とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第八四話、投稿します。


第八四話:〈幻想体験〉で一端を知る

喫茶店のオープンテラスには、一人の女性が座っていた。

 

自信たっぷりな表情。小さい唇に、可愛らしくつんと尖った鼻。

エメラルドグリーンの大きな瞳に、柔らかで上質な絹の糸を染めたような艶やかな銀髪。

あどけない顔つき。高貴なペルシャ猫のような出で立ち。

悲しいことに胸は小ぶりだが、スレンダー美人と言えば体裁が保てる体型だ。

 

女性はオープンテラスに座っていた。

あいにく天気は雨模様。この国らしく薄暗い空が広がっているが、彼女に雨は当たっていない。

横から入ってきてしまう細かい雨にも当たらないように、女性は考えて席についているのだ。

 

『遅いぞ、レディーを待たせるとは何様だ』

 

女性は待ち人がやってきて、ふんっと可愛らしく怒る。

怒り顔さえも、人を惹き付けてやまない。だがそうやって自分に惹き付けられた者を、彼女は大抵相手にしない。

というか気に入っている人間でも、機嫌が悪ければ相手にしないのだ。

 

まさに猫のように気まぐれで、愛らしい女性。

しかもきちんとした地位があるのだから、猫のような気質でも愛らしいと許されてしまう。

だから、誰も大きく出られない。

そこが、女性の気まぐれさに拍車をかけている。

 

『アレイスター、オマエがとても忙しくしているのは知ってる。だがワタシが呼び出した時くらいワタシを待たせるな。分かったな』

 

『あなたはアレだな。いつでもやっぱり横暴だな』

 

ちなみに現時刻は待ち合わせ時間よりも五分早い。

これでも頑張った方なのだ。

だが女性は気に入らないのかふんっと怒ると、喫茶店自慢のコーヒーに手を伸ばす。

この国では紅茶が主流だが、彼女はこの寂れた喫茶店では必ずコーヒーを飲む。

店主の淹れるコーヒーはこの紅茶の国でも価値があると、彼女は考えているのだ。

価値。それはペルシャ猫のような女性が、最も重要視しているものだ。

 

『どうだ? ワタシが指し示してやった「黄金」は。楽しいか?』

 

女性がにこやかに笑いながら訊ねてくるので、座った男は頷いた。

 

『興味深くはある。だがヤツらの大半は埃を被ってカビが生えた旧時代の俗物を神聖視したがるキライがある。あんな低俗なものに頼っていては真理などまるで見えてこない』

 

『ふふ。このワタシに向かって随分な物言いだな、キサマ』

 

女性は意地悪くにたにたと笑ながら睨む。埃を被ってカビが生えた旧時代の俗物と揶揄されてもおかしくないものを、後生大事に受け継いできた一族として。

 

『いや。あなたたちを愚弄しているわけではない。……というか、あなたはさっきから私で遊んでいるだろう』

 

女性の意図に気が付いて男が声を上げると、女はけろっとした顔をする。

 

『当たり前だろ。最近オマエはヘンタイ行為に拍車をかけておる。ここらで返しておかねば気が済まない』

 

女性はじろっと男を睨む。そしてため息を吐くと、再びコーヒーに手を伸ばした。

 

『あなたの仕返しはいつだって可愛くてねちねちしているものだな、エルダー』

 

『ふふ。楽しくて良いだろう』

 

名前を呼ぶと、女性は愛らしく軽やかに笑った。

最初、この女性に会った時。てっきり少しばかり年上だから、敬えといわんばかりにエルダーと呼べと言ったのだと思っていた。

だがエルダーとは正真正銘彼女の名前なのだ。彼女の一族にとって、大事な花の名前。

 

『ワタシはエルダー=マクレーン。ケルトの民、その純血たる令嬢だ。ワタシの体はケルトの積み重ねでできておる。ただ積み重ねられているのではないぞ。もちろん洗練されておる。低俗な輩のように、うわべだけを取り繕っているわけではないのだ』

 

そう告げると、エルダーはイタズラっぽく笑った。

愛らしい、誰もを惹き付ける笑みだ。

 

だから、とても驚いた。

彼女が『先生』の予言に聞いていた姫御子(ひめみこ)が、自分の学び舎(テリトリー)に紛れ込んできた時は。

本当にとても驚いて。これが運命のいたずらなのかと、激しく憎悪した。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

誰かが、優しく頭を撫でた気がした。

朝槻真守はそっと目を開けて、自分の頭を撫でた優しいひとを探した。

だが当然として誰もいない。見慣れた自宅の、自分の部屋の天井が見えるだけだ。

 

(……今の夢は……なんだ?)

