とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第七八話、投稿します。


第七八話:〈真正存在〉は落として上げる

上里翔流は縮こまって冷や汗を流していた。

 

彼がいる場所は会員制の超高級ホテル。その中でもVIPしか使えない、高級個室サロンだ。

周りにある調度品は全てアンティーク。

壊したら上里翔流の一〇年ほどの食費が全て持っていかれるような品々だ。

 

そんな上里翔流の目の前には、一組の男女のカップルが座っていた。

 

あどけない顔つき。猫っ毛の長い黒髪を猫耳ヘアにした、アイドル体型の黒猫系美少女。

高身長で顔立ちが整っており、女性が見たら誰もが惹かれてしまうであろう少年。

超能力者(レベル5)第一位と第三位。朝槻真守と垣根帝督。

 

「真守。ここ持ち帰りができるみたいだ。源白たちに土産として買って帰ろうぜ」

 

「そうだな。このアップルパイなんておいしそうだ」

 

真守と垣根はホテルの従業員が持ってきたメニュー表を見て、同居人へのお土産を選んでいる。

 

一見して、のほほんとした雰囲気。

だが部屋を満たす重厚すぎる威圧に、上里翔流は吐きそうだった。

 

何故、上里翔流が()()()()()()()()()()()()かというと。

話は、一時間半ほど前に遡る。

 

上里翔流は昨夜、上条当麻と激突した。

 

欲しくもない力をもらった結果、様々なトラブルに巻き込まれた。

その結果、救われた少女たちが力を貸して好意を寄せてくれるようになった。

だが別に、そもそも平凡な男子高校生はそんな命がけの戦いを望んではいない。

確かに女の子にちやほやされたい気持ちはあるが、現実になってほしいと心の底から思ってはいなかった。

 

右手に宿った力が、全てをダメにした。

女の子たちの思想を歪めてしまい、彼女たちを分かりやすい存在(ハーレム要員)へと貶めてしまった。

それが上里翔流には許せなかった。

 

右手の力なんか必要のないものだった。要らない力だった。

だから上里翔流は魔神を憎んだ。

こんな要らない力を自分にもたらして、周囲の少女たちを歪めてしまった右手を憎んだ。

 

学園都市に来たのは魔神たちを葬り去るためだ。

そして魔神たちの願いを受け止めきれなくなった、幻想殺し(イマジンブレイカー)の持ち主である上条当麻に会うためだ。

 

上条当麻はある意味同類だから。何か話せば肩の荷が下りると思った。

だが上里翔流は上条当麻と相いれなかった。

 

右手に宿った力は結局、きっかけに過ぎないのだ。

ただただ上里翔流が不満に思っているのは、周りの女の子たちが自分の期待した通りのことを言ってくれなくなったことなのだと。

そう言われた上里翔流は上条当麻を敵と認識した。

 

上条当麻は魔神たちからのプレゼントに毒されているのだと。

女の子に囲まれて満足しているゲス野郎だと。

上条当麻が失敗したから自分は被害を被った。だから上里翔流は上条当麻を憎んで敵対した。

 

結果として。幻想殺し(イマジンブレイカー)理想送り(ワールドリジェクター)は勝った。だが上里翔流は一撃をもらった。

上条当麻の奥にひそむ『何か』に。

 

「さて」

 

真守はホテルの従業員が紅茶と菓子を持ってきたのを見て、上里翔流を睨んだ。

 

「上里翔流。私が怒ってるのは分かるか?」

 

冷たい、非難する声。聞くだけで委縮してしまう程の威圧感。

ぞっと背筋が怖気だって、絶対に怒らせてはならない人物を怒らせている感覚。

実際、完全な人間である真守に責められるのは、咎にも等しいことだ。

上里翔流は真守が恐ろしくて、とっさに声が出ない。

そんな上里翔流を睨んで、真守はもう一度告げる。

 

「私が怒ってるのが分かっているか、と聞いてるんだ上里翔流」

 

真守が圧を掛けて鋭く目を細めるので、上里翔流は冷や汗が背中を伝うのを感じながら口を開く。

 

「わ、…………分かる、分かります」

 

「そうか。じゃあどうして怒ってるか分かるか?」

 

「…………キミのクラスメイトを、利用しようとしたから」

 

上里翔流は上条当麻の奥に潜むものを知っているかどうかを探ろうとしていた。

そして上条当麻のクラスメイトならば、何か知っていると考えた。

だから上里翔流は悪意を持って真守や上条のクラスメイトに近づいた。

 

