とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

261 / 352
第九七話、投稿します。


第九七話:〈鏡中世界〉での邂逅

全てが銀色で彩られた世界。

その中心に立っているのは、銀髪碧眼の()()だった。

 

それは()りし日の姿をした、統括理事会アレイスター=クロウリーの幼い姿だ。

 

彼は、十字教の神を信じていなかった。

そんなアレイスターを憂いた敬虔な信徒である、彼の両親。

両親はアレイスターに信心深い信徒になってもらうべく、幼いアレイスターを厳格な寄宿学校へと入学させた。

 

親に強要された寄宿学校での生活。それはアレイスターにとって苦痛でしかなかった。

何故なら、彼は神に疑問を持っていたからだ。

神を信じないアレイスター。そんな彼を、寄宿学校の子供たちは責め立てた。

 

神を信じない者は悪だからだ。

そして神を信じていないからという理由で、アレイスターはつまはじきにされた。

ベッドに眠りにつく時、布団に手を入れるのはおかしい。

そんな些細な事でさえ、アレイスターは子供たちに責め立てられる。

 

しかも子供たちだけではない。

子供たちに告げ口された教師までもが、アレイスターの事を責めた。

 

本来ならばアレイスターは教師によって、子供たちの不当な処遇から守られる立場にある。

だが教師でさえ、彼の敵だった。

周りの子供たちを不安にさせたのだから謝りなさい、と教師はアレイスターに謝罪を求めた。

 

寄宿学校は、神を妄信して自らで考えることを辞めた人々で溢れていた。

彼らは自分たちこそ正しいのだと主張して、正しくないと定めた少数の者たちを攻撃する。

そんな寄宿学校へ入学させれば我が子も神を信じるようになるのでは、と安直に考えたアレイスターの両親もまた、神を妄信していた。

 

『神を信じ、正しさを振りかざす者たちですら、こんなにも醜態をさらすものなのか』

 

神さまに縋り、価値のない正義を振りかざす様はどうしたって醜い。

 

『ならばきっと、聖書を指先でなぞった先に真理はない。自己の思考を放棄し先人の教えを妄信した先に得るのは、あの醜悪さだけだ』

 

そして、アレイスター=クロウリーは決意する。

 

『だったら私が真理を見つけてやる。愚かなる妄信の果てに失われた、かつての道を取り戻す』

 

そこから。アレイスター=クロウリーの真理の探究は始まった。

アレイスターが幼いころに決意した姿。

まだ彼が違う名前──エドワード=アレクサンダーと呼ばれていた頃の様子。

それを、朝槻真守は見つめていた。

 

銀色で満ちた世界。その世界の地面にお尻を付けたまま、真守はぺたんと座っていた。

真守はアレイスターの幻影から目を逸らし、ゆっくりと顔を上げる。

そこには朝槻真守とよく似た女性が、空中に座って足を組んでいた。

 

銀色の輝く長い髪。髪と同じ色の、ふさふさな毛におおわれた猫耳。

ヴェールの向こうには、真守と同じ色の慈愛に満ちたエメラルドグリーンの瞳が隠れている。

 

スレンダーな凹凸の少ない体に纏われているのは、西洋喪服を模したスリットが深く入った銀のドレス。お尻から伸びる銀色の尻尾には、十字型の星のアクセサリーと共にレースのリボンが取り付けられている。

 

ペルシャ猫のような高貴な雰囲気を纏う淑女。

 

彼女はエルダー=マクレーンだ。

 

朝槻真守の先祖。純血のケルトの民。

何故、真守は銀の世界に囚われているのか。どうして昔の人間である、死んだはずのエルダー=マクレーンと対峙しているのか。

話は、木原唯一を撃破した直後にまで遡る。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

『窓のないビル』直下にある、広大な空間。

そこに、朝槻真守たちはいた。

広大な空間の床には、木原唯一が横たわっている。

真守は優しく木原唯一の頭を撫でてやると、そばにいる上里翔流を見た。

 

「上里。木原唯一は任せたぞ」

 

木原唯一は上里勢力の女の子たちを一人で相手できるほどの強敵だった。

だがそれだけだ。

超能力者(レベル5)三人、しかも一人が絶対能力者(レベル6)へと至っている真守たちを上里勢力と共に相手にすれば、木原唯一に勝ち目はない。

 

木原唯一も、真守たちに勝てないのは最初から分かっていた。

だがそれでも、木原唯一は自らの復讐を遂げなければならなかった。復讐者となり果てた木原唯一は今更止まれなかった。

 