 

真守は顔をしかめて、いま一度見た夢のことを考える。

 

(話をしていたのは私のご先祖さま……? そしてあれは統括理事長アレイスター=クロウリー……なのか?)

 

真守は夢らしく整合性が無く、話をしている二人の人物の顔が見えて眉をひそめる。

銀髪碧眼を持つ、それぞれの美貌を携えた二人。

そしてイギリスらしき景色。薄暗い空。

 

真守は夢について考えながら、冷静に自分の手足の感覚を確かめる。

いま自分が操っている体は垣根に造ってもらった避難用の体だ。

真守がベッドに横たわったまま確認していると、すぐ隣に自分の元の肉体が目を閉じて横たわっている事に気が付いた。

 

状況を、整理する。

 

理想送り(ワールドリジェクター)を奪った木原唯一から上条当麻たちを守るために、真守は自宅に置いてあった避難用の肉体を操っていた。

そして木原唯一が『滞空回線(アンダーライン)』を誘爆させたことで吹き飛んだ御坂美琴を助けて、真守は冷凍倉庫に降り立った。

 

そこは確かに冷凍倉庫だったが、見せかけだった。本質は隠し武器庫であり、そこには『アンチアートアタッチメント』と呼称された──超特殊な駆動鎧(パワードスーツ)が保管されていた。

 

その『アンチアートアタッチメント』──『A.A.A』は科学と魔術によって造り上げられていた。

 

そのことについて考えていると、真守は頭に鈍い痛みを感じた。

 

科学と魔術。それに隔たりがない事。

それに気が付いたものがその認識をできなくなるようにする、何らかの技法。

原型制御と呼ばれる、アレイスターの秘儀。

 

それからすでに逃れる術を構築している真守は軽く頭を振る。

すると、幻の痛みは消えた。

 

(科学と魔術。その二つは全く別の系統で成り立つものだと考えられていた。全く別の系統でも、向かう場所は同じだから似通うのだと、そう考えさせられていた)

 

科学と魔術は、全く異なる技術ではない。同質のものだ。

だがアレイスターはこの世界を科学と魔術に区分するために、二つに分けた。

おそらく思想を切り分けたのだろう。

 

だからこの世界には科学サイドと魔術サイドと呼ばれるものが存在している。

科学と魔術が実は同質であることに、この世界の住人は気が付いていない。

認識を制御されているからだ。

そして認識を制御された状態で科学と魔術が実は同じ公式で成り立つと気づいてしまえば。

おそらく認識の齟齬によって不和が生じ、『科学と魔術が同質』という事実を理解できなくなるだろう。

 

(私は神と同等の完全なる人、絶対能力者(レベル6)だ。だからアレイスターの手から逃れることができた。……でも、この世界の人々は未だアレイスターの手の内にある。科学と魔術が同質だと伝えても、理解できないだろう)

 

真守は小さくため息を吐く。そして小さな手のひらを見つめて、顔をしかめた。

 

(私はアレイスターの制御から逃れるために体を最適化していた。……その最中。私はだれかに接触された。私のあの時の状態はひどく無防備だったから、私に接触できたのだろう)

 

おそらく、それが先程の夢。

自分のご先祖様らしき女性と、統括理事長らしき人物が話している夢だ。

だがその夢を誰かが自分に見せた理由が、真守には分からない。

 

(アレイスターはイギリスの人間だ。そしてマクレーン家は代々ケルトを継承する一族。……遥か昔から存在している一族ならば、マクレーンの一人が稀代の魔術師と密かに交流があっても不思議じゃない)

 

