とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一三○話、投稿します。
次は九月二五日月曜日です。


第一三〇話:〈周囲探索〉で異常を知る

大悪魔コロンゾンはイギリス清教の最大主教(アークビショップ)として、イギリスと連合王国加盟国に自らの魔の手を張り巡らせていた。

何があっても自分が(つい)えないように。コロンゾンは自分という存在を世界に深く刻みつけていた。

 

そんな大悪魔コロンゾンが拠点としているロンドンは、コロンゾンの気配で満ちていた。

 

コロンゾンの気配が強すぎる。これではロンドンの人々に悪影響を与えていることは確かだ。

 

大熱波から解放された学園都市で、コロンゾンは人々の思考を汚染していた。

不和を生じさせて真守が垣根の力を借りて統治させた学園都市に混乱を巻き起こしていた。

 

ロンドンの人々も、コロンゾンによっておかしくさせられているのは明白だ。

だから真守は人々を守るために、垣根帝督と共にバッキンガム宮殿を出た。

垣根は宮殿から出ると、真守のことを手招きする。

 

「真守」

 

「ん、分かってる」

 

真守は短く返事すると、垣根に近寄ってお姫様抱っこしてもらう。

朝槻真守は大悪魔コロンゾンによって、その身に『拡散』を打ち込まれた。

いまは回復しているが、垣根帝督はできれば真守に能力を使ってほしくない。

その気持ちを真守も分かっている。だからこそ、大人しく垣根に近寄ったのだ。

 

「垣根は優しいな。ちょっと心配になるくらいに過保護だがな」

 

真守は垣根に抱き上げてもらいながら、ふふっと笑う。

 

「ちょっと器は小さいかもしれないケド、最近は私や林檎、深城だけじゃなくて。周りのひとのことも考えてくれるから。前よりもっと優しくなった」

 

「……器小せえって余計な一言だろ」

 

垣根は自分の腕の中でご機嫌にすり寄ってくる真守をちょっと睨む。

それでも真守のことを想って、垣根は目元を優しく弛緩させた。

 

優しい。その言葉は、垣根帝督にとって縁遠い言葉だったはずだ。

それでも真守は事あるごとに優しいと言ってくれる。真守だけじゃない。源白深城や杠林檎も優しいと言ってくれる。

 

悪党であった自分を救ってくれたのは、真守たちだ。

垣根帝督は救われたいなんて思った事が無かった。救いなんてこの世界にないと思っていた。

救いなんて、意味がないものだと思っていた。

 

だが救いとは明確に、どうやら存在するらしい。だから垣根帝督はイギリスまでやってきた。愛しくて誰よりも大切にしたい少女と共に、世界を守るためにやってきたのだ。

 

「……あんまり無茶するなよ」

 

「うんっ。ちゃんと分かってる」

 

真守はふにゃっと笑うと、垣根の腕の中で動いて垣根の頬にキスをする。

こんな状況だが、やっぱり垣根は真守が自分からキスをしてきてくれたのが嬉しい。

真守は自分のことを本当に大事にしてくれる垣根を見上げて、恥ずかしそうに笑った。

 

「危ないことはしない。垣根は心配性だからな」

 

「お前が無茶ばっかするのがいけないんだろ」

 

「深城はそんなに私のコトを心配しないぞ?」

 

「あいつは器がデカすぎんだよ」

 

垣根はため息をつきながら、未元物質(ダークマター)でできた三対六枚の翼を広げる。

そして、空へと躍り出た。

 

石やレンガ、コンクリートやアスファルト。昔から使われていた石材と、現代になってから生み出された科学技術の素材たち。それら新旧入り混じったロンドンの街並み。

一二月の冷たい霧が覆い隠すロンドンの夜の街を、垣根は真守と共に上空から見下ろした。

 

ロンドンの上空を空高く飛ぶことはできない。

 

何故なら(いま)だに、ロンドンには三重四色の結界が張られているからだ。

そのため垣根は高く上昇する事無く、建物と同じくらいの高さを飛ぶ。

 

垣根はロンドンを見渡すと、自身の手足であるカブトムシを呼んだ。

ロンドンは最結界によって守られているが、垣根と真守は既に最結界の解析を終えている。

そのため学園都市から垣根が連れて来たカブトムシとトンボをそれぞれロンドンに侵入させるのは、容易な事なのだ。

 

ぶーんっと飛んできたカブトムシは、真守の腕の中にすっぽり収まる。

 