丁度、上里翔流はクラスメイトに接近できる機会を得ていた。

何故なら真守たちの学校の校舎は魔神僧正の一撃によって半壊した。

その結果。真守たちは全員、上里翔流が転校してきた学校の空き教室を使うことになっており、簡単に接触できるような共同生活を送っていたから。

 

そして上里翔流はこうも考えた。

あわよくば上条当麻を孤立させ、全てを奪ってしまおうと。

 

だから上里翔流は上条当麻がいない頃を見計らって、クラスメイトに接触した。

彼らを誘導して一つのところに集める。そして上条当麻と自分が戦い、上条当麻の奥から出てきたものをクラスメイトに見せて反応を探る。

そう画策して、上里翔流は上条当麻のクラスメイトを焚きつけた。

 

深夜。誰もいない時にごみ焼却場に侵入して、自分の持っていたら恥ずかしいものを集めて、それを焼くお焚き上げをしようと。

 

ひとは誰しも大なり小なり、持っていても必要のない、それでも普通に捨てるのには恥ずかしいものを持っている。

上里翔流は自身が転入した学校の生徒会長に『ごみ焼却場に良く自分の恥ずかしいものを持ってきてこっそり焼こうとする人がいて困っている』と聞かされていた。

だから上里翔流は生徒会長から聞いた話題を持ち出して、上条のクラスメイトを操ろうとした。

 

そこに、朝槻真守がやってきた。

 

『お焚き上げをするなら、私はごみ焼却場じゃなくてキャンプ場が良いな。そこでみんなと一緒にバーベキューしたい』

 

クラスメイトが上里翔流に影響を受けて、流されようとしている。

真守は上里翔流からみんなを守るために、上里翔流が提案したごみ焼却場とは別に、バーベキュー会場をお焚き上げの場所として提案した。

 

ちょっとわくわくしそうなお焚き上げに加えて、バーベキュー。

その魅力的な提案を受けて、クラスメイトは一気に意見が傾いた。

だがこの時点では、上里翔流は自分が提案したごみ焼却場をクラスメイトが選んでくれると思っていた。

 

何故ならごみ焼却場に忍び込むのはスリルがある。

そのスリルを事前に完璧にプレゼンしていた上里翔流は、自分の意見に真守のクラスメイトが傾いてくれると信じていた。

だが。

 

『みんながスリルを求めてるならば、肝試しはどうだ? 学校に侵入すると警備員(アンチスキル)の先生方に迷惑がかかるし……私は先生方を困らせるのはどうかと思うな』

 

真守の外見は気難しくてそっけなくて、不良少女のように見える。

だが本当に必要な時以外は学校をサボらない真面目さがあるし、人の苦労を考えて気遣いができる女の子だ。

そんな真面目な女の子に、クラスメイトは真っ当な意見で真摯に諭される。

だから真守と信頼関係を築き上げているクラスメイトは、ごみ焼却場に潜入するのはマズいと考え始めた。

 

元々持っていた信頼には、流石の上里翔流も勝てない。

だから上里翔流はこのままでは真守に完全に主導権を握られると焦った。

 

そんな上里翔流の前で、突然ひょこっと現れた()()()()()()()()()()が、おどけた様子で真守に声をかけた。

 

超能力者(レベル5)第一位がバーベキューを提案してくれるってことはぁ、お高いお肉を奢ってくれるんだにゃー?』

 

『もちろんだ。たーんと良いお肉を、たくさん食べさせてやる』

 

間髪入れずに答えた朝槻真守の太っ腹具合にクラスメイトは大盛り上がり。

クラスを取りまとめる委員長風の少女も、警備員(アンチスキル)の方々に迷惑をかけるわけにはいかないと口にする。

そして真守は沸き立つクラスメイトに、とどめの一発を決め込んだ。

 

『みんなって、第三次世界大戦の前にすき焼き食べに行ったんだろ。私、あの時ちょっと学校に行けてなくて……だから、ずっとみんなでわいわいしたかったんだ』

 

真守の、本当に寂しそうな一言。

それがもっと、バーベキューをするべきだとクラスメイトを盛り上げさせた。

 

「お前は私たちのことをそれなりに調査しているんだろう」

 

真守は上里翔流に、面白くなさそうに、心底不愉快そうな視線を向ける。

 

「私の能力名は流動源力(ギアホイール)。あらゆるエネルギーを生成できる能力者だ。──その本質とは大きな流れに新たな定義を差し込み、新たな流れを生み出すというものだ」

 

朝槻真守は全ての流れを見通し、その流れに新たな定義を加えることができる能力者だ。

上里翔流がクラスメイトを上里翔流の望む方向に流そうとした。

造られてしまった流れに逆らうことは今の真守にとって簡単だ。

だが造られた流れに新たな流れを組み込み、自分の制御下に置く方がもっと安全で、簡単なことだった。

 

