とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第九三話、投稿します。
ほのぼの回です(嵐の前の静けさ的な)


第九三話:〈最愛大切〉な人に囲まれて

一二月八日。朝槻真守の誕生日、その夜。

施設(サナトリウム)』では、真守の誕生日パーティーが開催されていた。

 

「真守ちゃんっ!」

 

真守に声を掛けたのは、もちろん源白深城だ。

真守はパーティー会場を見渡せる誕生日席に座っている。

謁見室の女王に見える真守。真守のすぐ横には垣根が立っており、その周りには林檎や弓箭、そして車椅子に乗った緋鷹と、アシュリンがクラッカーを持って立っていた。

 

「「「お誕生日、おめでと~!!」」」

 

一同の言葉と共にクラッカーが放たれて、色とりどりの紙テープや紙吹雪が舞う。

真守は自分のことを一身に祝ってくれる人々を目に焼き付けるように見つめる。

そして柔らかく微笑んだ。

 

「みんな、ありがとう」

 

真守が照れ笑いを見せながらお礼を口にすると、柔らかく拍手が巻き起こる。

初めてきちんとした日にちで祝う、自分の誕生日。

しかもパーティーが開かれるほどに多くの人が祝ってくれるのだ。

 

本当に幸せな事で、素敵な事だ。真守はそう思いながら、ふふっと笑った。

ハッピーバースデーの歌と共に、真守は誕生日ケーキの蝋燭の火を吹き消す恒例行事を行う。

それが終わると、人々はそれぞれでパーティーを楽しみ始めた。

真守は誕生日席から降りると、垣根と共にプレゼントの山の前までやってきた。

 

「こんなにプレゼントがたくさん……っ!」

 

綺麗にラッピングが施された、大小さまざまなプレゼント。

朝槻真守は少し前まで身寄りのない置き去り(チャイルドエラー)だった。

盛大な誕生日パーティーに加えて、これほど多くの誕生日プレゼントを貰う。

きちんとした誕生日も知らなかった真守。本当に、前の自分には想像もできないことだ。

 

「どうしよう、垣根。どれから開ければいいものか……」

 

あまりのプレゼントの大量っぷり。

真守は思わず、隣に立っている垣根のパーカーの裾をちょいちょいっと引く。

現在、学園都市は絶賛大熱波中なので冷房は最小限に抑えられている。

そのため会場にいる人々はみんなラフな格好か水着姿だ。

 

「気になるモンから開けりゃいいんだよ。これ全部お前のものなんだから」

 

垣根はプレゼントがありすぎて、困っている真守を見る。

真守の首には垣根帝督がプレゼントしたチョーカーが身に着けられている。

垣根はそれを見て満たされた気持ちになりながら、真守に笑いかけた。

 

「確かにこれ全部私のものだからな。それにいずれ全部開けることになるし……でも本当にどれから開けよう。一度にこんなにプレゼントをもらったことがないから目移りしちゃう……っ」

 

確かに普通の人間でも、これほどまでに誕生日プレゼントをもらったことなどないだろう。

そのくらい大小さまざまの誕生日プレゼントが並べられているのだ。

 

「真守ちゃん」

 

「深城」

 

真守は林檎と一緒に、自分と垣根用のジュースと軽食を持ってきてくれた深城に目を向ける。

 

「あたし、あの一番大きなプレゼントが気になるなあ」

 

深城が指を向けたのは、プレゼントの山の中で一番大きな箱だ。

迷っている真守のために深城が助け舟を出すと、真守は大きく頷いた。

 

「分かった。あの大きいヤツだな」

 

真守の身長の胸の高さと同じくらいの巨大なプレゼント。

真守はプレゼントのラッピングを綺麗に剥ぐ。

そして垣根の手伝いで、箱からプレゼントを出した。

プレゼントを見て、林檎は目をキラキラと輝かせてはしゃぐ。

 

「おっきい! おっきいテディベアだよ、朝槻!」

 

林檎の興奮する声が響く。

プレゼントの箱から出てきたのは、直立すれば真守の身長くらい全長があるテディベアだった。

ワインレッドの、顔が本当に綺麗に整っているテディベア。

それを見て、林檎の近くにいた弓箭が目を輝かせる。

 

