とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第八八話、投稿します。


新約:エレメント襲来篇
第八八話:〈現支配者〉は人々の優しさでできている


現在、学園都市は未曽有の脅威にさらされていた。

エレメントという異形の存在。その異形に、学園都市の人々は襲われているのだ。

 

エレメントは共通として、半透明のガラスや水晶に似た躯体を持っている。

そして全てが動物や昆虫などの既存の生物の形を取っており、クラス一からクラス六まで多種多様な全長を持っている。

 

エレメントは人を襲うまではその体を限りなく透明にして周囲に溶け込み、隠れ潜む。

そんなエレメントの透明な体の中には、急所とも言うべきコアがある。

そのコアは四つに分類されており、火水風土に対応する四色だ。コアが『赤』なら炎系の攻撃、『青』なら水系の攻撃、そして『黄』なら風の攻撃をしてくる。

 

大きい時には全長が一〇〇メートルを超えるエレメント。

そんなエレメントも対応できない環境がある。高温になると、その活動が著しく鈍くなるのだ。

そのため現在、学園都市は()()()()()()()()摂氏五五度以上の高温が保たれている。

 

摂氏五五度。

それは既存のインフラ設備が壊滅する気温であり、人々にとって辛い気温である。

そのため学生たちは全員水着を着用しており、高温になる部分に触れても重要な器官が損傷しないように、手袋やマフラーをするという珍妙な格好となっている。

ツンツン頭の少年も、もちろん水着である海パンを着用していた。

 

「あーつーい。……なあ、吹寄。()()()()の設定温度、二五度にしちゃダメ?」

 

「ダメに決まってるでしょ。外は五五度なのよ。あんまり涼しくすると外気温との差で体に障るわ。朝槻に感謝しなさい」

 

ビキニ姿の吹寄は、暑くて教室でうだうだしている上条に近づく。

 

「はい。瞬間冷却パック。午後の配給をあげるから頑張りなさい」

 

瞬間冷却パックとは衝撃を与えれば一定の間、冷たくなる画期的なものである。

科学の産物を見て、上条はちょっと考える。

 

「……午後の配給ってそれ、午後に暑くても使えなくなるだろ?」

 

「当たり前よ、配給は有限なの」

 

吹寄は何を言っているんだと言わんばかりに上条を見る。そして、手に持っていた冷却パックを上条に差し出した。

上条は少しためらった後、結局使わないことにした。

何故なら。

 

「朝槻のおかげでクーラーは使えてるし、水も食料、それに加えて暑さ対策の配給はあるし。現状に甘えて、あんまりわがまま言わないようにしないとな」

 

「そうよ。私たちだけじゃなくて、()()()()()()()()()()()()()()朝槻に守られてるんだから。クラスメイトの私たちが泣き言言ってる場合じゃないのよ」

 

吹寄は冷却パックの代わりに、()()()()()()()麦茶のペットボトルを差し出す。

上条は吹寄から麦茶をありがたく頂戴しながら、外を見る。

 

うだるような熱気。

だがその熱気は学校内には来ない。朝槻真守のおかげでクーラーが使えているからだ。

遠くで、戦闘音が聞こえる。

だがその戦闘音は高位能力者が能力でエレメントを迎撃しているものだ。

高位能力者たちはエレメントの対処の仕方を真守に教えてもらっている。

そのためおそらく誰かが怪我をしてもカバーし合うことができており、最悪の事態にはなることなどありえない。

 

「……たった一人で学園都市を守っちまうんだから。朝槻はやっぱりすげえよな」

 

上条は冷たい麦茶を飲みながら、独り言ちる。

すると教室の扉が開いて、ひょっこり顔を出した少女がいた。

 

「一人じゃないぞ。たくさんのひとに手伝ってもらってるからな」

 

そう声を上げたのは朝槻真守だった。

だがその様子はいつもと違った。全身が真っ白で構成されており、ヘーゼルグリーンの愛らしい瞳をしているのだ。

しかも異様に身長が低い。水着もその体に合わせたものであり、ふりふりの幼児用の黒の水玉ビキニだ。

真守は垣根帝督が造り上げた避難用の体を使っており、本体は第二学区の『施設(サナトリウム)』にいる。

だが定期的に学校に来て、真守はクラスメイトの様子を視察しているのだ。

 

「あ、ロリ朝槻」

 