最愛の『先生』。

ゴールデンレトリバーの体躯を持ちながらも、知性とロマンに溢れた男──木原脳幹。

彼を冷凍保存するしか選択肢が無くなったほどに痛めつけた上里翔流を、木原唯一はどうしたって許すことができなかった。

 

だから戦った。

結果、朝槻真守の手によって深い眠りへと誘われた。

かつて。学園都市を襲撃した前方のヴェントは夢の中で、朝槻真守に諭されたことがあった。

木原唯一もいま同じ状況にいる。夢の中で、真守と対話しているのだ。

上里翔流は深い眠りについている木原唯一を見下ろす。

 

「彼女は魔神への復讐に燃えていた僕の後輩だ。復讐者はそう簡単に復讐を捨てられない」

 

上里は理想送り(ワールドリジェクター)が宿った自身の右手を、クーラーボックスへと仕舞いながら口を動かす。

魔神への復讐心という強い芯を失った上里翔流は矛盾の塊だ。

そのため当然として、理想送りは上里翔流に牙を剥く。

だから上里翔流は理想送りを自分の腕に取り付けることができない。それでも理想送りを他の誰かに押し付けないために、上里は自分の腕を厳重に保管しておくことにしたのだ。

上里はクーラーボックスの蓋を閉めながら、朝槻真守に微笑みかける。

 

「復讐者は絶対に止まれない。でもキミは復讐者に復讐を捨てさせるだろうね。僕のもとにダウングレードした魔神たちを向かわせてきた時のように。キミは復讐者に対して、最適な答えをくれるだろう。──復讐に囚われないで、前に進む答えを」

 

「ふふ」

 

真守は木原唯一の頭を撫でて、立ち上がって上里を見た。

 

「お前たちは自分で答えを出しているんだ。私はただその機会を与えているだけ。私の救いとはいつだってそういうものだ」

 

朝槻真守は救いを求める者に手を差し伸べる。

だが真守は選択肢を与えるだけだ。

その選択肢から自分の望む未来を選ぶのは、当人に決定権がある。

正しい答えを真守は与えるが、その正しい答えを選ぶかは本人の自由なのだ。

 

「……普通ならば与えられないはずの、誰もが前に進むための機会。その機会を与えらえるからこそ、私のことを守りたいと想ってくれる子たちがいるんだ」

 

朝槻真守の救いはただ解答を提示するだけだ。

それを本当に選ぶのかは、その人の手に委ねられる。

だからこそ『(しるべ)』の少年少女は真守のことを神と認めた。

何故なら真守の導きがあれば、神さまへ至るのだって自由なのだ。

誰にも隷属する事のない、なりたい自分になれる自由を手に入れられるのだ。

 

「……だからこそ、キミの存在はとても怖いんだけどね」

 

上里翔流は呟きながらクーラーボックスを抱え上げた。

 

「木原唯一のことは僕たちが責任をもってキミの神殿に連れて行く。キミたちはまだやるべきことがあるんだろう。だから行くといい」

 

「ありがとう、上里」

 

真守が上里翔流に礼を告げると、上里は歩き出す。

大切な少女たちを連れて、遺恨を全て晴らした少年は歩き出す。

少女たちに見合う男になるために。

このありふれたもので満たされる美しい世界で、燦然と輝くために。

上里翔流は、歩き出した。

 

「さて。行くか」

 

真守は上里から視線を外して一同を見た。

上条当麻、オティヌス。インデックス。

一方通行(アクセラレータ)、垣根帝督。

 

協力者である土御門元春はここにはいない。

アレイスター=クロウリーのスパイでもある彼が前に出るのは好まれないからだ。

そして同じスパイである烏丸府蘭と共に、土御門は後方支援に回っている。

エレメントという異形の脅威がいなくなった今、やることはたんまりとあるのだ。

 

「インデックスはともかくとして。俺はどうやって『窓のないビル』に潜入すりゃいいんだ?」

 

上里を見送った上条当麻は、天井に空いた大穴を見上げる。

そこには『窓のないビル』を旅立たせるためのロケットブースターが垂れ下がっていた。

だが、今はない。

 

木原唯一が最終手段としてロケットブースターを点火したため、真守が源流エネルギーで消し飛ばしたのだ。

丁度『窓のないビル』にも潜入したかったので、真守はこれ幸いとして大穴を開けた。

 