「ふぁああかわいいですね! ねえ心理定規(メジャーハート)さん!」

 

「そうね。しかもどこから見ても手縫いだわ。……流石ね」

 

心理定規(メジャーハート)は遠目から見ても、丁寧に作られていると分かるテディベアを見て感心する。

高級な布を惜しげもなく使い、それを手縫いで縫い合わせる。

結構なお値段なことは確実だ。

 

真守は綿がきちんと詰まって、ずっしりと重いテディベアの両手を握る。

そして白い少年と黒髪の少年が目を輝かせる前で、控えめながらも真守はぎゅっとテディベアの胴体に抱き着いた。

高級な布は固い印象だが、きちんと柔らかくて肌触りがとても良い。

 

「それは僕からだよ。真守」

 

真守が顔を輝かせてぎゅーぎゅー抱き着いていると、銀髪碧眼のアシュリンと同年代の男性が声を掛けてきた。

マクレーン家次期当主として選ばれた、ランドンの弟の息子である。

つまりアシュリンにとっては従弟に当たる人物だ。

 

「ありがとう。とてもかわいい。うれしいっ」

 

真守がにぱっと笑ってお礼を言うと、次期当主は幸せそうに目を細めた。

 

「朝槻真守。私もぎゅーっとしたいぞっ」

 

「ボ、ボクもしたいっ」

 

真守のそばにいた白い少年、セイと黒い髪の少年、トモは真守にせがむ。

 

「うん。二人もぎゅーってしていいぞ」

 

真守が許可を出して二人が抱き着く中、林檎が手をパタパタ振って叫んだ。

 

「朝槻っ私も! 私もぎゅーってしたい!」

 

「うん。林檎もいいぞ」

 

真守から許可を貰った林檎は目を輝かせて、少年たちの輪に入ってぎゅーっとテディベアに抱き着く。ちびっ子三人が同時に抱き着いても余りあるくらい、テディベアは大きい。

真守はその様子を見て幸せそうに微笑を浮かべながら、垣根のパーカーの裾を引っ張る。

 

「垣根垣根。くまさんとてもかわいいなっ。最初からとても嬉しいプレゼントだ!」

 

「くまさんってなんだ。またかわいい言い方しやがって」

 

垣根が真守を見てくすっと笑うと、真守は目を見開いてから恥ずかしそうに笑う。

 

「深城がなんでもさん付けするから、口調が移ってしまうんだ」

 

深城はなんでもかんでもさんを付ける。しかもさんだけではなく『お』もたくさん使う。

おうどんやおそばしかり、イルカさんやペンギンさんしかり。

 

「あたしに釣られる真守ちゃんかわいい!!」

 

深城は自分に釣られる真守が愛おしくて、真守にぎゅっと抱き着く。

 

「むぐ。息が詰まる……っ」

 

真守は胸部装甲に顔を強制的に沈められて、むぐむぐ声を上げる。

 

「かわいい真守ちゃん。真守ちゃんはいつでもやっぱりかわいいねえ。ね、垣根さん!」

 

「そうだな」

 

「改めて言われると恥ずかしいから、そういうこと言うな……っ」

 

真守は深城に抱きしめられたまま、むぐむぐと文句を言う。

深城はご機嫌でにこにこ微笑んで、真守の首元を見つめる。

 

「垣根さんの所有物だっていうチョーカーも良く似合ってるねえ、真守ちゃん」

 

「はっきり言葉にするな、深城っ!」

 

真守は深城から頑張って逃れようとするが、離れることができない。

深城は幸せそうに目を細めると、つつつーっと真守のチョーカーに指を走らせた。

 

「っっ」

 

ちょっといやらしい手つきでチョーカーを撫でられて、真守はぞぞっと背筋が粟立ってしまう。

そんな真守を見て、深城は意地悪く微笑んだ。

 

「真守ちゃんは正真正銘垣根さんのモノなんでしょぉ? 別に隠す必要ないじゃない?」

 