『現在、個体を増殖させてロンドン市内に展開中です。完全に市内を網羅できるようになるまであと五分ほどで完了します』

 

「急げ。それとすでに展開した場所で妙な動きがあったら、優先して知らせろ」

 

『はい』

 

垣根はカブトムシに命令を出しながら、手ごろな屋根にトンッと降りる。

 

「真守、大丈夫か?」

 

垣根は真守の事を屋根に降ろしながら、問いかける。

 

「私は大丈夫だ。……問題はロンドンの方だ。やっぱりコロンゾンの気配が濃い。ロンドン中からヤツの気配がする」

 

真守は垣根の腕の中から降りて、屋根の上からロンドン市内を見渡す。

垣根はそんな真守の様子を見て、ちょっと安心する。

 

馬車の中で、真守はロンドンに近づくとコロンゾンに穿たれた一撃が疼いてしまっていた。

だがどうやら、ロンドンに蔓延するコロンゾンの気配に完璧に慣れたらしい。

真守のことをずっと見守っていた垣根帝督には分かる。

真守は安心している垣根の横で街を見渡して、少し微笑む。

 

「ここが、ロンドンか。私と縁が深い都市」

 

「そうだな。イギリスはお前の故郷だからな」

 

垣根は真守の頭を優しくぽんっと撫でる。

真守は垣根に頭を撫でられながら、決意を瞳に見せる。

 

「私が大事にするべき街だ。だから守らなくちゃいけない」

 

真守は垣根に寄り添いながら、辺りを見回す。

コロンゾンの気配が強い。だがやはり、その気配の濃さにも少しだけ濃度の違いがある。

 

「まずはコロンゾンがロンドンに置いた思考汚染の基を見つけないとな。魔術に関しては素人だけど、今の私にはたぶん辿ることができる」

 

真守は呟きながら、辺りを見回す。

 

「ロンドンの人々の思考を汚染している元凶。それを叩かなければ、神裂たちはいつまで経っても正常な判断をできない。早いところ処理しないと」

 

バッキンガム宮殿で聞いた限り、騎士団長と神裂は何かがおかしくなっている。

まるで、正義の軸を少しだけズラされているような。そんな違和感があるのだ。

真守は肉眼で辺りを見回して、周囲を探る。

すると、とある方向を見た瞬間。真守は自分の胸が少し軋んだのを感じた。

 

「帝兵さん」

 

真守はカブトムシを呼んで、自分が何かを感じた方に何があるか確認する。

 

「……神裂……?」

 

「何か気になったのか、真守」

 

真守が呟いたので、垣根は真守へと意識を向ける。

イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の所属、神裂火織。

彼女をカブトムシ越しに見た瞬間、ぎしりと真守の胸が疼いた。

 

「……垣根、ちょっと私と一緒に帝兵さんのネットの同じところ見て」

 

「分かった」

 

垣根は真守と共に、カブトムシのネットワークで神裂火織を捉える。

神裂火織は騎士派の騎士たちと共にいる。

そしてその中には、おそらく騎士団長と呼ばれる男もいた。

真守はカブトムシに肩に乗ってもらい、垣根に手を広げて近付く。

 

「コロンゾンがロンドンをおかしくしてる元凶を先に絶たないと、神裂や騎士団長と話しても意味がない」

 

思考が汚染されている。正義の軸がズラされている。

その状態では、ろくに会話などできない。だから真守は神裂たちと合流するよりも、コロンゾンの思考汚染の基を探していた。

 

「……悪魔とは人々に囁く者のことだ。人をそそのかし、誘導し、自らの在り方を体現しようとする。元から善性や悪性というものが存在しない、善と悪を超越した存在。だから性質が悪い」

 

元来、善悪とは人間が造り出したものだ。

何が正義で何が悪か。それを決めるのはひとの行いを客観的に見た時だ。

 

だから人ではない悪魔や神には、善悪がない。

 

超常はただ自分たちの在り方を体現しようとする。そこに善悪などない。自分の在り方に則って、超常は世界に影響を与える。

 

超常が人々にとって良い行いをすれば善になり。人々にとって悪い行いをすれば悪になる。

 

真守自身も、頂へとたどり着いた存在だ。

人々が生み出した『流行』を冠した真守は、人間がいるからこそ存在できる。だからこそ、人と共にあることを望んでいる。

 

「これだけコロンゾンの気配が強いとなると、コロンゾンはもしかしたら眷属のような霊媒(アバター)を用意してるかもしれない」

 

