とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第九八話、投稿します。
次は五月二九日月曜日です。


第九八話:〈銀猫先祖〉は真相を口にする

『鏡の中を覗き込めば、鏡の中の世界に囚われる。そう感じたことはないか?』

 

朝槻真守にそう問いかけてくるのは、一人の淑女だ。

 

自信たっぷりな表情。小さい唇に、可愛らしく尖った小鼻。

ヴェールの向こうに見え隠れする、エメラルドグリーンの大きな瞳。

西洋喪服を模した銀のドレスに、ガーターストッキングとピンヒール。

あどけない顔つき。高貴なペルシャ猫のような出で立ち。

 

彼女はエルダー=マクレーンだ。

 

つい先日、真守がA.A.Aに触れたことで見た夢に出てきた女性だ。

だが真守が見た夢と、目の前のエルダーは出で立ちが異なる。

 

銀の猫耳と尻尾が生えているのだ。

しかも尻尾にはレースに彩られたリボンと、銀色の十字の星のアクセサリーがくっついている。

時折、ぴこんっと震える猫耳。ゆらゆらと気まぐれに揺れる尻尾。

真守はその様子に呆然としていたが、小さな口を震わせた。 

 

「ど、……どうして……っ」 

 

真守はエルダー=マクレーンの頭部とお尻を交互に見てから叫ぶ。

 

「どうしてご先祖さまに猫耳と尻尾が生えてるんだ?!」

 

愛らしい、はっきり言って似合いすぎているエルダーの猫耳と尻尾。

驚きの声を上げる真守を見て、エルダーは得意気にふんっと薄い胸を張った。

 

『ワタシは高貴なペルシャ猫のようだと言われた者だぞ。猫耳と尻尾が生えていたって何も問題はない』

 

「問題ないのか?! 嫌じゃないの? もしかして猫耳と尻尾が生えているのはあの人間のせいか?! 人のご先祖さまに勝手に猫耳尻尾生やして利用するなんて、極悪人だぞっ!」

 

真守は勝手に猫耳尻尾を生やされて使役されているらしいご先祖様を見て、統括理事長様に可愛らしくぷんぷん怒りを向ける。

エルダーは正当な怒りを見せている真守を見つめて、にやっと笑った。

 

『そういうオマエだって猫耳を髪の毛で作っているではないか。ふむ、東洋の血が混じることによってペルシャ猫が黒猫になるとは。なかなかおもしろいな』

 

「お、面白いのか? ……髪型は大切な女の子が私に強要したのが習慣になっちゃっただけで、別に黒猫自称してないケド」

 

すっかり真守のトレードマークになっている猫耳ヘア。

だがもとはと言えば、深城が真守にお願いして、真守が渋々結んでいた髪型なのだ。

真守はエルダーを警戒して、艶やかな黒髪でできている猫耳ヘアをガードする。

そんな真守を見て、エルダー=マクレーンは嬉しそうに目を細めた。

 

『ふふ。オマエが愛しい少女に請われてその髪型にしていることは知っておる』

 

真守はエルダーの柔らかい笑みを見て、戸惑ってしまう。

そんな真守を見て、エルダーは興味深そうにニヤッと微笑んだ。

 

『黒猫を自称しなくとも、自分が黒猫っぽいのは理解しておるのだろう。その証拠に自分の所有物だと最愛の男にもらった首輪を大事につけておる。飼いネコだな、飼いネコ』

 

「首輪言うなっ! 飼いネコじゃないっ!」

 

真守はなんだか恥ずかしくて、首をばっと両手でガードする。

 

真守はエルダーの指摘通り、垣根から誕生日にもらった黒いチョーカーを首に着用している。

せっかく垣根にもらった誕生日プレゼントなので、真守は制服にチョーカーを合わせているのだ。

 

エルダーは真守の様子が愛らしくて、くすくすと笑う。

真守はそんなエルダーをじっと見上げた。

 

「……エルダーさまは、エルダーさまじゃないよな?」

 

まるで学園都市で暮らす自分の事を、ずっと見守っていたような発言をするご先祖様(?)。

真守がエルダーに問いかけると、ご先祖様らしき淑女は優雅に微笑む。

 

『本物とはなんだろうな、真守』

 

真守は困惑したまま妖艶に微笑むエルダー=マクレーンを見上げる。

 