上条はちょこちょこ歩いてきた真守を見て、声を上げる。

 

「ろり言うな。ろりろり言ってると青髪ピアスが来るだろ」

 

真守は辺りを気にしながら、『朝槻ならロリもアリ』とか笑顔で抜かす青髪ピアスを警戒する。

吹寄は青髪ピアスを警戒している真守を見て、苦笑する。

 

「青髪ピアスならいないわよ。配給所のメイドさんに熱中してるから」

 

「えー。ここの給仕してる子たちって繚乱家政女学校の子たちだろ。迷惑かけないでほしい。あとで見に行こうかな」

 

真守はむぅっと口を尖らせて、本気で深刻だと考える。

上条は可愛らしく不愉快そうにしている真守を見て、柔らかく微笑む。

 

「無理してないか、朝槻?」

 

「大丈夫だぞ、上条。私は一人で頑張ってるわけじゃないからな」

 

真守はむんっと得意気に、胸を張る。

 

「私のことを大事にしてくれる『(しるべ)』や、垣根や他の超能力者(レベル5)の子たち。風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)も、他にも多くの人が手伝ってくれてるからな。一人で頑張ってるわけじゃない」

 

「でも朝槻、とりまとめるのはやっぱりあんたがやってるんでしょ。すごいわよ」

 

「ありがとう、吹寄。みんながいるから私は頑張れるんだぞ」

 

真守はふふっと笑うと、吹寄たちクラスメイトを見つめる。

クラスメイトを見つめる目は、慈愛に満ちた眼差しを持っていた。

 

「守りたい子たちがいるから、私は頑張れるんだ」

 

「……そんなお前だから、色んな人が手伝いたくなるんだ」

 

上条が眩しいものを見つめるように目を細めると、真守はにへらっと笑った。

 

「私一人だけで頑張るんじゃなくて、みんなで協力して頑張る。それはとても良いことだな」

 

真守がにこにこ微笑を浮かべる様子を見て、吹寄と上条は安心する。

真守たちが話をしていると、昼食の配給を持ってきた青髪ピアスが参上する。

青髪ピアスは真守を見ると突進。真守はひらっと避けて青髪ピアスの頬を思いきりビンタする。

それを見て上条たちは笑った。

 

エレメントという異形の襲撃。それを抑えるために摂氏五五度になった結果、既存のインフラ設備が崩壊した現在の学園都市。

水道・ガス・電波塔など、生命線であるすべてが機能しなくなったため、本来ならば学園都市の人々は生き残るためのサバイバルをする必要があった。

 

だがこの学園都市の第一位に君臨している少女の能力は流動源力(ギアホイール)。あらゆるエネルギーを生成することができる能力だ。

そして公表されてはいないが、少女は絶対能力者(レベル6)の頂へと昇り詰めている。

そのため学園都市の学生全員に対して、エネルギーを供給することなど容易いのだ。

だが真守の言ったように、真守だけで学生たちを守れているわけではない。

 

「真守。勝手にふらふら行くんじゃねえ」

 

学生たちに必要なエネルギーを無限に生成できる朝槻真守。

そんな真守でも未元物質(ダークマター)と呼ばれる無限の創造性を持つ垣根帝督が協力してくれなければ、数時間で真守の能力に適した新たなインフラ設備が設立されることはなかった。

 

「かきねーっ」

 

真守は顔を掴んで電気を流していた青髪ピアスから手を離す。

青髪ピアスが床にドサッと落ちることも気にせず、真守はてってってーと走って垣根に近づく。

真守が駆け寄った垣根帝督も、もちろん水着姿だ。

高級パーカーに高級海パン。そして肩口まで伸びる髪を、首筋で一つに緩く結んでいる。

真守は一緒に来てくれた垣根にむぎゅっと抱き着く。

垣根はそんな真守のことをひょいっと抱き上げた。

 

「へへーっ」

 

真守は幸せそうに微笑むと、垣根の腕の中で垣根に甘える。

いつもよりも年齢が下がっているためか、真守は垣根にふんだんに甘えることができるのだ。

上条は垣根に甘える真守の姿が愛らしくて、くすっと笑う。

 

「朝槻たちは昼食どうするんだ?」

 

上条が問いかけると、垣根は真守の真っ白な髪を優しく撫でる。

 

「これから第七学区のエレメント討伐部隊の視察に行く手筈になってる。その前に真守が話をしたいって言うからな。ちょっと寄っただけだ」

 

