とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一二五話、投稿します。
次は九月七日木曜日です。


第一二五話:〈母国沿岸〉への上陸

ドーバー海峡とはイギリスにとって、ユーラシア大陸への玄関口だ。

沿岸は純白の砂浜が広がっていて、陸地に少し進むと白亜でできた断崖絶壁が待っている。

 

普通ならば、本当に美しい海岸なのだ。だがその美しい光景は見る影もない。

イギリスへ上陸しようとするクロウリーズ・ハザード。それに対抗するために、海岸には強大な防衛陣が築き上げられ、戦場と化していた。

 

クロウリーズ・ハザードが攻めてきている今、首都ロンドンまでわずか一〇〇キロのところに位置しているドーバー海峡は何としても落とされてはならない場所だ。

 

海には上陸できないようにコンクリートブロックが沈められ、第一のバリケードとなっている。

そして純白の砂浜にも、第二のバリケードとして無数の大盾が立てられていた。

しかも大盾が突き刺してある砂浜には、魔法陣が地雷として大量に隠してある。

 

垂直の崖には鉄骨を無差別に突き刺し、有刺鉄線で人が登れないようにしてある。

そして崖の向こうには補給用の木箱やタンクに見せかけたトラップがあり、そのはるか後方には救護用のテントや砲撃に備えた退避豪が設けられていた。

 

そして何と言っても目を引くのは、崖の上に立てられた大型霊装の数々だ。

たたりや天罰を有する魔術的象徴を取り込んだ巨大な円盤には、ライオンの顔や狩人の衣が刻まれていた。その大型霊装は海側に向けて展開され、クロウリーズ・ハザードを迎え撃っている。

 

大型霊装の後方には非戦闘員であるイギリス清教の祈祷部隊が待機しており、前衛では『騎士派』に属する騎士たちがクロウリーズ・ハザードと戦っていた。

 

そんな中、ツンツン頭の少年はピンチに遭遇していた。

ピンチに陥っているのではなく、ピンチに遭遇しているのだ。

 

上条はクルーザーから投げ出され、夜の波打ち際に打ち上げられた。

一二月のイギリスの寒さにびしょ濡れで凍えて死にそうだが、いまは気にしている場合ではない。

上条当麻の目の前で、一人の女性騎士がクロウリーズ・ハザードと奮闘していたからだ。

 

女性騎士は剣を持って巨大なタコのような吸盤と触腕を持つクロウリーと戦っていたが、クロウリーの攻撃によって剣の刃が折れてしまった。

女性騎士が戦う得物を失っても、敵である変態触腕男は止まらない。

 

得物を失った女性騎士の銀の鎧を、タコ型怪人アレイスターはかみ砕く。

そしてサーコートを意味ありげに、アレイスターは勢いよく裂いた。

 

女性騎士は着ているものを奪われて、ビリビリの穴が開いたインナーと肌をさらけ出す。

そんな女性へと、タコ型怪人アレイス=クロウリーは舌なめずりをするように、ゆっくりとタコのような太い触手を伸ばす。

 

IFと呼ばれようが、あれはアレイスター=クロウリーの一つの可能性である。

つまり、変態なのだ。

その証拠にベイバロンのモチーフを多分に含んだ個体へと性転換転生を果たしたアレイスターは、何かあればラブなホテルへと上条当麻を連れ込み、真守にはセクハラし放題。

 

美少女になってもどんな姿になっても、アレイスターはアレイスターだ。

そんな真正の変態である触手を無数に生やしたタコ型怪人アレイスターと、女性騎士。

何が起こるかは、想像に難くない。

 

「自重しろ大馬鹿野郎ォォォおおおおお!!」

 

上条は叫び声と共にアレイスターの触腕を一発ぶん殴る。

だが触腕をうねうねさせるタコ型怪人アレイスターを幻想殺し(イマジンブレイカー)で殴っても、アレイスターには普通の少年の拳の衝撃しか駆け抜けなかった。

 

