とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一二四話、投稿します。
次は九月四日月曜日です。


第一二四話:〈異国海域〉にて爆走を

フランスのカレー地方。そこから四〇キロ弱北東。

つまり、フランスからイギリスへと繋がる海域。──ドーバー海峡。

その海上は、戦場となっていた。

 

爆発や閃光が瞬き、海の上なのにそこかしこで炎が見える。戦場を彩る凄まじい光源によって、夜天は塗りつぶされて星どころか月すらも満足に見えない。

 

海上を飛び交うのはレーザーや火球といった、魔術由来の攻撃術式だ。

攻撃に科学の影が欠片も見えないのは、学園都市が機能停止した事で外部で使われていた学園都市由来の技術が軒並み使えないからだ。

 

「ダメだと思うよ……?」

 

上条当麻は思わず呟く。

上条は真守たちご一行とクルーザーに乗っていた。

 

もちろん科学という一大分野を築いた統括理事長、アレイスター=クロウリーが操るクルーザーは、すでにただのクルーザーではなかった。ジェットエンジンを無理やり搭載され、時速一五○キロで水上を爆走できるように改造されている。

 

凄まじい速度を出すクルーザー。そのせいで船体は上下によって視界は激しく揺れ、重圧感から内臓がぎゅっぎゅっと圧迫され続ける。

 

「これは絶対ダメだと思うよ!? 死ぬって、今回ばかりはホントに死ぬ!!」

 

船酔いなんて感じている暇などない。むしろ死の予兆すら感じさせるほどの恐怖。

たまらず上条当麻が叫ぶと、クルーザーの屋根部分から不気味な音が響いた。

どうやらクルーザーの天井に魔術由来のレーザーがぶち当たったのだ。

 

すぐさま轟音と共にクルーザーの天井は崩壊。

一瞬にしてオープンカー状態の、大変見通しがしやすいクルーザーとなった。

数十センチ放射がずれていたら、幻想殺し(イマジンブレイカー)でも間に合わなかった。

上条当麻がその事実に恐怖を感じていると、アシュリン=マクレーンは柔らかく微笑んだ。

 

「あら。さすがにすごい事になっていますわね」

 

こんな時でも貴族のご令嬢らしく足をそろえ、優雅な様子のアシュリン。

真守はアシュリンの隣に座ったまま、アシュリンと同じく余裕を見せながら感心したように頷く。

 

「さすが伯母さま。ケルトの民は戦いの民だと言うし、いつでも冷静だ」

 

「ふふ。真守ちゃんも余裕があるようで良かったわ。愛らしい」

 

アシュリンは柔らかく微笑んで、真守の頭を優しく撫でる。

ケルトの民は祖霊崇拝や精霊崇拝といった先祖や自然現象に対して敬意を払う者たちだ。

だがその本質は意外にも、戦いに対して非常に獰猛な性質を持っている。

つまり戦場に立つことが多いため、いつでも余裕たっぷりなのだ。

 

ただ戦闘を好む民族といっても、マクレーン家は優美で端麗だ。

その血統は高潔であり、イギリス貴族の一員として確かな礼儀とマナーを身に着けている。

しかも策士の家系であるため厄介なのだが、科学の頂点に上り詰めた朝槻真守が実は家族であるという事実が、より厄介さを助長させていた。

 

優しく微笑むアシュリンとその隣に座っている真守。

そんな余裕たっぷりな真守たちの向かいに座っているインデックスは、がっくんがっくん揺れるクルーザーの振動で顔を青くしていた。

だがドーバー海峡の向こうに見えるイギリスの地を見て怪訝な表情をした。

 

「あれが、イギリス……? なんていうか、全然空気が違う」

 

インデックスはイギリスで過ごしていたが、一年ごとに記憶を消去されていた。

そのためインデックスにとって、イギリスは近くて遠い存在だった。

実はルーツがイギリスにあった真守もインデックスと同じようなものなのだが、インデックスは想像していたイギリスと現実が違うから眉をひそませているのではない。

 

イギリスの沿岸部には破格の大型霊装がずらりと並んでいて、魔術砲兵たちは必死になって霊装を使用している。

魔術の専門家として、違和感を覚えたからこそインデックスは不審に思ったのだ。

 

「おそらく砂浜に特徴的なエンブレムをたくさん立てて、守護聖人の天罰やたたりを水平射撃しているんだよ。でもあれじゃ、自分から拒絶してる。殻に閉じこもって、見たくないものを遠ざけるみたいに」