あの穴を通って行けば、『窓のないビル』内部に入れる。

そしてアレイスターのもとへとたどり着くことができる。

だが問題は行き方なのだ。

 

あんなバカでかい大穴まで飛べる一方通行(アクセラレータ)や垣根、真守は良い。

そしてインデックスは三人に能力で運んでもらえばいい。だが異能を打ち消す右手を持っている関係上、上条当麻はそう簡単にはいかない。

途方に暮れている上条当麻。真守はそんな上条とインデックスを手招きする。

 

「インデックス、腰に手を回すぞ。上条は左手で私と手を繋いで」

 

真守はインデックスの腰を抱き寄せてしっかりと持ち、上条の左手と手を繋ぐ。

真守が上条と手を繋ぐ際、垣根帝督はすごい嫌そうな顔をした。

だが四の五の言っている場合ではない。

真守は垣根に目を向けて一度微笑むと、大穴を見上げた。

 

「舌噛むから口を閉じるんだぞ。オティヌスはちゃんと上条にしがみつくこと。──行くぞ」

 

真守はその声掛けと共に、ぐぐぐっと足を曲げてジャンプする姿勢を取る。

まさか脚力だけであそこまで行くの? と上条が懸念する中。

真守は上条当麻の懸念通りに、大跳躍をかました。

 

腕が引っこ抜かれるかと思った。

上条当麻は大穴の中から『窓のないビル』に入って、地面に四つん這いになりながら肩ではーはーと息をする。

 

「大袈裟だな、上条。お前は空中飛ぶなんて何回もやってるだろ」

 

C文書をどうにかするべくアビニョンに赴いた時、上条はスカイダイビングをした。

そして第三次世界大戦の終盤には、ベツレヘムの星から北極海にダイブした。

これまでのことを考えれば、絶対能力者(レベル6)である朝槻真守の大跳躍は極めて安全で危険性なんて皆無である。

 

「そ……そんなのとは比べ物にならない……っ生身で、生身で飛ぶって……っ」

 

「確かに生身で飛んだけど、体内のエネルギーを弄って諸々の身体強化はちゃんとしてるぞ。絶対能力者(レベル6)の体だけど、普段は人間と同じポテンシャルにしてるからな」

 

つまり場合によっては体のポテンシャルを大幅にアップすることができるということだが、上条は絶対能力者(レベル6)の万能性が想像つかないため分からない。

そんな上条たちのそばに、一方通行(アクセラレータ)と垣根はそれぞれ出した翼を使って悠々と降り立った。

 

「天井がバカ高くなってるよォに見えるのは俺だけじゃねェよな……」

 

一方通行(アクセラレータ)は『窓のないビル』内部を見上げながら呟く。

『窓のないビル』の面積はそこまで広くない。せいぜい学校の体育館を四つ並べて、壁を取っ払ったほどの大きさだ。

 

だが縦の高さは違った。

見上げたら天井なんてまるで見えない。どこまで続いているか分からないくらいの高さが『窓のないビル』にはあるのだ。

 

外から見た『窓のないビル』はそこまで高い建物ではない。

だが内部に入って見れば、よく分からない状態になっている。

 

真守は『窓のないビル』内部を見回す。

内壁には昇ってくださいと言わんばかりに階段やエスカレーター、エレベーターなどが取り付けられている。

 

「ふむ。無理やり内部空間を引き延ばして目的座標との接続を図っているのか。ユークリウッドを超えたおかしな空間構造だな」

 

絶対能力者(レベル6)として、朝槻真守は『窓のないビル』を分析する。

そんな真守の隣で垣根帝督は両手をポケットに突っ込んだまま、辺りを興味深そうに見回しながら笑う。

 

「しっかし科学信仰の街の中心に魔術を使った塔があるとか、随分と皮肉が効いてるじゃねえか。ワクワクするぜ」

 

「そもそも科学の長が稀代の魔術師ってトコから破綻してるがなァ」

 

垣根の言葉に応えたのは一方通行(アクセラレータ)だ。

一方通行は変わらずに杖をついており、杖に体重を掛けたまま垣根と共に辺りを見回す。

魔術の専門家、インデックスもまた辺りを見回していた。

 

「セフィロトでも、クリフォトでもない……これじゃまるで一から独自に築いた第三の樹みたいなんだよ」

 

真守はインデックスの呟きを聞いて、首を傾げる。

 

「インデックス、第三の樹とは?」

 

真守が問いかけると、インデックスは滑らかに説明する。

 