「はん。悪魔が悪魔を生み出すって事か? ……まあ下位互換みてえなのは、自分のかたちに則って簡単に造り出せるだろうな」

 

「うん、帝兵さんや帝察さんを垣根が生み出したように。()()()()()()()()()()簡単だ」

 

真守は自分が抱き上げているカブトムシのことを、ぎゅうっと抱きしめる。

 

「ただ確証がない。学園都市の時みたいに髪を媒体にしてるとかそういうこともあるし……その場合だと、アレイスターの力を借りなくちゃいけないかな」

 

「お前なら大丈夫だよ。それに俺もいるからな」

 

垣根は真守の髪の毛を一筋掬って、笑いかける。

 

「お前と同じ世界を見る事ができる俺がいる。だから大丈夫だ」

 

「ふふ。ありがとう、垣根。……なら、ちょっと行こうか。コロンゾンの気配が強いところへ」

 

「そうだな。……あのまま行くと衝突するしな」

 

垣根は頷いて、真守のことを抱き上げる。

そして未元物質(ダークマター)の翼を広げて、空へと舞い上がった。

 

神裂火織と騎士団長。それと『騎士派』の騎士たち。

彼らはロンドンにやってきたアレイスター=クロウリーと一方通行(アクセラレータ)を標的にしていた。

垣根にとってはどうでもいいが、真守にとってはどうでも良くない。

そのため垣根は真守の考えを尊重して、彼らのもとへと急行した。

 

 

 

──────…………。

 

 

 

「もう逃げられんぞ、ロンドン」

 

そう呟いたのは、銀の少女になったアレイスター=クロウリーだった。

ロンドンを守る三重四色の最結界。

真守から解析結果を受け取ったアレイスターは、少し時間がかかったがロンドン入りすることができていた。

 

「いやはや。私も大概なものを生み出してしまったものだな」

 

アレイスターはくつくつと笑い、自分の少し上空を飛んでいるトンボへと目を向ける。

 

「三重四色の最結界は多重構造だ。正解の道が乱数化していることに加え、秒単位で形が変わる。おそらくイギリス側は誰も解き方を知らんだろう。──そんなものを解き明かせる頭脳を持った人間が二人もいる。行き着くべきところまで行き着いたな」

 

アレイスターは朝槻真守と垣根帝督のことを思って笑う。

三重四色の最結界は、極めて複雑な構造をしている。

だがそれでも魔術に変わりない。誰も解き明かすことがないと言えど、明確なルールが存在している。そのルールを、真守と垣根は高度な演算能力によって力技で解き明かしたのだ。

 

「朝槻真守と垣根帝督ならば、解き明かせないことはない。流石だな」

 

アレイスターは自らが生み出した技術の結晶である真守と垣根を誇る。

十字教に一矢報いたのが嬉しい。アレイスターは上機嫌にしながら、『さて』と呟いた。

 

「朝槻真守と垣根帝督が結界の解析をできるとは想定外だ。その線については考えてなかったから、上条当麻のことを囮に使ってしまったが。不幸中の幸いというヤツだな」

 

アレイスターは軽やかに笑う。

すると、アレイスターと一緒にいる一方通行は不愉快そうにチッと舌打ちをした。

上条当麻がアレイスターによって利用されたからだ。

 

周りの人のためならば、自分の命よりも他人を優先して拳を振るう。

そんな真正のヒーローを利用されたことが、一方通行は不快だったのだ。

 

「そんなに怒るなよ、一方通行。君は彼を宝石箱にでも入れて大切に保管したいのかね?」

 

アレイスターの言わんとするところ。

それは至宝であるならば、宝石箱に閉じ込めておくより使った方が良いということだ。

 

「うるせェよ。人望がねェヤツに言われたくねェ」

 

一方通行はじろっとアレイスターを睨む。

アレイスターの横には、一方通行しかいない。

上条当麻を処刑塔に送り込んだ時には烏丸府蘭とインデックスも一緒にいた。

 

だが彼女たちは彼女たちで、上条当麻を助けようと別で動いている。

一方通行は悪態を吐きながらも、アレイスターと共に歩く。

 

「ただいま、霧と魔術と黄金の都。大悪魔コロンゾンの根となる城よ。全てに決着をつけるため、クロウリーが舞い戻ってきたぞ」

 

アレイスターが謳うように言葉を紡いだ瞬間。ばづんっという音が響いた。

ロンドン全体を覆い尽くしていた、オーロラ色に輝く三重四色の最結界が破られたのだ。

 

