とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第七六話、投稿します。


第七六話:〈一時収束〉で疑問が湧く

幻想殺し(イマジンブレイカー)理想送り(ワールドリジェクター)。上条当麻と上里翔流の邂逅。

そこに乱入してきた、サンプル=ショゴスに寄生されたパトリシア=バードウェイと妹を助けようとしたレイヴィニア=バードウェイ。

 

パトリシアに寄生したサンプル=ショゴスは、南極調査活動にて発見された新種の寄生体であるとされていた。

だがその正体とは第三次世界大戦の際に垣根帝督の未元物質(ダークマター)を食らい、こちらへ不正定着してしまった『彼ら』の一部だった。

 

それに振り回されたレイヴィニア=バードウェイとパトリシア=バードウェイ。

真守と垣根はパトリシアからサンプル=ショゴスと呼ばれた『彼ら』を分離するために、バードウェイ姉妹を連れて自宅へと帰ってきていた。

 

そして。何故か上条当麻のところに転がり込んだ魔神ネフテュスも、真守たちについてきた。

 

真守は自宅の玄関ホールにて、パトリシアの肩を抱きながら後ろを見る。

 

「で。お前はどうして私たちと一緒に来たんだ、ネフテュス?」

 

真守は全身の褐色肌から、大量の冷や汗を掻いている魔神ネフテュスを見る。

 

魔神ネフテュスとはピラミッドに王の副葬品として埋葬された、数万もの奴隷や使用人たちの願いによって生み出された魔術の神だ。

そんな魔神ネフテュスには個という概念がない。

だからこそ理想送り(ワールドリジェクター)によって新天地へと飛ばされても、こちら側に残していた主要な臓器によって再生することができたのだ。

 

それでも理想送り(ワールドリジェクター)による消耗は激しく、立っているのもやっとの様子だ。

そんな魔神ネフテュスに真守が問いかけると、ネフテュスは息も絶え絶えに口を開く。

 

幻想殺し(イマジンブレイカー)の坊やのところにいるより、理想送り(ワールドリジェクター)が効かないアナタのところにいたほうが安全だと思ったのよ。……私は、まだやりたいことがあるから」

 

ネフテュスの言葉に眉をひそめたのは、真守の隣にいた垣根帝督だった。

 

「理想の世界とやらに行けたのに、この世界に何の未練があるんだよ」

 

垣根は(いま)だパトリシア=バードウェイに寄生にしており、うねうね動くサンプル=ショゴスを抑えつけながら鬱陶しそうに告げる。

 

「…………さっきの神人の神さまっぷりを見せてもらったわ」

 

「私の?」

 

真守はきょとっと目を見開いて、小首を傾げる。

ネフテュスは先程のことを思い出す。

 

真守は自身のことを神として必要としているサンプル=ショゴスに慈愛を持って接していた。

そして自分のことを神として必要としていない周りの人間──パトリシア=バードウェイや上条当麻、そして上里翔流にすら、真守は慈愛を向けていた。

 

その姿に朝槻真守の神性を感じた魔神ネフテュスは自身の望みを口にする。

 

「神さまらしいことを、やってみたいの」

 

魔神ネフテュスは自儘に動く魔神と言っても神だ。

幾万もの奴隷や使用人たちが、死の間際に自分たちがいた証が残したいと、あがいた結果生まれた魔神だ。

人に願われて、形を得た神さま。それなのに自分は何も成し遂げていない。

 

何も成し遂げていないまま、自分は新天地を求めて旅立ってしまった。

だからこの世界に未練があるのだ。神さまらしいことをして、自分はこの世界から去りたい。

朝槻真守の姿を見て、魔神ネフテュスは心の底からそう思ったのだ。

 

「……なるほど」

 

真守は魔神ネフテュスの本当の願いを聞いて、ふんわりと柔らかく微笑む。

 

「お前が望むなら、私が手を加えてやろう」

 

朝槻真守は魔神を再構成することができる。

 

オティヌスも真守の自宅に居候することとなった魔神僧正も、真守によってお人形サイズへと姿を変えられたのだ。

魔神ネフテュスが現在具合が悪そうにしているのは、力が不安定という理由に他ならない。

朝槻真守が手を加えれば、自身の取るべき形を取って安定することができる。

 

つまり手乗り魔神化である。だがそれに(ともな)い、一つ弊害(へいがい)がある。

 

「私が手を加えると、お前はお前ではなくなる。お前には個がないからな。それでもいいのか?」

 