「何も知らない私のクラスメイトを操り、私の友達である上条当麻を孤立させる。──それは、私の怒りを買うにふさわしい行いだと思わないか? 上里翔流」

 

上里翔流は冷や汗が止まらない。

誰かに助けを乞いたいが、上里翔流は孤立している。

 

ここは会員制の高級ホテルで、まず誰も入って来られない。高級サロンは秘匿性が高いため、そう簡単には侵入できない。

しかも上里翔流のことを慕っている女の子たちは、垣根帝督が生み出し、朝槻真守が完璧に上里翔流の思考をトレースした未元物質(ダークマター)製の人形を見ている。

 

その人形は上条当麻と何気ない会話をして、生徒会長や彼女が大事にしている少女と、くだらなしことを話しながら、優雅にUFOキャッチャーをしている。

 

その様子をカブトムシに見せられた上里翔流は、はっきり言って悪夢だと感じた。

 

だから冷や汗が止まらない。

 

自分と同じ顔をして自分と同じ言葉を喋り、自分と同じ態度を全くとる人形がいたら当然だ。自分の全てを奪われている姿を見てしまえば、容易に絶望できるのは当然だ。

 

あれだけ完成されてしまっていれば、誰もあの上里翔流が偽物だとは分からない。

そしてあれを操っているのは朝槻真守と無限の創造性を持つ垣根帝督だ。

創世と創造を司る彼らの幻影を、誰も見破ることはできない。

 

「私はこのまま、お前を亡き者にすることだってできる」

 

朝槻真守の無慈悲な言葉が室内に木霊する。

そうすれば上里翔流が大事に想っている少女たちは永遠に幻影を追うことになる。

だがその幻影が良くできているため、誰もそれが幻影だと気が付かない。

いつか破綻するという可能性もあり得ない。

朝槻真守は神人だ。真なる人間だ。絶対にその破綻を起こすことない。

 

「なあ上里翔流」

 

朝槻真守は上里翔流をまっすぐと見つめる。その無機質なエメラルドグリーンの瞳が、見る者を圧倒する恐ろしい輝きを見せる。

 

「本当のお前を見ていた人間なんて、いなかったんだよ」

 

上里翔流は。朝槻真守のその言葉によって、目の前が真っ暗になった。

 

「自分を助けてくれた上里翔流。自分を見てくれる上里翔流。女の子に振り回されて、そして女の子たちが大事だから復讐に走る上里翔流」

 

真守は謳うように呟く。目の前が真っ暗になった上里翔流に語り掛ける。

 

「結局お前は理想を押し付けられていただけだ。本当のお前を見ている者は誰一人としていない。自分を救ってくれた平凡な男子高校生。その肩書きがあれば、お前じゃなくてもいいんだ」

 

朝槻真守の言う通りだ、と上里翔流は思った。

 

自分じゃなくても良かったのだ。

ただ自分は右手に宿った異能に選ばれただけで、他の誰かが選ばれていれば女の子たちはその平凡な男子高校生に惚れたのだ。

 

彼女たちは自由勝手気ままに振る舞う。上里翔流の言葉なんて気にせずに、上里翔流が望んでいる平穏とは正反対のことをし続ける。

でも自分は彼女たちのことが大事で。だから彼女たちを歪めた右手の力が憎くて仕方がなくて。

思いは伝わらない。

自分の求める平穏から遠ざかっていると言っても、誰も聞いてくれない。

 

「結局、お前だけが空回りをしてるんだよ」

 

真守の言葉が無情にも響く。

 

思いは伝わらず、理想だけを押し付けられて、それなのに自分は彼女たちを捨てられない。

惨めに這いつくばって彼女たちに期待を求めていたのは自分だったのだ。

だから意味がない。自分はずっと意味のないことをし続けて、空回りをし続ける。

 

もう誰も自分の本当の気持ちも姿も見ていない。

ただ見ているのは、『女の子ならば誰でも救ってくれる上里翔流』という偶像だけ。

 

その真実に上里翔流が絶望していると、黙っていた垣根帝督が大きく噴き出した。

そして垣根帝督の笑い声がくつくつと響き、一通り垣根は笑うと上里翔流を見た。

 

「おもしれェ。主人公が違うだけでこれだけ違うのかよ」

 

この状況は、かつて魔神オティヌスが上条当麻を追い詰めるために使用した、一つのケースに過ぎない。

全く別の誰かが大切な人たちと話をして、上条当麻になり替わっている。

それを目の前で展開されて、『異能が宿った右手』を持ったならば、誰でもいいという悪夢を見させられた。

上条当麻がいなくても、上条当麻と同じ役割の人間がいれば世界は回っていく。

 

