とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第八九話、投稿します。


第八九話:〈味方視察〉と協力者との密談

『学舎の園』は普段ならば、男子禁制の花園である。

誰もが憧れるお嬢様の聖域。そこに住まうのはおしとやかな少女たちだが、高位能力者で構成されている関係上、その実力はすさまじい。

 

その証拠に、第七学区のエレメント討伐部隊を構成しているのはほとんどが『学舎の園』の少女たちだ。

彼女たちは本当に箱入りお嬢様なため、男たちとあまり関わった事がない。

お嬢様の男慣れしていない初々しい雰囲気。

それに当てられて体調を崩し、熱中症になる男が一定数いるくらいである。

ちなみにお嬢様たちは殿方と接しても、恥ずかしさから熱中症になる者はいなかった。お嬢様は意外とタフなのだ。

 

そんな淑女の卵たち。彼女たちを統括しているのは常盤台中学の生徒、超能力者(レベル5)の御坂美琴だ。

そのため真守と垣根が視察に行く『学舎の園』のエレメント討伐部隊のテントには、当然として水着姿の御坂美琴がいた。

 

「あ、垣根さん」

 

美琴は近づいてきた垣根帝督に気が付いて、顔を上げる。

 

「よお、御坂美琴。視察に来てやったぜ」

 

垣根に声を掛けられて、美琴は手元の地図をテーブルの上に置く。

そして縦ロールの少女に目配せすると、縦ロールの少女は席を外した。

 

「……ちっこい朝槻さんもこんにちは」

 

美琴は垣根に抱き上げられている真守に声を掛ける。

未元物質(ダークマター)で造り上げられた、避難用の体を使用している真守。

ちなみに幼女真守の成育状態だが、美琴と同じくらいの胸の大きさがあったりする。

ふりふり水玉の黒ビキニで分からないが、それでもお胸事情に敏感な美琴には分かる。

 

(ちっこい朝槻さん……胸、胸がある……ッ!)

 

一人でわなわなと震えている御坂美琴。

真守は美琴が何を考えているかもちろん理解していて、得意気にちょっとふくよかな胸を張る。

 

「ふふん。さつきちゃんと呼べ。私は表向き、『施設(サナトリウム)』にいることになってるからな」

 

「……分かったわ、さつきちゃん」

 

真守はご機嫌なまま、垣根の腕の中でにやっと笑う。

 

「美琴も頑張れ。でも努力すれば大丈夫だぞ。お前のお母さまと『第三次製造計画(サードシーズン)』の番外個体(ミサカワースト)()()()()()()んだから、頑張れば遺伝子的には未来があるぞ」

 

「うるさいッ! 能力でどうにかできる勝ち組に言われたくないッ!!」

 

美琴は自分のつつましい胸を両腕でガードして、がうっと大声で怒鳴る。

真守はくすくすと笑って、垣根は呆れた様子を見せる。

完全に勝ち組な真守を見つめて、美琴はうぐぐっと呻く。

だがこほんっと、咳をして気を取り直した。

 

「ちょうど()()()()で朝槻さんに確認を取ろうと思ったのよ」

 

美琴は人差し指を構える。

すると、美琴の人差し指に大きな白いトンボが留まった。

白いトンボは垣根帝督が新たに造り上げた人造生命体だ。

一五センチほどの真っ白い体躯に、ヘーゼルグリーンの複眼。

インフラ設備が壊滅した現在、連絡用のネットワークを形成している人造生命体だ。

 

「ふふー。帝察さんはとても頼りになるだろう」

 

真守はむんっと得意気に胸を張って、我がごとのように嬉しそうにする。

トンボの『帝察さん』という名前は、もちろん真守がつけた。

 

『垣根()督が作った偵()機さん』という意味で『帝察さん』。

そのため『垣根帝督が作った兵隊さん』であるカブトムシ、通称『帝兵さん』とは兄弟のような関係性だ。

帝兵さんと帝察さんは異なる自我を持っており、ネットワークを共有していない。

だからこそ明確な意思の違いがあり、『兄弟』なのだ。

 

カブトムシの時はなし崩しに名前が決められたが、トンボの方は真守が率先して名前を付けた。

その名前が浸透していることが真守はうれしい。

 

「……トンボ(端末)で連絡とりたい話ってのはなんだ」

 

