とある科学の流動源力-ギアホイール-   作:まるげりーたぴざ

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第一三四話、投稿します。
次は一〇月九日月曜日です。


第一三四話:〈浸蝕空気〉は人々を侵す

汝が欲するところを為せ、それが汝の法とならん。

 

アレイスターが自らの著である『法の書』の一節を説くと、クリファパズル545が一〇本の指をゆらりと動かした。

クリファパズル545の一〇本の指先から、それぞれ糸がするすると伸びる。

 

クリファパズル545は自分の指先から出した糸で騎士団長と完全武装の騎士たちを絡め取る。

そしてマリオネットのように人間を操って、真守たちを取り囲ませた。

 

アレイスターの足元には、(いま)だに神裂火織が転がっている。

彼女はまだ操られていないが、クリファパズル545に捕らえられれば体の限界をぶっちぎってでも壊れるまで操られるだろう。

 

『にひ』

 

元は単なるビール栓である断頭金貨。それをざらざらとまき散らしながら、悪魔は笑う。

 

『にひひ、いひひひひ、ひひひひひ』

 

悪魔は笑いながら、左右に伸ばした両手を合わせる。

すると指先から、大量の糸が溢れた。

その糸たちはねじれ、巨大な糸繭のような塊となった。

 

クリファパズル545は糸繭をアレイスターに向ける。

そして稀代の魔術師を丸のみにして操ろうと、糸繭はばっくりと口を開けた。

 

アレイスターはクリファパズル545の攻撃を避けなかった。

垣根が訝しむ中、アレイスターはばぐんっと糸の塊に食べられた。

 

『ひひ、ひ』

 

クリファパズル545は笑って、自らを接続し、洗脳したアレイスターへと近づく。

 

『いひいひひ。ひひひひひひひひ』

 

アレイスターは目の前にやってきた悪魔の首を、何事もなくがっしりと掴んだ。

アレイスター=クロウリーは稀代の魔術師だ。

憑依専用の悪魔にだって、簡単には洗脳されない。

 

「邪悪の樹は危険だ。素人が手を出せば簡単に足元をすくわれる。そして邪悪の樹の叡智を覗き込む気がなかった者たちへ不意打ちで覗かせてしまえば、それだけである種の衝撃を叩きこむことができるだろう。夜道にいるコートの変態と同じように」

 

真守は自信たっぷりにご高説するアレイスターをじとっと睨む。

 

(さっきから例えがヘンタイじみてる……さすがヘンタイ……)

 

真守が白い目を向けている中、アレイスターは笑う。

 

「邪悪の樹は扱いが難しい。だが十分な研鑽を積んで経験を得た者であれば、邪悪の樹は危険な叡智を授かる助けとなる。邪悪の樹に触れるならば、下ごしらえとして正位置のセフィロトを学んでおけという話だな」

 

アレイスター=クロウリーは稀代の魔術師だ。

『黄金』にいた時から、アレイスターはセフィロトの樹とクリフォトの樹両方を利用して、魔術を成功に導いていた。

 

クリファパズル545はアレイスターが勝手知ったるクリフォトに所属する悪魔だ。

アレイスターはクリフォトのやり方を熟知している。

だからこそ、クリファパズル545の洗脳が効くわけないのだ。

 

『ひ、』

 

クリファパズル545は小さく声を漏らす。そんな彼女に、アレイスターは軽やかに笑って見せる。

 

「もちろん貴様のクリフォト由来の洗脳は、朝槻真守にも効かない。彼女はいま、どの樹にも所属しない宙ぶらりんな状態だ。その身に人の進化の様々な可能性を秘めている。その全てを網羅しなければ、彼女を操ることなど叶わぬだろう」

 

「アレイスター。別に私のコトはいいから」

 

真守は脱線したアレイスターに声を掛ける。

アレイスターは悪魔の首を掴んだまま、獰猛に笑った。

 

「こちとら近代西洋魔術の全てを網羅した『人間』だぞ。たかだか逆位置の解釈如きで、手を誤って自爆するようなガラだとでも思ったのかね?」

 

『ひひっ、いひひひ! ひひひひひひひ──────』

 