処刑(ロンドン)塔。その中に隠されている三重四色の最結界、その核が上条当麻の右手に宿る幻想殺し(イマジンブレイカー)によって破壊されたのだ。

 

三重四色の最結界が破られると、クロウリーズ・ハザードがロンドンへと来襲する。

クロウリーズ・ハザードの戦闘を歩き、銀の少女はロンドン南端を軽やかに歩く。

すると、アレイスターと一方通行(アクセラレータ)の行く手を阻むように声が響いた。

 

「申し訳ありませんが、一刻も早く押し切らせていただきます」

 

術式の関係上、アシンメトリーである服装。

『七天八刀』という刀を携えた聖人──神裂火織。

 

「今こうして命を賭して戦っているみんなを救うために、一秒一瞬たりとも無駄にはできないのです!!」

 

アレイスターは舞台役者の大仰な身振りをする。

 

「人材が不足しているのではないかね、連合王国の巨人よ」

 

アレイスターが笑うと、ロンドンへと迫っていたクロウリーズ・ハザードが銀の少女の後ろから雄たけびを上げた。

クロウリーズ・ハザードの強襲。それを雷よりも迅速に薙ぎ払った者がいた。

 

切り裂かれたクロウリーズ・ハザードたちは赤や緑、茶色や灰色といった体液をまき散らして切り伏せられる。

 

アレイスターも一方通行も、それに驚かなかった。

神裂と共にこの場にやってきた軍勢に気が付いていたからだ。

 

完全武装の騎士たちを数十人控えさせた『騎士派』の長──騎士団長。

騎士団長は手にした両刃の剣を軽く振ってその血を払った。

 

アレイスターはクロウリーズ・ハザードを捨て置いた騎士団長から視線を外して、聖人・神裂火織を見た。

 

「一応アレも私と同じアレイスター=クロウリーなのだがな。慈愛に満ちた聖人サマは、その胸に刻んだ魔法名を思い浮かべて特に何とも思わないのか?」

 

「断頭金貨」

 

アレイスターの問いかけを無視して声を上げたのは、騎士団長だった。

 

「ホレグレス=ミレーツからの要望で、いざという時、速やかに自決するための霊装の最終的な許可を出したのは、この私だ。私が国中にバラまいた」

 

アレイスターは騎士団長の言葉に眉をひそめる。

そんなアレイスターを気にせずに、正義の軸をズラされた騎士団長は高らかに宣言する。

 

「だが断頭金貨などただの一人たりともに使わせん!! 私だけではない、『聖人』と共に行けば押し切れる。押し通す!!」

 

アレイスターは神裂火織と騎士団長の様子を見て忌々しそうに呟く。

 

「……ローラめ、知らぬ間に上手い事正義の軸をズラしたものだ。敵は殺してやるのがせめてもの救い、とでも置換させているのか」

 

アレイスターはそう呟いて、上空を見上げた。

 

「彼らがここに来たという事は、バッキンガム宮殿にいる英国女王は無事が確保されているということだな」

 

アレイスターが見上げた先。

そこには未元物質(ダークマター)の翼を広げた垣根帝督に抱き上げられた朝槻真守がいた。

 

「神裂!」

 

真守の言葉に、神裂火織は行動で応えた。

アレイスター=クロウリーへと、騎士団長と共に切り込む。

 

神裂火織は聖人特有の身体能力によって『七閃』という、派手な抜刀に見せかけた七本の鋼糸によってアレイスターを攻撃する。

騎士団長は両刃の剣を使って、単調故に強力な攻撃を繰り出した。

 

搦め手と直球。

どちらも強力であり、並みの魔術師なら対処不可能なものを『騎士派』の長と聖人は重ねてきた。

 

(あの神裂が最初から必殺の手段を簡単に用いるなんて、やっぱりおかしい)

 

真守は神裂の異常な行動を直に見て、思わず眉をひそめる。

 

(ここからコロンゾンの気配を強く感じる。だが神裂からも騎士団長からもいまは特に何も感じない。悪魔が存在して誰かに憑依しているかと思ったが。そうじゃない? でも『流行』へと至った私が直感したんだ。絶対に悪魔の力を持った何者かがロンドンにはいる)

 

彼らにとって不似合いなほどのオーバーキル。

それこそ大悪魔コロンゾンの手によって正義の軸をおかしくされた結果であると、真守は理解していた。

 

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