帝察さんの名前が浸透していて、嬉しい真守。

そんな真守を抱き上げている垣根帝督は微妙な気持ちになりながら、美琴に問いかける。

垣根が連絡用に人造生命体を新たに構築したのは、前々から偵察用専門の人造生命体を作ろうか考えていたからだ。

情報というのは非常に重要なものだ。しかも垣根帝督は科学サイドの住人で、魔術サイドのことは詳しくない。

そしてカブトムシは真守のことを守るために構築したネットワークだ。しかも現在カブトムシは密かに学園都市の治安維持に使っているため、垣根は丁度良いと思って連絡用のネットワークを別途構築したのである。

 

「ちょっとこれを見てほしいのよ。念写系能力者の子に出力してもらったんだけど」

 

美琴は近くにあった資料を引き寄せて、真守と垣根に見せる。

念写されていた写真は多目的に使用できるドームだった。

第七学区のほぼ中央、ここから北に五キロほどの場所にあるドーム。

そのドームの中心には、『水晶の塔』とも呼べるべき巨大な人造物が建っていた。

写真で見ても、かなり大きい。全長は二〇〇メートルといったところだ。

あからさまにエレメントと同じ素材で造られた、『水晶の塔』。

美琴はその先端に指を沿える。

 

「この先端、ぴかぴか光ってるのよね。色々調べてみたけど、この塔は光信号を宇宙に放ってるみたい」

 

「ふむ。ブラフだな」

 

真守は美琴の説明を聞いて、そう断言する。

美琴も真守の即座の断言に頷いた。

何故なら光信号を宇宙に放つ必要がないのだ。

 

エレメントを操っているのは、現在学園都市に潜伏している木原唯一である。その事実を真守は広く知らせていないが、御坂美琴には真守も話している。

美琴は木原唯一と敵対していた時に一緒にいた。

だからこそ真守は当事者として、美琴に真実を伝えたのだ。

 

美琴も『A.A.A』の大出力で木原唯一を消し飛ばしてしまった事が気がかりだったため、ちょっとほっとしていたりもした。

そんな美琴は写真を見つめながら、推測する。

 

「『水晶の塔』は木原唯一が自分の脅威になる学生を選別するためのトラップ。これを攻撃すれば、木原唯一はその学生が一定の脅威を持っていると考えて、排除に来る。だったらこれを逆手に取って木原唯一を誘い出せばいいと思うんだけど」

 

水晶の塔を破壊できるほどの戦力を持っている、自身の脅威になる学生。

脅威は復讐を遂げるために、取り除いておくべきだ。だからこそ木原唯一は脅威となった学生を打倒するために、学生たちの前に姿を現す。

エレメントによる暴挙を止めるためには、諸悪の根源である木原唯一を倒すしかない。

そんな木原唯一が反応せざるを得ないトラップ。それを逆手にとって、木原唯一をおびき出し、迎撃する。

真守は垣根に抱き上げてもらって、『水晶の塔』の写真を見ながら美琴の提案に首を横に振る。

 

「確かにこの水晶の塔を攻撃したら木原唯一をおびき出せるだろう。でも攻撃しないでくれ」

 

真守の指示に美琴は当然として首を傾げる。

 

「どうして?」

 

「大熱波が始まって混乱が生じた。その混乱を収めて私が統率した事により、学生たちは落ち着いた。学生たちのことを考えて、もう少し様子を見たいんだ」

 

統治者として、学園都市の学生たちを守らなければならない立場としての真守の意見。

美琴は真守の考えを聞き、納得して頷いた。

 

「確かに私たちは学校単位で動いてるわけじゃない。あくまで学生たち全体のことを考えなくちゃいけないわ」

 

美琴は真守の考えに賛同する。

 

「それに水晶の塔を攻撃するとなると、メンバーの選出をしなくちゃいけない。その間に第七学区を守護する能力者の補填もしなくちゃいけないし、攻撃する布陣はすぐには組めないわ」

 

「うん。木原唯一については私の方でも探っているからちょっと待ってくれ。水晶の塔を破壊して、手薄のところを木原唯一に襲撃されても困るからな。だから美琴。美琴はいま第七学区の治安を維持することだけ考えてくれ」

 

「分かったわ」

 

真守は美琴が頷いてくれたのを見て、柔らかく微笑む。

すると。お給仕をしている常盤台中学の少女たちがやってきた。

 

「お昼休憩にいたしましょう、御坂さま。『(しるべ)』の殿方とお嬢さんもどうぞ。食事は多めに貰っていますから」

 

朝槻真守の指示の下、自分たちを取りまとめているのは『(しるべ)』という団体だと学生たちは理解している。

そのため少女は垣根と真守をそう声を掛けて、誘導する。

 