悪魔が笑う中、アレイスターはグッと右手に力を込めた。

すると風船を握りつぶしたかのような渇いた音がパンッ! と響く。

 

アレイスターの一撃によって、悪魔は残骸一つ残さずに吹き飛んだ。

クリファパズル545に操られていた『騎士派』の面々は、糸の切れた人形のように倒れる。

そして彼らが大事に抱え込んでいた断頭金貨は、薄汚れたビール栓へと戻っていった。

 

たった一手で悪魔を排除した銀の少女。

一方通行(アクセラレータ)はそんなアレイスターを見て、目を細める。

 

「やたらと右手にこだわるな」

 

「ただの憧れさ。君はどうかね?」

 

悪びれもなくアレイスターが問いかけると、一方通行(アクセラレータ)は閉口した。

そんな一方通行とアレイスターの横で、真守はふむっと頷いた。

 

「さて。ロンドンの人たちをおかしくしている悪魔は排除できたな。これで少しすればコロンゾンの気配も薄れるだろう。問題はあとは二つの神威混淆(ディバインミクスチャ)だな」

 

真守は残っている問題を口にすると、垣根を見上げた。

 

「垣根、ミレーツさんの居場所は分かるか?」

 

ホレグレス=ミレーツ卿。

ローラがランベス宮に隠していた神威混淆の在処の地図を見つけ、神威混淆を回収し、地脈に接続するように指示した張本人。

真守が垣根を見上げると、垣根は目を細めてカブトムシのネットワークに接続する。

 

「場所はもう把握している。ご丁寧に馬車の外に貴族の旗を掲げてるバカがいやがるからな。偉いヤツらは自分の居場所を誇示するのが好きだよな、効率的じゃね──」

 

垣根が言葉を紡いでいると、視界の端で何かがちらついた。

真守たちがそちらを見ると、アパートメントの一室のドアがうっすら開いていた。

 

ドアの隙間から、白髪の老人が手招きしている。

 

早くこっちに来い。外は危ない。

 

自分たちを老人が心配している姿を見て、真守はにこっと微笑む。

そして手をふりふりと緩く振ると、真守はアレイスターたちと一緒にその場を後にした。

白髪の老人に見えない建物に飛んだ真守たちを、アレイスターは見た。

 

「受け入れても良かったのだぞ」

 

科学の長であり、稀代の魔術師は自分が造り上げた怪物たちを見る。

 

「忘れているのではないかね? 君たちは確かに学園都市が造り上げた怪物だ。だがそれは学園都市内部の話であって、自然の法則で動く『外』の人間はキミたちの正体を知らない。彼らは気軽に話しかけてくるし、キミたちもまた気軽に話しかけられるはずだ」

 

真守はアレイスターの言葉を聞いて、くすくすと笑う。

 

「ふふ。外と内では違うって、私たちは選ぼうと思えば普通でも何でも選べるって。そんなコト分かってるぞ、アレイスター」

 

真守は柔らかく微笑む。そして自分の制服の下に隠されている、学園都市を再起動できるチップが入った未元物質(ダークマター)製のペンダントにちょんっと触れる。

 

「私は学園都市が大事だから」

 

学園都市の再起動するための大切な品物を託された真守は、学園都市のことを想って笑う。

 

「垣根は私と私の大事なモノを大事にしてくれる。一方通行(アクセラレータ)も絶対に守りたいモノがある。それは学園都市という舞台でこそできるコトだ。だから今のままで良い。──アレイスター。お前と一緒に戦って、全てを終わらせて学園都市に帰る。それでいいんだ」

 

真守はアレイスターを見て、柔らかく微笑む。

真守に笑いかけられたアレイスターは被っている魔女っ娘帽子の鍔を掴む。

帽子の下でアレイスターは小さく笑うと、真守を見た。

 

「さて、それではウェストミンスター寺院だ。キミたちはとりあえず、神威混淆をバラまいた騎士を探しに行くのだろう? ……教育者の真似事も悪くないが、ちょっと話し過ぎた。喉が痛い……」

 

真守は喉をさするアレイスターを見て、ムッと眉をひそめた。

 

「まだ話は終わってないぞ。神威混淆(ディバインミクスチャ)はあと二つ残ってる」

 

「とは言ってもあの出力だ。簡単に排除できる」

 