 

アレイスターはインデックスの評価を鼻で笑った。アシュリンもくすくすと笑う。

インデックスの言葉が的を射ているからだ。

今のイギリスは必死に全てを遠ざけようとしている。

上条の肩に乗っているオティヌスは、その様子を見て何の気なしに呟く。

 

「ドーバー海峡全体で一分間にざっと八〇万発程度か。あの分だと、誘導性能がなくても弾幕だけで夜空をすりつぶせるな」

 

オティヌスが軽く告げる中、大型霊装が牙を剥く。

大型霊装を使ってイギリスが必死に撃破しようとしているのは、ドーバー海峡よりイギリス侵攻を進める大量のアレイスター=クロウリーだ。

 

アレイスターの体に秘められていた、一〇億八三〇九万二八六七通りの可能性。

それが解き放たれたことにより、大悪魔コロンゾンを滅ぼすための軍勢が生まれた。

 

体中に何本もの剣や槍を突き刺し、自らの血に塗れた怪人。

無数の人の顔が刻まれているように見える、樹木のホウキに跨る老人。

誰もが見惚れるような美貌に七色の光輪を背負った、陳腐ながらも有翼を持つ美しい青年。

 

食虫植物のような巨大な口をいくつも有する臓腑の塊に呑まれた、グロテスクな巨竜。

ちょっと卑猥に思えるほどに触腕を持つ者。錆びた鉄の装甲で筋肉を締め上げた肉食恐竜。

はたまたコンクリートの立方体を人間の体のように繋げた何か。

 

およそ人だと判別するのが難しい怪物から、とても見目麗しい人間まで。

それら全てが、アレイスター=クロウリーのIFの姿なのだ。

 

アレイスターたちはフランス側から一斉にイギリスへと押し寄せている。

そりゃあれだけの怪物たちを目の前にしたら、イギリスが嫌なものから目を背けてからに籠りたくなるのも分かる気がする。

 

「クロウリーズ・ハザードとでも呼んでくれたまえ。私の名を冠した災厄だ」

 

「最悪の災害なのです」

 

そう呟いたのは烏丸府蘭だ。府蘭は爆走するクルーザーの暴風で煽られるパーカービキニのフードを押さえながら、顔をしかめる。

難色を示す府蘭の反応が好ましいのか、アレイスターは上機嫌に言葉を紡ぐ。

 

「コロンゾンが『窓のないビル』にいた私を殺してくれたおかげで無数に重なるIFの私が溢れかえった。その数、ざっと一〇億以上。この中には魔術を極めたクロウリーもいれば、きっぱり諦めたクロウリーもいる。しかしまあ、どれもこれもまともな可能性ではないな」

 

垣根は真守の事を優しく抱きしめて守りながら、満足そうに呟くアレイスターを睨む。

 

「自慢するように言うんじゃねえよ。要は全員変態エロ親父って事だろ」

 

垣根が毒吐くと、イギリス沿岸に置かれた大型霊装から極太ビームが放たれた。

大型霊装は閃光と共に、クロウリーズ・ハザードの群れを一網打尽にしようとする。

だがアレイスターの数が多すぎるのだ。まともに相手しても敵わない。

 

それでもイギリス側はこれまでで多くのアレイスターを仕留める事ができた。

そのせいで、ドーバー海峡は死の海となっていた。

血の海が広がり、肉のぶよぶよとした切れ端がぷかぷか浮かび。戦場と呼ぶのもおぞましい場と化している。

 

ドーバー海峡に限った話ではない。イギリス連邦加盟国、五三か国に加えて、周辺国すらもクロウリーズ・ハザードによって悲鳴を上げている。

 

クロウリーズ・ハザードとイギリスの攻防。その中を真守たちはクルーザーで爆走する。

そしてやがて白い石灰でできた沿岸部が見えてきた。

月明かりに照らされたゴール。とはいっても、あそこに到達してからが始まりなのだ。

 

上条当麻はその事実に、思わずごくッと喉を鳴らした。

その瞬間。

すぐ近くを、閃光と共に砲撃が駆け抜けた。

 

砲撃は一体のクローリーに命中した。

そのクロウリーとは胃液をウォータージェットのように放っていたゲテモノクロウリーだ。

砲撃をもろに喰らったゲテモノクロウリーは爆散。

見上げるほどに巨大な臓物の塊が次々に飛び散る。

 