上条当麻の前にいるのはアレイスター=クロウリーが裡に秘めていた可能性の一種だ。

つまり、明確な肉の器を持っているのだ。

そのため上条当麻が幻想殺し(イマジンブレイカー)で殴っても、タコ型怪人アレイスターの存在が打ち消されることはないのだ。

 

これまで銀髪美少女へと性転換したアレイスターを散々幻想殺し(イマジンブレイカー)で殴って来ても、アレイスターには何も問題なかった。

だから触腕アレイスターは全くの無傷で立っていた。

しかも女性騎士は突然出てきた上条当麻を敵と認定し、キッと睨む。

 

そりゃこの状態で突然現れた見知らぬ男子高校生を即座に受け入れるなんざ、今日日エロ漫画でも見ない。上条当麻は状況に絶望する。

 

だが次の瞬間、アレイスター=クロウリーの触腕が爆発した。

 

完璧な演算によるベクトル操作。それはもちろん一方通行(アクセラレータ)の仕業だ。

一方通行はタコ型怪人アレイスターの腕をもぎ、とどめと言わんばかりに大きな岩を蹴り上げてタコ型怪人の頭に直撃させて昏倒。

一方通行は一連の動作を終えると、ストッと上条当麻の隣に降り立って上条を睨んだ。

 

「何を遊ンでやがるンだ、くそったれ」

 

一方通行は手心を加えて無力化したアレイスター=クロウリーを足で蹴り上げる。

 

「お、ま……めちゃくちゃだなあ……でもちゃんと手加減してるし……流石だなあ」

 

「ッチ。しょうがねェだろ。俺は統括理事長なンてどォでもいいが、アイツの前でブチ殺すワケにはいかねェからな」

 

一方通行(アクセラレータ)は毒を吐いて顔を上げる。

すると遠くで優雅に純白の翼で飛んでいる垣根帝督と、伯母であるアシュリン=マクレーンと一緒に怪鳥クラスに大きいカラスに乗った真守がいた。

 

突然現れた破格の力を持つ一方通行(アクセラレータ)。彼を見て呆然としていた女性騎士はハッと息を飲むと、即座に折れた剣で臨戦態勢を取った。

 

「何だ貴様たちはっ? ただの一般人には見えん、よもやクロウリーズ・ハザードの仲……──」

 

女性騎士は鋭く声を上げるが、その声は最後まで通らなかった。

一方通行が触腕タコ型怪人アレイスターの折れた歯を、ビシッと女性騎士の額に打ち込んだからだった。

 

「めんどくせェから寝てろ」

 

一方通行(アクセラレータ)に昏倒させられた女性騎士は頭を揺らして、どさっと倒れこむ。

 

「話も聞けねェバカが折れた刃物だけ振り回すとかどンだけ世紀末なンだこの国は。……これが戦時下か、外から来た人間なンぞ人間扱いもしやしねェ。確かにこいつらを止めるにはトップを説得すンのが一番だな。アイツやアイツの親族に任せて、末端は薙ぎ倒していった方がよさそォだ」

 

一方通行(アクセラレータ)はため息を吐いて、空を優雅に飛んでいる真守たちを見上げる。

真守は一方通行の視線に気が付いて、ふわりと微笑むと一方通行に小さく手を振った。

それを見て微妙な表情をする一方通行。

 

そんな一方通行の横で上条は気絶した女性騎士に落ちていたビニールシートを掛ける。

そして女性騎士を見つめて、呆然とする。

 

「……見えないのか、俺、助けを求める一般人に……」

 

「この世紀末にそンだけ余裕がありゃ当然の評価だろクソが」

 

上条は一方通行の言葉に、がっくりと肩を落とす。

そんな二人のもとに、垣根とカラスに乗った真守とアシュリンが降りてきた。

真守は一方通行と上条に近づくと、猫耳ヘアを彩っているトンボにちょんっと触りながら二人に声を掛ける。

 

