とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一〇六話、渡航します。
大悪魔光臨篇、開幕。


新約:大悪魔光臨篇
第一〇六話:〈不明事態〉で蠢く影


木原唯一が上里翔流を仕留めるために、学園都市に放ったエレメントという異形。

学園都市の学生たちにとっても重大な脅威であるエレメントの活動を抑えるために、学園都市全域ではマイクロ波による大熱波が引き起こされていた。

だが朝槻真守たちが木原唯一を討伐したことで、際限なく湧き出てくるエレメントの脅威から学園都市を守る事ができた。

 

エレメントの脅威を取り去る事ができれば、大熱波は必要ない。

そのため大熱波は収束を迎え、学園都市は冬らしい低気温が戻っていた。

 

現在、学園都市の時刻は夜に差し掛かっていた。

真守たちが木原唯一を討伐してアレイスターの居城である『窓のないビル』に潜入してから、時間がたっぷりと経っていたのだ。

 

夕暮れから、薄暗い夜空になりつつある学園都市の空。

その空を、三対六枚の純白の翼を広げて飛んでいる少年がいた。

 

超能力者(レベル5)、第三位。未元物質(ダークマター)、垣根帝督。

垣根は学園都市の上空を自らの翼で飛んでいた。

その様子は酷く憔悴していて、彼にしては珍しく錯乱していた。

 

「真守、真守ッ!!」

 

垣根帝督は、必死に自分の腕の中にいる少女へと声を掛ける。

 

絶対能力者(レベル6)へと完成されようがその先に到達しようが、人間の枠組みから超えることなく洗練されていく存在。とあるケルトの一族、マクレーン家が真に望んだ『永遠』を司る逸材。

あらゆる運命を背負いながらも、翻弄されながらも進み続けてきた健気な少女。

朝槻真守。

 

真守は、垣根の腕の中でぐったりとしていた。

固く目は閉じられて、全身から力が抜けていた。

 

真守の胸の中心には、セーラー服を貫通して無機質じみた穴が空いていた。

真守は、明確な敵意によって致命傷を負っていた。

大切で愛おしい存在が傷つけられた。だからこそ、垣根帝督は焦っていたのだ。

 

真守の胸に穿たれた穴から、血は溢れていない。

まるで作りものの体に穴が空いたように、ぽっかりと刃の痕が胸にある。

その穴の状態を見るに、真守を貫いた剣は真守の肉体を損傷させるのが目的ではなかった。

真守の存在そのものを貫く効果。その効果を、あの刃は持っていたのだ。

 

朝槻真守は学園都市の全ての学生の幸せを願って、アレイスター=クロウリーと対峙した。

そして『窓のないビル』にて、真守とアレイスターは和解した。

その次の瞬間、一本の剣がアレイスター=クロウリーの心臓と、真守の存在を同時に貫いたのだ。

 

垣根帝督はあずかり知らぬが、その剣はダモクレスの剣と呼ばれるものだ。

栄華を獲得する者には、いつだって危険が付き纏う。

繁栄したとしても、決して一瞬たりとも気を抜く事などしてはならない。

覚悟無き権力者を戒めるための剣。

 

元々は伝説を基に理論を構築して再現し、王侯貴族が箔付けと度胸試しに使用していたものだ。

だが贈る相手を選べば致命傷となる。

アレイスター=クロウリーには権力者としての覚悟なんてありはしない。

そして朝槻真守はアレイスター=クロウリーを許した事で、一瞬の隙が生まれた。

 

ダモクレスの剣に込められた意味を、垣根帝督は知らない。

だが死の概念がない真守の存在そのものを、あの剣は傷つけた。

何が起こったか分からないが、それでも垣根は真守が危険な状態にいることだけは理解した。

 

真守の胸を穿った穴。

それは少しずつヒビを広げている。

真守の存在を砕こうと、真守の四肢へとゆっくり伸びている。

 

垣根帝督は全身から血の気が引いていく感覚で、冷や汗が出る。

手の平の中で、確かに零れ落ちていく命。

 

もう動かないからだ。

もう笑いかけてくれないかお。

そして、もう動かないくち。

 

垣根帝督にとって最大のトラウマであるその喪失が、再び手の中で引き起こされていた。

 

「真守……ッ!!」

 

どうすればいいか分からない。

未元物質(ダークマター)で真守の胸の穴を埋めたところで意味なんてない。それが垣根にも分かる。

だから垣根は真守を離さないように、掻き抱くように抱きしめるしかできない。

 