「そっか。朝槻、垣根。あんまり無理すんなよ」

 

「ありがとう、上条」

 

真守は垣根に抱き上げられたまま、にまにまと微笑む。

 

「上条も危ないことはあんまりするなよ。お前には大切な人たちがいるんだから」

 

上条は真守の優しい言葉に頷く。

 

「分かってるよ、朝槻」

 

真守の言う大切なひととは、もちろんインデックスとオティヌスだ。

真守たちの学校は僧正によって半壊したため、上条たちは教室を借りている中高一貫校を間借りしている。

そこにはもちろん、インデックスとオティヌスも来ているのだ。

彼女たちのことを考えるべきだ。そう告げる真守を見て、上条は笑う。

 

「俺にとっては朝槻も大事だからな。無理するなよ」

 

「うんっ」

 

真守は柔らかく微笑むと、小さい手をふりふりと振る。

上条と吹寄はその手に振り返す。

真守はにまにま微笑むと、むすっとしながら歩いている垣根を見る。

 

「垣根、上条が私のことを大事って言っても、別にむっとしなくても大丈夫だろ。私はお前のモノなんだから」

 

「お前を一番大事にしてるのは俺だ」

 

「分かってるって。行こう、垣根」

 

真守が急かすと、垣根は校舎から出る。

 

外は暑い。摂氏五五度まで上がっているので当然だ。

だが真守と垣根は特に暑さを感じていなかった。

垣根帝督が未元物質(ダークマター)を使って快適にしているからだ。

 

そして垣根は未元物質(ダークマター)の翼を広げると、第七学区の『学舎の園』へと向かった。

エレメントという異形。それを抑えるために引き起こされた大熱波。

この異常事態は学生たちが一丸とならなければ、乗り越えられない苦境だ。

 

そのため真守は垣根が造り上げたカブトムシ──通称帝兵さんを使いにして、各学校にコンタクトを取った。

 

高位能力者たちはエレメントに対抗できるため、エレメント討伐部隊に加わってもらう。

支援系の能力を持っている者たちには、高位能力者たちの補助を。

そして繚乱家政女学校のような一芸に秀でている者たちには、自分たちが得意とする分野をこなしてもらう。

 

もちろん無能力者(レベル0)にも真守はきちんと役割を割り振っている。多くの者たちは学校でやるべきことをやっているが、望んだ者たちには外で相応しい役割をしてもらっている。

この布陣を真守は大熱波到来からわずか一日足らずで築き上げてしまったのだから、本当に凄いことだ。

 

「お前はやっぱり俺と違って、平和的な暴力で学園都市を掌握できるんだな」

 

「ふふ、平和的な暴力ってなんだ」

 

真守は未元物質(ダークマター)の翼で飛ぶ垣根の腕の中で垣根にすり寄りながら、くすくすと笑う。

 

「木原唯一が学園都市を混乱の坩堝へと突き落としたからな。私が学園都市を掌握しなくちゃみんなが危なかった」

 

エレメントという異形。それを操っているのは木原唯一なのだ。

御坂美琴による『A.A.A』。それによって吹き飛ばされて生死不明だった木原唯一だったが、彼女はやっぱり生きていたのだ。

そして今度こそ上里翔流を亡き者にするために、エレメントと呼ばれる異形を繰り出してきた。

 

「エレメントが高温になるとその動きを極端に鈍らせる。それを見つけた上里勢力が大熱波を引き起こしてくれて助かったな。おかげで既存のインフラ設備は壊滅。私に頼るしかなくなった」

 

真守はにやっと意地悪く笑みを浮かべる。そして垣根にぎゅっと強く抱き着いた。

 

「私が学園都市を統べることができるのは垣根のおかげだぞ。何でも造ってくれる垣根と帝兵さんがいなかったら、数時間で学園都市を掌握することはできなかった。だからありがとう、垣根。垣根がいてくれて本当に助かってる」

 

垣根はくすっと笑って、すり寄ってくる真守の小さな背中を撫でる。

 

「俺はお前の指示に従っただけだ。統率してるのはお前だろ」

 

はっきり言って、朝槻真守には人望がある。

真守の避難所として用意された『施設(サナトリウム)』だって、真守のことを守りたいと考えた『(しるべ)』の者たちが用意したものだ。

 