「食事を用意してくれてありがとな。とても助かってる」

 

真守(小さいバージョン)がにこっと微笑むと、少女は嬉しそうに頬を赤らめる。

ちまっとした体にあどけない表情。くりくりのお目目。

女子学生彼見れば、幼女真守は愛らしい存在だ。

 

「あらあ。見知った人がいると思ったらぁ、垣根さんじゃなぁい」

 

真守と垣根が美琴と共に食事場のテントへ向かうと、水着姿の食蜂操祈が顔を出した。

食蜂は垣根が抱き上げている真守をちらっと見る。

朝槻真守は第二学区から出ないようにしている。この場にいることがばれたら、色々面倒だ。

それを察している食蜂。真守は察しが良い食蜂を見て、ふふっと笑う。

 

「食蜂、さつきちゃんが来たぞ」

 

真守は自分の事を慮ってくれる食蜂を見つめて、優しく声を掛ける。

 

「知ってるわあ。さっきからウチの子たちのテンションが妙に上がってるしぃ」

 

食蜂は小さいおててをふりふり振る真守を見て頷く。

真守は傍らにいる美琴にちらっと目を向けてから、食蜂を見る。

食蜂ももちろん水着を着ている。常盤台中学が指定している、ごく普通のスクール水着だ。

 

吹寄なんかは指定の水着を着ていなかったが、『学舎の園』の者たちは枝垂桜学園の弓箭も含めて、スクール水着を着ている。

美琴も食蜂も同じスクール水着を着ている。だがその体の豊満さは段違いだ。

もちろん食蜂の方が大きい。ちなみに食蜂の方が普通真守より大きかったりする。

 

「発育からも分かるけど遺伝子には本当に優劣があるよなあ」

 

真守がボソッと呟くと、美琴が体を守って声を上げる。

 

「あんまりセクハラすると怒るわよ!!」

 

「ちょっと感想が出てしまっただけだ、セクハラじゃない。それに遺伝子に優劣があろうと大丈夫だぞ。能力でどうにかなるからな。私が証明だ」

 

真守はぺたぺたと自分の体を触りながら笑う。

真守は遺伝的に大きくなる方ではなかった。そのため真守の伯母であるアシュリン=マクレーンは真守より小さいし、アシュリンの胸もつつましい。

だが真守は自身の能力によって、アイドル体型という完璧なプロポーションを手に入れることができた。

 

「美琴も本当に困ったら助けてやる」

 

「ほ、本当……っ?」

 

あらゆるエネルギーを操る事ができる能力者。それはつまり体内のエネルギーも操作できて、体の成長を促すホルモンを生成できるということだ。

真守の提案に美琴は目を輝かせて、食蜂は呆れる。

真守は美琴たちとたわいない話をして、垣根と一緒に昼食を食べた。

そして視察を終えると、真守と垣根は弓箭に見送られて『学舎の園』を出た。

 

「垣根、付き合ってくれてありがとう」

 

真守は垣根に抱き上げられたまま、垣根の腕の中で微笑む。

垣根は真守の頭を優しく撫でて、そして笑う。

 

「いまの学園都市の要のお前は『施設(サナトリウム)』から出られねえからな。学生たちが心配だからお前が俺の作った体で外に出るって言うなら、一緒に行くに決まってるだろ」

 

インフラ設備が崩壊している現状。

エネルギーを無限に供給できる朝槻真守は極めて重要だ。

そのため第二学区の『施設(サナトリウム)』には、ならず者たちが朝槻真守を狙ってやってくる。

そのならず者たちは武装無能力集団(スキルアウト)がほとんどだが、裏では暗部組織や『大人達』が手引きしていることが多い。

学園都市を統率している真守を落とせば、学園都市を掌握することができるからだ。

 

絶対能力者(レベル6)である私に手を出すとはバカなヤツらだ。裏で生きる者たちがせっせと表に張り巡らせた情報網が破綻した今、彼らもなりふり構っていられないのだろう」

 

インフラ設備の壊滅。それにはもちろん、既存の連絡網の壊滅も含まれている。

学園都市の暗部は表を操作できるように、様々な罠を張り巡らせている。

だがインフラ設備の壊滅でせっかく頑張ってこしらえた全てが破壊されてしまったのだ。

彼らが焦って焦って、現在学園都市を手中に収めている真守に手を出してくるのも頷ける。

 

「俺の女に手を出すとか、良い性格してんじゃねえか」

 

