次は七月三日月曜日です。
かつて、アレイスター=クロウリーの魂は極彩色に輝いていた。
つまり、アレイスターには多くの可能性が秘められていたのだ。
魔術を捨てたアレイスター。
異形の身体を得たアレイスター。
屈強な肉体を手に入れたアレイスター。
アレイスターはあらゆる末路を辿る事ができた。やろうと思えば、アレイスターは膨大な数の自分の可能性をこの世に解き放つことができたのだ。
だがあらゆる無数の可能性の権化であるアレイスターは、全員あくまでアレイスターだ。
自分の欲望を叶えようとするため、自由奔放。そのせいで統率なんて取れるはずがない。
そのためアレイスターは自分の体に自分の可能性を閉じ込めていた。
真守が垣根帝督によって枷から解き放たれ、アレイスターと和解した直後。
『窓のないビル』にて、アレイスターと真守はダモクレスの剣という魔術産の剣で刺された。
その結果アレイスターの体から可能性が溢れ出て、それぞれが肉の器を手に入れたのだ。
アレイスターの体からあふれ出たその可能性の一つ。それが真守たちの前に現れた、美少女中学生であるアレイスターなのだ。
アレイスターが無数に増殖するようになった元凶。アレイスターと朝槻真守のことをダモクレスの剣で突き刺した人物。真守とアレイスターが和解した瞬間に水を差した張本人。
その人物とはイギリス清教、
しかもローラ=スチュアートという名前と、
突拍子もないが、その正体は大悪魔コロンゾン。
アレイスターがかつて召喚して退却させた悪魔。
超常的な存在がこの世界で活動するためには莫大な力か、器が必要だ。
莫大な力の塊として顕現するエイワスと違い、コロンゾンは器を手に入れた。
その器こそ、アレイスターの娘。ローラという少女の身体だ。
アレイスターはコロンゾンに利用されている娘を取り返さなければならない。
その一心で、美少女化したアレイスターは現在行動していた。
「おのれ、おのれ……」
コロンゾンは、アレイスター五人分を消費して打ち上げられた『窓のないビル』内にいた。
真守の源流エネルギーによって『窓のないビル』のロケットブースターは焼き尽くされた。その代わりにアレイスターは自分を五人分ほど消費して、『窓のないビル』を宇宙へと飛ばしたのだ。
つまりアレイスターは機転を利かせて、コロンゾンを宇宙へ放逐したのだ。
コロンゾンはベージュの法衣と共に、タコやイカの触腕にも思える大量の金髪を蠢かせる。
現在『窓のないビル』は絶賛大気圏突入中だ。
コロンゾンは急激な荷重から逃れようとしているのだが、うまくいかない。
大悪魔コロンゾンは、学園都市という科学サイドを乗っ取る機会を伺っていた。
そして今回、上里勢力が引き起こした大熱波は最大のチャンスだったのだ。
コロンゾンは自身のスパイである烏丸府蘭から、この機に乗じて朝槻真守がアレイスター=クロウリーを打ち倒すために動き出すと聞いていた。
だからコロンゾンは至極簡単な行動を取った。こっそり学園都市に潜り込んでアレイスター=クロウリーを打ち倒して、疲弊している朝槻真守を打ち取ればいい。
アレイスター=クロウリーか朝槻真守。
そのどちらかの
真守も自分とアレイスターが戦った結果、魔術サイドから横やりが入るだろうと考えていた。
だが真守も、こんなに素早く完全な漁夫の利を狙われるとは思ってなかった。それくらいにコロンゾンは用意周到で、朝槻真守とアレイスターを狙った。
結果として。
アレイスター=クロウリーは自分を犠牲にして、真守とその場にいた者たちをコロンゾンの魔の手から守る事ができた。
アレイスター五人分によって打ち上げられ、大気圏へ突入する『窓のないビル』には人間は一人もいない。
ただ人工知能として『窓のないビル』に搭載しているエルダー=マクレーンだけが、コロンゾンと対峙していた。
かつてマクレーン家の一員だった女性。
その女性そのものである人工知能は、凄まじい慣性Gの中でも悠々自適に自らの小尻から生えた尻尾をゆらゆらと揺らしていた。
