか俺、お前に頼ってばかりだな〉

 

「別に悪いことじゃない。むしろお前はもう少し人に頼ることを覚えろ。その方が色々と楽になれる」

 

真守はムッと顔をしかめて少しキツく上条にそう助言すると、二言三言話して通話を切る。

 

「大丈夫だったか?」

 

そう問いかけてきたのはもちろん垣根帝督だ。

真守は携帯電話をローテーブルの上に置きながら笑う。

 

「ちょっと面倒くさそうだけど何も問題ない。それにその面倒事は上手く利用できそうだ」

 

垣根は学園都市を変えるために利用できそうだと呟く真守を見て、ニヤッと笑う。

どうせアレイスターだって数々のアクシデントを利用して『計画(プラン)』を推し進めてきたのだ。

科学の申し子であり、アレイスターによって生み出された真守たちが、アレイスターのようにアクシデントを利用して学園都市を変えても構わないはずなのだ。

 

「利用できるってんなら、怪我の功名ってヤツだな」

 

垣根は不敵に笑うと、急かす林檎のためにゲームに戻る。

すると夕食を作っていた深城が歩いてきた。

 

「真守ちゃん。今日はすき焼きだよぉ」

 

「すき焼き?」

 

真守は深城が口にした鍋料理の名前を繰り返しながら、目を(またた)かせる。

 

「そぉ。お鍋って食べたことないでしょぉ。だから作ったの!」

 

「そういえば私は病院に入院してたから、鍋料理というのは縁がなかったな」

 

すき焼きで思い出したが、そういえば第三次世界大戦が始まる前に、クラスメイトたちは全員ですき焼きを食べに行ったらしい。

あの時真守は絶対能力者(レベル6)進化(シフト)して、学園都市に混乱を巻き起こさないように隠れていた。

だからクラスメイトと一緒にすき焼きを囲むことができなかったのだ。

 

「美味しいお肉買ったから、食べよう真守ちゃん」

 

深城は少し寂しそうにしている真守を見て、柔らかく微笑む。

 

「ありがとう、深城」

 

真守はふにゃっと笑うと、テレビゲームをしていた林檎たちを見た。

 

「ご飯ができたから食べよう、三人とも」

 

「朝槻ちょっと待って。このステージが終わったら絶対に食べるからっ!」

 

真守はゲームをしている子供らしい言葉を口にする林檎を見て、ふふっと笑った。

そして深城を見上げると、雑誌をソファに置いて立ち上がった。

 

「深城。私が準備を手伝うよ。何をすればいい?」

 

「そぉだね。じゃあ卵割ってくれる?」

 

「卵? ……ああ、そうか。すき焼きは溶き卵を付けて食べるんだったな」

 

「そぉそぉ。生で食べるし、すっごく良い卵を買ったんだよぉ。とっても美味しいと思う。残った卵は明日フレンチトーストにするんだあ」

 

「……それは、とってもおいしそう……っ」

 

真守が明日の朝食の事を考えて目を輝かせると、深城は嬉しそうに微笑んだ。

そして真守は深城と共に、夕食の準備を始める。

その準備の一環として、真守は深城が作った湯豆腐を持って仏壇に近づく。

 

「僧正は殺生した肉や魚の食事は無理なんだよな。そんなお前のために深城が湯豆腐を作ってくれた。これを食べると良い」

 

「おお。湯豆腐か。大豆は儂も好みじゃ」

 

真守は仏壇に湯豆腐が入った一人用の鍋を置く。

固形燃料で燃やすタイプの鍋なので、本当に小ぶりだ。

その中には深城が小さく切った湯豆腐が入っており、ぐつぐつと煮えている。

 

僧正は木乃伊(ミイラ)だが、ご飯を食べられない事もない。

そして深城は学園都市では珍しいほど、意外と信心深い少女だ。そのため僧正が食べなくても食べても良いが、お供え物として湯豆腐を作ったのだ。

 

ちなみに仏壇は僧正の住処となっているので、少々普通の仏壇と違い広いスペースが確保されている。僧正は小さな座布団に座ると、鍋を興味深そうに見つめる。

真守がお供えをしていると、ラウンジのベランダがある窓がからからと開いた。

 

「ただいまです」

 

ベランダから入ってきたのは、大きなカブトムシを抱きかかえたフロイライン=クロイトゥーネだった。

真守は僧正に向き直っていたが、クロイトゥーネが帰ってきた事で顔を上げた。

 

「クロイトゥーネ。丁度良かった、今日はすき焼きだぞ」

 

「すき焼き」

 

クロイトゥーネは真守にトテトテ近づいて、カブトムシを抱き上げたままぎゅっと抱き着くと、幸せそうに目を細めた。

 

「うれしいです。すき焼きとはみんなで囲う鍋でしょう。一緒に食べたいです」

 

「じゃあ手を洗ってうがいをしてきて。それで食べよう」

 

真守が柔らかく微笑むと、クロイトゥーネは洗面所へと向かった。

真守は深城の手伝いを続けて、ゲームを終わらせた林檎たちと一緒にすき焼きを食べ始めた。

すき焼きも終盤。

締めのうどんを待っていると、カブトムシがやってきた。

 

『上里翔流と上条当麻が殴り合っている事よりも優先するべき事態です』

 

「む?」

 

真守は肩に乗ったカブトムシに声を上げて、首を傾げる。

垣根も怪訝な表情をしていたが、すぐに警戒心を露わにした。

 

カブトムシのネットワークがとらえた先には上条当麻と上里翔流が()()していた。

二人が共闘している相手は異形の怪物たちだ。

 

それは『黒』と『赤』の異形だった。

その『黒』と『赤』が互いを敵視しながら、上条当麻と上里翔流と戦闘を繰り広げていた。

『赤』の方はこの際どうでもいい。問題は『黒』の方だ。

 

「……あ?」

 

垣根帝督は思わず声を上げる。

カブトムシ越しでも、一目見ただけで垣根帝督には分かる。

 

『黒』。

あのうねうねとした軟体動物のような、よく分からない怪物。

その怪物の主成分は未元物質(ダークマター)だ。

 

垣根帝督の能力である未元物質(ダークマター)。垣根帝督のみが扱える未元物質(ダークマター)

それが変異して、勝手に動き回っている。

 

この学園都市で、誰かが未元物質(ダークマター)を利用している。

だが未元物質(ダークマター)を狙っている研究者を垣根は全員排除したはずだ。

 

ぴしり、と空気が軋む。

何がどうなっているのだろう。

それは垣根帝督が生み出した人造生命体であるカブトムシにも、もちろん理解できることではなかった。

 

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