とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一一六話、投稿します。
次は八月三日木曜日です。


第一一六話:〈舞台壇上〉に遅れて登壇

『はッ!!』

 

浜面仕上は半壊した植物園で目を覚ました。

時刻は分からない。太陽は厚い灰色の雲に覆われており、すぐにでも雨が降ってきそうだ。

浜面仕上は鈍る頭で、何があったかを思い出す。

 

確か事の発端は、バイト先に向かう途中で背後から誰かに気絶させられた事だった。

そして謎のスーツを身にまとわされ、警備員(アンチスキル)に追われながらもリリスという赤ん坊を拾った。

 

その後なんやかんやあって人造生命体であるカブトムシから話を聞きながら、恋人の滝壺理后と共にリリスの世話をしていた。

するとリリスが突然熱を出し、浜面にプロセッサスーツを着させた張本人であるA・O・フランキスカが襲撃してきた。

確か、自分はカブトムシと共にA・O・フランキスカを迎撃しようとしていたはずだ。

 

浜面仕上は順序良く思い出して、そして何があったか全て思い出した。

A・O・フランキスカと対峙した際、横から一方通行(アクセラレータ)が乱入してきたのだ。

カブトムシは友好的だったが、一方通行はそうではなかった。

 

『イチから話すのは面倒だし、俺は()()()()じゃねェ。だから潰す』

 

一方通行(アクセラレータ)が浜面と敵対すると判断したならば、カブトムシは浜面仕上を庇えない。

というか話をする暇もなく、浜面仕上は一方通行によるベクトル操作を受けて、沈黙させられた。

だが浜面仕上は一方通行に命までは取られなかった。現に、浜面仕上は生きていた。

 

(くそ……ッどういうことだ、やっぱりアイツは信用ならねえ……ッ!! 一体何が起こってるんだよ、クソッタレ……!!)

 

浜面は毒吐きながら、首を振ってヘルメットを片手で押さえようとする。

すると違和感に気が付いた。スーツが異様に重いのだ。

手の甲辺りまで伸びる装甲の間に埋め込まれたラインは青い光が明滅しているし、体を動かす度に歯車がぎしぎし軋みを上げる感触が伝わってくる。

どうなってるか分からない。そんな中、柔らかで自信たっぷりな声が降ってきた。

 

「お。やはり再起動しおったな。一方通行(アクセラレータ)が結構容赦なしにやったのに自己修復してしまうとは、やはり学園都市の技術は凄まじい」

 

自信たっぷりで凛とした声。その声の持ち主は、そのまま独り言のように告げる。

 

「A・O・フランキスカのプロセッサスーツを破壊できて、スペアがかろうじて生きているのは僥倖だな。別に『先代』を再起動しても良かったのだが、手の内に『書庫(バンク)』があるというのもとても良いことだ」

 

浜面仕上は声がした方を見る。すると女性はぴこんっと頭の猫耳を震わせて、尻尾をゆらんっと揺らした。

 

「しかし、壊れたスーツを身にまとったまま()()はどこかへと行ってしまったからな。一方通行(アクセラレータ)が追ってはいるが……いやはや、ミメティックプレデターに阻まれているようだし、ふふ」

 

小さく笑う女性は、貴族の淑女のように美しかった。

ヴェールに隠れたエメラルドグリーンの瞳。あどけないのに女性の色香たっぷりの相貌。

西洋喪服を模したドレスにガーターストッキング。そしてピンヒール。

銀色の髪に、銀の猫耳とレースの飾りが付いた尻尾。

エルダー=マクレーンは浜面仕上──もっと言えば、プロセッサスーツを見つめて一つ唸る。

 

「ううむ。自己修復したとしても、完璧に機能を取り戻したわけではないのだな。所々壊れておる。それでもなんというしぶとさ。ゾンビというのは元々ブードゥーの刑罰であったと真守が常々言っておるが、日本文化的にこのスーツをゾンビスーツと呼んでも差し支えないな」

 

ゆらゆらと尻尾を揺らすエルダー=マクレーン。

そんな彼女を見て、浜面仕上は叫ぶ。

 

『な、なんで銀髪猫耳()()美人がこっち見ウォォォ!?』

 

『貧乳』という言葉が聞こえた時点で、エルダーは浜面の男として大事な部分──すなわち股間をピンヒールで踏み抜こうとする。

それを浜面仕上は男の本能で危機を察知。

即座に動きが悪いスーツを必死に動かし、浜面は尻を上げながら足を大きくV字に開脚してバランスを器用に取る。そしてエルダーの無慈悲な一撃を回避した。

 

