とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一一五話、投稿します。
次は七月三一日月曜日です。


第一一五話:〈不明事態〉でも事は進む

浜面仕上は自分が置かれている状況を上手く呑み込めていない。

だが自分がするべきことは分かっている。

目の前の小さな命──人間の赤ちゃんを世話することだ。

 

浜面仕上は以前、『ドラゴンライダー』と呼ばれるバイクを含めた駆動鎧(パワードスーツ)を借り受けたことがあった。そこからの縁で、浜面は第二学区のサーキット場でバイトをしていた。

 

大熱波が収束して、バイト先に呼ばれた浜面仕上は道路を歩いていた。

すると突然何者かに後ろから殴られて、気絶させられたのだ。

そして気が付いたら、全身スーツをまとわされていた。

 

昏倒させられた時にまとわされた全身スーツは装甲の所々にライトが埋め込まれており、危険度合いによって青から赤へと変化する仕様。

 

しかもどうやらこのスーツを着た他の誰かが、『総合証券取引所』へと襲撃を掛けたらしい。

となると必然的に、同じスーツを着ている浜面仕上は強制的に警備員(アンチスキル)に追われることとなった。

そしてその最中、浜面仕上は一人の赤ん坊を拾った。

 

その赤ん坊は新品同然の廃車の、鍵がかかったトランクに放置されていた。

腕に巻かれている強い素材で作られたタグには『LILITH』とだけ書かれている。

おそらくこの赤ん坊の名前なのだろう。

そしてどうやらこの『LILITH』、あらゆる人間に狙われているようなのだ。

 

例えば学園都市の頂点の一人、超能力者(レベル5)第二位、一方通行(アクセラレータ)

最初は何故、一方通行が自分を襲って来たのか理解できなかった。。

だがリリスを狙っていると予測できたのはその後の事だった。

 

浜面仕上は『総合証券取引所を襲った覆面男』と勘違いされて警備員(アンチスキル)に追われていたが、腕の中に何の罪もないリリスを危険にさらすわけにはいかなかった。

だからわざと警備員に捕まり、リリスを警備員に預けるために詰め所へと連行されたのだが、そこに一方通行(アクセラレータ)とは違う襲撃者が現れたのだ。

 

その覆面こそ、A・O・フランキスカと呼ばれる『総合証券取引所』を襲撃した犯人である。

浜面仕上は襲撃された警備員(アンチスキル)の詰め所からリリスを連れ、安全な場所を求めて逃亡した。

 

おそらくA・O・フランキスカは囮として浜面仕上にプロセッサスーツを着させた。

だがA・O・フランキスカにとって予想外の出来事が起きたから、囮である浜面仕上の前に現れて、襲って来た。

 

浜面仕上がイレギュラーに『拾った』もの。それはリリスだ。

この状況から見て、間違いはない。

今学園都市で起こっている問題の中心には、リリスがいるのだ。

 

『全く違いますね。見当外れもいいところです』

 

浜面仕上の名推理(笑)を蹴り飛ばしたのは、ベンチの背もたれで落ち着いている白いカブトムシだった。

垣根帝督が自らの能力で造り上げた人造生命体、カブトムシはヘーゼルグリーンの瞳で真剣に推測する浜面仕上を嗤う。

 

『全く違うのォ!? だってそうじゃんっそうとしか考えられないだろ!?』

 

浜面仕上はとある植物園の屋内施設で、驚愕の声を上げる。

ベンチにはリリスを抱き上げたミニスカサンタ姿の滝壺理后が座っており、驚愕する浜面をぼーっとした顔で見上げた。

 

「はまづら。まったく違うって」

 

スーツのせいで浜面仕上だと上手く認識されなかったが、なんとかしてリリスの世話をしてもらうために駆けつけてもらった滝壺理后。

そんな自らの最愛の恋人に追い打ちを掛けられた浜面仕上は叫ぶ。

 

『繰り返さんでいいわっ!! こんなよく分からん生命体より恋人の言葉が一番傷つくっ!!』

 

『よく分からん生命体とは失礼ですね、浜面仕上』

 

カブトムシはヘーゼルグリーンの瞳で、浜面仕上の気持ち悪い動作を見つめる。

 

『いいですか、浜面仕上。よく聞いてください』

 

カブトムシはそう前置きして、単刀直入に現状を説明する。

 

『A・O・フランキスカが狙っているのはそのプロセッサスーツです。浜面仕上を囮にするために、ヤツはあなたにプロセッサスーツを着させました。ですがアクシデントが起こってしまい、あなたのプロセッサスーツを破壊しようと襲ってきているのです』