「浜面たちはけっこう遠くに打ち上げられてしまったんだ。あっちはあっちで別で動くっぽいぞ」

 

「統括理事長も言ってたが、途中下車したかったらすりゃァいんだろォが。オマエが責任取る必要はねェ。オマエはオマエのやりたい事やりゃァいい」

 

戦場に自分の意思で来ているのだから、自分の命は自分で守るべきだ。

だから神さまだろうとなんだろうと、真守が全ての責任を負う必要はない。

その意味を込めて一方通行(アクセラレータ)が声をかけると、真守は幸せそうに目を細めた。

 

「ありがとう、一方通行。でも一応帝察さんでも確認してるし、何かあれば帝兵さんたちになんとかしてもらうつもりなんだ」

 

真守は一方通行の気配りが嬉しくて、ニコニコと笑みを浮かべる。

そんな真守を見て、一方通行(アクセラレータ)は眉をひそめた。

微笑ましい二人のそばで烏から降りたアシュリンは烏の背中を撫でると、横たわっている女性騎士に目を向ける。

 

「あら。この方、騎士派の精鋭ではありませんの。お飾りではなく、本当に動ける方よ。……女性騎士という理由だけでひん剥かれて性的な事情に持っていかれるとは。流石定石を理解した上で変態やってるクロウリーですわ」

 

垣根はあらあらと楽しそうにしているアシュリンを横目で見る。

 

(貴族のご令嬢なのに、エロ漫画の鉄板知ってんのか……)

 

触手と女性騎士。薄い本の鉄板ネタが分かる垣根はアシュリンと違って、年相応である。

だが真守は垣根と男女の仲になって致す事を致していようとも、そっち系の話はあまりよく分かっていない。そのためアシュリンの言葉に首を傾げる。

 

「何が定石なんだ? というか、定石なんてものがあるのか……?」

 

「真守ちゃんは知らなくていいのよ」

 

「? どういうこと?」

 

真守はアシュリンに頭を優しく撫でられながら、きょとっと目を見開く。

垣根も真守を見て、視線を鋭くした。

 

「その人の言う通り、お前は知らなくていい事だ」

 

「……なんか知っちゃいけないコトみたいだから、もう聞かない」

 

真守は少し顔を赤らめながら、ぽそぽそと呟く。

するとすぐ近くで爆発が引き起こされた。

 

赤い鮮血と共に、あらゆるものが飛び散る。それは甲虫だったり太い鎖と真ん丸鉄球で造ったヒトガタだったり、錆びた装甲に覆われた肉食恐竜だ。

 

ゲテモノアレイスターを砂浜に沈ませたのは、無事だった銀髪美少女アレイスたんだった。

その隣では、これまた無事だった烏丸府蘭が声を上げていた。

 

「戻ってきたぜイギリス、ウサギグレイの国です。いえーい」

 

府蘭は頭に取り付けたウサギアンテナをぴょこぴょこ動かし、上条当麻を見た。

 

「あなたは何でケータイ電波を無秩序にばらまいているですか。とっとと電源切るかバッテリーを抜くのです」

 

「ええっ、なんかどっちみち通じないから同じじゃね?」

 

「一般市民のケータイを制限しているだけで、警察消防などは普通に使えるのですよ。制限下であっても位置情報の割り出しは可能なのです。潜入先で自分から電波まき散らすとか、自殺願望ですかあなたは」

 

真守は府蘭に白い目を向けられている上条に声を掛ける。

 

「帝察さんがいるからケータイなど必要ない。私はそもそも持ってきてないぞ」

 

「つーか戦場で一般普及してるケータイ電話に頼るとかバカがやることだよ。お前はロシアで一体何を学んだんだ」

 

真守以外には辛らつな垣根に呆れた鋭い言葉を吐かれて、上条は軽くへこむ。

そんな上条の横で一方通行(アクセラレータ)はチョーカーに触れる。

一方通行のチョーカーには、変わらずに未元物質(ダークマター)でできた垣根お手製のキューブがついている。

 