「ふふ。私には強い番犬さんがたくさんいるからな。安心だ」

 

真守は垣根とすっかり様変わりしてしまった学園都市を見回す。

大熱波によって、一気に様変わりした学園都市。

うだるような熱気。ビルなんかは特にぎらついていて、触れればやけどしそうなほどだ。

そんな学園都市の街並みには、ところどころで純白で際立つ物体が置かれたり、白いパイプが張り巡らされている。

それらは垣根帝督が未元物質(ダークマター)で造り上げたインフラ設備だ。

 

「垣根の力がフルに発揮されててうれしい。垣根の力はみんなを守れる力だ」

 

真守は学園都市のいたるところで垣根帝督の力が発揮されていて、本当に嬉しそうにする。

垣根は我がごとのように喜んでくれる真守を見て、ふっと笑った。

 

「お前に会わなきゃ、こんな風に力を使うことなんてなかったよ」

 

垣根はご機嫌に笑う真守の頭を優しく撫でる。

本当にこの少女がいたから、自分はここまで来られたのだ。

そしてこの少女も。自分がいたから学園都市を掌握するに至った。

何でもできる、万能の塊の少女。そんな少女が自分の力を必要としてくれるのは、本当に嬉しいことだ。

 

「みんなが問題ない生活をしてるって分かったし。帰ろうか、垣根」

 

「そうだな」

 

垣根が頷くのを見ると、真守は人差し指を立てる。

絶対能力者(レベル6)である朝槻真守は万能だ。たとえ、垣根帝督が造り上げた避難用の体を使用していても、だ。

そのため真守が人差し指をくるっと回すと、真守と垣根はその場から姿を消した。

行き先はもちろん朝槻真守の神殿、第二学区にある『施設(サナトリウム)』だ。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

施設(サナトリウム)』内にある、朝槻真守の寝所。

そこで目を覚ました真守は、ゆっくりと体を起こす。

 

「さて。来客がいるようだし行かなくちゃな」

 

そう言葉を零す真守は学校指定のスクール水着を着ていた。

アイドル体型の真守がスクール水着を着用していると、妙になまめかしい。

隠されているからこそのエロがある。青髪ピアスたちが良く言っているが、それは的を射てる言葉であった。

 

「ちゃんとパーカー着ろよ、真守」

 

妙に煽情的な真守のすらりとした体躯。

それを露出してほしくない垣根がパーカーを寄越すと、真守はげんなりとする。

 

「……しょうがないな。垣根の言う通りにしてやる」

 

真守は垣根から受け取ったパーカーをいそいそと着る。

本当なら面倒なことこの上ないのだが、大熱波が始まった当初に真守と垣根はパーカーを着るか着ないかで既に押し問答を繰り広げている。

いま一度口論をするのは面倒だし、結局真守がパーカーを着ると折れなければならない。時間と労力の無駄である。

 

「ヘンタイが『施設(サナトリウム)』内にいるわけじゃないのに……」

 

真守がぼそっと呟くと、垣根は真守を睨む。

 

「なんか言ったか?」

 

「何も言ってない」

 

真守は即座にふるふると首を横に振って答える。

 

「さ、垣根。行くぞ」

 

真守はパーカーを着ると垣根と共に、ビーチサンダルでぺたぺた廊下を歩く。

そして会議室を改造して造られた謁見室にやってきた。

 

「お疲れさまなのです」

 

二つの長ソファとローテーブルが置かれている謁見室には、一人の少女がいた。

左胸にうさぎ模様がついた、つつましい胸を覆うビキニ。

前開きのピンクのパーカーを被った頭には、ウサギの耳のようなアンテナがついている。

ソファに置いてあるグレーのリュックにはぱんぱんに荷物が詰まっており、どこからどう見ても重そうだ。

 

「待たせてごめんな、府蘭」

 

府蘭という少女は上里勢力の一員だ。

上里が言うには首元にインプラントを埋め込んだ、自称UFO少女。巨大風船で空を飛んだり世界中の無線電波を蒐集したりする、いわゆる不思議系少女である。

上里と真守の間でやり取りをする際、だいたい彼女が『施設(サナトリウム)』に赴いている。

真守は垣根と共に、府蘭の向かいのソファにちょこんっと座った。

 

すると真守の身の周りの世話をしている繚乱家政女学校の生徒が食事を持ってきた。

真守は幼女真守で食事を摂ったが、本体ではまだ食事を摂っていないのだ。

府蘭に断りをいれて、真守はサンドイッチに手を伸ばす。

それを見ていた府蘭は真守が聞ける態勢を整えると、口を開いた。

 