エルダー=マクレーンと自らを呼称していた彼女。

彼女はアレイスター=クロウリーととても親しそうだった。

友人だったのだろうか。友人だったのだろう。そういう雰囲気がある。

 

真守が小さな手のひらを見つめていると、部屋の扉が開いた。

そこに立っていたのは垣根帝督だ。

真守が垣根を見ると、垣根は真守の意識が戻っている事に気が付いて目を見開いた。

 

「……真守!」

 

「垣根、心配かけた」

 

真守は慌ててベッドに近づく垣根を見て、一つ頷く。

 

「ちょっと待ってな、垣根。いま元の体に戻る」

 

真守は垣根に声をかけると、ベッドに横たわったままそっと目を閉じる。

そして元の肉体で目を覚ますと、むくっと起き上がった。

 

「……良かった」

 

垣根はいつもの体に戻った真守の事を、そっと抱きしめる。

 

「お前に何があったんだ?」

 

「その前に垣根、木原唯一はどうなった?」

 

真守は申し訳ないが、垣根に質問を質問で返す。

垣根は眉をひそめる。ちょっと気まずそうなのだが、どうしたのだろう。

 

「……御坂美琴が対魔術式駆動鎧(アンチアートアタッチメント)で消し飛ばした」

 

「消し飛ばしてしまったのか?」

 

真守はきょとっと目を見開いて驚く。

垣根は真守の手を握ったまま、忌々しそうに真守を見た。

 

「俺はちゃんと止めたぜ。でも御坂美琴が『大丈夫だ』とか根拠のねえ自信であの武装に手を出したんだ。予想通り、付け焼刃の武装で加減できずに木原唯一を消し飛ばしやがった。人殺しだな人殺し。理想送り(ワールドリジェクター)もどうなったか分からねえし最悪だ」

 

「……垣根、ちょっと罪悪感覚えてる?」

 

真守は怒りながもちょっと気まずそうにしている垣根を見て、小さく苦笑する。

垣根は真守に心中を指摘されて、むすっと顔をしかめた。

 

「……別に。御坂美琴なんて俺にとってはどうでもいい人間だ。あいつが人殺しして罪悪感覚えようが、何も感じてないロクデナシだろうとどうでも良い」

 

「垣根はアレだな。私に責められるのが嫌なんだな」

 

真守はくすくすと笑う。垣根はそんな真守の事をじとっと睨むと、ベッドに腰を下ろした。

 

「で。お前には何があったんだよ。外部に出力できねえほど、何の対策に追われてたんだ」

 

「んー説明が困難なんだよなあ」

 

おそらく垣根帝督はいまもアレイスターの認識制御の下にいる。

そんな垣根に科学と魔術に隔たりがないと、説明することはできない。

 

(垣根も理解できるように策を構築する……のも良いと思うけど、とりあえず)

 

真守はとりあえず夢の話をしようと、垣根を見た。

 

「あの時、誰かに接触されたんだ」

 

「接触だと? お前に?」

 

「うん。無害な夢を見させられた。それで分かった。アレイスターは私のことをずっと知ってた。おそらく私が生まれる、ずっとずっと前から」

 

アレイスター=クロウリーは朝槻真守が朝槻真守として生まれる前から、真守のような子供が生まれることを知っていた。

突拍子もないことだ。だが、垣根は警戒で目を細めた。

魔術がある以上、ありえない話ではないからだ。

 

「どんな夢だったか、詳しく教えろ」

 

「うん、見た方が早いかも」

 

真守は頷くと、垣根の手を取る。

そして先程見せられた夢を、垣根の脳裏に叩きこんだ。

垣根は真守に干渉されて、夢を見させられて。大きく目を見開く。

 

「マクレーン家はそれなりにたくさんいるから、エルダーさまが私の直系か分からない。でも私や伯母さまによく似てるひとだろ?」

 

「……いや、絶対に直系だろそっくりすぎる。猫みてえに気まぐれなところとか、全部」

 

垣根は黒猫系美少女である真守を見る。

夢の中の女性と真守は、はっきり言って本当に似ている。

お猫様系の性格を持っているのは血筋だったのかと、納得してしまうほどにそっくりである。

 