だが上条当麻はそうやってオティヌスに追い詰められても折れなかった。

上条当麻が立ち上がれなくなる弱点は、そこではなかったからだ。

 

そんな上条当麻と上里翔流は明確に違う。

だから上里翔流は上条当麻が折れなかった現状に折れてしまった。

真守は絶望のただなかにいる上里翔流ににっこり笑いかけた。

 

「底が知れたな、お前」

 

上里翔流は終わったと感じた。朝槻真守は自分の全てを掌握したのだ。

本当に恐ろしいのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()

朝槻真守。完璧な人間の形を取り、人間のあるべき姿へとたどり着いた存在なのだ。

 

「底が知れたということで。私からお前に忠告しよう」

 

真守は面白そうな実験結果を見て笑っている垣根を隣で感じながら、テーブルの上に置かれたティーカップへと手を伸ばす。

テーブルの上にはアフタヌーンティーを装った紅茶のお供の数々が置かれている。

真守は英国式が良く似合う様子でダージリンティーを一口飲み、そして()()()微笑む。

 

「あんまりおイタをするな。何かあったら頼れ。私が言いたいのはそれだけだ」

 

「────え?」

 

上里翔流は先程まで感じていた威圧感を全く感じる事が無くなって、思わず声を上げる。

そして真守を見ると、真守は慈悲深い様子で柔く微笑んでいた。

 

「私には私の問題があるように。お前にはお前の問題がある。当然だ、同じ境遇でも当事者である人間が違うならば抱える問題だって違ってくる。当然だろ」

 

真守は上里翔流をまっすぐ見つめて、そして自分の気持ちを伝える。

 

「お前がそれなりに大変なのは分かってる。だから何かあったら頼ると良い。人は話すだけでも気が楽になれるからな。お前が良ければ話を聞こう」

 

上里翔流は真守の言っていることが理解できずに、目をぱちぱちと瞬かせる。

真守は確かに上里翔流を追い詰めた。

だがその行為は真守が上里翔流に、本当に恐ろしいものは何か分からせるためだった。

身の振り方を考えた方が良い。その上で相談相手になってやる。

そういった姿勢の真守の隣で、垣根は上里翔流をじろっと睨む。

 

「なんだよ。俺の女が話を聞いてやるって慈悲見せてるのに、気に入らねえの?」

 

「い、いや別に……ええっと、急展開すぎて……その、ついていけなくて……」

 

垣根はしどろもどろになる上里翔流を見てため息を吐く。

 

「急展開っつっても、お前たちが勝手に飛び込んできたのだって急展開だろ。学園都市はお前たちがいなくても問題が山積みなんだよ。地雷原に歩く爆弾が足を踏み入れてきて爆発させるから、こっちは迷惑掛かってんだよ」

 

「まあまあ垣根。学園都市で事件が起こるのは日常茶飯事だし。あんまり変わらないよ」

 

垣根は真守に宥められて、否定はしないがチッと舌打ちをした。

そしてクソ野郎にも慈悲を与える真守の優しさで不機嫌になりながら、無言でサンドイッチへと手を伸ばす。

真守はそんな垣根を見て柔らかく微笑むと、上里翔流を見た。

 

「とはいえ、ここで解きほぐさないと面倒なことになるだろうし。ちょっと腹を割って話せ、上里翔流。そうしないとこの部屋から帰してやらない」

 

「え、ええと……?」

 

「お前が抱えているものを吐き出せと言っているんだ。お前も知っていると思うが、上条は私のことを大切な友達であり、良き相談相手だと思っている。お前にそういう役割の人間はいないのだろう。だから話してみると良い。──この私に」

 

上里翔流はずっと疑問に思っていた。

 

同類である上条当麻。

何故、彼には何でも話ができるのに絶対になびかない、良き相談相手がいるのだろうか、と。

そして自分には何故そういう存在がいないのか、とも。

 

もちろん上里翔流と上条当麻は明確に違う存在だ。

だから決して同じ境遇であるはずがない。似ている境遇でも、絶対にどこか違うのだ。

だがそれが上里翔流は分かっていない。だからただただ朝槻真守という存在が羨ましかった。

 

上条当麻の良き相談相手。そんな存在に、自分も相談ができるのであれば。

この機会を大事にするべきだ。

 

上里翔流はそう思って、ゆっくりと口を開いた。

そして自分の境遇を、上条当麻に昨日打ち明けたことを真守に伝えた。

 

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