『いやはや、まさかまさか。このようなところまで乗り込んでくるとは。流石のワタシも演算が及ばなかったよ。大悪魔コロンゾン』
エルダーは半分笑いながら、コロンゾンの蠢く黄金の髪をピンヒールで縫い止める。
何故そんな事をしているかと言うと、ローラが『窓のないビル』に朝槻真守が開けた大穴から飛び出そうとしているからだ。
猛火の大気圏や真空の宇宙空間に放り出されないために『窓のないビル』が完全に打ち上がる前にコロンゾンは逃げようとしている。
だがそれを、エルダー=マクレーンが許すはずがない。
コロンゾンは手刀で不要な髪を切り捨てて、エルダーに向き直る。
「……エルダー=マクレーン」
『正確にはその人間を模倣した演算装置だがな。だがワタシは自身が本物か偽物か断じるつもりはないぞ。ワタシはワタシだ。それ以外にありえない。かつてのワタシと今のワタシ。それは地続きになりしも等しくないものである』
軽やかに笑うエルダーを見て、コロンゾンは忌々しそうに顔を歪める。
「貴様は友人だと思うておった男に捨てられたのだぞ。貴様はあくまで演算装置だ。壁に穴の開きたまま大気圏に突入したれば、内部は炎と熱に蹂躙される。基盤も半導体もまた形と役割を失う。それは分かりたる事実であろう」
『ふふ。そのような些事でワタシがなびくとでも思ったのか? バカにするのも大概にせよ、ワタシはエルダー=マクレーンであるぞ?』
エルダーは、ぱしんぱしんっと手に持っている扇子で自らの手を叩く。
そして不愉快そうに猫耳をぴこっと動かした。
『散りゆく最期までワタシが悲観する事など断じてない。ワタシはワタシのやるべき事を為すがままに。たとえ散りゆく命とて、その命には意味も価値もある』
滅びが待っているとしても、悲観する事などせずにそれを回避するべく進み続ける。
その時その時でやるべき事を粛々とこなしているならば、人生が悲劇に終わったとしても何の後悔もない。それがケルトの民の在り方だ。
進化したとしてもケルトの民としての矜持を失わないエルダー。
つまりエルダーは、ここを死に場所と定めたのだ。そして時間稼ぎをするために、エルダーは自らの存在を懸けてコロンゾンと対峙するつもりなのだ。
コロンゾンはエルダーを見つめたまま、忌々しそうに大きく舌打ちした。
「だからマクレーン家は好きにならずなのよ」
『大悪魔に好きになられても困る。我らが土地に寄生したごく潰しが』
エルダーは本当にイライラとした様子で、ぱちんぱちんっと扇子を開いたり閉じたりする。
だが次の瞬間には笑った。
『だがまあワタシも気分が良い。この学園都市にて、貴様は我が血族を前にして正体を現したのだ。オマエの帰るべき国はない。すぐにその命令系統を我らが血族が押さえるだろう』
「ハ。私があんな歴史の浅い事象に負けるはずがなかろうて」
コロンゾンは『朝槻真守』のことをそう揶揄して、鼻で嗤った。
朝槻真守は確かにマクレーン家に通じている少女だ。
だが彼女一人の口を塞いで乗っ取ってしまえば、マクレーン家は分からない。
エルダーはコロンゾンを見つめて、にやっと笑った。
『おや、ワタシの言っている血族とは混じりものの真守ではないぞ?』
「は?」
『ローラ』が怪訝な表情をする中、エルダーはニタニタと笑みを深くする。
『オマエは知らぬのだったなあ。何せスパイである烏丸府蘭の前に、アシュリンたちは出てこなかったからな。──なあ、コロンゾン。我らがマクレーン家は現在、学園都市にいるのだ』
「……………………は、え?」
コロンゾンは自分があずかり知らぬ情報に目を白黒とさせる。
ケルトの民は決してケルトを絶やさないように動く。
そしてケルトの民は異界に精通している。
だからこそ位相同士の衝突で滅亡の危機に瀕しているのだが、彼らにはそういった背景がある。そのため本当の危険から身を守るために、彼らは一族総出で異界へと一時退却する事がある。