ガァン!! と、エルダー=マクレーンのピンヒールサンダルを履いた小さな足が、浜面仕上の股のすぐ近くに着地する。

 

浜面はその勢いに、思わず鼻水を出してスーツ内の顔を真っ青にする。

そして尻をズリズリ這わせて後退し、浜面はスーツの上から股間を押さえて足をオカマチックにそろえて叫ぶ。

 

『あ、あぶねえだろうが貴族の淑女味がある美人さん!! 浜面仕上くんが浜面仕上ちゃんになっちまうところだったじゃねえか!!』

 

「お前など女になってしまえばよかったのだ!! 誰が貧乳だ、誰が!!」

 

エルダーは真守より劣っている胸を気にしながら、ぷんぷん怒って猫耳をイカ耳にして憤慨する。

 

「ええい!! 男はやっぱりおっぱいの大きさでしかヒトを測れぬのかっ!! ワタシはこれでも三姉弟を元気に産んで一人前に育てた女だぞ!!」

 

『その腰回りの細さで三人も産んだの!? 生命の神秘ってすげえ!! ……というか、やっぱり細っこい女の子って心配になるよなあ。壊れちゃわないかなーとか』

 

エルダーの腰は触ったらぽっきり折れてしまいそうなほどに華奢だ。

そのため浜面仕上が純粋に不安を口にすると、エルダーはふんっと顔を背けた。

 

「壊れやすい女を壊れないように抱く事ができなければ、ワタシは伴侶として認めぬ。……その点を言えば、垣根帝督は条件を満たしておるから合格だな。真守を本当に大事にするあの男なら大丈夫だ。うむ、何度考えても真守の相手に相応しい」

 

エルダーは納得したようにうんうんっと何度も頷く。

真守はエルダーやアシュリンよりも身長があるが、その分輪をかけて華奢だ。

そんな女を大事にして尽くせるなんて、垣根帝督は男として合格である。

 

『あー……第三位ってみるからにモテ男で、そこらへんそつなくこなしそうだよなあ』

 

浜面は垣根帝督を思い浮かべていると、脳裏に電撃が走って閃いた事があった。

 

『いや、待てよ。おそらく特殊性癖持ちであろう第三位の性欲のはけ口になってる第一位は調教されまくってるはずなのに、傍から見ても普通、エロエロになってない! 表でも普通に生活できるように調教できるのはマジですごいことじゃね……!?』

 

浜面仕上が真理に到達したような顔をしているのを、カブトムシはジト目で見つめる。

 

垣根帝督(オリジナル)と真守に妙な妄想を押し付けたことは黙っておきます。あーでも私をぞんざいな扱いしていますから、嫌がらせで告げ口するのもいいかもしれませんねー』

 

『頼むから黙っててくださいお願いしますカブトムシさまッ!!』

 

浜面仕上は綺麗な土下座を見せてカブトムシに謝る。

だが浜面仕上は思い出したことがあって、エルダー=マクレーンを見上げた。

 

『ハッ!! そういえばリリスは!? 滝壺は無事なのか!?』

 

「安心しろ、二人は無事だ。それにリリスは既に冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の元へと辿りついた。問題ない」

 

エルダー=マクレーンは浜面仕上を見下ろしながら、不機嫌そうに尻尾をゆらゆらする。

 

「して、浜面仕上よ。リリスは本当に新品同然の廃車の鍵のかかったトランクにいたのか? 本当に他に誰もいなかったのか?」

 

『え? なんだよあんたもカブトムシと同じ事聞いてくるんだな。……いなかったよ。だから俺が拾ったんだ』

 

「ふむ。どこから話せばよいか分からぬが……リリスは普通の赤ん坊ではない」

 

『どういう事だ?』

 

浜面仕上が首を傾げる中、エルダー=マクレーンは辺りを見回す。

 

「とりあえず場所を移しながら話をするか。全員集合の場所は……やはりリリスと真守がいる病院が良さそうだな」

 

エルダー=マクレーンは尻尾をゆらゆらしながら思考する。

 

「思考汚染の陣を破壊したアレイスターたちも、病院に来るであろう。それにワタシたちが移動すれば一方通行(アクセラレータ)が追っているA・O・フランキスカも自然と病院に向かうであろう。オマエもリリスと恋人が気になるだろ。共に来るのだ」

 