『むしろ世の中にはまがい物の方が多いように見える。だがソレを人々は知らず知らずの内に心のよりどころをしている。そしてそれが本当は偽物だと知ったら、当然として騙されていたと怒り、喚き散らす』

 

エルダー=マクレーンはすらりとした足を空中で組み直して、真守を見下ろす。

 

『本物や偽物。そんなものは人々にとってはどうでも良いのだ。もちろん、ワタシもだ。ただ一時でも心が預けられて、幸せになれればそれでいい。何故なら偽物だって偽りであると知られるまでは本物なのだ。本物と偽物。それを論じることにあまり意味はないだろう?』

 

「……つまり私がエルダーさまのことを偽物だと思っても本物だと思っても、エルダーさまにとってはあんまり関係ないってこと?」

 

真守が口をむむっと尖らせながら問いかけると、エルダー=マクレーンは柔らかく微笑む。

 

『そうだ。オマエは本当に物分かりが良いな、真守。……本当に、心配になるほどにな』

 

エルダー=マクレーンは空中で足を組むのを止めると、真守がお尻をぺたんと付けている地面へと降り立つ。

コツコツ、とピンヒールが響かせて、エルダーは膝を折る。

そして西洋喪服を模した銀のドレスから衣擦れの音をさせながら、真守の頬に手を添えた。

 

『偽物や本物が多く混じるこの世で、オマエだけは本物であり、唯一無二なのであろう。一人の人間として完成されるに至ったオマエは、他に替えが利かない唯一のモノだ』

 

柔らかいレースの手袋に包まれた、エルダー=マクレーンの小さな手。

真守はその手で撫でられて、そっと目を細めた。

知っている手だ。

アレイスターとご先祖様の夢を見させられた後、自分のことを優しく撫でてくれた手だ。

 

「……エルダーさまは、どうして猫耳と尻尾を生やしてここにいるんだ?」

 

真守は優しく頬を撫でてくれる、エルダーの手を感じながら寂しそうに問いかける。

 

『ワタシはエルダー=マクレーンを再現した魔導書の「原典」だ。正式名称は問答型思考補助式人工知能──リーディングトート78。思考中枢にエルダー=マクレーンの全てと共に、七八枚で構成されたトートタロットが組み込まれておるのだ』

 

「……それで?」

 

真守が首を傾げると、エルダー=マクレーンを模した魔導書の『原典』は告げる。

 

『ワタシが全ての始まりだからだ、真守』

 

真守は無言でエルダー=マクレーンの言葉の続きを待つ。

黒い高級なチョーカーをつけた、お行儀の良い飼い猫のような真守。

そんな真守を愛おしげに見つめて、エルダー=マクレーンは柔らかく微笑む。

 

『オマエは東洋の血が混ざっているし、東洋に住んでおるからな。理解し辛いと思うが、欧米人は自分の物差しで測れなくなると、他のものを利用したがるキライがある』

 

「レイヴィニア=バードウェイが妹のパトリシアを助けるために、暗黒大陸特有の術式に手を出したのと同じ事か?」

 

真守が問いかけると、エルダー=マクレーンは頷く。

サンプル=ショゴスに寄生されたパトリシア=バードウェイ。

真っ当な魔術師であるレイヴィニアは手持ちのもので妹を助けられないと知ると、様々な魔術へと手を伸ばした。自らを犠牲にしてでも、妹を救おうとした。

 

最終的にサンプル=ショゴスは真守と垣根由来のものであったため、レイヴィニアは自らを犠牲にしなくて済んだ。

だがレイヴィニアのように、欧米人は往々にして、自分に足りないものを他の体系の技術によって補うきらいがある。

 

『イギリスには、古くより我らがケルトが強く根付いていた。聖書をなぞっても真理がないとアレイスターが察すれば、身近にあるものに目を向けるのは当然であろう?』

 

アレイスター=クロウリーは聖書では解明できない真理にぶち当たったため、外の技術であるケルトを頼った。

だがケルトの民はケルトの技術を部外者に暴露したりしない。

どこの馬の骨とも知れないアレイスター=クロウリーに、ケルトの門を叩く権利はない。

半分東洋の血が混じっている真守だってケルトの口伝を聞く権利はないのだ。

だからアレイスター=クロウリーは最終的に、エジプト神話にエッセンスを求めた。

 