その中で、一番大きな塊がクルーザーに降ってくる。

時速一五○キロで爆走していたとしても、クルーザーはその巨大な肉の塊を避けられなかった。

そのせいでクルーザーは真ん中からひしゃげてしまい。

朝槻真守を筆頭に、全員が投げ出された。

 

(能力が十全に使えて、垣根が能力使うなって怒らなかったら防げたんだけどなあ)

 

真守は空中で投げ出されながらも、心の中でのんびりぼやいていた。

下は血の海。

能力使えば垣根に怒られる。そのため真守は大人しく垣根が助けてくれるのを待って、未元物質(ダークマター)を広げた垣根へと顔を向ける。

すると。何故か違う方から手を伸ばされて、真守はひょいっとお姫様抱っこされた。

 

「お?」

 

真守はびっくりして、自分を横抱きにした伯母──アシュリンを見上げる。

アシュリンが真守を見て柔らかく微笑むと、ざああっと闇がさざめきだった。

 

真守が驚く中、アシュリンの影が濃密にとろけて一つに集まる。

すると、影が一匹の怪鳥となったのだ。

 

それは真っ黒なカラスだ。

アシュリンと真守を乗せても、まだ余裕があるほどに巨大である。

アシュリンは真守のことをお姫様抱っこしたまま、とんっと軽くカラスの背に降り立つ。

 

「お、伯母さまが……魔術使った……ッ!!」

 

真守がびっくりと目を大きく見開く中、アシュリンは微笑む。

 

「外のケルトの伝承にもあるけど、この術式の根幹にはエルンマスの娘、女神たる一柱がモチーフとなっているの。彼女は烏の姿で戦場を飛び回り、戦士たちを先導して狂気に追いやっていた。それに基づいて、影を模したカラスを使役しているのよ」

 

「ふお……。ふかふかだ。……これが影で造られているのか……」

 

真守はふかふかと柔らかい羽毛を手で撫でながら、感動する。

 

「この子はどこでも使える子ではないのよ。戦場でしか使役できないの。……でも、ここはどう考えても戦場だから」

 

アシュリンは辺り一面の血の海と死骸がぷかぷか浮かぶ戦場を一瞥しながら、にっこりと微笑む。

 

「……伯母さまたちは、肉体そのものがケルトの魔術を使う媒体となっているんだよな?」

 

「ええ、そうよ。真守ちゃんにはこの前教えたものね」

 

アシュリンは真守の頭を優しく撫でる。

ケルトの魔術は、あからさまな魔法陣や呪文を使わない。ケルトの一族はその肉体に秘められているケルトの血統と洗練された肉体を媒介にして、魔術を使うのだ。

 

イギリス清教に所属している天草式十字凄教は、日常動作や日用品などから宗教的要素を拾い出し、それを組み合わせることで魔術を発動させる。

 

天草式十字凄教とは明確に異なるが、ケルトを継ぐ者たちはその身にあまりあるケルトを秘めている。そのケルト的要素を組み合わせることで、ケルト式の魔術を行使するのだ。

 

「伯母さまたちは魔法陣や呪文を使わない。その身だけで魔術を行使できる。……本当に、魔法陣やあからさまな呪文を使わないで魔術が使えるんだな……」

 

確かな血統と遺伝子。それが無ければ、ケルトの魔術は使えない。

朝槻真守にもケルトの血は流れている。だが混じりがある状態でケルトの魔術が使われた前例はないため、もしケルトの魔術を教えられても安定性に欠けるのだろう。

 

真守が少し寂しくなってると、アシュリンは真守の頭を優しく撫でる。

カラスに乗っている真守とアシュリン。そんな二人に、垣根が近付いた。

 

「真守」

 

「あ、垣根。伯母さまが助けてくれたんだ。だから能力使ってないぞ」

 

「分かってる、ちゃんと見てた」

 

垣根は未元物質(ダークマター)の翼を広げたまま、カラスのすぐ近くで浮遊する。

真守は垣根の無事を確認すると、自分の背中を支えているアシュリンを見上げた。

 

「伯母さま、助けてくれてありがとう」

 

真守がお礼を告げると、アシュリンや柔らかく微笑む。

 

「どういたしまして。かわいい姪を守れてよかったわ」

 

真守はアシュリンに優しく頭を撫でてもらって、ふへへっと笑う。

 

