とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一一九話、投稿します。
次は八月一四日月曜日です。


第一一九話:〈憑依被者〉と対峙する

A・O・フランキスカ。

大熱波により場所が特定されてしまった『書庫(バンク)』の代替わり先であるプロセッサスーツを奪い、『今代』の『書庫』である総合証券取引所を襲撃した覆面。

『書庫』という、学園都市の技術の結晶を手の内に収めようとした存在。

 

結果的に、A・O・フランキスカのたくらみは上手くいかなかった。囮として浜面仕上に着させたプロセッサスーツとの競合によって、『書庫(バンク)』の情報を取り出せなくなってしまったのだ。

そのためA・O・フランキスカは一方通行(アクセラレータ)に追われつつ、浜面仕上のプロセッサスーツをどうにか排除しなければならなくなった。

 

A・O・フランキスカと自称する『彼女』。『彼女』はコロンゾンの直属の部下であり、現在コロンゾンに霊媒として操られてしまっている烏丸府蘭だ。

プロセッサスーツを着込む彼女は、少女らしい骨格がまるで分らない。

だから誰もが覆面『男』と呼称していたのだ。

 

烏丸府蘭は、自分の顔をぺたぺたと触った。

一方通行(アクセラレータ)にプロセッサスーツの基部を破壊されても、烏丸府蘭が着込んでいたプロセッサスーツはまだぎりぎり形を保っていた。

だがアレイスターの霊的けたぐりの一撃には耐えられず、『演算型・衝撃拡散性複合素材(カリキュレイト・フォートレス)』で守られたヘルメットやバイザーがついに砕けてしまったのだ。

 

府蘭は自分の顔を直接、何度も確かめるようにぺたぺたと触る。

そして自分の顔が露出していると知ると、雨に濡れた地面へと手を伸ばした。

府蘭は砕けてしまったバイザーの破片を探しているわけではない。

悪魔に憑かれてしまった少女が、二足歩行にこだわる必要がないのだ。

 

だから烏丸府蘭は獣のように四足歩行で頭部をだらりと下げて、臨戦態勢を取る。

 

四足歩行に体勢を変えた烏丸府蘭。

すると当然として、彼女の頭頂部から後頭部に向けて露わになった。

 

府蘭の後頭部には、赤い宝石が埋め込まれていた。血のように、赤々とした宝石だ。その宝石によって、府蘭の後頭部ではまるで子供の落書きのような顔が造り上げられていた。

宝石でできた歪な顔は府蘭の頭の後ろで、ビクビク脈動しながら光り輝く。

 

上里翔流と行動していた烏丸府蘭は、いつだってパーカーのフードを被っていた。

だからこそ、そこに埋め込まれている『顔』など露わにならなかった。

女の髪には魔が宿るという。府蘭の場合、髪に悪魔が宿っているのだ。

操られている府蘭の姿を見て、アレイスターはふんっと鼻で笑った。

 

「Al2O3に適量のCr。……つまりはピジョンブラッドか」

 

ピジョンブラッドとは、ルビーの最高品質を冠する異名だ。

アレイスターは府蘭の頭にあるルビーの輝きを見て即座に看破し、コロンゾンを考えて笑う。

 

「かの悪魔は三羽の鳩の血でもって描かれた陣の中より現れた。ピジョンブラッドとは言い得て妙。まさに、といった感じだな。甘言に振り回されれば、どのような人間であったとしても即座に転がり落ちていく」

 

アレイスターは説明口調で呟くと、霊媒(アバター)として操られている烏丸府蘭に語り掛けた。

 

「キミは大熱波の混乱に乗じて、朝槻真守が統括理事長である私に襲撃を掛けると知っていた。それをキミが逐一、ローラ=スチュアートに伝えないはずがない。……だから漁夫の利を狙って、コロンゾンは攻めてきた。だが当然、露骨に学園都市に乗り込むことはできない」

 

府蘭はアレイスターの言葉に応えない。

ただ首をきしきしと軋ませて、小刻みに揺れ動くだけだ。

 

「コロンゾンをここまで秘密裏に移動させることができる人員編成を考えれば、いつでも切り捨てられる天草式十字凄教と言ったところか。そうは言っても最大主教(アークビショップ)が出張るのはマズすぎる。……勤勉な東洋人どもめ、『積み荷』の中身も知らずにやらかしたのか」

 