 

『?? なんでプロセッサスーツが狙われてるんだ? これただのスーツだろ? というかそんな大事なモンなら俺に着させるなよ』

 

『そのスーツには学園都市の全ての情報が詰め込めるのですよ。そう見えないように設計されているのですが、それが事実です』

 

『え!? このスーツってそんなにすごいの!?』

 

浜面仕上はざっくりとしたカブトムシの説明を受けて、自分のプロセッサスーツを見る。

 

『確かに一方通行(アクセラレータ)の攻撃受けても大丈夫だったけど……もしかしてアネリが常駐できてるのはこのスーツがすごいからか? ていうかアネリ、お前知っててスーツに入ったのか!?』

 

『アネリ? アネリとは「ドラゴンライダー」に常駐し、運搬着(パワーリフター)にも使われていた思考補助システムですか? まさかそのスーツにも入っているのですか?』

 

カブトムシが怪訝な雰囲気を醸し出していると、もう一匹のカブトムシと一緒にリリスをあやしていた滝壺が怒った様子を見せる。

 

「あねりはわたしとはまづらを引き裂く悪いヤツだよ」

 

『源白が喜びそうな人工知能に成長していますね』

 

真守の大事な少女、源白深城は生粋の映画好きだ。

しかもニッチでマイナーな映画好き。人工知能と恋人を取り合う少女は大好物だろう。

カブトムシは深城を頭に思い浮かべながら、角をちょっと傾げる。

 

『滝壺理后が恋人を取られまいと敵視するほど高度な人工知能が、何故プロセッサスーツにまで常駐できるのでしょうか』

 

カブトムシは疑問を口にすると、ぶつぶつと呟く。

 

『規格が搭載に対応している? 学園都市の叡智に直結できる人工知能……統括理事会の肝いり? にしてはアネリは自由な思考ができているようですし。……人工知能は人工知能に聞いてしまった方が早いですね』

 

カブトムシはそう呟くと、数秒沈黙する。

 

『な、なんだ? どうしちゃったの??』

 

浜面仕上が急激に黙ったカブトムシを見て不審に思っていると、カブトムシはすぐに復帰した。

 

『なるほど。問答型思考補助式人工知能(リーディングトート78)を民生レベルに落としたモノなのですね。エルダー=マクレーンに確認しました。どうやら意思があるように見えているのは、アネリが彼女の下位互換のような位置づけにあるからだそうです』

 

『ごめん、まったく言っている意味が分からないんだが……?』

 

カブトムシの言っている事が何一つ理解できない浜面仕上を見て、カブトムシは目を細める。

 

『あなたには説明しても分からないでしょうから割愛します』

 

『端的に「お前は頭が悪いから説明しても無駄だ」って、よく分からん生命体に見放された!!』

 

浜面仕上が声を上げる中、滝壺理后が異変に気が付いた。

 

「まって、はまづら。呼吸がおかしい」

 

『え?』

 

浜面仕上は最愛の恋人の言葉に首を傾げる。

見ると、かひゅかひゅと、リリスが苦しそうに息を詰まらせていた。

 

『リリス!? どうした!!』

 

『乳幼児は突然高熱が出ます。その類でしょう』

 

カブトムシは冷静にリリスの頭に六本足の一つを乗せながら告げる。

だが突然、カブトムシはそのヘーゼルグリーンの瞳を明滅させた。

 

『いえ。これは……? まさか、この子は…………?』

 

『なんだ、リリスが死にそうなのか!?』

 

リリスは呼吸がうまくできないのか、かひゅかひゅと何度も不穏な息をする。

そんなリリスを見て、浜面は気持ち悪い動作で慌てる。

カブトムシは控えめに言っても存在が気色悪い浜面仕上に事実確認をする。

 

『──浜面仕上。彼女を拾った時、近くに誰かいなかったのですか?』

 

『……近くに誰かいたら俺だってその人に聞いてたよ。でもリリスは新品同然の廃車のトランクに、ご丁寧に鍵が掛けられて放置されてた。酷い親もいたもんだよ』

 

『……果たして親がいるのでしょうかね』

 

『どういうことだ?』

 

カブトムシは浜面仕上の問いかけに応えず、リリスの処置について話し始める。

 

『リリスは特殊な出生のようですので、乳幼児に対する当然の処置を施しても熱が下がらない可能性があります。第七学区のマンモス病院に連れて行きましょう』

 

『滝壺が世話になった病院か? リリスが特殊な出生って、いったいどういう──』

 