今回、コロンゾンはわざと自分が動いている事を知らせた。
だから彼らは既にこの現実世界から異界へと引っ込んでいるはずなのだ。
学園都市にいるはずがない。
そんなコロンゾンの推測を、エルダーはぶった切った。
『オマエはワタシの一族がオマエの手から逃れるために神聖なる森にして境界を超えた先、アンヌウヴンへと仮死状態となって引っ込んだと考えておったようだが、彼らはこの学園都市に身を寄せていたのだ。だから我らがケルトの民は今、この学園都市にいる』
エルダーは虚を突かれているコロンゾンを見て、にやっと笑う。
『オマエは上里勢力の烏丸府蘭を使って学園都市の情報を入手していたようだが、そんなことアシュリンは見抜いておったぞ。どうせオマエのことだ。外から来た上里勢力という大規模な集団に、手駒を隠しておるとな』
エルダーは懇切丁寧にコロンゾンに説明して、にまにまと笑う。
『府蘭の前に、アシュリンたちは一度として姿を現していない。真守のことを陰から全力で守るために、国が傾くほどの大金を湯水のように使って学園都市に自らの手のものを入り込ませる周到さだぞ。突然学園都市入りする上里勢力を最大限の脅威と受け取るのは当然だ』
コロンゾンは大穴から飛び出そうとする。
だが脱出はできなかった。それは何も、エルダーが黄金の髪をピンヒールで踏み抜いて留めていたから脱出できなかったわけではない。
エルダー=マクレーンは魔導書の『原典』だ。生体ではないからこそ魔力の精製はできないが、周りから魔力を引っ張ってくる事ができる。
しかもエルダー=マクレーンはケルトについて理解が深い。
ケルトは異界、魂、宇宙に精通している。
異界。それはつまり、空間だ。
だからエルダー=マクレーンは自身の好む方法で、空間に魔術を掛けて『ローラ』を縫い留めた。
『先程の言葉をそっくりそのまま返そう。チェックだ、コロンゾン』
エルダーは先程、コロンゾンがアレイスターに宣言した言葉を繰り返して笑う。
大悪魔であるとバレたローラ=スチュアートのことを
マクレーン家というイギリスや全世界に太いパイプを持つ一族の手によって、すぐにでも『ローラ』は蓄えた力を失う。
「ま、マクレェエエエエエエンンンン!!」
コロンゾンはビヂヂヂヂィ、と空間を軋ませながら叫ぶ。
『ふふ。まだ終わらぬぞ、コロンゾンよ』
エルダーは空間を引きちぎって、強引に動き出そうとしているコロンゾンを見て笑う。
『ここからが、本番だ。なあ、「ローラ」よ?』
エルダーは笑うと、扇子でぱしんっと自分の手の平を叩いた。
『ワタシはケルトの民、その一員であるエルダー=マクレーン。そしてトートタロットという魔導書の「原典」でもある。位相に対して明るいのは当然のこと。そして、ワタシには
「ま、さか………………ッ!!!!」
『ローラ』はエルダー=マクレーンが何を指し示しているのか察する。
その瞬間、まばゆい光が辺りに満ちた。
長い髪。ゆったりとした装束。
蒼ざめたプラチナの光を纏った、剥き出しのエネルギーを無理やり体とした存在。
『ようやく退屈から解放されると上から目線で笑っていたな、この汚物』
エイワス。
朝槻真守によって退却させられ、エルダーの手によって再び召喚された彼は光臨するや否や、コロンゾンを口汚く罵る。
『貴様が真に永き空腹からの解放を喜んでいるのなら、最初から口にすべきはとっておきのご馳走であるべきだろう? そう、くだらん卑怯者が本当にそこまでの殊勝な気概を持つならな』
エイワスはのっぺりとした表情を歪ませて、心底愉快そうに声を転がす。
『いやはや、しかし。これでも私は聖守護天使と呼ばれている。このような展開で呼ばれるといささかわくわくしてしまうものではないか。なあ、しなびて捨てられる運命にあるリンゴの芯よ』
エイワスは嗤って、憎たらしげな眼をしているコロンゾンへと目を向けた。
コロンゾンは忌々しそうにエイワスを見上げた。
「善ある神性でも気取りたるつもりか、同族」