烏丸府蘭は依然として何も応えない。ゆっくりと首を傾げて、禍々しい赤色を放つ後頭部の顔を揺らすだけだ。

 

『……あいつの意志じゃない』

 

まるで、烏丸府蘭はマリオネットのように操られている。

そう感じた浜面仕上は、思わず呟く。

 

浜面仕上は烏丸府蘭に昏倒させられて、囮であるプロセッサスーツを着込まされた。

烏丸府蘭は浜面仕上にとって、明確な加害者だ。

それでも浜面仕上は烏丸府蘭を見て、思わず声を上げる。

 

『アレはアネリなんかと全然違う。悪意を持って間違いしか吐き出さない「真実の鏡」なんてただの最悪だ。あんな邪悪をそのままにしちゃあならねえ!!』

 

「当たり前だ」

 

浜面仕上の言葉に同意したのは、上条当麻だった。

 

「そうじゃなきゃ、府蘭はA・O・フランキスカなんて名乗らない。コロンゾンの野郎に支配されて頭の中ぐちゃぐちゃに掻き回されながらも、府蘭は必死になってヒントを残してくれてたんだ」

 

あまり府蘭を良く知らない浜面仕上は、上条当麻と共に彼女を助け出さなくてはと思う。

 

一二月の、凍てつく雨が降り続ける。

どんよりとした曇り空のもと、禍々しい遠吠えが一つ響いた。

その遠吠えと共に周囲一帯に、明確な殺意がまき散らされる。

 

そして一方通行(アクセラレータ)やカブトムシ、学園都市の人々を惑わせた生体兵器──ミメティックプレデターが次々と蠢きだした。

 

ミメティックプレデターは、大多数がプロセッサスーツを着込んでいる。

だが中には、様々な姿かたちを取っている少女たちが混じっていた。

 

スク水メイド服ブルマバニー服セーラー服ブレザーミニワンピース男ものTシャツYシャツなど、あらゆる癖な服を着た可愛らしい少女たちのオンパレード。

それを見て上条当麻は自然と呟いていた。

 

「府蘭は一番近くから眺めていた上里勢力からインスピレーションを得てるんだ。だから女の子たちでまとめ上げて、大戦力を管理する方法を作ってる」

 

「やはりネス湖の実験で生み出されたミメティックプレデターを使っているようだな。わざと失敗させて精霊に似た何かを生み出している。ネス湖のあれは恐竜の生き残りだ何だと散々騒がれた挙句、三流新聞の手で随分と可愛らしい名前を付けられていたな」

 

アレイスターは自らと真っ向から対立していた三流新聞のことを思い出して、くつくつと笑う。

 

「あの魔術実験を意図的に失敗させることで、烏丸府蘭は即物的な膂力と咀嚼力を持つ『怪物』を生み出していた。……それにしても、長年誰にも発見されなかった事実を『何にでも形を変えられる』と再定義するとは中々ユニークな発想だな」

 

一流の(変態)魔術師として、アレイスターは府蘭を評価する。すると、アレイスターのそばに垣根と共に立っていた真守はリリスを抱いたまま目を細めた。

 

「府蘭はUFO少女を自称していたからな。ウサギグレイというイギリス由来のUMAキャラクターを愛していたし、あの三つの宝石もUFO少女らしくインプラントということになってたんだろう」

 

真守は上里翔流から聞いていた話をかいつまんで口にする。

そんな真守の腕の中で、リリスがトランペットのオモチャをプップーと鳴らした。

 

『結局何をどうするんですの、お父さん。一口に霊媒(アバター)といっても、その権限や役割は全く同じだというわけではなくてよ』

 

リリスは真守の腕の中で、ラッパ越しにアレイスターへ語り掛ける。

 

『マスターとスレーブの関係で、明らかに優先順位が偏るのです。それはつまり、長年にわたって乗っ取り続けているローラと、せいぜい数年足らずのフランとやらでは馴染み方が違うという意味ですわ、お父さん』

 

浜面はバイザー越しにリリスを見つめながら、思わず首をひねる。

 

『ええっとつまりどういう事? あばたーって何? ネトゲの好きなキャラは自然とレベルが上がっていって、嫌いなキャラはやっぱりレベルが伸びないとかそういう感じ?』

 

『空気を読まずに割り込むなヤンキーベビーシッター。その例えが私には理解できなくてよ。……つまり「私の妹」と比べれば、支配の力は弱いという事です』

 