垣根は適当に手を振って余裕を見せているアレイスターに呆れた目を向ける。

 

「クソ統括理事長サマは物事を軽く考えすぎだろ。やっぱそんなに楽観的で出たとこ勝負だから、やることなすこと失敗するんじゃねえの?」

 

「なんだ? アシュリン=マクレーンが危険だと言っていたのか?」

 

神威混淆をあまり警戒していないアレイスター。

そんなアレイスターに、真守は淡々と告げる。

 

「まだ終わってない。むしろこれからが始まりだ」

 

「……ほう?」

 

『流行』を冠する朝槻真守に断言されて、アレイスターはやっと事が少し危険なのかと考える。

そんなアレイスターを見て、一方通行は大いに呆れる。

 

「オマエは学園都市で一体何を見て来やがったンだ。悪が滅びたところで、人間の意識はそォ簡単に変わらねェ。むしろオマエはそォいう時に振りかざされる、善や正義の横暴こそ嫌ってたと思ったンだがな」

 

アレイスターは一方通行に痛いところを突かれて、押し黙る。

真守はアレイスターから目を逸らして、ロンドンを見渡した。

 

「コロンゾンが用意した神威混淆はミレーツさんが回収して、地脈に接続されて運用された。たぶん、三つの神威混淆は正しい使い方をされていないんだ。そしてまだ、あと二つ残ってる。今から回収に向かっても後手だからな。情報を集めるべきだ」

 

真守は遠くを見つめながら、そのエメラルドグリーンの瞳を妖しく光らせる。

 

「悪魔を斃したところで、悪魔の影響がすぐに収まるとは限らない。ロンドンの今の空気は、簡単に人の背中を押してしまう。背中を押された人は勝手に転び、取り返しのつかないところまで行き着くだろう。その前に助けなければならない」

 

真守が告げた瞬間、凄まじい光が放たれた。

真守は光が迸った方向へと目を向ける。

 

「悪魔の用意した霊装だ。単純な力で破壊すれば、術者にどんな影響が出るか分からない。救うにしても、真っ当な方法で救う。だからこその情報収集だ」

 

ロンドンは(いま)だに、異様な光景に包まれている。

神威混淆の影響がまだ残っているのだ。

それこそ悪の元凶を絶ったとしても、事が終わったわけではない事を表していた。

 

ファラオ像や石柱。ラクダやアフリカゾウ、そしてサソリやワニ。

西洋人が思い浮かべる、ありもしないエジプトの景色。

 

その中でもひときわ目立つ存在が、大英博物館から現れた。

 

その存在はすぐに広い場所へと移動を始める。

 

そしてテムズ川に架かっている、(いま)だに無事な一本の橋に落ち着いた。

 

『彼女』は元々グラマラスな体つきをしていた。

だが禁欲を象徴とする黒い修道服に身を包んでいたため、直に触れるというバカな行いをしなければ、肉体の豊満さは分からないようになっていた。

 

そんな『彼女』のことを守っていた黒い修道服は見る影もない。

 

『彼女』はその素肌をさらけ出し、エジプト神話と言われれば連想する白い布と純金の飾りだけを身にまとっている。

 

右手首には黄金の腕輪。

その安直さはエジプトをなんとなくしか知らない人間が勝手に抱くイメージそのものの装飾だ。

そして、空間を侵食するような後光。

それは黄金とダイヤが複雑に絡み合うような花輪で、辺りが暗いため凄まじい光を放っていた。

 

それでも『彼女』は胸に十字架を下げていた。

ただその十字架は、彼女を守ってはくれない。

 

そんな彼女に、近付く人影があった。

上条当麻。ツンツン頭の男子高校生だ。

 

「どうしてだ……」

 

上条は現実を上手く認識できずにぼそぼそと呟く。

 

「どうしてよりにもよってお前が手に取った!? オルソラぁぁぁ!!」

 

上条の悲しい叫び声が響き渡る。

するとオルソラと呼ばれた敬虔なるシスター──オルソラ=アクィナスは柔らかく笑んだ。

 

「あらあら。またお会いしましたね、上条さん」

 