「……『先生』の予言だと?」

 

垣根は独白のように、アレイスターが呟いていた言葉に目を細める。

その時、垣根帝督の頭によぎった記憶があった。

 

レイヴィニア=バードウェイ。

彼女は言っていた。朝槻真守は元々魔術サイドの人間であり、何の因果か分からないが科学サイドに流れ着くことになったと。

 

真守が生まれる前。

何らかの魔術によって、アレイスターが真守の存在を知ったとしてもおかしくない。

だが真守が学園都市に捨てられたのは偶然だ。

もしかしたら普通に学園都市外に捨てられることもあったのに。どうして真守は科学サイドに流れ着いたのだろう。

 

それが、運命のいたずらというものであり。稀代の魔術師、アレイスター=クロウリーが憎むものなのか。

 

垣根は静かに眉をひそめる。

不明瞭な事が多い。そしてその不明瞭な事は簡単に突き止められるものではない。

垣根が慎重に考えていると、真守も慎重に考えるべきだと頷いた。

そして、ずっと気がかりだったことを口にする。

 

「深城たちはどうしたんだ?」

 

「バーベキューの片づけ中だ。とりあえず俺がお前を先に連れ帰ってきたんだ。源白は俺とお前がそんなに焼き肉食べられてねえから、片付け終わったらスーパー寄って帰って来るって言ってた」

 

「そうか。深城にも心配かけたな」

 

真守は笑うと、垣根の頬に手を添える。

 

「垣根にも心配かけた。ごめんね」

 

垣根は真守の小さな手を感じながら、目を細める。

 

「……お前が回復したならそれでいい」

 

真守は少し悲しそうにしている垣根を見て、ふふっと笑う。

そしてポケットをごそごそ触って、携帯電話を取り出した。

 

「時差は大丈夫かな。……ちょっと伯母さまに連絡してみる」

 

真守は携帯電話をスライドさせて、かこかことボタンを押す。

 

「あのペルシャ猫風の私のご先祖らしきひとのこと、知ってるかもしれないから」

 

垣根はかこかこと携帯電話を操作する真守を見つめる。

すると、カブトムシがひょこっと顔を出した。

 

『あの、真守』

 

「帝兵さん、どうした?」

 

『……その、マクレーン家の方々が』

 

「うん?」

 

真守はメールを打つ手を止めて、少し戸惑った様子のカブトムシを見る。

カブトムシはヘーゼルグリーンの瞳を収縮させながら、真守を見た。

 

『マクレーン家の方々が、学園都市に飛行機で降り立っています』

 

「…………へ?」

 

真守は突然の情報に目を瞬かせる。

するとタイミングよく、真守の携帯電話に着信があった。

相手は──アシュリン=マクレーン。

真守は慌てて電話に出る。

 

「も、もしもし伯母さま? 学園都市に来てるのか?!」

 

真守が第一声を放つと、通話の向こうでアシュリンは微笑む。

 

〈そうなの。いま真守ちゃんのおうちに向かっているのよ。もうすぐ着くわ〉

 

「えええっど、な、ナンデっ!?」

 

真守は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

〈真守ちゃんがもうすぐ誕生日だから。お祝いしにきたのよ〉

 

「嘘だろっ?! そんな理由で学園都市に入って来られるのか?!」

 

学園都市のセキュリティは堅牢だ。

結構な頻度で魔術師が侵入して来てはいる。だがそれでも、表向き学園都市は厳しく出入りを管理している。

基本的に学生の身内だろうが、簡単に学園都市には入れない。

そのためどうやったら、堂々と空港から学園都市に入れるのだろうか。

しかもおそらく。親族一同で。

 

「……お金?! やっぱりお金の力でなんとかしたのか?! でも、お金の力で学園都市が魔術サイドに譲歩するとは思えない……っ!」

 

〈そうね。その通りだわ。だから話をしましょう、真守ちゃん〉

 

「え」

 

真守は伯母に提案されて、目を瞬かせる。

 

〈色々伝えていないことがあるの。でも、決して隠していたわけではないのよ。時期を見て話をしようと思っていたの。……あなたを困らせたくないから〉

 