真守は空気の読めない男浜面仕上と違い、リリスの説明を聞いて頷く。

 

「府蘭とローラはどちらも大悪魔コロンゾンに支配されてる。だが操られてる年季の違いで、ローラよりも府蘭の方がコロンゾンの支配から逃れさせるのが簡単だという事だな。ここでくじければローラなんて救えない。そう言いたいんだろ、リリス」

 

『新しいベビーシッターの方が優秀でしてよ。抱き方もあやし方も一級ですし』

 

『俺もしかして捨てられた!?』

 

浜面仕上が叫ぶ中、『人間』は告げる。

 

「これは試金石だ。せいぜい多くを試させてもらって、『次』に繋げる有効策を組み立てさせてもらうぞ。コロンゾン」

 

アレイスター=クロウリーの宣誓。

それが放たれると同時に、府蘭に先駆けてミメティックプレデターが動いた。

 

相手が動いたことで、浜面仕上はプロセッサスーツの装甲を赤く染め上げ、疾走。

そして上条当麻も前に出た。

 

浜面の蹴りがミメティックプレデターをドミノ倒しのように蹴散らす中、上条当麻は浜面仕上によって地面に倒れたミメティックプレデターの腹に右手を押し付けた。

途端に甲高い音ともに、幻想殺し(イマジンブレイカー)によって打ち消されたミメティックプレデターが雨水に塗れて溶けていく。

 

『ッ! アンタのそれで府蘭とかいうのの頭の宝石は吹っ飛ばせねえのか!?』

 

「食いちぎられる事なく指先で触れられたらな! ライオンの首輪に付いた宝石を取って来いっていうのより大変なんだよ!」

 

浜面仕上と上条当麻。浜面が力技でなぎ倒して上条が幻想殺し(イマジンブレイカー)でミメティックプレデターを打ち消す、という構図は確かにできあがった。

その向こうでは大小さまざまなカブトムシがどこからともなく現れて、大量のプロセッサスーツを着た覆面男と怪獣大戦争を繰り広げていた。

 

だが、ミメティックプレデターはあくまで斥候でしかない。

 

本当の攻撃を仕掛けてくるのは、烏丸府蘭だ。

彼女は一方通行(アクセラレータ)によってプロセッサスーツを破壊されたにもかかわらず、その鉄くずを身にまとったまま弾かれるように前に出た。

 

前に出て、爆発的な加速を見せる府蘭。

その速度はすぐさま、城壁を打ち破ることができそうな圧に達した。

 

烏丸府蘭はプロセッサスーツをまとう浜面仕上に急接近する。

そして浜面のプロセッサスーツを破壊しようとして、自分がまとっているプロセッサスーツの関節装甲を砕きながら、砲撃じみた拳をお見舞いした。

 

だが烏丸府蘭のその拳は浜面仕上に届かなかった。

 

一方通行(アクセラレータ)が横から府蘭に接近し、能力をフルに使って殴り倒したからだ。

浜面仕上は一方通行が作った隙の中、駆け出す。

そして吹き飛ばされた府蘭を思いきり地面に押さえつけた。

 

プロセッサスーツの出力はすさまじい。

浜面が府蘭を押さえつけると、衝撃で駐車場のアスファルトが放射線状に砕け散る。

 

するとついに、府蘭のまとっていたプロセッサスーツが限界を迎えた。

何かのジェルやクリームで保護され、水着だけを着ている府蘭の姿が露わになり、その無表情が浜面の視界いっぱいに広がった。

 

その瞬間、府蘭は浜面仕上に向かって凄まじい咆哮を放った。

そして、何かを掴み取るように自由な手を空へと伸ばした。

 

ギラッと、赤い宝石でできた顔が獰猛に煌めく。

すると。雲で覆われているはずの学園都市の雨降る曇り空が、不可解に輝いた。

 

『……オイオイオイオイちょっと待てぇ!!』

 

浜面仕上は天を仰いで、思わず叫ぶ。

上条当麻も『それ』を見上げて絶句していた。

 

上里翔流は、烏丸府蘭をこう呼称していた。

自称UFO少女で首にインプラントを埋め込み、巨大風船で空を飛んだり世界中の無線電波を蒐集したりしている不思議系少女だと。

そしてお手製の宇宙ステーションまで作りあげてしまった、困った女の子だと。

 