その言葉と共に、ロンドンは再び変貌を遂げた。

極彩色の南国風の蔓がテムズ川の水面を割って飛び出し、蔓を合わせ七色の塊となって無数に生え伸びる。しかもただの極太の植物の蔓ではないのだ。

 

蔓にはハエトリソウのような楕円の縁に棘を生やした葉を二枚合わせる食虫植物が、おびただしいほど無数にぶら下がっていた。

七色の蔓はロンドンに強襲を掛けていたクロウリーズ・ハザードを、ロンドンの建物を壊しながら捕食していく。

 

クロウリーズ・ハザードに対抗できる霊装は、今のところ神威混淆しかない。

その神威混淆を、修道女──オルソラ=アクィナスは手に取って身に纏ったのだ。

 

真守はオルソラ=アクィナスを遠くから捉えただけで、くらっとしてしまう。

清らかに神を信奉する修道女が、悲惨な状態になっている。

そのせいで、真守は精神的に参ってしまったのではない。

 

「真守、どうした?」

 

垣根は気分を悪くしている真守のことを、強く抱き留める。

真守は垣根の胸板に顔を埋めると、ぎゅっと垣根の腕を掴んだ。

 

「垣根。……とりあえず、ここは危ないから飛んでくれ」

 

真守が指示を出した瞬間、極彩色の植物の蔓が攻め込んできた。

垣根は真守のことを抱き上げて、未元物質(ダークマター)の翼を広げて飛翔。

そして一方通行(アクセラレータ)と共に、手頃で適度な高さがあるピラミッドに飛び乗った。

 

アレイスターは共に来なかった。おそらく魔術に対して絶対的に有効な右手を持つ、上条当麻を探しに行ったのだろう。

 

垣根は自分に顔を埋めて、周りの景色を見ないようにしている真守に目を落とす。

真守の顔色は悪い。すごく気持ち悪そうにしている。

まるで船酔いでもしてしまったのか。そんな顔をしてる。

 

「真守、何があった。あの修道女のせいで具合が悪くなってんだよな?」

 

「……うん。ちょっとヤバい……」

 

真守は垣根の胸に顔を埋めて、周りが見えないようにする。

真守の不調の原因。

それは垣根が問いかけた通り、神威混淆に身を委ねて飛行しているオルソラのせいだった。

 

「神威混淆をまとっているシスターさんの情報量が多すぎる……」

 

真守は垣根にすり寄って、オルソラの姿を見ないように眉をひそめる。

オルソラは現在、その身にあらゆる意味を内包していた。

 

例えば指先に絡みつく葡萄の蔓を模した金の糸。

それだけでも恵みや凶器、そして新しいとしても平和や血のイメージ、はたまた占いにも使われるオリーブの枝でさえ連想させる。

 

真守は魔術について詳しくない。あくまで真守は科学の徒であり、そこまで精通していない。

だがその意味を理解できなくとも、その指先に絡みつく金の蔓にそれだけの情報量が隠されていると読み取れてしまうのだ。

 

オルソラ=アクィナスは、身につけているものに情報過多すぎるほどに意味を含んでいる。

そして真守はその情報を自らで処理し、自然と意味を理解しようとしてしまう。

思考だけが高速でぐるぐると周り、目の前がチカチカしてしまう。

 

もし朝槻真守が魔術に精通し、指先に絡みつく金の蔓の意味すらも全て理解できていたら話は違っただろう。

 

既に理解している情報ならば、その情報を分析して処理するという過程を踏まなくていい。

膨大な演算能力を持っている真守は、その全てを解析できただろう。

 

だが現実に朝槻真守は魔術を知らない。そのため膨大な情報量に頭が参っていた。

 

「シスターさんの全身には、膨大な量の情報が込められているんだ。視界にとらえただけで、読み取れる者はその膨大な情報を読み取ってしまう。だからシスターさんを見るのがちょっと辛いんだ。ごめんな、垣根。……状況を確認できなくて」

 

「良い。俺たちに甘えとけ。お前はなんでもかんでも自分でやろうとしすぎだ」

 

垣根は真守のことを抱きしめると、自分の胸の中に閉じ込めて辺りを見なくても良いようにする。

真守は小さく『んー……』と唸ると、垣根だけを視界に入れるように顔を上げた。

 