朝槻真守はこれまで天涯孤独だった。

それなのに突然現れた親族に色んなことを聞かされても、困惑するに決まっているのだ。

だからアシュリンたちは真守の事を考えて、少しずつ教えてくれていた。

それを、真守は分かっている。

真守はアシュリンの申し訳なさそうな声を聴いて、眉を八の字にへにゃんっと揺らす。

 

「私も伯母さまに言ってないことがたくさんある。伯母さまたちのことが大事だから……だから、いつかちゃんと話せたらいいなって思ってた……」

 

真守だって、アシュリンに話していないことはたくさんある。

幼少期にどう過ごしていたか、とか。絶対能力者(レベル6)進化(シフト)したことも、直接的な話題にするのは避けていた。

 

〈ふふ。互いの立場を考えなければならなくて、色々話せなかったのは同じね〉

 

アシュリンは軽やかに笑うと、真守を安心させるように優しく告げる。

 

〈学園都市に来たのはもちろん真守ちゃんの誕生日を祝うためよ。でもちょっとこちらでも色々あってね。だからあなたと話をしに来たのよ、真守ちゃん〉

 

「ちゃんと聞きたい。伯母さま」

 

真守は垣根の手をきゅっと握って、自分の気持ちを告げる。

 

「ちゃんと受け止める。何があっても大丈夫。だってどんなことがあっても味方になってくれる人がいるし、伯母さまたちが私のことをすごく考えてくれていることは分かってる」

 

真守は隣に座っている垣根へと目を向ける。

スピーカーフォンにしてあるため、垣根も会話を聞いている。

垣根は静かに一つ頷いた。そして寄り添ってきた真守を抱きしめる。

 

「話してほしい、伯母さま。おねがい」

 

〈ええ。いま向かっているから。ちょっと待っててね〉

 

真守は頷くと、アシュリンと一言二言話して通話を切る。

 

「真守」

 

垣根は少し緊張した様子の真守の頬に手を添える。

 

「お前に何があっても、どこの人間だろうと関係ねえ。ずっと一緒にいる。約束したからな」

 

「ありがとう、垣根」

 

真守は微笑むと、垣根にギュッと抱き着く。

 

「垣根がいるから頑張れるの。ずぅっと一緒にいてほしい」

 

「当たり前だ」

 

垣根は真守の事を抱きしめて、その小さな背中を撫でる。

真守は垣根の大好きな手を感じて、ふにゃっと笑った。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

冥土帰し(ヘブンキャンセラー)が用意した、朝槻真守の自宅。

その前に、一台のタクシーが留まった。

タクシーから降りてきたのは、銀髪碧眼の女性──アシュリン=マクレーンだ。

自宅の前で垣根と共にタクシーを待っていた朝槻真守は、自らの伯母に近づく。

 

「伯母さま」

 

「真守ちゃん。こんばんは」

 

真守は柔らかく微笑むアシュリンにそっと近づく。

そして躊躇いがちにもアシュリンにすり寄った。

 

「わたくしの大切な女の子」

 

アシュリンは柔らかく笑むと、自分よりも少し大きい真守の事を抱きしめる。

 

「わたくしの半身が産んだ、あの子の忘れ形見。あなたのことを、わたくしは本当に大事に想っているのよ、真守ちゃん」

 

「うん」

 

真守は小さく頷くと、自分よりも少し背が低い伯母を抱きしめる。

 

「私も伯母さまのこと、大事に想っているよ」

 

アシュリンは柔らかく微笑むと、真守の事を抱き寄せる。

 

「伯母さま。長旅で疲れただろう。寒いし家に入ろう」

 

「ええ、そうね。案内してくれる?」

 

「うん」

 

真守は頷くと、傍らにいた垣根を見上げた。

垣根は真守の視線に応えると、真守とアシュリンと並んで自宅へと戻る。

 

朝槻真守と、マクレーン家。そしてアレイスター=クロウリー。

科学と魔術。それに本当は隔たりがないということ。

真守はそのことについて考えながらきゅっと拳を握り締めると、自宅へと入った。

 

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