あからさまに錯乱している垣根。

そんな垣根の頬に、朝槻真守は手を沿えた。

垣根は頬に、ぴとっと冷たい手が沿えられるのを感じる。

呆然としながら垣根が真守を見ると、目を閉じた真守が口を開いた。

 

「だいじょうぶだから、かきね」

 

優しい声が響く。

その瞬間、真守の胸の中心に穿たれたヒビの進行が止まる。

そしてみるみるうちにヒビが修復され、真守の穴が塞がり始めた。

垣根はそれを見て、泣きそうな顔をしながら真守を見た。

 

「……まも、り」

 

真守はゆっくりと、目を開ける。

エメラルドグリーンの瞳。優しい温もりを感じさせる瞳で、真守は垣根を見上げる。

 

「大丈夫だから、垣根。そんな顔しないで」

 

真守は柔らかい笑みを浮かべて、垣根を見上げる。

垣根はハッと息を呑むと、真守のことを丁寧に横抱きにする。

 

今まで垣根は真守の体のことを考慮せず、絶対に離したくないと言わんばかりに真守を抱きしめていた。その状態では真守が苦しい。それに垣根は気が付いて、真守のことを優しく抱き上げた。

真守は垣根に優しくお姫様抱っこされて、胸板にすり寄る。

そして自分のセーラー服に空いた穴に手を当てて修復しながら、額に汗をにじませて笑った。

 

「垣根が私のことを学園都市から解放してくれて助かった。絶対能力者(レベル6)に加工されて打ち止められたままだったら、ちょっとマズかったかも」

 

先程、垣根帝督は朝槻真守を絶対能力者(レベル6)に縛り付ける楔から解放した。

そして真守は自らが進むべき方向へと、自らを変容させる事なく再び上り詰められるようになったのだ。

だからこそ、純白と漆黒の翼が蒼ざめたプラチナの翼へと変化した。

 

絶対能力者(レベル6)として完成されたままであれば、真守はダモクレスの剣で消滅していた。

本当に危なかった。真守はぎりぎりで生き残ることができたのだ。

垣根はそれを理解して、背筋が凍る思いをしながらほっと安堵した。

 

「……よかった」

 

垣根帝督は顔を歪ませて、真守をぎゅっと優しく抱きしめる。

 

「…………本当に、良かった……ッ」

 

真守は垣根がほっと安堵しているのを感じて微笑む。

そして、視線を少し動かした。

 

すぐ近くではインデックスを俵抱きにして、純白の翼で飛んでいる一方通行(アクセラレータ)の姿がある。

上条当麻の姿は見えない。

大丈夫だろうか。そう思いながら、真守は『窓のないビル』を見た。

 

真守が視線を向けた『窓のないビル』の最上階には、大穴が空いている。

あの大穴を穿ったのは真守だ。『窓のないビル』を意図的に破壊することで、アレイスターの神殿を破壊して力を削いだのだ。

 

その大穴から、金の髪が大量に這い出てきている。

あまりにも膨大な量だ。

そのせいで宇宙人の触手のように見えて、はっきり言って髪の毛には見えない。

 

「……アレが、お前を攻撃した敵か……?」

 

垣根は真守のことを黄金の髪の毛の束から守るように、強く抱きしめる。

この少女は絶対に手放してはならないものだ。

誰が相手でも、垣根帝督は絶対に真守を離さない。

そんな意思をみせる垣根の手を、真守は優しく握る。

 

「おそらく、あれはエイワスと似て非なる存在だ。それが攻めてきた」

 

「エイワスと同じようなモン? ……誰がそんなの召喚したんだ」

 

エイワスと似て非なる存在。

それならばこの世ならざる者だということだ。

超常的な存在をこの世界に降ろすためには、確かな力が必要だ。

その力を一体誰が用意したのか。

 

「私にも何が何だか分からない」

 

真守はふるふると首を横に振る。

そして金の髪を触手のように大量に動かす存在を見つめた。

垣根は必死に目の前の事象を理解しようとしている真守のことを強く抱きしめる。

 

「……絶対に離さねえから。誰にも奪わせない」

 

「大丈夫だぞ、垣根。私も絶対に垣根から離れない。ずぅっと一緒だ」

 

真守は不安そうにしている垣根を安堵させるために、ふにゃっと笑う。

すると、突然轟音が響き渡った。

どうやら地響きも起こっているらしい。空間そのものと共に地面が揺れている。

 

「何の音だ?」

 

垣根が『窓のないビル』の直下から響いている音に驚愕していると、次の瞬間。

『窓のないビル』が地上より飛び立った。

 

「なっ……!」

 

