土御門元春が用意した英国由来のゲテモノメイド服──姫騎士ネコメイド。
それを着てほしいという深城の猛攻から逃げるために垣根を生贄に捧げた真守は、会場の隅へと来ていた。
真守が逃げた先には、壁に寄り掛かってコーヒーを飲んでいた
一方通行はゲテモノメイド服を持って言い争いをしている深城と垣根を眺める。
もちろん深城が真守にゲテモノメイド服を着させたくて、垣根がどうしてもそれを止めたいという構図である。
「なンかオマエについてすげェ言い争いしてるみてェだけど」
「いいんだ
真守は真顔でふるふると首を横に振る。
するとバタバタと慌ただしい足音が聞こえてくる。
「あ! ミサカがおいしいごはんを取りに行ってる間にあなたが来てる! ってミサカはミサカは目を輝かせてみる!」
声を上げたのはもちろん
一方通行は打ち止めを見ずに、少し疲れた様子の真守を見つめる。
「うるせェのが来たから休めねェな」
「がーん! 最早ミサカはあなたの視界に入らない内から厄介呼ばわりされる存在になってしまったの!? ってミサカはミサカはおののいてみたり!」
そして打ち止めと一緒に
「パーティーに来てくれてありがとう、芳川。それとクロイトゥーネも」
真守が笑みを浮かべてお礼を告げると、芳川とクロイトゥーネは嬉しそうに頷く。
そんな中、
「あなたって実は貴族の人が身内にいたんだね、ってミサカはミサカは知らなかった事実に驚いてみる。一族総出でお祝いに来るなんてすごい愛情だね、ってミサカはミサカは感動してみたり!」
「伯母さまたちは英国の方で色々あって、ちょうど出国しなければいけなかったんだ。それでせっかくだから、私の誕生日を祝おうって学園都市に来てくれたんだ。……まあ、伯母さまの話聞いてると出国しなければいけない理由より私の誕生日を祝う方を重要視してるけど。……でも、すごくうれしい」
真守は会場にいる、マクレーン家の人々に目を向ける。
マクレーン家の人々は真守が自分たちへの対応に戸惑わないように、遠くから見守っていてくれる。
真守が手をフリフリと振ると、当主であり真守の祖父であるランドン=マクレーンが手を振り返してくれた。
「ミサカはあなたを大切にしてくれる人がいることはすごく良いことだと思うって、自分の気持ちを伝えてみる。あなたはとっても頑張っているんだから報われなくちゃ、ってミサカミサカは当然のことを口にしてみる」
「ありがとう、
真守は柔らかく微笑んで、自分の現状についてしみじみとする。
少し前までは自分の本当の誕生日すら分からなかった。
それなのにこうして親族一同に誕生日をお祝いしてもらい、大切な学園都市の人たちも招いてもらった。
本当に幸せな事で、そして今まで頑張っていた良かったと真守は本当に思った。
「真守ちゃん。お誕生日おめでとーです」
真守がしみじみしていると、
それは小さなピンクの花々の花冠だ。
真守は少しかがむと、クロイトゥーネに花冠を載せてもらう。
「ありがとう、クロイトゥーネ」
真守が柔らかく微笑むと、クロイトゥーネも嬉しそうに目を細める。
そして懐からジュエリーケースのような小さな箱を取り出して、真守に向かって放り投げた。
「わっ」
真守が柔らかくジュエリーケースをキャッチすると、
「……まァ、何だァ。いつもの礼だ」
「ありがとう、
真守が柔らかく微笑んで問いかけると、
真守がゆっくりとジュエリーケースを開けると、中には花をモチーフにしたピンキーリングが入っていた。
ペリドットという緑の宝石がついた、可愛らしいピンキーリング。
「ミサカも一緒に選んだんだよ、ってミサカはミサカは補足説明してみる。お誕生日おめでとう! って、ミサカはミサカはお祝いの言葉をあなたに送ってみる!」
「うん。ありがとう、
真守はにこにこと笑みを浮かべて、ジュエリーケースに入ったピンキーリングを見つめる。
そんな真守に、芳川が声を掛けた。
「私からはドライフラワーのブーケよ。長く飾っておけるから、飾ってくれたら嬉しいわ」
芳川は真守に可愛らしくピンクで整えられた、そのまま飾れるバスケットに入ったブーケを渡す。
「高価なものじゃなくてごめんなさいね。無職からすぐに脱却したら、またお祝いの品を買うわ」
真守は申し訳なさそうな芳川の前で、首を横に振る。
「別に高価なものが良いわけじゃない。私のために芳川が選んでくれたことがとても大切なんだ」
「……あなたならそう言うと思ってたわ」
芳川は柔らかく目元を細め、真守は幸せそうに笑う。
その様子を少し遠くから見ていた
「しっかし外は大熱波が来てるって言うのに随分な騒ぎっぷりね」
真守はぎゅっとプレゼントを抱えながら、現れた麦野率いる『アイテム』に声を掛ける。
「麦野。麦野も『アイテム』の子たちと来てくれてありがとう」