「その通りだな、源白」

 

深城と真守を見ていた垣根は、ここぞとばかりに口を開く。

そして垣根は深城に抱きしめられている真守に近づき、その顎をくいっと自分に向けた。

すると垣根の視線から、真守のチョーカーが良く見えるようになる。

 

「良く似合ってる」

 

「うぅー……っ」

 

真守は顔を赤く染めて、ふるふると震える。

そんな中、パシャッと写真が撮られる音がした。

真守がきょとっと目を見開いてそちらを見ると、車椅子に乗った八乙女が写真を撮っていた。

 

「ひ、緋鷹っ!? なんで撮ってるんだ!」

 

「今日は私、撮影係なの」

 

柔らかい笑みを浮かべて車椅子に乗った緋鷹が言う中、真守は叫ぶ。

 

「恥ずかしいっ消してくれ!」

 

「あら。足の不自由な私を襲うのかしら、真守さん」

 

緋鷹がおどけて告げると、垣根は腕の中でじたばたしている真守へと甘く囁く。

 

「オイ真守。お前そんな性悪じゃねえよな?」

 

「ずるいっすごくずるいぞ、おまえたち!!」

 

真守は顔を真っ赤にして暴れる。

落ち着いた真守は顔を少し赤くしながらもプレゼント開封に戻る。

量が量なので、真守は深城や垣根、林檎たちと手分けしてプレゼントを開けていた。

可愛らしいジュエリーケース。いまは大熱波で必要ないが、白いマフラーと手袋。

 

真心が込められた、大切にしたい人たちからのプレゼント。

真守は自然と笑みがこぼれてしまって、にこにことプレゼントを開ける。

そして、真守は薄い箱に手を掛けた。

先程、この大きさと同じ箱には祖父がプレゼントしてくれたドレスが入っていた。

おそらくこの箱にも服が入っているだろう、真守はそう思いながら箱を開ける。

 

「なあっ!?」

 

真守は中に入っていた服を見て、バッと蓋を閉める。

 

その服とは、男を誘惑するためのベビードールだった。

 

この前まで男と付き合ったことがない無知な真守も、色々と勉強した。

そのため一目でわかった。あのすけすけの下着は完璧にベビードールだ。

真守は慌てて蓋を少し開けて、一緒に入っていたポストカードを取り出す。

そこにはプレゼントした人の名前が書いてあり、『アシュリン=マクレーン』と記載されていた。

 

『他の親族には内緒ね☆』

 

綺麗な筆記体で描かれたそれを見て、真守は顔を真っ赤にする。

これを着て垣根を楽しませろ。という事らしい。

 

(お、伯母さまぁぁぁあっ)

 

真守は涙目になって会場にいるであろうアシュリンを探す。

顔を赤くして、わたわたと慌てる真守。

それに気が付いた垣根は手にプレゼントを持ったまま真守に近づいてきた。

 

「どうした、真守」

 

「なっなんでもないっ何もなかったいいな聞くなよ!?」

 

「なんだよそんなに動揺して。マズいモンが入ってたのかよ。ちょっと待ってろ。これ確認したら見てや──」

 

垣根はそう言いかけて、自分が持っていた真守への誕生日プレゼントを開ける。

すると。

 

そこにはゲテモノメイド服が入っていた。

 

姫騎士ネコメイド。

英国製のゲテモノメイドで、姫騎士らしく甲冑を着ている。

だが甲冑の素材はてらてらしていて見るからに安っぽいし、甲冑と言いつつもちょろっとしかついていない。これでは確実に身を守ることなど不可能だ。

 

陳腐な甲冑の下に隠れているのはフリフリの超ミニスカートのメイド服。

しかもネコメイドと呼べるだけあって、上等な黒い猫耳と尻尾がついている。

真守と垣根はそれを見た瞬間、時が凍ったかのように動きを止めた。

 

「土御門のクソ野郎ォ!! どこ行ったァ!!」

 

こんな誕生日プレゼントを贈ったのは、土御門しかいない。

そう判断した垣根は即座に土御門を探す。

 