浜面仕上はエルダーに提案されて頷くと、立ち上がった。

現状、何に自分が巻き込まれているか理解できていないのだ。

それに先程カブトムシが説明しようとしてくれたが、まったく時間が足りなかったので理解できていない。

 

浜面仕上はエルダー=マクレーンの後を追う。そしてエルダーの小さいお尻から生えている尻尾と、頭から生えている猫耳をじいっと見つめる。

どこからどう見ても、生ものである猫耳と尻尾。

それを見て、浜面仕上はぼそっと呟いた。

 

『……やっぱりにゃんにゃん猫さんよりバニーさんの方がいいなあ』

 

「オマエの性癖にワタシを巻き込むなッ!!」

 

エルダー=マクレーンはシャーッと威嚇しながら叫ぶ。

その様子に既視感を覚えた浜面仕上は、訊ねていいかと思いながらも問いかける。

 

『……アンタは第一位の親族かなんかなの? なんかそこはかとなく似てるけど』

 

猫なところとか顔つきとか目とか。と、浜面が呟くと、エルダー=マクレーンは頷いた。

 

「うむ。そういえば自己紹介がまだだったな。ワタシはエルダー=マクレーンと言う。真守のひいひい祖母だぞ」

 

『めっちゃ若作りしてんじゃねえぐぼぉ!!』

 

再び失言した浜面仕上にエルダーの拳が飛び、浜面は頭に大ダメージを受ける。

 

『イテテテ……やっぱりこのスーツ壊れたんだな……頭に、もろに……ッ!!』

 

浜面仕上が身にまとわされたプロセッサスーツは『演算型・衝撃拡散性複合素材(カリキュレイト・フォートレス)』という、一方通行(アクセラレータ)の能力を再現した防御性を持っている。

だがエルダーの拳が確実に浜面の脳を揺らした。

そのため浜面はスーツが壊れていると考えたのだ。

 

エルダーは尻尾のスイングでバランスを完璧に取った拳を元に戻しながら、フンッと顔を背ける。

 

「確かにスーツにはガタが来ておるが、スーツが壊れておるから衝撃が入ったのではない。ワタシはこれでも大規模並列演算装置だったのだ」

 

エルダーは不機嫌に、尻尾をタシタシ揺らしながら説明する。

 

「『演算型・衝撃拡散性複合素材(カリキュレイト・フォートレス)』を身にまとっておる人間の内臓に対して的確なダメージを入れるなんて、演算機器同士のベンチマークテストより容易いぞ。だからオマエが再起動した際に止められるように、ワタシがそばに残ったのだ」

 

『だ、だいきぼへーれつえんざんそうちぃ?』

 

浜面仕上が大層な名前に首を傾げていると、エルダーは説明する。

 

「ああ。ワタシは元はと言えば人工知能だ。生身のワタシは大往生してイギリスの地で眠っておる。既に死んだワタシと今のワタシは明確に違う存在だが、それでもワタシはワタシをエルダー=マクレーンと定めた。偽物呼ばわりするでないぞ」

 

エルダーは猫耳をぴょこんっと動かして、ふふんっと得意気にする。

浜面はエルダーに揺らされた脳を必死に動かして、エルダーの言葉を理解する。

 

『な、なるほど……?? ……うーん、つまり生前の人間を再現した存在に、自分は新たな本物だと認識させてるって事か? 学園都市の技術はすごいなあ』

 

「うむ。そしてワタシの民生版がアネリだ。ちなみにアネリはエルダー=マクレーンの思考パターンではなく、とある黒猫的な未亡人風をインストールしているからな。全くの別人という事だ」

 

『え!? 未亡人なのアネリって!? そうなのアネリ?! ……って、そっか。アネリはあくまで検索エンジンだから話せないのか。……っておお!? 視界いっぱいにウィンドウ開かないでくれっ!!』

 

「随分気に入られておるようだな。まったくこの男のどこがそんなに良いのやら」

 

エルダーは浜面仕上のために、プロセッサスーツにわざわざ入り込んだアネリの事を思って目を細める。

 

「して、浜面仕上。本題に入るぞ」

 

『あ、はい。お願いします』

 

「単刀直入に告げる。プロセッサスーツとは、『書庫(バンク)』として膨大な情報を収納し、かつ機能する事ができるのだ」

 

『は?? 「書庫(バンク)」? 「書庫」ってあの「書庫」か!?』

 

浜面仕上はぺたぺたと自分のスーツを触って叫ぶ。

 