『ケルトの民の一人がアレイスター=クロウリーと交流を続けていたのだ。ケルトの民の口伝を聞かせることがなくとも、友人として話をしていたのだ』

 

真守は黙ったまま、エルダー=マクレーンを見上げる。

エメラルドグリーンの無機質な目を向けると、エルダーは同じ色の温かな瞳を優しく細めた。

 

『ワタシはケルトの民の中でも先進的な方だった。あらゆる分野に首を突っ込んでは興味を持ち、見聞を広めていった』

 

エルダー=マクレーンは真守の瞳を見つめながら、ゆっくりと教え聞かせるように言葉を紡ぐ。

 

『ワタシがアイツに「黄金」について話した。そういう魔術結社が数多くあると、ワタシはあらゆる会話をアイツとした』

 

エルダー=マクレーンは自らの血族を前にして、過去に思いを馳せる。

もう二度と戻ってこない日々を。輝かしい日々を。懐かしい日々を。

 

『ワタシがアレイスター=クロウリーの挫折の始まりを定めた。そしてワタシはアイツを一生許さないと告げた。止まったワタシを置いて前に進み続け、悲願を叶えよと。だからアイツはトラウマと安寧をいっぺんに得るために、ワタシをトートタロットのガワに選んだ』

 

ワタシとアイツは友だった。

世界について語り合った、友だったのだ。

どこまで行っても人間なアイツに、友の一人がいてもおかしくないだろう。

なあ、我が子孫。我らケルトが望んだ永遠を秘めた少女よ。

 

「………………我ら、ケルトが望んだ……?」

 

真守はエルダーの口から飛び出した言葉に、きょとっと目を見開く。

エルダーは真守の頬から手を離すと、再び浮き上がった。

 

『おかしいと思わぬか? ……いいや、おかしいとは思わなかったのか。何故ならオマエは科学からしかモノを見ておらなかった』

 

「どういうことだ? 何の話をしているの?」

 

真守が矢継ぎ早に問いかけると、エルダーはゆらりと尻尾を揺らした。

 

『オマエがテーブルのシミだと表現した科学の無垢なる概念の子らは、オマエに唾を付けたに過ぎない』

 

エルダーが言っているのは、真守のことを神として必要とした者たちのことだ。

真守が魂を創り上げ、垣根に体を造ってもらった彼ら。

世界が何度も何度も造り替えられても、決して変わらなかった人間の純粋な部分。

白い少年や黒髪の少年としてこちらに生まれ出でた彼ら。

そして、まだあちらの世界にいて生まれ出るのを待っている者たち。

 

『元々オマエには素質があったのだ』

 

真守は目を見開き、硬直したままエルダーの紡ぐ言葉を聞く。

科学の結晶として、一つの世界の頂点として完成された朝槻真守。

すでに完成された存在である真守。だからこそ、真守は考えが及ばなかった。

 

科学の頂点ではなく、他の視点から──ケルトから見た自分という存在は何なのか。

 

一つの世界において完成された真守は、自分のことを科学の世界の物差し以外で測ったことがなかった。測ろうとなんて、その考えそのものが抜け落ちていた。

 

(だって、私はケルトの血を受け継いでいても、ケルトの一員にはどうしたってなれないから……)

 

ケルトの血を受け継ごうが、混ざっている自分はどうしたってケルトの一員になれない。

だからこそ朝槻真守は、ケルトにとって自分の存在とはまがい物でしかないと考えていた。

 

自分の考えが及ばなかったことについて言及され、困惑する真守。そんな真守に、エルダーは優しく言葉を掛ける。

 

『オマエの科学サイドにおいても、純然に輝きたるその素質。その素質に科学の者たちは目を付けた。そして彼らはオマエに縋り、自らの神へと至らせるためにオマエを加工した』

 

朝槻真守はあらゆる全てを内包して生まれた。

神さまになるために必要なものを、全て兼ねそろえて生まれた。

その全てを持って生まれたのは、真守のことを神として必要とした者たちの介入があったからこそだと真守は思っていた。

 

だがそうじゃないと。朝槻真守があらゆる素質を持って生まれたのはケルトの由来のものだと、エルダーは言っているのだ。

多くを兼ねそろえて、母の胎内に抱かれていた朝槻真守。そんな真守に『彼ら』は手を出して、自分たちの神になれるように手を加えたのだ。

 

