とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一〇一話、投稿します。
次は六月八日木曜日です。


第一〇一話:〈翻弄少女〉は決意する

ブライスロードの戦い。

その戦いとは、『黄金』という魔術結社史上最大の組織が崩壊することになった抗争だ。

アレイスター=クロウリーが巡り巡って運命を生み出す魔術師を憎み、魔術師の集まりとして最大規模の『黄金』を破滅に追いやるために始めた戦争。

 

アレイスター=クロウリーはブライスロードの戦いの前。事前準備としてメイザースに挑み、わざと敗北した。

 

その時に、アレイスターはメイザースの血液を入手。

そしてその血液を使って、アレイスターは『ブライスロードを占拠せよ、不出来なウェストコット派閥から全てを奪え』というメイザースの命令書を偽造した。

 

偽造されたとしても、本物の血が使われている命令書には確かな効力がある。

だから当然として、偽造を知らないウェストコット派は憤った。

たった一枚の紙切れ。

その一枚によって、ウェストコット派とメイザース派は敵対した。

 

メイザースは自分の本拠地に乗り込んできたウェストコットに、アレイスター=クロウリーに嵌められたと告げる。

ウェストコットが結社を作る過程で結社の箔付のために、アンナ=シュプレンゲルの書簡を偽造したように。アレイスター=クロウリーも自分の血を使って、書簡を偽造したのだと。

偽造された命令書が生み出された時にはもうすでにアレイスターと自分は袂を分かっていたと、メイザースはウェストコットに説明した。

 

ウェストコットは、もちろんメイザースの言葉を戯言だと切り捨てた。

何故ならメイザースとウェストコットが口論になったその現場には、ウェストコット派に連なる彼の配下がいたのだ。

自身の派閥員の前でメイザースの言葉を真実だとすれば、ウェストコットが結社の拍付けのために書簡を偽造したとバレてしまう。

 

アレイスター=クロウリーのたった一度の作為的な敗北。

それによって『黄金』は巨大勢力同士の戦争へと突入した。

それをただ眺めているアレイスター=クロウリーではない。

 

ウェストコット派の魔術師を裏路地で始末し、その死体にメイザース派が殺したのだという証拠を残す。メイザース派の魔術師を地下道で始末すれば、その傍らにウェストコット派の凶器を置く。

 

『黄金』内での抗争は苛烈を極め、他をも巻き込んだ。

魔術結社で何が起きているか全てを解明したいスコットランドヤード。

伝統の重みをオカルトに求める新大陸。

『黄金』にお株を奪われた古き魔女のロッジ。そして果てには危機感に乏しい心霊主義者。

内部抗争に首を突っ込みたい人間を片っ端から集めたアレイスター=クロウリーは、争いを肥大化させていく。

 

そして。アレイスターは半不死性を持っており、真正の変人(メイザース)よりも劣るウェストコットを殺した。

 

『見ろ。アレがそうだ』

 

エルダー=マクレーンは持っていた扇子で、抗争を黙ってみていた真守の視線を誘導した。

その視線の先にはウェストコットの胸に突き刺さる、一本の矢があった。

 

(やじり)は骨、矢羽は革。本体の矢柄は蝋……それもまた、血肉が蝋と化した屍蝋(しろう)

 

ウェストコットの不死性を終わらせる、究極の追儺霊装。

この世の運命から『黄金』を逃れさせるブライスロードの秘宝。

幻想殺し(イマジンブレイカー)

 

『とある聖者の右手を素材に製造された究極の追儺霊装だ。元は召喚失敗の際に退却せぬ者を魔法陣の向こうへと追い返すために用意されていた、秘中の秘なる兵器だ』

 

幻想殺し(イマジンブレイカー)によって半不死性を打ち消されたウェストコットは苦しみに藻掻くしかできず、細い矢を引き抜くことすら敵わない。

それを見て、アレイスター=クロウリーはすかさず手で拳銃の形を作った。

すると手元で32、30、10という数字が散った。

幻視の銃が、生み出される。

 

『あれは霊的蹴たぐりと呼ばれる技術だ。本来ならば術を掛けられた本人にしか見えぬものだが、特別に景色を補正している』

 