余波で大気が震える中、垣根は真守のことを優しく抱きしめ、未元物質(ダークマター)の翼で真守を庇う。

『窓のないビル』はアレイスターが用意した、地球脱出用の宇宙船だ。

魔術は地球の在り方によって縛られる。宇宙へと出て地球産の魔術から逃れるために、アレイスターは『窓のないビル』を用意した。

 

そんなアレイスターが用意した『窓のないビル』は、豪速で飛び立っていく。

轟音と鋭い衝撃。

それに耐えた垣根は、突然飛び立って小さくなっていった『窓のないビル』を見上げる。

 

「ロケットブースターは真守が焼き尽くしただろっ?! どうして飛んだんだ!?」

 

「代わりに何かを燃料にしたのかもな。アレイスターならやりかねない」

 

真守は垣根の腕の中で、小さくなっていく『窓のないビル』を見上げる。

 

「アレイスターは一緒に剣で刺された私のことを垣根のもとに突き飛ばした。そして上条たちも一緒に『窓のないビル』の外に吹き飛ばした」

 

真守は先程、『窓のないビル』で一瞬のうちに引き起こされたことについて言及する。

真守とアレイスターが剣で突き刺された後。

アレイスターは即座に状況を理解したのか、真守のことを垣根帝督に向けてすぐに突き飛ばした。

そして真守たちのことを逃がすために、真守が神殿を壊すためにぶち開けた穴から、アレイスターは真守たちを逃がした。

 

「どうなったか分からないけど、この様子だとアレイスターは無事なようだな」

 

真守は垣根の頬にぴとっと手を沿えて、柔らかく微笑む。

 

「垣根、下に降りよう。状況を把握しないと」

 

垣根帝督は真守の言葉に頷き、地面へと静かに降りる。

すると、インデックスを俵抱きにした一方通行(アクセラレータ)が近付いてきた。

真守がふるふると手を緩く振ると、一方通行は安心した顔をする。

そしてそんな一方通行のすぐ近くには肩に乗ったオティヌスと上条当麻と共に、何故か美少女がいた。

 

年齢は中学生ほど。

銀髪にエメラルドグリーンの瞳。薄い青をベースにした、ダブルボタンのブレザー制服。

制服の上には黒字のマントを羽織っており、装飾として背中にコウモリの翼にも見える銀に輝く金属がくっついている。

しかも頭には三日月のような角のような、銀の飾りがついている魔女のようなとんがり帽子を乗せ、可愛らしいニーハイソックスというおまけつきである。

真守はきょとっと目を見開いたまま、女子中学生を見つめる。

 

「あ、あれいすたー……?」

 

アレイスターに非常によく似た少女を見て、真守は首を傾げる。

アレイスター=クロウリー(?)は真守を見て微笑む。

 

「あなたも無事だったようだな、朝槻真守。……ふむ、土壇場で垣根帝督が枷を解き放った結果か。不幸中の幸いというわけか。この言葉を口にするのは大変不愉快だが……やはり運がいいな」

 

真守は目を白黒とさせる。

それもそのはず。アレイスターが明確に女の子になっているからだ。

 

アレイスターは元々中性的な姿をしていた。聖人でも罪人でも、男でも女にも見える人間。それがアレイスターだったはずなのだ。

 

真守はとてとてと歩いてアレイスターに近づく。そんな真守を慌てて垣根は支えた。

真守は垣根に支えられながら、アレイスターの頬をふにっと触った。

 

「本物の感触。確かな肉の器だ。一体どういうことなんだ?」

 

真守は小首を傾げて、ふにふにとアレイスターの頬を触る。

アレイスターは真守に頬を触られたまま、微笑を浮かべる。

 

「とりあえず場所を移動しよう。ここでは落ち着いて話ができないからな」

 

アレイスター(銀髪美少女)は笑うと、自分の頬に触れていた真守の手にちゅっとキスをした。

 

「わっ」

 

真守はびっくりして、思わず手を離す。

突然手を出してきたアレイスター。それを見て、垣根が鋭い声を上げた。

 

「てめえっ何しやがる!!」

 

垣根は眉を跳ね上げさせると、即座に真守のことを守るように抱きしめる。

 

「ヒトの女にナニ勝手に手ェ出してんだよ……ッ」

 

「重いな、垣根帝督」

 

アレイスターはニヤッと笑う。

垣根はアレイスターの笑みを見て、何かがぶちっと切れた。

ゴゴゴゴゴォ──と空間が物理的に震えて魔王が君臨する中、真守は垣根の腕の中で最愛の男をなだめる。

 

「垣根。大丈夫だから、話ができないから落ち着いて」

 