「依然として、木原唯一の居場所はこちらではつかめてないのです」

 

エレメントを繰り出した元凶、木原唯一。

彼女の狙いは上里翔流だ。最愛の木原脳幹を奪った上里を、木原唯一は決して許さない。

上里勢力の女の子たちは、上里翔流をつけ狙う木原唯一のことを血眼になって探っている。だが学園都市に来て日が浅い彼らは、学園都市の隅から隅まで知っているわけではない。そのため今の今まで、木原唯一の影も尻尾も捉えられていない。

上里翔流はそれなりに真守のことを信頼している。だからこそ自分たちで木原唯一を探しながら、朝槻真守のところへ府蘭を派遣したりするのだ。

府蘭はむぐむぐとサンドイッチを食べている真守を見て、こてっと首を傾げる。

 

「そちらではどうです? 木原唯一への糸口は見つかっているです?」

 

「うん。でも今は動く時じゃないからな」

 

府蘭は真守の返答を聞いて、少しだけ目を細める。

 

「……すぐに動かないのは、学園都市を完璧に掌握するためですか?」

 

「そうだぞ。私と垣根の約束を叶える第一歩だ」

 

真守はにこっと微笑む。

朝槻真守は垣根帝督と一つの約束を交わしている。

それは学園都市の学生たちが全員、笑って過ごせる環境を造り上げることだ。

そのためには根本から、学園都市を変えなければならない。

 

「アレイスターは様々なアクシデントを利用して突き進んでいる。彼のように私は木原唯一とお前たちが引き起こした大熱波を利用して、学園都市の表を支配する。とても理に適っているだろう」

 

学園都市を変える。その第一歩として、学生たちを統括する存在になるのは非常に重要なことだ。

権力者は自分のことを支援してくれる人々がいなければ力を持てない。

学生たちがいなければ、学園都市だって成り立たない。それは当然のことだ。

 

その点で言えば、今回上里勢力が引き起こした大熱波は利用するに値するものだった。

既存のインフラ設備の崩壊。それにより、学生たちは無尽蔵のエネルギーを生み出せる真守に頼らざるを得なくなった。

そこで独裁じみたことをせずに民主的な統治ができれば、学生たちは真守たちをすんなりと受け入れることができる。

 

真守と垣根が学園都市を改革するための一歩。もう少し様子を見たいところだが、それでも現状は上手く行っている。

学生の中には役に立たない『大人達』の代わりに、真守が学園都市を運営していった方が良いと言う者もいるくらいだ。

 

「府蘭、お前が宇宙ステーションで引き起こしてる大熱波は裏の人間が頑張って表に仕込んだモノを全部吹き飛ばしてくれたからな。これで裏の人間が手を出せないほどに表の統率を取ってしまえば、裏の人間は手を出せなくなる」

 

学園都市には多くの仕掛けが存在している。

そしてその仕掛けは大体が科学技術で構成されている。

今回の大熱波はそれらを全て綺麗さっぱり破壊してくれたのだ。

裏の人間が手を出せない状態。この状態で真守と垣根が新たなインフラ設備を造り上げてしまえば、もうどうにもできなくなる。

 

「とはいっても、私が支配しているのは事実上なだけだ。学園都市の根幹は変わらずに、この街の王が掴んでる」

 

真守が鋭く目を細める中、府蘭は淡々と真守に問いかける。

 

「だから、機会を狙って統括理事長に仕掛けるのです?」

 

「そうだぞ。それしかない。ここで畳みかけないとな」

 

この学園都市は変わらずに統括理事長が握っている。

そのため真守はこの機に乗じて統括理事長、アレイスター=クロウリーへと攻撃を仕掛けようとしているのだ。

そしてアレイスターを陥落させて、この学園都市を変える。

かつて真守が垣根と約束した、『みんなが笑って過ごせる学園都市』というものを実現するために。だからぽっと出の上里勢力に邪魔されたら敵わないのだ。

 

「足並みをそろえてほしいから木原唯一の場所は言わない。でもそうすると、上里勢力の女の子たちは納得しないだろう。──だから、ヒントを与えてやる」

 

真守はニコッと笑うと、上里勢力の少女である府蘭に笑いかける。

府蘭は少し不服そうにしていたが、真守のヒントを聞くしかないと考える。

そのためくぴっと氷の入った麦茶を飲みながら、黙って真守の話を聞く態勢を整えた。

 

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