人を守るために動く。そして守られた人が真守のことを想う。

 

そういう信頼関係を築ける真守でなければ、ここまで人々が一致団結することもなかっただろう。

この少女には全てを救う力がある。だからこそ垣根帝督はこの少女を守りたいのだ。

 

「まさか俺がこんな真っ当な方法で学園都市を手にすることができるなんてな。人生、何が起こるか分かったもんじゃねえな」

 

垣根は笑いながら、真守の小さな背中を撫でる。

垣根帝督は学園都市を掌握できるとは考えていなかった。

アレイスターがこの学園都市を掌握しているからだ。

 

そのため垣根は何とかして学園都市の中枢に入り込み、アレイスターがどう頑張っても切り捨てられない存在になろうとしていた。そして学園都市を利用しようとしていた。

そのために垣根は学園都市の中枢に食い込んでいる流動源力(ギアホイール)という能力者について調べていた。

 

「真守。お前がいたから、俺はここまで来れたんだ」

 

全ては垣根帝督が流動源力(ギアホイール)という能力者を探るために、朝槻真守に近づいた時から始まったのだ。

そこから紆余曲折を経て、ここまでやってくることができたのだ。

 

「私も垣根がいたから、ここまで来れたんだぞ」

 

真守はくすくすと笑って、垣根にすり寄る。

そうこうしている内に、『学舎の園』に到達した。

高位能力者が多い関係上、第七学区のエレメント討伐部隊が集結しているのは『学舎の園』なのだ。

 

「お疲れ様です、垣根さんっ」

 

『学舎の園』の入り口。そこからぱたぱたと走ってきたのは、『スクール』の弓箭猟虎だ。

弓箭は『学舎の園』にある枝垂桜学園の生徒だ。

そして第七学区のエレメント討伐部隊は『学舎の園』の生徒が多い。そのため弓箭は『スクール』として、朝槻真守との橋渡しとして『学舎の園』にいるのだ。

 

「朝槻さんもお疲れ様です」

 

大熱波が引き起こされている今、豊満な胸を持つ弓箭も枝垂桜学園の指定水着であるスク水を着用している。

白いきめ細やかな肌の上にパーカーを羽織った弓箭は、垣根に抱き上げられている真守を見つめて微笑む。

 

「私は『施設(サナトリウム)』から出ないことになっている。朝槻真守だとバレたら面倒だ。だから私のことは『さつきちゃん』と呼ぶと良い」

 

「分かりました、さつきちゃん」

 

朝槻真守。名字の部分を取って呼べと告げる真守に、弓箭は頷く。

真守は頷いた弓箭を見て、にこっと微笑む。

 

「入鹿ちゃんとは仲良くやってるか?」

 

「う」

 

弓箭は小さく呻くと、気まずそうに指と指を合わせる。

 

「さつきちゃんの言う通りでした……。ちょっと行き違いがあっただけで、あの子は変わらずにわたくしのことを考えてくれていました」

 

弓箭はてへへっと恥ずかしそうに笑う。

弓箭猟虎には入鹿という妹がいる。

彼女たちが所属していた研究所には薄暗いところがあった。その時に起こった事件で、弓箭猟虎は自分が要らない存在だと思い込んでしまった。

 

そう考えても仕方ないほど、弓箭はあらゆる人々からないがしろにされた。

なんでもしてくれる最愛の妹。彼女にも、自分は必要のない存在だと弓箭は感じてしまった。

だが少し行き違いがあっただけなのだ。弓箭は自分に価値がないと考えてしまい、価値がない自分には誰も振り向いてくれないと思ってしまっただけなのだ。

 

「木原唯一をどうにかしたら、前みたいにケーキ屋さんでみんなでお茶をしような。もちろん入鹿ちゃんも含めてだ」

 

「……はいっ。楽しみです!」

 

弓箭は暑さで汗をかきながらも、笑顔で頷く。

真守がふふっと微笑むと、垣根は真守の背中を優しく撫でた。

 

「御坂さんのところに案内しますね」

 

弓箭は『学舎の園』の入り口を通って、垣根と真守を案内する。

『学舎の園』は男子禁制だが、この状況で四の五の言ってる場合ではないのだ。

 

だから垣根は特に咎められる事無く、真守と共にエレメント討伐部隊の本拠地となっている『学舎の園』へと足を踏み入れた。

 




エレメント襲来篇、始まりました。
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