エイワスは超常的な存在として、散りゆく事を前提として最期まで抗おうとするエルダー=マクレーンの召喚に応じた。
それが気に食わないコロンゾンはエイワスをぎろっと睨む。
そんな視線をものともせず、エイワスは蒼ざめたプラチナの光を放ちながら笑う。
『新たに生まれ落ちて同族となった者の方が、あまりある神性と公平さを持っているだろうさ』
「あんな少女を我らと同等などとは決して認めぬ」
『生ゴミが認めようと認めまいが、彼女の格が我らと同じ域に達しているのは事実だ』
コロンゾンはチッと舌打ちをする。
善ある神性。それを体現するのは、この場にいる超常存在ではない。
先程、とある『永遠』を手にした少女こそ、真なる善性と神性を持ち合わせているのだ。
朝槻真守はアレイスターによって
その結果、真守は自由になった。そして自分が至れるところまで至る事ができたのだ。
真守は自身を人の枠組みから超えさせることなく、どこまでも昇華させる事ができる。
流れに身を任せながら、自分を最適化し続けて『永遠』の時を生きる。
その新たな在り方の本質は『流行』というものだ。
現代において、人々が生み出す流行り廃りの事だ。
時が過ぎることによって人の手で紡がれる、流行り廃り。
人の手によって生み出される流行は、神の手によって生み出されるものではない。
だから元来、『流行』を司る天使や神はこの世に存在しない。あくまで流行とは人が流行り廃りを人知れず決めて、人知れず生み出すものだからだ。
朝槻真守は複雑な因果を絡ませながらも、世界に必要とされて生まれ落ちた。
因果が絡み過ぎて最初に必要としたのはどんな存在だったのか、卵が先か鶏が先か状態になっていてはっきりしないが、それもまた一興だとエイワスは思っている。
『この世が必要として、新たに生み出したかたち。その在り方。かの存在には、私が誕生を祝して細やかなプレゼントを贈ろうと思う』
「エネルギー剥き出しなりしで霊媒を持たない貴様が、流行などというくだらぬものを体現した少女に何を施したりえるというのだ」
『オガクズ頭。忘れたか?』
エイワスはコロンゾンの事を罵りながら問いかける。
『この九三の数字を背負う怪物の本質は、「法の書」と呼ばれる魔導書を伝達した事にある。そして私はしあわせになることを怠らない存在が滅法気に入っている』
エイワスがそう告げた瞬間、エルダーの扇子を持っていない方の手がくんっと動いた。
エルダーはエイワスに手を操られて、自分の指を自分の口元に持っていく。
そしてガリリッと、その指を噛みちぎった。
ありもしないはずの、鮮血が舞い上がる。
そしてその血が溢れる指は、辺り一面にまき散らされたルーズリーフへと向かっていった。
エルダーの指が、一枚一枚の紙切れに得体のしれない文字や記号を刻んでいく。
ぎゅぎゅぎゅぎゅと指を押し付けるが故に凄まじい摩擦音を迸らせる。
その素早い動きを、あのコロンゾンだって止める事ができなかった。
エルダーの指は擦り切れていくが、その度に鮮血が舞い上がるためインクには事欠かない。
嵐によって巻き上げられたような無数の紙束はエルダー=マクレーンを中心として渦を巻き、リング状のホルダーにまとめられていく。
そして一冊の分厚い書物が出来上がった。
それはエルダー=マクレーンの手の中に収まり、エルダー=マクレーンはエイワスが真守に何を施したのか悟った。
エルダー=マクレーンという魔導書の『原典』を、エイワスは真守に与えたのだ。
『魔導書「
エルダー=マクレーンは『窓のないビル』内に敷設された並列演算装置という巨大な機械だ。
その巨大な機械の核には、その存在を支える根幹としてトートタロットという魔導書の『原典』が使われている。だったらそれらを今一度エルダーの手によってまとめ直して、持ち運びができるようにすればいい。
『
それを持っていれば、エルダーは行きたいところに行く事ができる。
この『窓のないビル』と共に、命運を共にしなくていい。