「まもりも知ってると思うけど、まず世界の縮図として生命の樹と邪悪の樹があるんだよ。……生命の樹は神さまや人間の身分の階級表。そんなセフィロトとは対照的に、人間の負の感情を表すのが邪悪の樹なの。下に落ちれば落ちるほど、クリフォトの悪魔に近づくとされる」

 

生命の樹。邪悪の樹。それに続く、第三の樹。

 

「第三の樹は二本の樹に属さないものなんだよ。神さまが創造した二本の樹とは違い、人の手で制御できる可能性がある。これはその制御をもくろんだ結果だね」

 

「……なるほど」

 

真守は樹に例えられた、どこからどう見ても建物である『窓のないビル』を見上げる。

 

(そういえば私ってどこに属しているんだろう)

 

朝槻真守は、ふと疑問に思った。

生命の樹によって明確に区分分けされているため、人は神へと至ることができない。

だからこそ偶然にも引き起こされてしまった大魔術──『御使堕し(エンゼルフォール)』が発動した時、天使が落っこちてきた衝撃で人々は中身と外見がバラバラになってしまったのだ。

 

朝槻真守はその時、人だった。

だが今ならば、おそらく『御使堕し(エンゼルフォール)』が発動しても自分だけは何の影響も受けないだろう。

神人(しんじん)と呼ばれる場所にまで至った自分は、一体どこに立っているのだろう。

神が設立した生命の樹と邪悪の樹から外れた存在である自分は、一体どのような存在なのだろう。

 

(……おそらく、宙ぶらりんな状態なはずだ)

 

真守は一人、自分の現在について考える。

朝槻真守は自身を定めていない。

だから一人だけ宙に浮いている状態で。地に足が付いていない。

 

それは遺伝子という系統樹でまとめられている生物と繋がりがないということだ。

特異点として突然生まれた点。それが今の朝槻真守なのだ。

それこそが絶対能力者(レベル6)。神ならざる身にて天上の意思に辿り着く者。

系統に囚われない、自由で万能なる存在。

 

(私は人だ。完璧な存在になったとしても、人間の部類に入る。……人の手でまだどうにかできる。それが第三の樹。……だから、おそらく)

 

真守は第三の樹のようだとインデックスが表現した『窓のないビル』を見回す。

 

(私がその第三の樹の頂に鎮座する人々の目標になるのだろう。私にはその資格がある)

 

真守は目を細めていたが、上条が落ち着いたようなので気を取り直した。

 

「上条も落ち着いたし、昇るか。昇ってくださいと言わんばかりに階段がたくさんあるしな」

 

「階段を使わせてくれるんですよね……?」

 

上条が再び跳躍することになるのかと身構えると、真守は『窓のないビル』の内壁を見る。

階段やエスカレーター。ありとあらゆる上昇を促すもの。

その中にはエレベーターもあった。

 

「エレベーター使おう。私が乗っ取る」

 

真守はとてとて歩いて、エレベーターに近づく。

そしてぽちっとボタンを押しと、真守は頷いた。

 

「普通のエレベーターみたいだ。妙な干渉はない」

 

真守は安全だと判断すると、上条たちは真守と共にエレベーターを待つ。

やがてエレベーターが到着して、扉が開く。

 

「え?」

 

危険がないか確認するために、真守がまずエレベーターに足を踏み入れた。

その瞬間、上条当麻が声を上げた。

 

エレベーターの中には鏡があった。

姿見としてエレベーターに置かれている、よく見る縦長の鏡だ。

その鏡には最初にエレベーターに足を踏み入れた、朝槻真守が映し出されていた。

 

鏡の中の真守と、上条の目が合う。

そして鏡の中の真守が、ゆっくりと笑った。

だが当の本人である真守は笑っていない。

鏡の中の自分が笑っているので、真守はきょとっと目を見開いている。

 

『さあ。始まるぞ、我が血族』

 

その言葉が響く中、鏡の中から白いほっそりとした腕が飛び出してきた。

そして真守の手を強く掴む。

 

『ワタシたちのあの日々の再演が』

 

その言葉と共に。ゾゾゾゾゾ──と、鏡から銀色の光が濁流のように溢れた。

眩しさに、目がくらむ。

朝槻真守は鏡の中に引きずり込まれ、その光景を目にしていた。

アレイスター=クロウリーが決意する様子だ。

 

そして()りし日に何があったか。映像は落ち着く暇なく展開される。

長い長い、アレイスター=クロウリーの挫折と苦難の日々。

その上映は、まだ始まったばかりだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。