「伯母さまが魔術を使う姿、とってもかっこよかった。伯母さまたちはみんなを助けるために魔術を使う。その使い方、とても良いと思うぞ」

 

近代西洋魔術を扱う魔術師たちは、誰もが自分の願いを叶えるために魔術を使う。

だがマクレーン家はそうではない。

 

ケルトの一族として、同じケルトの民を守るために魔術を使う。

そしてあくまで文化として、魔術を後続へと伝えているのだ。

 

そのためマクレーン家は全員、魔法名を持っていない。自らの願いを込めた魔法名を掲げる意味がないからだ。

 

「わたくしたちケルトの民は何かを望んで魔術を手にするのではなく、文化として魔術を継承している。だから自分の我を通そうとする近代西洋魔術師とは全く違うのよ。ふふ。そのせいでイギリス清教が設立された際、ひと悶着あったのだけどね。ふふふ」

 

((この様子を見る限り、とんでもないことやってそうだな……))

 

垣根と真守は微笑むアシュリンを前に、心の中で同じことを呟く。

 

イギリスはローマ正教から独立するためにイギリス清教を立ち上げ、そのイギリス清教に認可してもらう形で今の『王室派』が存在する。

政治的な理由で打ち立てられたイギリス清教と『王室派』。そんな彼らと血の気が多いケルトの民の間にひと悶着あったのは想像に難くない。

 

「わたくしたちがイギリス清教に(くみ)する道理はなし。ヤツらはわたくしたちのことを野蛮人とか言うけど、国外からやってきた宗教で楽しくやってるヤツらの方が野蛮人なのよ」

 

アシュリンは少し怒りながらもにこにこと笑みを深めながら、ほくそ笑む。

 

「魔術を使うわたくしたちのことを『清教派』は無視できない。そして『王室派』はわたくしたちを止めるために貴族に指定したけど、わたくしたちがゴネて画策したから『騎士派』のトップ、騎士団長の命令を聞かなくても良い特例となってる。ふふ、マクレーン家は誰にも屈しないのよ」

 

真守は小悪魔じみてるアシュリンを見つめたまま、遠い目をする。

 

「……なあ、垣根。やっぱり私の実家って最強だと思うんだけど」

 

「そうだな。……つーか科学のトップに立つお前が身内ってだけで、マクレーンは十分最凶だろ」

 

真守はどこからどう見てもその髪色以外が全てアシュリンとそっくりだ。

それは真守の母がアシュリンと一卵性双生児であるため、遺伝子的に言うと娘も同然だからだ。

 

そんな一度見ただけでマクレーンの血を引く者だと分かる、科学の結晶である真守がマクレーン家の身内なのだ。

魔術と科学。どちらも手の内にあるマクレーン家ははっきり言って凶悪である。

 

イギリスに古くから根付く、多大な権力を持つマクレーン家。

真守は自分を全面的に支援してくれるマクレーン家を思って、眉をひそめる。

 

「あんまり甘えられないよなあ……」

 

「あら。何を言ってるの、真守ちゃん。たくさん甘えて、たくさん使えるものは使って良いのよ。あなたはわたくしたちの大事な姫御子なのだから。手が届かないからこそ、大事に想ってるのよ」

 

アシュリンは柔らかく微笑んで、真守を見つめる。

ケルトが求めた永遠。それでも運命の介入によってケルトが得られなかった大切な姫御子。

しかも真守はアシュリンが自分の半身だとして大切にしていた妹の忘れ形見なのだ。

 

「真守ちゃんのことが大切なの。分かってるでしょう?」

 

「よく分かってるよ、伯母さま。……あんまり甘えるのは申し訳ないと感じるケド、甘えられるところがあったらたくさん甘えるね」

 

「ええ、それで良いのよ。真守ちゃん」

 

真守はアシュリンに微笑まれて、ふにゃっと笑う。その姿を見て、垣根は小さく笑った。

 

トンボ(端末)で監視させてるから、全員の居場所は分かってる。とりあえず異能にしか対応できないひ弱な万年バカのところに行くぞ」

 

「垣根、上条に辛らつすぎ」

 

真守はじとっと垣根を睨む。

だが異能にしか対抗できない上条やオティヌス、インデックスが心配なのは事実だ。

そのため真守はアシュリンと垣根と共に、上条たちの反応がある方へと向かった。

 

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