お手製の宇宙ステーション。それを、烏丸府蘭はファンアート作品と呼称していた。

烏丸府蘭はイギリス由来のマスコットキャラクターである、ウサギグレイを愛している。

自身が好きなウサギグレイ。そのウサギグレイのファンアートとしてせっせと造り上げた宇宙ステーションを、彼女はウサギグレイメッセンジャーと読んでいた。

 

つい先日まで学園都市で引き起こされた大熱波。

その大熱波には、府蘭の宇宙ステーションが使われていた。

 

烏丸府蘭は宇宙ステーションに、高出力マイクロ波式の通信機を搭載していた。

それはまだ見ぬ誰かへ、一〇〇年越しに声を伝えるためである。

その高出力マイクロ波を学園都市に照射して、電子レンジのように学園都市を温めていたのだ。

 

一歩間違えば学園都市が府蘭もろとも蒸発する奥の手。

だがその奥の手を、コロンゾンは利用できなかった。

何故ならコロンゾンに操られた烏丸府蘭が、自分を操っているコロンゾンへとせめてもの反抗をしていたからだ。

 

烏丸府蘭の反抗によって、コロンゾンは上手く宇宙ステーションを操作できない。

だからこそ、コロンゾンは物理的な手段に出た。

 

府蘭お手製の宇宙ステーションを、学園都市に落とす。

そうすれば綿密な操作なんて関係ない。真守たちに物理的なダメージを与えることができる。

 

一方通行(アクセラレータ)ァ! 援護しろ!!」

 

鋭く声を上げたのは、垣根帝督だった。

即座に応えた一方通行は、純白の翼を広げて空へと躍り出る。

 

「垣根!」

 

真守は三対六枚の翼を広げて、自分も飛び立とうとしている垣根の名前を呼ぶ。

 

「お前はここにいろ。大丈夫だ、あれくらい俺たちだけで対処できる」

 

「でも私が源流エネルギーでぶち抜けば、」

 

「真守」

 

垣根は小さな命の事を大切に抱き上げている、愛しい少女の肩に手を置く。

 

「立ってるのも頑張ってるお前に、無理をしてほしくない」

 

朝槻真守はコロンゾンの一撃をまともに喰らっている。

動けるようになったが、その体にはまだダメージが残っている。

その状態で、垣根は愛しい少女に無理をしてほしくない。

 

「頼むから、守らせてくれ」

 

真守は切実に告げた垣根を見上げて、申し訳なくなってしまう。

 

「……分かった。垣根、ちゃんと一方通行(アクセラレータ)と一緒に無傷で帰って来るんだぞ」

 

「俺を誰だと思ってやがるんだ」

 

真守の言葉に垣根はふわっと地面から足を離しながら告げる。

 

「俺は『無限の創造性』をお前に教えられた男だぜ?」

 

真守は笑顔で垣根の言葉に頷く。

そして凍てつく雨が降る夜の空へと上がっていく垣根を見上げた。

 

『真守。風邪を引くといけませんから』

 

真守に声を掛けたのは、真守の頭に降り立ったカブトムシだった。

カブトムシは翅を広げると、未元物質(ダークマター)を散布して真守を冷たい雨から守る。

 

「ありがとう、帝兵さん」

 

真守は柔らかく微笑みながら、ゆっくり振り返った。

 

「でもただ静観してる暇はなさそうだ。帝兵さん、臨戦態勢」

 

真守が睨んだ方向には、とある一人の少女がいた。

銀髪碧眼の少女。

真守よりも小さい、それでもその頭に一〇万三〇〇〇冊の魔導書を完全記憶し、多くの知識を溜め込んだ魔導書図書館。──インデックス。

 

『第三章第八節。周辺捜査完了。「自動書記(ヨハネのペン)」モード、通常通り敵性の排除を実行します』

 

インデックスはイギリス清教・最大主教(アークビショップ)の思惑で生み出された魔導書図書館だ。

そして彼女を操るための遠隔制御霊装は『王室派』と『清教派』が保有していた。

 

だがその遠隔制御霊装を使わなくても、インデックスを生み出した大悪魔コロンゾンは、どんな状況でもインデックスを操ることができるのだ。

 

朝槻真守は再び対峙する。

かつての上条当麻と共に救った、かけがえのない少女と。

あの理不尽を、その結末を。もう一度引き起こしてはならない。

 

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