「呼ばれたら来るわよ。あなたに恩を売っておくのも悪いことじゃないからね」
麦野は綺麗に巻いた髪を振り払いながら告げる。その隣で何も羽織らずに海パンだけを穿いてる浜面仕上は、びくびくしながら真守を見る。
「あんたって
浜面が場違い感に震えていると、隣にいた絹旗がふっと笑う。
「超一般市民の浜面には超場違いすぎる場所ですね」
「ぐぅう言い返せない……ッそうだよセレブのパーティーなんて麦野じゃないんだし、俺には到底場違いな場所なんだよ……っ」
「大丈夫だよ、はまづら。私はそんなはまづらを応援してる」
いつもの調子の彼らに真守は柔らかく微笑む。
すると頬に食べかすを付けたフレメア=セイヴェルンが興奮した様子を見せた。
「浜面浜面っ! 新しい料理が出てきたから取りに行きたい! 大体全部食べ尽くさなきゃ気が済まない!」
声を上げるフレメアを見て、実は『アイテム』と一緒にいた黒夜海鳥がため息を吐く。
「また始まったぜコイツ……」
フレメアは黒夜の呟きを聞くことなく、
「にゃあ! おこちゃま! 決闘を申し込む! どっちがいかにパーティーを楽しめるか勝負だ!」
「む! いいだろう、その勝負受けて立つ! って、ミサカはミサカは宣言してみる! でもパーティーを楽しむって事はご飯をたくさん食べた方が勝ちって事じゃないってミサカはミサカは、」
「にゃあにゃあ! 御託を並べてる間に行動に出るべし! 浜面、れっつごー!」
「ちょ、引っ張んなって! しかもそっちには超セレブな人たちが固まってるし……っ!!」
浜面は嫌だ嫌だと言いながらも、フレメアに手を引かれていく。
「あ、話は最後まで聞けってミサカはミサカは……っ!」
フレメアに引っ張られる浜面を見て、不機嫌になる滝壺。
それに呆れながらも絹旗と麦野はついていく。
「ふふ。楽しそうだ」
真守が柔らかく微笑んでいると、
「まったく。ガキは体力が有り余ってンな」
「元気なのは良いことだ」
真守がにぱっと微笑を浮かべると、真守のもとへ特攻してくる少女がいた。
「まもりまもりー!」
「インデックス。楽しんでるか?」
真守が純白のシスター服に身を包んだ少女に声を掛けると、インデックスは両手にターキーを持ちながら頷く。
「ご飯、とってもおいしいんだよ! まいかが作ったんだよね? まいかのご飯の味がするんだよ!」
「うん。繚乱家政女学校の子たちに伯母さまが頼んだからな。舞夏も作ってくれたと思う」
真守がインデックスと話をしていると、肩にオティヌスを乗せた上条当麻もやってきた。
「朝槻、誕生日おめでとう」
「神人であれば歳など関係ないと思うが……まあ祝ってやる」
「ありがとう。上条、オティヌス。楽しんでるか?」
「ウン。ちょっと現実の貧富の差に打ちのめされそうになってるけど、せっかくのお祝いだしな! 楽しんでるぜ!」
誕生日がパーティーになる時点で苦学生、上条当麻は打ちのめされそうだが気を取り直して生ハムを食べる。
「あ。
「うん。ありがとう」
真守が上条から細長い包みを貰って笑顔で礼を告げると、その様子を見ていた
「食べながら渡すンじゃねェよ……」
「ふふ。年頃の男の子はこういうものを渡すのが照れくさくなるんだぞ、
真守が上条の気持ちを察して小さな声で
「そォいうモンかねェ……」
真守は微笑みながら上条からのプレゼントを開ける。
中にはシンプルな黒字に青の文房具セットが入っていた。気取ったものではなく、実用的なものを上条は選んでくれたのだろう。
「うれしい。ありがとう、上条」
「まもりまもり! 私はシスターさんとして、できることならなんでもするよ!」
インデックスが大口でターキーをかじりながら告げるので、真守は頷く。
「じゃあインデックス。この街の統括理事長・アレイスターのところに一緒に行ってくれ。アイツは間違うことなく稀代の天才魔術師、アレイスター=クロウリーその人なんだ。話をしに行くだけでも、魔術の専門家がいた方が心強いだろ?」
真守がにっこり笑顔を見せると、インデックスは目を瞬かせた。
「アレイスター?」
「うん。アレイスター=クロウリー。本名エドワード=アレクサンダー。『黄金』を瓦解させて、その後死んだと見せかけて日本に逃げのびた人間。そして日本にわたって学園都市を築いて、科学を統べる王となったアレイスター」
インデックスは真守の説明を聞いて、目を真ん丸と見開く。
「本当に『あの』アレイスター=クロウリーがこの街にいるの!?」
インデックスが驚愕で声を大きくする中、上条は首を傾げる。
「んん? 大熱波の原因の木原唯一はどうするんだ?」
「とうまは黙ってて! いま大切な話をまもりとしてるんだよ!!」
「にゃーん!」
「三毛猫にまで黙ってろって言われた!!」