僧正やオティヌスと違い、ネフテュスは個人というものを明確に持っていない。

そのため真守が手を加えて形を決めてしまうと、魔神ネフテュスは明確な個を持ってしまうのだ。

ある意味その存在が固定されてしまう。個がない魔神として完成されていたのに、明確に違う存在へと変わってしまう。

それでも良いのか、真守はネフテュスにそう問いかけたのだ。

 

「構わないわ。個を持つことが、私の願いを叶えるための最善なのだから」

 

ネフテュスはふぅふぅ息を上げながらも、優しく微笑む。

 

「それに私がここで個人になれば、新天地へ送られた私が魔神ネフテュスとして動き出すでしょう。私はある意味ここで分かたれる。でもそれも良いと思うの」

 

「そうか」

 

真守は全てを承知済みだと告げるネフテュスを見て一つ頷く。

 

「垣根。パトリシアをお願い」

 

「分かった」

 

垣根は頷くと、パトリシアのことをサンプル=ショゴスごと抱き上げる。

だがそれはお姫様抱っこではなかった。幼子を抱き上げるような感じで、垣根が時々林檎を抱き上げるような、腕に乗せる抱き上げ方だ。

真守は垣根に他の女の子のことをお姫様抱っこしてほしくない。

それをこの状況でも垣根が気にしてくれたことが、真守はうれしかった。

 

「ネフテュス。本当に良いなら私の手を取って」

 

真守が手を差し出す。するとネフテュスは一つ頷いて、躊躇うことなく真守の手を取った。

蒼閃光(そうせんこう)が、(ほとばし)る。

そして歯車が噛み合い、全てが上手く回り出す音がする。

魔神ネフテュスは安らかな気持ちで目を閉じた。

そして新たな個を獲得し、人々を神さまらしく見守る存在となった。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

妹を助けるために『果実』を育てるカニバリゼーションという、暗黒大陸系の魔術を作り上げたレイヴィニア=バードウェイ。

 

だがその魔術で育てていた『果実』は真守や垣根によって無事、必要なくなった。

だからレイヴィニアは真守がパトリシアからサンプル=ショゴスを摘出している自宅にて、自分から必要なくなった『果実』を切除した。

 

何事もなく、無事に迎えられた早朝。

レイヴィニアは真守の自宅の前で、魔術結社の迎えを待っていた。

その(かたわ)らには、一応見送りに来た垣根帝督が立っている。

 

「世話になった。だがこれは確かな貸しだからな」

 

レイヴィニアは背が高い垣根を必死に見上げる。

垣根はそんなちっこいレイヴィニアを余裕で睨みつけた。

 

「世話になったのに貸しになるとかよく分からねえこと言うなよ。つーか今回の件は貸しじゃねえって言ったよな?」

 

サンプル=ショゴスは朝槻真守と垣根帝督に関連する存在だった。

だが真守と垣根はそのことを知らなかったし、サンプル=ショゴスを利用して上条当麻と上里翔流の前にけしかけてきたのは学園都市だ。

 

上条当麻と知り合いのレイヴィニア=バードウェイの妹だからこそ、パトリシア=バードウェイは学園都市によってサンプル=ショゴスをけしかけられた。

 

その事実をいま一度垣根が持ち出すと、レイヴィニアは拗ねた様子を見せた。

 

「ちぇ。抜け目のない男だ」

 

「当たり前だろ。隙なんて見せるのはバカがやることだ」

 

垣根はじろりとバードウェイを睨む。

すると肩をすくめたレイヴィニアは真守の自宅を見上げた。

 

「それで? 神人は大丈夫なのか?」

 

「問題ねえよ。二回目だしな」

 

レイヴィニアと同じように、垣根は自分たちの自宅を見上げる。

 

朝槻真守はいま、自分のことを神として必要としている『彼ら』のためにその力を振るっている。

 

何故ならサンプル=ショゴスと呼ばれた『誰か』はこちら側の世界を知ってしまった。

しかも誰かに寄生しなければ生きられない状態は、あまりにもかわいそうだ。

だから真守は不正定着してしまったサンプル=ショゴスを、解きほぐししている。

 

サンプル=ショゴスは力の一部だ。

そのため真守は解きほぐし、一度あちらの世界へと還す。

そして魂を一から創り上げ、こちらの世界を知った『彼』をこちらに降ろすつもりなのだ。

 

器は既に用意してある。だが魂を創ることは容易ではない。

そのため真守はネフテュスを再構成してお人形サイズにした後からずっと、魂を創ることにかかりきりになっている。

垣根は真守の神の如き所業を思いながら、レイヴィニアを見る。

 