「真守に自分の性癖押し付けんじゃねェよ……!! あいつ、こんな時にまで遊びやがって!!」

 

空間をビリビリ言わせながら、垣根はこのプレゼントを真守に用意した極悪人、土御門元春の居場所を探す。

垣根がブチ切れる中、真守はほっと一息つく。

ゲテモノメイド服に気を取られたおかげで、垣根はアシュリンが贈ったベビードールに気が付いていないのだ。

一息ついた真守は少し興味が出て、姫騎士ネコメイドを箱から取り出す。

 

(この明らかに裾が短いパンチラ前提で作られてるメイド服、実用性ないだろ……)

 

かつて、神裂火織は堕天使エロメイドというメイド服を着ていた。

真守は一体どこの誰が何の目的で、デザインしているのだろうと真剣に考えてしまう。

 

「あの野郎、どこ行きやがった!! つーかいつの間にこんなの用意したんだよ!?」

 

垣根がカブトムシに指示を出して本気で探そうと思っていると、アシュリンが垣根に近づいた。

 

「土御門元春はわたくしが今使ってあげているの。後で追及するわ」

 

アシュリンはそう呟きながら、真守の持っているメイド服を見つめる。

 

「あら。これウチの国のブランドじゃない。……大切な姪にゲテモノ送りつけて。潰してやろうかしら」

 

「たぶん伯母さまにはブランド一つ潰すのは簡単だと思うけど、土御門が全力で悲しむからやめてあげてくれ」

 

真守は土御門のことを一応慮ると、いそいそとアシュリンに近づいた。

 

「というか伯母さま、なんてモノを私の誕生日プレゼントに選んだんだ……っ!」

 

「え? ベビードールのこと?」

 

「言葉にしないで、恥ずかしいっ!」

 

真守がコソコソ喋ってベビードールの事について訊ねると、アシュリンは柔らかく微笑んだ。

 

「女はテクニックも大事よ、真守ちゃん」

 

「うぅー服はテクニックに関係ないだろっ!?」

 

「関係あるに決まってるでしょ」

 

アシュリンはかわいらしい真守の鼻を、人差し指でちょんっと触る。

 

「ムードや服装だって男の人を悦ばすために重要なのよ。それに好きな女が愛らしい格好をしてたら、燃えるのが男という生き物よ」

 

「……か、垣根も?」

 

「当たり前よ。真守ちゃんに本気で惚れ込んでるんだから、すごく喜ぶわ」

 

真守はアシュリンに教えられて、むむうっと考える。

いつも優しくしてもらうばかりで、真守は垣根に何かしてあげたことがほぼない。

自分も垣根が喜んでくれる何かをするべきか。

真守が真剣に悩んでいると、アシュリンと真守に一人分の影がかかった。

 

「ん?」

 

顔を上げると、真守は顔を引きつらせる。

源白深城が目を輝かせている。

しかも『姫騎士ネコメイド』なるゲテモノメイド服をロックオンしているのだ。

真守がヤバッ、と顔を引きつらせる中、感極まった深城は叫んだ。

 

「かわいいっ!! これ着た真守ちゃん見たいっ!! 姫騎士さんで猫さんなんて、絶対にかわいいよぉ!!」

 

「いやあああ垣根ぇっ!! 深城を止めてぇ!!」

 

「ンなモン真守に着させるわけにはいかねえだろ、源白ォ!!」

 

垣根は深城から猫騎士メイドをひったくろうとする。

 

「いやだぁ! 真守ちゃんがかわいいメイド服着てる姿みたぁい!」

 

垣根からのひったくりをささっと避ける深城。

普段の深城からは考えられない反射神経だ。垣根は本気になっている深城を見て怒鳴る。

 

「源白、それこっちに寄越せ!!」

 

「やだぁやだぁ真守ちゃんに着てもらいたいっ!」

 

阿鼻叫喚に包まれる中、アシュリンはくすっと笑う。

真守は顔を真っ青にする。だが楽しそうにしているアシュリンとマクレーン家の人を見ると、困ったように微笑んだ。

まだまだパーティーは始まったばかりだ。

だから幸せな時間は、まだまだ続く。

 

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