上条はインデックスの懐に入った、多分あんまり分かっていない三毛猫にまで黙れと言われてショックを受ける。
上条はいじけた顔でぼそぼそと呟く。
「なんだよぅ。アレイスターさん家のクロウリーさんってのはそんなに有名なのか?」
「違ェよ。外国では手前が名前で後ろが名字だ。オマエ、そンなンで良く世界を相手にできるよなァ」
「……イギリス清教にはまだアレイスター=クロウリー用に部隊があるけれど、まさか本当に生きてるとは思わなかったんだよ……」
「うん。だからちょっととっちめに行こうと思って。上条は強制参加な」
「そうなの!? まあ、ここまで来たら乗り掛かった船だしお前が行くなら行くけど……」
普段、よく分からない問題に巻き込まれるのは御免だと叫ぶ上条だが、真守の頼みであるならば行かないわけにはいかない。
上条が真守のお願いを素直に受け入れる中、
(統括理事長。この学園都市を作った張本人。コイツやクソガキたちを苦しめる元凶)
『
そして実際に、その時が来たのだ。そして一方通行は成長した。
生きて彼女たちを守って、罪を贖う。それを始めるためにも、統括理事長とけじめをつけなければならない。
「また、危ないことするの? ってミサカはミサカは訊ねてみる」
よく分からない単語も飛び交っていたが、それでも一方通行が朝槻真守と一緒に戦いに向かうということだけは理解できる。そのため打ち止めは一方通行を見上げて訊ねたのだ。
一方通行は打ち止めの手を握ると、優しい眼差しを赤い瞳に乗せた。
「心配すンな」
「……うん、分かった。ってミサカはミサカは頷いてみる。怪我だけはしないでねって、ミサカはミサカは念を押してみる」
「アイツがいるのに俺がケガするわけねェだろ。ガキは大人しく待ってろ」
「あの人がいれば百人力だね、ってミサカはミサカは笑ってみる」
「あらぁ? 上条さんは朝槻さんに何をあげたのかしらあ?」
むぎゅっとふくよかな胸を上条の背中に寄せながら顔を寄せてきたのは、食蜂操祈。
「あ、食蜂。食蜂も来てくれてありがとう」
真守がお礼を口にしていると、両手にジュースを持った美琴が慌てて駆け寄ってきた。
「ちょっと! その馬鹿に会うたびに母性の塊押し付けるのいい加減に止めなさいよ!!」
「持ってるものならなんでもなんでも使うのが、女の子ってモノなんだぞ☆」
食蜂が横ピースをしている中、上条は何がなんだかよく分からずに食蜂の豊満な胸に気を取られている。
その様子に気が付いたインデックスは、バギンッとターキーの骨を喰いちぎった。
「とうまぁああああああ~~!!」
「わあああ不可抗力! 不可抗力だからインデックスさん、歯をガチガチ言わせないでぇ!!」
途端に騒がしくなった中、真守はくすくすと笑う。
「真守ちゃん何避難して楽しそぉにしてるのぉ!!」
真守は弾丸のように真守に抱き着いてきた深城の抱擁に、ぐえっと悲鳴を上げる。
「おい源白! まだ話は終わってねえぞ!!」
そんな深城を追って垣根が早足で近づいてくる。
真守は深城にむぎゅむぎゅと抱きしめられたまま、微笑む。
学園都市に来て、大切な人たちに会えた。
それがとても、真守は嬉しくて。そして同時に、どんなことにも代えがたい大事な奇蹟が起きていると感じていた。
朝槻真守は、本当に数奇な運命に翻弄されてきた。
だがそれでも、今は心の底から本当に幸せなのだ。
温かくて穏やかな世界の真ん中で真守がニコニコとしていると、それを見ていた少女がいた。
「ほら。誉望さんもせっかく朝槻さんのためにプレゼント用意したんだから行きましょうよー」
弓箭猟虎だ。弓箭は隣に立って顔を青ざめさせている誉望の服をちょいちょいっと掴むが、誉望は力なく首を横に振った。
「……いや。あの集団に入るのはちょっと……」
「あら。
「それもうほんっとうにバカなことしたと思ってるので、突っ込まないでください……」
誉望が弱弱しく呟く中、弓箭は誉望の事を引っ張って歩き出す。
「ほら! 朝槻さんが待っていますよ! こういう時には誉望さんにもそばにいてほしいって朝槻さんは絶対に思うんですから!!」
そう言われれば行かないわけにもいかず、誉望は弓箭に引きずられて魔の領域へと向かう。
そんな様子を見ていた
「本当に、おかしくなるくらい色々変わったわね。……ええ、でも。悪くないわ」
笑顔を向けてくるので、心理定規も壁に寄り掛かるのをやめて真守のそばへと近づく。
アシュリンは、マクレーン家の人々と共に真守が幸せに笑う姿を見ていた。
色々あったが、真守が幸せそうで本当に良かった。
アシュリンたちが見守る中。朝槻真守の初めての誕生日パーティーは、幸福な時間のまま滞りなく終了した。
幸せで満ちたこの瞬間。
この刹那を過ごせて本当に良かったと、真守は柔らかく微笑んだ。