「お前は妹のことだけを考えてろ。サンプル=ショゴスとか呼ばれた存在は俺たちの問題だ」

 

ちなみに、真守の自宅にはすでにパトリシア=バードウェイはいない。

彼女は現在、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の病院に入院している。

もちろん自前の脂肪を溶かされ、サンプル=ショゴスに寄生されていたせいだ。

 

垣根帝督はサンプル=ショゴスを引きはがし、代わりに未元物質(ダークマター)でパトリシア=バードウェイの体を補完した。

だが未元物質(ダークマター)は異能由来の力だ。幻想殺し(イマジンブレイカー)によって打ち消されてしまう可能性がある。

そのためパトリシアは冥土帰し(ヘブンキャンセラー)のもとで、学園都市由来の純粋な科学技術によって培養された脂肪を移植してもらうことにしたのだ。

 

そうすれば幻想殺し(イマジンブレイカー)は効かない。これは垣根がバードウェイ姉妹に提案した事で、パトリシアはよく分かっていなかったが真守にその方が良いと言われて頷いた。

レイヴィニアはにやにやと笑って、垣根を見上げる。

 

「お前は自分の大切な女のことばかり考えているように見えるが、大概優しいよな」

 

「うるせえ余計な事考えるんじゃねえって言ってるんだ」

 

垣根はレイヴィニアを思いきり睨む。レイヴィニアはくつくつと笑って、そして垣根の大切な女の子──真守のことを考える。

 

「神人。神であり人であり、そして真なる人間。天上の意思に辿り着く者。絶対能力者(レベル6)……か」

 

「なんだよ、意味ありげな声出しやがって」

 

垣根帝督は様々な真守の呼び名を呟くバードウェイを、怪訝な表情で見つめる。

レイヴィニアは垣根の目をまっすぐと見る。そして情報を整理する。

 

「神人はアレイスターの後押しによって、完全なるもの──絶対能力者(レベル6)へと至ったんだよな?」

 

「それ以外に何があるんだよ」

 

垣根は関係者なら誰もが知っている事実を口にするレイヴィニアを見つめて、怪訝な表情をする。

 

「元々素質があった。だから神人はいつか神人となる事が決まっていた。そして神人となった。そうだよな?」

 

「そうだよお前の言う通りだ。……真守はいつか自分が進化(シフト)するって分かってた。だからずっと悩んでた」

 

朝槻真守は自身が明確に違う存在になってしまうのが、ずっと怖かった。

だが決められた流れを止める事は出来ない。

あるべきところへ流れていくことは、あの真守でも変えられない流れだった。

 

「素質が無けりゃ絶対能力者(レベル6)進化(シフト)できない。その素質が真守にはあった。そして未来を見据える力もな。……だから、大変だったんだ」

 

絶対能力者(レベル6)進化(シフト)するのは素質が無ければできない。

かつて学園都市に存在していた『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』によって弾き出された演算結果では、絶対能力者に安定して進化できるのは真守と一方通行(アクセラレータ)だけだった。

かつて『プロデュース』の菱形幹彦は後少しもすれば誰でも絶対能力者(レベル6)へと進化(シフト)できる時代が到来すると言っていたが、現段階でははっきり言って不可能な事だ。

 

()()のようなものを感じないか?」

 

真守には元々神さまになる素質があった。

そういう風に神さまになる素質を全て持って生まれた。

そういう星のもとに、生まれ落ちた。

 

そういう、運命のもとに生まれた。

 

垣根帝督はバードウェイに問いかけられて、口を噤む。

 

朝槻真守と垣根帝督が出会うことは、それぞれがこの世に生まれ落ちた時から決まっていた。

だから真守は垣根に選んでもらいたかった。統括理事長に引き合わされたとしても、垣根自身の意思で自分と一緒にいることを選んでほしかった。

そのために真守は垣根と共に、ロシアまで向かった。

 

「……科学の徒(俺たち)が、運命なんてそう簡単に信じられるワケがねえだろ」

 

垣根は真守と自分の出会いに必然という運命を感じながらも、そう言葉を絞り出す。

 

自分と真守は出会うことが決まっていた。

そうだとしても、その事実を垣根は少し認められないのだ。

二人が二人として生まれた時から出会うことは決まっていた。それが必然で、引き起こされた偶然によって垣根と真守は出会った。

 

それら全てを運命と呼ぶのだろう。だがそれでも、そんな不確かなものに振り回されているなんて思いたくない。

 