エイワスは真守のために、エルダーを動けるようにしたのだ。
『エルダー=マクレーン。キミたちケルトの民の生き様は大変気に入っている。何故ならキミたちはしあわせになるための努力を怠らない。己に降りかかる不幸が多くとも悲観する事なく、前へ前へと進み続けるキミたちの在り方は、とても好ましいものだ』
足掻いて足掻いて足掻いて生き抜く。
血反吐を吐き、泥の上を這いまわってその泥を啜って生きながらえたとしても進み続ける。
そんな世の理不尽に全てを奪われた者にだけ、超常的な存在は手を差し伸べる。
エルダー=マクレーンはここが自分の死に場所だと定めた。
だがそれでも悲観する事なく最期まで生きてみせようと宣言した。
そんな愛おしい存在に、エイワスは手を差し伸べない超常存在ではない。
『キミはキミの末裔であり、「流行」という概念へと至った朝槻真守を見守りたいのであろう。だから行くと良い。そしてそれと共に、あの泣き虫にも神託を頼む』
エイワスはアレイスターのことを考えて、言葉を口にする。
『エルダー=マクレーン。キミと違って、ストーリーテリングとして下流も下流のあの男に。魔術の才は認めるとしても、場末の出版社に出入りして官能小説を持ち込みする程度の腕で世界の命運を懸けたおとぎ話に商戦しようとするあの詰めの甘い男に。三文芝居しか書けぬあのバカに』
エルダーはエイワスが自分の体をグッと掴んだのを感じた。
『どうかその端正で瑞々しく可愛らしい小ぶりの唇から伝えておくれ、エルダー=マクレーン』
たとえ君がどのような人間だろうが、それでもしあわせになるための努力を常に怠るな。
君はよくあれだけの不遇を耐えた。
一人ぼっちで、歯を食いしばって、誰にも理解されず。
それでも理不尽の闇の中を手探りで歩み続けてきたキミのために。
『このエイワスが全てひっくり返す。君が背負った積年の痛み、流した血と汗と涙の重さに見合うだけの祝福を必ず与えてやるので覚悟しろ──とな』
エルダー=マクレーンはその言葉を託されて、『窓のないビル』から外へとぶん投げられた。
コロンゾンの真横を突き抜け、エルダーは触手のように自らを捕えんとする金の髪の猛攻から逃れる。そして、エルダーは広大な世界へと送り出された。
「ふふっ!」
両手でぎゅっと新たな自分自身である魔導書を抱えて、エルダー=マクレーンは笑う。
「人間、頑張れば最後にはちょびっと良いコトがあると思っていたが、まさかこれほどとはなっ」
エルダーは『窓のないビル』と運命を共にしようとした。
だができることならば、人間の枠組みを超えることなく、どこまでも自分を自由に高められる真守のことを見守りたいと思っていた。
真守のことを大切にする、マクレーン家のことを見守りたいと思っていた。
まさか呼び出したエイワスが自分と真守に素敵なプレゼントを用意してくれるなんて。それは望外の喜びというものだ。
エルダー=マクレーンは空中で愉快そうに笑うと、猫のように身を翻す。
『エルダー=マクレーン!』
「む?」
エルダーは大空で名前を呼ばれて身体を動かす。
見ると、地上より白いカブトムシが地球より複数飛んできていた。
朝槻真守の導きにより、垣根帝督が自らの能力で造り上げた人造生命体。
「帝兵!」
エルダーが顔を輝かせて人造生命体の名前を呼ぶと、カブトムシはエルダーに素早く近寄った。
「垣根帝督が『窓のないビル』と共に打ち上げられたワタシを心配して、向かうように指示したのか?」
『ええ、そうです。何があったか分かりかねますが、無事なようで何よりです』
「ありがとう、帝兵」
エルダーはなんだかんだ言って自分のことを心配する垣根に笑う。
「ではゆこうか、帝兵。地上はやはり大変なことになってるのであろう?」
『はい。色々と対処しなければならないことが山積みです』
エルダーは笑うと、肩にカブトムシを乗せる。
そして学園都市へと落ちていく。
自らの血族がいる世界へ。自らの望んだ『永遠』がある世界へ。