霊的蹴たぐりと呼ばれる、相手にジェスチャーで幻想の衝撃を与える技術。

人の認識に直接切り込む凶器。

自己の瞑想を他者へと伝播させる技術の応用。

それならば、ありえない空想の凶器で人を殺すことができる。

 

アレイスターはその幻の銃で、ウェストコットの肉体を撃ち抜く。

そして彼の肉体は見えなくなって、闇に呑まれた。

まるでこの舞台にはウェストコットはもう必要もないと言わんばかりに、彼の姿は見えなくなる。

 

『矢は攻撃手段の霊化という意味を持つ。それは放たれた時点で物理のくびきを外れるはずだが……あらゆる異能を打ち消すが故に、ひたすら物理を追求するとは皮肉だな、ウェストコット』

 

アレイスターはそう呟きながら、ウェストコットの体から引き抜いた幻想殺し(イマジンブレイカー)を持ったまま振り返る。

そこには宿敵である、サミュエル=リデル=マグレガー=メイザースが立っていた。

 

『人一人の死が、破滅が、そこまで受け入れられぬものかね?』

 

メイザースの問いかけに、アレイスターは答えない。

愚問だからだ。

誰もがかけがえのないと思う、これから生まれゆく大事な命が運命によって狂わされる。

望まれて生まれてくるにも関わらず、幸せになれない人々。

それをアレイスター=クロウリーは許容できなかった。

 

『所詮は生まれては消えていく命だ!!』

 

この男とは相いれない。アレイスターは自らの敵を睨みつける。

 

『貴様はやり直せばよかった!! 貴様はただ大きな位相の軋みや火花が生み出す世界の流れから弾かれる娘を嘆きつつも、新しい命を授かれば何も問題なかったのだ!!』

 

最初から死ぬ運命であった子供に執着なんてせず。新たな子供を求めれば良かった。

 

『子供など! ああ、ああ、その程度!! いくらでも作り直せると言うのに!!』

 

アレイスターは宿敵と対峙したまま、心の中で憎悪を燃やした。

 

諦めて見切りをつけて、運命を受け入れる。

それは何があっても許容できない。

狂わされてすら懸命に生き続ける命だってあるのだ。

だから世界が運命によって狂わされることは、決して許せない。

 

アレイスターとメイザースの戦いが始まる。

その戦いの過程で、幻想殺し(イマジンブレイカー)と呼ばれる一つの伝説は『この時代』から失われた。

そして次代へと受け継がれ、上条当麻の右手に幻想殺しは宿った。

 

アレイスター=クロウリーは霊的蹴たぐりの応用でクレイモアという大型の剣を造り上げ、それによってメイザースを一刀両断した。

 

『私はな、メイザース。これから生まれる命が既に偶発の死にせき止められ、無垢に生まれたのにも関わらず、既に命運が決められてしまっていることにここまで憤っているわけではないんだ』

 

アレイスター=クロウリーは命の灯が消えようとしているメイザースの耳元で囁く。

 

『これほどの悲劇が埋もれてしまう事。そんなにも世界の日向の部分に悲劇が溢れかえってしまっている事。皆が素直に憤って立ち上がれば良いものを、仕方がないよで諦めてしまう事! それが哀しいと言っているのだ!!』

 

()()()()は仕方がないよと諦めながらも、前に進み続ける努力をしている。

諦めさせる事自体が、悲しませる事自体が、私はすごく嫌なのだ。

 

アレイスター=クロウリーはボロボロになりながらも、決して倒れない。

ウェストコットとメイザースを始末しても。

『黄金』の魔術師を全員始末しても。

運命を打破する時まで、アレイスター=クロウリーは止まらない。

 

『…………許さない、と言われたのだ』

 

アレイスター=クロウリーは足を引きずりながらも歩く。

 

『進み続けろと、言われたのだ…………』

 

運命に抗う一族の一人に、そう言われた。

空気に解けるような儚い笑顔を見せて、彼女は最後に笑っていた。

それはいまも脳裏に焼き付いていて、色褪せることなく彼女は美しい。

 

『あの笑顔をもう一度見る時まで……私は止まるわけにはいかない……ッ!!』

 