魔術では往々にして、運命が存在すると信じられている。

そして実際に、預言者など予言を託す魔術師が存在している。

だが運命とは科学では証明できないものだ。

確かに学園都市にも、予知能力系の能力を保持している能力者はいる。

それでも未だに予知能力系は原理が不確かであり、能力者の間では軽い嘲笑に使われるものだ。

 

「お前は能力者たちの頂点に立つ存在だ。運命なんてものはそう簡単に信じられないだろう」

 

バードウェイは科学の徒として、証明できないことは簡単に認められない垣根を見て、当然だと告げる。

 

「だが垣根帝督。前提として──朝槻真守は、()()()()()()()()()()()だろう?」

 

垣根帝督はバードウェイに問いかけられて、固まった。

 

朝槻真守の母親。アメリア=マクレーン。

彼女はイギリスに古くから根付くケルトの一族、マクレーン家の直系だ。

そこから出奔した彼女はイギリスを離れ、東洋人の実業家との間に真守を産んだ。

そして、亡くなった。

 

真守は子供らしからぬ聡明さを持っていたため、父親に捨てられた。

そのことからも分かる通り、真守は大人を怖がらせるほどの公平な思考──神さまとなる全ての素質を持って、生まれていた。

 

素質。

そのことについて、『明け色の陽射し』のボス、レイヴィニア=バードウェイは垣根を見つめて深く考える。

だがレイヴィニアは固まっている垣根帝督を見上げるのに疲れて、顔を下ろす。

そして丁度良い塀を見つけたので、それに上がって垣根帝督をまっすぐと見た。

 

「イギリスに古くから根付くマクレーン家。かの一族は近現代の魔術師たちとは一線を画する。それはお前も分かってるだろう」

 

近代魔術師たちは普通の方法では叶えられない願いを叶えるために、魔術に縋った者たちだ。

つまり全員が挫折を知っている。だがマクレーン家はそうではない。

彼らはケルトの一族。古くから続く伝統を後世へと伝える一族だ。

その後世へと伝えるための秘術の中に、魔術があっただけのことだ。

 

そしてマクレーン家は血を大事にしている。

他者と簡単には交わらない。

結婚となると魔術を総動員して血縁を調べ上げ、問題がないか確認する徹底ぶりだ。

 

つまり。マクレーン家の人間が持つ血には、確かな血統がある。

そしてケルトとして代々受け継いできた、素質がある。

その身には、あまりある才能が秘められている。

 

血に混じりがあったとしても、朝槻真守にケルトの素質があってもおかしくない。

たとえ東洋の血が混じっていようとも、真守には確かにあまりある才能が秘められている。

 

「私は魔術サイドの人間だからな。そして朝槻真守も元々は魔術サイドの人間だ。だから神へと至る事に殊更(ことさら)運命を感じてしまうのだよ。因果の律、運命、宿命。そういった、お前にとって不確かなものをな」

 

偶然、たまたま。そういう──運命。

数奇な運命というものは不確かながらも確かに存在している。

朝槻真守と垣根帝督の出会いが証明だ。そして往々にして、この世界は不幸や悲劇によってまみれている。

運が悪くて死ぬ者もいれば。運が良くて生き残る者もいる。

考え込む垣根帝督の前で、レイヴィニアは一つ頷く。

 

「科学と魔術の行き着く先は一緒だ。だから素質のある者がどちらでも輝くのは、必然かもしれない。……だがやはり、それでも私は神人に運命を感じてしまうな」

 

本来魔術サイドにいるべき存在。それが何故か数奇な運命で科学サイドで拾われた。

魔術サイドでも確かな血統と素質が認められる人間が科学サイドでも輝けるのは、科学と魔術が似たような場所を到達点としているからだ。

そう、レイヴィニアは結論付けた。

そしてレイヴィニアは迎えに到着したマーク=スペンサーに連れられて、去って行った。

 

垣根帝督はバードウェイの乗った車を見つめながら、まだ考えていた。

朝槻真守は本当ならば、魔術サイドの人間だった。

そのことについて、考えていた。

 

ケルトの一族として純粋な力を受け継ぐマクレーン家の血統。

それが真守の素質の由来なのかは、本当のところ分からない。

だが朝槻真守には確かに、生まれた時から類まれなる素質があった。

 

そんな真守がたまたま学園都市へと捨てられた。

そしてその素質に目を付けたアレイスターやここではない世界で息衝く存在が、手を加えた。

だから真守は絶対能力者(レベル6)となった。

 

だがもし。そうならない運命ならば、朝槻真守はどうなっていたのだろう。

考えても仕方ない、もしもの可能性(IF)

垣根は考えてもくだらないことだと緩く頭を横に振ると、気を取り直して自宅へと戻って行った。

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