『なあ、我らが混ざりものにして真なる者よ』

 

かつて『黄金』の魔術師はエルダー=マクレーンに予言を伝えた。

 

いずれマクレーンには、完全なる精神に完全なる肉体を得た、永遠を司る真なる者が生まれると。

 

その予言を、真守の祖父であるランドンはエルダーから聞いていた。そしてその予言は真守の伯母であるアシュリンにも語り継がれた。

その予言の通り。神さまになれるほどにすべての素質を兼ねそろえた朝槻真守が生まれた。

 

人間であり真なる者へと至った朝槻真守。

科学の申し子たちに縋られ、手を出されて弄られて。科学の神へと至った真守。

そんな真守を見つめて、エルダー=マクレーンは微笑む。

 

『何故ケルトの民は輪廻転生を信じ、魂は流転するものであり、死などはただの通過点だと断じて、魂の永遠性に縋りつくと思う?』

 

ケルトの民は輪廻転生を信じ、死ですらも通過点だと考える。

そして魂と宇宙の永続性を求め続け、それを体現しようとする。

 

自分がケルトにゆかりがあると知り、真守も色々調べた。

だが結局のところ、真守が調べた資料が本物だとは限らない。

何故なら。

 

「ケルトは全てを口伝で伝える。だからどんなに書物を読み漁っても、それはケルトの民ではなく第三者が遺したもので、推測の域を出ない。……純粋なケルトではない私は、口伝を聞く権利がない。だからケルトがどうして魂や輪廻転生を尊ぶか分からない」

 

ケルトは全て口伝によって教えを伝える。そして口伝には文字を使ってはならない。

もし文字を使うのであれば、自らが生み出したものを使わなければならない。

 

ケルトの民はこの世に、自分たちに関するものを書物として残す習慣がない。

そのためケルトの民の在り方についてまとめられた資料は、ケルトの民ではない、第三者が取りまとめた書物なのだ。

 

その在り方からして本当のケルトについては、インデックスさえ知らないだろう。

彼女が知っているのは第三者が記した書物に書かれたケルトを、イギリス清教式に整えたものだ。

 

誰もケルトが本当の意味で、どんな教えを守っているか知らない。

純血のケルトではないものに口伝を聞く権利はないから。

魔導書などには書いていない。俗世の人間が知らない本当のケルトの在り方。

 

「私には東洋の血が混じっているから。……だから、ケルトのことを聞くわけにはいかない」

 

純粋なケルトの民ではない朝槻真守は、その口伝を聞く権利がない。

だから真守は自分から率先して、伯母にマクレーン家の話を聞こうとしなかった。

ケルトの口伝を聞く権利がない真守は、自分がどこまで聞いていいのか分からない。

だからマクレーンの人たちを困らせたくなくて。真守は一度だって自分から率先して、ケルトについて聞いたことがない。

 

「血に混じりがある私のことを、マクレーン家の人が家族として見守ってくれることすら奇蹟的なんだ。だから、困らせたくない」

 

普通ならば。混ざり者であるならば忌避され、排斥されそうなものだ。

だがアシュリンたちマクレーン家の人々は朝槻真守のことを大切に扱う。

 

何故そこまで自分のことを許容し、愛してくれるのか。

真守は伯母たちに、どうして自分に優しくしてくれるのか聞きたいくらいだ。

 

だが口が裂けても何があっても、真守はその疑問を口にしない。

自分のことを愛してくれるマクレーン家の人々を困らせたくないから。

だからケルトのことも、真守は自分から一生聞かないつもりでいた。

 

『ワタシたちケルトは、いずれ世界が終わると知っている』

 

エルダーは真守に聞かせても問題ない、書物を調べればケルトが何を信じているかおおよそ考えられる推察を真実として、改めて口にする。

 

始まりがあれば終わりがある。

それは当然のことだ。そしてその間に物事は移ろいゆき、やがて終わりが訪れる。

ケルトの民であるマクレーン家は、世界の在り方を真の髄まで理解している。

ケルトの世界がいつか終わること。永遠ではないこと。それを、ケルトの民は理解している。

 