浜面仕上はカブトムシに言い寄っていたが、背筋が《ゾワリ》と怖気だった。

 

次の瞬間。

ダンプカーでも突っ込んできたかのような衝撃と音が響き、植物園全体が揺らされた。

衝撃で、植物園の天井を覆う強化ガラスが砕け散って落ちてくる。

 

プロセッサスーツの装甲の隙間に埋め込まれたライトが赤色になった浜面仕上は、とっさに滝壺とリリスを庇う。

だがプロセッサスーツに埋め込まれている『演算型・衝撃拡散性複合素材(カリキュレイト・フォートレス)』の出番はなかった。──何故なら。

 

『問題ありませんか?』

 

カブトムシが降り注いできた凶器全てを吹き飛ばしたからだ。

 

『野郎マジで地獄を見せてやる……ッ!!』

 

浜面仕上は怒りのままにそう呟く。

自分を狙うA・O・フランキスカは浜面仕上が赤ん坊を連れている事を知っている。

それなのに致死性の高い攻撃をして来た。到底許せることではない。

 

『どうやら一方通行(アクセラレータ)はミメティックプレデターに苦労しているようですね。パラメータを取得はしましたが、そのパラメータをミメティックプレデターが変数化させている。やはり一筋縄ではいきませんね』

 

カブトムシは淡々と告げながら、未元物質(ダークマター)を生成していた翅を畳んで浜面仕上の頭に着地した。

 

『ミメティックプレデターって一体なんなんだよ!?』

 

『学習能力が非常に高いだけの、考える脳がない細胞質の群れです』

 

『何なんだよチクショウ!! 俺は一体何に巻き込まれちまってるんだ!? というかリリス! リリスが高熱出してるのにこのまま戦闘なんてできねえぞ!?』

 

『安心してください。私が第七学区のマンモス病院まで連れて行きます』

 

カブトムシは浜面を落ち着かせると、ヘーゼルグリーンの瞳を光らせた。

すると、植物園の色々な場所からカブトムシがわらわらと出てきた。そしてリリスの事を未元物質(ダークマター)製の白い繭で包むと、四匹のカブトムシでそうっと揺らさずに持ち上げた。

 

『本当にリリスを任せて大丈夫か?!』

 

浜面が問いかけると、浜面仕上の頭に乗っかったカブトムシが告げる。

 

『私を誰だと思っているのですか。超能力者(レベル5)第三位、垣根帝督が真守の補助によって自らの能力で造り上げた人造生命体、帝兵さんですよ』

 

カブトムシは不服といわんばかりにぺちぺちと足で浜面仕上のプロセッサスーツを叩く。

 

『……だったら、滝壺も安全な場所に一緒に連れて行ってくれるか?』

 

「はまづら」

 

滝壺が心配そうに浜面を見上げると、浜面はプロセッサスーツ越しに微笑む。

 

『大丈夫。このスーツは意外と頑丈なんだ。一方通行(アクセラレータ)の攻撃を受けてもビクともしなかった。……だから、滝壺。リリスを頼む。お前があからさまに手助けしたら俺と繋がってるってバレるから、麦野と絹旗と連絡取ってリリスの事を陰ながら守ってやってくれ』

 

不安そうな顔をしていた滝壺は、浜面仕上の言葉を聞いて頷いた。

 

「分かった」

 

滝壺はリリスを連れたカブトムシと共にその場を離れる。

 

『今イチ状況を把握できてねーけど、要はアイツをぶちのめせばいいって話だろ!?』

 

『そうですね。あちらを壊せば万事解決です』

 

カブトムシは周囲の個体を呼びつけながら告げる。

 

『ですが敵の手にはミメティックプレデターがある事をお忘れなく。私も共に戦います』

 

『そのちっこい体ではあんま期待できねえ……ってウワ!!!』

 

浜面仕上は言葉を詰まらせて叫ぶ。

体長一五メートルほどのカブトムシがゆっくり現れたからだ。

 

『お前ら規格外すぎるだろ!? 流石超能力者(レベル5)が造った人造生命体!!』

 

『当たり前ですよ、舐めてもらっては困ります。私は真守に垣根帝督(オリジナル)が教えてもらった「無限の創造性」を惜しげもなく使って生み出された個体です。後から生まれた帝察さんとは格と経験が違うのですよ、まったく』

 

なんだかよく分からない愚痴を吐いているようだが、浜面仕上はとりあえず前を向く。

そして、A・O・フランキスカと対峙する事となった。

 

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