『「黄金」に終わりはない』

 

ぼろぼろになっても、進み続けるアレイスター。

そんなアレイスターにある意味呪いをかけたエルダー=マクレーンは口を開く。

 

『巨大な組織とは空中分解した後に必ず後継者が生まれるからな。誰もがかつての「黄金」を取り戻そうとした。だがヤツは「黄金」の系譜を継ぐ者たちに呪いをかけた。かつての「黄金」を求めれば、儚く散るように仕組んだのだ』

 

『黄金』全てを呪う。

すると『黄金』の一員であるアレイスター=クロウリー自身も呪われる。

毒を食らわば皿まで。そんな状況に陥ったとしても、アレイスターは歩みを止めない。

失敗すらも糧にして、あらゆる可能性を摘み取られた状態でも。

アレイスター=クロウリーは進み続ける。

 

『アレイスターは数回の国外退去処分を受けることになる。大きな魔術研究をする環境を整えられないまま、一九四八年に一度イギリスの地で死亡を宣告された』

 

結社の全ての魔術師を狩り殺し、結社を再び復興させようとする者たちの心ですら折り続けた、復讐者となり果てたアレイスター=クロウリー。

燃え盛る闘争の果て。

彼はその最期の最期に己が自身へと刃を突き立てて、自身のルールを貫いた。

 

『それでもアレイスターの悲願は叶わなかった』

 

目の前での再演が終わり、朝槻真守は銀色の世界に戻ってきた。

エルダーは自らの一族が悲願し、運命に翻弄された少女を見つめる。

 

『結局リリスを襲った偶発的なありふれた病死は覆らなかった。そしてまた、彼が友人と交わした口約束は果たされることがなかった』

 

アレイスターがエルダーと交わした口約束。

それはいずれ生まれ落ちる『永遠』へ至る姫御子が、運命によって翻弄されなくて良い世界を作ることだ。それが叶わなかったからこそ、朝槻真守はここにいる。

 

「…………………………もし、」

 

真守は長い沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。

 

「もし、アレイスターが()()()()()()()()。私はどうなってたと思う?」

 

もし真守が真守として生まれ落ちる前に、アレイスターが魔術を殲滅して運命を打破していたら。

真守の問いかけに、エルダーはぱちんっと扇子を閉じる。

 

『知れたこと』

 

エルダーは疑問の答えを既に知っている真守を見つめながらも、純然たる事実を口にする。

 

『我らが秘して進めていた技術により、オマエは永遠性を獲得していた。我らの求めるケルトの民として、オマエは生まれていたコトだろう』

 

真守は分かり切っている事実に押し黙る。

もし、自分が運命というものに翻弄されなかったら。

朝槻真守はケルトの民として生まれて、ケルトの民として迎えられたことだろう。

そして真守はケルトの一族の秘術によって、永遠を手にしていた。

 

きっとその世界では、自分は今も母国であるイギリスにいたのだろう。

優しい家族のアシュリンたちと死んでしまったアメリア()と、幸せに笑っていただろう。

だがその幸福な世界には、決定的に足りないものがある。

 

「………………………………垣根に、会えない」

 

真守の言葉にエルダー=マクレーンはそっと目を伏せる。

 

「深城に人間として大事なことを教えてもらえない」

 

どこまで運命が自分を絡み取っているか、真守には分からない。

だがその『運命』のない世界では、絶対に『運命的な』出会いを果たした源白深城と垣根帝督に出会うことはない。

しかも絶対に、真守は『朝槻真守』という名前ですらないだろう。

学園都市から貰った名字と母が父の故郷である東洋を考えて名付けた名前は、決して付けられることがない名前だ。

 

「私は確かにこの世で最も運命に翻弄された人間なんだろう」

 

真守は自分の在り方を、否定する事無く口にする。

 

「『運命』によって、私は神さまとしての素質を持って生まれた。そのせいでお父さまには恐れられたし、お母さまには抱きしめてもらった記憶がない」

 

真守は悲しくても、絶対に回避できない運命に基づく真実を口にする。

そしてぐっと奥歯を噛みしめてから、真守はエルダーを睨んで自分の気持ちを叫んだ。

 