本当なら生命線である電極になど誰にも触れてほしくないのだが、真守という絶大な信頼ができるストッパーがいる垣根ならまあ許容範囲である。

真守は電波を扱うものとして、電極を気にしている一方通行を見て、にこっと笑う。

 

「電極はあくまで学園都市製で脳波を変換させるモノだから大丈夫だと思うけど。帝兵さんでそこら辺にも安全策入れておくか?」

 

「問題ねェ。この杖にはミサカネットワークを阻害する電波をジャミングする装置がしこまれてるからな。いざとなったらそれを使う」

 

一方通行(アクセラレータ)は改造に改造を重ねた杖を見ながら告げる。

真守はそんな一方通行を見て、柔らかく微笑んだ。

 

「それでも危なかったら言ってくれ。絶対に無茶させないから」

 

「オマエも大概心配性だよなァ」

 

真守と一方通行が話をしている中、アレイスターが近付いてくる。

 

「上条当麻を回収できたのは僥倖だ。さて、行くとするか」

 

アレイスターの傍らにはインデックスがいる。

そしてその肩にはもちろんオティヌスも無事に乗っていた。

 

「浜面と滝壺とかいう女の子は?」

 

「大丈夫。さっき一方通行と話したケド、あっちはあっちで動いてるから。逆に潜伏してるから下手に動かない方が良いと思う」

 

真守がいま一度上条に詳しく説明すると、垣根は胡乱げな瞳でカブトムシのネットワークに接続した状態で目を細めた。

 

「あいつらには明確な戦う目的がねえからな。まあ死なねえくらいには面倒見てやるよ」

 

垣根が軽く言うと、アレイスターは指揮を取る。

 

「まずは私たちが向かうのはロンドンだ。この国の全てが詰まっているからな。アシュリン=マクレーンもとりあえずはロンドンだろ?」

 

「ええ。わたくしはバッキンガム宮殿に用がありますから。真守ちゃんも一緒に行ってくれると言ってくれましたし」

 

アシュリンは柔らかく微笑む。

そんなアシュリンを見て、アレイスターは頷き、移動し始める。

 

「行くぞ。まずは足を確保せねばな」

 

アレイスターの言葉を聞き、一同は動き出す。

だが上条当麻はずぶぬれだ。そして一二月の寒さがとてもこたえるはずである。

 

「上条が風邪を引いてしまいそうだ。垣根、上条のために熱波を出してくれ」

 

真守は垣根の服の裾を引っ張って、お願いする。

朝槻真守はコロンゾンの一撃を受けており、それから復帰しても高熱を発していた。

そして復帰していると言ってもやっぱり尾は引くものである。

 

垣根に能力を使うなとお達しが出ている以上、真守は上条のために能力を振るうことができない。

垣根の言うことを聞こうとしている真守。そんな真守を見て、垣根は嫌そうな顔をした。

 

「バカは風邪ひかないから気にする必要ねえ思うがな」

 

「能力使うなっていう垣根の言いつけをちゃんと守ってるんだから、私のお願いも叶えて」

 

「……しょうがねえな」

 

垣根はカブトムシを呼び寄せて、上条当麻の頭に着地させる。

 

「この貸しは高くつくからな」

 

垣根が言い放つと、カブトムシが上条の服を乾かすための未元物質(ダークマター)を生成する。

上条は温かい風を感じながら、いつもの調子の垣根を見て笑う。

 

「垣根って本当に朝槻以外には厳しいよなあ」

 

一部始終を見守っていた真守は、肩をすくめる。

 

「これでも優しくなった方というのが、垣根らしいなってところだがな」

 

真守は苦笑しながら、垣根の手を握る。

 

「行こう、垣根」

 

「あんまり早歩きするなよ、真守」

 

「はーい」

 

ちょっと不満そうに返事をする真守を、アシュリンはくすくすと笑って見守る。

そしてカラスを生み出していた魔術を解除して、一同と共に歩き出した。

 

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