世界について。流れについて。流行について。

ケルトの民は世界の移り変わりについて、深く理解している。

そんなマクレーン家だからこそ。そこに混じりが生まれた朝槻真守は、今ある流れに新たな定義を加えて世界を変える力を持っているのだ。

 

『いずれ来たるべき終わり。それにワタシたちは備えていた。外の人間はケルトの民が火事や洪水、天が地に墜ちることがありえるから、魂に永遠を見出したと主張しているが……おおむね間違ってはいない。滅びに立ち向かっているのは変わらないからな』

 

終わりが来ることを理解しているケルトの民。

だからケルトの民は終わりが来たとしても、何かは永遠に残ると信じた。

そう信じられなければ、終わりに立ち向かえない。そしてその来たるべき終わりのために、自分たちは備えなければならない。

 

『ワタシたちは世界が終わることを前にして、精神的支柱を求めた。永遠と魂。そして何があっても終わらないものを求めた。その時代に適応しながらも、ワタシたちの矜持を永遠に持ち続ける存在を求めた』

 

世界が終わっても、魂と宇宙は永遠である。

それらの前では、世界の滅亡など価値も意味もない。

死ぬ事だって、ただの通過点だと。そうケルトは生命(いのち)を定めた。

 

『ケルトの民は輪廻転生を庇護とした』

 

真守は彼女が何を伝えたいか段々分かってきた。

朝槻真守はあらゆる素質を全て兼ねそろえて生まれてきた。

そしてアレイスターに加工されて、絶対能力者(レベル6)へと至った。神人と呼ばれるまでに至った。

絶対能力者(レベル6)とは、神人とは。()()()()()()()()()()存在だ。

 

永久不滅を求めたマクレーン家。

朝槻真守は、マクレーン家の人々が真に欲していた素質を兼ねそろえて生まれた人間なのだ。

ケルトがいずれ至ろうとした、永遠に至る事ができる素質を持って生まれたのだ。

 

ケルトの民が望んだ永遠。

だが血に混じりがある朝槻真守を、ケルトの民としてマクレーン家は認めるわけにはいかない。

 

『真守。混じりがあったとしても、マクレーンはオマエの誕生を喜んだのだ』

 

自分たちが永遠を我が物にできなくても。この世界に残るものはある。

ケルトが滅びようとも。自分たちのことを覚えている少女が残される。

 

『オマエが生まれたからこそ、ケルトの一族は希望に相まみえることができた』

 

希望。

その希望を見出したからこそ、マクレーン家は研鑽を積む。

これまで辛い道を進み、これから永遠を生きる少女を一人にするわけにはいかないからだ。

そして世界が終わる前に。自分たちは何かを残さなければならない。

 

『ワタシたちの希望。永遠を体現した少女。オマエを一人にはしない。すぐにでもマクレーン家は技術を確立し、永遠を手に入れるだろう。そして数奇な運命によって狂わされた少女を、決して一人にはしない』

 

エルダーは真守のことを優しく見つめる。そして、寂しそうに微笑んだ。

 

『運命とは数奇なものだ。運命というものは多くを狂わせる』

 

「…………運命が、関係しているのか?」

 

真守は殊更に運命を強調するエルダーを見上げる。

自分が数奇な運命に陥っていると、朝槻真守は常々思っていた。

だが何故その運命とやらをエルダー=マクレーンは強調するのか。

真守は顔をしかめてエルダーを見上げる。

そんな真守を、エルダーは慈愛に満ちた瞳で見下ろした。

 

『運命が世界と人を狂わせる』

 

エルダー=マクレーンは断言する。

 

『そして、それこそ我らが(つい)える元凶である』

 

真守はエルダーを見上げて眉をひそめる。

エルダー=マクレーンは笑ったままだ。

 

さあ。この世で最も運命に翻弄されし少女よ。

全ての話をしようか。

世界の真実を。あの人間が何故魔術を憎むのか。

全てを紐解こう。

 

その時、オマエが何を思うか。とても楽しみだ。




ここで一つ捕捉を。
原作では問答型補助式人工知能のガワはミナさんですが、流動源力ではエルダー=マクレーンとなっています。ですがミナさんの存在そのものがいなくなったわけではありません。流動源力でもミナさんは『黄金』の一員であり、メイザースの妻でもあります。
今回の話は少し重要な話でした。次話も楽しんでいただけたら幸いです。
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