「それでも、私は一回だって自分の『運命』を呪ったことがない! だって『運命』でも深城と垣根に会えた! 手に入れられなかったものも多いかもしれない。でもそれ以上にたくさんの大切なものを私は手に入れることができた!」

 

真守はエルダーを睨んで、そして思いの丈を一心に口にする。

 

 

「学園都市に来なければ良かったなんて思ったことは一度もない! 私は一度だって自分の人生を悲観したことはない!!」

 

 

真守はなんだか悔しくて、涙を目に滲ませる。

 

「私はとても幸せだ」

 

何故なら先日、朝槻真守は生まれて初めてきちんとした誕生日を祝ってもらった。

自分の事を大切にしてくれるマクレーンの人たちが、全員集まって自分の誕生日を祝ってくれた。

学園都市で出会った大切な人たちが自分に思い思いのプレゼントを用意してくれた。

あの幸福な世界には全てがあった。

あの場所には、今まで朝槻真守が手に入れてきた全ての幸福が全て詰まっていた。

 

「私は確かに、この世で一番運命に翻弄された人間なんだろう。アレイスターにとって、この世で最も可哀想な人間なんだろう。──でも、だからどうした」

 

エルダー=マクレーンは答えない。そんな中、真守は声を上げる。

 

「運命ってのは()()()()()()を生み出すんだろ!? ()()()()()を生み出すんだろ!? その幸福を誰にも奪わせない!! 私の『運命的な』出会いをアレイスターになんか奪わせない! ()()()()()()()()()()()()()()()()()も、絶対に誰にも渡さない!!」

 

朝槻真守は酷い仕打ちを自身に課したとしても、学園都市を愛している。

学園都市という場所と、学園都市で過ごす学生たちが大好きだ。

 

だから朝槻真守は学園都市でみんなが平等に笑っていられるように、学園都市を変えようと考えたのだ。だからこの街の王であるアレイスターに挑みに来たのだ。

 

真守は無言で立ち上がる。

そんな真守を見て、エルダー=マクレーンは満足そうに問いかけた。

 

『行くのか? この世で最も運命に翻弄された少女よ』

 

「うん」

 

真守は頷きながら、エルダー=マクレーンへと手を差し出した。

 

「エルダーさまも一緒に行こう」

 

『ほう?』

 

エルダー=マクレーンは扇子で口元を隠しながら笑う。

 

『ワタシはアレイスターの手を取らなかった女だぞ?』

 

「エルダーさまも、運命はあったほうが良いって思ったからだろ」

 

真守はエルダーとアレイスターのやりとりをずっと見てきた。

だからエルダーが何を大事にしていて、何を必要としているか。理解できる。

 

「世界の流れは今、運命という大きな流れがあることによって成り立っている。その流れをせき止めるのはよくないって思ってる。だからエルダーさまはアレイスターの手を取らなかった。そうだろう?」

 

エルダー=マクレーンは答えない。そんな中、真守は笑った。

 

「運命に絡めとられたとしても得るものはある。だから運命に翻弄される人を可哀想なんて一括りにしたくない。エルダーさまはそう思ったんだろう。だからアレイスターの手を取らなかった」

 

エルダーは真守の前で、そっと目を伏せる。そして、くすっと笑った。

 

『滅びるのも、栄えるのも。それが運命によって決められているとしても。それこそ、ワタシは価値あるものだと思っている』

 

エルダーはぱしんっと自身の手を扇子で叩きながら微笑む。

 

『移り変わる世界において変わらないもの。永遠なるにして不変なもの。それは、世界が変わりゆくからこそ輝くものである』

 

「つまり?」

 

『共に行こう、真守。現実は、ちと大変なコトになっておるからな』

 

エルダー=マクレーンは朝槻真守の手を取る。

真守は柔らかく微笑んで、エルダーを見た。

エルダーは真守を見て、満足そうに微笑んだ。

どちらも根底には同じ遺伝子が宿っている、よく似た微笑だった。

 

二人が手を取ると、銀色の世界がまばゆいばかりに輝く。

そして全てが真っ白に染め上がって。

舞台は、再び現実へと戻る。

 

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