魔王が降臨したみたいになっている垣根帝督。

そんな垣根を真守が宥めるが、完全に垣根の目が据わっている。

アレイスターは垣根の怒りなんてどこ吹く風で、真守に笑いかけた。

 

「その男が重すぎて嫌になったら、私に言うんだぞ。姫御子よ」

 

垣根は無表情のまま、淡々と決意する。

 

「殺す」

 

「垣根っだめだから!」

 

真守はふるふると首を横に振って、アレイスターを見た。

 

「垣根が重くて嫌になる日は来ないっ絶対に!」

 

真守は垣根の腕の中で、垣根にすり寄ってなだめながら宣言する。

アレイスターは優しい目つきで真守を見つめて、ふっと笑った。

 

「とりあえず移動しよう。統括理事会のメンバーたちも『窓のないビル』が突然打ち上がった異変に気が付いただろうからな」

 

移動を始めるアレイスター。そんなアレイスターを睨みながら、垣根は真守のことを抱き上げた。

 

「垣根、自分で歩ける」

 

「ダメだ」

 

きっぱり即答する垣根。真守はしょうがないなあ、と思う。

本当に朝槻真守が大事な垣根帝督。

そんな垣根を見て、上条当麻は本当に感心する。一方通行(アクセラレータ)は垣根が真守に本当に傾倒しているのを知っているため、もう気にしていない。

インデックスはというと、何が起こっているか理解するために黙って静観していた。

 

真守は垣根に抱き上げられたまま、空を見上げた。

飛び立っていた『窓のないビル』が気になるのだ。

 

『窓のないビル』には問答型思考補助式人工知能(リーディングトート78)が搭載されている。

魔導書の『原典』としても機能する、巨大な演算装置でもある真守のご先祖様、エルダー=マクレーン。

その性質上、エルダーは『窓のないビル』から離れられない。

つまり『窓のないビル』と共に飛んで行ってしまったのだ。

 

(エルダーさま……)

 

真守は空を見上げて、自らのご先祖様のことを考える。

エルダーは自分たちの味方をしてくれた。そんなエルダーは遠くへと行ってしまった。

 

(でも、なんだか大丈夫な気がする……)

 

根拠はない。

だが真守は何故だか、エルダー=マクレーンが再び自分たちの前に現れると感じていた。

 

「真守、大丈夫か?」

 

垣根帝督は自分の腕の中で、ぼうっと空を見上げている真守に声を掛ける。

 

「大丈夫だぞ、垣根」

 

真守は心配そうにしている垣根に微笑む。

垣根はじーっと真守のことを見つめた。

 

「……本当に大丈夫か?」

 

「ふふ。垣根は心配性だなあ。大丈夫だぞ、本当に」

 

真守は柔らかく微笑んで、心配する垣根の頭を撫でる。

それを見たアレイスターはぽそっと呟いた。

 

「まったく。私と直接的な交渉権を求めて日夜暗躍していた少年とは思えないな」

 

「なんか言ったかこのクソ野郎」

 

垣根はぎろっと、大変可愛らしくなったアレイスターを睨む。

アレイスターはくつくつと笑うと、可愛くウィンクした。

 

「いやなに。『計画(プラン)』の一環で引き合わせたが、キミがそこまで姫御子にご執心して変わるとは思わなくてね。さながら私は恋のキューピッドをしたようなものだ」

 

「……お前が天使とか舐めてんだろ」

 

垣根は本気で嫌そうな顔をして、アレイスターを睨む。

垣根帝督と朝槻真守は、その在り方故に出会うことが決まっていた。

だがそれを『計画(プラン)』に組み込んで利用したのは、他でもないアレイスター=クロウリーだ。

そのせいで真守は苦しんだ。そして垣根帝督のことを考えて、第三次世界大戦が巻き起こっていた戦地にまで向かった。

 

「……このクソ野郎。一○○発殴っても絶対に殴り足りねえ」

 

すべての諸悪の根源はこの男(?)なのだ。

真守は自分のことを思って、明確な怒りを見せている垣根の頬に触れる。

 

「まあまあ垣根。とりあえず寛大な心で色々と流してくれ。な?」

 

「……俺は心が狭いんだろ」

 

「垣根」

 

垣根は真守に優しく名前を呼ばれて、ため息を吐く。

諸悪の根源にいつまでも怒りを向けていても話が進まない。そのため垣根は気持ちを入れ替えた。

以前の垣根帝督ならば即座に気持ちを切り替えるなんて無理だったが、真守に会ったことで変わったのだ。

そして垣根はちらりと、飛び立った『窓のないビル』に目を向ける。

垣根は胡乱げな目を一瞬すると、真守のことを抱き直して上条たちと共に歩きだした。

 

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