『オイオイそんな大勢から狙われそうな大事なモンどうして俺着ちゃってるの!? つーかさっき一方通行(アクセラレータ)が思いきり一撃加えてたけど、「書庫(バンク)」のデータは無事なの!?』

 

「安心しろ。スーツが再起動したのだから無事だ。そしてそれが要である。何故なら一方通行(アクセラレータ)がA・O・フランキスカのプロセッサスーツを破壊したからな。あの損傷具合ではそう判断するしかあるまい」

 

『……ええっと、そもそもどうして俺は囮としてプロセッサスーツ着させられたのに、A・O・フランキスカは何度も俺を襲いに来たんだ? アイツが着てるスーツだって「書庫(バンク)」として機能してるんだろ? そのまま逃げればいいじゃねえか』

 

「オマエが着ておるスーツと、あやつが着ておるスーツは規格が同じなのだ。同じ規格のモノが二つ起動しておると、競合が起こるであろう」

 

浜面仕上はその説明がイマイチピンと来ない。

そのためエルダー=マクレーンは言葉を付け足す。

 

「携帯電話のSIMと同じだ。同じSIMを持った二台の携帯電話を同時に起動しておったら、個人情報が混戦してどちらもネットワークにうまく繋がらぬ。それは分かるか?」

 

浜面仕上はエルダー=マクレーンが身近のモノで例えてくれて、やっと理解する。

普通、SIMが認識できる携帯電話は一つだけだ。だが携帯電話を乗り換える際、今まで使っていたSIMから新しい新しいSIMに変えなければならない時がある。

 

その時に古い携帯電話と新しい携帯電話でそれぞれ同じ規格のSIMを起動させていると、競合が起こってネットに接続できないのだ。

だから携帯電話を乗り換える時、古い携帯電話は必ず電源を切る必要がある。

 

『そうか……! ネットワークに繋げないなら、「書庫(バンク)」として機能しない。だからA・O・フランキスカは俺のプロセッサスーツを壊そうとして、何度も襲撃掛けてくるのか……!!』

 

「それかオマエを捕まえて、オマエのスーツを手動で全権限を委譲してスレーブ化させようとか、そういうのを考えたのであろうな」

 

エルダーは尻尾をゆらゆらしながら、はっきりと宣言する。

 

「オマエも知っておる通り、『書庫(バンク)』には学園都市の全ての技術が収容されておる」

 

どこからともなく取り出した扇子の先を、エルダーは浜面のプロセッサスーツに向ける。

 

「つまりオマエの愛しい女の能力の成長記録も、オマエの事を認めておる、『闇』の実験によって生み出された優等生や劣等生も。──そして、オマエが必死に『闇』から救い出した第五位の原子崩し(メルトダウナー)の能力データでさえ、敵は悪用しようとしていたのだ」

 

『!!』

 

浜面仕上はエルダーの説明で、やっと自分が大事な局面にいる事を知った。

そんな浜面仕上を見て、エルダー=マクレーンはにやにやと笑う。

 

「オマエは自分の手が届く人間を守るために立ち上がったヒーローなのであろう? ほらほら、すぐそこまで魔の手は迫りつつある。オマエと肩を並べる者たちは既に壇上へと上がった。おいてけぼりになっておるぞ?」

 

エルダー=マクレーンに煽られて、浜面仕上は拳を握り締める。

そしてバイザーの下で不敵に笑った。

 

『よく言うだろ、ヒーローは遅れて登場するって』

 

浜面仕上は覆面の下で笑うと、高らかに宣言する。

 

『A・O・フランキスカなんかに、俺の大切なモンは奪わせたりしねえ……!!』

 

エルダー=マクレーンは浜面仕上を見て、愉快そうに尻尾を揺らした。

 

「ではゆこうか、浜面仕上。オマエの守るべきモノを守るために」

 

にまにまと笑って、エルダー=マクレーンは満足そうにしながらも視線を鋭くする。

 

「だがまだまだピースは足りぬ。懸念事項は『書庫(バンク)』争奪戦の先にある。であれば全てを解明するべくワタシたちの縁ある地へ向かおうぞ」

 

エルダー=マクレーンの言葉に、浜面仕上は頷く。

目指すは第七学区のマンモス病院。冥土帰し(ヘブンキャンセラー)のいる病院。

そこに行けば、全ての事情が解明できるのだ。

 

事態に流されるままで翻弄されていたヒーローは、立ち上がる。

明確な敵を前にして、浜面仕上はヒーロー気質らしく、遅れて壇上へと躍り出た。

 

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