「別に戦場でラブコメしてるワケじゃないぞ……?」

 

ちょっと不満そうな真守。そんな真守を見て、垣根はふっと笑った。

 

「何の主張だよ、分かってるって。良いから俺だけを見てろ。周りを見るんじゃねえ」

 

垣根は真守の小さな頭に手を沿えると、抱きしめて真守が周りを見なくて良いようにする。

 

カブトムシ(端末)。バッキンガム宮殿に繋げ」

 

垣根が指示すると、真守の髪の中に隠れていたカブトムシが顔を出した。

そしてバッキンガム宮殿にいるアシュリンへと繋ぐ。

 

『やっぱり首都決戦兵装とは名ばかりね。神威混淆はロンドンのことをお構いなしに破壊してる』

 

垣根はアシュリンと繋がったカブトムシを見つめて、問いかける。

 

「そっちは大丈夫か?」

 

『いまのところはね。……ただ、帝兵さんで確認したところ。ミレーツ卿は本当に許されないことをしたようね。人の犠牲を何とも思わない。人の信仰を無残に散らすやり方をね』

 

真守は憤っているアシュリンの声を聴いて、垣根の腕の中できょとっと目を見開く。

 

「伯母さま、一体どういうこと?」

 

『日本人は元々宗教観が薄いし、学園都市に住んでいて宗教に触れてないからピンと来ないかもしれないけど。……ああ、もちろん。責めているわけではないのよ。これは生まれと立場によって違う価値観だから』

 

アシュリンはそう前置きすると、忌々しそうに顔をしかめる。

 

『意味が曖昧なエジプト神話でできた、ギリシャ神話が混ぜ込まれた術式。それを身に纏うということは、異なる神に(くみ)することと同義。つまり唯一神を掲げる十字教徒にとっては、忌むべき行為なのよ』

 

十字教を信じる者にとって、他の宗教とは絶対に認められるものではない。

十字教に限った話ではない。敬虔な信徒は、自らが信じる神以外を許容できない。

 

神威混淆(ディバインミクスチャ)とは、十字教と関係のないギリシャ人が考えたエジプト神話だ。

それは明確に異なる宗教。それを身に纏うということは、異なる神に屈するということ。

信仰する神以外に身を預けるという行為は、清らかな信仰を旨とする敬虔な信徒を貶める行為だ。

 

真守はアシュリンの説明を聞いて、垣根にすり寄りながら顔をしかめる。

 

「……神を信じる敬虔な信徒への明確な冒涜だな。大悪魔のやりそうなコトだ」

 

『わたくしは十字教徒ではないけれど、十字教徒の者たちが心から神を信仰しているのを知ってるわ。……そんな敬虔なシスターをミレーツ卿は貶めた。一発殴らないと気が済まないわね』

 

修道女とは十字教を信仰する敬虔な信者だ。

そんな存在がエジプト神話に身を堕としてしまったのはクリファパズル545の影響に他ならない。

だがそもそもミレーツ卿が修道女のもとへと神威混淆を寄越したのがいけなかったのだ。

最終的に修道女が自ら手に取ったとはいえ、その選択を迫ったのはミレーツ卿だ。

 

「そォだな」

 

一方通行(アクセラレータ)はアシュリンの言葉に賛同すると、忌々しそうに舌打ちをする。

 

「いくらクリファパズル545とかいうヤツが促して、修道女が自分から手を伸ばしたんとしても。もとはと言えばその騎士サマが背中を押したのが悪ィ」

 

何故ミレーツ卿は自分で使わずに、清らかな身の修道女を犠牲にしたのか。

それは自分が犠牲になるのが嫌だったからに他ならない。

 

「自分じゃなくて他人を穢して生き残ろうなンて良い度胸じゃねェか。クソ野郎」

 

『ええそうね。そんなヤツは騎士の風上にも置けない。おイタにはちゃんと制裁が必要よね』

 

アシュリンはカブトムシの向こうでにっこりと微笑む。

その声は冷ややかで、思わず真守は息を呑んでしまった。

自分ではなく他人を蹴落として生き残ろうとした騎士、ホレグレス=ミレーツ。

彼を懲らしめるために同じ貴族であるアシュリンから許可が出たため、真守たちは動き出した。

 

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